高橋 満彦
私の専攻は環境法である.研究対象は,生物多様性の保全であるが,鳥学ニュースに法律屋が記事を書くのは初めてだろう.まして,巻頭言など.(でも最後まで読んでくださいね.)しかし,「鳥類保護への学術的貢献」は鳥学会の目的に掲げられており,1999年と2000年大会で,私は移入種規制に関する発表を行った.最初は反応が心配だったが,熱心に質議される会員が多く,かなりの手応えを感じた.考えてみれば,保全生物学は学問領域として確立されたが,その成果を社会に反映するには,法律を筆頭とする社会的装置がなくてはならない.極端な話,私が国立公園にマングースを放して回っても,現行法では犯罪にはならないのである.保全生物学的手法を活かした社会的装置を構築するためには,法律や政策と生物学の双方に通じた人間が必要であり,そうありたいと願っている.
とはいえ,私も最初からそんな崇高な志を抱いて,研究を始めたわけではない.また,「専業」の研究者でもない.私は,米国ですごした少年時代からの鳥好きで,大学時代は,最近は「絶滅危惧種」となった大学野鳥の会に出入りし,公害問題も扱う行政法のゼミに所属していた.しかし,卒業後,企業に就職し,趣味として野鳥観察を続けてきた.大学院へは,入社11年目社会人入試で入学したのである.「兼業学生」なのである.余談になるが,「どうやって会社勤めと両立させるのか」と驚かれることがある.確かに,綱渡りが続くことも多いが,入社十年を経て培った「サボリーマン」としての器量,いや,要領であろうか.それともちろん,集中力である.「専業になればもっと論文が書けるのに」と思うことはある.夜学は制約だらけである.しかし,企業勤めは,視野が広がり社会科学を学ぶ者として,プラスの面も多い(民営化の論文も書いた).また,霞ヶ関の方々と仕事をする機会もあり,中央官庁の行動パターンを体得することができた.貴重な経験である.さらに,生活の心配がないので,純粋に自然保護の役に立つ論文が書ける.法学者としての就職だけを考えれば,野生動物の論文ばかり書いてはいられないだろう.それこそ,皆さんが読めばジンマシンが出るような奴を書かなければいけない.とはいえども,今年はD2,会社勤めとの両立も4年目となり,かなりきついのも事実である.
さて,本題である研究の話に戻るが,修士課程では,移入種規制に関する内外の法制度を調査し,米国の法律雑誌等を渉猟して修論を執筆した.鳥学会の皆さんは,移入種問題についてはよくご存知であろうが,法的な対策は,乱獲防止などに比して,著しく遅れている.(公表しなければ意味がないが,私の修論は,本邦初の移入種に関する法律論文だろう.)「社会的コンセンサスが形成されなければ」と言われるが,ことに環境問題に関しては,取り返しのつかない環境破壊が発生してからでは遅い.予防が肝要なのである.例えば,ドイツ環境法では,三大原則の一つに予防を上げている.
予防の重要性は,移入種問題に当てはめてみると,非常にわかりやすい.外来種の生態系に与える影響は,未知であることが多いが,一旦,悪影響が発生すると取り返しがつかない.生物は増殖するため,他の環境破壊因子に比して,より一層,予防が必要である.奄美のマングースのように蔓延してから駆除するよりも,水際で止める方が,経済的でもある.本来,外来種の移入は一律的に禁止し,やむを得ないもののみ許可することが望ましいが,なかなか困難である.欧米では,危険な侵入種のリストを整備し,その導入を禁止する方向にある.日本でも,検疫の強化や,鳥獣保護法で危険種の輸入規制等を行うべきである.しかし,WTO体制のもとでは,それとても容易ではない.どのような法政策が可能であろうかが,国際的な課題である.
