新時代を迎える日本鳥学会

樋口 広芳

 ここ数年、日本鳥学会の大会参加者数は急激に増加し、400人、 500人にまでなることもある。たいへんな数である。学会の会員数はこの間、1000〜1200人ほどであるから、会員外の参加も考慮して少なく見積もっても、約3人に1人が出席していることになる。この割合もたいへんなものである。鳥類研究や鳥学会に対する関心が高くなっていることが、如実に現れているといえる。

 活動が活発になっていることは、大会の発表の場にも現れている。口頭発表やポスター発表、自由集会の件数の増加、質疑応答に見られる熱意と緊張感、そして懇親会場での異常なまでの(!?)熱気などが、10年前、20年前と大きく違ってきているのである。

 鳥類の研究が活発になってきている背景には、いくつかの理由というか流れがある。一つは、大学や研究機関での研究がさかんになってきていることである。大学や研究機関に所属する機関研究者の数は、欧米、あるいは日本の関連他分野と比べればまだまだ少ないとはいえ、確実に増加してきている。こうした増加傾向は、それを必要とする社会や科学界の動きと連動している。細かいことをのべる余裕はないが、鳥類を研究することが基礎科学の上からも応用面からも求められてきているのだ。私の見るかぎり、機関研究者はたいへんな努力をして、すばらしい成果をあげている。とくに生態、行動、生理、保全関係などでは、世界的なレヴェルでの研究が次々に行なわれている。

 機関研究者の活動は、学生をはじめとした若手研究者の研究をも促進することになっている。最近の鳥学会大会参加者のかなりの部分は、20歳台、30歳台の人によって占められている。大会会場や懇親会場での盛り上がりの多くは、これら若い人たちによるものであるように思われる。

 鳥類研究を活発にしているもう一つの流れは、機関に所属しない研究者の活動である。鳥類の生態や行動などについての研究は、機関に所属しなければできないというものではまったくない。とくに最近では、コンピュータの普及により研究計画の立案、観察結果の整理や解析、研究者間の交流などが容易になって、機関に所属していなくとも興味深い研究が展開できるようになっている。事実、個人でも、特定の研究グループでもすぐれた研究が活発に行なわれてきており、国際交流もさかんである。これらの研究者の活動を支えているのは、研究対象に対する熱意であり、それはとくに保全にかかわるような場合には強力なものとなっている。

 さらに、大学や研究機関に所属するわけではないが、環境アセスメントやコンサルタント関係の会社組織の中で、業務として鳥類の調査、研究を行なっている人も急増している。これも鳥類の研究を活発にしている流れの一つである。仕事であるからには、質の高さと責任が求められる。その結果、これらの人の中には、関連の専門的知識や技術を生かしてすぐれた研究を展開している人も少なくない。この方面の調査、研究が活発になってきていることは、やはり、それを必要としている社会の動きと連動している。

 日本鳥学会は、こうしたいくつか異なる流れにかかわるさまざまな人たちによって構成され、発展してきている。いろいろな人が大会や学会誌といった共通の場で研究成果を公表し、情報交換する機会を提供している学会の存在は大きい。おそらく、研究をめぐる活発な状況は今後もさらに続き、鳥類の研究と鳥学会の活動は大きく発展していくものと予想される。

 日本鳥学会は来年(2002年)、創立90周年を迎える。そしてこの年、学会は学会誌のあり方を大きく変更する。和文誌と英文誌の両方を発行するのである。和文誌は、日本の鳥類研究を促進し、学会活動の体力を増強することに主に貢献するだろう。英文誌は、日本やアジアの鳥類研究の国際化とそれにかかわる国際交流を促進することになるだろう。

