河田 雅圭
編集委員の綿貫さんから、鳥学会ニュースの原稿を依頼され、この原稿を書くことになった。しかし、私は、鳥学の会員ではないし、鳥学会に一度も参加したことはない。現在、研究室の学生が鳥の研究をしているし、私自身、鳥の研究の経験はあるが、鳥に対してそれほど思いいれはない。しかし、私にとって、私の学生に、他の学会と日程が重なっているときに「鳥学会なんて参加しなくていいよ」と助言することが適切なのか不適切なのかは重要な問題である。
熊本で開かれた生態学会のシンポジウムの一つで、「なんでシロアリを対象とするのか」という発言があった。これは、生態学的・行動学的現象を分子レベルから解明するには、もっとやりやすい生物でやるべきだという文脈での発言である。この発言は生物のもっている共通のメカニズムを探るという意味ではもっともな発言である。しかし、逆にすべての生物は共通な面だけではなく多様な違いがおもしろのだ、と考えるとシロアリにこだわる理由も理解できる。同じように、なぜ鳥を研究するのかということを考えてみることも、自分の研究が何をめざしているのかを確認する上でも重要であろう。
「なぜ鳥を研究するのか」という質問と少し意味が異なるかもしれないが、なぜ鳥学会というものがあるのだろうか?これは、鳥に限らず、哺乳類学会、昆虫学会、さらには鱗翅目学会などという目単位の学会まである。私は、学生時代哺乳類を、現在は、巻貝の研究や理論研究を行っている。しかし、哺乳類学会は途中でやめたし、貝類学会は一度も参加したことがない。現在、私の研究に関係するであろう学会として日本には、日本動物行動学会、生態学会、個体群生態学会、遺伝学会、動物学会、陸水学会など数多くある。実際に参加するのは日本動物行動学会、生態学会、個体群生態学会と3つの学会である。さらに、昨年度からは日本進化学会が発足し、参加する学会は増加する一方である(本年度の進化学会は鳥類学会と場所も日程も重複しているらしい)。このように様々な学会があるという現状で、鳥学会といったような分類群ベースの学会はどのような意味をもつのだろうか?(冒頭に述べた学生は、鳥学会がきっかけで結婚できたというメリットがあるようだが。)
現在、私の研究の主要なテーマの一つが、生物の多様性がどのように進化してきたかということである。このテーマに関しては、優れた鳥の研究がある。やはり最も有名なのがグラントらによるダーウィンフィンチの研究だ。この研究は、日本でも『フィンチの嘴』という訳本で紹介されているのでよく知られている。また、種分化に関わる鳥の研究は、今年にはいって、2つの論文がNatureに掲載されている。一つは、Irwinらによる
ring species の論文(Nature 490:333-337)、そしてPodosによるダーウィンフィンチの嘴の適応がさえずりを変化させ交配前隔離の進化につながっているという論文である(Nature
409: 185-188). また、生態学では古くはD.ラック、R.マッカーサーらの有名な生態学者による鳥の研究があるし、動物行動学にしても、ティンバーゲン、ローレンツらの有名な研究は鳥を対象としている。このように、多くの生物学の分野において鳥を対象としていない研究者にもアピールする鳥類研究が多くなされている。鳥を研究する意義をみつけることは、それほど難しくないかもしれない。このような研究は、生態学、行動学、進化生物学関係の雑誌に投稿されることで高い評価を得る。
それでは、鳥を研究対象とする研究者が学会をつくる意味はどこにあるのだろうか?鳥の研究者の多くの部分は、その研究動機が、生態学や行動学の研究をめざしたのではなく、鳥そのものの研究をしたいという人が多い;鳥類研究者のなかで「おもしろい」と感じることと他の研究者の「おもしろい」ことが異なっている場合がある;鳥類研究者どうしで話がよく合うということが多い;鳥の研究に対して、鳥類を研究しているから指摘できるアドバイスや批判がある。このようなところが鳥類学会の存在する理由かもしれない。
私が鳥を研究する学生に助言するとしたら、(1) 鳥類学者だけでなく他の一般的な分野の研究者にアピールするような研究をめざすべきである、(2)
できるだけ一般的な分野の学会に参加すべきである、(3) 鳥類のすぐれた研究は、鳥類関係の雑誌ではなく、一般的な雑誌に投稿するようにする、ということだろう。その観点から、鳥学会に要望があるとすると(1)鳥類学会を他の学会、たとえば進化学会、行動学会等と同じ日程で行うのは好ましくない。(2)鳥類研究者どうしが意見を述べあえるようなシンポジウムを中心として、他の一般的な学会ではできないようなディスカッションの場をつくる。それによって分類学ベースの学会の利点をいかすような大会にするべきではないのか。
