Ornithological Science 掲載論文和文要旨
第三巻 (2004)
第1号
特集:外来鳥類(オーガナイザー:Sodhi NS・江口和洋)



日本における外来鳥類の移入の拡大
江口和洋・天野一葉
 日本国内への外来鳥類の移入が増大している。これまで、43種の外来鳥類が少なくとも一度は国内で繁殖した事が確認されている。これら外来鳥類の大部分は愛玩用に輸入され、飼育中の事故により、または飼育者による故意の放出により野外に定着したものである。優占する分類群は、インコ科、スズメ科(カエデチョウ亜科、ハタオリドリ亜科)およびムクドリ科である。外来鳥類の大部分は、アシ原、河川敷、耕作地、市街地など人間による撹乱を受けている生息環境に定着している。例外的なのは、ソウシチョウLeiothrix luteaやガビチョウGarrulax canorusなどのチメドリ科鳥類であり、これらは自然林に侵入し定着している。大部分の種では生息域は小範囲に限られているが、ソウシチョウだけは生息域、個体数ともに急速に拡大、増大しつつある。移入定着した外来鳥類による生態系、生物相への悪影響や農業作物などへの被害は、ドバトColumba liviaとシロガシラPycnonotus sinensis formosaeを除いては顕著ではない。そのため、鳥類移入に対する一般の認識は低い。外来鳥類輸入の厳格な規制、飼養鳥類登録制度の導入、定着した外来鳥類の駆除や制御、鳥類移入に関するさらなる研究、啓蒙活動などが必要である。


日本における移入種ガビチョウGarrulax canorusの分布拡大
川上和人・山口喜盛
 ガビチョウは中国原産の移入鳥類で,日本においては1980年代から野生化が確認されている.本研究では,アンケート調査及び直接観察により,本種の現在の分布および,これまでの分布拡大の様相を明らかにした.この結果,関東西部,九州北部東北南部,長野県の4ヶ所にて個体群が確認された.これまでのガビチョウの分布状況から,標高及び積雪量が分布拡大の制限要因になっていると考えられた.本種の分布は現在も拡大中であり,在来鳥類に対する影響の有無に関して今後調査していく必要がある.


筑波山におけるソウシチョウと在来鳥類の繁殖密度
東條一史・中村秀哉
 中国及びヒマラヤ地域を原産とし、1980年代以降日本で急速に広がってきたソウシチョウLeiothrix luteaの生息状況を知るため茨城県・筑波山(877m)山頂付近の落葉広葉樹林において1994・1995年の繁殖鳥類群集をテリトリーマッピング法により調査した。調査区内で縄張りをもって繁殖していたのはソウシチョウを含めて23種と27種であった。最も縄張り数の多かったのはソウシチョウで総なわばり数の3分の1以上を占め、ウグイスとシジュウカラがこれに次いで多かった。1995年にはプロット内の1haの区画でソウシチョウの完成巣が6つ見つかった。ソウシチョウがいない日本国内の落葉広葉樹林での6つの研究では、繁殖種数は平均26.8(20-32.5)であり、筑波山での在来鳥類の平均24種は特に少ないとは考えられず、芳賀(1988)が提示したソウシチョウの侵入以前からの筑波山の鳥類リストと比較してもソウシチョウとの競争でいなくなったと思われる種は見あたらなかった。また、他の研究での縄張り密度は505 (370-620) 番/100haだったのに対し、筑波山ではソウシチョウを含めると1003番/?Iであり、これらいずれよりもはるかに高かった。また、ソウシチョウを除いても609番100haと比較した研究の範囲内であった。同様にバイオマスでも、他の研究では34.1 (21.5-43.5) kg/100haだったのに対し、筑波山ではソウシチョウを含めると59.3kg/100ha,ソウシチョウを除いても42.3 kg/100haであり、比較的高い値であった。以上のことから、筑波山頂はソウシチョウが極めて高密度で繁殖するが、ソウシチョウが他の種を競争的に排除しつつ個体数密度を増加させてきたと考えられる兆候は見いだせなかった。



