鳥学通信 no. 41 臨時号 (2014.1.18発行)

特集:私たちの IOC その1

石田 健
東京大学大学院農学生命科学研究科

いよいよ国際鳥類学会議 IOC の第26回東京大会の年になりました。この臨時号がでる時点で、参加登録は1000人を超えました!国際鳥学会議としては、まだまだ、もっとたくさん集まって、もっとたくさん発表があればいいなと思います。会期の後半は、日本鳥学会大会が抱き合わせで開催されますので、是非、多くの参加、(英語)発表をしていただきたいという願いをこめて、(鳥の)国際学会の魅力を書いていただきました。

受付日 2014.1.6、一部更新1.14


直接に会うことの大切さ

藤原宏子
人間総合科学大学

私はこれまで10年余りオランダ・ユトレヒト大学のBolhuis教授と共同研究を進めてきました。共同研究を始めたきっかけは、国際学会での出会いです。私のセキセイインコの研究発表をきいた彼が、共同研究に誘ってくれました。それ以来、メールのやり取りをしつつ、原著論文2編と総説論文2編を共同で公表してきました。この共同研究について考える時、一つ、強く思うことがあります。それは、「人と人が直接に会うことの大切さ」です。実は、この共同研究を始める前に、米国の研究者から、共同研究を始めませんか、という誘いをメールで受けました。私はその研究者の論文は良く読んでいましたが、全く会ったことがなく、どんな人なのだろう、どうしよう・・・と考えているうちに、いつの間にか共同研究の話はなくなってしまいました。

国際学会では、直接に外国の研究者と会い、お話しすることができます。短い時間ですが、相手の考え方、性格について、メールでのやり取りではわからない多くのことがわかると思います。直接に会うことにより、信頼関係も生まれるのでしょう。2014IOCでは、オウム目についてのシンポジウムが企画されています。このシンポジウムの準備のために、私は外国の複数のオウム研究者とメールのやり取りを重ねました。彼らとはまだ直接にお会いしたことがありません。来夏に彼らと東京で会い、新しい共同研究が始まりそうな・・・そんな予感がしています。会議はもちろん、日本の良いところを彼らに見せてあげたい、とても楽しみにしています。

受付日 2014.1.6


1982年第18回国際鳥学会(ソ連モスクワ大)へ参加

須川 恒

1978-9年冬に京都市内鴨川で金属標識のついたユリカモメを複数見つけたことがきっかけとなり1980年5月から、その標識者の当時ソ連のカムチャツカに住む鳥類学者ニコライ・ゲラシモフ氏と手紙のやりとりをする仲となった。1981年になって、カムチャツカに西側人間は立ち入れないが、共に明らかにしつつある東アジアのユリカモメ個体群の渡りや増加について、1982年8月にモスクワ大で開催される第18回国際鳥類学会議(IOC)の場で共同でポスター発表をしないかと提案があり、ロシア語で書かれたアブストラクト案も送ってきた。

モスクワ大IOCの唯一の手がかりは、日本鳥学会ニュースNo.8で、大会事務局の住所が書かれていた。No.9号には横田義雄さんや呉地正行さんらが1981年にハンガリーで開催された雁のシンポジウムに参加したことが紹介されていて、海外の学会に参加する姿勢もすごいし、渡り鳥の世界から見ると北東アジアは暗黒地帯という意味の指摘もなるほどと思った。

大会事務局へ英文アブストラクトを送ったら、受領したとの葉書がやってきた。当初は、モスクワに私がいかなくてもゲラシモフ氏がかわりに説明してくれると考えていたが、1982年に入って行くことを決めた。それは、ソ連の旅行経験がある人との出会いが大きかった。大阪にあるソ連旅行を扱う旅行社へ一緒に行って、半分はソ連の旅行、半分は学会参加という旅行のイメージが沸いてきた(旅費を稼ぐために仕事を増やしたが・・)。

1982年8月7日横浜からバイカル号で9日ナホトカ入港。シベリア鉄道でイルクーツクへ列車泊4夜。ポスター発表の原稿は英文チェックも受けていなかったが、車中で英国人が読んで冠詞などの誤りを正してくれた。イルクーツクから飛行機でモスクワへ。8月17日~24日モスクワ大でIOC大会。日本人参加者は8 名(中村司・吉井正・正富宏之・藤巻裕蔵・森岡弘之・和田勝・横田義雄氏と私)だった。中日ツァーは、ユリカモメの足環を巡ってやりとりをしていた標識センターのツァーに参加した。大会後にエストニアへ行く私が申し込んでいたツァーはキャンセルとなっていたので、大会中に企画して、8月26日~9月2日にリガ(ラトビア)とレニングラードを訪問する一人旅をした。レニングラードでは大会中に知り合った研究者に案内していただいた。9月3日モスクワから飛行機でハバロフスクへ。シベリア鉄道でナホトカへ。やはりバイカル号で9月8日横浜へ入港した。

これらの経験は、自分のその後の人生にとっていろいろな意味で大きかった。共同発表もきっかけとなって、ヒシクイやマナヅルの渡り解明に向けての調査もすすんだ。また、極東の鳥類研究者が情報を共有する極東鳥類研究会を発足させることもできた(写真)。当時は、これからは4年毎にIOCに参加するぞと決意はしたが、それは全く実現せず、来年2014年に32年ぶりに参加することになった。

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1982年8月モスクワ大IOC会場で(前右が私)
極東鳥類研究会発足の相談後

 