鳥学会では、どこでどのような鳥の繁殖が確認されたという情報が学会で発表されたり、雑誌に短報で掲載されているようだ。このような、情報は、雑誌に載せたり、研究発表で紹介するというレベルのものではないと思う。むしろ、それらの情報を有効に利用するには、学会がコンピュータデータベースを立ち上げ、鳥の確認情報や繁殖情報、個体数などの情報を登録、利用できる状況をつくることが必要だと思われる。また、その情報を利用して保全や、生態などの解析をすることによって、アマチュアの研究者や一般の人々への情報の重要性などをフィードバックすることで、鳥学会の重要性というものが高くなると思われる。
2002年より鳥学会誌が英文誌と和文誌に分離します。英文誌第1号は2002年1月、和文誌第1号は同年4月発行予定で、それぞれ年2回発行されます。なお,現在50巻1号は印刷中で,50巻2号に掲載予定の論文はすでに決定しています。現在査読中の論文およびこれから投稿されて50巻4号刊行以前に受理になった論文は,50巻の年度内刊行を達成するために可能な限り50巻3号および4号に掲載する事にしています.もし,今年度中に投稿を予定されている方でご自身の論文を新和文誌,英文誌に掲載したいと希望される方は,投稿の際に投稿申込み票にその旨を記載しておいて下さい。 原稿は2001年12月31日までは,従来どおり,〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1 九州大学大学院理学研究院生物科学部門 江口和洋までにお送り下さい。2002年からは和文誌,英文誌各委員会の受付担当に代わります.」(編集委員長 江口和洋)
英文誌 日本を含むアジアにおける鳥類学の研究成果を国際的に 発信することを1つの目的 として,英文誌「 AVIAN SCIENCE」が新たにデビューします.第1巻第1号の1月発刊にむけて,準備委員会では現在,表紙(2色 刷)やレイアウト(A4版2段組)などの検討,特集の編集(刊行後しばらくは年1 回企画予定),外国人編集アドバイザーの依頼などの作業を進めています.国際誌化 を図るために会員外の研究者に対しても投稿をオープンにしていく方針ですが,魅力 ある雑誌にしていくためには何よりも,会員皆様からの投稿が今まで以上に必要で す.皆さんの貴重な研究成果を日本鳥学会から世界にむけてどしどし発信していきま しょう.(英文誌準備委員会代表 日野輝明)
和文誌 現在の日本鳥学会誌を継続し、より読みやすく投稿しやすい装丁と内容で、日本鳥学のさらなる発展に務めることを目指します。今までの、原著論文、短報、総説にくわえ、特集論文(大会シンポジウム、自由集会)、観察報告、技術報告、意見などを積極的にとりあげます。また、2名の専門家による査読を必要としない評論(本年度で廃刊予定の鳥学ニュースの巻頭言や意見に相当)も掲載します。鳥学会などで発表された成果をさらにひろくアピールするため、和文誌への投稿をお待ちしています(和文誌準備委員会代表 綿貫豊)
総会決議についての鳥類保護委員会の考え方
鳥類保護委員会
日本鳥学会は、1998年と1999年の総会において、それぞれ「藤前干潟の保護」と「やんばる米軍海兵隊ヘリパッドの移設計画の再検討」についての決議を採択しました。2000年度は、総会直前に1つの提案がありましたが、鳥類保護委員会において議論の結果採択されませんでした。その議論の過程で、総会決議の採択基準や手順について、もう少しわかりやすい説明を作って公表しようということになり、ここに記します。この文章は、学会の公式ホームページからみることのできる、保護委員会のページにも掲載してあります。
まず、総会決議が採択されるまでの手続きの段取りを説明します。今までにも「大会案内」の中でお知らせしていたように、手続き上2つの必要条件があります。1つは、なるべく早く、遅くとも総会の開かれる1カ月前までに、委員会宛の決議採択依頼状と決議文案を、鳥類保護委員会(中村司委員長、連絡先不明の場合には学会事務局に問い合わせください)に文章で提出すること。これらの文章は、日付や依頼元・依頼先、連絡先などの書式を整えてください。提出前に、知り合いの保護委員等の学会員と相談していただくのもよいでしょう。2つ目は、提案責任者の少なくとも1名が、できれば大会前日、必ず総会前日および総会当日に大会会場に来て、鳥類保護委員と直接打ち合わせることです。決議案を総会議題とする直前に、保護委員会および評議員会の議論を踏まえて、最終調整をし、総会資料を作成する必要があるからです。
