鳥学通信 no. 39 (2013.8.13発行)

ニューカレドニアでの鳥類捕獲の試み

岡久雄二
立教大学大学院理学研究科

ニューカレドニアでの調査のひとつとして、ニューカレドニア政府からの許可を受けて、鳥類の捕獲を行っています。これは鳥類の寿命や移動分散といった基礎情報の蓄積、個体識別に基づく詳細な行動の記録、または羽色や計測値、DNA解析のための血液のサンプリングなどのためです。捕獲によって得られるこれらの情報は鳥類の研究に欠かすことができません。
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鳥の採血を試みる佐藤(右)と森(左) (Parc des Grandes Fougèresにて 岡久撮影)

一昨年、私たちはニューカレドニアで初めて主たる研究対象であるニューカレドニアセンニョムシクイ(Fan-tailed Gerygone Gerygone flavolateralis)の捕獲を試みました。これまで日本の調査地で行ってきたように、鳥類の通り道を狙って、30mmメッシュの小型鳥用カスミ網を張り、待つことしばらく、順調にニューカレドニアセンニョムシクイがやってきました。これは捕獲できるぞ、と皆が期待して見守っているとニューカレドニアセンニョムシクイが網へ向かって飛翔。しかし、次の瞬間、彼らは颯爽と網を通り抜けてしまいました。日本で一般的に小型の鳥を捕獲するのに利用する30mmメッシュでは熱帯の鳥は捕獲できないということに一同で驚愕し、やむなく捕獲を諦めるに至りました。

そして、忸怩たる思いを胸に一年越しでさらに小さいメッシュのカスミ網を入手し、ついに昨年から本格的にニューカレドニアセンニョムシクイの捕獲ができるようになりました。ただ、未だに効率的に捕獲ができているとは言い難い状況にあります。それというのも、ニューカレドニアセンニョムシクイやハイイロオウギヒタキ(Grey Fantail Rhipidura albiscapa)などの小型の鳥類は空中で容易にホバリングを行い、飛翔中でも急に方向転換ができるために、空中停止して網を避けてしまうほか、時にはカスミ網そのものにとまってしまうためです。

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樹上の巣に向かって木を登る岡久(Parc des Grandes Fougèresにて 中原亨 撮影)

さらに、樹上に巣を造る鳥類の捕獲・巣の観察には頻繁に木を登り降りする必要が生じます。私たちの調査地は過去に伐採されているために林冠は20-30m程度であり、いわゆる熱帯雨林のジャングルと比べれば林相は貧弱です。そうは言うものの、10-20m程度にある鳥の巣に向かって自分の体をなんとか持ち上げていかねばなりません。少しずつ木を登るごとに、日常見ることの無い角度から地上を眺められるようになる独特の高揚感は、私にとっては楽しくて仕方ないものです。ただ、捕獲に時間が掛かるというコストが大きく、樹上での捕獲やビデオ設置を行い、捕獲した鳥を抱えて10m以上の木を何度も登り降りすることは人と鳥に対する危険が伴うため、作業は神経を使います。さらに、そのような作業を行える人材の不足もついて回ります。我々の共同研究者はヘイワインコ(Horned Parakeet Eunymphicus cornutus)の巣にアプローチするために樹洞の空いた30m以上の高木にロープを掛けて登っています。当然、30mともなれば落ちれば死亡する可能性が高く、細いロープを頼りに木を登っていく様は横で見ているだけでも不安になります。人と鳥の安全を確保しながら研究に必要な情報を収集する技術の一つとして、木を登る能力が鳥類学者にとっていかに重要なものであるか、強く実感させられる日々です。研究の選択肢を広げるためにも鳥学会のエクスカーションなどで木登り講座を開いて野外調査技術を底上げしても良いかもしれませんし、森林内の高所を縦横無尽に調査できるような技術開発がなされることを期待したいものです。

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ニューカレドニアセンニョムシクイ Fan-tailed Gerygone Gerygone flavolateralis

 

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ヨコジマテリカッコウ Shining Bronze-Cuckoo Chrysococcyx lucidus layardi

