歳月はシマフクロウを待つか?

早矢仕 有子

 帯広から北へ車を走らせる.大雪(たいせつ)の山並みと十勝平野が,傾きかけた日差しに輝く.舗装道路から砂利道へ入り小さな橋をわたると,もうシマフクロウのテリトリーだ.行儀良く並ぶアカエゾマツの造林地を過ぎると,北海道ではあまり見かけない種類の針葉樹林が広がる.北米原産のストローブマツだ.大胆に間伐の手が入っているので川まで見通せそうだ.よく見ると,その列の間には一本一本白いネットで大切にくるまれ,稚樹がシカから守られている.ミズナラやカツラ,ヤナギなどの広葉樹を育てようとしているのだ.この生息地は,林野庁がシマフクロウの保護林に設定しており,こうして一部の造林地を本来の植生であった針広混交林へ変えていく試みが始まっている.
 シマフクロウは,高さと間隔が一定の単純一斉林へ大きな体で無理矢理入って行ことはしない.樹高も樹種も不均一な整理されていない森林で飛び回り,休息し,大木の樹洞で子育てをする.もしテリトリーの中の造林地がこのような針広混交林に復元できたら,面積は変わらなくても利用可能な場所が増えるから,実質的にはシマフクロウにとって利用可能な環境が拡大することになる.そしてこの転換が現生息地だけではなく,今ではもうシマフクロウが住めなくなってしまったような過去の生息地へと広く適用されれば,いずれは帯広や札幌の近くに再び姿を現す日が来るかもしれない.
 その上流は,針広混交林.大きなシナノキが目に入る.今ではもっぱら巣箱を使っているが,以前はこの木の洞でシマフクロウが子を育てていた.先ほどの稚樹たちがここまで無事に育ち,大きな木陰やさらには営巣場所を提供してくれるのはいつのことだろう.残念なのは,それをこの目で確かめることはできないということである.そもそも,その時まで,シマフクロウはこの森に住み続けているのだろうか.生息地の復元とは,まったく気の遠くなる作業だ.夢と想像力が受け継がれていかなければ達成はできないだろう.それでも,悲観はすまい.今の方向性は歓迎すべきことだから.
 10年前には,国有林がシマフクロウの保護に取り組むなんて想像もできなかった.今ではマツの枝打ち作業も,大きな音をたてるとシマフクロウが驚くだろうと,手作業でしてくれるような職員たちがいる.
 さて,林道を脇にそれると終点にはコイの池.人の気配に大きな水音をたて,餌を求めて魚影が集まる.固形飼料をまくと歓喜の波紋が幾重にも広がる.シマフクロウの保護事業として,環境庁が魚を池に放しフクロウへ提供しているのだ.事業が始まって,もう16年になる.
 池のまわりの草刈りをしているうちに夕暮れが近づいた.「ウォウォー」「ウー」,下流の森林から太く低いデュエットが響く.有り難いことに今日は悪質な写真マニアにじゃまされることもなさそうだ.どうしてあの人種は,ヒトにもフクロウにもあんなに無礼なのだろう.いやいや,そんなことを思い出して不愉快になるのはよそう.大きなシルエットが目の前のヤチダモにまっすぐ飛んできた.つがいのメス,続いてオス.そこに遅れてもう1羽.前年に生まれた子がまだ親につきまとっている.オスにしては親離れが遅い.「ベイビー」なんて名前にしたのがいけなかったか.他の子と同じように春には一度出ていったのに,例年になくさっさと帰って来た.まさかこの季節に餌が不足するわけがないのだけれど,でもカエルも年々減っているように思うし・・・と心配事には事欠かない.
 思えばこの十数年,餌の生息状況は何一つ改善できなかった.確かにここでは十分な餌を人為的に提供している.しかし,肝心の川は何もよくなっていない.この池から500m上流には水力発電用の小さなダムがあり,そこから下流の川は放水時以外は長靴を履かなくても渡れるほどだ.魚といえば,スナヤツメかドジョウくらい.林野庁は野生動物の移動経路として「緑の回廊」計画を策定しているらしい.私も折に触れ,河畔林の保全がシマフクロウの保護には欠かせないと主張してきた.しかし,河畔林は川が生きていてはじめて有効なものだ.現実の川は多くの工作物を抱え,水が流れず魚の往来も遮断されている.これでは川沿いに森林を残しコリドーを作ったとしても,少なくともシマフクロウにとってその有効性はいかほどのものか.シマフクロウの移動経路も大切だけれど,魚の移動経路の確保が先決かもしれない.十勝川上流に住む我がフクロウ家族は,海から遡ってきた魚を一度だって食べたことはないはずだ.
 今春,アメリカのフクロウ研究者が訪ねて来てくれた.シマフクロウの現状を話す私に,彼は「日本ではダムを壊してはいないのか」と尋ねた.私は「not yet」と答えた.今はまだ一例もないけれど,将来に可能性はあるのではないか,と希望を込めて.しかし実際には,壊すことはおろか,北海道では未だに国定公園内でさえ,「多目的ダム」という名の巨大な無目的ダムが堂々と建設されている.受益者の少ない不必要な新設をやめる,せめて既存ダムの水門を開け水を流す,といった措置さえ実現困難な現状である.
 夏の朝は早い.現状と未来を憂慮し続けた夜の後はなおのこと.親を追って池近くまで出てきていたこの春生まれの娘が,けたたましい声で餌をねだっている.あまり鳴かない雛だったので,「しずか」と名付けたが,ちょっと早まったかもしれない.親の声がだんだん塒の方へと遠ざかっていく.だいぶ遅れて不器用に枝の折れる音を響かせながら,子の声がついて行く.その声もキビタキやシジュウカラの賑やかな朝の声にかき消されていった.それにしても,7〜8年前までは夏の常連客だったアカショウビンやアオバズクはどうなってしまったのだろうか.
 時間の流れの中で,好転していることと,さらに悪化し続けていることのバランスがシマフクロウの未来を決定していく.人間はその変化になかなか敏感になれない.両方向へのわずかな兆候を見逃さない感覚を研ぎ澄ますことも研究者の大きな役割なのだろう.そして負け戦の不吉な予感には鈍感になり,前向きに根気強く対処していくことも.(帯広畜産大学・野生動物管理学研究室)


