公開シンポジウム
「野鳥の保護は農林業と共存可能か」
日時:9月17日(日) 午後3時〜6時
場所:いわて県民情報交流センター(アイーナホール)
農林業は、時として野鳥の生息を脅かす存在となりますが、一方では農林業によって維持されてきた生息地に適応してきた野鳥も少なくありません。農林業と野鳥との関係をひも解き、野鳥の保全に向けた農林業の取り組みとその果たす役割について、以下の方々に議論していただきます。
S-1 由井正敏 「北上高地のイヌワシと林業」
S-2 山浦悠一・加藤和弘 「人工林の林分構造とランドスケープ構造が鳥類群集に及ぼす影響」
S-3 東 信行 「偶然から必然へ 〜偶然成り立つ野鳥との共生〜」
S-4 呉地正行 「冬期湛水田におけるガンカモ類との共存」
コーディネーター 東 淳樹
野鳥の保護は農林業と共存可能か 序言
由井正敏 (岩手県立大・総合政策)
今大会シンポジウムのテーマは「野鳥の保護は農林業と共存可能か」と銘打ち、様々の農林業の現場において希少種の保護や、鳥類群集を指標とした生物多様性維持が可能であるかどうかを報告し、議論することとした。
農林業は、私たち人類の生活維持のために欠かせない産業であるが、生産性向上のために単一作物を大面積に育成したり農薬を多用してきた。その結果、鳥類を始めとする生物相は絶滅の危機に陥ったり、繁殖成績を悪化させてきたものが多く見られようになった。
希少種のための保護区設定や農薬の規制はかなり進んできたものの、まだ十分ではない。
広大な生息地を必要とする動物においては、保護区のみでは存続可能な個体群を維持することができない場合も多い。また、生態系保全や持続的生産の確保の観点からは、保護区のみを管理すれば良いと言うことにはならない。近年、生物多様性の維持が生態系の安定性や生産力の向上に寄与可能なことが徐々に明らかになってきた。生物間の相互作用を巧みにコントロールすることによって、生物多様性の維持と農林作物の持続的生産が可能になるかも知れない。希少種についても、そうした観点からのハビタットの保護管理によって、個体群維持に貢献できるかも知れない。地域全体で猛禽類等の希少種を含めた鳥類群集の多様性を維持することで、害性動物の制御や多様な植物の種子散布あるいは微量必須栄養素の循環に貢献できるかも知れない。
一方、農林業の現場においては、一部の野生鳥獣による農林作物の加害が以前から各地で問題になってきた。シカやノネズミによる農林作物の加害を含め、こうした現象は人間の都合による生息環境改変によって一部の鳥獣が異常に発生したり、生息地が集中することによって起こされてきたとも言える。従って、生息地を繋がりを持って分散させることによって、一部の鳥獣が異常に発生したり、局所的に集中しないような仕組みを構築することができれば、人間と鳥獣が共存する可能性が拓ける。
最近はコウノトリ、トキ、タンチョウやメダカなどを対象に、自然再生事業が各地で取り組まれるようになってきた。しかし、一度破壊された環境を取り戻すのには、再び膨大なコストと年月、及び環境改変が必要となる。その点で、農林業と調和した形態での共存手法が確立されれば、コストの面でも環境負荷減少の面でも有効ではないかと思われる。
今回は、イヌワシ、森林鳥類群集、フクロウ、ガンカモ類を対象に、上記の観点を含めた最近の研究成果を示し、共存のための方策を皆さんと一緒に考えて行きたい。