清真学園高校は平成19年度より、文部科学省スーパーサイエンスハイスクール(通称SSH)の指定を受け、生徒の科学に対する力を育てる活動を行なっています。
SSHの一環として、平成20年7月20日 26日エクアドル、ガラパゴス諸島への海外研修を行ないました。
ガラパゴス諸島には、ダーウィンフィンチをはじめとして、多くの貴重な固有種が生息することで有名です。そこで実際に観察した鳥類について報告します。
観察した鳥
フィンチ類(Finches)
Geospiza属
ガラパゴスベニタイランチョウ(Vermilion Flycatcher)
Pyrocephalus rubinus
ガラパゴスキイロアメリカムシクイ(Yellow Warbler)
Dendroica petechia aureola
アオメバト(Galapagos Dove)
Zenaida galapagoensis
ガラパゴスマネシツグミ(Galapagos monckingbirds)
Nesomimus parvulus
アカメカモメ(Swallow-tailed Gull)
Creagrus furcatus
ガラパゴスアメリカグンカンドリ(Magnificent Frigatebird)
Fregata magnificens
ガラパゴスオオグンカンドリ(Great Frigatebird)
Fregata minor ridgwayi
ガラパゴスアオアシカツオドリ(Blue-footed Booby)
Sula nbouxii excise
ガラパゴスアカハシネッタイチョウ(Red-billed Tropicbird)
Phaethon aethereus
ガラパゴスカッショクペリカン(Brown Pelican)
Pelecanus occidentalis urinator
捕食にさらされる生物にとって、巣防衛は適応度に関わる重要な行動である。ウミネコLarus crassirostrisの卵はカラスによく補食される。またウミネコの巣防衛強度には大きな個体差がある。これらの個体差をもたらす要因は何か。鳥類では一般的に、巣防衛強度には性や一腹卵数が影響すると考えられている。また、集団営巣するウミネコでは、隣接個体間で捕食リスクを共有し、集団で巣防衛するため、個体の巣防衛強度は隣接個体の防衛強度にも影響されるかもしれない。本研究では、カラスの模型に対する親鳥の防衛強度の個体変異が、性と一腹卵数の効果に加え、隣接個体の防衛強度の影響をうけるかどうかを線型混合モデルにより検証した。さらに、一腹卵数を実験的に増減させた時の防衛強度の変化を調べ、一腹卵数の効果をより詳しく検証した。
巣防衛強度はオスの方が強かった。また、よく防衛する個体が隣接している時に個体の防衛強度が強くなった。ウミネコでは隣接個体の防衛強度に応じて個体が防衛強度を調節しているのかもしれない。モデル解析においても操作実験においても、一腹卵数は防衛強度に影響しなかった。短寿命な小鳥類では一般的に、一腹卵数が大きく巣あたりの価値が高い個体ほどよく防衛すると予想されている。しかしながら、長寿命で集団繁殖するウミネコの防衛強度は、一繁殖期における一腹の価値の増減よりも、年齢や繁殖経験などの生活史戦略に関わる要因および集団における社会的な地位の影響をより強く受けるのかもしれない。
育雛中の親鳥は、雛への給餌速度を最大化しつつ、自身のエネルギー要求を満たさなくてはならない。これは、特に繁殖地から遠く離れた海洋で採餌を行う海鳥にとって、困難な課題である。親鳥が、いかに行動を調節してこの課題を解決しているかを明らかにするため、2006年および2007年の7-8月、ベーリング海セントジョージ島で繁殖する潜水性の海鳥、ハシブトウミガラスにデータロガー(深度−温度)を装着し潜水行動を記録した。同時に雛と親鳥の餌(種類とサイズ)を、雛への給餌の目視観察と親鳥の胃内容物分析を用いてそれぞれ調べた。親鳥は、自身の餌よりも大きな餌(10cm以上のスケトウダラなど)を雛へ給餌した。一方、自身はより小さな餌(10cm以下のスケトウダラやオキアミなど)を利用していた。採餌トリップ中、最後の潜水バウト(雛の餌をとるための潜水と仮定)における潜水深度は、それ以外の潜水バウト(自身の餌をとるための潜水と仮定)における潜水深度よりも深かった。プリビロフ諸島周辺の海域では、表層の水温躍層周辺に、親鳥自身が捕食していた小さなスケトウダラ(<10cm)やオキアミが多く分布し、水温躍層より下の深層に雛に給餌していた大きなスケトウダラ(>10cm)が分布していることが知られている。ハシブトウミガラスは、雛の餌を1度に1つしか運ばないため、給餌量は選択された餌サイズに強く依存する。一方、自身の餌は、運搬の必要が無く採餌効率を上げるために必ずしもサイズの大きな餌を選ぶ必要が無い。ハシブトウミガラスは、雛への給餌速度を最大化するために帰巣の直前の潜水では深く潜り大きな餌を捕獲するとともに、それ以外の潜水では浅く潜り小さな餌を繰り返し利用することで採餌効率を上げ自身のエネルギー要求を満たしていると考えられた。
(背景)
食物資源は、動物の採食場所選択を通じて、しばしば適応度に最も大きな影響を及ぼす。食物資源の重要な性質の一つは、その空間分布が時間的かつ空間的に変動することである。このとき動物は、変化する食物資源の空間分布をどうやって追っているのか?またその結果、食物資源の空間分布に一致できているのか?
このことを明らかにするためには、動物の空間分布に影響する要因を、複数の空間スケールにわたって調べる必要がある。なぜなら動物の空間分布には、食物資源以外にも、生物的要因(他個体など)及び非生物的要因(植生構造や水深といった採食環境の性質など)が、様々な空間スケールで影響する可能性があるからである。
(目的)
本研究は、水田環境で採食するチュウサギを対象として、以下の問題を複数の空間スケールに着目することで推測することにした。
(1)チュウサギの空間分布は、食物資源によって決まっているのか?
(2)食物資源以外にも、(他個体や水田環境の性質に関わる)生物的、非生物的要因が影響しているのか?
チュウサギは山林や竹林に繁殖コロニーを形成し、付近の水田やハス田で、魚類や両生類などを採食する。サギ類は遮蔽物が少ない水田環境では空間分布を容易かつ高い精度で調査できる。また農業活動や水田環境の影響も、圃場単位で詳細に調査することができる。
(方法)
調査は、茨城県霞ヶ浦南岸の水田環境(東西約10km、南北400m)で行った。付近の山林にはサギ類のコロニーが存在し、関東一円でもチュウサギの個体数が多い場所の一つである。2008年4月末から7月にかけて、週1〜2日、調査地内のサギ類の全数調査を行い、分布を地図上に記録した。また同日中に、全ての水田の注水程度や農作業の進行状況を記録した。食物となる生物の調査は、チュウサギが最も採食努力を高めていると思われる期間に4回(5月上旬、下旬、6月上旬、下旬)行った。各時期、48区分の水田に小型トラップを設置し、捕獲された水生生物の種名と個体数を記録した。
調査の結果、チュウサギ及び水田生物の個体密度は、季節間及び地域間で大きく異なっていた。発表では、こうしたチュウサギの個体密度の変動が、食物資源、他個体及び水田環境の影響をどのように受けているか、得られた結果から推測する。
血縁関係にある個体間の交配を近親交配という。近親交配を行った個体は適応度を低下させることが多い。この適応度の低下を近交弱勢という。一般に、鳥類の近親交配の回避は出生地分散における距離の性差によって結果的に実現される。しかし、移入や移出が制限される狭い場所の小さな個体群では、分散の性差は近親交配の回避に機能しにくいと予測される。
リュウキュウコノハズクの亜種ダイトウコノハズクは沖縄県南大東島における固有亜種である。南大東島から最も近い生息地までは、飛び石状の岩礁もなく、約360kmを海洋によって隔絶されている。南大東島のダイトウコノハズクは留鳥で、出生巣からの分散距離や方角に性差はない(Matsuo et al. in prep.)。つまり、出生地分散の性差に依存して近親交配を回避することはできないと予測される。一方、南大東島のダイトウコノハズクの個体群サイズは300-400個体で維持されている。これは有害劣性遺伝子が既に排除されランダムな交配でも近交弱勢が起こらない、もしくは近親を回避する配偶によるものと予測される。
2002-07年のつがい関係とそれぞれの個体のDNA試料のマイクロサテライト解析により、ダイトウコノハズクの実際のつがい雌雄の血縁度とランダム交配による仮想つがいの雌雄の血縁度を比較した。実際のつがいの血縁度は、仮想つがいの血縁度よりも有意に低かった。配偶は非ランダムで、血縁個体を回避する配偶が行われていることを示唆する。さらに、つがい外受精率は、巣数基準14.8%、雛基準6.5%と比較的高い値を示した。つがい外受精(EPF)による仔を含む巣で、つがい受精の仔とEPFによる仔のヘテロ接合度を比較したところ、例外なくEPFによる仔で高かった。さらに個体を形成する配偶子間の遺伝距離を総合的に評価する数値である平均d^2値でもEPFの仔が有意に高かった。EPFは遺伝的距離が遠い雄との受精に機能していることを示唆している。
