鳥学通信 no. 37 (2012.11.7発行)

 

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陸水学と水鳥シンポジウムに参加して

天野一葉
滋賀県立琵琶湖博物館

2012年8月15日から8月17日まで、スウェーデンのクリスチャンスタッドで開催された、第7回陸水学と水鳥シンポジウム(The 7th symposium on Limnology and Aquatic birds)に参加しました。このシンポジウムは、国際陸水学会の水鳥ワーキンググループによって1994年から開催され、「陸水学と鳥類学の連携を深め、水鳥の生態と生態系へ与える影響をよりよく理解する」ために3年に一度開催されています。参加者は40名程で、3日間にわたって講演およびポスター講演が行われました。日本からは他に亀田佳代子さんと中村雅子さんが参加しました。

クリスチャンスタッドはスウェーデン南部の町で、デンマークのコペンハーゲン空港から電車で2時間ほどのところにあります。小さなアットホームな会合で、陸水学(水質と環境の関係など)と生態学(特に鳥類や魚類、植物の生態学)の複合領域を研究している人たちが集まっていました。基調講演では、「カモ類の採餌行動と生息地選択」、「汽水ラグーンと淡水湖沼での操作実験による富栄養化、植生、無脊椎動物、魚、水鳥の関係」、「魚と繁殖水鳥の相互作用」、「国際陸水学会の水鳥ワーキンググループ形成の背景」、また今回は自分の研究に近い「水生生物の運搬者としての水鳥」についての講演がありました。いつも参考にしている論文の著者の講演を聴いたり、話をしたりすることができてたいへん有意義でした。

北欧の研究者が多く参加しているため、北欧に無数にある湖における環境・魚・鳥・昆虫の関係についての発表も多く、たとえばIlkka Sammalkorpiさん(フィンランド環境研究所)らは、湖の環境(水質や面積)と魚類の有無や大きさ、種構成によって、水鳥の分布がどのように変わるかを詳しく調べていました。特にカワカマス類(パイク)は、水鳥のヒナを捕食するため、カワカマス類の存在は水鳥の分布に大きな影響を与えているという講演がありました。

またカワカマス類はコイ類を捕食し、コイ類は水鳥の食物である水生昆虫を捕食しており、各種の相対的な生物量の違いによって、群集構造が変化することが考えられ、水鳥の分布にも影響しているという発表もありました。魚の及ぼす影響は水鳥の種によって異なり、特に大型の魚は沖にいるために潜水ガモのホオジロガモなどがより捕食されやすい傾向にあるとのことでした。

Janusz KloskowskiさんとAndrzej Trembaczowskiさん(マリー・キュリー=スクウォドフスカ大学)の同位体を用いて鳥の食性を調べた研究では、異なった体サイズの魚のいるコイの養殖池が複数あるときに、カイツブリの親は中間のサイズの魚がいる池を選んでいました。中間サイズだと、親鳥が魚を食べやすく、ヒナが魚から食べられないからです。アカエリカイツブリのヒナは小さいうちは魚に食べられることがありますが、ヒナが大きくなれば魚を食べるようになります。鳥と魚の直接の捕食—被捕食関係が成り立っており、体サイズにより関係が逆転するのは面白いと思いました。日本の湖と北欧の湖では環境が違いますが、日本でも外来種のブラックバスによる在来種カイツブリのヒナの捕食が指摘されており、同様な研究を行うことができるかもしれません。

私はポスター発表を行い、「水鳥によるアオコ(藍藻類)の運搬:腸内滞留時間とその後の増殖力」について発表しました。アオコは北欧でも関心があるようで論文が欲しいといわれました。このシンポジウムに参加したことで、新たな研究者の知り合いもでき、成果を早く論文にしてまとめようという気持ちになりました。

本シンポジウムの参加にあたり、財団法人日本科学協会の海外発表促進助成の支援を受けました。

シンポジウムで紹介されていたカワカマスがカモのヒナを食べる映像はYouTubeでみることができます。
Pike eats baby duck- Fairbanks, AK
http://www.youtube.com/watch?v=2_E4BUt1z8Y

