鳥学通信 no. 38 (2013.2.18発行)

若手研究者の志を育てる、育志賞

上沖正欣
立教大・院・動物生態/日本学術振興会特別研究員DC2

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左から家城和夫理学部長、育志賞盾を持つ私、吉岡立教大学総長、上田恵介教授

  2012年3月、日本学術振興会より育志賞を受賞するという栄誉を頂きました。この賞は、大学院博士課程学生の研究を支援奨励することを目的に2010年に創設された新しい賞です。ここでは、私の研究や育志賞の概要ではなく(それらは文末リンクを参照)、私が経験した受賞前後の出来事から、賞の持つ性質を紹介したいと思います。

  育志賞は新設された賞だけに、その存在を知らなかったという人が多いでしょう。実は私もその一人でした。札幌での野外調査が始ま り、同時に締め切りの迫った学振申請書類を、無い頭でうんうん考えている時、育志賞に推薦して頂けるという話を頂いたのでした。最初は、忙しくてそんな余 裕は無い・・・と躊躇しましたが、応募書類は学振のものとほぼ同じ、奨励金110万円、しかも受賞すれば特別研究員に採用される(通常の学振と条件は変わ らないが、併願できるため、チャンスが二倍)ということだったので、この機を逃す手は無いと応募したのでした。時は過ぎ、「天国に一番近い島」と言われて いるニューカレドニアで調査を手伝っていた10月の終わり(調査の様子は鳥学通信に連載されています)、学振DC2採用という嬉しい知らせを受けたのでし た。それは文字通り天にも昇る心地で、これで一生分の運を使い果たしたから、育志賞は無理かな・・・と思っていたのですが、一次審査・面接と順調に進み、 年明けに有難くも受賞の知らせを頂くことができたのでした。

  授賞式は3月に上野の学習院にて、秋篠宮同妃両殿下の御臨席を賜り、盛大に執り行われました。秋篠宮殿下は山階鳥類研究所の総裁を 勤められており、鳥学と関わりの深いお方ですが、それまで面識は無かったため、研究のお話を直に拝聴することができ、大変貴重な一時を過ごすことが出来ま した。また、自分の研究や展望についても、少しお話することが出来ました。恥ずかしながら、私はまだ飛び抜けた業績がある訳ではありません。それでも受賞することができたのは、「夢」を語ることが出来たからかも知れません。実際に、育志賞の選考内容は今の研究よりも、今後の研究を語る部分が多くありまし た。授賞式では、各分野の一線で活躍されている同年代研究者たちと話しましたが、やはり彼らも将来の明確なビジョンを持ち、実際にそれに向かって着実に努力を重ねているという印象を受けました。PDでこれから海外で研究をするという方も多く、将来の進路を考えている私にとっては非常に為になる話もあり、また同年代で活躍している研究者の話は、分野は違えど共感するところが多々あり、幾ら話しても話し足りないくらいでした。実際に、日本学術振興会としても授賞式の場で終わるのではなく、積極的に受賞者同士のネットワークを構築しており、メーリングリストを作ったり、以前の受賞者を授賞式に招待したりしています。受賞者同士も自発的にFacebookを活用して近況を報告したり、都合が合えば飲み屋に集まって話をしたりと、交流を深めています。

  育志賞は博士課程の学生が対象ですが、日本学術振興会には博士課程取得後45歳未満の若手研究者を対象とした「日本学術振興会賞」 もあります。育志賞、日本学術振興会賞と続き、そこから世界に通用する研究者を支援していく狙いがあるようです。個人的にも、このように若手研究者を顕彰するのは非常に有効だと思います。鳥学会では高校のポスター発表という枠があり、表彰もされます。高校生のポスター発表は、参加校も年々増加していますし、その質も上がっていると感じています。これは第1回目参加者の私としては、非常に嬉しい限りです。以前の鳥学通信でも書きましたが、 その時に頂いた奨励賞は本当に大きな励みになり、今もこうして研究を続けられています。育志賞に関しては、今回私は所属大学の推薦を受けましたが、学会推薦もあります。毎年3月頃に募集があるので、頑張っている若手研究者をご存知の方は、是非推薦を考えてあげてください。また、これを読んでいる学生の方は、積極的に自分の研究をアピールしてみて下さい。

  最後になりましたが、育志賞を頂くことができたのは、指導教官である上田恵介教授をはじめ、推薦してくださった先生、野外調査でお世話になっている方々、そして両親のおかげです。この場を借りて改めて感謝いたします。有難うございました。

■日本学術振興会育志賞
http://www.jsps.go.jp/j-ikushi-prize/
■RIKKYO CLOSE UP
http://www.rikkyo.ac.jp/feature/close_up/2012/07/2.html

受付日 2012.10.22


鳥の学校「R統計学中級講座:統計モデリングとプログラミング」に参加して

松井 晋
立教大学理学部ポスドク研究員

皆さんは普段からどの程度、「R」を用いた統計を実施されているでしょうか?