掲 示 板

書評の公募
 下記の書籍の書評依頼が来ています.鳥学会誌に書評を書いていただける方は事務局へ連絡して本を受け取ってください.先着順です.原稿は編集委員長まで送って下さい.原稿は最低1500字以上です.書評を書いていただいた方には対象になった本を差し上げます.
 ☆藤岡正博・中村和雄著.「鳥害の防ぎ方」家の光社,¥2520
 ☆川内 博・遠藤秀紀著 「カラスとネズミ」岩波書店,¥1900+税
原稿送付先:江口和洋 (kegucscb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp)

講演会のお知らせ
 James Karr博士の講演会を以下の日程で開きます.ご来聴を歓迎します.
演題 "Ecology of Tropical Forest: Birds Tangled in a Complex Web"
Karr 博士はMacArthur博士やDiamond博士と熱帯の鳥類群集を研究された,この道の第1人者です.現在はワシントン大学の教授をされています.世界のさまざまな熱帯雨林の鳥類群集の多様性の比較,生息場所選択,個体群動態についてお話していただきます.
 日時:2000年10月10日(火) 午後3時より午後5時まで
 場所:
京都大学理学部2号館
 問い合わせ:
京都大学大学院理学研究科動物学教室  山岸 哲
      Tel: 075-753-4076
      e-mail:yama@ci.zool.kyoto-u.ac.jp

シンポジウムのお知らせ
 タイトル:
「21世紀の自然科学における画像データべース」
 日時:
2000年10月14日(土)13時から17時
 場所:
国立科学博物館新宿分館・研修研究館・4階講堂

