日本鳥学会2001年度大会の講演要旨
■■ポスター発表■■
ポスタートーク(*印) :10月6日13:00−14:00 A会場(E30)
ポスター展示コアタイム :10月6日14:00−17:30 P会場(人間・環境学研究科)

【講演取り消し】●P49 オオミズナギドリの栄養生態
―2001年春、日本海南部で発生した大量死への栄養面からの考察―

◯ 岡 奈理子(山階鳥類研究所)・川口真以子(東京農工大学/現所属 国立環境研究所)


 極東海域の島嶼に繁殖するオオミズナギドリの成鳥/亜成鳥を栄養生態学的に分析した。供試鳥は伊豆七島御蔵島で主に繁殖後期に交通事故死した9羽である。胃内容物を差し引く平均体重571gの主な栄養指標値の構成は、平均総体脂質重量72g、体脂質率12.6%、肝臓平均重量21g、体重比割合3.7%、羽毛と骨部を差し引くエネルギー転換可能部位の体重比割合87%となり、良好な栄養状態にあったと判断された。
 体重を変数とする海鳥の季節別代謝式(Furness & Monaghan 1987)から、夏季、静止状態のエネルギー消費量0.5kJ/g/日を得た。熱量変換しない平均脂質量4.4g(飢餓衰弱死ハシボソミズナギドリ22羽:岡 1991)を差し引く残りの脂質が熱量に変換し、全熱量が脂質由来とした場合、平均8.7日の生存が推定された。本種は滑空とはばたきで飛翔し、水中でははばたき飛翔する。これらのはばたき飛翔に1日当たり計4時間費やす場合のエネルギー消費は平均1.2kJ/g/日に上昇し、静止時より2.4倍増する結果、活動、非採食状態で平均3.8日の生存が推定された。
 本種は2001年3月前半、中国〜北陸地方の日本海南岸に大量漂着死した。時期から成鳥と判断できる。当時、春とはいえ荒天・寒波下にあり、例え海面に浮遊、静止状態であっても、平均エネルギー消費量は0oC下で0.9kJ/g/日に増加する。死亡平均体重423g(53羽、松村俊幸氏ら 未発表資料)は、上記健常死個体に比較して148g有意に軽く(p<0.0001)、また石川県南部家畜保健衛生所による19羽の剖検では、すべて空胃で、細菌・ウイルス検査で陰性の結果を得ている。体重は主に脂質の増減で変動するため、体脂質のほとんどを消費した結果、飢餓衰弱死したとみられる。仮に繁殖後期程度の脂質蓄積の場合では、非活動状態でも低温下では平均5.1日で蓄積エネルギーを使い果たす。しかし渡来直後のこの時期、既に相当量の脂質を渡りに消費していたはずで、すみやかな脂質蓄積なくしては、当時、より短期間に死亡したと推定される。
 過去に本種の成鳥の大量死は1922年3月に発生した(籾山 1922)。春は日本海側では荒天が多く、渡来期そのたびに大量死が発生するのであれば、他に記録が残るはずであるが、記録はない。2001年春少なくとも日本海南部域で本種の餌生物資源量が例年になく低下していたか、越冬した熱帯海域で、既に脂質蓄積が十分に行えない海況にあり、渡りを開始した可能性も考えられる。