海鳥モニタリング体制の確立をめざしてII

         日本ウミスズメ類研究会
(綿貫 豊、小野宏治、武石全慈、中村 豊、樋口行雄、福田佳弘)

         事務局:〒078-4116
             北海道苫前郡羽幌町北6条1丁目
             北海道海鳥センター内
             Tel. 01646-9-2080 Fax. 01646-9-2090
             E-Mail: kojiono@gol.com

 海鳥の個体数変動とその生態は、自然および人為的な海洋環境の変化の影響を強く受けている。したがって、その研究は、1)人間が食料として利用している海洋生物資源を支える海洋生態系についてよりよく理解する、2)広域を動き回る高次消費者である彼らを海洋環境の総合的モニターとして利用する、3)人為的な撹乱におびやかされている海鳥類の保全のための基礎的資料を得る、ことにつながる。
 欧米諸国では、海鳥のセンサスは国の仕事として行われるところが多く、また、海鳥の研究が上記のような理由等から広く行われている。
 一方、日本では世界で見られる海鳥300種のうち、これまでにおよそ100種の海鳥が確認され、そのうち40種あまりが繁殖しており、いわば海鳥の一大国である。しかしながら、どこでどんな海鳥が繁殖しているのかも明らかではなく、国内での海鳥モニタリング・センサス体制の確立が急務であった。
 我々は昨年度も同様の自由集会を開き、ワークショップ形式で国内での海鳥モニタリング体制の確立に対する問題点について意見交換した。集会後も、郵送によるアンケートやインターネットにより、広く意見を収集し、問題点ごとに解決のための計画案(この要旨集に掲載)を作成した。この計画案では、おおまかな方向性を示すことはできたが、「いつ、誰が、どこで...」という具体的な内容に欠けている。
 そこで、今年度の集会では計画案に沿って議論し、より具体的な実行計画について、たたき台(インターネットにて9月初旬に配布予定、
http://www.ne.jp/asahi/marine/j-seabird/)を示しながら話を進めていきたい。

『海鳥モニタリング体制の確立をめざして』計画案
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調査地について
とりまとめ責任者: John Fries
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 どの調査地にしろ、資金、人材、時間の問題がついてまわる。それが情報の少ないアクセスの悪い調査地であればあるほど、調査の必要性も増し、上記の問題も大きくなる。加えて危険管理の問題も生じる。
 現時点で把握している部分を明確にし、長期的な調査計画をたてる。資金さえあれば時間と人材の確保がつくというのが、多くの会員の本音であるため、資金調達法を考えながら、調査地と調査内容項目に(海鳥相把握のための)優先順位を決定し、調査地を絞り込む。地元や国(水産庁、環境庁、海上自衛隊)、自治体、各種国内外研究機関や多国間条約を利用、物理的な援助(施設利用、情報共有、人材利用)を求める。
 アクセスの悪い調査地については、航空写真、人口衛星画像の利用、気象データの活用、泊まり込みのできる施設の開設をめざす。調査中の保障、保険など危険管理については、資金調達とその場所をよく知る人の協力を得る。

 野鳥の会など、会員に誘えそうな機関にはたらきかけるなどして、会員を増やし、実質的な資金をふやす。助成金獲得や、国や自治体への資金援助を頼むために、
報告書を提出するなど研究会をアピールすると共に調査体制を確保する。具体的な一歩として、現時点で把握している部分を明確にし、調査地リストを作成、インベントリーにアクセス法(経費含む)も加える。調査地と調査項目の優先順位を決め、担当者(事務局、研究者、地元協力者、一般など)の振り分けをおこなう。

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資金について
とりまとめ責任者: 綿貫 豊
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 何もないところに資金がないのはどんな事業研究でも当然であり、予算がないのは明らかな事実で、今さら言っても仕方がない。様々な方法で、我々が調達する以外道はない。調達方法、その運営、および継続性は以下のとおりである。

 助成金(受託調査も含む)を確保する。その場合、国、地方自治体、民間企業へ申請あるいは働きかけることが可能である。国ならば、環境庁の国勢調査に盛り込んでもらう、水産庁にお金を出してもらう、文部省に研究助成を申請する、漁協から資源調査費として出してもらう、自治体に予算を組んでもらうなどであるが、場合によっては、政治家にお願いして調査の必要性を認識してもらい、獲得するようにすればよいだろう。民間企業の場合は、ただ助成金を申請するのでなく、キャンペーンやCMに海鳥あるいは海をからめてもらうように働きかける、海鳥や鯨ウオッ
チングのツアーとタイアップ、なども考えられる。これらの資金や寄付をもとに基金を作るのも一つの考えであろう。アースウォッチの調査ボランティアみたいに、参加者がお金を払って調査に参加するシステムをつくるという手もある。

 短期的目標とおもわれる海鳥繁殖地インベントリー作成のために必要なお金にだけなら、やる気のある組織と計画さえあれば少なくとも連絡費と印刷費程度は取ってこられると思う。交通費だけ出る方向で検討することも可能である。長期的目標である継続調査は、インベントリーの存在そのものが、資金調達のの素材となるでしょう。継続して実施するためには国や地方行政から継続事業として受託する必要がある。各種助成金は短期間で終わる調査には向いているが、長期的なモニタリングを保証するものではない。ただし、緊急を要する場合の情報の公開や研究活動を妨げないことは条件としておいたほうがよい。どこかの海域で重油事故などが発生した場合、報告書がでるまで情報を出せないのであれば本末転倒である。場合によってはボランティア体制で望むことも念頭におく必要がある。資金調達は専任者がいた方が効果的で、担当者の生活を補償するくらいのことは考えたほうがよい。