南大東島と同様に海洋島の亜種ランユウコノハズクでは、つがい外交尾(EPC)率が約20%である(Hus et al. 2006)。このEPCの数値が南大東島にも適用可能とすれば、EPF率の相対的低さは、cryptic female choice(精子選択)の可能性を示唆する。ダイトウコノハズクは血縁回避と精子選択によって、近交弱勢を回避しているものと考えられた。
カッコウの托卵に関する研究はこれまで欧米を中心に多くの研究者によって盛んに行なわれてきたが、熱帯地域に生息するカッコウ類については行動生態学的な研究はもちろん、基礎的な繁殖生態に関するものでさえ、研究がほとんどおこなわれていなかった。しかし近年、オーストラリアに生息するミドリカッコウの一種であるマミジロテリカッコウに関して、宿主の対托卵戦略について興味深い事実が発見された。
そこで我々は2006年の夏からオーストラリア北部の熱帯地域に広がるマングローブ林において、ハシブトセンニョムシクイGerygone magnirostrisとマングローブセンニョムシクイG. levigasterを宿主としているアカメテリカッコウChrysococcyx minutillusの托卵戦略について行動生態的な野外調査を開始した。
これまで4シーズンの結果からは、宿主の巣に対するアカメテリカッコウの托卵率は非常に高く、ハシブトセンニョムシクイが39.3%(n=81)、マングローブセンニョムシクイが34.2%(n=64)であることがわかった。このように高頻度の托卵を受けている宿主にとって、アカメテリカッコウの托卵による適応度の低下は少なくないはずだが、現在までのところ、宿主の2種がアカメテリカッコウの卵を排除した例はなく、宿主による卵排除は行なわれていないと考えられる。
一方、2006年にアカメテリカッコウの宿主であるハシブトセンニョムシクイがカッコウのヒナを排除する瞬間を撮影する事に初めて成功してから、2008年6月までに、ハシブトセンニョムシクイで3例、マングローブセンニョムシクイで2例の宿主によるカッコウのヒナ排除の場面を撮影する事ができた。アカメテリカッコウの托卵に対する対抗戦略として、どちらの宿主も卵排除で対抗するのではなく、ヒナ排除によって対抗している事がはじめて明らかになった。
今回は、今までに得た基礎データやヒナ排除のデータをもとに、宿主がアカメテリカッコウのヒナをどのように識別し、排除しているのかについていくつかの仮説を検討する。
カッコウをはじめとする鳥類育児寄生とその宿主の関係は、基本的に、両者の利害が一致しない宿主・寄生者系としてとらえられる。宿主と寄生者の個体群・進化動態に関する数理的研究は、既に多くの先行研究があるが、本発表では、近年東欧で確認された多重托卵のパラドックスに注目した数理的解析を行う。
多重托卵のパラドックスとは、宿主巣に2つ以上のカッコウ卵が産み付けられた場合、巣の持ち主が、1つのカッコウ卵が産み付けられらた場合よりもより高い確率で托卵を受け入れる現象を指す。宿主卵の巣内変異とカッコウ卵の特異的な模様が宿主の卵認識メカニズムに作用することでこのパラドックスが引き起こされると思われるが、詳細な理由は不明である。
本発表では、多重托卵のパラドックスを仮定した寄生者の個体群動態モデルを構築し、多重托卵のパラドックスが寄生者集団の存続性に及ぼす影響を数理的に解明することを試みる。そして、宿主の卵認識能力の進化と多重托卵のパラドックスの関係についても議論する。
ミズナギドリ科鳥類の多くの種では育雛期において両親がヒナへの給餌のために1〜10数日かけて数十〜千数百km離れた採食海域まで往復することが知られている。どうして彼らはこのような極端な給餌パターンを維持できるのだろうか?極端な給餌パターンの結果、ヒナは日常的に長期の絶食を経験する。一般に長期の絶食は成長途上のヒナに成長の遅延などの悪影響を及ぼすが、ミズナギドリ類のヒナは例えば体温低下などの生理的なメカニズムで消費エネルギーを節減し、成長を維持できると予想される。しかし、絶食の成長への悪影響や生理的メカニズムについて、報告は殆ど無い。そこで絶食が成長の遅延をもたらすか、絶食中に体温を低下させるかを検証するために、親が1〜10数日の採餌トリップを行い、日常的に絶食するオオミズナギドリのヒナを対象として人工飼育を行い、絶食実験を行った。
実験は2006年8月26日-11月4日に行った。岩手県三貫島でふ化したヒナを捕獲し、実験室にて個別の巣箱に入れ飼育した。30日齢時に22羽のヒナを(a)毎日給餌(N=9)、(b)短期絶食(2日絶食後4日給餌, N = 5)、(c)長期絶食(6日絶食後14日給餌, N = 8)の異なる給餌スケジュールを設定した3つの実験群に振り分け、毎日体重・翼長を計測した。実験は76日齢まで行い、総給餌量は3群間で等しくなるよう調整した。76日齢以降、全てのヒナについて2日間の給餌後に3日間の絶食を経験させ、各群の一部の個体((a), (b), (c)=1, 1, 2羽)についてデータロガーを嚥下させ胃内温度の変化を3分毎に記録した。80日齢の時点で全てのヒナを安楽死させ、解剖して筋肉、内臓の重量を測定した。また、身体の栄養状態(脂質・蛋白・灰分)について分析を行った。
(a)群と比較して、(b), (c)群では絶食中体重が低下し、さらに(c)群では絶食5-6日目に翼長成長が鈍化した。しかし、実験終了時には体重および翼長成長量・体器官重量・栄養状態のいずれも3群間で差がなかった。また、絶食時の体温は、基本的に38℃前後で推移したものの、絶食2日目以降の(a), (b)群のヒナで深夜から早朝までの間に、体温が26-28℃までの低下が見られた。以上から、長期の絶食はヒナの成長に短期的には悪影響を及ぼすがその後十分な量の給餌があれば最終的な成長にはほとんど影響しないことが示された。また絶食状態での体温低下は、(c)群で見られなかった原因は不明だが、絶食時の消費エネルギー低減に貢献しているかもしれない。
海洋におけるプラスチックゴミの増加に伴って、1960年代以降海鳥によるプラスチック摂食の報告例が増えてきた。海鳥によるプラスチック摂食は、腸閉塞や胃潰瘍によって消化能力の低下を引き起こし海鳥の成長阻害の要因になっている。しかし、海鳥によるプラスチック摂食に関する過去の研究はプラスチック摂食頻度や種類といった基礎的情報に限られており、プラスチック摂食が海鳥の栄養状態に与える影響について検討した例は少ない。本研究では、夏季に北太平洋で多く出現するハシボソミズナギドリ Puffinus tenuirostris を対象とし、そのプラスチック摂食の最近の現状を明らかにし、これと肥満度の関係について検討することを目的とした。
2003年6-7月に北海道教育庁実習船「若竹丸」で実施された流し網で混獲された個体を用いた。外部計測および解剖を行い、ハシボソミズナギドリの胃からプラスチックを摘出した。プラスチックは蒸留水で洗浄後、レジンペレット(プラスチック原材料)、製品破片、テグス、発泡スチレン、薄膜状プラスチックの5種類に分類し、各々の重量を測定した。プラスチックの重量とハシボソミズナギドリの肥満度との関係をみるため、肥満度(肥満度=体重/ふしょ長3)を求めた。
混獲された111個体のハシボソミズナギドリのうち、プラスチックを摂食していた個体は全体の87%であった。ハシボソミズナギドリ1羽あたりが摂食していたプラスチックの重量は平均0.29±0.26 gであった。最も摂食頻度が高かったプラスチックは、製品破片(59%)であり、次いで、レジンペレット(26%)であった。既往の知見から、周年北半球で生息するミズナギドリ目の胃から出現したレジンペレット(17%)は、南半球で周年生息するもの(56%)に比べて少ないことが分かっている。また、南太平洋海洋表層におけるレジンペレットが占める割合(20-50%)に比べ北太平洋におけるレジンペレットは極めて少ない(2%程度)ことが分かっており、ハシボソミズナギドリのレジンペレット摂食は南半球で起こったと推察された。
プラスチック重量と肥満度について調べたところ相関関係は認められず、プラスチック摂食によって海鳥の栄養状態が悪くなることはなかった。これは、プラスチックの体内残留時間が不明であること、成鳥に比べて雛や亜成鳥でプラスチックの摂食頻度が高いこと、渡りに利用する脂肪量の個体差などの要因によって、プラスチック摂食による影響が検出できなかったことも一つの原因と考えられた。
ヒゲペンギンとジェンツーペンギンは,南極半島域で同所的に生息する近縁なペンギン類であり,ナンキョクオキアミという共通の餌を利用している。また,南極半島域は,地球上で温暖化が最も顕著な地域の1つであり,それに伴って海洋環境も変化しつつあると言われている。しかし同地域における2種のペンギンの個体数変動を見てみると,ヒゲペンギンが近年減少傾向にある一方で,ジェンツーペンギンは増加または安定傾向にある。このような逆方向の個体数変動パターンを示す理由として,南極半島域における海洋環境変動が,2種のペンギンの採餌戦略の違いを通じて,両者に異なる影響を与えているという可能性が考えられる。そこで本研究では,2種のペンギンの行動を計測して比較することで,2種の採餌戦略の違いを詳しく調べることを目的とした。