さて、ニューカレドニアの鳥類を捕獲してみると、改めてその小ささに驚きます。ニューカレドニアセンニョムシクイの体重はたった5-6gしかありません。さらに、DNA解析のための採血を試みようとしても血管が全く見えず、日本から持ってきた最も小さい針でも血管よりも太いほどです。思わず、「血液のサンプリングは諦めよう」という言葉が漏れるほどでした。さらには、個体識別用の標識足環も準備してきた最も小さいサイズが簡単に抜けてしまい、まるで意味をなしませんでした。さまざまな技術の確立があり、現在では研究対象である各種の鳥類を捕獲し、データの収集ができるようになってはいますが、捕獲や採血のいずれについてもごく一部の習熟した調査者のみが行えるという状況であり、特殊技能と言わねばなりません。
その他の鳥の形態として、性齢や換羽については北半球で調べられてきた知見と全体に共通している印象にあります。客観的には情報不足で分からないことも多くありますが、多くの種では大雨覆に残る幼羽の末端に淡色の斑(いわゆるGC斑)があることや虹彩色の濁り・色によっておよそ個体の年齢を査定することができそうであるほか、抱卵斑の形状などの点で日本の鳥類と共通しています。熱帯域で鳥類がどのように換羽を行っているのか、加齢に応じてどのように形態が変化するのか、興味は尽きませんが、温帯とさほど差はないようにも思います。

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展望台から調査地を俯瞰して闘志を燃やす面々(Parc des Grandes Fougèresにて 岡久撮影)

今回は捕獲調査について執筆させていただきましたが、捕獲以外の調査についても、日本と異なるニューカレドニアならではの苦労を時折感じます。とは言え、データ収集の限界を技術・体力・直感によって切り開いていくことこそが野外調査の醍醐味のようにも思います。限られた種を除いて、ほとんど研究がなされていないニューカレドニアで世界中の研究者と議論しながら、調査の手法から試行錯誤できることは非常に貴重な体験です。簡単でないからこそやりがいのある調査、ニューカレドニアの鳥類との格闘は日々続いています。

受付日 2013.1.21


THE JOURNEY OF BIRDS-Satellite-tracking Bird Migration-の出版

樋口広芳
慶應義塾大学政策・メディア研究科

THE JOURNEY OF BIRDS-Satellite-tracking Bird Migration-が電子書籍としてSELC社から出版されました。2005年にNHK出版から発行された『鳥たちの旅ー渡り鳥の衛星追跡ー』の英語版ですが、その後の研究成果を追加して構成してあります。電子出版なので、イラストや写真の多くがカラーになっています。iPadで見ることができます。

関心のある方はぜひご覧ください。また、お知り合いの英米人にもおすすめいただければ幸いです。

以下、関連情報です。

書名:THE JOURNEY OF BIRDS-Satellite-tracking Bird Migration-
著者:Hiroyoshi Higuchi
訳者:Mari Amano
発行:SELC Co., Ltd.
長さ:172ページ
利用媒体:iPadで利用可能
カテゴリ:自然
価格:880円
概要:
Why do birds travel such long distances every year? What route do they take and where do they fly through to reach their destination? Are the routes the same in spring and autumn? Why are the destinations and migration routes different for various birds? How do birds find their way and successfully reach their destinations? These are some of the questions that arise about bird migration, which stirs much excitement and curiosity within us. While the study of bird migration has a long history, we have only begun to unravel details of bird migration relatively recently. Today, we know the answer to many of these questions, but only for those birds where research has made significant progress.

 

受付日 2013.7.11


-連載- ニューカレドニア通信 (6):ビザの取り方

佐藤 望
立教大学大学院理学研究科, 日本学術振興会特別研究員DC2, Polish Academy of Science

2011年度の調査が終わり12月末に帰国したのですが,出国時のニューカレドニアは30度を超えており,成田で飛行機を下りたときは0度でした.帰国すると待っていたのは感動ではなく大量の仕事で,いくつかの報告会の準備や報告書の作成などでしばらくバタバタし,学会参加や論文執筆などをしているうちに気づくと次の調査のシーズンに近づいて来ました.

今年度は気合いを入れて前回よりも1ヶ月長い期間,調査する予定を組みました.というのも前回の調査では現地入りした時にはすでに繁殖が始まっていそうな気配があり,帰国日になっても繁殖が終わっていないペアがいたためです.