第23回極域生物シンポジウム
 日時:
平成12年12月7日(木)・8日(金)
 場所:
国立極地研究所 講堂
     〒173-8515 板橋区加賀1-9-10
 海氷域におけるペンギン研究(SIPENS)の他,極地で実施されている研究計画の成果を中心に,極地の生物に関する研究発表が行われます.
 問い合わせ先:
e-mail: iwao@nipr.ac.jp

Raptor Research Foundation 2000 Annual Meeting
 8-12 November, 2000, Jonesboro, Arkansas
 http://www.clt.astate.edu/jbednarz/rrf.htm

Waterbird Society 24th Annual Meeting
 
1-5 November, 2000, Plymouth, Massachusetts
 www.manomet.org

学術研究助成募集のお知らせ
 対象研究分野:
系統分類に関する研究
 研究助成額:
原則として1件当たり200万円以内
 助成期間:
2年以内
 申請資格:
原則として学術研究機関等に属している人,またはグループ.
 申請締め切り:
平成12年12月8日(金)必着
 申請書提出先:
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビル
        財団法人 昭和聖徳記念財団 学術研究助成係
        Tel: 03-3211-2451(代)Fax: 03-3211-7747

2000年鳥学会大会案内
 時期:9月15日(金)-17日(日)
 場所:北海道大学法学部(札幌)
 シンポジウム:森と鳥の生態学(江崎保男(オーガナイザー),江崎保男,日野輝明,村上正志(演者))
 問い合わせ:北海道大学農学部 綿貫豊(tel:011-706-3690, ywata@res.agr.hokudai.ac.jp)

  tel: 0471-82-1101


各種委員会より

日本産鳥類記録委員会とその活動

川路 則友

 昨年の1999年度大会(於東京大学)において,日本産鳥類記録委員会(以下,記録 委員会)の設置が承認されました.委員として,浦野栄一郎,梶田学,金井裕,川路則友(委員長),平岡考(副委員長),西海功,柳沢紀夫の7名が任命され,活動がスタートしています.ここで,委員会としての性格および活動方針についてご説明します.

 記録委員会は,鳥類目録第6版の刊行の大幅な遅れが,学会による鳥類記録の正確な情報収集(蓄積)不足にも大きく起因しているとの反省にたって,今後も定期的に鳥類目録を刊行する際に,少しでも多くの情報ソースを与えることを主目的に設置されました.したがって,これまでの学会の方針に従い,印刷公表された様々な文献による情報の収集を,もっとも大きな活動の1つと位置づけています.事実,これまで発表されてきた鳥類記録の正確な蓄積,普通種と言われる鳥についての国内における正確な生息分布状況についての情報すら非常に不足しているという現状があります.記録委員会は,それらをまず,鳥学会のデータベースとしてしっかり蓄積,保管することを目的とした委員会であるわけです.

 具体的には,これまでの新記録種,新分布地等の過去の記録にあたって,有効な既存文献,資料等を可能な限り収集し,データベースとして蓄積します.その際,その記録の次期目録への採否の決定については,後にあらたに組織化されるであろう次期目録編集委員会の検討を待つことにし,とりあえず,記録の出典を明らかにするとともに,その記録の妥当性や検証可能かどうかについての検討を行います.それには必要に応じて既存標本を検討することも含まれます.また,重要な生息分布,繁殖状況等に関する情報については,これから積極的に収集するものとし,その際には,各地域で適当な情報協力員を選び,地域に即した的確な判断,迅速な情報提供をお願いすることも検討しています.

 一方,鳥類の記録を取り扱う委員会が設置されたということで,野外観察の際の識別困難種や新記録候補種の写真等を受け付け,その同定を行ってくれるのではないかという認識を持たれる方も多いかも知れませんが,当委員会は今のところそのような活動は予定していないことを強調したいと思います.確かに,野鳥観察人口の増加や野外識別能力の向上に伴い,新記録候補種は増加すると予想され,その識別の重要性は十分認識されています.しかし,同定作業を行うだけでは利用可能な文献とはならず,将来行われる検証作業に支障を来すことにもなります.したがって,そのような記録は,原則的に的確な記述とともに学会誌等に投稿された時点で,その分野に精通した最適のレフリーにより判断されることが最も望ましい形であることをご理解いただきたいと思います.対象種によっては,記録委員が個人的にレフリーとして係わるケースが出てくることは十分予想されますが,現時点では委員会が,文献として公表されていない記録の識別部分にまで介入することは考えていません.