2006年12月から2007年1月にかけて,南極半島域のKing George島に生息するヒゲペンギンとジェンツーペンギンを対象に,海上の位置と潜水深度を同時に詳しく測ることのできるGPS-深度ロガーを用いて,採餌行動を調査した。野外調査により,育雛中のヒゲペンギン18個体,ジェンツーペンギン14個体分の詳細な移動軌跡および潜水行動のデータを得た。調査期間中,2種のペンギンは,共にナンキョクオキアミを主な餌としていた。しかし3次元的な採餌空間を比べると,ヒゲペンギンが沿岸から沖合にかけての深い海域に分布し,主に海の表層を餌場として利用していたのに対して,ジェンツーペンギンは沿岸の浅い海域に分布し,主に海底に近い層を餌場として利用するという違いがあった。
そこで潜水行動を解析すると,ジェンツーペンギンは海底付近への潜水を多く行うことで,潜水パフォーマンスを上げ,効率のよい採餌を行っていることがわかった。一方ヒゲペンギンでは,沿岸と沖合で潜水パフォーマンスに差はなかったが,より沖合へ行った個体はより多くの餌を持ち帰り,また自分自身の体重を増やす傾向があった。すなわち,ジェンツーペンギンは沿岸の底層,ヒゲペンギンは沖合の表層の餌環境に適応した採餌戦略をそれぞれとっているものと考えられた。このような2種の採餌戦略の違いは,海洋環境変動に対する2種の応答の仕方の違いを生む要因の1つとして,重要だと考えられる。
2006年初頭に北海道の中央地域でスズメPasser montanusが大量死し、その5月には繁殖個体が少ない地域があった(藤巻・一北2007)。繁殖個体の死亡率が上がると、個体群の復元力が弱ければ個体密度が減少したり、また強ければ、繁殖率が上がるなどの個体群を維持する機構が働くことが考えられる。そこで、該当地域のスズメ個体群の変動を追うためにモニタリングを行なっている。方法などの詳細は黒沢ほか(2007)を参照されたい。
今回は、モニタリング2年目の経過を報告する。調査の定点数を増やして、年次変化と地域差などについて、より詳細な解析をした。また、2006年の大量死の要因を考察するために、ハビタット別の密度と、天候による行動の違いも検討した。
成鳥、幼鳥の数ともに、統計的に有意な年次変化は見られなかった。また、地域の差としては、2007年には北海道で巣立った幼鳥は関東よりも多かった可能性がある。住宅地と緑地という環境別には、スズメ成鳥の密度は差がなかったが、幼鳥の密度は公園や緑地などで高かった。
これらのことから、2006年の大量死は北海道の一部でスズメ個体群の密度を減少させたかもしれないが、個体群動態を大きく揺り動かすスケールではなかったと考えられる。また大量死の当年には成鳥が少なめで、夏の幼鳥が多かった可能性もあるが、いずれも有意ではなく、大量死の影響は繁殖成功率に及ぶほどではなかったと思われる。
課題として、調査地域の偏りがあり、札幌圏だけしか十分調査ができていないので、同様にスズメの死亡が見られた旭川や室蘭地域の状況は異なる可能性があること、同じ地点での継続調査が少ないこと、ボランティア調査なので調査者の条件にバラつきがあり、幼鳥の数の確認に不安が残る点などがある。これらを是正するためには、より組織的に調査体制を組む必要があるだろう。
風力発電所の野鳥に対する影響について,日本での詳しい調査報告はまだ少ない。そこで,今回私は,越冬期の野鳥の生息への影響と,繁殖期の風力発電機からの距離による影響を調査したので,その概要を報告する。
調査場所:三重県の伊賀市と津市の境界にある,布引山地(青山高原)にある青山高原ウインドファームと,ウインドパーク美里とその周辺。
調査時期:越冬期は2007年11月〜12月,繁殖期は2008年6月〜7月。
調査方法:・越冬期には,調査区を風力発電機から200m以内の森林8ヶ所に設定し,一方,対照区を風力発電機より850m以上離れた標高と植生がほぼ同じ森林4ヶ所に設定し,調査した。距離による影響は風力発電機から200m以内1.2kmと,発電機から南に2.7km離れた地点までのラインセンサス調査を6回行った。
調査結果:
1.越冬期の落葉広葉樹林での差:対照区では,ツグミ,エナガが優占し11種類の鳥類の生息が確認された。一方,風力発電機近くの調査区では,対照区と同様ににフウリンウメモドキ,ヒサカキなどの実が多数実っているにも関わらず3種類の鳥類しか確認されず,有意(P<0.01)に少なく,面積あたりの個体数で(約1/55),種類数で(約1/11)であった。
2.越冬期のヒノキ植林地での差:対照区では,マヒワ,エナガが優占し17種類の鳥類の生息が確認された。一方,風力発電機近くでは,対照区と同様にヒノキが実り,林縁部にはリョウブなどが実っているにも関わらず12種類しか確認されず,有意(P<0.01)に少なく,面積あたりの個体数で(約1/5),種類数で(約1/4)であった。
3.風力発電機からの距離による影響:
風力発電機から直線距離で約800m以内では,有意(P<0.01)な生息密度の差が見られ,(約60%)に減少していた。また,昨年発表した報告と同様,発電機から200m以内では,(約36%)に減少していた。
半世紀前にはわずか数十羽となったアホウドリは現在約二千羽にまで個体数が回復した。しかし、彼らに残された繁殖地は噴火の恐れのある伊豆鳥島と政治問題を抱える尖閣諸島の2カ所だけであり、絶滅の不安はいまだ払拭されていない。米国、日本、豪州のアホウドリ関係者からなる「アホウドリ回復チーム」は、本種を安定的な個体群として今後存続させるために、小笠原群島の聟島列島にアホウドリを再導入する計画を取り決めた。そこで、回復チームの一員である山階鳥類研究所は、米国政府と環境省と協力して、現地の環境調査、デコイの設置、近縁種の人工飼育などの準備を進めてきた。そして、2007年9月の環境省アホウドリ分科会において、伊豆鳥島のアホウドリの繁殖状況、聟島でのクロアシアホウドリの試験飼育結果などの情報をもとに、今後の保護計画が検討された結果、2008年からアホウドリの雛10羽を伊豆鳥島から聟島に運び、現地での飼育を試みることが決まった。
この決定を受け、2008年2月19日に、約40日齢のアホウドリの雛10羽(雌6羽・雄4羽・平均体重4.5kg)を伊豆鳥島南側の燕崎繁殖地で捕獲し、約6時間かけて聟島の北西端まで移送した。移送時間が長引くと、そのストレスが雛の生理状態を著しく悪化させ、その後の生存率を下げる恐れがあるため、伊豆鳥島からの移送にはヘリコプターを用いた。クロアシアホウドリの時と同様に衛生管理には十分配慮しながら、トビウオとスルメイカを飼育雛の主な餌として与え、その他にもオイルサーディン、オキアミ、乾燥サクラエビ、ミンク鯨の皮下脂肪、ビタミン剤などを与えた。これらの餌の量や比率は、近縁種から推定した日当たり代謝エネルギー量(200kcal/体重kg)を目安に、飼育雛の成長速度と伊豆鳥島で過去に測定されたデータから推定した成長速度を比較しながら調節した。また、脱水症を防ぐために餌とは別に1日300-400mlの水分も与えた。その結果、1羽も死ぬこと無く全ての雛が5月20日前後に巣立った。飼育雛の巣立ちは伊豆鳥島の雛よりもやや早い傾向が見られたが、巣立ち直前に測定した骨格の長さは両者の間で違いがなく、翼の長さや体重は飼育雛の方がむしろ大きい結果となった。また、同じ時期に測定した血液中の生化学成分濃度の比較結果では、飼育雛の方がクレアチンフォスフォキナーゼ、尿酸、アルブミンの濃度が高かった。
コムクドリは札幌周辺では住宅街を含む平地で普通に繁殖する樹洞性の種である。自然状態では、キツツキ類の古巣や自然にできた木の洞などで繁殖する。キツツキ類の古巣や衰退しつつある樹木が多く樹洞が集中する場所では、コロニー状の繁殖形態をとることも多い。また、巣箱もよく利用する。著者は、1993年から札幌市内で巣箱をかけてコムクドリの繁殖状況を調査してきた。
2007年にアオダイショウ(Elaphe climacophora)による巣内捕食が3件発生し、相次いで3つの巣箱からヒナおよび卵が捕食された。例年の巣内捕食件数は0〜2であった。翌2008年の当該調査地の営巣数は2で、95〜06年までの平均営巣数(14.5)と比べると1/7以下に減少した。
調査地におけるある年の繁殖成功率(全巣立ち雛数/全卵数として表した)の間には正の相関はあった(r=0.580, p=0.05)。さらに、巣内捕食件数と翌年の営巣数の間には強い負の相関があった(r=0.813, p=0.01)巣立ち直前または巣立ち時のハシブトガラスによる捕食も3例確認されたが、翌年の営巣数には影響がないと考えられた。これらのことから、コムクドリにとっては、捕食者が巣内に侵入することが大きな脅威となっており、その程度いかんで営巣場所選択が大きく左右されることが考えられる。
調査地周辺では、近年、近隣住民などからのアオダイショウの目撃情報が増えている。2007年にコムクドリの巣内で捕食したアオダイショウのうち、2個体は捕獲できた(コムクドリの繁殖終了まで室内待機させた)ので、最低2個体の出没していたことになる。今回の事例が温暖化による影響と一概に結論づけることはできない。しかし、気温上昇が続けば、爬虫類の活動時期および日中の活動可能時間が増加することが予想されるため、今後は鳥類の繁殖に与えるヘビ類の捕食圧にのモニタリングが必要性になる可能性もあるだろう。
大阪府岸和田市のため池100か所で10年間にわたって,カイツブリ,バン,カルガモなど,ため池で繁殖する鳥類の営巣状況を調査しているが,2006年からのカイツブリの営巣場所の変化を報告するとともに,その原因について考察する.