私が「R」を使うようになったのは比較的最近です。学部生から大学院生の初期(10年くらい前です)には「Stat View」、大学院の途中から「SPSS」という統計解析ソフトを使っていました。まわりには「JMP」を使っている人もいました。基本的な統計の知識をつけるために、粕谷英一(1998)『生物学を学ぶ人のための統計のはなし~きみにも出せる有意差~』や、市原清志(1990)『バイオサイエンスの統計学:正しく活用するための実践理論』などの本で勉強していました。これらの本を読みながら、パラメトリック検定がいいいかな?ノンパラメトリック検定がいいかな?とかを考えながら、エクセルで作ったデータシートを統計解析ソフトに読み込んで解析していたわけです。大学院生の途中の頃から、「R」を用いた、見慣れない統計解析の結果が、論文の中で多くみられるようになってきました。このため、「R」の勉強をしないとまずいなと思うようになりました。ただ、「R」はコンピュータに対する一連の動作をプログラミング言語で指示しなければいけないので、なかなか敷居が高く、取っ付き難い存在でもありました。

そんな頃、2005年度大会の自由集会で『統計言語Rで一般化線型モデル解析-鳥屋にやさしい統計のお勉強-』が企画され、「R」を使うことにためらいのあった多くの鳥学会会員に、「R」をインストールして、とにかく使ってみる勇気を与えてくれました。その後もこの統計の自由集会は継続され、2006年度には『統計モデルによるデータ解析入門:線形モデルとモデル選択−鳥屋にやさしい統計のお勉強会パート2−』、2007年度には『実践 ”R” 統計学:Dos & Don’tsと一般化線形混合モデル』が開催されました。というわけで、私はこれまでこれらの統計集会を企画・発表されてきた方々に、いつもお世話になってきました。これらの自由集会の内容は、田中啓太さんのホームページに紹介されており、とても有り難いことに、過去の発表スライドのPDFもアップしてくれているので、関心のある方は必見です。https://sites.google.com/site/keitaswebsite/connexions/osj-stat

その後も、2008年度に鳥の学校『統計的解析・中級編』が行われ、そして、今回の2012年度の鳥の学校『R統計学中級講座:統計モデリングとプログラミング』に至っています。

さて、前置きが長くなりましたが、以下は今回の鳥の学校の参加レポートです。参加者は32名で、9月18-19日に日本大学歯学部で開催されました。今回は中級講座ということで、Rの最新版とlme4というパッケージを各自のパソコンにあらかじめインストールして、実際に自分でパソコンを操作しながら、講師の田中啓太さん(立教大)と北村亘さん(電中研)の講義を聞くというスタイルでした。18日9時半~20時、19日9時半~13時という長丁場でした。内容については少々難解なところもありましたが、そういうところは質問して詳しく解説してもらったりしながら、楽しく講義を聴かせてもらいました。会場にはお菓子や飲み物も準備されていたので、集中力がきれそうになったら、甘いものを食べてエネルギー補給ができました。

田中さんは講義の中で、「R」で統計解析するとき役立つ実践的な方法やパッケージを紹介してくれました。例えば、ダミー変数を用いた解析、交互作用の計算方法と解釈、パッケージMuMInを用いたモデル選択などです。また、カウントデータの場合は基本的には“ポアソン分布”を使いますが、過分散の場合は“負の二項分布”を用いることで、ばらつきの大きいデータに対応できること(パッケージは、aod、glmmADMB、MASSなど)、0(ゼロ)が多いデータの場合は“Zero Infrated Poisson(ZIP、ジップ)”で対応できること(パッケージはglmmADMB)なども紹介してくれました。