 委員会では,まず,これまで記録のかなり少ない種(いわゆる珍鳥,仮に記録僅少種とします)について,利用可能な範囲の文献を徹底的にあたって,情報を収集しています.普通種に関しては,目録第6版の分布に関する記述に追加するべき情報を収集するために,各地域の鳥類目録などの文献収集・整理にとりかかっています.このような記録収集の結果については,その都度学会誌,ホームページ等に公表することを考えています.その公表後,さらに会員からの新たな情報提供を求め,それらを追加することによって,より正確なデータベースとして,次期目録への提供を目指しています.そのためには,やはりそれぞれの貴重な記録が公表されていることが前提となることは言うまでもありません.幸い,編集委員会では学会誌の中に「観察報告」を新設して投稿を受け付けています.これは,日本での記録が少ない種の観察記録や国内での新分布地や新繁殖地などに関する観察記録を一定のフォーマットに従って箇条書きに記述することで,多くの記録が学会誌に掲載され,有効な記録として利用されるようになることを目的としています(詳しくは,学会誌48(4):333-334[観察記録のフォーマットについて]を参照して下さい).前述のように記録委員会では,可能な限りの文献収集を行うつもりですので,会員の皆さんには貴重な記録が埋もれることのないように,積極的な公表をお願いしたいと思います.

 今後,このような活動を進めるに当たり,会員のみなさんには,今後情報提供等のご協力をお願いする機会が増大することと思いますので,よろしくお願いします.


地域活動紹介

東京港野鳥公園

林 英子   

 東京港野鳥公園は,羽田空港に近い,大井埠頭の一角にある都立の海上公園です.元は工場や市場の建設用に埋立てられた土地でしたが,雨水がたまり,草が茂って湿地のようになり,自然に野鳥が集まるようになりました.この甦った自然を残そうと,自然観察グループなど地元市民を中心に保護運動が始まり,その結果,東京都は1978年に「大井第七埠頭公園」として3.2haを開設しました.その後,1989年に26.6haに拡大開園され,今年で11年目を迎えます.今でこそ,市民参加による公園作りは盛んですが,当時はかなり先駆的な事例として評価されましたし,拡大時の工事費が30億円だったことは,規模の面でも前例のないことでした.
 野鳥公園は,東京湾奥部の自然環境を復元・保全し,かつ人々が自然に親しめる場であることが基本理念となっています.園内には,生態系のつながりを考慮して,樹林地,淡水池,湿地,汽水池,干潟,砂礫地,水田などが配置されています.埋立地であるため川がなく,水源が雨水のみであること,各環境の面積が狭く箱庭的であること,周辺環境の悪さなど,問題点は多々ありますが,大都会で一度に多様な環境を見ることができる「お得な」公園と言えなくもありません.また,観察される鳥類もシギ・チドリ類,カモ類といった水鳥から,森林性,草原性の小鳥類まで多様です.1日に観察される鳥は,30〜50種,年間では110種前後,拡大開園以来,記録された鳥は193種におよび,その中にはレンカク,コグンカンドリ,コキアシシギなどの珍鳥もいます.
 (財)日本野鳥の会は,東京都から委託を受け,レンジャーを派遣しています.レンジャーの活動は多岐にわたり,日常的な一般来園者への対応(自然解説など),イベント・講座などの企画運営,展示物やセルフガイドといった発行物の作成,ボランティア対応などを行っています.その他,特に野鳥公園で重点的に行われている活動として,環境管理と環境調査があります.環境管理は,人工的に復元された環境を維持するために欠かせないものです.例えば,泥湿地はシギ・チドリ類やその他水鳥類の採食・休息環境として維持するために,トラクタ−で定期的に耕転したり,刈り取りなどを行って草本の繁茂を抑えています.砂礫地では,コチドリやコアジサシの繁殖場所として維持するために,耕転,刈り取り,場所によっては塩を散布するなどして,草本の繁茂を抑えています.河川の氾濫などによる撹乱がないため,放置するとほとんどの環境が草で覆われてしまうからです.そういうわけで植物が最も成長する5月から7月にかけては,まさにレンジャーと植物の戦いになります.
 また,環境調査は,生物や復元された自然環境の変化を把握するため,鳥類をはじめ,植物,昆虫,魚類,底生動物,水質などについてモニタリング調査を中心に行っています.蓄積されたデータを用いて自然解説に活用したり,渡り鳥の渡来時期やシギ・チドリ類の個体数が最大になる時期,時間帯などを予測して来園者に情報提供したり,他施設,研究機関の要望に応じた情報提供を行ったりしています.また,環境管理によって,鳥類の利用や植生がどう変化するかを調べ,適切な環境管理に役立てようとしています.その他,シギ・チドリ類の保全のためのネットワーク活動にも力を入れ始めています(注).
 個人的には業務量が多く,なかなか突っ込んだ調査研究ができないのが辛いところですが,その代わりに最近は野鳥公園で研究してくれる学生を「誘致」することが多く,目下昆虫相,トビハゼ,干潟の浄化機能を調べる学生がいます.(卒論生を抱えている教官の方はご一報下さい!)百聞は一見に如かず,関東にお住まいの方はもとより,遠方の方も東京へ来た時は羽田空港の近所ですので,是非,お立ち寄り下さい.(日本野鳥の会・サンクチュアリセンター)