このシンポジウムの前回のプロシーディングスは以下から見ることができます。
http://home.hkr.se/~del/History.htm


写真1:会場のbiosphere reserve "Vattenriket"。 ユネスコの生物圏保存地域ネットワークに参加している。


写真2:会場の様子。


写真3:「水生生物の運搬者としての水鳥」についてBrochetさんが講演。


写真4:ポスター会場まで牧場を横切る。


写真5:ポスター会場のクリスチャンスタッド大学。


写真6:ボートにのって湖までエクスカーション。


写真7:ボートからの景色。 カナダガン(外来種)やカオジロガンの群れ。


写真8 :参加者

 

 

 


受付日2012.11.3【topに戻る

ISBE 2012(第14回国際行動生態学会)に参加して

上沖正欣
立教大・院・動物生態/日本学術振興会特別研究員DC2

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写真1. 荷物片手に会場を駆け回るSさん
  今年の8月にSwedenのLundで開催されたISBE(The 14th Congress of the International Society for Behavioral Ecology)に参加して発表をおこなったので、報告します。学会の内容に関しては、経験・知識共に豊富な若手研究者の方々が日本動物行動学会のニュースレターに寄稿されているので、そちらを参照してみてください。ここでは、院生として参加した私の個人的な感想を、簡単に述べたいと思います。

  私の口頭発表は、第1日目でした。発表中は頭の中が真っ白だったのでよく覚えていませんが、終わってから色んな人から面白かったという評価を頂き、上田研の「プレゼンでは笑いを取る」という掟は守れたようでよかったです。ただ、メジロ研究者Hさんによると、ジョークの内容というかそれを真顔で連発していたのがウケていたのだとか・・・(単に緊張していただけなのですが)。発表が終わって質問しに来てくれた人も何人かいました。その中に、有用な情報をくれた人がいて「ヒゲを生やした体格のいいお爺さんだなあ」くらいに思っていたのですが、その現場を見ていたTさんに「あれは有名なAndrew Cockburn教授だ」と言われて、慌ててその後改めて挨拶に行ったのでした。以前参加した別の国際学会でも、自分の研究分野で大御所のC. K. Catchpole教授に質問を受けたにもかかわらず、顔を知らなかったので後で知って・・・ということがありました。これからは大御所や論文を読んだ人はなるだけ予め顔写真を確認しておこう、と誓いました。

  学会自体は、自分の興味に合致した面白い(質の高い)発表が多く、毎日忙しく会場を駆け巡りました(写真1)。学会の合間にも、古い町並みを楽しんだり、ハリネズミ探しをしたり(写真2)、海外研究室事情を聞いたりして楽しく過ごしました。その他学会の様子は、公式のサイトにも写真がアップされているのでご覧下さい。最終日のBanquetは海辺の夕日が見える素敵なホールで開かれ、食事の後は学会で知り合った海外の研究者たちと、夜が更けるまで踊り明かしました(写真3)。先に書いたCockburn教授もステージの真ん前でノリノリになっており、指導教官の上田先生に負けず元気な人だなあと思いました。

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写真2. すやすやと眠っているように見えるけれど実はびっくりして硬直しているハリネズミ   写真3. バンドの演奏とともに、夜中まで踊り明かす行動生態学者たち

  今回、何よりも強く感じたのは、国際学会は早いうちからできるだけ多く参加したほうがよい、ということです(国内学会も同じことが言えますが、それ以上に)。私が参加した初めての国際学会は、2008年にニューヨークで開催されたISBEでした。その時は学部生で、参加しただけという状態でした。翌2009年にはフランスで開催されたIEC(国際行動学会)で初めて国際学会で発表を行いました。2010年にもISBEがありましたが、その年は金銭的余裕もネタもなく参加しませんでした。そして3度目の国際学会。2008年のISBEでは自分だけ蚊帳の外という感じだったのが、回数を重ねるごとに知り合いが増え、今回のISBEでは気持ちに余裕ができて単純に楽しくなり、擦れ違う人達にも自然と声を掛けることが出来るようになりました。そうすると、色々な人と繋がりができて情報も入りやすくなります。実際に、研究室のSさんやJさんは(彼らも国際学会に何度か参加済)、共同研究や助成金の話をもらっており、私自身も博士卒業後のビジョンを得ることが出来ました。国際学会に参加するには金銭・時間・語学的問題はあると思いますが、院生の人は、修士からでも、積極的に国際学会に参加するべきでしょう。きっと、そこには将来を左右する出会いがある筈です。