 2つの学会誌の発行は、学会のあり方を2つに分断するものではない。それぞれの学会誌が相互に力をつけ、補い合いながら発展していくことを目指したものである。日本の鳥類の世界は、いうまでもなく近隣のアジア諸国の鳥類相と密接なかかわりをもちながら進化、発展してきた。また、日本を訪れる渡り鳥の多くは、アジアの近隣諸国、北米、オーストラリアなどとの間を行き来している。一国の鳥類研究、あるいは保全活動を進めるうえで、研究の国際化はきわめて重要である。また同時に、近隣諸国での鳥類研究が活発になり、ともに発展していくことも重要である。英文誌の発行は、それらの促進に大きな役割を果たすことになるにちがいない。そして、英文誌の発行で得られる成果は、和文誌にもいろいろな形で消化、吸収され、日本の多くの研究者にも還元されることになるだろう。

 21世紀が始まり、鳥類の研究や学会の活動が急速に進展していく中で、日本鳥学会は新しい時代を迎えようとしている。この新しい時代には、私たちは鳥類研究をより広く、より深く楽しむことができ、その成果を関連諸科学と人間社会により強力に結びつけていくことができるようになるだろう。会員諸氏の今後のご活躍に期待したい。(日本鳥学会次期会長)


各種委員会より

学会ロゴマークの募集

 学会のロゴマークを募集します。学会誌表紙、レターヘッド、論文表題の飾りなどに使用されます。

  1. 締め切り:2002年5月末日。
  2. 応募資格:鳥学会会員。
  3. 方法:A4紙に15cm四方程度のサイズで未発表のデザインを書いて、氏名住所を記入の上お送りください。モチーフは鳥や文字など自由です。デザインには鳥学会であることがわかる文字(Ornithol. Soc. Japan、あるいはOSJ、日本鳥学会など)をどこかに入れて下さい。2cm角程度に縮小した場合のデザインもかならずつけて下さい。決定されたデザインをロゴマークにふさわしいよう変更することがあります。日本鳥学会の登録商標となります。
  4. 発表:ご応募いただいたなかから、企画委員会で最終案を決定し、2002年度大会で最終案に選ばれた方のお名前とデザインを発表する予定です。
  5. 送り先問い合わせ先:
    綿貫豊
      〒060-5859 札幌市北区北9西9 北海道大学農学研究科 動物生態 
      ywata@res.agr.hokudai.ac.jp(企画委員会)

日本鳥学会誌へ投稿される方へ

 日本鳥学会誌は鳥学に関する未発表で査読を受けた論文を掲載します。会員からの日本語による投稿を受け付けます。論文の形式は、原著論文、総説、短報、技術報告、観察記録、意見であり、原著論文は、はじめに、方法、結果、論議、謝辞、引用文献からなり、総説、短報もこれに準じます。原著論文と総説は印刷で20ページ以内、短報、意見、技術報告は4ページをこえることができません。最新号を参考に形式をととのえ、原稿コピー3部を副編集長あてにお送りください。形式がととのっていない原稿は受け付けません。これらの論文は2名以上の査読をうけたのち、著者に返却されます。査読結果への回答とともに書き直し原稿をお送りください。掲載可と判断された後に、原図と電子版原稿をフロッピーかメールでお送りください。原稿は、A4横書き、1行40字、1ページ20行でプリントしてください。1枚目に論文の種類(原著、短報、など)、表題、著者名、所属、キーワード、2枚目に英文表題、英文著者名、続けて英文要約(300語以内)、英文キーワード、英文所属とし、3枚目から本文を始めて下さい。謝辞の後に和文摘要、引用文献としてください。図の説明はまとめて別紙とし、和文英文併記してください。引用文献は、学術雑誌の場合:池田善英 1986. 北大東島で冬期に観察された鳥類. 山階鳥研報 18:68-70. 、Takagi M. & Abe S. 1996. Seasonal change of nest site and nest success in Bull-headed Shrikes. Jpn. J. Ornithol. 45:167-174.、本の場合: 山階芳麿 1934. 日本の鳥類と其の生態 第1巻. 梓書房. 東京., Ashmole N.P. 1971. Seabird ecology and marine environment. In: Fraser D.S., King J.R. (eds.). Avian biology Vol. I. Academic Press, New York, pp 224-271、などとします。図、表はA4に1点づつ和文英文併記とし、図には番号を、表には和文英文併記の説明をつけます。写真は白黒を原則とし、カラー写真の掲載は著者負担で可能です。短報もこれに準じますが、和文要約がつきません。意見、技術報告には要約をつけず、英文表題、英文氏名所属を最後につけてください。観察報告はフォーマットに従って書いて下さい。原著論文、総説、短報については別刷り30部を無料で受け取れます。なお査読者の方がその後1年以内に当誌に投稿され受理された場合別刷り50部が無料となります。日本鳥学会誌は、フォーラムでひろく学会員の意見、評論も受け付けます。印刷で2ページをこえない範囲で、A4横書き、1行40字、1ページ20行で、表題、氏名、所属、本文をプリントした原稿をフォーラムと明記のうえ、1部副編集長宛にお送り頂くか、メールでの投稿も受け付けます。これらは査読をうけませんが、副編集長による訂正を指示されることがあります。
すべての原稿宛先:綿貫豊(副編集長) 〒060-8589 札幌市北区北9西9 北海道大学大学院農学研究科 動物生態 ywata@res.agr.hokudai.ac.jp

