1999年度大会において、以下の決議文の採択を働きかけ、総会において承認されました。
 沖縄島在駐米軍北部訓練場内ヘリパッド移設計画の見直しの要望書

 沖縄島北部,山原(やんばる)と呼ばれる地域の亜熱帯降雨林には,66種ものやんばるだけの固有動植物種(世界中でここだけにしか生きていない生物)を含む生物多様性と特異性に富む世界でも屈指の貴重な自然があります.このやんばるを中核の1つとする南西諸島は,バードライフ・インターナショナル(国際的な鳥類保護の連絡会)が指定する216の世界でもっとも重要な自然地域の一つです.この貴重な自然の中に,新たに米海兵隊の訓練のためのヘリパッドを移設する計画を防衛施設庁が発表しました.この計画が特別天然記念物および絶滅危惧種に指定されているノグチゲラを初めとした固有の鳥類はもとより,多くの固有種やそれをとりまく生物間ネットワークに大きな負荷を与えると心配されますので,この計画の見直しを要望いたします.
 やんばるに残る貴重な自然の大部分は米軍基地によって日本人の手による開発から保存されてきました.基地の外側では森林が分断化されており,米軍基地がなかったならばノグチゲラもすでに絶滅していたかもしれません.このようなもっとも貴重な自然の中にある米軍基地の管理においては,今後とも,さらに自然環境の保全に最大の関心が払われることが期待されます.
 ところが,日米特別行動委員会(SACO)の合意に基づき,沖縄島在駐米軍海兵隊北部訓練場で現在使用中のヘリパッドの移設が計画されています.防衛施設庁の計画によると,7つの直径75mのヘリパッドとそこに至る自動車道路を敷設する候補地として,沖縄島の東村から国頭村にいたる森林部が選定されております.
 この移転予定地の多くは,やんばるの中でも特に自然度が高く,推定樹齢100年を超える大木のある亜熱帯降雨林の中です.また,ここだけに分水嶺から海岸線まで途切れずに続くやんばるの自然本来の生態系が残っています.この地域は,個体数と分布が極めて限られているノグチゲラをはじめやんばるの固有生物のもっとも重要な生息地です.予定されるような施設が新たに建設されると,生息地の分断化,施設周辺での営巣行動などに対する風圧や騒音による妨害,ひいては個体群全体の繁殖率の低下を招く恐れが大いにあります.
 日本鳥学会は,以上のように鳥類をはじめ多くの貴重な生物の生存に対して大きな影響があると推測されるヘリパッド建設計画について,さらに詳細な影響調査と調査結果の開示を実施すること,ならびに予定地や配置,施設の規模,運用方法などを見直すように要望いたします.

1999年10月10日
日本鳥学会1999年度大会総会


 提出先:防衛施設庁長官 大森敬治殿

【11月30日、中村司・鳥類保護委員長,石田健・同副委員長が、日本野鳥の会副会長・岩垂寿喜男衆議院議員さんのご仲介により、直接会見して手渡した】

写し送付先: 環境庁長官,外務大臣,沖縄開発庁長官,防衛庁長官,林野庁長官,文化庁長官,駐日アメリカ大使館,沖縄県知事

※今後の活動予定:
 他学会との連携のもとに、年度末まで行われている防衛施設庁による影響調査の結果を見守ると同時に、上記決議の件をクリントン米大統領に知らせ、また在米の鳥類関係学会・団体および研究者に大統領への働きかけを呼びかける予定です。