A-22 繁殖期初期の低温がツバメの繁殖に及ぼす影響
○福井 亘(栃木・那須養護学校)・
小熊幸恵(新潟県青海町)(旧姓若山)

 繁殖地への到着時期は,渡り鳥にとって重要である.遅すぎる到着は,繁殖の遅れ
につながる.一方,早すぎる到着は,低温による餌不足の影響のために,繁殖個体の
生存に危険が及ぶかもしれない.低温により,産卵期間の延長(蔡 1998)やクラッ
チサイズの減少(Yom-Tov & Wright 1993)などが起きることが知られている.また,
ツバメでは,メスがまだ到着していない,渡来時期の初期の低温では,尾の長いオス
の生存率が高いことが分かっている(M?ller 1994).しかし,オスとメスの両方につ
いて,個体識別された個体群を用いて,個体の質を考慮した研究は少ない.そこで,
演者らは,記録的な春の低温が見られた1996年と平年並みの気温だった1995年及
び1997年のツバメの繁殖・生存に関して調査を行った.
 調査は1995年〜1997年に新潟県上越市高田で行った.捕虫網によって,ツバメを捕
獲し,捕獲した個体は,体重及び外部形態を測定後,カラーリングにより標識・放鳥
した.捕獲できなかった個体は,尾羽の欠損などの外部形態により個体識別されてい
たので,調査地内で繁殖していたツバメはほぼすべて個体識別されていた.調査地を
少なくても3日に一度訪れ,個体の確認し,巣内部を観察し,初卵日・クラッチサイ
ズ,雛数,繁殖成功(巣立ち)を確認した.
 1996年は,渡来時期に33羽のオスを確認したが,その後も残留し,繁殖をしたのは,
23羽であった.メスは30羽を確認し,その内24羽が繁殖した.ツバメの土地への執着
性の強さ(Shields 1984, 篠原1999),その年及び翌年に周辺地域でも確認されてい
ないことを考慮すると,消失したツバメは死亡したと考えられる.雌雄の死亡率に有
意な差はなかった.1996年に渡来して生存した個体と死亡した個体のオス,メスそれ
ぞれについて,その前年の体重・尾長・翼長を比較すると,オスの翼長にのみ有意な
差があり,生存したオスは,翼長の長いオスだった.また,1996年に繁殖したオスで
は,尾長と初卵日との間には相関はなかったが,翼長と初卵日との間には,有意な負
の相関があり,翼長の長いオスほど,初卵日が早く,翼長の短い個体に比べ,早く繁
殖を開始していた.
 結果はまだ分析中であるが,これまでオスの質を示していると言われてきた尾長お
よびその他の形質が繁殖に及ぼす影響について考察し,発表する予定である.