カイツブリの営巣場所は,抽水植物帯の内部や,池縁部に生育する木本植物の陰であるが,2002年以降,遮蔽物のない,全体が見通せる開放水面での造巣,産卵,育雛が確認されるようになった.開放水面での営巣割合は,2006年以降10%以上となり,現在も割合が増加しつづけている.また,岸和田市内最大の久米田池では,コカナダモが水面全体に繁茂した2003年以降,毎年30以上の巣が開放水面上につくられ,これらの90%以上が繁殖に成功している.
開放水面での営巣が確認された池に共通する環境要因は,丘陵地にある養魚池で,水面から60cm〜1m上に,カワウ防除のネットやテグスが張られていることである.調査期間にもっとも多く確認された捕食者は,カラス類であったが,開放水面につくられた巣はすべて,テグスやネットの直下に営巣されていたので,これらが空中からの捕食者に対して巣を護る役割を果たしていたものと考えられる.また開放水面は岸から遠いので,アライグマ,イタチ,ノイヌ,ノネコ,ヘビなど陸上動物による捕食の確率をさげる効果もあると考えられる.ちなみに,テグスやネットを張る際,池中に支柱としてたてるパイプや竹ざお,養魚池の中心に設置される大型エアポンプの台座は,巣の土台として利用されていた.
このようにテグスやネットが張られた開放水面は,カイツブリにとって好適な営巣場所であると考えられる.なお同様な状況にある奈良盆地のため池でも開放水面での営巣が確認されており,これについても今後の動向に注目したい.
奄美大島と、隣接する少数の島々のみに生息する固有種ルリカケス Garrulus lidthi の営巣行動を、巣箱を利用して観察した。ルリカケスはスダジイやアマミアラカシのドングリがなった年の晩夏から翌繁殖期にはドングリを主食とし、奄美大島の森林の優占種であるスダジイのドングリの結実年の後に繁殖成績がよいことを昨年報告した。2007年秋は、スダジイのドングリが豊作だった。ルリカケスの自然状態での繁殖成功率が低いにもかかわらず生息密度の高い、リュウキュウマツの優占する再生林(市理原)と、周辺における森林伐採や侵略的外来種捕食者マングースの影響を受けた壮齢照葉樹天然林(金作原)の2箇所に、10個ずつの巣箱を設置して、2003年から6年間、営巣経過を記録した。捕食回避設計の底辺30cm四方、高さ45cmで前後上下に2つの出入口を持つ巣箱は、直径15cm長さ約2mの塩ビ管上に近隣の枝から離して固定した。観察補助装置として、巣箱内外に温度ロガーを設置した。完成巣の有無を基準とした各年の巣箱利用数は、市理原では8〜10個、金作原では1〜2個だった。巣箱利用率の高かった市理原において、産卵に至ったことが確実な巣箱は2003年から順に8、10、6、6、8、6個だった。2005年を除き各年1個ずつの巣箱で、2回目の産卵が確認された。ヒナが巣立ったと推定された巣数は、2003年から順に、1回目6巣+2回目1巣、7+0、2+0、2+0、7+0、4+0と変動した。産卵から孵化、孵化から巣立ちのいずれのステージでも巣数、卵数、ヒナ数の減少があった。2008年は、ドングリの豊作翌年だったが繁殖成績は高くなかった。2回目の産卵が確認された巣では、その後1ヶ月足らずの間に卵の消失、産卵、消失が繰り返された。この観察から、ルリカケスの巣において、種内競争による卵破壊(除去)やヒナの捕食(除去)のある可能性が疑われる。ルリカケスの巣内雛は、個体間で大きさに差異があり、非同時孵化である。ルリカケスでは、ドングリの豊凶による環境変動が、巣立たせることのできるヒナ数に強く影響をあたえ、非同時孵化と種内捕食が適応的に働いている可能性を、他種の研究例と比較して考察する。
カワウは日本有数の魚類を潜水採食する大型水鳥で、現在は全国に生息している。コロニーや塒を形成し、海岸から内陸までの各種の水辺を広く利用する。しかしながら、詳細な生態については、まだ十分に解明されていない。そこで、形態から生態を解明するため、性別と年齢別に分けて、主要な骨について測定値の差異を調べた。
標識を付けたカワウの回収個体で、1986年から2008年の間に収集できた巣立ち後から13歳までの24個体で、全身の17か所の骨で最大長を測定した。左右対称の骨は左側を、左側が欠落した場合は右側を測定対象とした。測定にはデジタルキャリパーを用いて、mm以下少数2桁までの値を3回読み、その中央値を採用した。カワウは一時期生息数が非常に減少して、分布が数か所に分断されていたので、最初に関東南部(東京、千葉)で出生した20個体とそれ以外の地域(愛知、滋賀、兵庫)で出生した4個体を比較した。有意な差異はなかったので、全24個体を以下の項目で比較した。
まず、剖検による生殖器確認で性が判明した19個体の中で欠測値のない15個体(オス7、メス8)の測定値を用いて、性判別式を作成した。この式によって性不明の5個体の性を判定し、オス10個体とメス14個体で性別による比較をした。オスとメスでは大きな測定値の差異が見られた。カワウは通常の生活の中で集団採食と単独採食を使い分けるが、後者の場合に採食などのやり方が雌雄で異なる可能性が示唆される。次に、巣立ち後から1歳まで、1〜5歳まで、5歳以上(メスのみ)に分けて比較した。オスもメスも年齢による差異は認められなかった。カワウは年齢とともに繁殖成功率が向上するが、このことには体格差より経験などの影響が大きいと考えられる。最後に、各測定値のバラツキを変動係数でみたところ、バラツキの大きさがオスとメスで異なっていた。今後、これらの結果を手掛かりに生態との関係を検討していきたい。
目的
近年、カワウ個体数の増加により、水産被害が全国的な問題となっている。しかし、カワウの採食場所における魚類およびその資源量に関する研究は、被害軽減のための基礎的な知見として重要であるにもかかわらず、これまでほとんどなされていない。
本研究では、山梨県甲府盆地を流れる富士川流域において、カワウのねぐらが形成された直後の2000年と、個体数が増加し頭打ちになった2008年の魚類相を比較した。また、カワウの胃内容物組成と魚類相を比較し、餌選好性について議論した。
方法
本研究で扱うカワウ個体数は、魚類調査地周辺にある唯一のねぐら兼繁殖コロニー(甲府市, 以後下曽根コロニー)の生息数とした。下曽根コロニーでは、1998年11月の30羽が最も古い記録で、2002年10月以降は、毎月、個体数モニタリング調査が行われている。
投網による魚類調査は、2000年および2008年の4月から6月まで毎月1回、富士川の本流(信玄橋上流)と笛吹川(神徳橋下流)において行った。いずれの場所も、カワウの飛来および着水が頻繁にみられ、毎年4月から5月に、アユの種苗放流が実施されている。
カワウ胃内容物の解析については、銃器および釣り針による捕獲の始まった2004年から2008年まで、4月から6月に富士川水系で捕獲され空胃でなかった29個体を用いて行った。
結果
下曽根コロニーのカワウ生息数は、1999年には100羽を超え、2003年4月に初めて繁殖が確認されて以来、周年にわたりおよそ300羽から800羽のカワウが確認されている。
2000年に行った投網による魚類調査では、1投あたりの捕獲重量は49.1gであったのに対し、2008年には16.8gとおよそ3分の1に減少した。特にコイ科魚類の減少が著しく、1投あたりの捕獲重量はウグイが17.1gから2.7gに、オイカワが2.7gから0.5gに減少した。一方、2000年、2008年ともに最も多く捕獲されたアユは、捕獲重量が減少したにもかかわらず、全捕獲重量に占める割合は35.3%から66.3%に増加した。
カワウの胃内容物では、オイカワ、アユの順に多く出現し、それぞれ全胃内容物重量の58.0%、10.9%を占めた。魚類調査でのオイカワの全捕獲重量に占める割合は、2000年が5.5%、2008年が2.8%といずれも低かったため、オイカワはカワウによって選択的に捕食されている可能性が示唆された。
【緒言】カワウ Phalacrorax carbo による漁業への食害問題は内水面漁業をはじめとして全国的な問題となっており、カワウが食べる魚の知見が求められている。カワウ標識調査グループが行っている東京都港区第六台場(台場と略す)と千葉県市川市行徳鳥獣保護区(行徳と略す)、千葉県木更津市小櫃川河口(小櫃と略す)において実施したバンディングに参加した際に、カワウの食べていた魚を調べる機会を得たので報告する。
【方法】2000年3月から2008年5月にかけて、台場(9回)と行徳(10回)小櫃(6回)で調査を行った。調査方法はバンディングのためにコロニー内に入った際、カワウが吐き出したり、巣の下に落下していた魚類等について種類別に体長を記録した。
【結果】延べ25回の調査で魚類59種,3,075尾、甲殻類3種,38尾を確認した。魚種組成から見たカワウの摂餌場所は台場と行徳は河川が約33%、干潟等の浅海域が約63%であったのに対して、小櫃は河川が約8%、浅海域が43%、沖の海域が49%と海域での摂餌が多くなっていた。採食されていた魚はボラが全ての調査で出現し、フナ類、コノシロ、カタクチイワシが50%以上の調査で確認された。
個体数が多かったのはカタクチイワシ、ボラ、カレイ類であった。カレイ類については2005年に大量に確認されたが、この年は東京湾内で稚魚が大量発生した年であり、行徳で276尾の稚魚が認された(前年度は3尾)。魚の重量別の割合は、台場と行徳では、ボラとフナ、コノシロの3種で80%以上を占めることが多く、小櫃川ではカタクチイワシが50%を超えることもあった。
カワウは、東京内湾に生息するたくさんの魚類を食べているが、内容的にはカタクチイワシやボラ、コノシロ、フナ類など数種類の魚に大きく依存しているのが実態であった。このことは、これらの魚の資源変動によりカワウが影響を受けることが予想される。しかし、同じ場所にコロニーを作っているカワウでも、異なる場所で摂餌しており、餌に対する適応能力は高そうである。
海鳥では一般的に体サイズにおいて性的二型がある.性的二型をもつ海鳥では採食する際の潜水深度や餌のサイズ,場所等に性差が見られることが報告されている(Watanuki et al. 1996,Ishikawa & Watanuki 2002,Kato A et al. 1996,Kato A et al. 1999).