ただ,ニューカレドニアは3ヶ月以上滞在の場合,ビザが必要となります.そこで2012年度はビザを取って長期間滞在しました.今回は取得までの経緯を紹介します.なお,ここでの情報はあくまでも2012年9月時点の情報ですので,参考程度にしてください.(私がビザ取得の準備を開始してから取得までの間にも大使館のHP情報が変更し,必要な書類も変更しました)

ニューカレドニアはフランス海外領土なので,ビザ取得のためにはフランス大使館で取得する事ができます.ただし,同じフランスでも本国と海外領土ではビザの種類が異なり,海外領土の長期滞在で出すべきなのか,フランス本国の研究者ビザで出すのかがインターネットからの情報ではわかりませんでした.

そこで,まずは一度大使館に足を運び,ビザについての確認をすると,研究者ビザで良いとの事でした(このような問合せは電話での問合せができません).

必要な書類を集めて改めてビザを申請するためにインターネットで予約(フランス大使館は予約しないと申請等ができません)しようとすると,なんと2ヶ月先まで予約でいっぱいでした.フランス大使館ではビザ申請は出国時の3ヶ月前から可能との事だったので,3ヶ月前になってから予約をしようとしたのですが,これが間違いでした.この結果,出国1ヶ月前に申請する事になりました.なお,必要な書類のうち,現地の県庁の承認(サイン)や現地の受け入れ期間のサインが必要なコンバンション・ダキュイという書類は入手に時間と手間がかかるので,これは出国半年前には入手の手配をする事をお勧めします.

そして申請当日,留学前の学生と思われる方がたくさんいて,長い間待つ事になりました.ようやく自分の名前が呼ばれて申請書類を出すと,なんとビザのルールが改訂しており,研究者ビザではなく海外領土の長期滞在ビザで申請する必要があるとの事でした.そこで2つ,追加で必要な書類を取得する必要が出てきました.1つは健康診断書(フランス語),もう1つは無犯罪証明書です.聞き覚えの無い書類でしたが出発まで時間が無かったため,健康診断は大使館に紹介してもらった東京タワー付近の病院にその日のうちに行きました.そして健康診断を終えた後に今度は警視庁本部に行き,無犯罪証明書をもらいに行きました.1日でフランス大使館→東京タワー→警視庁本部と,ほとんどの人がやった事がない東京観光ができたのでちょっと楽しかったのですが,あまりお勧めはできません.

これらの書類はその後10日程度で入手する事ができて,それを大使館に提出し,出国数日前になんとかビザを取得する事ができました.ただし,このビザは3ヶ月間のみ有効なもので,後は現地で延長申請をする必要があるとの事でした.

何はともあれ,ビザが取れて安心してニューカレドニアへと出発しました.現地に到着すると,さっそく現地の共同研究者のヨーンと移民局へ行って延長申請をしました.やりとりはフランス語のみなので,横にいてもさっぱり内容がわからず,書類の提出以外はほとんど何もできませんでした.フランス語がわからないと独力でこの申請を行う事はかなり難しいと思います.

移民局では全部で1時間くらい申請に時間がかかり,これで終わりかな?と安心したのですが,もう一度行く必要があるとの事でした.この移民局はニューカレドニアの首都であるヌーメアにあり,調査地から100キロ以上離れているので行くだけでもけっこう大変なのですが,なんと最終的な手続きが終わるまで4,5回(多すぎて正確な回数も忘れました..)行くはめになり,結局9月下旬に移民局で申請して終わったのが12月後半でした.

このようにビザを取るのは,かなりハードルが高いので,海外で調査する事を検討している方は,ビザを取るかどうかしっかり検討した方がよいかもしれません.ただし,一度,長期滞在ビザを所得すれば次回以降も延長が可能なので次回以降は負担が減るはずだし,何度も出入国を繰り返しても不審がられる事も無くなります.

 

受付日 2013.2.1


編集後記:今号は3本の記事をお届けしました。鳥学通信では随時記事を受け付けております。お気軽に記事をお寄せください。皆さんのご協力を期待しています(編集長)。

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鳥学通信 No.39 (2013年8月13日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 和田 岳(編集長)、高須夫悟(副編集長) 天野達也、東條一史、時田賢一、百瀬浩

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