行動生態学発祥の地で起こり始めている新しい動き

藤田 剛

 行動生態学は採食行動の理論的研究から始まった,と言う人がいます. たしかに1960年代後半から登場した最適採食戦略などのモデルは,採食行動に焦点をあてて動物のとるべき行動を予測し,その実証研究も盛んにしました.一般的にはこれら初期の研究が有名ですが,その後も確率的に変動する環境を取り入れたモデルや長期的な適応度成分に注目したダイナミックモデルの導入など,この分野は着々と歩みを進めてきました.
 じゃあ,これからは...? そう,この点についてぜひお話したいことがあります.採食行動などの意志決定に関する科学的理解は,さらに新しい段階に入ろうとしています.ここでは,とくにぼくが興味をもっている5つの新しい見方や手法などについてお話しします.

 1. 究極要因偏重からプロセスの重視へ.行動生態学では「なぜ動物がそのようにふるまうのか」という疑問に答えるため,その行動が個体の適応度を高めるために機能しているかを直接評価する方法がよくとられます.しかし,たとえば採食場所を選ぶ場合,動物は自分に備わった感覚器で食物の情報を集めて自分の神経系で処理します.このような情報処理プロセスそのものが,ある行動パターンを生み出す要因になることもあるのではないでしょうか.また,体内プロセス以外にも食物の探索方法など行動レベルのプロセスが別の行動に関係することも予想できます.
 プロセスに注目しないとこれらの可能性は検証できません.このような研究は,行動の直接の適応的意義だけに注目していたのでは不可解だった行動を説明できる可能性をもっています.さらに,行動が適応的な機能を果たすプロセスそのものも興味深い研究対象だと思います.数理モデルを知らない動物がその予測と同じようにふるまうことを可能にするプロセスは,いったいどんなものなのでしょう.

 2. 環境は複雑である.古典モデルでは,食物はパッチ状に分布しそのパッチ内では均一あるいはランダムに分布しているという単純な空間パターンを前提にしています.しかし近年,実際の食物はもっとちがった形で分布しているという見方も広まっています.たとえば,パッチ状に分布している食物を拡大すると,一様に食物が分布しているのではなくいくつもの小さなパッチがあり,さらにそのパッチを拡大するとやはり食物は一様に分布していない... と言うような.このような環境下ではたして動物はどのように採食すべきなのでしょうか.

 3. 尺度は相対的である.2からさらに問題は広がります.たとえばぼくたちが周りの景色を見るとき,近くのものは細かい尺度(解像度)で見ているのに対し,遠くのものは粗い尺度で見ています.そして,仮にあなたが上の2で説明したような世界のA地点にいるとしてください.あなたはA地点から1m以内については数cm単位の尺度で食物の空間パターンを認知できますが,1km離れたB地点では数10m単位でしかパターンを読みとれません.一方B地点にいる人は,その逆の形でパターン認識していることになります.つまり,A地点にいるあなたと,B地点にいる別の人は,同じ食物を見ているにも関わらず,違う空間パターンを認識することになるのです.実際の動物も,このような形で情報認知している可能性は高いのではないでしょうか.
 かつての採食モデルは,一つの尺度,たとえるなら空からそのモデル界を眺める超越者の絶対尺度にだけもとづいて計算を行っていました.しかし,この絶対尺度をとりのぞき,個体それぞれに尺度を持たせてみるのです.そこから,いったいどのような行動パターンが予測できるのでしょうか.

 4. 個体ベースモデルの普及.意外と歴史の古いこのモデルが生態学の世界に普及したのは,1980年代後半からです.狭義の個体ベースモデルの最大の特徴は,コンピュータ上につくられた個体がその近くの他個体とだけ食物をとりあうような局所的相互作用を容易につくり出せることと,体重などの個体差を組み込みやすいこと,の2点です.このモデルの普及によって,数理モデルなどではモデル化が難しかったプロセスも容易に扱えるようになりました.たとえば,個体それぞれの状況に応じて自分の行動を選ばせることができます.1で説明したような体内や行動レベルのプロセスを取り入れ,それが行動パターンにどう影響するのかを調べることも可能です.

  5. 保全をテーマにした研究の増加.ここ数年「行動研究がどのように保全に貢献できるか」というテーマをあつかった総説や本がいくつも発表されました.これらを読むと,第一線で活躍する行動研究者たちの保全に対する情熱と使命感を感じます.そして,保全に関わる課題の中には,動物行動の理解を深める上でも重要な問題が多いこともわかります.たとえば採食行動に関係したものでは,採食パッチ選択など行動レベルの現象と個体群レベルの現象を古典的理論の枠組みで統合し,生息地分断化などが個体群動態にどう影響するのかを予測する試みがあります.これらの試みもまだ始まったばかり.たくさんの未解決問題がぼくたちの挑戦をまっています.