  次回のISBEは、2014年7-8月にNYで開催されます。またその直後の8月には第26回IOC(国際鳥類学会議, International Ornithological Congress)が立教大学で開催されます。アメリカも東京もアクセスしやすいですし、今は学部生の方も、その時にはいずれかの学会に参加されてみてはいかがでしょうか。

 


天国に一番近い島への行き方

上沖正欣
立教大・院・動物生態/日本学術振興会特別研究員DC2

  札幌での野外調査も終盤にさしかかった2011年6月下旬、東京の研究室からはるばる佐藤さんがやってきた。巣探しでも手伝ってくれるのかな?と思いきや、調査地をちらっと見ただけで、もう満足した様子。そして彼はおもむろにポケットからiPhoneを取り出し、北国の森の中の小路に倒れた丸太に座り込み、「ニューカレドニア」というニューギニアと何が違うのかよく分からない南国の魅力を懇々と語り始めた。画面に映し出されるのは白い砂浜に青い海、ロマンチックな水上コテージ。北国にいながら、心は既に南国気分。気候もいい、札幌で悩まされているダニもいないらしい、天国に一番近い島らしい・・・。次々と映し出される魅惑的な画像と、佐藤さんの「あの幻の鳥、カグーがいるらしい」という殺し文句にやられた私は、自分の野外調査が終わった10月半ばにニューギニア・・・じゃなかった、ニューカレドニアに旅立ったのである。

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写真1. 牛祭り。牛の天国ではあったかもしれない。   写真2. このナマコは食べられるのだろうか。

  天国を夢見て降り立った地で最初に目にしたのは、どこまでも青く透き通ったう・・牛祭りだった(写真1)。どこまでも広がる乾燥し赤茶けた大地、容赦なく照りつける日差し、牛、牛、時々馬。実は、その後帰る間際まで海を見たのは一度だけ、しかもそこは浅すぎて泳げず、ひたすらナマコを集めて遊んでいただけという現実(写真2)。でも、騙されたとは思わなかった。目にする風景や生き物、全てが新鮮で、毎日が刺激的だった。そう、それに、自分にはワピピの巣探しをして佐藤さんの調査を成功させるという重要な任務があるのだ(忘れていた・・・わけではない)!

  私はそれまでにも、オーストラリアのダーウィンでのカッコウプロジェクトに参加し、ワピピの巣探しをした経験はあったし(彼らの巣は見つけやすかった)、かなり高難度と言っても誰も否定はしないだろうヤブサメの巣探しをしているから、毎日1個ずつくらい巣を見つけられる自信はあった。・・・のだが、巣探しは難航し、声はすれども巣形は見れず、状態。結局、実際に見つけたアクティブな巣は1巣だけだった(今はそれが僕の能力不足ではないことが明らかになりつつあるし、古巣はそこそこ見つけたが)。また、言い訳がましくなるが、日に5~6時間程度しか調査できず、実質の調査日数は6日ほどだった上、道端でばったりカグーに会ったりして・・・

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写真3. ふと気付くと、木の間から見つめられていた。   写真4. 数少ないらしいが、見かける頻度は高かった。

  あ、そうそう、カグー。ニューカレドニアと言えば、カグーだ(これはミスリーディングではない)。彼らは実に愛嬌があり、愛想がよく、ほげーっとした可愛い奴だった(写真3)。ニューカレドニアには、他にもキゴシヘイワインコ(写真4)という天国に近い島に相応しい名前のインコや、ヒノマルチョウという日本人なら一度は見ておきたい(ただし配色的にはバングラディシュの国旗)フィンチなど、固有種が沢山おり、どれも魅力的なのだが、そのどれもカグーには敵わない。カグーに会えただけで、ニューカレドニアに来た価値があったというものだ。・・・あれ、僕は何をしに来たのだっけ。