最初の正式な依頼を受けてから、鳥類保護委員会が、依頼内容の妥当性、決議文案の適切さ(鳥学会の立場として)を検討し、必要に応じて、依頼者と情報交換や依頼内容・決議文案の内容の訂正を行います。この過程で、依頼内容を受託できない場合があります。学会前に、依頼内容が採択可能であると判断された場合には、学会として採択可能な内容であり、かつ決議をすることが有効だと考えられる最適な形にするよう、委員会内および提案者と相談して訂正を行います。総会決議案については、大会前日の鳥類保護委員会において出席委員が直接、最終の検討を加えます。
鳥類保護委員会でこうしたきちんとした議論をするためには、時間がかかります。大会1ヶ月前までに提出というのは絶対の条件ではありませんが、ぜひとも必要だと私たちが希望する時間です。
この案を、鳥類保護委員会の後に行われる評議員会に、鳥類の保護委員会からの提案として提出し、保護委員長が提案内容と採択経緯を説明します。鳥類保護委員会の提案を、評議員会において検討し、必要に応じて決議文案の内容にさらに修正を加えます。この段階で、評議員会において鳥類保護委員会の提案が否決される可能性もあります。
評議員会で採択を承認され、評議員会の訂正要求がある場合には、それにしたがって鳥類保護委員会と提案者が合意の上で総会までに修正を行い、資料を作成して総会出席者に配付し、総会の議決をうけます。通常、出席者の多数の拍手をもって採択とします。
次ぎに、保護委員会で総会決議案として採択する基準について補足します。鳥類保護委員会が提案を採択するにあたって必要条件となることは、(1)
提案(責任)者=当事者が明確であること、(2) 決議の提出先が明確でかつ適切であること、(3) 提案者が、総会決議を有効に活用して、その目的を達成する十分な実績と手段を有すると期待されること、(4)
提出先に要望する内容が明確であり、学会が決議として採択する適切性、科学的な根拠や科学的な根拠を得るための具体的な方法、あるいは方法の案があること、です。
(1)は、保護委員会が、特定の(1人の)方と直接・具体的に提案について検討することができるために必要です。
(3)〜(4)は、学会決議が、今後、ますます社会的な価値のあるものとなり、後の学会員の活動の役にたつための準備でもあります。ただし、単純にこれはだめ、これはよいという基準は示せません。検討するときの考え方の基本となることは、学会というものが多様な考え方や価値観を科学的な方法によって検討・批判しあえる場であること、学会の活動の柔軟性および多様性を損なわないこと、です。科学というのは、この世界について一つの結論を導き出すような原理ではなく、共通の議論ができるための方法だと考えるとよいでしょう。学会は、それを実践する場の1つでしょう。
例えばの話ですが、たいへん狭い地域の比較的小さい個体群の、日本全体でみるとそれほど特異的でないような鳥類や環境保護の問題であっても、要望する内容が具体的かつ妥当であり、鳥学会の活動の趣旨に沿うものであると判断されるなら、総会決議として採択する場合もありまえます。反対に、世界的に重要な環境や種と認められているものの保護に関する提案であっても、要望内容や説明が曖昧であったり尊大であったり特定の価値観に固執しているような場合には、採択できなかったり、大幅な修正を提案することになるでしょう。大幅な修正が必要な場合には、鳥類保護委員会内と、委員会と提案者の間の議論に長い時間がかかります。また、鳥類保護委員が、個人的に、提案を促す場合もあります。
鳥類保護委員会は、2年前に大幅に委員が入れ替わりました。過去の経緯も踏まえて、社会に対して責任のある自然科学者の団体として、また総会決議が「切り札」となりえるように、総会決議の課題ともとり組んでいます。このような学会の仕組みをご理解の上で、ぜひ有効に活用してください。
三宅島の鳥類の現状
岩渕 聖・清水哲也
2000年12月15日〜25日の間に計8回(延べ34時間)三宅島に渡る機会があり、主に標高の低い山麓部を全島に渡って見ることが出来たので、その間に確認できた鳥類について報告する。ただし、本来の目的が鳥類調査ではなかったため、生息状況等の詳細については確認できていない。
