2008年度日本鳥学会研究奨励賞選考報告

 本年度の研究奨励賞には2名の応募があった.研究奨励賞選考小委員会の意見に基づき基金運営委員会で慎重に審議した結果,下記の受賞者を選定した.

受賞者:松井 晋(大阪市立大学大学院理学研究科)

研究タイトル:亜熱帯性島嶼に近年確立したモズの生活史

選定理由:本研究は,近年,隔離された島嶼である南大東島に定着したモズがもつ特異な生活史が,内部寄生虫の感染に起因していることを明らかにすることを目的としている.ハミルトンらが提唱した寄生虫との共進化による進化機構の実証は,世界中の多くの研究者が注目している分野でもある.これまでの6年間にわたる研究から,大東島のモズは繁殖個体の半分を1歳鳥が占め,本土の個体群より短命なこと,年齢の高い個体ほど繁殖成績が低下することなど,スズメ目鳥類で一般的に見られる生活史とは異なる特徴を持つことが明らかになっている.受賞者は,高齢な個体ほど餌から多くの線虫を摂取するために感染負荷が高まった結果,生存率や繁殖成績が低下するという仮説を立てて,それを実証する研究を計画している.線虫感染による病原性や生理的コスト,線虫感染率が南大東島で特異的に高い理由などが不明であり,未解決の課題も多いものの,島嶼において寄生虫が鳥類の生活史進化に及ぼすメカニズムを解明しようとする研究はオリジナリティーが高く,将来の発展も期待されると考え.受賞者として選定した.

(基金運営委員会)