カワウを通じて野生動物と人の共存の道を探る(その2)
〜「鳥害問題の対応の方向性を探る」〜
代表者氏名:成末雅恵    

●はじめに
成末雅恵(日本野鳥の会研究センター)

 近年、急速なカワウの分布拡大にともない、ねぐらや営巣地などでの樹木被害や採食地での食害が、大きな社会問題となってきている。カワウの生息状況の実態や生息地拡大の要因、食害の評価などが不十分なままに、各地でカワウの有害鳥獣駆除が実施されはじめている。その一方で、鳥獣保護法などの改正で、カワウは有害鳥獣駆除の許可権限が、環境庁長官権限から各都道府県知事へすでに委譲されている。カワウに対する問題解決において、カワウの行動圏を含めた広域的な対応が必要に思われるが、そのような議論も広域的な調査もおこなわれずに、各地で個別に対応し、その結果被害が拡大している可能性がある。そこで、今回は二人の若手カワウ研究者から前回の集会を踏まえ、地域的なカワウの現状と被害の実態や課題についてまとめを行なった上で、これらのカワウ被害の現状とこれに対応する行政の対策をまとめてみたい。そして、その一つの事例として、関東地方の栃木県のカワウについて、栃木県自然環境課の辻岡幹夫氏より、カワウの保護を含めた管理の方向性を提示していただき、われわれ研究者が果たすべき役割や行政の課題など、一緒に考えてみたい。

●関東・東海・関西におけるカワウの生息状況および全国的にみた森林被害とそ
の対応
石田 朗(愛知県林業センター)

@関東・東海・関西におけるカワウの生息状況、被害問題、および今後の課題昨年の自由集会での講演の概略として、関東・東海・関西の3つの地域でのカワウの個体数や分布の変遷、被害問題の状況を述べる。また、問題への対応として主に行われてきた有害駆除の効果を、3地域間で比較することにより評価したうえで、問題解決へ向けての今後の課題を整理する。
Aカワウの生息地における樹木の衰弱・枯死とその対応
遊魚や養殖魚等を捕食することにより生じる食害が、ヨーロッパや北アメリカなどカワウやその近縁種が生息する多くの地域で問題となっているのに対し、生息地における樹木の衰弱・枯死が問題として扱われる例は海外ではほとんどない。ところが、我が国では、江戸時代に知多半島で林が荒れることを嫌った地主が篝火などを用いて追いだしたという記載もあり、その歴史はかなり古いようである(鵜海 1975)。その一方で、1950年代までは、青森、千葉、愛知などでは営巣地を保護し、採糞(肥料として販売)や観光の目玉にするなど地元の経済に組み込んだ利用を行っていた(佐藤 1989)。なかでも知多半島の鵜の山では、営巣の許容(採糞)、追いだし(伐採)、営巣環境の回復(植林)というローテーションを組んで50年以上コロニーを管理した実績がある。一度は減少していたカワウが増加してきた1980年代以降、新たに形成された営巣地で再び問題が生じてきている。都市公園での樹林の荒廃、景勝地での景観の破壊、貴重な植生の破壊、有用林木資源の経済的価値の低下、森林の公益的機能の低下(飛砂防止、土砂流出防止等)などがその理由である(石田 1993)。問題に対する行政や管理者の対応は、大きく分けて、@追いだし、A植生や営巣場所の管理、B放置、に類別できる。これらの対応は、そのやり方次第では、目的を果たすこともあれば、かえって問題を大きくすることもある。そこで、今回の発表では、繁殖地やねぐらで樹木の衰弱・枯死が問題となっている場所での対応について、その効果と問題点を整理する。とくに、いくつかのケースについては、データにもとづいた対応の評価を試みたい。

●全国的に見たカワウの食害と対応
松沢友紀(東京大学野生動物学研究室)

 日本国内でのいわゆるカワウ問題を大別すると、樹木の衰弱・枯死(またそれに伴う景悪化などの)問題と水産資源を捕食することによって生ずる食害問題に分けられるだろう。前者の被害が局所的・直接的に起こる被害であるのに対して、後者は被害が発生する地域が広域であることに加え、食害がカワウによってもたらされたものであるか否か、被害の大きさはどれほどかといった被害評価が難しい。本講演では、このような食害問題を解決するための糸口を探すために、食害問題の状況把握を行ないたい。
 まず水産被害が発生する地域をカワウの個体数やコロニー数と比較し、被害の対象となる魚種や漁業種、発生時期についてまとめて紹介する。カワウは北海道から沖縄までほぼ全国で生息が確認されており、ねぐらや繁殖地が各地に形成されxつつある。カワウの分布と食害による漁業者の苦情のある場所はほぼ一致しているが、その地域に生息している個体数と報告される被害の程度は必ずしも相関していない。被害の多くは内水面漁業、特に遊漁業に集中している。また、その魚種はアユ、コイ、フナなどが多く、冬から春にかけて被食が大きくなると言われている。
 次に、カワウの食害問題に対して、国や地方自治体がどの様に対応しているかを紹介する。現在、カワウの分布や個体数を全国的に把握し管理を行っている行政機関はなく、食害問題が起こった際には都道府県が対応している。積極的に保護の立場にある場合や駆除を押し進めている場合など、その対応にはばらつきが目立つ。また、現行の法令では有害鳥獣駆除の権限は都道府県知事にあるが、有害鳥獣駆除や管理計画を行うことは専門的な知識や技術が必要であると考えられるが、そのようなスタッフがいない場合も多い。ここではこうした状況を踏まえ、カワウ問題への対応がどのように行われているかを整理する。

●カワウの管理の方向性をさぐる
辻岡幹夫(栃木県林務部自然環境課)

1 栃木県におけるカワウの生息の変遷
@ 昭和50年代までは、ほとんど観察されない種であった。昭和56年刊の栃木
県産鳥類目録(日本野鳥の会栃木県支部)によると、「迷鳥。県内での確実な記録
は1例のみ。」と記載。
A 昭和62年に、渡良瀬遊水池に谷中湖(450ha)が完成。数百羽が飛来
B 平成2年以降、数百羽の単位で、鬼怒川など大河川に11月から3月の季節に
飛来するようになる。
C 平成6年以降、漁業被害が問題になる。
D 平成9年、県内に「ねぐら」(冬期間)形成。
E 平成11年、生息域が那珂川まで拡大。「ねぐら」が通年化。
2 カワウの生息域拡大をどう評価するか
@ 内陸部への急激な生息域拡大は異常。
A 内水面漁業の被害は、量の把握は困難であるが、カワウが魚類を採食しているのは確実。
B 生態系への影響は不明。
3 問題にどう対処するのか
@ 内水面漁業に影響があるのであれば、対症療法としての駆除の許可は出さざるを得ない。ただし、モニタリング調査が必要。
A 根本的には、漁業と(あるいは生態系の保全も含めて)折り合いがつくレベルでの個体数の管理が必要。 
4 カワウの管理に必要なもの
@ 管理主体の明確化と管理体制(特にモニタリング調査)の整備。
A 保護管理計画
B 情報公開と合意形成