鳥類保護委員会報告
日時:2014年8月22日 13時〜15時
場所:立教大学 9204教室
出席者:大迫義人(委員長)、呉地正行、白木彩子、出口智広、北村亘、小高信彦
大迫委員長より挨拶:委員会参加者の確認および、欠席された委員からは委任状(メール等)が届けられている旨の説明。東京オリンピック関連の案件について、総会決議としての検討がされていたが、東京都による計画の改善があり、取り下げられ、今年度の新たな総会決議はないことが報告された。
配付資料:呉地委員より、大潟村風力発電所新設事業および、カナダガンの特定外来生物指定関連資料が配布された。(保護委員会MLにも同様の資料提供あり)
検討事項について
(1)秋田県大潟村干拓地に予定されている大型風車の建設について 呉地委員より説明
大潟村に建設予定の風力発電所(約40機)について、建設予定地は、大潟村によるラムサール湿地指定の動きがあること、チュウヒの重要な繁殖地と重なることなど、環境への配慮が必要な地域であり、予定通りの形で進むことはないのではないかとの見解。大潟村が独自に計画している風力発電施設(2機)と、同事業は切り分けて議論されている。大潟村の村独自計画の風力発電建設については、どのように住民説明が行われ住民意見が取り入れられたのか等、道筋について明らかにし、公表することが重要。
大潟村の大型風力発電施設については、凍結に近い状況になり、状況はよくなっていると考えられるが、周辺では対応しきれていない風力発電所建設関連の事案が数多くある。
アセス法改正前の駆け込み申請で、現在、風力発電建設関連の案件は非常に多く、個別に対応することが困難な状況である。野鳥の会の浦さんが風力発電のバードストライクによる被害鳥類データを100数件集約して、報告準備。北海道では、環境省の保護増殖事業関連でのオジロワシ等のデータが集められているが、偶発的な記録が多く、事故がきちんと報告されない場合もある。来年5月号のSTRIXで風力発電に関する論文が発表される予定。
保護委員会として、学会員に対して、風力発電に関するローカルな事案や専門知識の集約を呼びかける。_具体的に保護委員会として意見集約を行う方向で検討。
(2)カナダガンの特定外来生物指定と関連する問題、特定使用等施設の基準について 呉地委員より説明
特定使用等施設の基準が、厳しすぎるのではないか。同じ鳥類でも、カナダガンをガビチョウやソウシチョウと同じように檻で飼育することは困難であり、経過措置(5年間)後も、オープンケージでの飼育を認めるべきであるとの提案がされた。今後、コブハクチョウやコクチョウについても同様の問題が発生する可能性があり、動物園での飼育の現状を考慮した対応が必要である。
(3)「野生生物と社会」学会の鳥獣法改正に絡むサテライト・シンポジウムへの協力について (高橋委員より事前に説明依頼あり)大迫委員長より説明
保護委員会としてサテライト・シンポジウムへの協力を了解。具体的には、シンポジウムの共催とシンポジウムでの講演について。共催については、鳥学会による共催を評議員会で検討していただく。シンポジウムの参加講演は、高橋副委員長が前向きに検討していただいている。詳細については引き続き検討する。
(4)鳥学会のホームページの更新について 大迫委員長より説明
鳥学会のホームページ更新が滞っているため、各委員会が学会ホームページの改訂ができるよう評議員会で提案し、委員会報告等は、委員長からの学会報告時にあわせホームページにアップできるようにするとの提案。保護委員会後、評議員会で報告が行われ、和田広報委員より、委員会が個別にホームページの改訂作業ができるようパスワードの配布等できるように対応してくださるとの回答を得たとのこと。
総会決議後の各要望に対する現況報告
(1)沖縄島在駐米軍北部訓練場内ヘリパッド移設計画の見直しの要望書(1999年度)
・東村高江のヘリパッド建設予定地での反対派の住民等による座り込み等が継続されているが、2か所の着陸帯(ヘリパッド)の工事が進み (高江区に合計6か所建設予定)、早ければ8月にも米軍に提供される予定(琉球新報7月18日)。高江の着陸帯では、オスプレイの導入についての報道もあり、今後の運用については注目が必要。尾崎委員、小高委員より、IOC大会でヤンバルクイナとノグチゲラの現状について研究発表があった。
