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野外調査のTips

連載




Field Tips


チェーンモードで長時間録画

赤谷加奈(大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻)

 鳥の生態行動、特に育雛行動の長時間録画は鳥類生態学の研究ではとても重要です。近年、デジタルビデオ(DV)の台頭で、大手メーカーの8mmアナログVCR (Hi8ビデオ)の生産は風前の灯火で、今後手に入り難くなりそうです。Hi8ビデオで180分テープを用いればLPモードで6時間の連続撮影が可能でした。180分テープは高価(120分テープの3倍以上の値段)なので、現実的には120分テープをLPモードで使用することが多くなります。DVはLPモードでも録画時間が1.5倍にしかならず、高価な80分テープでも2時間が限度です。そのような状況下で、キャノンFV30にはELPというモードがあり、80分テープで4時間の録画が可能です(鳥学通信編集員・立教大学の山口さんに教えてもらいました)。過去2シーズンはこの機械が活躍しました。しかし、残念ながらFV30はそのとき既に生産が終了し、後継機種にはこのELPモードは搭載されていません。そして、私が知る限り、現在はどこのメーカーもELPモードを採用していません。

 そんな折、便利な機器を見つけました。パナソニック製の機材です。パナソニックDVC30にはDVシンクロバックアップ機能といって、VCR本体(DVC30:http://panasonic.biz/sav/camera/ag-dvc30/ag-dvc30.html)のテープが終了後、バックアップ用のDV機器(パナソニックAG-DV1DC)の録画がスタートします。これを利用すれば本体の80分テープをLPモードで2時間録画でき、バックアップ機器でさらに2時間録画の計4時間、ビデオ機材に手を触れずに録画することが可能です。さらに、私たちの使用している機材は本体とバックアップ機材を約10m離すことが可能なので、バックアップ側だけのテープ交換で鳥の行動の撹乱を少なくし、さらに長時間の録画が可能です。その場合、カメラ側のバッテリー持続時間が重要になります。パナソニックバッテリーVW-VBD55は、この機種に付けることが可能な最も大きなハンディタイプのバッテリーで、おおよそ10時間継続使用が可能です。月刊ビデオサロン2004年5月号(玄光社)には、写真付きで私たちによる使用例が紹介されています。



受付日2006.2.28

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ダーウィン便り(4):旅先で知る人の情け

江口和洋(九大院理学研究院)

 私たちはオーストラリア北西部ダーウィンの近くで協同繁殖鳥類の調査研究を行っています。これは、そこで使っている車の話です。

 オーストラリアの白人社会はヨーロッパからの移民に始まりますが、過酷な環境で生き抜くために、助け合い精神(mateship:「マイトシップ」と呼ぶ)を育てました。このマイトシップに日常よく出会いますが、特に身にしみてありがたいのは、車のトラブルの時です。

 私たちは毎日車で1時間走って調査地へ行きます。ダーウィンから15分ほど走るともう町らしい町はなくなり、あとは20キロとか50キロごとにガソリンスタンドとそのまわりに家が数軒あるだけになります。

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調査地で立ち往生したハイラックス
撮影:永田尚志
 私たちの車は96年式のトヨタ・ハイラックストラック。こちらは中古車相場が高く、30年前のカローラなど平気で走っています。それに比べれば、96年式は新車同然(というほどはないが)です。それでも、調査地内の道無き道を走り回るので、外はべこべこ、内部もかなり怪しくなっています。その外見のせいか、調査のためにハイウェイの脇に車を止めていると、"Are you alright?"と言って、車がよく止まってくれます。実際、調査地でスタックしたときは中まで入って来て助け出してくれました。ガス欠に陥ったときも近くの(といっても15キロ先)ガソリンスタンドまで乗せてくれ、スタンドからは救助の車を出してくれました。

 23万キロを走った車を、3年以上もアウトバックと呼ばれる荒れ地で使っているといろいろとガタが来ます。ある日、調査地で突然クラッチが切れなくなりました。クラッチが切れないとギアチェンジができない、ニュートラルにできない、当然ながらブレーキを踏むとエンストする。さて、これから87キロどうやって帰るか?なぜか高い方のギアはクラッチがよく切れなくてもなんとか出し入れができる。そこで、信号があるときにはできるだけゆっくり走り信号が変わるのを待ち、やむを得ないときはエンストさせて止まり、それから無理矢理セコに入れてスタートする。これを繰り返して、青息吐息でメカニックへ。メカニックの兄ちゃん曰く、"No worry!"

 また,ある日、バッテリーとオイルのアラームランプが点灯した。何だろうとボンネットを開けると、ラジエターが煮えたぎっている。よく見るとファンベルトがない。ファンが回らず、発電機も回らず、オーバーヒートしています。さて、またどうやって帰ろうか?これは自分の手に余る。とにかく、ハイウェイまで出て助けてもらおうと、エンジンを冷やして、1キロ先の調査地出口まで出ました。これだけで、再びラジエターは煮えたぎりぐつぐつ言っています。ハイウェイではすぐに親切なオージーが止まってくれ、ボンネットを開けて病状を見てくれました。とにかくファンを回さないとすぐにオーバーヒートする。そこで、エアコンベルトをはずしてファンベルトの代用にしようとしました。しかし、車が古いので、ベルト調整用のナットの山がすり減り、普通のスパナでは滑ってどうにもならず、30分ほど格闘して、さも自分に責任があるように、力になれなかったことを詫び去って行きました。こちらの危機への備えが不足しているため、その後止まってくれた車もどうしようもありません。