カワウは採食行動に影響する部位に性的二型がみられオスの方が大きい海鳥である.我々は,カワウの性的二型が採食行動と関係しているのかを調べた.今回は,採食行動として1)餌を捕える行動2)採食にかける時間の2点で考えた.餌を捕える行動に性差があるのか調べるために胃内容物を調べた.愛知県豊田市の矢作川で駆除された個体から消化管から取り出した.胃内容物から餌の量・サイズ・種の出現率・生息環境(底生性と遊泳性)を性別に比較した.採食トリップの性差を調べるために愛知県知多半島南部の鵜の山コロニーで日の出から日の入りまで繁殖個体の巣の出入りを観察した.採食トリップの観察では採食トリップの時間・回数を性別で比較した.
胃内容物量,採食魚のサイズ別出現率,採食魚種の生息場所別出現率には性差はみられなかった.採食トリップの平均時間,回数ともに性差はないことがわかった.
胃内容物の解析の結果から,カワウの採食魚のサイズ・採食した深度に性差はないことがわかった.採食トリップの観察から採食にかける時間にも性差がないことがわかった.性的二型はカワウの採食戦略である潜水方法(Gremillet 1997)に関係していると思われる.
カワウでは、冬に白い飾り羽根が頭部に現れ、夏にはなくなるとされる。我々は、カワウの飾り羽根の季節変化やコロニー間の変異を調べた。2008年1月上旬から7月下旬にかけて、愛知県および岐阜県の集団繁殖地において調査を行った。個体毎の飾り羽根の被覆度を7日おきにに5段階に分けて記録した。その結果、飾り羽根の被覆度は同じ個体でも繁殖ステージがすすむほど小さくなった。各個体の産卵期をふ化時期から逆算し、産卵期の飾り羽根の被覆度をその個体の飾り羽根被覆度とした。メスの被覆度にのみコロニー間で差が認められた。繁殖した個体のうち飾り羽根のない個体は7%で、ほとんどの個体が飾り羽根を持っていた。飾り羽根の個体変異と繁殖成績との関係を考察するため、7日おきにコロニーの外から、雛の数を数え、ふ化時期とブルードサイズ、巣立ち数を得た。オス・メスともに、飾り羽根の被覆度は、ふ化日が遅い個体の方が、小さくなった。ふ化時期によって繁殖成績は大きく影響されるので、飾り羽根の被覆度の効果を見るため、ふ化時期を制御して解析を行ったところ、メスの飾り羽根の被覆度が大きいほどブルードサイズが大きかった。一方で、オスの飾り羽根の被覆度とブルードサイズ・巣立ち率には関係がなかった。したがって、カワウのメスの飾り羽根は、その質を反映している可能性が示唆されたが、オスではその傾向は検出されなかった。また、雌雄の飾り羽根の被覆度には有意な相関が認められた(r=0.45, P<0.001)。これは、ヨーロッパヒメウ(Daunt et al. 2003)と同様、飾り羽根が配偶者選択に関わっている可能性を示唆するかもしれない。
基礎代謝率は,最も広く測定されている生理的な特性のひとつである.代謝率は酸素消費率で表すことができる.これまでの多くの哺乳類の研究において,基礎代謝率と器官の大きさには個体間で一貫した正の相関があるとされており,比較的高い基礎代謝率をもつ個体は,比較的大きな代謝活性組織(心臓,腎臓,肝臓など)を持っていると言われている.しかし鳥類での研究例は少なく,鳥類では個体間において同様な相関がないことが示唆されている(Burness et al.1997).本研究ではウズラ(Coturnix japonica)における基礎代謝率と体組成の関係を調べた.ウズラのオスを個別飼育し,エサは毎日十分に与えた.繁殖期にある約100日齢の成鳥の状態で酸素消費率を測定した.測定中の最も低く安定した酸素消費が行われているときに基礎代謝が行われていると仮定し,固有基礎代謝率(mlO2/g・h)を求めた.その後個体を解剖し,各器官の大きさを計測した.固有基礎代謝率は筋肉量と負の相関があったが,皮膚と皮下脂肪,肝臓,心臓,生殖器,腎臓,胃,すい臓,腸には相関が見られなかった.この結果から,ウズラの基礎代謝量は筋肉量に依存すると考えられる.脂肪など代謝活性の低い組織からなる器官は,その代謝活性の低さから代謝率に影響しないことが示唆される.しかし肝臓や腎臓などの代謝活性の高い器官が代謝率に影響しない理由はわからない.
【はじめに】これまで、雄化羽装を伴うオナガガモの雌(卵巣退縮を伴う内分泌異常例で、雄化雌と略称する)について研究を進めてきたが、依然不明な点が多い。今回は、(1)他種における羽装雄化例の有無、(2)雄化雌の出現頻度と経年変化、(3)雄化雌の年齢と羽装との関連性、(4)越冬期(配偶形成)期における雄化雌の行動について調べた結果を報告する。
【調査地と方法】瓢湖での調査(1998年〜2008年の観察、捕獲および標識装着)は、所轄官庁の許可を得て進めた。形態に関しては、既報(Chiba et al., 2001; 2004)で扱った材料(雄化雌4羽と対照の雌雄各4羽)に雄化雌11羽および正常雌雄各130羽および埼玉カモ場(宮内庁)提供の雌雄10数羽を加えて比較検討した。また、行動観察は双眼鏡、望遠レンズ付カメラおよび家庭用ビデオカメラを用いて行い、雄化雌5羽とカラーマーキングされた対照13羽(正常雄5羽と雌8羽)を対象に、求愛行動の最も活発な厳冬期の日中に実施した。材料の年齢は標識回収データと剖検結果に基づいて推定し、配偶行動については、先行研究(Johnsgard, 1965など)を参考にした。
【結果】得られた結果は次のように要約できる。
(1)他種における羽装雄化例の有無:雄化雌とみなされる個体は、調査地で越冬するマガモでも認められた。しかし、その数は最近10冬季(1998年〜2008年)で合計3羽にすぎなかった。
(2)雄化雌の出現頻度と経年変化:調査地における当該個体の出現頻度(雄化雌の冬季最大確認数/1月中旬における本種個体数)は0.01〜0.2%の範囲にあり、最近10冬季における経年変化に明瞭な増減傾向は認められなかった。
(3)雄化雌の年齢と羽装との関連性:標識調査と剖検に基づく雄化雌の年齢は0〜8+と推定され、剖検した8例中2例は幼鳥であった。長期間観察された事例も含めて総合すると、羽装の雄化は年齢に関係なく生じ、その程度は加齢や換羽に伴ってある段階まで進行すると考えられた。
(4)越冬期(配偶形成)期における雄化雌の行動:雄化雌に対する正常雄の明瞭な求愛行動はなかった。一方、一部の雄化雌は、雄特有の誇示行動の1つ(Burpingまたはゲップ)を示し、注目された。しかし、この行動が雄化雌から特定の正常雌に対して行われたことを示す証拠は得られなかった。
野生動物の生態解明や保全管理のためには, 個体の年齢も重要な情報の一つである. 齢推定の方法は, 鳥類では足環装着や骨組織に形成された年輪の観察が知られているが, 再捕獲の困難さや生体組織の一部を切断するという手法なため, 希少種や生体からの採取に適しているとは言い難い. そんな中, 近年注目されている手法に, テロメアの長さを測る方法がある. テロメアとは染色体末端部にある繰り返し構造で, 細胞分裂の度に磨り減っていき, 一定の長さ以下になると分裂が停止するため, 細胞老化と関わっているとされる部位である. 個体への負担が少ない微量の採血によりDNAを抽出し, テロメア長を計測することで, ある程度の齢推定が可能であると示唆されている (Haussmann 2002, Juola et al. 2006). しかし, 長寿命の種においては年齢とテロメア長との相関が現れない例もあり(Haussmann 2003), テロメアと年齢の関係は不明である.
そこで, 本研究では日本近海に生息, 国内各地に集団営巣地 (コロニー) を形成する長寿の海鳥であるウミネコLarus crassirostrisについてテロメアを計測した. また, 長寿と言われているウミネコで成鳥に達した後には加齢によりテロメアが顕著に短縮するかどうかを調べるために, 2007年と2008年の繁殖期に同一の個体が捕獲できた個体のテロメア長を比較した.
2007年, 2008年に青森県蕪島にあるウミネコのコロニーから足輪により年齢既知の成鳥個体および, 北海道利尻島のコロニーのヒナから採血し, DNAを抽出. テロメア長を検出するのには一般的な手法であるサザンブロット法で検出し計測した.
ウミネコでは, 若齢個体ではテロメア長が長く, 高齢個体はテロメア長が短いという負の相関は得られず, 高齢個体でもテロメア長が長い個体が数多く存在した. また, 同一個体内のテロメア長の変化やウミネコにおける全年齢とテロメア長の関係について議論する.