東京都立東京港野鳥公園
 〒143-0001東京都大田区東海3-1,
 tel:03-3799-5031
 fax:03-3799-5032
 ホームページ:http://www.tptc.or.jp/yacho.htm
        または
        http://www.kt.rim.or.jp/~wbsjsanc/index.html#sanc

(注)2000年6月25日,東京港野鳥公園は「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」の参加湿地に認定されました.


自由集会報告

「猛禽類保護の進め方」の進め方

飯田 知彦,竹中 健  

 近年,猛禽類の保護と人間の開発活動との軋轢問題が全国的にクローズアップされている.1997年に「猛禽類保護の進め方」(環境庁編)が発行され,環境アセスメント法が成立したことによって,その実施や評価に関して専門知識を有する研究者の参加が今まで以上に重要視されている.それを反映して鳥学会大会におけるアセスメント関連の発表も年々増加してきている.
 過去の環境アセスメントは生態系を無視した報告書が提出されることが多かったことから,専門家を取り込むことで良好なアセスメントが行われることが期待された.ところが保護の観点からは,最近のアセスメントを見ても状況は大きくは変わっていない.恣意的な調査や信頼度の低い調査が相変わらず蔓延しているため,調査結果や影響評価について,事業者対専門家の対立に加えて専門家間で意見の相違する事例が増えており,その対立が時には誹謗中傷にまで発展することもある.その第一の原因は,研究の立ち遅れにより科学的な評価基準や調査法をはっきり示すことが出来ないことにある.第二の原因は専門家=研究者(科学者)であるという社会や自らの誤解にある.
 研究者が調査者や審議員の立場でアセスメントに参加する場合には,専門技術者という立場に加えて,科学的に調査の計画・データ採取・分析・考察の一連の作業を実施,もしくは指示しなければならないはずであるが,残念なことに必ずしも実行されていない.研究者は研究の質を上げるのはもちろんであるが,さらに科学的思考を持つ専門家としてアセスメントの質を高くすることに努力しなければ,評価の信頼性のみならず社会における研究者の役割の重要性をも失墜させてしまう.
 このような背景から,我々研究者が希少猛禽類の保護と各種開発計画に関わる様々な問題にどのように参加するか論議する必要性を感じ,九州大会と東京大会の自由集会を利用して,学会参加者に加え環境庁や地方自治体等の行政関係者,自然保護団体,環境アセスメント業関係者等が集まり,主催者が日頃の研究と保護活動の中で行きあたった事例を具体的に説明しながら議論を行ってきた.当初は現在の調査手法の問題点などを指摘しながら,保護のためにはいかにして科学的なデータを得るか,を中心とした生態解明と調査手法に関する話題が多かった.しかし議論を重ねるにつれて,調査手法はあくまで手法であり,得られた科学的なデータを生かしながらいかにして保護を進めるべきであるか,保護のためには社会とどう関わるべきか,という話題に重点が移ってきた.つまり,(決して充分と言えないが)生態解明だけを行っていても保護は進まないのではないか,その先に向けて研究者はどう関わるか,との議論に取りかかり始めたのである.