 説明不十分な点も多々ありますが,しばらくのあいだ,ぼくは主にこれらの視点や手法,問題意識をもって研究を進めたいと考えています.この欄の性質も考え引用はしませんでした.ご意見や質問など,お待ちしています.(東大・農学生命科学研究科・生物多様性科学研究室)


各種委員会より

鳥学会誌投稿者へのお願い

江口和洋(編集委員長)

 最近,鳥学会誌への投稿が増え,論文の質量ともに向上して,編集委員会としてはこのうえない喜びです.その一方,様式を逸脱した原稿も多く,編集の際に不必要な時間を割くこともしばしばです.様式を整えることは編集者の仕事を軽減してくれます.投稿者のほんのちょっとした心配りが,編集者の時間と労力の節約に大きく貢献します.原稿を封筒に入れる前に,今一度,投稿の手引きを読んで,形式が整っているかどうかご確認下さい.特に気を付けていただきたいことを上げておきますので,会員の皆様の御協力をお願いします.

1.全般について

1)愚直に,投稿の手引きに従って下さい.疑問が生じたら,編集委員長にメールかファックスを下さい.

2.本文について
1)1ページ当たりの行数を守って,必ず,ダブルスペースにして下さい.レフリーが書き込みをする行間が必要です.
2)欄外見出しを忘れないこと.
3)文献リストの形式については,投稿の手引き,最新号などを参照して,形式を逸脱することのないように注意して下さい.
4)字体指定を忘れずに.
5)図表の位置を欄外に記入して下さい.

3.表について
1)大きな表は出来るだけ避けてください.
2)標準偏差や標準誤差付きの数値は「±」で縦を揃えてください.
3)表は必ず1枚ずつに書いてください.

4.図について
1)縮小を考えて,文字や線を出来るだけ大きく書いて下さい.
2)パターンは出来るだけ大きなものを選び,パターン間の違いの大きな組み合わせを選びます.細かい網目は消えることが多いので避けて下さい.
3)コンピューター作図の場合は,カラーで作成しグレースケールで印刷したものを,そのまま使用しないで下さい.白黒のコントラストを大きくして下さい.
4)実際に4分の1程度に縮小して,線や文字などの大きさが十分か確かめてください.
5)図は必ず1枚ずつに描いてください.

5.原稿の送付について
1)修正稿を送る場合はレフリーの書き込みのある旧稿やレフリーのコメントのコピーなども忘れずに同封して下さい.
2)校正ゲラを送り返す場合は原稿も忘れずに同封して下さい.

6.連絡等について
1)投稿後2ヶ月以上編集委員会から連絡がない場合は必ず問い合わせて下さい.
2)レフリーの判定を受けて原稿を修正する場合は3ヶ月以内に修正稿を送るようにお願いします.3ヶ月以上を要する場合は予め連絡をお願いします.

7.鳥学会誌原稿送付先の変更
鳥学会誌編集委員の交代にともなって,2000年1月1日より,原稿の送付先は以下の住所に変更になっています.鳥学会誌へ原稿を投稿される方はご注意下さい.

【新投稿先】〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
 九州大学大学院理学研究科生物科学専攻
  江口 和洋 電話:092-642-2625
        ファックス:092-642-2645
        e-mail : kegucscb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp


掲 示 板

第2回Asian Raptor Research & Conservation Network(ARRCN)シンポジウムのお知らせ
 ARRCNは,アジア地域を中心にした猛禽類研究者,保護関係者によるネットワークで,1998年滋賀県で開催された猛禽類国際シンポジウムより発足しました.第2回ARRCNシンポジウムは,インドネシアジャワ島で開催されます.日本からも多くの方に参加していただきたいと思います.期日:2000年7月25日〜27日(うち1日はエキスカーション),場所:インドネシアジャワ島・バンドン市内,参加費:ARRCN会員は無料(会員外はUS$10),発表:口頭発表・ポスター発表,抄録締切:2000年4月15日.なお,学生で発表が認められた方には,航空運賃が支給されます(International Student Grant)ので,ふるってお申し込みください.(既に期日は過ぎていますが,発表を希望するかたはARRCN事務局までご連絡ください).
 問い合わせ:ARRCN事務局(村手) 〒537-0014 大阪市東成区大今里西3-14-16-301 FAX:06-6972-7169 E-mail:arrc-n@mwa.biglobe.ne.jp