鳥ポックス症(Avian Pox)は、海外では60種近くの鳥類が罹患・発症したという報告があるが、日本における報告例は現時点では少なく、国内の鳥類における感染実態は不明である。
札幌市周辺では2005年ごろから、脚や顔面に瘤状の異常が認められるカラス類が観察され始めた。2006年から2007年にかけて発症個体数の急激な増加がみられ、これが原因と思われる死亡/衰弱個体も増加した。このため、2006年および2007年に回収された死亡/衰弱した7個体について臨床的診断、病理解剖を行った結果、Avipox症と診断された。
大量発生の状況を把握するために、2007年10月に札幌市、江別市、および当別町の数箇所で定点観察を、同年11月には札幌市、千歳市、恵庭市、および後志地方北部において広域ロードセンサスを実施した。
札幌近郊の定点観察の結果、発症がみられた個体はほとんどすべて当年生まれの若鳥であり、ハシブトガラスとハシボソガラスの両種とも発症がみられ、どちらかの種だけの現象ではないことがわかった。発症率(有症個体数÷観察個体数)は札幌市中心部で高く、郊外のほうが低かった。
同様に、広域ロードセンサスでも札幌から離れた地域で発症個体の観察はなかったが、千歳市で1羽の発症確認があり、これも当年生まれの若鳥であった。
2008年1月18日に実施した札幌圏の冬塒定期調査では、過去14年間集合羽数が9000羽前後でほぼ一定していたにもかかわらず、集合羽数が例年の65%前後にとどまった。鳥ポックス症による死亡率が高かったことの反映かもしれない。
札幌市中心街における鳥ポックスの高発症率は、過度の餌付けやゴミ集積場の管理の不徹底によってカラス類が集中しやすいことと関連があると考えられる。このような場所では、カラス類を含めた野鳥が多く集中し極めて不衛生な環境で採食するために、感染を必要以上に拡大している可能性がある。
野鳥への感染症の大量発生を防ぐには、早急に、餌付けやゴミ集積場の管理の不徹底などの野外では起こりえないような不自然な個体数の集中要因を取り除く対策をとるべきである。しかしながら、現時点では餌付け等には法的な禁止や抑制が存在しておらず、なんらかの対策が望まれる。
人間社会ではカラス類はとかく悪者扱いされやすい。デマや風評で間違った取り扱いがなされる可能性もある。客観的、科学的な調査を進めていくと同時に、「人には感染しない」といった、正しい知識のPRも必要とされるだろう。
カンムリウミスズメはIUCNと環境省のレッドリストに掲載される世界的に保護が急務とされる種類である.しかしこれまで繁殖期に繁殖する島とその周辺海域でしか確認できなかったためそれ以外の生態はほとんど不明で,保護のための基礎的な生態の解明はまったく行われていなかった.しかし2007年,飯田により瀬戸内海で非繁殖期に生息する個体群の存在が初めて確認され(飯田 投稿中),本種における非繁殖期の生態の解明と保護への端緒が初めて開かれることとなった.そして昨年の学会大会で,その瀬戸内海の非繁殖期に生息する個体群と幼鳥の発見についての報告を行ったが,それ以降も継続して調査を行っているため,本年は非繁殖期の生態と雛の成長に伴う体色変化,瀬戸内海での繁殖の可能性等,それ以降の研究成果について報告する.
近年、集約農業において窒素の過剰施肥により、地下水の硝酸汚染を含めた深刻な環境問題が引き起こされている。しかし、このような窒素の過剰供給は、自然条件下でも起こる。例えば、魚食性鳥類が集団で営巣する地域では、鳥糞由来の尿酸が多量に供給され、土壌微生物による分解経路を経てアンモニアや硝酸へと変化する。そこで、本研究では、国内外の複数の調査地について、地温とアンモニアの揮散、硝化、脱窒による窒素の化学形態変化を鳥類の営巣活動と同調させながら解析することで、多量の尿酸供給条件下での無機態窒素の挙動を解析することとした。
青森県下のゴイサギ営巣地、宮城県下のウミネコ営巣地および福岡県下のサギ類複合営巣地について、それぞれの鳥類の飛来期、繁殖期および巣立ち期に表土試料を採取した。ロシア・西シベリアのオオズグロカモメ営巣地については、繁殖期である6月および7月に採土を行った。鳥糞の窒素安定同位体比、土壌試料中のアンモニア態窒素および硝酸態窒素含量(セミミクロ蒸留法)、およびこれらの無機態窒素の安定同位体比を時系列で測定した。
日本国内の3営巣地では、飛来期から繁殖期にかけての個体数増加による尿酸供給量の増加、そして地温の上昇に伴って、土壌中の無機態窒素含量が増加傾向を示した。さらに、アンモニア態と共存する硝酸態窒素間の同位体比分別が顕著に見られたことから、硝化が速やかに行われていることが示唆された。こうした傾向は、温暖な九州地域で明瞭に見られた。このように急速な窒素の微生物学的な変換過程には、鳥類が継続して営巣することによる尿酸分解菌や硝化菌の富化が関与していると考えられた。一方、ロシア・西シベリアのオオズグロカモメ営巣地(冷涼で半乾燥気候条件下)では、表層土壌中のアンモニア態窒素含量が硝酸態窒素含量を大きく上回っており、前年営巣後に放棄された地点においても同様の傾向が見られた。このことから、西シベリア営巣地では硝化菌が土壌に定着しておらず、硝化が遅延すると解釈した。 以上の結果から、魚食性鳥類営巣地においては、糞窒素の分解に際しては、土壌温度や水分状況などの環境要因と、生物学的要因として尿酸分解菌や硝化菌などのフローラの違いが複合的に関与していることが示唆された。
鳥類の繁殖コロニーは頻繁に規模が変化し、しばしば消失する。これまでに魚食性鳥類の繁殖コロニーでは、周辺部に比べて陸上植物のバイオマスや種組成が異なることが知られている。しかしながら鳥類の繁殖コロニーの規模の変化と消失が、植物群落の動態に及ぼす影響を調べた例は極めて少ない。
森林の樹冠部に集団で営巣する魚食性鳥類の一種であるアオサギは、林床へ落とすフンによって繁殖コロニー内の林床植物のバイオマスを減少させる(Ueno et al. 2006)。北海道厚岸湾岸にある繁殖コロニーは、近年その規模が縮小し、消失した。それに伴って林床へのフンの落下も途絶えた。このような場合、アオサギのフンによって減少していた林床植物群落のバイオマスや種数が時間とともに回復し、種組成も変化するだろう。また、同じコロニー内であってもアオサギの営巣密度は場所によって異なるため、コロニー消失後の林床植物群落の時間変化は、場所によって異なっているかもしれない。
そこで今回は、アオサギのコロニーの存在と消失が林床植物群落の時空間変化に及ぼす影響を明らかにするために、林床植物のバイオマス、種数、種組成のそれぞれについて、1)コロニーの消失の前後で、どのように時間変化したのか、そして2)林床植物群落の時間変化は、過去に降ったアオサギのフンの量やコロニーの消失からの時間によって説明できるのかどうかについて解析を行った。
一般化線型モデル(GLM)によるモデル選択を用いて解析した結果、コロニーの消失前に林床へ降ったフンの量の違いは、コロニー消失後、種数には負の影響、バイオマスには正または凸型の影響を与えていたことが明らかになった。またNMDS(非計量多次元尺度法)、RDA(冗長性分析)を用いて解析を行った結果、アオサギのフンは種組成の違いを引き起こし、その違いはコロニー消失後も残り続けることがわかった。これらのことから、同じコロニーの内側であっても過去に降ったフンの量(営巣密度の違い)によって、バイオマス、種数、種組成は異なる反応を示し、その後の遷移にも影響していることが示唆された。今後は遷移初期に出現する種に着目し、それらの生態的特性(分散様式、最大サイズ、競争能力など)の違いが、その後の遷移に及ぼす影響を考える必要があるだろう。
多様な生物を養うことのできる里山環境は,都市化が進む近年において,消失や荒廃が懸念されている.人の手が加えられなくなった里山環境は,各地で保全意識が高まっている.本研究の調査地である豊田市自然観察の森も1990年の開設以来,里山として保全活動がなされている森である.
本研究は豊田市自然観察の森で実施されたセンサスデータ(1990年度,2003年度〜2007年度)をもとに,森の現状と開設当初からの里山環境の変化について鳥類群集を用いて評価した.
センサスごとの鳥類種多様度,個体数,種数を年度間で比較したところ,個体数には増加・減少の傾向はなかったが,多様度において1990年度と近年で減少が見られた.このことから近年は林内環境が単純化していることが示唆された.そこで生息環境の選好性によって鳥類を分類し,それぞれ開設当初と現在で個体数と種数を比較したところ草原や疎林を好むグループに明らかな減少傾向が見られた.鳥種ごとの個体数比較でもこれらのグループに属する種は減少,あるいは消失し,逆に樹洞営巣性の種や高木を好む種には増加が見られた.豊田市自然観察の森は開設当初に比べ,森林の放置による遷移の進行と,それに伴う林内の暗化と単純化が進んでいるのであろう.
生態学において、動物の個体数を調べるという作業は頻繁に行われてきた。その目的は、さまざまである。例えば、個体数の変化を調べ、個体群動態が何に影響しているのかといった生態学的興味を探究するための場合もあるし、持続的な収穫ができるようにするために個体数変動を予測するための場合もある。さらには、対象とする種が保全上重要であり、種の保全のために、定期的に個体数を知っておくことが重要となる場合もある。これらは、個体数を知ることそのものが目的というよりも、目的は別にあり、その目的のために必要であるから個体数を調べているといえる。
一方で、人は、数そのものに興味を持つことが少なくない。ある県の人口は何人なのか、日本に車は何台あるのかといった疑問である。もちろん、これらは何かの目的のために調べられたものではあるが、人は、「数」そのものに興味をもつ。それは生物の個体数に対しても同じなのではないだろうか?