三宅島は昨年7月に噴火して以来、降灰による泥流発生や有毒ガス噴出が頻発したため、噴火後2ヶ月後の9月始めには、全島民が島外へ避難した。以降、新聞やテレビなどを通じてたびたび三宅島の様子が伝えられていたが、情報はどれも火山灰で灰色に染まった森が映し出されていた。そのため、島に渡る前は鳥の姿を見ることは出来ないだろうと思っていたが、いざ島内を歩いてみると意外に多くの鳥類が生息していることが確認できた。島内及び港(海上)で確認できた鳥類は以下に
示す19種であった。なお、種名の後ろには踏査した16ヶ所中の確認箇所数を示した。ウミウ:1、トビ:4 、ノスリ:2、ハヤブサ:1、ウミネコ:1、カラスバト:1、キジバト:3、コゲラ:5、ハクセキレイ:1、ヒヨドリ:11、ミソサザイ:6、イソヒヨドリ:2、ウグイス:3、ヤマガラ:3、シジュウカラ4、メジロ9、ホオジロ3、アオジ2、ハシブトガラス10。
昨年12月現在で、三宅島は山頂部から中腹までは火山灰の被害が大きく、枯死した樹木が目立つが、山麓の樹林は大きな被害は受けておらず、外観的には著しい変化は見られない。ただし、泥流の影響で林床部は灰に覆われているところが多く、林床部で餌を採るアカコッコなどにとっては、大きな影響があったと考えられる。アカコッコについては、島内にいる間は注意していたつもりであるが、結局、一度も姿を確認することはできなかった。ただし、大型ツグミ類の地鳴きは何度か耳にしており、生息している可能性はあると思われる。カラスバトについては、1度ではあったが飛翔している個体を確認することができた。ヒヨドリやメジロなど主に樹冠部を利用する種については、集落付近で普通に確認できた。また、コゲラ、シジュウカラ、ミソサザイなどもヒヨドリ、メジロほどではないが比較的多く確認できた。林床部が被害を受けていない樹林上空では、ゆっくりと旋回するノスリの姿を確認しており、餌となる小動物も生存していることが伺われた。島内で最も多いという印象を受けたのはハシブトガラスで、港など調査員が上陸する場所に50羽以上が群れており、ネコ用の餌を群れで飛来し横取りしていた。
以上のように、個人的には予想よりも多くの種が生息していたと感じているが、やはり、噴火前の状況と比べれば大きな影響を受けたことは事実である。特に地表で餌を採る種など、特定の種に被害が大きかったものと考えられる。また、注目すべき点のひとつとして、スズメがまったく確認できなかったという点があげられる。人間にとっては一番身近なスズメがいなくなったということは、やはり、環境要素のひとつである「人間」が消えたことと関係していると考えられないだろうか。
三宅島の鳥類について危惧していた方が沢山おられると聞いて、非常に簡単ではあるが紙面をお借りして速報として報告させていただいたが、今後、しっかりした鳥類調査が行われれば、19種以外にも生き残っている種が確認される可能性は高いと思われる。
岩渕(アジア航測株式会社環境部)、清水(環境科学株式会社東京事務所)
鳥学会2001年度大会のお知らせ
本年の大会は10月6日〜8日に京都市左京区の京都大学総合人間学部で開催いたします。詳しくは同封の大会案内・大会申し込み用紙をご覧ください。京の街はいつにも増して観光客でにぎわっておりますが、大会会場では街の喧噪を離れ、学術的な議論を活発に行えるよう、講演申し込み状況に応じた柔軟なプログラム編成を考えています。多くの皆さまの参加・発表をお待ちしております。
大会に関するお問い合わせは同事務局(〒606-8502 京都市左京区北白川追分町 京大・理学部・動物行動 電話:075-753-4075 ファックス:075-753-4113 電子メール:yosihisa@zoo.zool.kyoto-u.ac.jp)
森 貴久・水田 拓まで
2002年第23回国際鳥類学会大会発表申し込み締めきりのお知らせ
樋口 広芳(国際鳥類学会評議委員)
2002年の8月に北京で開催される第23回国際鳥類学会大会の一般発表申し込み締めきりがせまっております。7月1日が締め切りです。一般発表されるかたは要旨を、ラウンドテーブルを予定されるかたはその申し込みを、7月1日までに以下の住所へお送りください。大会のホームページ上で大会日程,会場案内,特別講演やシンポジウムの内容,参加申込みや講演要旨の締め切り日などが公開されています.