  あ、そうそう、巣探し。ニューカレドニアと言えば、巣探しだ(これはミスリーディングかもしれない)。私が帰国した後に、幸運にも私が見つけたその1巣で狙い通りのデータが取れ、佐藤さんの研究に貢献することが出来た。しかもその後も面白い出来事が立て続けにその巣で起きた為、その年の調査成果はその巣に集約されていたと言っても過言ではない(というのは過言だろう)。因みに私はその巣を「航空券代○○万円分の巣」と呼んでいる。

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写真5. 家も建てられる、何でも屋のアンリ。   写真6. のび太くんとジャイアン・・・ではなく佐藤さんとリノ。

  調査の話はここで一段落して(ひとだんらく、と読むのはミスリーディングである)、現地での生活を思い出すと、佐藤さんは勿論、公園の職員の方々には本当にお世話になった。毎日車で送迎してくれたフランス語オンリーのアンリ(写真5)、ドラえもんを実写映画化する際のジャイアン役は絶対この人しかいない、というような体は大きいけれど心優しいリノ(小川○也よりも似ている。写真6)、いつも陽気なフィリップ、いつも冷静沈着な所長のジュルム。他にも個性豊かでフレンドリーな職員の方々のお陰で、2週間という短いニューカレドニア滞在だったが、そこで得たものはその僅かな時間以上に大きく、素晴らしいものとなった。

  一人寂しく日本へ帰る飛行機の中、まるで本当に天国に来てしまったかのような、窓の下にどこまでも広がる幻想的な雲海を見ながら、ふと気付いた。「天国に一番近い島」というのは、結局行く事が叶わなかった海辺の景色の事ではない。そこで得られる唯一無二の経験というものが、天国に一番近いくらいに貴いものかも知れないな、と。そんな訳で、いつか私が本当に天国に一番近い場所に逝ってしまう前に、絶対にまたもう一度その島を訪れたいと思っている。

受付日2012.10.22【topに戻る

 


 

-連載- ニューカレドニア通信 (3):難航するも、成果を出す!

佐藤望
立教大学大学院理学研究科、日本学術振興会特別研究員DC2、Polish Academy of Science

調査2日目.天候は晴れ.気温も予想外に涼しく、絶好の調査日和です.朝7時に家を出発して,公園のオフィスに到着.このオフィスはインターネットが使えるため,メール確認などの事務作業を行えます.オフィスに到着後,30分から60分ほどでアンリは車で公園に向かうので,一緒に公園へと移動します.以後,帰国までは毎日このようなスケジュールで調査をしました.その日によってアンリが公園に向かうまでの(職場での会話)時間が違うため,大量にメールが届いているときや締め切り間際の仕事がある朝はスリリングがあります.早く終わらせても待っている間は何もできないので,その日のアンリの会話の調子や機嫌を伺ってから仕事内容を決めるというスキルが身についたのはそれから1ヶ月後くらいでした.

公園に着くと,早速調査を開始.ワピピのさえずりが聞こえた場所を中心に巣探しを行います.私が今までに調査した4種のセンニョムシクイ属のうち,2種はとても巣探しが簡単で,野外調査が素人の私でも比較的容易に巣を見つける事ができました.一方,残りの2種はとても難しく,姿が見えていても滅多に見つける事はできません.ワピピの巣は見つけやすいかどうか.それが研究の成功を左右する最大の要因です.

数日間はなかなか見つけられませんでしたが,1週間以内には最初の巣を見つける事ができました.幸先は良かったものの,ワピピの巣は高度に隠蔽しており,場合によっては目の前にあったとしても,見逃してしまう事もあります.今後の調査の難航を予感させる最初の巣はG01と名付けました.

その後はなかなか巣が見つからず,早くも開始から2週間が経過してしまいました.見つからない日が続くとどんどん焦ってきます.ちょうどこの頃,立教大学上田研究室の上沖くんが調査の手伝いにNC(ニューカレドニア)に来てくれました.久しぶりの日本語での会話がとても新鮮で,無意識に入れていた肩の力が解けたのを一年経った今でも覚えています.

