日本鳥学会2001年度大会の講演要旨
■■口頭発表10月8日■■
■B会場(E31)

●B305 霞ヶ浦周辺のオオヨシキリのメタ個体群シミュレーション
永田尚志(国立環境研・生物多様性プロジェクト)


 オオヨシキリは、放棄水田や湖岸に好適なヨシ原が出現すると、すぐに定着し繁殖を開始するため、分散能力が比較的高く不連続なヨシ原でも連続した個体群を形成できると考えられる 。一昨年度の大会において、オオヨシキリの雄は出生ヨシ原の近くに定着するのにたいして、雌が数十km分散すること、霞ヶ浦では0.3ha以下の小さいヨシ原は巣立ち雛をほとんど生産できず、シンク個体群となっていることを報告した。今回は、国土地理院の最新の航空写真(1997-99)から作成した植生図を使って、霞ヶ浦周辺のおよそ2000km2の地域のオオヨシキリの生息地であるヨシ原の分布を解析した。
 霞ヶ浦周辺におけるヨシ原の専有面積は約30km2であり、全体の1.4%にすぎない。この20年間で、霞ヶ浦湖岸のヨシ原がコンクリート護岸と浚渫による影響で侵食されて縮小・分断化したのに対して、水田地域では放棄水田がヨシ原に変化して増加しているため、この地域のヨシ原の総面積はほとんど変化がない。
 霞ヶ浦周辺のオオヨシキリのメタ個体群動態をRAMAS/GISというソフトを用いて、メタ個体群の存続に与えるパラメータを解析した。まず、20年前と現在のヨシ原の分布がメタ個体群構造に与える影響を解析した結果、1)ヨシ原の断片化によりメタ個体群数が増加し、絶滅パッチが5%程度生じていること、2)このまま環境が変わらないとすれば、200年後にオオヨシキリがこの地域から絶滅する可能性は低いが分断化により個体群サイズは小さくなることが明らかになった。次に、環境収容力のゆらぎの程度と出生分散がメタ個体群の存続に与える影響を解析した。個々のパッチの環境収容力のゆらぎが環境変動で大きくなったとしても、200年後の個体群の減少確率には大きな影響を与えないが、出生分散距離が短くなると200年後の個体群の減少確率に大きな影響を与えることが明らかになった。このことは、オオヨシキリの個体群の分散様式を正確に見積もらなければ、適切な保全計画を策定することは難しいが、対処療法としては個体群が分断化しないように大きなヨシ原を十分近くに配置することで対応できるであろう。