北村さんは、「R」を使って作図する方法を紹介してくれました。また「R」は統計解析ソフトではなく、プログラミング言語だということで、制御構造文の基本も教えてくれました。私も含めて「R」を統計解析のためだけに使っている人は多いと思いますが、プログラミング言語である「R」をしっかり使いこなせるようになると、論文を書くために必要な、(1)データ集計、(2)統計解析、(3)図表の作成まで、「R」で全部できてしまうということがわかりました。北村さんの講義の中で、実際に私が野外で集めたモズの雛の非同時孵化に関するデータを「R」で集計してもらい、手作業ではかなり時間のかかる集計が、瞬時に完了しました。プログラミング言語に馴染みがなかった私にとっては、乗り越えなければいけない壁は大きいと感じたのが正直なところですが、北村さんのように使いこなせたら素晴らしいだろうなと感じた瞬間でもありました。

というわけで、今回は「R」というフリーソフトを使いこなすには、(1)統計解析の知識と新しいパッケージをしっかりフォローしていくこと、(2)R言語を使うと想像以上にデータ集計が迅速に完了すること、(3)R言語をマスターするには私はかなり時間がかかるであろうこと、(4)自分でマスターするより詳しい人にお願いしたほうがよいであろうこと(注:若い人は直ぐにマスターできるのかもしれません)などがわかり,とても貴重な鳥の学校でした。お世話になった講師と鳥学会企画委員会の方々に感謝の意を表します。

 

受付日 2013.1.30


報告・鳥の学校(第5回テーマ別講習会)「R統計学中級講座:統計モデリングとプログラミング」

日本鳥学会・企画委員会

鳥の学校-テーマ別講習会-では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っています。

第5回は「R統計学中級講座:統計モデリングとプログラミング」をテーマとして、2012年度大会の翌日から2日間(9月18日~19日)、日本大学歯学部において行われました。講師は、立教大学理学部の田中啓太氏と電力中央研究所生物環境領域の北村亘氏にお願いし、参加者は32名でした。

1日目は、Rによる統計モデリング、グラフィック、プログラミングについて講義の後、GLMM(一般化線形混合モデル)の解説が行われました。講義の合間には休憩時間が多めに設定され、参加者は講師に自由に質問しながら理解を深めていました。

2日目は、プログラミングの実習・実演を中心とする内容で、自作関数を作る方法、グラフを美しく描画する方法などについて学びました。講師からはプログラミングの演習問題も出され、参加者は楽しみつつ真剣に取り組んでいました。

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写真1:会場と参加者の様子。パソコンを持参できない参加者は、会場備え付けの学生実習用パソコンを使い、全員がパソコンで実習を行った。
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写真2:講義をする講師の田中啓太氏(右)と北村亘氏(左)

参加者からは、「講師の方々が実際に解析したりプログラムを書いたりする様子を見ることができ、大変参考になった」「Rでのグラフ作図方法を知るのが目的の一つだったので、詳しく聞けてよかった」「Rが素晴らしいプログラミング言語であることがわかった」「Rを使う上で、重要なことを聞けてよかった」等の感想がありました。「一部ついていけない箇所があった」という感想も多く寄せられましたが、「今後何を学ばなければいけないかが見えてきた」等、皆さん熱心に受講されていました。「GLMMについても実習があるとよかった」という意見も多く寄せられましたが、データセットの用意や予備解析にかなりの労力が必要となることから、ボランティアで協力いただいている講師の負担も考慮する必要があります。

鳥の学校-テーマ別講習会-は、今後も大会に接続した日程で、さまざまなテーマで開催していく予定です。2013年度は、「安定同位体比分析入門(仮題)」を予定しています。案内は、学会ホームページや学会誌に掲載します。

受付日 2013.1.30


ニューカレドニア通信 (5)「メラネシアン・ホリデイ」

田中啓太
立教大・院・動物生態

これまでの連載では真面目な話が多かったので,ここですこし研究や鳥の話からははずれ,友人になったニューカレドニアの人々について書かせていただこうと思います.もちろん,本当は研究について書きたいのはやまやまなのですが,極秘事項も多々含まれているので,そういった話はある程度成果が公表されてからにしようと思います.

ニューカレドニアは南緯20°付近に,珊瑚海と太平洋を隔てて位置しています.珊瑚海の真西の対岸がグレートバリアリーフで,まっすぐ南下するとニュージーランドと言えば,大まかな場所はつかめるでしょう.名前の由来はかのJames Cookが“発見”した際,故郷近くのスコットランドを彷彿とさせる山がちな地形を見て,そのローマ名(Caledonia)から名付けたということです.もともとはカナック人という,ニューギニアなどと同じメラネシア系と,長期にわたって移住・定着したポリネシア系人種が融合した人たちが住んでいましたが,帝国主義の時代にフランスの統治下におかれ,流刑植民地となり,フランス系の入植者が移り住んできたそうです.ニッケルの産地として知られ,鉱山労働者として日本人が移住したことも知られています.現在では特別共同体と呼ばれ,タヒチなどと同様にフランスの海外領土となっており,公用語はフランス語です.

