日本鳥学会2001年度大会の講演要旨
■■ポスター発表■■
ポスタートーク(*印) :10月6日13:00−14:00 A会場(E30)
ポスター展示コアタイム :10月6日14:00−17:30 P会場(人間・環境学研究科)

●P57* 法で規制すべき野鳥への危害行為とは
高橋満彦 (早大・法研)


 野鳥の保護に関する法律、特に鳥獣保護法は捕獲規制を主眼としてきた。しかし、鳥獣保護法の「捕獲」の概念を巡って法学界では論争がある。要するに、獲物を現実に捕らえた場合は問題ないが、弾は当たったが逃げられた場合(半矢)、あるいは、弾が当たらなかった場合はどうであろうか。環境省や警察の解釈では、いずれも「捕獲」にあたる。行政の解釈では、「現実の捕獲」は必要とされず、捕獲しようという行為(「捕獲行為」)だけで足りるとされている。最高裁もこの説を肯定した(平8.2.8)。自然保護からすれば妥当な判断と思われようが、実は法学者からは批判が多い。

 法学者の批判は、これでは法の文理的解釈を逸脱した拡張解釈となり、民主的なルールに馴染まない、必要なら法改正を行い、きちんと明記すべきだというのである。現行法からは、「捕獲」には殺傷も含むことしかわからない。99年の改正時に国会で決められた2002年の見直し時には、禁止行為の明確化を検討すべきであろう。
それでは、なにを規制すべきか。ここでこそ鳥学者の知識が活用されるべきである。間接的に鳥類の死につながる行為は数多い。イヌワシなどの猛禽類では、人の接近や工事が営巣放棄につながることが知られている。また、写真家やバーダーによる野鳥の生活への妨害も多発している。

 昨年環境庁は、繁殖中の営巣木の伐採は「捕獲」にあたるとの見解を出した。また、「種の保存法」や東京都条例などでは、特別の保護地域等において、自然保護上問題があると指定した観察方法を規制できる。しかし、野鳥の生活を妨害する行為はまだまだある。また、規制と森林施業等の人間活動との調整には、今後の事例の蓄積が必要である。
米国でも捕獲=“TAKING”は争いの生じやすい概念だが、「現実の捕獲」のみならず、「捕獲行為」も含むことはきちんと定義されている。しかし、野鳥の生息を妨害する行為をどこまで含むかは、見解が分かれている。野鳥保護の基本法である「渡り鳥保護法」に関し連邦裁判所は、薬物散布は“TAKING”あたるが、伐採はあたらないとした。(なお、Endangered Species Actは、takeはharm, harassを含むと定義している。)

 そこで、わが国ではどうすべきか。「現実の捕獲」のみならず、「捕獲行為」も規制対象とすべきはもちろんのこと、有害物質の散布、営巣地の繁殖妨害(観察や写真撮影も含む)も規制されるべきだと私は考える。その他、塒の破壊、森林施業、非繁殖期における猛禽の営巣木の伐採、追い払い行為、希少種への対応など、多くの問題を将来の法改正を視野に入れて、学会員諸賢と議論したい。