 そこで、しかたなく、自力で87キロ先のダーウィンへ帰ることにしました。最初のオージーの指示に従い、ラジエターを水で冷やし、速度無制限の道をのろのろと走り(下り坂ではニュートラルで)、20キロ先のガソリンスタンドまで行きました。しかし,残念ながらここにはメカニックはなく、仕方なく水を補給してまたゆっくりと、バッテリーが切れるのではという不安に苛まれながらも、さらに20キロ先のスタンドまで走りました。最初のスタート時には1キロ走っただけですぐにオーバーヒートしていましたので、かなり先行きは暗かったのですが、意外と走ります。それでも、最終的にメカニックに駆け込んだときは、ラジエターに穴が空き水が噴き出していました。これでこの車も終わりかと思っていると、既に何度もお世話になって顔なじみになったメカニックの兄ちゃんが、"No worry! 明日には直る。"と、さも何事でもないように言ってくれるのでほっとしました。"No worry"という言葉をオージーはよく使います。"No problem!"にも、"You are welcome"の意味にも使います。この言葉には本当に勇気づけられます。

アウトバックで調査するときは:

1)水を忘れない(2リットルは必要:これは人用、それに車用も)
2)雨期には道をはずれない(粘土質なので簡単にタイヤが埋まる)
3)10リットルのジェリカンに予備のガソリンを準備しておく。その他,牽引用のロープ、予備のベルト、ナイフ、スコップ、鉄板、できれば大きめのジャッキ(小さいジャッキは疲れる)。
4)「結局なんとかなるさ」という楽天観というか能天気さを持つ。



受付日2005.11.24


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ダーウィン便り(5)

上田恵介(立教大学理学部)

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セアカオーストラリアムシクイ
撮影:永田尚志
 江口さんから引き継いでダーウィンで野外調査をしています。ハイガシラゴウシュウマルハシは12月で繁殖が終了し、今はセアカオーストラリムシクイ(Red-backed Fairy-wren)を調べています。セアカオーストラリアムシクイは12月に来たときは一部しか繁殖に入っていなかったのが、2月に来てみるとヒナ連れは見るものの、巣は見つからず、繁殖のピークは過ぎたかなと言った感じです。セアカオーストラリアムシクイの生息地はユーカリの疎林の林縁から草原にかかる環境です。乾期には水のなかった小川の跡をいまは水が流れています。調査地は今どこもイネ科の背の高いSpear grassが繁茂しています。この穂が5-10cmくらいで、槍のようにとがった種子を持っています。草むらを歩くと、茎がしなる反動でこの種子が投げ槍のように飛んできて、服に刺さります。足下は長靴を履いていても、短いと草露で中までぐっしょりになります。まあ、太陽が出ればすぐに乾きますが、乾期の調査とはまったく様相が違います。

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シマコキン
撮影:永田尚志
 鳥たちは相変わらずにぎやかで、夜明け間のアオバネワライカワセミの大合唱にはじまり、オニカッコウ、ハイガシラヒメカッコウ、キジバンケンの声があちこちに響いています。カノコスズメとタイワンセッカも12月に引き続き、相変わらず繁殖しています。シマコキンは群で飛び回っていて、よく網にかかります。調査の休みの日に、ダーウィンから250km離れたカカドウ国立公園へ行って来ました。2月のカカドウは一面緑で美しい季節です。いつもは眺めのよいUbirrの丘を訪ねるのですが、丘への道は途中のMazelaクリークが増水して、1m以上の深さで道をふさいでおり、Ubirrの丘には行けませんでした。水鳥で有名な大湿地帯のYellow Waterも増水して、ワニやカササギガンが群れる乾期の光景はありませんでしたが、クルーズのボートがCooindaの裏手のHome Billabongから出発して、白樺のようなペーパーバークの水没林を抜けていくコースがとても美しく、感動的でした。トサカレンカクがあちこちの水草の上で卵を抱いており、ヘビウもペーパーバークの低い枝に小さな巣をつくって♀が卵を抱いていました。



受付日2006.02.28


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 例年よりはやく開花した桜も、寒の戻りでなんとか入学式まで持ちました。この時期は、卒業・入学・転勤・異動で所属や住所が変更になった方も多いと思います。住所・所属の変更がありましたら、(株)国際文献印刷の日本鳥学会係まで忘れずに連絡してください。今回の鳥学通信は、大阪市立大学の赤谷さんからの調査のtipsと、2人の方からのダーウィン通信を増刊号として掲載しました。デジタルビデオが普及して画質はあがりましたが、長時間録画ができなくなって困っている方も多いと思います。テープ媒体のビデオは、今後はHD録画へと移っていく過渡期かもしれません。今後とも野外調査に役立つ最新のデジタル技術を取り上げていく予定にしています。(編集長)



 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。
 原稿・意見の投稿は、編集長の永田宛(mailto: ornis_lettersexcite.co.jp ※スパム対策のため@が画像になっています。) までメールでお願いします。







鳥学通信 No.5 (2006年4月5日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
Copyright (C) 2005-06 Ornithological Society of Japan

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