Homepage: http://www.ioc.org.cn
For information: infocenter@ioc.org.cn
For abstract submission: abstract@ioc.org.cn
Fax: (86-10) 6218 0142 Tel. (86-10) 6217 4952
Mailing Address: Attn: Mr. LIU Feng, IOC2002/CICCST, 86 Xueyuan
Nan Road, Beijing 100081, China
「ジョン・グールドの世界」
19世紀描かれた鳥類図譜
2001年5月12日から6月10日まで
ニューオータニ美術館(ニューオータニ・ガーデンコート6階)
シンポジウム:「遺体が語る自然史」
●2001年11月10日(土)午後1時から5時頃まで、国立科学博物館新宿分館講堂
「ナチュラルヒストリー」は、まさしく「遺体」を研究対象とすることで発展してきた歴史を有する。「遺体」に取り組む最前線の研究者の研究成果を、一般社会人・学生を対象に平易に紹介する。分野としては、動物学・植物学・古生物学・医学・解剖学・考古学からの話題提供がなされ、これら各分野を有機的に結び付けてきたナチュラルヒストリーの全体像を紹介する機会となる。
●プログラム:
遠藤秀紀(国立科学博物館動物研究部) 遺体が創る科学 (13:10〜)
中島 功(昭和大学歯学部口腔解剖学) 遺体が語る「本人も知らない自分」(13:55〜)
塚越 哲(静岡大学理学部生物地球環境科学) 太古の遺体−化石がもたらす生物進化の情報−(4:50〜)
辻 誠一郎(国立歴史民俗博物館) 遺跡出土の遺体が語る人の生活と環境(15:35〜)
フリーディスカッション 遺体標本で博物館の高度化を図る(16:20〜)
参加申し込みは不要です。どうぞ途中からでも自由にご参加ください。
●お問い合わせ先:〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1 国立科学博物館
遠藤秀紀、篠原現人、加瀬友喜 (自然史学会連合連合事務局)
tel. 03-3364-2311、 03-3364-7127、fax. 03-3364-7104
Email: endo@kahaku.go.jp
「鉛弾規制でオオワシ・オジロワシの鉛中毒は防げるか」に対する現場からの意見
玉田 克巳
前号(No.77)で風間辰夫氏から鉛弾規制について貴重なご意見をいただいた.私は多くのワシ類が収容されている釧路に住んでおり,鳥類の保護にも強い関心を持っている.また業務としてエゾシカ問題にも深くかかわっている.今回はこの立場から現場の意見と規制の背景について述べたい.
風間氏の意見は鉛散弾の規制の重要性に力点がおかれているように感じる.1999〜2000年の冬に保護収容されたワシ類31羽のうち,水鳥用鉛散弾が原因と断定されたのは1例であるのに対し,シカ猟が原因と断定あるいは推定された収容数は15例であった.近年急増している鉛中毒症は,シカ猟に用いる鉛ライフル弾が主要な原因である.今回は急増しているワシ類の鉛中毒の問題を中心に述べていきたいので,鉛散弾の詳述は割愛する.
北海道では知事の権限で2000年度猟期からシカ猟に用いる鉛ライフル弾の使用を禁止した.規制の背景は以下のとおりである.ワシ類の鉛中毒が報告され始めたのは1997年ごろからで,北海道庁が「原因が鉛ライフル弾である」と特定したのは1998年8月である.規制まで2年の歳月を要した.アメリカ合衆国で水鳥の鉛散弾が全面規制されたのは1991/1992年猟期であるが,鉛中毒自体は1874年から発生しており,対策がとられるまで実に1世紀近くの年月が経っている.また国内では1980年代から水鳥の症例が報告されているが,未だに全面的な規制はされていない.単純な比較はできないものの,鉛散弾の対応と比べると今回の鉛ライフル弾の対応は早かったと思う.