(2)愛知県渥美半島での自衛隊ヘリコプター離着陸訓練場計画の再検討を求める要望書(2004年度)
・基本的に防衛省は、渥美半島のヘリ予定地が猛禽類によって周年重要な場所であることを認識したため、訓練地としての計画を取り止め。ただ、地域役員などへの説明会では「三重県内に適地が見つかった」とのこと。
・陸上自衛隊が取得した用地の財務省への所管替えと跡地利用など、今後の動きについては、なお注目が必要。
(3)上関原子力発電所建設計画に係る希少鳥類保護に関する要望書(2008年度)
・上関の自然を守る会主催の国際シンポジウム「カンムリウミスズメと上関の生物多様性−「奇跡の海」を未来の子どもたちへ−」を鳥類保護委員会として後援。
・8月16日から18日にかけて山口、京都、東京で開催されるシンポジウムにパネリストとして武石全慈が参加。
・内容について、開催後、上関の自然を守る会から当委員会へ報告がある予定。
要望書の提出
(1)有明海奥部の貴重な生物相と生態系機能を保全する見地から諫早湾の潮受け堤防の排水門開放を求める要望
・日本魚類学会、日本生態学会自然保護専門委員会および日本ベントス学会自然 環境保全委員会と連名で、上記の要望書を2013年12月20日に内閣総理大臣、農林水産大臣および環境大臣に対して提出した。
要望書提出後、現在も排水門開放が行われていない。門を閉めたことによってできた水域に、二万羽以上の水鳥が飛来するようになり、潜在的なラムサール候補地リストに上がる状況となっている。門を閉めきることで、水鳥の休息場所等として利用されている現状はあるが、本来の形である干潟に戻したほうが良いとだろう等意見が出された。
その他
コウノトリの野生復帰について、大迫委員長より説明
順調に数が増えているが、ある家系の繁殖率が高く、近親交配が問題となっている。近親交配となるペアについては、繁殖できないような対策をとっているが、近親交配そのものの影響については、改めて、その影響の重要性について検討する必要がある。京都府のつがいのオスが、防獣ネットに絡んで死亡、このメスは、兵庫県内のメスを感電事故で亡くしたオスの行動圏に入ってくるようになったとのこと。人工繁殖に成功している千葉県では、放鳥に向けた準備が行われている。
○アホウドリの小笠原諸島への新繁殖地形成事業の近況について、出口委員より説明
アホウドリの移送作業は順調に実施されすでに終了し、今年度はモニタリングが行われている。現在は、ニュージーランドへの新繁殖地形成にかかわる技術提供が行われている。聟島(むこじま)では、アホウドリが観察されているが、繁殖成功には至っていない。オスの渡来時期がメスよりも遅いことが現在の繁殖成功に至らない要因の一つと考えられている。2014年に、聟島の隣の媒島(なこうどじま)で、小笠原諸島では戦後初めてとなるアホウドリの雛が確認された。
○2015年7月北海道で開催されるWildlife Societyと哺乳類学会による国際会議について、白木委員より紹介
カワウ関連の企画が検討されており、哺乳類学会の齋藤隆氏からは、風力発電関連の集会ができないか提案があるとのこと。本年12月に大枠が決まる予定。
○岡山県のタンチョウについて、白木委員より
岡山県のタンチョウについて、大陸産と北海道産を掛け合わせたものではないか?放鳥に向けた動きがあるようだが、現状は?大迫委員長より、かつて野生復帰を行わないとの話になっているとのこと。
○千歳川の遊水地事業について
千歳川放水路事業の代替案として計画された遊水地(一か所200ha)が三ケ所つくられる。この遊水地をタンチョウの分散先にしようとの動きがある。同地域では、マナヅルがかつて営巣した記録がある(考資料:鳥学会誌https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1986/47/2/47_2_69/_article
Masatomi H. (1999) A pair of White-naped Cranes Nested in Hokkaido, in 1985, the First Confirmed Record for Japan. Jpn. J. Ornithol.)。