日本鳥学会誌は表紙用の写真(カラー及び白黒)を会員から随時募集しています。
写真送り先:高木昌興 〒558-8585 大阪府大阪市住吉区杉本3-3-138 大阪市大理学部 動物社会(和文誌準備委員会)


学会参加報告

日本鳥学会2001年度大会報告

冨澤 弥生

 私は今回、生まれて初の“学会”なるものに参加しました。“学会”のイメージは、なにやらイカツイ研究者達が、なにやらムツカシイ話を繰り広げている・・・、私などには一生縁のないモノ。そう思っていました。ところが、研究室の院生が発表するというではないか。すごい!この人たちはなんてすごいんだ!かっこいい!ようしそれなら、そのかっこいい姿を見に、学会について行ってみよう!と、やや緊張しながら学会に臨みました。(と言っても私はひたすら見てるだけなんですが。)まずは自由集会に参加しました。すると、おやおや?なんだかとても和やかな雰囲気、それに話している方もとてもユニークで聞いててとても面白い・・・いい感じじゃないですか!あっという間に時間は過ぎて行きました。なにやらムツカシイ専門用語の羅列、抑揚のない喋り方。そんな私の“学会”イメージとは随分違いました。「私も、この研究やりたい・・・。」と、惚れっぽい私を夢中にさせるチカラがそこにはありました。「学会って、もしかしておもしろいんじゃないか・・・?」コレが私の第一日目の感想でした。
 そして迎えた二日目。今日は我が研究室の院生の発表があるぞ!とドキドキしながら口頭発表を聴いていました。聴きたい話が多すぎて、どれを聴こうか迷いっぱなしでした。面白そうな題材のものを選んだり、自分の研究に近いものを聴いてみたり。そしていよいよ院生の発表の番。なぜか私がドキドキしたりして。院生の発表は研究室のゼミなどで何回か聴いているので、とても聴きやすかったです。しかしここで“学会”から得る一番のモノに気付きました。それは、情報。様々な研究をしている方々からの、それぞれの立場での意見、質問。似た研究をしている方からの情報。研究室の中だけでは到底出てこないような貴重な意見をたくさん聞きました。そうか、このために学会に来ているのか!と、遅ればせながらここで気付きました。「学会は情報交換の場である。」コレが二日目で学んだことです。
 三日目。ポスター発表。一枚のポスターに研究成果を書くだけ。レポートみたいなものでしょう。と、甘く見ていました。皆さんのポスターは素晴らしい!美しい!わかりやすい!そしてある意味ポスター発表の方が口頭発表より辛いんじゃないか?と思わせるほどの質問殺到。しかもひっきりなし。大変だな〜と眺めていたら、「冨澤もやるんだぞ。」と、院生からのオコトバ。そう、これらは明日の我が身。いつか(しかもそう遠くない未来)私も“学会”で発表する側に立たねばならない・・・。いわば修行の場である。ウッ、胃が重い・・・。しかしまぁ、みなさん発表者を苛めてい
るわけではないのネ。これも大事な情報交換のひとつなのネ。すべてを自分のモノにしていかなくちゃなのネ。・・・と、前向きに考えてみたり。「学会は楽しい!と、浮かれてるだけじゃなく、スポンジのように情報を吸収していかなければならない。」と学んだ三日目でした。
 こうして私の“学会”体験が過ぎていったわけですが、本当にアっというまの三日間でした。皆さんの発表が興味深くて、えっ、もうお昼?もう終わり?といった毎日でした。面白いことって、あっという間に過ぎてゆくんだなぁ〜と感じました。そして何よりも、すごく勉強になりました。狭い世界に閉じこもっているだけではいけませんね。広い世界に出ると、たくさんの情報、興味、そして新たな試練とが待ち構えていて、自分を成長させるのにもってこいの場でした。このような場に連れて行ってくださった研究室のみなさんと、鳥学会を運営してくださった皆さんには、ホント感謝、感謝です。(立教大学 動物生態学研究室)