移入種問題を含む環境問題に対して,どのような対策を講じるかという点で,自然科学者と同時に法学者の責務も重大である.法律がからむからである.その文脈では,前号にも話題が上がったが,鳥獣保護法は立法論的にも問題の多い古い法律である.そして鳥獣害などでやっかいな問題も多いため,私は敬遠していたが,一昨年の法改正問題を機に,いや応なしに関わることになった.しかし,鳥獣保護法の研究は,人と鳥獣の関わりを考えるのに非常によい材料である.我々自然愛好家は,自分たちが密接に自然と関わっていると思っている.しかし,本当にそうであろうか.都会で日々寝起きし,アウトドアは週末の関心事ではないだろうか.都市化と農業の衰退と共に,人と自然の全人格的関係は薄まっている.自然は,その使用価値に注目し,地域の「コモンズ」として持続的に管理するものから,都市住民の貨幣価値に置き換えられつつある.従って,伝統的自然観の良さを見直すことが大事であるとともに,何らかの新しい法秩序の再構築も必要である.昨年末,ケニアに足を運んだ.観光資源である野生動物の管理体制には感心したが,植民地だからできたのか,遊牧社会だからできたのか.わが国に適した制度は何であろうか.
さらに,野生動物を法的に研究すると,野生鳥獣は誰のもの,自然愛好者はどのような「権利」を持っているのか,動物自身に「権利」はないのか,などの難問にも突き当たる.民法では,野生動物は無主物で捕獲した者の所有物となる(無主物先占).このことを日本に野生動物管理がない根拠として批判する動物学者がいる.反面,昨年私が某メーリングリストで,「野生動物は国民共有の財産で,行政に管理が信託されているとすべき」と発信したところ,「野生動物を人間の所有物扱いにするのはけしからん」と某NGO活動家から激しく非難された.この学者も活動家も,一面の真実を突いてはいるものの,法律用語に振り回されていると言えましょう.もちろん法律研究が鳥学会の中心になることはないだろうが,縁の下で大事な役割を担っていくと信じている.もし,何らかの情報提供,意見,ご相談などあれば,気軽に連絡していただきたい.一緒に考えましょう.(早稲田大学大学院法学研究科・e-mail: BXR05671@nifty.ne.jp)
PICES国際会議に参加して
出口 智広
海鳥類は一般に,少産,長寿で,飛行,潜水など高度な移動能力を有し,繁殖コロニーを形成するなど,生理学・生態学を学ぶ者にとって,非常に面白い特徴を持った動物である.筆者も,共同研究者らとともに北海道北西部に位置する天売島において,ウトウを中心とする海鳥の調査研究を行っている.今回は海鳥類のこのような興味深い特徴から視野を広げ,海鳥類を含む大型海洋動物と海洋生態系の相互関係の研究アプローチについてお話ししたい.近年の海洋生態系の変化は,需要増加に伴う水産生物の莫大な漁獲圧と,レジームシフトやエルニーニョなどの地球規模での気候変動によってもたらされたものと言える.そのため,水産資源学,海洋生物学の分野では「海洋生物資源の持続的利用」と「海洋生態系の多様性維持」は最も重要な課題となっている.
2000年10月に,函館で開催された北太平洋海洋科学機関(PICES)の国際会議では,海鳥類,海獣類(鯨類・鰭脚類)の個体数および捕食量を推定するワークショップが開かれ,筆者も参加した.PICESとは,海洋における資源開発や環境問題の把握にとって学際的な研究および国際的な協力が必要であると言う視点から,北太平洋域を対象として設立された機関であり,カナダ,日本,中国,アメリカ,ロシア,韓国が参加している.この会議の中で,海鳥類・海獣類に関する情報は,主に以下の2つの目的から必要とされている.
一つは,海洋生態系内で海鳥類・海獣類が果たしている役割を明らかにすることである.彼等は海洋生態系内の高次捕食者として位置付けられており,北太平洋域では,135種を超える海鳥類が2億羽以上,47種を超える海獣類が1千万頭以上生息すると推定されている.このように,多様な種と多くの個体数から構成される彼等が生態系内で果たしている役割は非常に大きいことが予測される.最近の研究報告では,彼等の捕食が餌生物となる小型魚類の資源量変動に影響を及ぼしていることが指摘されており,海洋生態系の構造を変化させる要因の一つとして考えられ始めている.
