日本鳥学会2001年度大会の講演要旨 |
●B207 コゲラはなぜ、伊豆大島や佐渡島にいないのか?
石田健(東大・農・森圏管理)
コゲラは、翼長7〜8cm、体重が18〜25gで、20ha前後のなわばりを持ち、主に広葉樹の枯枝に営巣する、つがい個体間関係の強い小型のキツツキである。日本列島周辺に広く分布し、都市緑地や小さい島嶼部にも生息する。しかし、伊豆大島や佐渡島など、分布中心の本州に近く、森林が発達して残っているいくつかの島にいない。しかも、伊豆大島より本州から遠い三宅島と御蔵島に生息する。この理由を明確に説明する論拠はまだ見つかっていないが、新たな確認事項をもとに再度考察する。
伊豆大島と佐渡島を踏査し、主な分布地のうち北海道・本州・三宅島・屋久島・奄美大島・沖縄島などにおいてコゲラを捕獲・計測した。島間の距離、森林の状態などの地理的および環境の特徴を再整理した。
伊豆大島と、大島にもっとも近い本州の伊豆半島南東部との直線距離は約21kmである。佐渡島と、佐渡島にもっとも近い本州の新潟市付近の直線距離は約35kmで、両地域ともに本州側の海岸線までコゲラが生息し、観察は容易であった。また、両島ともに、晴れた日には島から本州がはっきりと視認できた。本土(北海道、本州、四国、九州、サハリン)から佐渡島よりも遠くにあってコゲラが生息している島は、三宅島、奄美大島、沖縄島、など12島ある。その内、最寄りの生息地からの距離も、本州・佐渡島間よりも遠い島は、8島ある。一方、伊豆大島・伊豆半島間よりも本土に近くて、コゲラの生息する島の内、瀬戸内海の島および最寄りの生息地から1km以下の島を除いた島は、北海道から20kmの利尻島のみであり、壱岐は伊豆大島の場合と同じ21kmである。実際の島の地理的特徴に十分な変異が存在しないことがコゲラのこの分布様式に反映している可能性を否定しない一方、伊豆大島や佐渡島より本土に近い小島には、コゲラが分布を広げている傾向が弱いことを示唆する。演者は、森林の分断化と孤立化が進んだ1980年代に関東平野の都市緑地で新たに繁殖を始めた経過をもとに、コゲラは、いったん個体がその場に到達しても、近すぎる「島」あるいは劣った生息環境からは、分散源の生息地に戻ってしまう傾向があるのではないかと推測した。実際の島においては、本土に近い島ほど、より多くの種が分散し、定着するために、捕食圧および競争圧が高く、特定の種の個体群の絶滅確率が高いことなども、近い島にいない原因となりうる。また、コゲラのつがい関係は強く複数の繁殖期にわたって続くこと、若鳥が群をつくる性質が確認されていないこと、などの生態的な特徴が、島への分散個体が単独である確率を高め、つがい相手のいないそのような場所から再分散する傾向を強めている可能性も推測される。その場合、大きな陸塊が視認できることは、海を越えて戻ろうとする行動を誘引しやすいだろう。