B-1-8 アマミヤマシギ Scolopax mira の繁殖期の生息状況
− 10年間の経緯と個体群保全の考え方 −
○石田健1,2・高美喜男2・斎藤武馬2,3・宇佐見衣里2
(1, 東京大学;2, 奄美野鳥の会;3, 立教大学)
奄美大島では、1980年代までの大規模森林開発により、照葉樹天然林が著しく縮小・分断化した。1990年代には、多くの区域においてマングースやクマネズミ等の生態系外から入った捕食者が増加し、固有種の生息密度が低下していると危惧される。アマミヤマシギは、地上で採食や休息や営巣を行い、動作は俊敏でないために、特に哺乳類の外来捕食者の影響を強く受けると懸念されてきた鳥類の1つである。一方、夜行性であることや行動の変化などによって、環境変化の影響を部分的にうまく回避している可能性も考えられる。 方法: 2002年3月11日〜23日の、夜間、奄美大島と加計呂麻島の全域の林道約500km区間を、正味約55時間、自動車で走行して、道路周辺のアマミヤマシギ164個体とヤマシギ11個体を計数し、行動を記録した。その結果を、1992年3月14日〜19日に、奄美大島全域の約210km区間で行った同様のセZンサスの結果と比較する。1991年夏から2001年冬までの間に行った、奄美大島における部分的な調査結果や、踏査、文献、私信等によって得た奄美大島の外来捕食者と森林植生に関する知見も参照する。 結果:1992年の調査時点で、名瀬市近郊における生息密度はすでに低下していた。10年間をおいた調査結果を比較すると、龍郷町において著しい低下が示された。この傾向は、1996年ごろから見られた。生息密度低下地域は拡大していると推測されたものの、明白な傾向はなかった。林道上におけるアマミヤマシギの行動様式は、10年間で警戒心が増していた。調査車が接近してから、飛去または歩いて逃避するまでの時間が短くなり、調査車が接近できる距離が長くなった。1992年には、調査車の脇を歩いて戻る個体もいたが、2002年の調査では大部分の個体が視認前あるいは発見直後に飛去した。例えば、写真撮影のできた個体は、1992年には観察個体の約55%だったのに対し、2002年にはその割合は約22%だった。 考察:アマミヤマシギの繁殖個体群生息密度の低下には、森林の縮小・分断化とそれがもたらす捕食圧や交通事故による死亡率の増加が主要因となっていると推測される。一方、警戒心が強く逃避行動を早く起こす個体の割合が増えており、環境変化への適応も起こっている可能性があった。本種は、1970年代にヒトによる捕食(狩猟)圧から開放された経緯もある。1990年代以降に個体数低下が著しいと思われれるアカヒゲなどとともに繁殖密度や繁殖成功率を地区間比較し、外来捕食者の密度管理と森林の連続性回復を調整することによって、各固有個体群の絶滅可能性を低減させることと、固有生態系を近似的に回復することが可能だと考える。