オーストラレーシア地域における鳥類移入:歴史上の偶然か?
Brook BW
 オーストラリア、ニュージーランドおよび周辺諸島への外来鳥類移入の事例は、生物侵入に関して利用可能なデータセットとして集められており、それは最もよく記録され、最もよく分析されたものの一つとなっている。18世紀から20世紀にかけてヨーロッパ人によってオーストラレーシア地域へ移入された242種以上のうち、少なくとも32%が長期間存続しうる個体群として定着した。記録文献を基にした研究によって、移入成功予測の最も頑強な手がかりとなるのは、放出された総個体数と移入の行われた回数であることが明らかになっている。総合した各地域のデータセットに一般線形モデルを適用する事で、私はこの結果を確認した。そして、歴史的な移入事例のこれら2つの形質を合わせれば、オーストラレーシア地域の事例の89.3%が説明可能であることを証明した。さらに、私は、まったく独立な長期研究から得られた44種についてのサブセットに由来する単純確率論的個体群動態モデルもまた高度の予測成功(83%)を達成する事を示した。最後に、一連のメタ分析によって、移入成功と生活史や環境との強い相関は、体サイズが大きいこと、渡りの傾向の低いこと、原産地と移入地との気候的に一致した生息環境の存在、羽衣の色の性的二型の程度が低いこと、雑食性、および行動的な可塑性の高さなどに見られることを明らかにした。オーストラレーシア地域の移入に関するこれらの分析の総合的な結果は、将来的な世界規模での鳥類移入のあり得る結果を予測するための、潜在的に強力な枠組みを与える。


香港における移入鳥類
Leven MR・Corlett RT
 香港の自然植生は熱帯性常緑林であるが、これは18世紀以前にほとんど伐採されてしまっている。この森林伐採は鳥類群集に大きなインパクトを与え、疑いなく、森林に依存したすべての鳥類の消失を引き起こしたに違いないが、これらの変化は記録に残されていない。香港における鳥相の記録の歴史は1860年のイギリスによる植民以降に始まり、少なくとも高地地域では森林の回復の進行過程と平行している。1860年に香港にいた少なくとも9種は人間の生活圏に依存し、そのため、植民地時代以前に侵入したと考えられる。続いて、41種(繁殖鳥種の30%)が移入定着した。これらのうち、22種は中国南部から人手を借りずに拡大し、一方、残りの19種は地理区の内外から人間の手により移入されたと考えられる。東南アジアの他の地域で記録されている鳥類移入のパターンとは異なり、これら最近の侵入種の大部分は森林性種であり、最近の生息環境の変化パターンを反映している。これらの侵入種の(自然移入と人為的移入の両者)、生態的なインパクトを検討したが、それらの多くはよくわかっていない。もし、現在の森林破壊のパターンが続くままに放置されるなら、香港は東南アジアの他地域で進行するであろう鳥類群集の進化について一つのモデルを提供するかも知れない。

東南アジアにおける移入鳥類:生態、影響、管理
Yap CAM・Sodhi NS
 移入鳥類は移入地の生物多様性、生態系それに人間社会に深刻な影響を与えうる。しかし、東南アジアにおける移入鳥類の地位や影響についての文献が不足している。我々は東南アジアへの移入鳥類についての現在利用できる情報を検討し、移入鳥類の定着を成功させた形質について、次に移入鳥類の東南アジアの経済および生物多様性への影響について考察した。さらに、個々の管理手段の効力と弱点をその適用可能性とともに考察した。

原著論文


春ねぐらに集結するハシボソガラスは若鳥なのか,成鳥なのか
中村雅彦・村山諭
 ハシボソガラスは繁殖期に当たる春にもねぐらを形成する.春ねぐらに集結する個体は未発達な生殖器を持つ若鳥と考えられているが,直接的な証拠はない.そこで,春ねぐらに集結するハシボソガラスは若鳥なのか,あるいは成鳥なのかを確かめるため,1992年4月20日〜5月9日に新潟県上越地方で収集した150羽の就塒個体と育雛期にあたる35羽の繁殖個体の体サイズ,生殖器と体羽を比較した.両性とも,繁殖個体に比べ就塒個体の体重は軽く,翼長と尾長は短かった.繁殖雄に比べ就塒雄の精巣は軽く,精巣サイズは短く,また体重あたりの精巣の重量比も小さかった.15羽全ての繁殖雄と70羽の就塒雄のうちの17羽(24.3%)は成熟精巣を持ち,53羽(75.7%)の精巣は未成熟であった.繁殖雌に比べ就塒雌の卵巣は軽く,体重あたりの卵巣の重量比も小さかった.20羽全ての繁殖雌と80羽の就塒雌のうち19羽(23.8%)は発達した輸卵管を持ち,61羽(76.2%)の輸卵管は未発達であった.体羽により150羽の就塒個体のうち112羽(74.7%)を若鳥と判定した.若鳥と判定した112羽のうち108羽(96.4%)と成鳥と判定した38羽のうち6羽(15.8%)の生殖器は未発達だった.これらの結果は,春ねぐらに集結する個体のほとんどは生殖器の未発達な若鳥であることを示唆している.発達した生殖器をもつ36羽の就塒個体は,春ねぐらの近くで繁殖したなわばり個体,繁殖を失敗したなわばり個体,あるいは成熟精巣を持つなわばり非所有雄と考えた.