私たちが調査をさせてもらっている州立公園にもさまざまな人種のスタッフがいます.その中でもとくに仲良くしてくれるYoann(ヨアン)はカナック人で,調査においてもいつもいろいろと助けてくれるのですが,プライベートでも仲良しくてもらい,家族ぐるみの付き合いをさせてもらっています.

昨年度,調査に入った最初の年のことになりますが,Yoannは母親の兄/弟で,Canalaという村に住んでいる伯父さんの家に私たちを招待してくれました.Canalaは南太平洋に面した東海岸に位置し,従兄のToniが所有しているボートでのクルーズ&釣り(正確にはシュノーケリングでの銛突き)が目的です.なにぶんYoannはほぼフランス語しか話せず,我々はフランス語がほぼ話せないということで,事前情報の量と正確性はかなり限られたものだったのですが,それにもかかわらず佐藤くんはそれまでに築き上げた友情を元に,ある程度の情報を入手してきてくれていました(これをニューカレドニアチームでは「こころの言語」と呼んでいるのですが,それについてはまた別の機会で紹介したいと思います).

事前に聞いていた話では,Yoannの伯父さんはすごく偉い人で,部族の酋長的な存在で,儀式などを取り持ったりするような地位にあるらしい,だから失礼のないようにしなければならない,ということでした(後日談ですが,佐藤くんは「ジャケットを着ていくべきか」とYoannに訊ねたところ,一笑に付されたそうです).実際,カナックの社会制度は,母系と父系が混ざり合った複雑なものですが,とくに重要視される血縁関係は母系のものらしく,一族の長は母方の伯叔父となるそうです.というわけで,最初はちょっと緊張していましたが,その伯父さんの奥さんは日系二世ということで,娘たち(Yoannの従姉妹)はミドリやヨシコと,日本語の名前がつけられており,緊張も多少ほぐれました(ただし,日本語は全く話せなかったので,言語的には解決に至りませんでした).

伯父さんの家につくと,庭先に生えた大きなライチの木の横にある,簡単な東屋に通されました.そこで伯父さん夫妻や,従兄弟のToni,従姉妹たちに出迎えられ,カフェオレを飲みながら挨拶の雑談.フランス式のカフェオレは浸透しているようです.しばらくするとどこからともなく人が集まってきました.Yoannは通りがかりであっても誰とでも挨拶し,軽口をたたいたりするので最初は区別がつかなかったのですが,どうやら関係者のよう(後から察するに,恐らく従姉妹たちの配偶者).荷物を積み込んで,さあいよいよ出発です.

Toniの車は中古のスズキ・エスクードで,ニューカレドニアでは珍しくオートマです.これで中古のヤマハのプレジャーボート(剥がれかけたシールはオーストラリアで登録されていたことを窺わせます)を牽引し,何台かに分乗して出発しました.途中,車のタイヤが燃えているゴミ処理場のような場所や,埋め立ててつくられたようなマングローブや湿地を抜ける長い直線の砂利道を通り,15分ほどで船着場に到着しました.

この中古のプレジャーボートですが,船外機のスクリューを上下させるコントローラーが壊れていて,マイナスドライバーを突っ込んで手探りでモーターを動かし,ドライバーが制御用のワイヤーに偶然うまく当たれば船外機が上がったり下がったりするという代物です.10分ほど四苦八苦してようやくスクリューを喫水線下におろすことができたので抜錨し,さあエンジンかけて人を乗せるために接岸しようとしたところ,今度はエンジンがかからない.船着場はマングローブの入江の中にあるとはいえ,穏やかな水流があり,ときどき涼風も吹いています.必死でセルモーターを回そうとするToniを乗せたまま,船はどんどん流されていき,100メートル以上離れた対岸近くで漂流するという事態になってしまいました.

