決議文
日本鳥学会新潟大会
諫早湾干潟の保全を求める決議
1997年9月20日 日本鳥学会 会長 山岸哲

日本鳥学会は、新潟大学において開催された1997年度総会において、干拓事業により環境の悪化が著しい長崎県諫早湾干潟について、鳥類保護の観点から、生息する鳥類とその生息地である干潟の保全に関する意思表示を目的として、この決議文を採択した。

<決議>

鳥類、特にシギ、チドリ類の重要な渡来地である諫早湾干潟を保全するため、早急に締め切り堤防の排水樋門を開放し、海水を入れて、干潟および底生生物の復活を図ること。

<理由>

1997年4月に、農林水産省が進める干拓事業のため、諫早湾湾奥部の3,550haの水域が締め切り堤防によって閉鎖された。その結果、潮の満ち引きが絶たれ、干潟は乾燥・淡水化が進み、水質が悪化している。また、底生生物等が死滅し、シギ・チドリ類などの水鳥の渡来地、生息地としては不適な状況になりつつある。
しかしながら、諫早湾干潟は、国際的に重要な水鳥類の渡来地、生息地である。これまで、諫早湾干潟およびその周辺では17目48科232種の鳥類が記録されている。そのうちシギ・チドリ類は57種であり、個体数では最高13,500羽(1988年春)の記録がある。最近では、記録された各種の最大個体数を合計すると、16種6,344羽(1996年春)、28種4,296羽(1996年秋)である。また、冬期は、シギ・チドリ類が4,000〜6,000羽、カモ類が20,000〜30,000羽越冬し、カモメ類、サギ類等の数も少なくない。特に、ダイシャクシギ約200羽、ツクシガモ約300羽、ズグロカモメ約250羽などが注目される(以上、日本湿地ネットワーク、日本野鳥の会長崎県支部、WWF Japanの資料による)。
ラムサール条約では、国際的に重要な湿地の基準として、水鳥類に関しては、20,000羽が渡来する、種または亜種の個体群の1%が渡来することなどをあげている。諫早湾干潟では、上記の越冬水鳥類の総数、ダイゼン、チュウシャクシギ、ズグロカモメの渡来数がこの基準を満たしている。また、ラムサール条約にもとづくシギ・チドリ類渡来地ネットワークでは、中継地においては種または亜種の個体群の0.25%が渡来することが重要な湿地の国際基準になっている。諫早湾干潟では、ダイゼン、チュウシャクシギ、ダイシャクシギ、ホウロクシギ、アオアシシギ、ソリハシシギ、ハマシギの7種がこの基準を満たしている。以上のことから、諫早湾干潟は、国際的に重要な水鳥類の生息地である。
そのため、早急に締め切り堤防の排水樋門を開放し、海水を入れて干潟および底生生物の復活を図り、シギ・チドリ類をはじめとする水鳥類の渡来地として国際的な役割を果たせるようにすべきである。 以上

 

提出先:内閣総理大臣、農林水産大臣、環境庁長官、長崎県知事、諫早市長