断片化した森林と連続的な亜寒帯林におけるシロクロアメリカムシクイMniotilta variaの生息場所利用と採食行動
Paszkowski CA・Sodhi NS・Jamieson S・Zohar SA
 カナダのアルバータ州中央部のアメリカヤマナラシPopulus tremuloidesが優占する断片化した壮齢林(2-140 ha)と連続した森林(>1000 ha)において、シロクロアメリカムシクイの雄の生息場所利用と採食行動を調べた。断片化した森林のうち鳥が利用したものと利用しなかったものの間で、また利用した森林内で鳥が作った縄張りの内部と外部との間で植生の構造や構成が有意に違っていた。縄張り内部の特徴は、断片化した森林内で雄の主要な採食場所であるヤナギSalix spp.の個体数が多いことであった。連続した森林内に作られた縄張りの植生構造は、断片化した森林内の縄張りのものとは違っていて、この森林で主要な採食場所として利用されていたアメリカヤマナラシの個体数が多かった。採食部位や採食方法の利用においては、断片化した森林と連続した森林との間で違いは見られなかった。 亜寒帯の混交林地域のシロクロアメリカムシクイは、生息場所を柔軟に利用しているように思われた。

無条件反応を用いた猛禽類の可聴域の推定
山崎由美子・山田裕子・室伏三喜男・百瀬 浩・岡ノ谷一夫
本論文は、聴覚刺激に対して誘発された無条件反応を用いて、非拘束下で訓練することなく被験体の可聴域を推定することを可能にした、新しい方法について報告したものである。被験体は上野動物園で飼育されている4羽の猛禽(クマタカ、オオタカ、ノスリ、サシバ)であり、聴覚刺激として、純音と白色ノイズが2種類の音圧レベルで提示された。瞳孔拡張反応や身体の動きなど、聴覚刺激に対する無条件反応がすべての被験体において観察された。これらの行動はビデオに録画され、ヒトを被験者としたアッセイ(Human Perceptual Assay: HPA)に用いられた。HPAでは、聴覚刺激の提示・非提示時の鳥の行動を録画したビデオクリップが対になって提示され、被験者は音を聞くことなしに、聴覚刺激が提示されていたと思う方のクリップを選択するように教示された。HPA後、被験者は、首、頭、眼、瞳孔の変化を判断手がかりとして用いていたと報告した。被験者の正答率は、クマタカとオオタカにおいて1から5.7kHzの音に対する感受性が高いことを示したが、この結果は先行研究のアメリカチョウゲンボウとハイタカのものとほぼ一致した。従って、我々の開発した新しい方法は、被験体となった猛禽の可聴域を推定できたと言え、本研究で用いられたクマタカのような、データを得るのが難しい希少動物の聴覚を推定するための有効な方法として利用できる。

