2007年度日本鳥学会奨学賞選考報告

 本年度の奨学賞には1名の推薦(他薦)があったが,奨学賞選考小委員会の意見に基づき基金運営委員会で慎重に審議した結果,賞を授与しないことに決定した.

理由:推薦根拠論文はいずれもある種の鳥の生態に関するもので,長期にわたる観察に基づくものである.しかし,観察事実の記述にとどまっており,報じた事実の意義を既存の研究の中で位置づけて考察することには至っておらず,その点で学問的意義には弱さがある.また,これらの論文を一連の研究としてみても各論文の結びつきは弱く,対象種の生態の研究を一歩進めるだけの研究には未だ至っていない.過去の受賞者の推薦根拠論文は発見した事実の重要性も高く,その意義を説明するだけの考察が含まれており,それらと比較して今回の論文は奨学賞に値するだけの「優れた鳥学の論文」であると評価することはできなかった.

 選考対象者は長年の調査データから,今後さらに論文を発表する可能性が考えられる.しかし,そのことによって,研究活動の発展への期待が大きいとして受賞候補者とすることは避けた.それは,本来奨学賞は研究計画や論文化の予定ではなく,すでに発表された論文を根拠として,以後の調査対象種や研究テーマによらず授与されるものと考えるからである.選考対象者がこの種の生態調査の全体像を表す論文を発表した時にこそ,それが奨学賞に値する優れた論文となる可能性があり,奨学賞を授与することもできると考えられる.

(基金運営委員会)