Ornithological Science 掲載論文和文要旨
第二巻 (2003)
第1号
特集「種子分散の生態学」(責任編集:上田恵介)



照葉樹林における果期,果実サイズ,生育型に基づく鳥散布植物の類型:果実と鳥の相互作用の保全につながる解析
小南陽亮・佐藤 保・竹下慶子・真鍋 徹・遠藤 晃・野間直彦
 果実とその散布者となる鳥類との相互作用における種間関係を把握し,相互作 用において重要な役割をもつ鍵種を探索することを目的として,宮崎県の照葉樹林において,鳥による果実食に関係する特性に基づいて植物を類型化し,その類型と鳥との組み合わせを分析した.設定した4haの調査区内には111種の鳥散布性植物がみられ,普通にみられる鳥類では15種が果実食を行なう種であった.植物の類型化は生育型,果期,果実サイズに注目して行なった.生育型は,上層,下層,つるに区分した.果期はシードレインの時間的なパターンから夏型,秋型,秋冬型に分かれた.果実サイズについては,様々なサイズの鳥に採食される小型と小型の鳥類には採食困難な大型に区分した.調査区内ではこれらの区分を組み合わせた17タイプの植物が認められた.調査区内の果実のうち,14種については,個体数と散布量が多く,数種の鳥にとって重要であることから,主要な種とみなした.また,20種については,主要な種が少ないときに重要性が増す補助的な種とみなした.鳥については,8種が主要な散布者になると考えられた.これらの果実と鳥との組み合わせは様々に重複するパターンを示した.互いに相手を欠くことができない1種対1種の関係はみられなかった.主要な種の中から,多くの鳥と関係し,ほぼ毎年多量の果実を供給する3種(ヒサカキ,サカキ,ミズキ)を鍵種とみなした.また,夏型の果実も欠くことのできない重要な種群と考えられた.本研究がみいだした種間関係は,果実タイプ全体の構成を保全することが,鳥にとっての餌資源を安定させ,植物の種子散布をも促進することになることを示唆した.


中部日本の温帯林における多肉果植物の結実フェノロジーと果実食鳥類の季節対応
高野瀬洋一郎・紙谷智彦
 多肉果植物の結実フェノロジーと果実食鳥類の豊富さの季節的な対応関係を中部日本の温帯林において調査した.大部分の多肉果は果実食鳥類が最も豊富な秋に結実した.このような対応関係が起こる季節は南日本の暖温帯林よりも早く,北アメリカやヨーロッパの緯度の異なる地域間での報告に似ている.加えて,果実食鳥類の豊富さが多肉果植物の種子散布に有益であるがどうかについて調べた.ヒヨドリは一年を通して出現頻度が高く,果実を丸呑みするのに十分大きな口径を持っていることから,多くの多肉果植物にとって重要な種子散布者であると考えられた.ヒヨドリや他の果実食鳥類は秋に豊富であったが,この季節に結実した多肉果植物の果実持ち去り率は,夏に結実した植物に比べて必ずしも高いわけではなかった.このことから,果実食鳥類の豊富さだけが多肉果植物の集中的な結実フェノロジーを決定しているわけではないと示唆された.


ホシガラスによるハイマツの種子散布
林田光祐
 北海道アポイ岳においてハイマツ種子に集まる昼行性の鳥や哺乳類の採食行動や貯蔵行動を観察し,それらの動物がハイマツの種子散布にどのくらい貢献しているか相対的な評価を行った.成熟したハイマツ球果はその結実量にかかわらず毎年10月中旬までにすべて樹上から消失した.ホシガラス,ヤマガラ,ゴジュウカラ,エゾリス,シマリスの5種が種子散布者であることが明らかになったが,持ち出された種子の96%はホシガラスによって運ばれたことが観察結果から算出された.ホシガラスは1回で平均142個(最大209個)の種子を主に針葉樹林内(ホシガラスの営巣地であるが,ハイマツは定着できない)へ運び,地面に貯蔵した.ホシガラスは1か所に平均12個(最大51個)の種子を貯蔵した.ハイマツの実生は2本以上で束生していることが多い.その束生本数はホシガラスの貯蔵個数とよく一致した.これらの結果から,ほとんどのハイマツ実生がホシガラスの貯蔵種子から生じたものと推察される.このようにハイマツ帯への貯蔵こそ少ないが,ホシガラスはハイマツの更新に重要な役割を果たしている.