調査も2人体制となり,色々と良い経験ができました.私と違う視点で巣探しをしているので,気づかない点や考えさせられる事がたくさんありました.たとえば上沖くんは見つかった巣の入り口の方向を地図上に書き込んで,それをヒントに巣探しをしていました.素人の私はすべてが勉強になります.少し話は逸れますが,本調査では他にも多くの研究者と調査を共にする機会がありました.これは他人の調査スキルを盗む事ができる上,自分がどういった調査方法が合っているのか,何が得意なのかを見つめ直す良い機会となりました.

さて,肝心の巣探しですが,2人体制になってもなかなか新しい巣が見つかりません.先に結果を言うと2011年度は5人で12巣しか見つける事が出来ませんでした.そのうち托卵されていた巣はなんと1巣しかありませんでした.調査地内ではヨコジマテリカッコウがかなり頻繁に鳴いているので,なぜこんなにも托卵率が低いのかは謎ですが,自然相手なので仕方がありません.

巣探しが中々うまくいかない日々が続くと精神的にも衰弱していくのですが,そういう時でも元気で過ごす事ができたのは,公園のおかげでした.お昼頃になると,公園の入り口にある公園のオフィスで昼ご飯を食べるのですが,その時,公園の職員の方と一緒に過ごします.初めはコミュニケーションが中々取れませんでしたが,慣れてくると色々な言語(フランス語,英語,スペイン語,メラネシア語,日本語など)を駆使してそれなりのコミュニケーションが取れてくるようになりました.ワピピの巣が見つかった日には一緒に喜んでくれ,面白い映像が取れたら一緒に興奮してくれる,とてもフレンドリーな方ばかりで,調査中は心の支えとなって下さいました.また,調査休みの日には海や街に連れて行ってくれてリフレッシュもさせてもらえました.

さて,調査も1ヶ月が過ぎ,上沖くんが帰国し,岡久くんが調査に参加しました.この頃になると巣も何巣か見つかっており,本格的にビデオ撮影も開始しました.CCDカメラを巣の近くに設置し,ハードディスク(80GB)に巣の映像を保存するといったビデオシステムで撮影しました(写真1)が,これだとなんと6日間も連絡撮影が可能です.バッテリー(車のバッテリーを使用)の重量が25kgととても重いのが難点ですが,前回の調査では2時間毎にバッテリーとビデオテープを交換していた私にとっては最高のシステムでした.しかし,ピーク時ともなると4ヶ所同時に撮影していたため,ほぼ毎日バッテリー交換をしなければなりませんでした.巣の近くまでは公園の職員が公園内で使用している小型の車で運んでくれたので大分負担は少なかったのですが,それでも25kgを数百メートル運ばなければならない場所もあり,キツい作業でした.

この筋トレのような調査を毎日続けた結果,2011年度は合計2500時間以上、巣の撮影をする事ができて,私が最も撮影したかった場面をはじめ,多くの興味深い映像を取る事が出来ました. たとえば,巣が捕食される場面です.2011年は4巣が捕食にあってしまいましたが,そのうちの1巣が猛禽類に捕食される瞬間を撮影する事が出来ました.ワピピをはじめ,NCの多くの鳥類は希少種なので,保全の上でも捕食者の特定は貴重なデータです.

そして,私の研究で最も重要なワピピによる,カッコウの托卵に対抗する行動の映像を取る事ができました.映像は鮮明ではないのですが,貴重な行動です.まだ論文として公表していないため,ここでは書く事ができませんが,近いうちに皆様に発表できるよう,頑張ります.

このように初年度の調査は難航したものの,大きな収穫もありました.
次号では2011年度の調査の全体を振り返りたいと思います.


写真1 撮影機材 バッテリーが25キロ!


受付日2012.10.25【topに戻る

 

-連載- ニューカレドニア通信 (4):2011年度の調査をふりかえる

佐藤望
立教大学大学院理学研究科、日本学術振興会特別研究員DC2、Polish Academy of Science

3回に渡って2011年度の調査について連載致しましたが,すでに2012年度の調査が開始しているため,今号では2011年度調査をふりかえり,次回からは2012年度の調査について書きたいと思います.