もう一つの目的として,重要水産資源をめぐる彼等と漁業活動の競合関係の有無について明らかにすることがあげられる.前述したように,近年の海洋生態系の変化は,人間の特定水産資源の漁獲圧によるところが大きい.この急激な変化に対し,フレキシブルな対応が可能な種では,競合している餌種,採餌場所を切り替えることも可能である.しかし,様々な制約を持つために,切り替えが成功しないあるいは不可能な種も存在する.例えば,イギリス北部のシェットランドで繁殖していたキョクアジサシがあてはまり,彼等は周辺のイカナゴ漁業の増加に伴い,繁殖場を放棄している.このように種レベル,個体群レベルでの反応に違いはあるにしても,海鳥類・海獣類全体の捕食量は,その体の大きさおよび個体数の多さから莫大な量が推定されている.太平洋域における海獣類の年間捕食量は,同海域の総漁獲量の3倍(1億5千万t)に匹敵するという報告されており,海洋資源を食料とする我々にとって決して無視できる値ではない.海洋生態系において重要な役割を担っていると考えられる海鳥類・海獣類を保全,管理するためには,様々なスケールで漁業との競合関係を明らかにすることが非常に重要と言える.
現段階では,これらの目的を明らかにするための情報が多く欠けており,限られた情報からの個体数および捕食量の推定方法もまだまだ不正確さを含んでいる状態にある.しかし,その一方で,彼等の採餌繁殖生態や体組織成分の情報から,餌資源およびそれらを取り巻く環境について,長期的・短期的に起こる変動の有効な指標を導こうとするアイデアも取り入れられつつある.筆者も海鳥の採餌繁殖生態と海洋環境変動の関係について研究しており,様々な時間スケールの環境変動に対して海鳥の反応様式を明らかにすることは,非定常である海洋生態系の構造の理解につながると考えている(北海道大学農学部 動物生態学教室).
2002年第23回国際鳥類学会大会のお知らせ
鳥学ニュース75号でお知らせしたように,第23回国際鳥類学会大会は2002年の8月に北京で開催されます.現在,すでに第1回大会案内が出版されており,大会のホームページ上でも(http://www.ioc.org.cn)大会日程,会場案内,特別講演やシンポジウムの内容,参加申込みや講演要旨の締め切り日などが公開されています.関心のある方や参加を予定されている方はぜひご覧ください.概要を以下に記しておきます.
●期日:2002年8月11〜17日
●場所:北京国際会議場(Beijing International Convention Center)
● 参加申し込み: 2001年10月に配付または公開される予定の第2回開催案内に申し込み書式がつけられる予定.
参加申し込みの開始: 2001年11月1日
開始前申し込み終了: 2002年5月31日
●参加費用:US$420(2001年12月31日まで),US$460(2002年5月31日まで)
●予定されている特別講演の演者と題目
1.Walter Bock, USA, Three Centuries of International Ornithology: History of the Ornithological Congresses
2.Roberto Cavalcanti, Brazil, Bird Conservation in South America
3.Rosemary Grant, USA, Evolution of Galapagos Finches
4.Carlos Herrera, Spain, Frugivory and Seed Dispersal
5.Kirk C. Klasing, USA, The Avian Immune System: Nutritional Costs of Ownership and Use
6.Patricia Monaghan, UK, Resource Allocation and Life History Strategies
7.Roald Potapov, Russia, Adaptations to High Altitude in Eurasia
8.Henri Weimerskirch, France, Population Dynamics of Seabirds
9.John Wingfield, USA, Arctic Spring: Hormone-Behavior Interactions in a Severe Environment
10.Zhou Zhonghe, PRC, Mesozoic Birds of China
三宅島
山本 裕
三宅島は,東京から南南西へ約180kmの太平洋上にある周囲約35km,面積約55平方km程のほぼ円形の火山島である.古くから火山活動が活発な島で,記録に残っているだけでも1085年以来,2000年噴火を含めると計15回の噴火が起きている.標高450m付近以下では,スダジイを中心とした照葉樹林が比較的まとまって残されており,日本固有種のアカコッコ,イイジマムシクイ,コマドリ(タネコマドリ)を始めとして,本州の亜種とは別亜種になっているシチトウメジロ,オーストンヤマガラなどの野鳥や日本周辺の島々とアジアの東縁部に分布が限られているカラスバト,カンムリウミスズメ,ウチヤマセンニュウなどの野鳥が生息している.固有の野鳥の生息に加えて,本州の鳥類相とは異なり,近縁種が繁殖していないことや,島という独自の環境の中で生態面でも本州の鳥とは異なっており,例えば,オーストンヤマガラでは本州のヤマガラに較べて産卵数が少ないことや巣立ちビナの餌ねだりの期間が長いこと等が報告されている(樋口 1976:樋口・百瀬1981).また,野鳥以外にも伊豆諸島固有のオカダトカゲや数多くの植物の変種,固有の海水魚が見られ,生物多様性の保全の点からも重要な島である.