掲 示 板

書籍販売

 第11回北海道鳥学セミナーで開催されたシンポジウム「タンチョウ保護の視点から道路問題を考える」の報告書が「ワイルドライフレポート No. 19」として出版されました。全国的に高速道路の建設計画は凍結や見直しが相次ぐ中、北海道開発局が推進しようとしている根室市の高規格道路建設を題材に、タンチョウを中心に生態系への影響を考えました。さらに開発局の唱える建設意義や、道路が生態系に及ぼす影響に至るまで多岐にわたる原稿で構成されています。道路を作りたい人も、作らせたくない人も、環境アセスメントに携わっている人も、もちろんタンチョウに興味がある人も必読の書です。購入ご希望の方は、下記にお申し込みください。
 エコ・ネットワーク tel. 011-737-7841 fax. 011-737-9606 e-mail:eco@hokkai.or.jp
定価は1,500円ですが、申し込み時に「鳥学ニュース」で見た、とお伝えいただくと、2割引きの1,200円になります。(早矢仕 有子)

平成14年度研究助成募集のお知らせ

 財団法人環境科学総合研究所では、環境科学に関する学術研究を振興するために、大学その他の研究機関に所属する個人またはグループの研究を助成しています。次年度は、下記要領で研究課題を募集します。
1.募集対象となる研究課題は、自然環境・社会環境・生活環境の各分野における「環境修復・生物の多様性」に関する環境科学的及び社会人文科学的研究とします。
2.助成金は一件につき年間80万円で、1年助成を2件、2年助成を4件の計6件を採用予定です。(1年間、2年間の希望を記入して下さい。)
3.申し込みは、氏名、所属機関、役職名、所属機関所在地、電話番号、ファックス番号、メールアドレス、を明記して、下記にお申し込み下さい。研究助成申請書をお送りします。
4.応募の締め切りは、平成14年1月20日とします。
申し込み先
〒413-0011 熱海市田原本町9番1号 熱海第一ビル9階 (財)環境科学総合研究所
 tel: 0557-84-2388 fax: 0557-84-2398
 e-mail: kanken@moa-inter.or.jp

日本生態学会第49回大会

  会場:東北大学川内北キャンパス
  日程:2002年3月26日-30日
  大会HP:http://meme.biology.tohoku.ac.jp/eco2002/

3rd North American Ornithological Conference

New Orleans (Louisiana)において2002年9月24-28日に
American Ornithologists Union, Cooper Ornithological Society,
Society of Canadian Ornithologists, Raptor Research Foundation,
Society of Caribbean Ornithologyの合同学会が開催されます。
詳しくは http://www.tulane.edu/~naoc-02/ をご覧下さい.