前号でふれたように,調査は順風満帆とまではいきませんでしたが,次回につながるデータが取れた事,調査地を確立できた事,そして何より全員が無事に帰国できたので,好調の出だしであったと思います.

この調査では研究以外にもいろいろな事がありました.最も大きな出来事は,私がニュージーランドでお世話になったカンタベリー大学のBriskie教授と調査地で偶然再会した事です.Briskie教授はニューカレドニアでも調査をおこなおうと考えていて,その視察に訪れていました.まさかの再会に私は感動し,恐らく今までで最も積極的に英語を話したと思います.通じようが通じまいがお構いなしに,研究の話や昔話をしました.Briskie教授も調査地が気に入ったようで,2012年から本格的に調査をおこなうとの事でした(現時点ですでに開始しています).

また,ニューカレドニアにきて間もなく,高熱を出して病院に行った事も忘れられません.フランス語で病状を言えるわけもないので,自力で治そうとしたのですが,なかなか良くならず,公園のスタッフのLinoに病院に行きたいと伝えると,すぐに病院に連れて行ってくれて,家に送り届けてくれるまで何から何までやってくれました.一人で海外に調査するのはものすごく不安な事ですが,あの公園でやっている限りは,この一件があってからは安心して調査ができました.

本調査では共同研究者の立教大学上田研究室の田中さん、上沖くん,岡久くん,九州大学の中原くんが調査を手伝ってくれましたが,それぞれ忘れがたい思い出がたくさんあります.彼ら自身もニューカレドニアの魅力を実感して,2012年度の調査にも田中さんと岡久くん、中原くんが参加し,それぞれのテーマで研究を開始する事になりました.

このように,私の博士論文の研究として開始した調査でしたが,上田教授に続き,田中さん,佐藤がそれぞれ助成金を獲得した事もあり,いつの間にか大きなプロジェクトに発展しました.また,指導教官のヨーン博士も托卵をテーマにした研究計画で欧州の大きなグラントに応募しました.採用されれば,さらに国際的なプロジェクトになると思われます.

2012年8月にスウェーデンで開催された国際行動生態学会(ISBE)では,最大のライバル?でもあるオーストラリア国立大学の研究チームとも交流する事ができて,将来的には共同研究をしたいという意見で一致しました.

このように,ニューカレドニアでのワピピとテリカッコウの研究は今後ますます盛り上がっていくと思います.
2012年度は9月〜1月まで調査をします.今回はさらに多くのメンバーが調査に参加します.これから続々と研究成果を出していくので,楽しみにしてください.

最後に,この場をお借りして,2011年度の本研究に貢献して頂いた方々に御礼を申し上げたいと思います.
調査を手伝って頂いた立教大学の上沖正欣くん,岡久雄二くん,九州大学の中原亨くん,惜しみない協力をして頂いた公園の職員方,指導教官の上田教授,ヨーン,共同研究者の田中啓太さん,私の研究を応援して頂いた皆様,そして何より家族に感謝いたします.本当にありがとうございました.


写真1 ワピピ(カレドニアセンニョムシクイ) 本調査の主役です(岡久撮影)


写真2 ヨコジマテリカッコウ 奇麗な色です(岡久撮影)


受付日2012.10.25【topに戻る

ニューカレドニアの鳥類相

岡久雄二
立教大学大学院博士後期課程

今,ニューカレドニアの風に吹かれながら,この原稿を書いています.ニューカレドニアは夏に差し掛かり,毎日強くなっていく日差しを肌で感じますが,湿度が低いために日陰で過ごすのはとても快適です.こちらの鳥類の繁殖期は主に9月から12月であり,ちょうど日本と逆転しているため,11月はちょうど鳥類の繁殖の最盛期にあたります.ここ二週間程度で鳥達のさえずりが少し静かになり,本格的に繁殖に入っていることを強く感じます.