第2号
原著論文
タイ国カオヤイ国立公園に同所的に生息するサイチョウ類4種で巣室内に封じ込められた雌親と雛に与えられる各種栄養素の推定
Poonswad P・辻 敦夫・Jirawatkavi N
サイチョウ類は雑食性であり、繁殖雄は巣内に封じ込められた雌と雛が必要とするすべての食物を巣に運ぶ。繁殖のための栄養としてみた場合の各食物タイプ別の寄与については、これまで報告されてこなかった。タイ国のカオヤイ国立公園において、著者らは同所的に生息する小型2種、大型2種のサイチョウ類が日々、巣に運ぶ食物の種類と数について、営巣期間中に毎週調査した。ここから重量を記録し、蛋白質、脂質、炭水化物、カルシウム、エネルギーの分析からそれぞれの食物タイプの栄養素を推定した。営巣期間中に運ばれる栄養素の全体的傾向は4種に共通で、卵、羽毛、雛の成長と順次変化する要求と関連していた。大型2種は炭水化物が主体(オオサイチョウ Buceros bicornis で50%、シワコブサイチョウ Aceros undulates で57%)で、脂質とタンパク質は少なかった。最小のカササギサイチョウの1種Anthracoceros albirostrisでも多く(45%)は炭水化物だったが、小型のムジサイチョウの1種 Anorrhinus austeni では蛋白質(32%)、脂質(30%)、炭水化物(37%)がほぼ同じ割合だった。抱卵期と巣内雛期とを比べると、オオサイチョウを除く3種では巣内雛期により多くの蛋白質が運ばれた。オオサイチョウでは巣内雛期の中頃までに卵生産、抱卵、換羽完了という栄養要求の高い状態が続くため、抱卵期にも高いレベルの脂質と蛋白質が運ばれた。4種にとってすべての栄養素−とくに脂質−の供給源としての果物の重要性が確認できたが、動物性蛋白の供給が繁殖成功と関わっていることが示唆された。1日あたり全雛の合計体重のおよそ1.05% の蛋白質が与えられたカササギサイチョウがもっとも高い繁殖成功率(96%)を示した一方で、0.57% 相当の蛋白質しか与えられなかったシワコブサイチョウの繁殖成功率は67%に過ぎなかった。両者の間に入る残りの2種では蛋白質供給量も繁殖成功率も中間的だった。


都市林と自然林における熱帯性シマキンパラLonchura punctulataの繁殖成功
Sharma RC・Bhatt D・Sharma RK
 インド亜大陸における鳥の繁殖成功についての情報はごくわずかしか知られていない。本研究は、シマキンパラの繁殖成功を都市林と自然林で比較を行うために、1997年から1999年の繁殖期にインド北部のハードワール(29o 55' N; 78o 8' E)において行った。最終的な繁殖成功は48.7%、自然林で31.6%であり、森林間で有意に違っていた。孵化率(70.3% vs 60.3%)と巣立ち率(57.7% vs 51.9%)には大きな違いはなかったけれども、巣立ち後の生存率が自然林よりも都市林で有意に高かった(89.0% vs 70.9%)。このように都市林でシマキンパラの繁殖成功が高いのは、おもに巣立ち後の生存率の高いためであると考えられる。多くの要因がこの森林間の繁殖成功の違いに影響をもたらしている可能性がある。自然林では、樹冠外のトゲのある孤立した樹木(例えばAcasia nilotica)に巣が作られるが、都市林では、巣のほとんどが葉が茂っていて捕食が困難な外来種(例えば、Thuja orientalis, Polyanthea longifolia)の樹木に作られる。ハードワール市での典型的な生息場所は自然的な環境ではないけれども、シマキンパラは急速にこの都市的景観に進化的にうまく適応してきている。このような行動の変化は一時的なものではなく、時間をかけて新しく獲得した行動のように思われる。シマキンパラのこのような行動の変化が文化的に広がる学習と遺伝的変化のどちらに基づくものかを知ることは興味深い問題である。


クロツラヘラサギ Platalea minor の採食に関係する各部の構造について
Swennen C ・Yu Y
 ヘラサギ類の嘴は、下方に曲がる先端近くの幅が中程より広く、背−腹方向に極端に平たくなっている点で、大部分の鳥の嘴とは異なる。嘴の縁の側面は丸みを帯び、物を噛み切るようにはなっていない。円盤状の部分の内側には細い隆起が平行に並び、最前部には歯状小結節が並んでいる。嘴の骨格、とくに嘴縁沿いと中心部には多数の小さな孔がある。これらの小さな孔はシギ科の嘴における触覚小体の部位と類似しており、ヘラサギ類においても同じ機能をもつと推定される。嘴は横方向への動き(sweeping)による採食とつつき型の採食に適応していそうだが、沈殿物をさぐるのには不適と考えられる。喉袋につながる広い口角はかなり大きな食物を呑み込むことを可能にしている。砂嚢の筋肉層は発達が不十分で、貝類を食べる鳥や種子食性の鳥で発達している硬い貝殻や穀粒をすりつぶすための器官というよりは、消化のための貯蔵嚢とみるのがふさわしい。長い脚は左右方向に扁平で、採食のために水中を歩く際に水の抵抗の小さくし、獲物を攪乱しない効果があるのかもしれない。部分的に水かきがあり、長い足指は基底の柔らかい泥のうえを歩くのに役立つ。