地域活動紹介

記憶から記録へ <日本野鳥の会神奈川支部の調査研究活動>

浜口 哲一

 記憶と記録はしばしば対比される言葉である。大リーグで予想外の活躍をした新庄剛志選手も「記録はイチロー君に任せて、僕は記憶の方を・・」とインタビューに答えていた。
 鳥の世界でも、これだけ観察者が増えてくると、その人たちの鳥に関する記憶の総量は莫大なものになると思われる。実際、ベテランの観察者と話をすると、どこの川にはいつ頃までヤマセミがいたが、こういう工事がきっかけでいなくなったといった話がたくさん出てくる。しかし、それが記憶に留まっていたのでは、共有の情報にはならない。記憶を記録に変換するにはどうしたらよいのか、野鳥の会神奈川支部が進めてきた調査研究活動(情報収集活動といった方がふさわしいかもしれないが・・)はそうした素朴な発想がもとになっている。
 まず感じたのは、記憶を記録にするには、その媒体が必要だということである。どこの会でも会報が基本的な媒体になっているのだろうが、情報を掲載できるスペースは限られていることが多い。そのために、そこに書かれるのは、どうしても珍しい種とか変わった行動に限られてしまう。
 そこで、神奈川支部では観察記録カードを提出してもらい、それを集成して鳥類目録を作るという方法が考え出された。記録カードの内容として、特殊な観察に重きをおくのではなく、普通種が何を食べていたといったありふれた事例についてもこまめに書くことを勧めた。記録カードの提出を初めて呼びかけたのは、1984年5月のことであったが、それ以来17年以上にわたって延々とカードを集め続け、現在その全データは約13万件となっている。また、のべ1000ページ近い3冊の目録を刊行し、現在4集の刊行準備を進めている。
 これだけの数のデータが集まってくると、分布記録という以外にもいろいろ興味深いことが浮かび上がってくる。スズメが砂浴びをするのは晴れた日が多いとか、メジロはヤブツバキだけではなくキブシとかクズとかさまざまな植物で吸蜜するとか、冬鳥として渡来する水鳥には越夏する個体が珍しくないとか、当たり前といわれればそれまでだが、そうしたことが多少の裏付けをもって示せることには意義があると思う。こうした観察記録の集積というのは、何か特定の視点で観察をしているわけではないので、実証科学に取り組んでいるとは言えないかもしれないが、どんな調査でも実験でも何かに気づいてそれを確かめようと計画される。その気づきについての豊富なヒントが、こうした集積の中に埋まっているとも思うのである。
 さて、この目録作成を進める一方で、会員の中には、断片的な観察だけではなく、定期的に同じ場所に通っているとか、特定の種について調べている人も少なくないことが分かってきた。そのきっかけの一つは、同じ場所とか種類について何十枚もカードを送ってきた人が何人もいたことであった。そうした継続的な観察の場合には、記録カードという形式は適切とはいえないので、別の媒体を準備する必要に迫られた。そうして生まれたのが、研究年報「BINOS」誌であった。
 その刊行時には、東京大学の藤田剛さんにいろいろアドバイスを頂いたので、誌面は私が思っていた以上に整ったものになった。1994年に第1号を刊行し、つい最近8号の版下を作り上げたところである。発案者の私自身、3号雑誌になるのではという不安もあったのだが、それは杞憂に終わり、掲載されたレポート数は8号まででのべ115タイトルになった。詳しい観察対象として登場した鳥も、サンコウチョウ・ツミ・アリスイ・ハッカチョウなど多種にわたり、地域の自然誌的な資料としては、それなりの蓄積を生んできたと自負している。
 また、この誌面について私が考えてきたことの一つは、そこで報告された情報を、会として行政への働きかけや提言にいかし、どんないかし方をしたかについても報告していくという流れを作ることであった。たとえば、神奈川支部では農業団体と共同し、調整田の利用手段の一つとして、秋のシギ類の渡来地としての条件を整えることに補助金を出す「野鳥観察田」制度を提案し、国と県の理解を得て、神奈川県限定ではあるが1998年からスタートさせることができた。その準備の一環として、調整田でのシギ類の調査を有志で行い、その結果をBINOS誌にまとめた上で、そのコピーを交渉の材料として利用していった。また、その後の交渉の経緯や提出した書類についても誌面に収録するようにした。こうした工夫によって、地道に情報を集め、それを記憶だけでなく記録にとどめることが、保全活動にも役立つことを示していきたいと考えている。
 最後に宣伝をさせて頂きたいのだが、「BINOS」8号は、2001年12月刊行予定で頒価は送料とも1510円である。入手方法については神奈川支部のHP(http://www.mmjp.or.jp/wbsj-k)を参照して頂きたい。バックナンバーの購入や定期講読についてもお考え頂ければ幸いである。(日本野鳥の会神奈川支部長)