この三宅島の南側の大路池のそばに,三宅島の自然を活かした観光や自然教育の拠点として,三宅村が「三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館」を開設したのは1993年のことである.以来,当施設では,より多くの人が三宅島の自然を体験し,その価値について理解することが三宅島の自然保護につながるとの考えから,1)自然体験の機会の提供とプログラムの充実,2)希少種の保護に必要な基礎的な情報の収集,3)三宅島の自然の魅力を伝えられる人材の育成の3点に重点を置いた活動を行ってきた.年間約80回の自然観察会やセミナー等を開催し,来館者に三宅島の自然を体験する場を提供するとともに,生物季節調査や生物相調査を基にしたニュースレターの発行やホームページによる自然情報の発信を継続して行ってきた.また,自然を活かした観光が島の自然保護につながるという考えから,エコツーリズムの概念の積極的な導入も行っており,1998年には国際シンポジウム「エコツーリズムと島の鳥」を開催し,島にすむ野鳥の貴重さや保護の必要性をアピールし,目的志向のある観光や三宅島へのリピーターの増加を目指してきた.
こうした活動に加えて,希少種保護のための基礎的な情報収集として,三宅島の南西約10kmのところにある大野原島で繁殖するカンムリウミスYメの洋上分布調査を1995年以来行っている.調査は決められたコースを漁船で航行しながらカウントを行うもので,これまでの調査からは個体数の推移の明確な傾向はつかめていないが,1995年以降幼鳥が観察されておらず,繁殖地への上陸調査からは親鳥や卵への捕食圧が高いことがわかっている.その原因としては,繁殖地近くの岩礁で釣り人が捨てる釣り餌やゴミがハシブトガラスを誘因している点が挙げられ,施設のボランティアグループ「三宅島自然ふれあい友の会」の方と協力して,立て札やチラシ等の作成による釣り人へのマナーの徹底を進めていた.
1996年以降は,特に島内の小中学校と連携しつつ,身近な自然の観察や野鳥観察を実施してきた.例えば,ツバメの島内での繁殖数の把握を生徒と共同して行ったり,校外学習の講師として,季節を通じて学校周辺で野鳥観察を行うなどの活動を行っている.島という限られた空間では,野鳥の分布状況や渡りの様子をイメージしやすく,環境との関係も理解しやすい.また,身近な自然を知ることを目的に,友の会の方と協力して,アオバズクの分布調査やタイドプールの海水魚類相の調査を実施している.地域の自然を自分たちで調べていくことは,自然への認識を深め,延いては地域の将来を変えることにつながるのではとの思いがある.
現在,アカコッコ館は2000年6月下旬に始まった火山活動のために一時休館している.今回の噴火は,昭和に起きた過去3回の噴火に較べると大規模で,粒子の細かな大量の火山灰と火山性ガス(二酸化イオウや塩化水素等)の噴出や山頂の陥没が起きたことが大きな特徴である.山頂の陥没は約2500年ぶりの出来事で,これによりウチヤマセンニュウの島内で最大の繁殖地が消失した.灰の体への付着により,イイジマムシクイやメジロなどが死んだり,カラスバトやカワラヒワが保護されるケースがあった.野鳥への直接的な被害に加えて,生息地の森林の消失が山頂附近や島の北側から北東側にかけてかなりの面積で起きている.全島避難直前の観察では,メジロなどの一部の鳥では,生息地の森林の状態が悪化したことで,比較的被害の少ない場所への移動が示唆されている.9月中旬以降,地震や火山灰の噴出は収まりつつあるが,火山性ガスはなおも一日数万トン規模で噴出している.今回の噴火の野生生物への影響は,今後安全が確保され次第,早急に調べていきたいと考えている.((財)日本野鳥の会サンクチュアリセンター)
カムチャッカ・バードウォッチングツアーへのお誘い
カムチャツカは野鳥の宝庫です.ヤマウズラ,オオライチョウ,ハクチョウ,ハト類,カラス類,カササギなどは一年中生息します.ガン類,カモ類は毎春巣作りに渡ってきます.海辺の浜や断崖にはカモメ類,ウミガラス,エトピリカが舞っています.ロシア科学アカデミー極東支部に属するエコロジー自然管理研究所の鳥類学者たちは日本からのバードウォッチャーを歓迎します.案内にたつゲラシモフ博士親子,アルチューヒン博士,レブロフ博士たちは,フィールドワークの経験豊富でバードウォッチャーたちを失望させることはありません.広大なカムチャツカにはバードウォッチングのポイントはあちこちにありますが,今年は次のようなプログラムが用意されています.カムチャツカへは7月15日から毎週日曜日発の臨時便がカムチャツカへむけて飛びます(新潟発着−最終は9月2日).
