今回の自由集会では、下記の4演者による問題提起とそれらに関する話題についてフリートーキング形式での議論を考えています。なお、オブザーバーとして、環境庁、自治体関連部署、大日本猟友会の方々にも参加いただき、それぞれの立場から活発なご意見をいただく予定です。

1.カモ類の出現傾向とモニタリング調査

    金井 裕(日本野鳥の会研究センター)

 カモ類は、日本野鳥の会による1981年から1992年までの調査や、現在も毎年行われている環境庁による全国調査があり、狩猟が許可されている主要な鳥の中で唯一組織的な生息数の追跡調査が行われている種群である。しかし、調査地点数の変動による影響や環境変化など、全国に生息するカモ類の個体数を把握する上での問題点や生息地保全を含めた長期にわたるモニタリング実施の上で問題点についての検討が行われたことはほとんどない。
 カモ類は、少数地点に集中して越冬する種や多数地点に分散して越冬する種があり、出現傾向が異なる。これらの出現傾向の違いを、日本野鳥の会が実施した調査から示し、長期的なモニタリングのための調査地点抽出方法と、限定された調査地点の生息数調査結果から生息総数を推定する試みを報告する。
 また、日本野鳥の会が1993年に、生息数把握のための一斉調査の代わりにスタートさせた、生息数変化と環境変化との関係をモニタリングする「野鳥の生息環境モニタリング調査」も紹介する。

2.エゾライチョウの保護管理

    藤巻裕蔵(帯広畜産大)

 エゾライチョウは北海道の森林に生息する鳥類で,現在は狩猟対象になっている.しかし,最近生息数は減少傾向にあり,昨年行なわれた全国分布調査の中間集計では記録が減少した種になっていたり,同じく昨年発表されが鳥類のレッドリストには「情報不足」ではあるが掲載されている.
 狩猟動物の保護管理にあたっては,生息数調査にもとづき捕獲数を決めることが重要である.しかし,現在の日本の狩猟制度では,法により猟期,1日の捕獲数は決められているものの,1シーズンにおける総捕獲数は決められていない.
 エゾライチョウについては,最近北海道においても研究が進められ,生息環境,相対生息密度,繁殖生態,食性などが明らかにされ,生息数調査法や齡査定法もほぼ確立しており,科学的な調査にもとづく保護管理を行える可能性がある.
 今年,一部改正になった鳥獣保護法の一つの目玉は,科学的な調査にもとづく鳥獣の保護管理である.しかし,このような保護管理を行う体制は皆無に等しく,法改正の目的を達成するには,保護管理体制の確立が大きな課題である.

3.日本におけるヤマドリ狩猟管理体制の現状と問題点

    川路則友(森林総合研究所)

 ヤマドリは、日本固有種でありながら、狩猟鳥として指定され、現在でも年間6万羽が捕獲されている(1995年度)。しかし、この数は、最盛期であった1970年代前半の約10分の1となっていることから、自然個体数の急激な減少が危惧されている。また、狩猟数減少をくい止めるための方策として、北日本を中心に年間7千羽あまりもの放鳥事業が実施されているが、その効果判定等については、ほとんど資料のないのが現状である。これには、野外における生息実態調査がほとんどなされていないこと、放鳥個体に対する追跡調査が行われていないこと等が問題点として挙げられる。演者らは、今後のヤマドリ狩猟管理体制の充実を図ることに貢献できるデータをとることを目的にして、野外におけるヤマドリ調査手法の開発や、放鳥個体への発信器装着による追跡調査などを実施している。本自由集会では、まだ中間段階ではあるが、これらの結果を踏まえて、今後どのような研究が必要かについて論議したい。

4.他国の狩猟管理
 
    阿部 學(新潟大・農・野生動物)

 狩猟の基本理念は、個体群の維持に必要な数を残した剰余分を資源として利用することにある。従って、これらが明らかでないと狩猟は成立しない。次に、種という概念を離れて、数に関しては土地が持つ収容能力という要因が働く。地域ごと、種ごとの猟獲数は、個体群の齢・性構成に基づいて決められるが、これは獣類にあっては下顎骨の年層を、鳥にあっては翼の羽色変化を用いる。米国では狩猟者がライセンスを買うときに付いてくる封筒に、それらを入れて投函すると、専門機関が解析に当たる。
 他国を含む広域を移動する水鳥は連邦政府が、その他の鳥獣は州政府の管理になる。資源管理の観念が発達していて、全米に500万もいるオジロジカでさえ、ミシガンでは1916年以降、1人1年1頭と決まっており、可猟日も16日前後で、毎年16万頭前後の安定供給を続けている。科学的資料に基づく管理下では、狩猟鳥獣の絶滅や異常増加による食害はない。米国民の財産意識も発達しており、州民と他州民ではライセンス料が異なり、昔はシカ猟で最大50倍の差があった。外人はもっと高い。平川浩文氏によると、独のアカシカは1頭に15万円を支払う。米国の違法取り締まりは、司法警察権を持った監視人がFBI並みに行う。自州で鳥獣管理に人材、資金を投入し、食害などの迷惑を被って育てた獲物をよそ者が対等に猟獲できない。狩猟者の意識も高く、狩猟団体がガン・カモ類の繁殖地であるカナダに自己資金を投入して、湿原の確保、改良を行い、増殖に力を入れている。