ここで、我々にとって最も身近な鳥であるスズメPasser montanusの個体数について考えてみたい。スズメは都市から農村という多様な環境に生息しており、人が住んでいるところには必ずスズメが生息しているといっても過言ではない。では、この最も身近な鳥であるスズメは、日本にいったい何羽くらいいるのだろうか? 街中で、あれほど頻繁にみかけるスズメは、果たして、日本の人口(およそ1.28億)よりも多いのだろうか、それとも少ないのだろうか? 多いとしたら、人口の何倍くらいいるのだろうか? 本研究では、純粋な興味としてスズメの個体数を知ることを目的としている(もちろん、後々は生態学的疑問を答えるために活用する)。
生物の個体数を推定する方法はいろいろと開発されているが、本研究ではもっとも単純な方法を使う。それは、環境ごとに、単位面積あたりの個体数をサンプルとして計測し、それに面積をかけるというものだ。そこから得られた推定値はかなり粗いものと思われるが、演者が知る限りこれまで日本のスズメの個体数を推定した研究は無いので、まずは、おおよその数を知ることを目的としたい。さて、日本にスズメは何羽いるのだろうか?(要旨作成時現在、推定作業中)
1970年以降の1月15日頃の全国一斉ガンカモ科の調査によると、全国のコハクチョウの越冬個体数は1970年には542羽だったが、1980年代になると急激に増加を始め、2007年には42,648羽(約80倍)までに増加した。特に増加が著しい新潟県では、1970年には21羽だったが、2007年には全国の37%、15,980羽(約760倍)までになった。
コハクチョウは北極海沿岸の主に北緯65度以北のツンドラ地帯で繁殖する。人工衛星によって追跡したデータで、日本のコハクチョウはロシアのチャウン湾付近やコリマ川河口付近で繁殖するらしいことがわかっている(Higuchi et al. 1991、樋口2005)。本研究では、繁殖期についてはコリマ川沿いにあるチェルスキー(北緯68.8度,東経161.3度)の5〜6月の最高気温を、越冬期については新潟市の前年の1〜2月および11月16日〜1月15日の2か月間の最高気温を利用して、越冬数の増加にかかわる要因を解析した。
一般化線形モデルによる解析の結果、全国の越冬数の年変化には、前々年の繁殖期の気温(推定値:3179, P = 0.001)、前年の繁殖期の気温(推定値:2799, P = 0.003) 、前年の越冬期の気温(推定値:3536, P = 0.013)がかかわっていることがわかった。一方、調査前2か月間の気温はあまり影響がなかった(推定値:-286, P = 0.851)。
また、クッチャロ湖の1992〜1996年の成鳥幼鳥比の調査に基づいて(山内昇氏提供2008)、5年間の全国の幼鳥数を推定したところ、全国の幼鳥数はチェルスキーの5〜6月の最高気温と有意な関係を示し(r = 0.945, P =0.016, N =5; 1992-1996)、繁殖地の気温が高い年ほどより多くの幼鳥が渡来し、個体数の増加の重要な要因となっていることが明らかになった。
チェルスキーの1974〜2006年の5〜6月の最高気温は年々有意に上昇している(r = 0.488, P <0.005)。また、新潟市の1974〜2006年の1〜2月の最高気温も有意に上昇している(r = 0.505, P <0.005)。これらのことから、コハクチョウの越冬数の増加には繁殖地および越冬期の気温上昇が関係しているといえる。
宮城県北部地域の低地は,日本列島で越冬するマガンの80%以上がみられ,東アジア地域で越冬するガン類の主要な越冬地となっている.ここでは1971年の狩猟禁止以降,個体数の指数関数的な増加がみられ,また,近年米価の低迷に誘起された大豆の作付面積が増加している.伊豆沼・内沼周辺地域において1997/98〜1998/99年と現在の餌資源利用の時間空間的な分布の違いを比較することで,個体数および大豆作付面積の増加がマガンの採食行動にどのように影響したのかを明らかにした.
餌資源量をみると,落ち籾現存量は9月下旬以降の収穫直後には平均65kg/ha(N=6,範囲52〜78)であった.落ち籾は沼に近い水田から減少が始まり,順次遠距離にある地点(10〜12km)の水田でも12月上旬までにほぼなくなった.減少率は95%であった.落ち大豆現存量は平均355kg/ha(N=9,範囲120〜940)で,収穫後11月中旬〜1月中旬にかけて増加し,現存量計測後2〜23日,平均して10日以内に採食された.
分布をみると,2007/08年では11月にはほとんどの群れが水田を利用したが,12月以降,落ち籾が減少するか,あるいは地域的に枯渇する時期になると大豆圃場群に集中した.一方,1997/98,1998/99年の採食分布をみると,マガンは水田のみを利用し,11月にはマガンは沼周辺の水田で採食し,季節の進行とともに採食範囲を拡大し,1月には遠距離の水田で採食した.
10年前は現在と比較して大規模な大豆圃場はなく,加えて個体数が少なかったため,籾資源量の減少に対応して沼の近くから遠くへと採食する水田を移動することで越冬に必要なエネルギーを確保できた.しかし現在,マガンは個体数増加にともなう落ち籾の消費速度の増加と大豆圃場の増加に対応して越冬期前半は落ち籾,次いで後半は落ち大豆へと餌資源を転換していると考えられる.
2008年1月から2月は先行する2007年の同時期に比べて,繰り返し到来する寒波の影響による積雪と塒の結氷によって,宮城県北部におけるマガンの次の中継地である秋田県の日本海側への渡りがおよそ1ヶ月遅延した.伊豆沼・内沼周辺では積雪による餌摂食条件の劣化に加えて,主要な餌資源である落ち籾および大豆資源量が1月下旬に既に枯渇状態にあった.一方で,伊豆沼・内沼から南部に位置する蕪栗沼および化女沼周辺域では緑を保持する麦類の作付けが多い.これらのことから渡りの遅延にともなうマガンによる麦類への摂食が予測された.
2008年2月23および26日,蕪栗沼の東部および南東部に位置する主要な麦作付け地を踏査したところ,ほとんどの圃場において程度の差はあるが地上部の摂食が確認された.10箇所の圃場における摂食区と非摂食区の現存量調査から推定された摂食率を求めると,69%(N=10,範囲50〜86%)と全体の現存量のうち,およそ70%をマガンによって摂食された.この値は渡去直前におけるガン類の摂食量として無視し得ない.
マガンが渡去すれば摂食後も麦類の再生は地中茎の伸長によって可能ではあるが,この時期の麦類の栄養生長特性から,以後の有効分げつ数が非摂食区に比較して減少することは明らかである.ガン類による起生期麦類の摂食が子実生産に及ぼす影響を6月下旬の収穫期に解析したところ,摂食区の収量は非摂食区の約半量〜2/3に留まった.この数値は既往にイギリスにおいて麦類について観察された収量低下率の範囲(影響なしから78%の範囲; Summers,1990)にある.麦価の農家売渡し価格が低迷する現況では,吹流しを圃場に設置して防御策を講ずることは経済的には意味をなさない.
クロツラヘラサギPlatalea minorは、おもに朝鮮半島北西部で繁殖し、朝鮮半島南西部、日本、中国本土、台湾、香港、ベトナムで越冬するアジア固有の渡り鳥である。1980年初期クロツラヘラサギは、地球上で生息数が280羽しか確認されておらず極めて少なかった。現在では、1700羽まで増えたが依然絶滅の危機に瀕しており、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは絶滅危惧IB類に、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧IA類(CR)に指定されている。渡り鳥を保護するうえで、繁殖地、越冬地、中継地、またはその関係性を明らかにし、保全を行うことが重要である。朝鮮半島西海岸付近の島々に集中している繁殖地と、東南アジア全体に散在している越冬地に関して、まだ十分な遺伝的研究は行われていない。本研究では、クロツラヘラサギの繁殖地・越冬地の遺伝的構造、および繁殖地と越冬地の関係性を明らかにし、遺伝的多様性の評価を行うことを目的とし、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のコントロール領域の解析を試みた。
脱落羽毛を用いれば、クロツラヘラサギを傷つけず十分にmtDNAを得る事ができる。分析試料としては、死亡個体から血液や筋肉組織、バンディングのための捕獲個体、保護個体、飼育個体および越冬地から脱落羽毛を採取した。前回の鳥学会で報告したようにmtDNAはチトクロームb領域の後部約500bpからtRNAThr、tRNAPro、ND6、tRNAGlu、コントロール領域までがタンデムに重複する構造であることがわかった。また、この重複する二つのコントロール領域配列の一部は互いに協調的に進化していることが示唆された。脱落羽毛については、まずチトクロームb領域の約900bpの配列を決定し種同定を行った。重複しているコントロール領域CR1、CR2のレフトドメイン約350bp、計約700bpの配列決定したところ15個のハプロタイプが得られた。うち、1つのハプロタイプが主要ハプロタイプとして、すべての地域でほとんどの割合を占めており、日本の越冬地において地域的な有意な差は見られなかった。現在、繁殖地のサンプルも解析を進めており、その結果も含めて報告する。
Both Carrion crow Corvus corone orientalis and Jungle crow Corvus macrorhynchos are widely distributed in East Asia. In the Russian Far East, they are rather homogeneous morphologically. However, we have found subdivision by mitochondrial markers to two far-eastern groups of populations for C. corone (Kryukov & Suzuki, 2000) and some weak differentiation in the case of C. macrorhynchos (Iwasa et al., 2002). In the present study, we check the suspected genetic differentiation within the both crow species in Sakhalin Island and try to find out borderlines between the haplogroups mentioned.