1)カムチャツカ西海岸(5月15日−6月10日,8月1日−9月20日,Red-throated Loon, Arctic Loon, Red-necked Grebe, Bean Goose, Green-winged Teal, Eurasian Widgeon, Pintail, Greater Scaup, Oldsquaw)
2)カムチャツカ東海岸((5月15日−6月10日,8月1日−9月20日,Pelagic Cormorant, Green-winged Teal, Harlequin Duck, Red-breasted Merganser, Dunlin, Eastern Curlew, Wimbrel )
3)巣作りの鳥たち(6月−7月,Red-throated Loon, Arctic Loon, Green-winged Teal, Tufted Duck, Dunlin, Common Snipe, Mew Gull, Common Tern, Oriental Cuckoo, Yellow Wagtail)
4)町の近所で(6月−7月,Red-faced Cormorant, Tufted Duck, Dunlin, Common Snipe, Common Black-headed Gull, Slaty-backed Gull, Mew Gull, Murre, Pigeon Gullemot)
問い合わせ先
(株)カムチャツカ開発
東京都千代田区富士見1-3-5 NTハイム富士見1F
Tel; 03-3222-9484 Fax: 03-3222-9485 e-mail: kamchatka@nifty.com
ホームページ:http://homepage2.nifty.com/kamchatka-japan
「鉛弾規制でオオワシ・オジロワシの鉛中毒は防げるか」に対する現場からの意見
玉田 克巳
前号(No.77)で風間辰夫氏から鉛弾規制について貴重なご意見をいただいた.私は多くのワシ類が収容されている釧路に住んでおり,鳥類の保護にも強い関心を持っている.また業務としてエゾシカ問題にも深くかかわっている.今回はこの立場から現場の意見と規制の背景について述べたい.
風間氏の意見は鉛散弾の規制の重要性に力点がおかれているように感じる.1999〜2000年の冬に保護収容されたワシ類31羽のうち,水鳥用鉛散弾が原因と断定されたのは1例であるのに対し,シカ猟が原因と断定あるいは推定された収容数は15例であった.近年急増している鉛中毒症は,シカ猟に用いる鉛ライフル弾が主要な原因である.今回は急増しているワシ類の鉛中毒の問題を中心に述べていきたいので,鉛散弾の詳述は割愛する.
北海道では知事の権限で2000年度猟期からシカ猟に用いる鉛ライフル弾の使用を禁止した.規制の背景は以下のとおりである.ワシ類の鉛中毒が報告され始めたのは1997年ごろからで,北海道庁が「原因が鉛ライフル弾である」と特定したのは1998年8月である.規制まで2年の歳月を要した.アメリカ合衆国で水鳥の鉛散弾が全面規制されたのは1991/1992年猟期であるが,鉛中毒自体は1874年から発生しており,対策がとられるまで実に1世紀近くの年月が経っている.また国内では1980年代から水鳥の症例が報告されているが,未だに全面的な規制はされていない.単純な比較はできないものの,鉛散弾の対応と比べると今回の鉛ライフル弾の対応は早かったと思う.
鉛ライフル弾を完全に銅ライフル弾に切り替えることができれば,この問題はほぼ解決できることは自明である.しかし,法的な規制に時間を要したことは,(1)銅ライフル弾が普及していなかったこと,(2)銅ライフル弾の性能が未知であったこと,(3)ヒグマへの対応の3点があげられる.約200人のハンターを対象にした北海道庁のアンケート調査では1998年11〜12月の銅ライフル弾の所持率はわずか3%であった.この段階で鉛ライフル弾の使用を禁止すればエゾシカ猟は破綻する.翌1999年11月に約80人を対象に同様のアンケート調査を実施した結果,所持率は約40%,銃砲店からも相当数の銅ライフル弾を輸入している情報を得ていた(日本のライフル弾はすべて輸入品である).また「銅ライフル弾は鉛ライフル弾に比べて性能が劣る」という風評が出ていた.私はハンターではないので詳しいことはわからない.しかし,銅と鉛は比重が違う.同じ大きさの弾頭を同じ火薬量で使用すれば,引力などの影響は異なり,着弾点が異なることは予想ができる.また銅ライフル弾と鉛ライフル弾は獲物にあたった時の弾の炸裂状況が異なることから,殺傷能力に違いがあることも理解ができる.そして北海道にはヒグマが生息しており人身事故は毎年のように起きている.ヒグマ害が発生したとき,ハンターたちは緊急の出動要請がかけられ,文字通り命懸けでヒグマと対峙する.この命懸けの対峙に際して,性能に不安が残る銅ライフル弾を使えとは言えない.この点で規制がシカ猟に限定されたことは,現状ではやむ終えない措置であると思う.