走査電顕、透過電顕およびエックス線分析に基づくウミネコ卵殻の微細構造と数種元素の殻内分布
千葉 晃
光学顕微鏡と走査型および透過型電子顕微鏡を用いてウミネコの卵殻構造を詳細に検索した結果、4層(内側から外側に向かい卵殻膜、乳頭層、柵状層およびクチクラ層)から成ることがわかった。微細構造上、卵殻膜はさらに限界膜、内膜、外膜の3部に細分された。卵殻膜に外接する乳頭層は、大略逆円錐状の突起列から成り、突起の基質には小胞が散在し、微細繊維状物質が密に沈着していた。これに続く柵状層では、石灰化した基質に多数の小胞が存在し、断面は軽石のような様相を示した。最外層のクチクラはごく薄く構造も単純で、既報のカイツブリ類、ウ類およびニワトリのものとは明らかに異なっていた。さらに、エックス線分析装置を用いて卵殻内のCa、PおよびMgの分布を調べた結果、これら3元素の分布パターンはそれぞれ異なり、Caは卵殻の主要部を成す石灰化部(乳頭層と柵状層)で広く高頻度に検出され、Mgの分布は乳頭層で局所的に高かった。また、Pの分布は全般に低いものの、柵状層外側で他の部位より高い傾向が認められた.


ウタスズメのAmak島産亜種Melospiza melodia amakaは進化的に重要でない
Pruett CL・Gibson DD・Winker K
Amak島固有のウタスズメの亜種の隔離小個体群の保全的地位と進化的特殊性については曖昧にされてきた。この亜種の表現型的な証拠を再評価するとともに、ミトコンドリア・チトクロームbの配列と8個のマイクロサテライト遺伝子座を用いて、ウタスズメのAmak島の亜種個体群と近隣の個体群との関係を評価した。M. m. amakaは表現型的に有効な分類群ではなく、また特有のハプロタイプをもたず、かつ他の個体群と同じような対立遺伝子頻度と異型接合度を持つことが分かった。遺伝的な証拠と形態学的証拠の一致は分析上差異がないことを示しており、この結果はこの個体群が進化的に重要な単位、分類群として有効な亜種、明確な分集団、管理対象となる保全上の単位のいずれでもなく、むしろ地域的なソース個体群から移入してきたシンク個体群であることを示唆する。


インドのガーツ地方東部の森林において乾期に開花する樹種Erythrina suberosa Roxb. (Fabaceae)のスズメ類の鳥による花粉媒介と結実習性
Raju SAJ・Rao SP
Erythrina suberosaは乾期に開花する。大型の花をつけ、蝶型の花冠をもち、部分的に自家和合性である。花は鳥媒に適した特徴をもっており、実際に全ての花はスズメ類の鳥によってもっぱら受粉された。結実率は10%しかなかったが、それは高い種子生産率によって補われた。花は通常7個の胚珠を作り、花柄から2番目と5番目の位置にある胚珠において最も種子が発達していた。


生息環境の質低下の指標としての卵と雛のサイズ
Iwarkentin IG・Reed JM・Dunham SM
 ある群集を潜在的な自然状態からかけ離れたものにする撹乱は,その群集を構成する種の生息環境の質も低下させるらしい。そのような撹乱の結果生ずる生息環境の質の変化を測定するためにひとつの指標をもつことは,人間活動が本来の動物相に与えるインパクトを評価する際に有用になるだろう。我々はある特定の生息環境に生息する鳥の個体群の一巣卵数あたりの平均卵重と雛のサイズは,生息環境の質や相対的に類似した生息環境の質の低下レベルの有効な指標になりうることを提唱する。アメリカ合衆国ネバダ州のToiyabe山脈の西に位置する生息環境の異なる三つの渓谷で繁殖するコマツグミ(Turdus migratorius)を調査した。牛の放牧と人間活動にともなう生息環境の質低下レベルは,土壌と下層植生の特徴をもとに決定した。成鳥の密度と体サイズの違いは生息環境の質の異なる渓谷間では認められず,一巣卵数と孵化8日目の一腹雛数も渓谷間で違いは認められなかった。しかし,卵重と雛の大きさは生息環境の質,あるいは質の低下レベルと関係しており,重い卵と雛のいる巣は質の高い渓谷や質の低下の少ない渓谷で観察された。

短報


沖縄県八重山諸島,宮古諸島におけるズグロミゾゴイGorsachius melanolophusの分布
川上和人・藤田祐樹

北海道におけるキツツキの生息環境に与える菌(Phellinus hartigii)の効果
雲野 明

バンの新しい繁殖戦術:ヨシゴイ巣への托卵
上田恵介・成井康貴