ニューカレドニアは「Old Darwinian island」と呼ばれることがあるほどに個性的な生物が多数生息しています.鳥類は205種が記録されており,そのうち繁殖している陸鳥がおよそ86種,固有種は23種,16種は世界的に絶滅が危惧される鳥種です.また,アカジリムジインコCharmosyna diadema,ニューカレドニアズクヨタカAegotheles savesi,無飛力で森林性のニューカレドニアクイナGallirallus lafresnayanusという固有種3種は絶滅したと考えられています.外来種としてはイエスズメPasser domesticusやインドハッカAcridotheres tristisなどの市街地に生息する鳥種を中心に14種が移入されています.

ニューカレドニアはかつてゴンドアナ大陸の一部を形成していたため,在来の鳥類の一部はゴンドアナ大陸の残党だと考えられており,例えばカグー(カンムリサギモドキ)Rhynochetos jubatusは南米に生息するジャノメドリEurypyga heliasと近縁な種であることが知られています.全体として,北半球では出会うことのできない分類群がほとんどを占めているものの,いわゆる熱帯の鳥としてイメージされるような極彩色の鳥類は一部でしかありません.例えば,赤い鳥としてはカレドニアミツスイMyzomela caledonicaやヒノマルチョウErythrura psittaceaがいるものの,どちらかと言えば地味な鳥種が多い印象があります.我々の主な対象種であるカレドニアセンニョムシクイGerygone flavolateralisや固有種のヨコジマミツスイPhylidonyris undulata,オオミツスイGymnomyza aubryanaなど,いずれも茶褐色や灰褐色,黒色の羽色をしていますし,普段よく見かけるハイイロオウギヒタキ Rhipidura fuliginosaやカレドニアメジロZosterops xanthochroaも目立たない地味な羽色をしています.



カレドニアミツスイ(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)


ヨコジマミツスイ(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)


ハイイロオウギヒタキ(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)


カレドニアメジロ(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)

ニューカレドニアの奇妙な鳥達


カグー(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)

ニューカレドニアで特徴的な鳥をあげるとすれば,カグー,カレドニアガラスCorvus moneduloides,カマバネキヌバトDrepanoptila holosericea,オオミカドバトDucula.goliathの4種です.
特に,カグーはニューカレドニアの国鳥であり,全長60cmの飛べない鳥として有名です.ニューカレドニアの人々はカグーをこよなく愛しており,テレビアニメや切手,硬貨や公衆電話にまでカグーが登場します.そのため,鳥の研究をしていると現地の方に話すと,まずカグーだと勘違いされます.カグーはまさしくニューカレドニアを代表する鳥と言えるでしょう.
カグーは熱帯林で2~7羽程度のいわゆる超家族(つがいと若い個体の集団)を形成して生活します.個体の性成熟には3年かかるとされており,若い個体が同一の群れに10年も留まっていた例が知られるほどに彼らは長い期間家族群を保ちます.年に1卵しか卵を産まず,つがいの雌雄が約40日間も交代で抱卵を行います.雛は半早成性であり,孵化後から移動能力はあるものの,しばらくの間は巣に留まって親から給餌されます.これらの繁殖行動にヘルパーが関わることはほぼないのですが,多くのヘルパーがいることで巣内雛の生存率は高くなることが知られています.
彼らは動物食であり,森林内で昆虫多足類を食べるところをよく目にします.ちょうど日本のコサギが水中の泥の中にいる餌を足で探し当てるのとよく似た動作で落ち葉を踏みつけて餌を探し,落ち葉の下にいる多足類を採餌したり,激しく落ち葉に突撃したりして採餌しています.日本国内の文献では何故か夜行性と書かれているものを目にすることが多いのですが,野生下では完全な昼行性であり,夜は地上や樹上で眠っています.