 いずれにせよ、調査の必要性、調査の実施、その結果をアピールし、更に来年の計画をPRする必要がある。お金をもらうためには、データを公表して何かの役に立てることが必要である。企業、省庁だけでなく、一般の人からも予算を集めるなら、“お金を払ってもよい”と彼らに思わせるようにアピールしなければならない。特に、地域住民の理解が不可欠であり、啓蒙も含めて、地元の人たちへの知識の還元をおこなう。世論を高めるため、良い意味でのマスコミ受けを狙うことも大事である。

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プランニングについて
とりまとめ責任者: 福田佳弘
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問題点
 目的がはっきりしていなく基本方針がない、特定の少数の人が行っており、どこで誰がやっているのか解らない。海鳥を巡る問題について検討が必要である。

プラン
 今、現在の段階では国や公共機関が永続的に調査を行うということは難しい(水産庁では混獲については行っている)。しかし、海鳥を巡る状況は厳しく絶滅が危惧される種や情報の乏しい種が存在している。ただ海鳥を保護するというだけでなく、沿岸の自然環境の把握と保全という自然保護につながるような活動が望ましい。また、海鳥の重要性について接得力のある理論武装も必要である。そこで、日本ウミスズメ類研究会が基本方針を作成し主催者となり活動する。当面の目標としては、情報の整理とデータの整理が必要である。何処で誰がどのような調査を行いどのようなデータを持っているのか整理し、重点調査地区の選別や絶滅危惧種や情報不足種の中から重要種の選別を行い調査する。その結果を持って国や行政機関に訴えて行く。海鳥調査者の育成と調査結果の充実を図るためにマニュアル作成や研修会の開催も行う。

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人材について
とりまとめ責任者: 長 雄一
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 海鳥モニタリングを継続的に行う上で調査員の確保が必要である。
 そのためには、調査可能な人材を計画的に集めるか、養成する必要がある。さらには、モニタリング結果を踏まえ将来的な調査保護活動を主導する人材が必要となる。
 まずは、大学、山階鳥類研究所、野鳥の会、日本鳥類保護連盟、WWFJと協力関係を構築すべく連絡を取り合い、海鳥類調査が可能な人材の発掘、前述機関との共同講習会を企画する。かつ、調査方法をなるべく簡略化し、誰にでも調査可能な詳しいモニタリングマニュアルを作成する。まずは調査目的の明確化(これがないと調査の必要性及び継続性が著しく低下する)及びしっかりとした調査体制の構築を最優先し(手弁当でも可能なセンサス中心から始める)、人的体制が強固となってから調査項目の拡充を検討する。

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マニュアルについて
とりまとめ責任者: 長 雄一
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 海鳥モニタリングを行う上で、各地域で調査方法に差があると、結果の比較が困難になる。また、不特定多数が参加する場合にはマニュアルは不可欠である。
 そのため、マニュアルを作成することが先決であるが、すべての調査項目を決定するのではなく、最低限必要な調査項目を記載し、広く公開すべきである。調査マニュアルの基礎としては北海道大学の綿貫氏の天売島モニタリングマニュアルを基本とするが、最初から繁殖地の立ち入りを前提とした調査は、海鳥繁殖保護(繁殖地への立ち入りには、必ず攪乱を伴うことを忘れてはいけない)や費用の面で不可能であることから、繁殖地の位置の特定あるいは飛来数(繁殖数ではない)の観察に留めるのが順当であろう。ただし、地域ごとに実情をふまえて地域版サブマニュアルを作成する。

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普及について
とりまとめ責任者: 長 雄一
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 海鳥類は陸鳥に較べ、その現状が一般の人々に知られていない。このため、人材あるいは資金を集めるために普及活動が重要となる。
 普及活動に有効な手段としてはフォーラムの開催、マスコミへの情報提供が考えられる。フォーラムに関しては、海鳥モニタリングに関わる人間の交流ともなり、モニタリング結果の積極的提示によりNGO主導での問題提起の場として期待できる。
 まずは、広範囲で調査結果を収集し、海鳥類へ関わる問題を整理して提起することが、行政から予算をとって行く場合に不可欠である。このため、普及活動を通じて世論形成を促進するのはもちろんであるが、それに加え各行政機関との信頼関係を構築して行くのが理想と考える。

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データについて
とりまとめ責任者: 林 英子
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【問題点】
 データについては、「何のために」「どのような」データが必要なのかあまり明確には示されていない。(データの目的)
 広く情報提供・データ収集を呼びかけるにしても、データの質にばらつきが出てしまう。(データの質)
 そして、得られたデータの公開にあたっては、どこまでどんなデータを公開するのかのガイドラインがなく、提供する側にも不安がある。(データの公開)
 
【長期的方向付け】
 一般から集める基本的な、統一したデータの収集システムと、モデル地域を決めてモニタリングするシステム(マニュアル作成も含まれる)ができるようにする。

【短期目標】
1999年度〜2000年度
〜日本における海鳥の生息状況のレビューおよび問題点の把握と問題解決に向けて〜
 何のためにどのようなデータが必要なのかを明確にした上で、どのようなデータがあるのか、情報収集する。情報収集の対象はこの段階では公開されているもの(論文や行政の報告書など)、前提条件に合意してくれるメンバーなどから集めたものなどが考えられる。そして前提条件に対してどのような問題点があるかを明らかにし、それを誰がみてもわかるように報告書としてまとめ、発表する(できるか?)。ただし、発表する内容や、対象(一般公開か否か)はこれから検討を要する。