日本鳥学会(1911年創立,学会員約1,000名)は,11月22日に北九州大学で開催した1998年度大会総会において,名古屋市藤前干潟の保全を求める決議を採択し,その決議文を内閣総理大臣・小渕恵三氏,運輸大臣・川崎二郎氏,愛知県知事・鈴木礼治氏,名古屋市長・松原武久氏に送付して,同干潟の保全を要請しました.
 また,12月10日に環境庁長官・真鍋賢二氏(国会予算委員会開催中につき,代理・自然保護局長・丸山晴男氏)に,中村・石田・花輪伸一(学会員・WWFJ自然保護室次長)が決議文を持参し,環境庁の積極的な対応を高く評価し,さらにご努力いただけるように申し添えて,手渡しました.
 丸山局長からは,現実には多くの難しい問題があるものの,環境庁としても責任をもって前向きの対応を続けていただける旨の,お話をいただきました.

以下,決議文


日本鳥学会1998年度大会
藤前干潟の保全を求める決議

 日本鳥学会は、北九州大学において開催された1998年度総会において、藤前干潟にゴミ処分場を建設しようとする名古屋市の計画に対し、この計画を見直し、日本最大級のシギ・チドリ類渡来地である同干潟の保全をはかることを求めるために、この決議を採択した。
 環境庁(1997)の「シギ・チドリ類渡来湿地目録」によれば、諌早湾(長崎県)、藤前干潟(目録では、名古屋市、庄内川・新川・日光川河口と記載)、汐川干潟(愛知県)、谷津干潟(千葉県)、三番瀬(同じく千葉県、船橋海浜公園と記載)などがシギ・チドリ類の大規模渡来地であり、多くの種が中継地、越冬地として利用する重要な干潟である。本学会は、昨1997年度大会において諌早湾の保全を求める決議を採択し、提出したにもかかわらず、その趣旨が受け入れられずに同地ではシギ・チドリ類の渡来数が激減している。同様に日本最大規模のシギ・チドリ類の渡来地である藤前干潟にも、本学会はその保全に強い関心を持っている。
 水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)にもとづくシギ・チドリ類湿地ネツトワークによると、中継地においては定期的に5,000羽を越えるシギ・チドリ類が渡来することや、種または亜種の地域個体群の推定個体数の0.25%を越える個体数が渡来することなどが重要な干潟の国際基準になっている(国際湿地保全連合アジア太平洋支部 1997)。藤前干潟は、春の渡りと越冬期に渡来するシギ・チドリ類が5,000羽を越え、ダイゼン、メダイチドリ、オオソリハシシギ、チュウシャクシギ、ダイシャクシギ、アオアシシギ、ソリハシシギ、キアシシギ、キョウジョシギ、トウネン、ハマシギの計11種が上記の0.25%基準を満たしており、また、ケリ、シロチドリの2種はラムサール条約登録地の1%基準を超えていることから(環境庁 1997)、国際的にも重要なシギ・チドり類の渡来地になっている。
 しかし、名古屋市の廃棄物処分場建設計画によれば、面積約120haの藤前干潟(庄内川,新川河口等を加えると約260ha)のうち、46.5haがゴミ処分場として埋め立てられることになっている。この計画がこのまま実行された場合には、干潟の環境が悪化し、シギ・チドリ類の渡来状況にも大きな悪影響をおよぼすことが予想される。
 そこで、この計画について、代替地を検討するなどの見直しを行い、我が国ではきわめて少なくなったシギ・チドり類の渡りの中継地および越冬地として重要な干潟であり、国際的にも貴重な藤前干潟の保全をはかるよう、要望する。

以 上