 アセスメント法のような保護手法が導入されても保護が進まないのは,現在の保護が「保護を進めるための流れ」に乗っていないからである.すなわち現状の保護手法では「行政とそれに助言する一部研究者(委員など)」や「開発地域住民」のような,一部の組織の判断や利害で行われる「点」のレベルにしか対応できないないからであり,インターネットの急激な普及に比例して起こった,開発計画に対して日本はもちろん世界中から地域以外の研究者や市民の意見が集まり,開発の可否はもちろん手法まで活発に論議される「面的で時間差のない」状況に実質的に対応できていないからである.希少猛禽類を含む自然全体が人類共有の財産ととらえる成熟した社会では,社会全体がその開発・保護問題を最終的にどう解決するかについて意見を述べ,論議し判断するのであり,その流れは行政が主権者である多数市民の意志判断に従うことで証明される.そのような手続きの前には,特定地域の要望やアセスメントの結果,研究者の助言などは単なる議論や判断の材料でしかなくなるが,それがひいては研究者の独立性と重要性を保障することにもなる.
 このような社会の「合意形成」のためには,我々は早急に効果的なシステムを導入する必要があるが,それと共に何よりもまず頭の切り替えが必要であろう.そして合意形成のために必要な情報や考え方を,社会に提供する最も重要な役割を担うのが研究者である.これからの研究者はフィールドや研究室に閉じこもり研究するだけではなく,社会性をもち,積極的に社会に呼びかけていく事も社会における自分たちの役割であると自覚する必要があろう.自然と人間の共存が社会の要望ならば,それに応えなければもはや専門家や学識経験者とはいえないのではないだろうか.
 猛禽類の保護にむけた社会との合意形成に関する議論はまだ端緒についたばかりであるが,今後も引き続き自由集会などの場を用いて議論を続け、新たなシステムづくりを進めたいと思う.読者諸氏の議論参加を大いに期待したい.(広島クマタカ生態研究会,シマフクロウ環境研究会)


お知らせ

事務局より

○現在までに次の方より寄付をいただきました.紙面を借りてお礼申し上げます.ありがとうございました.江口和洋(敬称略)

○金 相旭,村山 諭(敬称略).以上の方々の住所が不明です.事務局までお知らせ下さい.

○事務局員がこれまでの吉村真理子から早矢仕有子(はやしゆうこ)に交代しました.よろしくお願いします.事務局へのお問い合わせ,ご連絡はなるべく以下のe-mailアドレスまでお願いします.Faxあるいは携帯電話の方は以下の番号におかけください.
 e-mail: s04213@st.obihiro.ac.jp
 Fax: 0155-49-5504

編集担当より

 投稿記事を募集しています.掲示板では200字程度,報告は1400字程度(1ページ分),意見は1800字程度(1ページ半)をおおまかな目安としていただければ助かります.特別な事情依頼記事については事前に字数を制限してお願いしています.
 寄稿は以下の送付先までお願いします.なおe-mailでの寄稿の際はテキスト形式でメールボックスに入れてお送りください.
 【送付先】〒060-0808 札幌市北区来9条南9丁目
      北海道大学農学部応用動物学研究室 綿貫豊
      e-mail: ywata@res.agr.hokudai.ac.jp
 次の締め切りは9月30日です.(綿貫)