鉛ライフル弾を完全に銅ライフル弾に切り替えることができれば,この問題はほぼ解決できることは自明である.しかし,法的な規制に時間を要したことは,(1)銅ライフル弾が普及していなかったこと,(2)銅ライフル弾の性能が未知であったこと,(3)ヒグマへの対応の3点があげられる.約200人のハンターを対象にした北海道庁のアンケート調査では1998年11〜12月の銅ライフル弾の所持率はわずか3%であった.この段階で鉛ライフル弾の使用を禁止すればエゾシカ猟は破綻する.翌1999年11月に約80人を対象に同様のアンケート調査を実施した結果,所持率は約40%,銃砲店からも相当数の銅ライフル弾を輸入している情報を得ていた(日本のライフル弾はすべて輸入品である).また「銅ライフル弾は鉛ライフル弾に比べて性能が劣る」という風評が出ていた.私はハンターではないので詳しいことはわからない.しかし,銅と鉛は比重が違う.同じ大きさの弾頭を同じ火薬量で使用すれば,引力などの影響は異なり,着弾点が異なることは予想ができる.また銅ライフル弾と鉛ライフル弾は獲物にあたった時の弾の炸裂状況が異なることから,殺傷能力に違いがあることも理解ができる.そして北海道にはヒグマが生息しており人身事故は毎年のように起きている.ヒグマ害が発生したとき,ハンターたちは緊急の出動要請がかけられ,文字通り命懸けでヒグマと対峙する.この命懸けの対峙に際して,性能に不安が残る銅ライフル弾を使えとは言えない.この点で規制がシカ猟に限定されたことは,現状ではやむ終えない措置であると思う.
今回の規制は北海道内だけであり,この点では風間氏の指摘されるとおりである.クマタカやイヌワシがシカの残滓を食しているという観察例もあることから,本州以南でもワシ類とそれ以外の鳥類に鉛中毒が浸潤するおそれは充分ある.他都府県でも早期に対策が講じられることを私は望んでいる.また上述の規制はヒグマなどの狩猟は対象外である.このため,山野でハンターが鉛ライフル弾を所持していても違反ではない.この点でも風間氏が指摘するとおり検挙は難しいかもしれない.ただし,検挙が困難であるから規制をしないということでは,問題は解決に向かわないと私は思う.
北海道では2000年度から鉛ライフル弾の使用が禁止されたことは,ワシ類の鉛中毒問題を考える上では大きな山場を一つ乗り越えたと思っている.これは行政のみならず,ワシ類鉛中毒ネットワーク,北海道猟友会,エゾシカ協会などが事態を深刻な問題と認識し,それぞれの立場で,問題解決にむけて考え,行動してきた成果だと思う.しかし私は,そして私以外の,現場で活躍している行政,NGOの諸氏もこの規制でこの問題がすべて解決できたとは認識していない.今後も現地の情報をできるだけ詳しく集めながら,今後の対応を考えていきたい.最後に,この問題やシカの問題に関わっていて感じていることは,問題点だけを羅列する批評が非常に多いことである.問題点の羅列は問題を再認識する上ではありがたいことである.しかし私としては問題点の羅列だけではなく,改善策を明示すること,さらにその改善策を実践していくことがもっとも重要であると考えている.(北海道環境科学研究センター道東地区野生生物室)
事務局より
<会費振り込みのお願い>
ニュースNo.77に郵便局の払い込み票を同封しましたが,2001年度学会費納入がまだお済みでない方は速やかに送金して下さい.ラベルの会費納入状況をご確認下さい.3月31日までに2000年度の会費が未納の方は自動的に退会となりますのでご注意下さい.
今年は学会の役員選挙の年です.3月末日までに会費を納めた人が被選挙権を持つことになりますので,滞納のないようお願いします.
<お礼>
次の方々よりご寄付をいただきました.紙面を借りてお礼申し上げます.(以下名前の順です)
杉浦 邦彦,柴田 敏隆,谷口 一夫,田村 耕作,作山 宗樹,武下 雅文,穴田 哲,小森 厚,柳澤 紀夫,新田 宗仁,渡辺 央,浦野 栄一郎,(株)トーニチコンサルタント環境計画部,永田 尚志,長谷川 宏行,渡辺 健三,匿名一件(2000.12.31まで,敬称略)
<お尋ね>
中島 朋成(敬称略)
以上の方の住所が不明です.事務局までお知らせ下さい.
編集担当より
○先の札幌大会の総会で2001年度で鳥学ニュースを廃止することが決まりました.意見や巻頭言は新和文誌で,ニュースはホームページなどで扱われることになるかと思います.速報性と言いたい放題という鳥学ニュースの利点を生かした会員の皆様へのサービスが,これらによっていっそう充実することを願っております.
○投稿記事を募集しています.報告,意見またはお知らせなどをお寄せください.寄稿は以下の送付先までお願いします.なお,e-mailでの寄稿の際はテキスト形式でメールボックスにいれてお送りください.
【送付先】〒060-0808 札幌市北区 9条南9丁目
北海道大学 農学部 応用動物学研究室 綿貫豊
e-mail: ywata@res.agr.hokudai.ac.jp
次の締め切りは3月30日です.(綿貫)