2008年度日本鳥学会奨学賞選考報告

 本年度の奨学賞には2名の推薦があった。しかし,1名は受賞資格がないことが判明したため,1名を審査対象とした. 奨学賞選考小委員会の意見に基づき基金運営委員会で慎重に審議した結果,下記の受賞者を選定した.

受賞者:堀江 玲子

受賞論文:

1)堀江玲子・遠藤孝一・野中 純・船津丸弘樹・小金澤正昭. 2006. 栃木県那須野ヶ原におけるオオタカの営巣環境選択. 日本鳥学会誌 55(2):41−47

2)堀江玲子・遠藤孝一・野中純・尾崎研一. 2007. 栃木県におけるオオタカ雄成鳥の行動圏の季節変化. 日本鳥学会誌 56(1):22−32

選定理由:受賞者は,希少種のオオタカの保全を目的とした研究を進め,推薦対象となった2編の論文を発表している.第一論文では,オオタカの営巣樹木,営巣場所の特性を調べ,ランダム抽出した地点との特性の比較を行い,本種の営巣場所選択傾向を明らかにした.ここでは、オオタカの明確な営巣樹種選択傾向を見い出しただけでなく、さらに、営巣場所選択には林内の空間構造も大きく関与していることを示し、オオタカの主な生息地である低山地域での森林管理の重要性を指摘していることが評価できる。第二論文は、テレメトリーを用いて、オオタカの行動圏の繁殖期から非繁殖期にわたる季節変化を明らかにしたものである。観察が困難でデータの得にくい種について、14個体を1ヶ月近く、あるいはそれ以上の長期にわたって追跡していることは大きく評価できる。非繁殖期には、雄のオオタカの行動圏はより拡大はするが、巣近辺への依存傾向は繁殖期同様に強いことを示すデータはオオタカの保全を考える際に、参考にすべき重要な知見であると言える。これらの研究は周到な計画の基に行われ、多くの重要な知見をもたらし、オオタカや他の猛禽類の保全を進めるための重要な貢献となったと考えられる.これまでの研究成果を生かして、今後とも猛禽類の科学的な保全活動と鳥学研究を進めていくことを期待して,受賞者として選定した.