果実食鳥類の種子体内滞留時間 (SRT) を左右する果実の特徴
福井晶子
 種子体内滞留時間 (SRT) は,果実食の鳥類にとっては採餌コストなので短いことが望ましく,一方,植物にとっては種子が運ばれている時間であるので,長いほうが望ましい.鳥類は果実の特徴を進化的に左右してきたと考えられてきた.そこで,鳥散布型の果実をつくる植物の4つの形質(果実と種子の大きさ,種子重および果肉の水分量)とヒヨドリのSRTの間の関係を16種の果実を対象に調べた.鳥類の消化に負担となる形質(果実と種子の大きさおよび種子重)と平均SRT,最長SRTおよびSRTの分散の間に負の相関がみられ,負担が大きいほど種子が早く排出されることがわかった.これに対し,最短SRTや水分量では相関がみられなかった.つまりこれらの結果から,小さな種子は大きな種子にくらべ,長い散布距離および広い散布範囲が期待できることが示唆された.一方,大きな種子ではSRTが短く採餌コストが低いことから,SRTが長く採餌コストが高い小さな種子より鳥類に好まれるかもしれず,もしそうであるなら,大きな種子をつける植物は種子の散布量において有利な可能性が考えられた.


マダガスカル降雨林においてマミヤイロチョウPhilepitta castaneaが低木の更新に果たす役割
Hajanirina RAKOTOMANANA・日野輝明・神崎 護・森岡弘之
 マダガスカルの降雨林の乾期(8月ミ10月)において,果実食性の固有種であるマミヤイロチョウPhilepitta castaneaが低木5種 (Myrsinaceae, Rubiaceae) の更新に果たす役割を調べた.種子の有効分散距離は,1時間当たり33mであった.体内滞在時間に基づいて計算すると,吐き出された種子の86%,排糞された種子の全てが母樹の樹冠よりも外に運ばれていた.しかしながら,低木5種のうち4種では,マミヤイロチョウに食べられることで,未処理の種子よりも発芽率が低下した.この原因の1つは,この鳥の種子散布者として不適応な形態,とくに筋肉質の砂嚢であると考えられた.またこの鳥は花蜜食の鳥の特徴である細くて曲がった嘴とブラシ状で反筒の舌をもつ.さらに,果肉を取り除いた種子の発芽率の低下もみられたことから,植物の方も種子散布に対する適応を発達させていない可能性がある.これらの結果から,マミヤイロチョウは比較的最近になって果実食にニッチに移行したため,植物との間の洗練した共進化を発達させるに十分な時間が経過していないと考えられる.

 

原著論文


セイタカシギHimantopus himantopusおよびサギ類8種の歩行における首振りパターン
藤田祐樹・川上和人
 本研究では,セイタカシギHimantopus himantopusとサギ類8種の歩行において,首振りの有無とそのパターンを観察した.これらのうち2種は歩行時に首振りを行なわないとされていたが,本研究では全ての種が,観察した歩行の大部分において一歩につき一回のパターンで首振りを行っていた.他の首振りパターンとして,3種のサギ類ではゆっくり歩くときに首振りを二歩に対して一回しか行わないパターンも認められ,セイタカシギでは一歩の動作中に二回首を振るパターンも認められた.首振りを伴わない歩行は,採食中のミゾゴイGorsachius goisagiで比較的速く歩いた場合に観察され,他のサギ類2 種では非採食時に認められた.これらの種における首振りの有無やパターンは,歩行速度と採食中か否かによって影響を受けるようである.


給餌貢献の操作に対するつがい相手の反応:ツバメの負荷実験
 田嶋一善・中村雅彦
 二親が子の世話をする鳥類では,両親は子に適量の世話を供給するように協力する.進化的安定戦略 (ESS) のモデルは,両親の協力はつがい相手の世話の減少に対して自身の努力を増やす一方で,その減少分を完全には補わないよう反応する場合に安定することを予測している.この予測通り親は相手の投資量に応じて自身の投資量を調節しているのか,雌雄の投資量の駆け引きの際に親は何を指標に調節しているのかを調べるため,ツバメHirundo rusticaを材料に親の給餌頻度を操作した.調査地を新潟県上越市とし,1997,98年の5,6月に調査を行なった.研究対象とした28つがい(一巣雛数は5雛で統一)を,(i) 雄の給餌頻度を減少させた7つがい,(ii) 対照群として13つがい,(iii)雌の給餌頻度を減少させた8つがいの3グループに分けた.親の給餌頻度は,尾羽に少量の重りを付けることで操作した.操作の結果,両性による給餌は維持されながら,重りを付けた個体は給餌頻度を下げた.しかし,両性とも負荷をかけた相手の給餌頻度を補うことはなかった.負荷をかけた個体の給餌頻度の減少は,休息時間の増加に起因していた.負荷をかけた雌のつがい雄は,休息する雌に婚外交尾を試みるつがい外の雄に対して配偶者防衛行動をしたため給餌頻度を下げた.3グループとも雌雄は給餌の際に巣で出会うことは極めて少ないため,親は相手の給餌頻度を査定しているとは考えられない.ベギング強度(5段階に分け,最も強いベギングはレベル5)とベギング時間は雛の空腹状態を示し,これらが雌雄の給餌頻度を調節する指標と予想した.しかし,雛のベギング強度とベギング時間はともに雌雄の採餌に要する往復時間との間に有意な相関は認められなかった.どのグループの雛もレベル4の強度でベギングすることが多く,ベギング強度,ベギング時間ともグループ間の差は有意でなかった.負荷実験に伴う配偶者防衛行動が親の給餌頻度に影響し,雛のベギングと親の給餌頻度に相関が無かったため,得られた結果はESSモデルの予測と一致しないと考えた.