2000年鳥学会大会案内
 時期:9月15日(金)-17日(日)
 場所:北海道大学法学部(札幌)
 シンポジウム:森と鳥の生態学(江崎保男(オーガナイザー),江崎保男,日野輝明,村上正志(演者))
 問い合わせ:北海道大学農学部 綿貫豊(tel:011-706-3690, ywata@res.agr.hokudai.ac.jp)

2002年IOCへのお誘い
 1昨年8月に南アフリカのダーバンで開かれた国際鳥類学会(IOC)の記憶はまだ新しいものですが,IOC委員会は次回2002年の大会に向けてすでに準備を進めています.次回大会は,中国の北京で開催される予定です.会期は8月11日から17日,会場はBeijing International Convention Centerです.現在,シンポジウムやPlenary lectureなどのプログラムの検討に入っており,今年6月には北京で第1回の準備委員会が開かれる予定です.アジアで国際鳥類学会が開かれるのははじめてのことで,この大会にはいろいろな期待が寄せられています.
 次回大会の概要は,すでに立ち上がっている大会のコンピュータ・ホームページ上で知ることができます.アドレスはhttp://www.ioc.org.cnです.一般情報のほか,会場,ツアー,ホテルなどの案内が記されています.今後,新しい情報が逐次このホームページ上で紹介される予定ですので,ぜひごらんください.この大会をきっかけに,中国や日本をふくめたアジア諸国の鳥類学のさらなる発展が望まれています.日本からも数多くの方が大会に参加されることを望みます.(樋口広芳・国際鳥類学会評議委員)

NAAG 2001
10th North American Arctic Goose Conference
Quebec, Canada, 3-8 Apr 2001
[Information] http://www.unites.uqam.ca/dsbio/naag/

博物館企画展のお知らせ
 「シーボルトの愛した日本の自然-紫陽花・山椒魚・煙水晶」 3月18日から6月18日まで(月曜日休館)場所:茨城県自然博物館 茨城県岩井市大崎700番地 オランダ・ライデンから日本初公開のシーボルト標本や著作を中心に展示してあります.

書籍販売
 新潟で行った希少猛禽類シンポジウムの報告書「希少猛禽類の管理」の残部があります.内容は,米国西部の細分化された森林におけるオオタカの管理,英国におけるオオタカの復元成功例,カリフォルニアコンドルの保全計画を基にした猛禽類の保全計画,イヌワシの生息環境管理試案です.価格は1部  4,000円(送料込み).購入希望者は下記に申し込んでください. 〒950-2102 新潟市五十嵐二の町8050,新潟大学大学院自然科学研究科造林学教室,倉品,大石,樋口

記者発表
 4月3日,中村・鳥類保護委員長と石田の二人が,環境庁記者クラブで以下のとおり(要約)記者発表した.
 日本鳥学会は,昨年秋の年次総会において採択し,防衛庁長官に手渡した「沖縄島在駐米軍北部訓練場内ヘリパッド移設計画の見直しの要望書」を英訳し,この夏にサミット会議のために来沖が予定されているクリントン大統領に,会長の親書とともに郵送した.そのなかで,米軍基地が自然環境の保護に果たしてきた役割に一定の評価を与え,今後はますます環境保全に留意し,貢献していくように訴えると同時に,やんばるのヘリパッド建設計画の検討についても大統領の適切な対応をお願いした.なお,本学会では,引き続きアメリカ鳥学会およびアメリカの鳥学者たちに,この件について大統領に留意をうながす手紙・電子メールを書いてくれるよう要望する活動をつづけていく.
 ※要望書・英文・親書と関連する情報は,日本鳥学会鳥類保護委員会のホームペーにおいて公開されている.
 http://forester.uf.a.u-tokyo.ac.jp/~ishiken/osj/hogoi/yambaru.html

山階賞・山階博士生誕100周年講演会のお知らせ
 今年は山階鳥類研究所創設理事長・所長の山階芳麿博士生誕100周年です.これを記念して山階芳麿賞授賞式と受賞記念講演および山階芳麿博士生誕100周年記念講演を下記の予定で開催します.
 日時:6月17日(土)午後2時より
 場所:国立科学博物館新宿分館4階講堂
 内容:山階芳麿賞の授賞式 帯広畜産大 藤巻裕蔵博士
    受賞記念講演演題 エゾライチョウ
   山階芳麿生誕100周年記念講演会