オスはいつさえずるのがトクか?:繁殖諸活動の中における効果的なさえずり方
濱尾章二(浦和市立南高等学校)
オスの鳥が繁殖活動を通じて自らの適応度を向上するためには、(1)多くのメスを受
精させること、(2)自らの父性を守ること、(3)子の生残率を高めることの3つを実現する
必要がある。具体的な活動としては、(1)はつがい相手の誘引やつがい外交尾、(2)はメ
イトガード、(3)は抱卵や雛への給餌があげられる。これらの諸活動の中で、さえずり
は主につがい相手の誘引に使われる。そのためにはオスにとって、繁殖ステージの中でいつさえずるのが効果的であろうか?
さえずりの主な機能が、なわばり防衛とメスの誘引であることは言をまたない。しか
し、繁殖ステージと対応したさえずり活動の変化は、なわばり防衛のためからは生じな
いはずである。また、種によっては、さえずりが父性の防衛や、自らのつがい外交尾の
ためという機能をもつ場合もあるが、これは付加的なものと考えられる。例えば、ノビ
タキのさえずりは近隣のオスが自分のつがい相手のメスに近づくのを妨げるはたらきが
あると言われるが、オスは何よりもつがい相手のメスを得る前によくさえずる。また、
オオヨシキリのメスはつがい外交尾の相手としてさえずりレパートリの大きなオスを選
ぶが、オスは独身時によくさえずり、さえずりにメス誘引のはたらきがあることは明ら
かである。多くの鳥にとって、つがい相手のメスを得ることがさえずる目的の少なくと
も1つであることは間違いない。
もしも、オスが単により多くのメスを得ようとすれば、常にさえずっているはずであ
る。しかしそうすると、メイトガードや子の世話がおろそかになり、結局多くの子を残
すことはできないであろう。繁殖諸活動の間にはトレードオフの関係がある。さえずる
ことの出費と利益は、メスの受精可能期、育雛期など繁殖ステージの進行とともに変化
する。
本講演では、繁殖諸活動の中で効果的にメスの誘引をはかるために、オスがどのよう
に時期を選んでさえずっているのかをレビューする。繁殖ステージの進行にともなうさ
えずり活動の変化が定量的に調査されており、子の世話のパターン等の情報がある種を
取り上げ、その種のおかれた生態的、社会的条件によってさえずる時期がどのように決
まっているのかを論議する。