意 見

思いあがりだったらやめましょう―第79号巻頭言をよんで―

江崎 保男

 前々号の河田氏の巻頭言を読んで不可解な思いにとらわれた。生物学に対して一見まっとうな考えをお持ちの氏が、なぜ学生に「できるだけ一般的な学会に参加すべき」だといい、鳥学会に「他の学会と日程を重ねるな」などというのか。どうやら「分類群ベースの学会の意味」を氏自体が十分とらえていないらしいのだと気がついた。簡潔に述べよう。たとえば鳥類生態学者は鳥学会でいろいろな鳥について、かつ生態学に限らずいろいろな分野の情報をえて自らの生態学についての肥やしとする(あるいは「生態鳥類学者」は「生態学会で生態学の動向についての情報をえて自らの鳥類学の肥やしとする」もあるかもしれない)。少なくとも多様性に富む生物自体についての十分な見識なくしては、一般論は机上の空論に終わる。分類群ベースの学会の存在意義は明確に存在するのである。ゆえにたとえばバランスのとれた鳥類生態学者は鳥学会と生態学会をうまく利用すべきである。氏の巻頭言での発言は生物学の本質を忘れ一般性のみを偏重する科学者の思い上がりととられても仕方ないであろう。(姫路工大・自然研・人と自然博)