第2号
招待論文
セーシェルヨシキリの島嶼環境への適応と不適応
Jan Komdeur
セーシェルヨシキリ (Acrocephalus sechellensis) は,アフリカの東方に位置するセーシェル諸島に固有な希少種で,1988年までは同諸島のわずか29 haのCousin島に約320羽が生息しているのみであった.本種の一部の個体は,繁殖可能になっても生まれたなわばりに劣位個体として留まり,自分の子ではない雛に給餌するなどヘルパーの役割を担っていた.ヘルパーが生じる頻度は,生息地飽和の程度やなわばりの質(食物になる昆虫の豊富さ),ヘルパーと雛の血縁度によって変化した.協同繁殖は,近縁個体の繁殖成功度を高めることでヘルパー自身にとって間接的な利益をもたらすと同時に,子育て行動を学習したり,なわばりを継承して繁殖個体になる直接的な利益ももたらした.ヘルパーになることの総利益は,雄よりも雌の方が大きかった.そのため,ヘルパーのほとんどが以前の繁殖で巣立った雌であった.さらに,質の低いなわばりで繁殖するつがいは,娘を育てるよりも息子を育てる方が高い適応度が期待でき,質の高いなわばりのつがいではその逆になっていた.そのため,繁殖雌は,なわばりの質に応じて子の性比を適応的に調節しており,質の低いなわばりでは雄,質の高いなわばりでは雌を多く産んでいた.Cousin島が飽和状態にあり,かつ周辺の島で繁殖すれば繁殖成功度が高くなり,また,飛翔に必要な形態を備えているにもかかわらず,島間の移動分散はほとんどない.以上の点において,セーシェルヨシキリは,限られた環境への行動および生活史のすばらしい適応と不適応を明解に示している例である.


鳥類の保全活動における希少種の個体群移植: セアカホオダレムクドリの亜種Philesturnus carunculatus carunculatusの再導入に関する生物学
Johanna P. PIERRE
 希少種の個体群移植は,野生生物の保全活動で広く使われる手法である.しかし,これまで移植後のモニタリングがあまり行われなかったため,その成功や失敗の原因は不明なままである.ここでは,ニュージーランドMotuara島で行われたセアカホオダレムクドリ (Philesturnus carunculatus) の亜種 carunculatus 26羽の再導入に関する生物学的情報(分散,社会構造,生存率,生息地利用,採食様式)を総説する.放鳥した個体は森林の広い範囲に分散した.それらの個体は,放鳥後最初の繁殖期を通して面積1.9±8.8 ha(平均54.21 ha, SD52.42)のなわばりを形成したが,なわばりどうしが接することはほとんどなかった.成鳥と亜成鳥の両方がなわばりを形成し,繁殖を試み,10羽の雛が巣立った.採食はさまざまな植物や枯死木と地上で行われていた.導入個体は森林の下層を選好し,その層にあるすべての植物を存在比率に応じて食べていた.ただし,木本の1種Pseudopanax arboreus だけは避けていた.なわばり内の植物組成はなわばり間で有意に違っていたが,すべてのなわばりに森林は含まれていた.高木を選好し,採食していた.なわばり面積が広いこと,若い個体も繁殖を試みていること,なわばりどうしがあまり接していないことは,すべて生息密度の低さによるものである.生息密度が高くなれば,なわばり面積は小さくなり,より効率のよい採食を狭い範囲で行い,繁殖開始齢は高くなり,たぶん低木林にも生息し始めると考えられる.導入後8ミ10か月後の死亡率は50% より低かった.過去に南島では15±59羽の導入個体による個体群の確立が成功していることから,Motuara島への本種の個体群の確立を成功させるために,創始個体群が比較的少なくても良いことを示している.生息地利用に融通性があり,新しい環境にすぐ順応でき,かつ潜在的な繁殖能力も高いことが,本種の移植事業の成功率を高めている