今回の規制は北海道内だけであり,この点では風間氏の指摘されるとおりである.クマタカやイヌワシがシカの残滓を食しているという観察例もあることから,本州以南でもワシ類とそれ以外の鳥類に鉛中毒が浸潤するおそれは充分ある.他都府県でも早期に対策が講じられることを私は望んでいる.また上述の規制はヒグマなどの狩猟は対象外である.このため,山野でハンターが鉛ライフル弾を所持していても違反ではない.この点でも風間氏が指摘するとおり検挙は難しいかもしれない.ただし,検挙が困難であるから規制をしないということでは,問題は解決に向かわないと私は思う.
北海道では2000年度から鉛ライフル弾の使用が禁止されたことは,ワシ類の鉛中毒問題を考える上では大きな山場を一つ乗り越えたと思っている.これは行政のみならず,ワシ類鉛中毒ネットワーク,北海道猟友会,エゾシカ協会などが事態を深刻な問題と認識し,それぞれの立場で,問題解決にむけて考え,行動してきた成果だと思う.しかし私は,そして私以外の,現場で活躍している行政,NGOの諸氏もこの規制でこの問題がすべて解決できたとは認識していない.今後も現地の情報をできるだけ詳しく集めながら,今後の対応を考えていきたい.最後に,この問題やシカの問題に関わっていて感じていることは,問題点だけを羅列する批評が非常に多いことである.問題点の羅列は問題を再認識する上ではありがたいことである.しかし私としては問題点の羅列だけではなく,改善策を明示すること,さらにその改善策を実践していくことがもっとも重要であると考えている.(北海道環境科学研究センター道東地区野生生物室)
事務局より
<会費振り込みのお願い>
ニュースNo.77に郵便局の払い込み票を同封しましたが,2001年度学会費納入がまだお済みでない方は速やかに送金して下さい.ラベルの会費納入状況をご確認下さい.3月31日までに2000年度の会費が未納の方は自動的に退会となりますのでご注意下さい.
今年は学会の役員選挙の年です.3月末日までに会費を納めた人が被選挙権を持つことになりますので,滞納のないようお願いします.
<お礼>
次の方々よりご寄付をいただきました.紙面を借りてお礼申し上げます.(以下名前の順です)
杉浦 邦彦,柴田 敏隆,谷口 一夫,田村 耕作,作山 宗樹,武下 雅文,穴田 哲,小森 厚,柳澤 紀夫,新田 宗仁,渡辺 央,浦野 栄一郎,(株)トーニチコンサルタント環境計画部,永田 尚志,長谷川 宏行,渡辺 健三,匿名一件(2000.12.31まで,敬称略)
<お尋ね>
中島 朋成(敬称略)
以上の方の住所が不明です.事務局までお知らせ下さい.
編集担当より
○先の札幌大会の総会で2001年度で鳥学ニュースを廃止することが決まりました.意見や巻頭言は新和文誌で,ニュースはホームページなどで扱われることになるかと思います.速報性と言いたい放題という鳥学ニュースの利点を生かした会員の皆様へのサービスが,これらによっていっそう充実することを願っております.
○投稿記事を募集しています.報告,意見またはお知らせなどをお寄せください.寄稿は以下の送付先までお願いします.なお,e-mailでの寄稿の際はテキスト形式でメールボックスにいれてお送りください.
【送付先】〒060-0808 札幌市北区 9条南9丁目
北海道大学 農学部 応用動物学研究室 綿貫豊
e-mail: ywata@res.agr.hokudai.ac.jp
次の締め切りは3月30日です.(綿貫)