携帯電話も忘れていたのか,大声で話し合い,どうやら原因はバッテリー上がりらしいとのこと.そこで,ボートを牽引してきたエスクードのバッテリーを急遽使うことにしたのですが,もう既にだいぶ流されているので違う船が必要です.ということで,スポーツカーに乗ったまた別の(義理の?)従弟が,ジュラルミンのスポーツフィッシング用のボートを爆音を轟かせながら牽引してきました.エスクードからバッテリーを外し,ボートに乗せ,エンジンをかけようとしたら,さあ今度は鍵が無い.そこからまた鍵の捜索が始まり,大騒ぎの末に判明した事実は,なんとまさにあの流されているプレジャーボートに載っているということ.

次から次へと巻き起こるトラブルに,これからこの船で洋上に出ることを考えると無事に帰って来られるか不安になりましたが,何か一つ失敗が起きるたびにその場にいる文字通り老若男女,全員がゲラゲラと大笑いしています.他にも,ボートを停留させようとした長老の伯父さんが船外機つきのボートから錨を水に投げ込んだところ,船べりでガラガラ音を立てて水に入って行く鎖は最後にガツンと止まらず,そのまま全部ジャボンと水の中に吸い込まれていってしまいました.なんと,あろうことか錨の鎖がボートに繋がっていなかったのです.話で聞いていたすごく偉い伯父さんの失態にYoannは笑いすぎてヒーヒー言っています.ああ,いつもこれで大丈夫なんだな,と信じ,細かいことは考えずに楽しむことにしました.

その後,無事にボートのエンジンもかかり(どう解決したかは忘れてしまいました),マングローブの入江の中をボートを飛ばし,外洋の手前の湾内にあるビーチに上陸しました.このビーチはときどき訪れているらしく,子どもたちも含めみな手際よく上陸し,男衆は魚突きへ,女衆はビーチに座っておしゃべりをしたり,遊ぶ子供に目を配ったり.私と佐藤くんは子どもたちに混ざってシュノーケリングなどをしていましたが,連日の調査と連日の深夜までの議論疲れで寝てしまいました.目を覚ますとYoannたちは魚突きから帰ってきていて,皆で従姉妹たちがつくって持ってきたチキンの蒸し焼きやサラダをバゲットと一緒に食べたり,ビールを飲んだり,また海に潜ったり.のんびりと流れる熱帯時間を楽しみました.

一つ残念だったのは,同じ湾内には閉山したニッケル鉱山があり,積年の工業排水で汚染された海底にはニッケル精製の過程で排出される酸化鉄が厚い層になっていたことです.そのため,お世辞にも綺麗な海とはいえませんでした.さらに残念なことに,その鉱山を経営していたのは日系企業だったということです.もちろん,ニューカレドニア自体,地面が真っ赤に見えるほどの赤土なので,雨季の豪雨に流された土砂もそれなりに占めているでしょう.現時点では元の状態がどういったものなのかはわかりませんが,いつの日か海の中があるべき姿を取り戻すことができるよう,願わずにいられません.しかし,そんな海でも健気に点在している珊瑚礁では,種々色とりどりの熱帯魚たちが饗宴を繰り広げていました.

従兄弟たちとふざけ合い,文字通り腹を抱えて笑っているYoannを見ると,ああ,これが人間の本来の姿なんだなあと,つくづく思います.ちなみに,突いた魚は何尾か持たせてくれたので,次の晩,宿舎で料理して美味しくいただきました.

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灼熱の太陽のもと,流されるプレジャーボート.

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スピードは結構出ています.ニッケル鉱山跡.

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岬の向こうは太平洋.

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いつものビーチ.

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カクレクマノミ(Amphiprion ocellaris

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ハナクマノミ(Amphiprion frenatus

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コガネスズメダイ(Chromis albicauda

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Southseas devil(Chrysiptera taupou

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スミツキトノサマダイ(Chaetodon plebeius

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ロクセンスズメダイ(Abudefduf sexfasciatus

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ホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus

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オニヒトデ(Acanthaster planci

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ゆったりと時間が流れる熱帯の昼下がり.

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大樹の木陰でのんびり.水平に張った枝々を下から見ると(右).

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銛で突かれた魚たち.

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あるべき姿になった,ゴマアイゴの仲間Siganus lineatus.通称ピコ(picot).

受付日 2013.1.31


編集後記:今号は4本の記事をお届けしました。鳥学通信では随時記事を受け付けております。お気軽に記事をお寄せください。皆さんのご協力を期待しています(編集長)。

鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者宛 (ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。

鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行予定です。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。

鳥学通信 No.38 (2013年2月18日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 和田 岳(編集長)、高須夫悟(副編集長) 天野達也、東條一史、時田賢一、百瀬浩

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