意 見

環境アセスメント調査における希少猛禽類調査について思うこと

福田 佳弘

 私は、海鳥の調査研究をする傍ら、約10年猛禽類調査者として環境アセスメントに関わっている。この数年「環境アセスメント」としての「猛禽類の調査方法」にたいして、私自身疑問を持つ調査方法が増えて来ているように感じ投稿し疑問を投げかけてみようと思った。2001年の鳥学会において猛禽類の自由集会が以下の3集会行われた。「里山に住む猛禽類の生態と保全」、「オオタカの個体群保全戦略について」、そして、過去3回行われている「希少猛禽類アセスメント調査」の問題点を論議する「クマタカやシマフクロウなどの希少猛禽類の保護の手法とその進め方について考える」集会であった。どの集会とも参加者が多く、猛禽類に対する関心の高さを感じた。特に環境アセスメントに従事する方々の参加も多かったように思われた。従来の猛禽類のアセスメント調査のほとんどは、定点調査を中心とする目視調査であったが、最近では巣にCCDカメラを設置したり、個体に発信機を装着する調査方法を用いている調査もみられるようになってきた。また巣に、CCDカメラを取り付け繁殖の様子をモニターする事は、ビジュアル的なものを示せば事業者の印象が良いからするという安易な考えで進めている調査会社もあるようだ。このような状況のなかで、猛禽類調査アセスメントの調査方法において「目視調査派」と「発信機・CCDカメラ調査派」と両者の意見が対立している。「目視調査派」はアセスメント調査として要求されるデータをとるには、定点調査を中心とする目視調査で十分であると主張しているが、「発信機・CCDカメラ調査派」は林内に滞在している事の多いオオタカやクマタカを調査するのには、発信機を用いた調査が必要であり、さらに巣にCCDカメラを設置すると食性を解明できると主張している。双方の論点の根底にある問題として「事業アセ
スメント」としてどのような調査が必要であるか論じてられていない点と「研究とアセスメント」と混同している点があげられる。この2点を整理することにより問題を解決できるのではないかと考える。
 私自身は、「目視調査派」である。その理由は発信機調査には、個体を捕獲する必要があり個体に影響を与えると考えられること、また巣にCCDカメラを設置するには営巣木に登らなくてはならないため、繁殖に影響がでる事も懸念される。さらに、今年の学会発表の中でも、アセスメント調査の材料を利用して研究をしている例がいくつか紹介されていた。猛禽類の生態を解明し、アセスメント調査に役立てることは重要ではあるが、アセスメント調査の中で研究を行うのは本来の目的を逸脱しているように思う。もう一つの問題は発信機・CCDカメラ調査では、猛禽類そのものを重要視するあまり、「猛禽類さえ生息し繁殖していれば・・・・」という事になる危険性がある。つまり「生息地保護」が「個体保護」へすりかわって行くことが懸念される。
 今後は「希少猛禽類調査アセスメント調査」をもう一度根本的に考え直し議論する必要がある。日本鳥学会としても、活発な議論を行い「環境影響調査」としての「希少猛禽類調査」の基本的な考え方や方向付けをする役割を担ってはどうか?(知床海鳥研究会)


事務局より

<会費振り込みのお願い>

郵便局の振込票を同封しました。2002年度会費は、期限が迫っておりますが必ず2001年12月14日までにご入金下さい。なお、2001年度会費が未納の方は併せてお支払い下さい(ラベルの会費納入状況をご確認下さい)。2002年3月31日時点で2001年度会費が未納の場合、自動的に退会となりますので、くれぐれもご注意下さい。 皆様のご協力をお願いいたします。

<お尋ね>

次の方の住所が不明です。事務局までお知らせ下さい。
井浦 勝美(敬称略)

編集後記

 鳥学ニュースはこの号をもちまして廃刊となります。鳥学会誌が2002年より和文誌となり、フォーラムというレフリングを受けない意見交換の場が設けられます。提言や意見などはそちらにお寄せください。79号で河田さんに辛口の巻頭言をお願いしました。1年前に決まっていた大会の日程をあとから決まった他学会大会開催日程にあわせ再調整するのは無理な話ではありましたが、鳥という材料を扱う学会の”強み”は何なのか、再度考えさせられました。次期会長のお言葉をお借りすれば、”異なる流れにかかわるさまざまな人たちにより構成され発展してきた”鳥学会は、公開に近い
シンポジウムをおこなう、記録委員会を設けるなど、材料学会(私はこれを良い意味で使います)として外部の研究者からも期待される活動をすでにおこなっており、今後、広い分野との交流をいっそう発展させるものであると考えます。今回の浜口さんの記事は、多くの鳥学会員の観察を記録とし公表する活動のお手本になるのではないでしょうか。4年間ニュース担当をなんとか務めることができたのも、多くの記事、意見、感想そして批判をおよせ頂いた皆様のおかげです。長くなりましたが、深く感謝して最初で最後の編集後記とさせていただきます。(綿貫)

 鳥学ニュースの編集作業のお手伝いをさせていただいて、はやいもので4年になりました。その間、様々な方々と関わることができ、いつもあわてながらも楽しく仕事をさせていただきました。これでニュースも終わりになるのかと思うと寂しくもありますが、刷り上がった号を見て誤字脱字その他もろもろに落ち込むこともなくなるのかと思うと正直ほっとしています。最後になりましたがニュースの編集・発送作業などでお世話になった多くの方々にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。(岩見)