 


カレドニアガラス (Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)

この他に,世界で唯一道具を使うカラスであるカレドニアガラスも鳥類学者の間ではとても有名な鳥です.カレドニアガラスはニューカレドニアの固有種であり,森林で果実や昆虫を採餌しています.特に,樹木の葉柄を道具として,それを朽木の穴に突き刺して幼虫を取り出して採餌する行動は世界的に有名であり,彼らの高い学習能力に着目して非常に多くの研究が行われています.地域によって使用する道具が異なっており,我々の調査地に近いサラメアではククイノキの倒木内に潜むカミキリムシの幼虫を捕獲する際,ククイノキの葉柄を加工した棒を倒木の穴に差し込み,それに幼虫を噛みつかせて釣り上げます.同じニューカレドニアでも他の地域では先端をかぎ状にした棒やパンダナスの葉柄を使って穴に潜む昆虫を捕らえることが知られます.また,硬いククイノキの実の中身を食べる際には,特定の木の股に実を置いて狙いを定め,下の岩に落として割ることも知られており,彼らの採餌行動は非常に多様で特徴的です.
我々の調査地でも頻繁に姿を見かけますが,日本のカラスよりも一回り小ぶり(全長40cm)で,つぶらな瞳をしているため可愛らしい印象を受けます.彼らは人間を注意深く観察しているようで,木の陰からこちらの様子をうかがっている様子をよく見かけます.警戒心が比較的強いためか,道具を持つ姿を見るのはと困難であり,二年間の調査期間でたったの二度しか道具を持っているところを観察したことがありません.


カマバネキヌバト(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)

ニューカレドニアには野生のハト類が6種おり,カマバネキヌバトは全長28cmほどの小型のハトです.ニューカレドニアの固有種であり,我々の調査地では個体数がとても多く,至る所で「ボーー,ボーー」という声で鳴いています.樹上性で果実を採餌しているため,高木にいることが多く,姿を見るのは少々困難です.興味深いことに「キッキッキ」という羽ばたき音らしき大きな音声を出して飛翔します.また,形態も特異であり,翼や尾羽がとても短いほか,脛に白色の羽毛をまとっているという特徴があります.脛羽はちょうどライチョウの足に似て見え,白色の羽がモコモコと綿のように生えています.いったいどのような機能を持って進化したのか,たいへん興味深い形態です.


オオミカドバト(Parc des Grandes Fougeresにて岡久撮影)

最後に,オオミカドバトを紹介します.オオミカドバトは全長52cmの世界最大の樹上性のハトです.ニューカレドニアの森林性鳥類の中では最も大きな鳥であり,一見大型の猛禽類のようです.「ボッボ,ボボボ」といった声はよく聞くことができるのですが,狩猟されてきた歴史から人間に対する警戒心が強いため,落ち着いて姿を見ることができません.森林内で大きな鳥が飛び去ったバサバサという音でオオミカドバトがとまっていたことに気が付くことがほとんどです.オオミカドバトの詳細な生態は十分に明らかにはなっていないものの,主として果実食であることが知られており,タコノキを採餌することが良く知られています.

最後に
このように様々な鳥類が生息しているニューカレドニアでありますが,人間が持ち込んだネズミやネコが鳥類を捕食しており,個体数の減少を招いています.また,シカやブタも移入されており,これらの動物による環境改変も鳥類の減少を招いていると考えられます.このような保全上の問題が危惧される一方で,鳥類の生態は未解明なものが多く,研究すべき課題は数多く残っています.私たちは現在,ヨコジマテリカッコウとその宿主であるカレドニアセンニョムシクイの軍拡競争を中心とした研究を行っていますが,同時に保全を念頭に置いて野外での情報を収集することは鳥類学者の責務であると考えています.そのため,この島に生息している様々な鳥類の生態についても研究の手を広げつつあります.今後の研究成果に,ぜひご期待ください.

 


受付日2012.10.28【topに戻る

編集後記:今号は合計6本の記事をお届けしました。国外の学会、調査など、写真が盛りだくさんです。お楽しみいただけたでしょうか?鳥学通信では随時記事を受け付けております。お気軽に記事をお寄せください。皆さんのご協力を期待しています(編集長)。

鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者宛 (ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。
 鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行予定です。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。


鳥学通信 No.37 (2012年11月7日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
和田 岳(編集長)、高須夫悟(副編集長)
天野達也、東條一史、時田賢一、百瀬浩
Copyright (C) 2005-12 Ornithological Society of Japan

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