原著論文
台湾におけるコシジロキンパラの形態,DNA,およびディスタンス・コールを用いた性判別
水田 拓・山田裕子・Ruey-Shing LIN・淀川祐紀・岡ノ谷一夫
台湾東部においてコシジロキンパラLonchura striata phaethontoptilaの性判別の方法について調査を行なった.野外で26個体のコシジロキンパラを捕獲してその形態を計測し,また各個体が放鳥時に発するディスタンス・コールも録音した.各個体の性は研究室においてDNAを用いた性判別法によって確認した.計測した形態形質のうち,雄の尾羽と翼は雌よりも有意に長かった.これらの形態計測値を用いて増加ステップワイズ判別分析による性判別を行なったところ,性を正確に特定できた個体は全体の84.0%に過ぎなかった.コシジロキンパラのディスタンス・コールは,この鳥から家禽化された品種ジュウシマツLonchura striata var. domesticaのそれと非常によく似ていた.コシジロキンパラの放鳥時には2種類の異なるディスタンス・コールが録音されたが,この違いはDNAによって判別された性と一致していた.従って,ディスタンス・コールの違いは野外でコシジロキンパラの性判別を行なう場合に有効な特性であると結論づけられた.


同所的に生息するハシブトガラス (Corvus macrorhynchos) とハシボソガラス (C.corone) のなわばりと環境利用の比較
 松原 始
ハシブトガラス (Corvus macrorhynchos) とハシボソガラス (C. corone) は日本では一般的な鳥類である.両種は近縁であり,ともに生態学的ジェネラリストと見なされる.今回,この両種が同所的に生息する京都市内において,両種の繁殖なわばりと環境利用について比較を行なった.両種はともに,種内のみならず種間なわばりをも保持していた.また,地上での採餌行動及び,なわばり内で採餌に利用した微環境が種間で異なっていた.ハシブトガラスは短時間しか地上に滞在しなかったのに対し,ハシボソガラスは地上滞在時間が長かった.ハシブトガラスのなわばりには都市環境がより多く含まれ,主としてゴミステーションで採餌していた.一方,ハシボソガラスは主として未舗装の地表面など自然な環境で採餌した.このような採餌行動と採餌微環境の相違は両種の生態的分離に寄与すると考えられた.


コヨシキリにおいて巣の捕食が一夫多妻のコストに与える影響
 濱尾章二
 メスが既婚のオスをつがい相手に選ぶとコスト(損失)を被る.オスによる子の世話の減少は,そのコストの一つである.しかし,一夫多妻となったメスたちの巣で捕食が起こると繁殖ステージの進行が乱され,オスがメス間に配分する子の世話は変化する可能性がある.そこで,メスの配偶順と育雛期のステータスの関係に,巣の捕食が及ぼす影響をコヨシキリAcrocephalus bistrigicepsで調べた.一夫多妻のオスは,後からふ化した巣の雛へは給餌しなかった.巣の捕食率は高く (56%),これにより後からつがいになったメスがオスの給餌援助を得られる場合があった.先につがいになったメスの巣が捕食に遭い,そのメスがオスのなわばりから消失することによって,後からつがいになったメスのうち4羽がふ化日には一夫一妻のステータスになっていた.別の1例では,後からつがいになったメスが,巣の捕食に遭い同じオスと再営巣する間に,先につがいになっていたメスのヒナが巣立ってなわばり外に去ったために,ふ化日には一夫一妻のステータスになった.さらに,先につがいになったメスが産卵までに長期間を要したために,後からつがいになったメスの方が繁殖ステージを早く進行させることになったという例も一つあった.まとめると,メスがふ化日において一夫一妻のステータスまたは一夫多妻で繁殖ステージの進行が早い方のステータスを得られるのは,既婚オスとつがいになった場合43%,未婚オスとつがいになった場合69%であった.このことから,調査した個体群では,既婚オスを選んで一夫多妻配偶をする際のコストが巣の捕食によって減少していることが示唆された.


攪乱を受けた熱帯林におけるFicus属2種の種子分散
Kelvin S.H. PEH & Fong L. CHONG
シンガポールのBukit Timah自然保護区において,キーストーン種であるFicus fistulosaF. grossularoidesに訪れる果実食の鳥について観察を行った.2種間で異なる形態的特徴(例えば,花の高さ,果実の色やサイズ)が異なる果実食の鳥を誘引しており,鳥が訪れる頻度もまた2種間で有意に違っていた.しかし,両群集とも比較的単純で,植物との義務的な関係のない種が多かった.採食頻度は,鳥の体サイズとは無関係であった.このような情報は,自然保護区の保全管理や将来の森林保全計画に役立てることができるだろう.