受付日 2014.1.6


私が国際会議に出る理由

綿貫 豊
北海道大学水産科学研究院

年を取るといろんな発表をきいてきたせいか、あるいは感受性が鈍ったせいか、なかなか感動できる研究に出会えない。日本に比べ平均レベルが極めて高いとは思わないが、国際会議はそれでも目新しいアイデアによる研究にであうことがある。前回のブラジルのIOCでは、その一つは、化石のペンギンの研究をされており、翼での空中の飛行から水中の飛行への移行(多分逆ではない)の進化をやっているジュリア・クラークさんの話を聞けたことだ。目の変化も起こったらしいのは気がつかなかった。たまたま会場入り口でであって、道を挟んだ向かいの喫茶店で、東大大気海洋研の佐藤さんと3人でお話しした。ウェイターは忙しそうで結局注文も取りにきてくれなかったが、話すのが目的だったのであまり腹もたたず、パソコンの画面を見ながらじっくりはなせた。その彼女といっしょに、東京大会では、化石、形態、行動という普段あう機会のない方を集めた、水中と空中の飛行の進化についてのシンポを企画することができる。人との会話を通じてでしかよくわからない新しいアイデアに出会うこと、話すなかで新しいアイデアがつくられること、それが私が国際会議に出る理由の一つである。国際会議は参加費も交通費も馬鹿にならない。参加した方にはぜひとも元を、それ以上のものをとってほしい。外国の一流の研究者が彼らのお金で東京に集まってくれるのだ。この機会を逃す手はない。

受付日 2014.1.6


未体験を体験しよう

高須夫悟
奈良女子大学理学部

私が初めて国際鳥学会議 IOC に参加したのは1998年の南アフリカ大会です。博士前期課程から取り組んでいた托卵の数理モデリングに関する研究が順調に進み、是非とも鳥学関連で最大の会議に参加して世界の研究者に話を聞いてもらいたいと思ったのが表向きの参加理由です。

南アフリカ大会では托卵鳥のシンポジウムが企画されており、このシンポジウムで講演することで、カッコウ Cuculus canorus 【以外】の托卵鳥についての研究に直に触れることができました。南アフリカ大会への参加は、2002年の北京大会にて私が卵鳥に関するラウンドテーブルを企画する良いきっかけとなりました。

大規模な国際会議に参加する一番のメリットは、論文でしか知らなかった研究者と直に会って話ができることです。研究者も一人の人間です。ほぼ例外なく、それなりの苦労を払って研究を進めているのですが、まじめな研究の話はもちろんのこと、それ以外の話題についても話が弾み、私的な友人関係を築くことができる場合が往々にしてあります。こうして知り合った研究仲間は研究を進める上で非常にありがたく大切なものだと実感しています。

以上が南アフリカ大会に参加した表向きの理由ですが、裏向きの動機としては、地球の裏側ではないにせよ日本から遠く離れたこの国を私的に訪問することはないだろうなと考えたことが挙げられます。会議会場があるインド洋に面した街ダーバン Durbanからは車で少し走るといくつかの動物保護区があります。レンジャーの車から直に観察した野生の象、キリン、リカオンや、保護区内で泊まったロッジで見た満天の星空は今でも強い印象として心に残っています。

今年夏の東京大会にも世界中から鳥学研究者が集まることが期待されています。国際会議なので英語が意思疎通に必要となります。英語はちょっと、、、と尻込みされる方が多いのかもしれませんが、こういう機会に参加しないで悔やむよりも、参加してから悩む・苦労する方が人生楽しいですよ、と私は常々身近の学生に言っています。皆さんも是非、東京大会に【ちゃんと登録して】参加しましょう。そして普段日本では経験できない体験をしてみましょう。特に若い方にはこうした国際的な場に積極的に出ることを強くおすすめします。

受付日 2014.1.6


メジャーな国際学会がお得な理由

石田 健
東京大学大学院農学生命科学研究科

1990年12月に開催されたNZのクライストチャーチでの第20回大会は、建国200周年を祝って国家や国民の援助も手厚くとても盛大で、私にとって初参加の最初から度肝を抜かれ、とても楽しめました。この大会は特別だったとはいえ、歴史・規模・内容と三拍子揃って、国際鳥学会議はメジャーと言って過言ではないでしょう。昨年、マンデラ元大統領の葬儀は前代未聞の地球規模の追悼式典になりました。昔の鳥学ニュースにも書いたように、20回大会のオープニングセレモニーには大きなデモ隊が来ていました。南アからの参加者がいたので、人種差別に抗議するグループでした。鳥のIOCが、メジャーなことを実感させられ、また国際感覚にも目覚めさせられる一瞬でした。他にも、世界ではこんなことやこんな研究もあるのか、と、驚きの連続でした。そして、8年後、22回大会は南アのダーバンで開催されました。ある意味で、世界が変わっていることを実感でき、目の当たりにしたとも言えます。NZやウィーン、カンポス・ド・ジョルダンなど、それぞれの場所で一人旅をし地元の特別な自然と鳥や人々とのふれあいを満喫たり、海外の参加者と親しく話しができたことも、よい経験になっていますけれど、後から考えると、ちょっと大袈裟に言えば、IOCに積極的に参加すれば、案外、世界に触れることができるのでは、というようなことも思っています。今回は、東京で、安くて手軽にその機会があるので、ぜひ、みなさんもきてみてください。

 

受付日 2014.1.6


編集後記:今号は臨時号として、1月末のIOC早期登録締め切り(登録料が安くなります)に合わせて「私たちのIOC」というテーマで5本の記事をお届けしました。この記事をお読みの鳥学会会員の皆様、会員でいない方の皆様、東京大会に是非ご参加を!鳥学通信では随時記事を受け付けております。お気軽に記事をお寄せください。皆さんのご協力を期待しています(編集長)。

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鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行予定です。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。

鳥学通信 No.41臨時号 (2014年1月19日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 和田 岳(編集長)、高須夫悟(副編集長) 天野達也、東條一史、時田賢一、百瀬浩、三上 修

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