Our new data were based on 94 birds of both species collected from South to North Sakhalin, in the breeding season. We used the mitochondrial gene cytochrome B as a molecular marker. For Carrion crow, we found two highly differentiated clusters corresponding to South and North Sakhalin populations. This result clearly confirms our previous findings, but does not correspond to this species taxonomy: it is believed the same subspecies C. c. orientalis occupies both Sakhalin and motherland. In contrast, no genetic differentiation was found for Jungle crow in this island. In all kinds of phylogenetic trees, birds from North Sakhalin appeared in any parts of the trees. This is rather surprising because not fits with subspecies differentiation: C. m. mandshuricus was reported for North Sakhalin and North-East Asia, while C. m. japonensis - for South Sakhalin, Kurils and most Japanese Islands. This may mean that current migration between the Jungle crow populations within Sakhalin is big enough for gene flow and admixing the haplotypes. We also discuss migration and genetic exchanges of crows between Sakhalin Island and the motherland, using the genetic data.
メボソムシクイ Phylloscopus borealisは、ユーラシア北部からアラスカ西部まで広く繁殖する夏鳥で、通常3亜種が認められている。それは、スカンジナビア半島からチュコト半島に分布する亜種コメボソムシクイP.b.borealis、アラスカ西部に分布する亜種アメリカコムシクイP.b.kennicotti、日本の本州以南に分布する亜種メボソムシクイ P.b.xanthodryasである。かつては、カムチャツカ半島からアリューシャン列島の個体群は亜種オオムシクイP.b.examinandusとして認められていたが、現在は亜種メボソムシクイのシノニムとしてこの亜種に含められるのが普通である。これまで演者らが行ってきた、シベリア中央部以西を除く、同種の繁殖個体群のmtDNA (チトクロームb)領域の分子系統解析の結果は、クレードA (ロシア極東部: マガダン, アナディール; アラスカ西部)、クレードB (知床, サハリン, カムチャツカ半島)、クレードC (本州, 四国, 九州)の3つの強い単系統性が支持されるクレードに分かれることを明らかにしてきた。さらに、そのクレード間の分岐年代は約200-260万年前と古く、亜種間の分岐としては、一般的な鳥類の姉妹種間の分岐年代を超える、極めて古い分岐であることも明らかとなっている。
この遺伝的に区別される3系統群は、雄の囀りもかなり異なるが、形態的差異があるのかどうかについてはよく調べられていない。演者らは、正準判別分析 (CDA)と、主成分分析 (PCA)を用いてそのことについて調べた。その結果、CDAでは3つのクレードを94.55%の判別率で判別することができ、特に本州以南の個体群は明確に区別できることがわかった。しかし、マガダン、カムチャツカ、知床にそれぞれ由来する3個体については判別に失敗した。一方PCAでは、第一主成分軸において、体サイズが大きい順に、本州 > カムチャツカ > 知床/サハリン > マガダン/アラスカと体サイズを区別でき、CDAで判別に失敗した3個体についても差異が認められた。さらに、繁殖個体群の緯度と、体サイズ及びP10-PC長の関係を調べたところ、高緯度になるにつれ、体サイズが小さく、計測値も短くなる傾向が認められた。P10-PC長の緯度的傾向は、渡り距離と関係しているのかもしれない。
これらの分子系統学的、音声学的、形態学的違いから、メボソムシクイは今後の研究によっては3つの別種に細分化されるかもしれない。本種の種内の分類学的再考についても議論したい。
DNAバーコーディングは、DNAの一領域の塩基配列から種を同定することを目指す国際プロジェクトで、これにより幼体や卵、隠蔽種の同定などが可能になり、系統・類縁関係の推測も可能となる。種同定の簡便化や種の記載の加速化が期待されている。鳥類については、2010年までに世界の全鳥類約1万種をバーコード化することを目標に、2005年にABBI(All Birds Barcoding Initiative)が設立され、他の動物と同じミトコンドリアDNAのCOI領域648bpをターゲットにすることや証拠標本を剥製で残すことなどが合意された。日本では山階鳥類研究所と国立科学博物館が中心となって実施している。最大の目的は21世紀の分類学の研究環境基盤を作ることであり、そのために国内外の多くの研究機関と連携して、DNA・組織サンプル、証拠標本と併せて塩基配列の登録を始めている。
DNAバーコーディングによる種識別は、COI配列の種内変異の幅が異種間の違いよりも小さいときに容易となる。Hebert et al. (2004) は北米の鳥を調べて、2%が種内と種間の境界になることを示した。他方、私たちは、東アジアの鳥では同種内でも違いが大きい種があり(本州と北海道のカケス3.4%、台湾と本州のメジロ3.9%、ゴジュウカラ7.4%、ヤマガラ7.7%)、逆に異種間でも違いが小さい分類群がある(シロハラ上種の姉妹種間0.15−2.0%、シマセンニュウ上種の姉妹種間0.6−1.0%)ことを示した。つまり東アジアの鳥では亜種間と種間の遺伝的差異の大きさに線が引けないことがわかった。
ABBIではDNAバーコーディングはDNA 分類学ではないとの合意がある。すなわち生物学的種概念を採用するとき、亜種間のCOI配列が何%以上異なる亜種は種に格上げするとか、種間の違いが何%未満の上種は種に格下げするといったことを自動的に適用すべきではない。とはいえCOI配列の違いは集団の分岐の古さを反映しており、種のランク付けにおいて完全に無視するべきものでもないと思われる。種分類学へのバーコーディング結果の反映にはさらなる研究が必要であるが、まずは北米の鳥と東アジアの鳥の上記の違いが何に起因するのかを評価することが重要である。1)客観的な自然を反映したものであるのか。すなわち氷河期における氷河の影響といった両地域での古気候や地史の違いによる種分化の歴史の違いに起因するのか。2)主観的な人の認識を反映したものであるのか。すなわち統合派・分割派といった分類学者の種を分ける好みの違いなどに起因するのか。この2つの可能性について考察する。
【背景】
鳥類は意思表示やコミュニケーションのために音(鳴き声)を発する。発声機構として哺乳類では声帯があるが、鳥類では声帯のかわりに鳴管という器官があり、調声の役割を担うとされる筋が付随している。この筋は鳴管筋と呼ばれ、カモ類では胸骨気管筋と外側気管筋の2種から構成されている。一方、オウムやインコ、そして、鳴禽類に分類されるトリでは6〜8種類の鳴管筋で構成されている。
本研究では7種類のトリの胸骨気管筋の筋線維型を特定し、種差、性差、左右差について検討した。
【材料および方法】
[材料]ダチョウ3羽、ウズラ10羽、マガモ(5月と12月に採取)20羽、カワラバト10羽、ウミネコ4羽、キンカチョウ10羽、ハシボソガラス6羽から胸骨気管筋を採取した。
[方法]麻酔後、放血し、胸骨気管筋の重量(キンカチョウは除く)を計測した。筋線維型を決定するためにドライアイス・アセトンで急速凍結し、クライオスタットで10μmの凍結切片を作成し、酸およびアルカリ前処理後のミオシンATPaseとNADH脱水素酵素の酵素組織化学反応を行った。
【結果】
1.胸骨気管筋重量の体重比:最も高い体重比を示したのはウズラで0.18‰、最も低い体重比はマガモのメスで0.047‰であった。カワラバト、マガモ、ウズラの3種類では性差があり、メスよりもオスが大きかった。また、マガモでは季節差がみられた。左右差は調べたトリのいずれにも見られなかった。
2.胸骨気管筋の筋線維型(I型、IIA型、IIB型)の割合(%)
1)ダチョウを除いた6種類全てのトリの胸骨気管筋はI型、IIA型、IIB型筋線維の3種類で構成されていた。しかし、ウズラのI型筋線維の割合は非常に低く、1〜3%であった。ダチョウはIIA型筋線維のみで構成されていた。
2) マガモではIIA型の割合に性差と季節差がみられた。またIIB型の割合に性差がみられた。
3)カワラバトではIIB型の構成比に性差がみられた。
4)7種類のトリの各筋線維型割合に左右差はみられなかった。
【考察】
鳥類の調声に関係する胸骨気管筋は進化とともに単純な筋線維型の構成から、より複雑な筋線維型の構成に変わったと考えられる。また、鳴禽類のキンカチョウとハシボソガラスの胸骨気管筋の調声に果たす役割は低いと考えられる。
近年、自然史系博物館等の施設が保有している学術標本の情報をデジタル化し、全世界規模で共有しようとする動きが急速に広まっている。日本の鳥類標本に関して言えば、その大半は山階鳥類研究所に保管されており、その数は約69,000点に上る。これらの標本は、昭和17年の研究所の創設以来、66年の歳月をかけて収集されてきたもので、戦前の東アジア地域のものを中心に、絶滅種や希少種の標本、タイプ標本など、貴重な資料を多数含んでいる。研究所は、収蔵標本を用いた学術研究のより一層の振興を図るため、ここ数年来、収蔵標本データベースシステムの構築に取り組んできた。
研究所が作成中のデータベースシステムの最大の特徴は、採集情報の究極的な源である標本ラベル自体を画像ファイルとして公開する点にある。研究所の所蔵標本は、最も古いもので1700年代の末に採集されたとされるものがあるなど、世界的に見ても、最も歴史のあるコレクションの一つである。このため、標本の採集情報が失われていたり、混乱したりしている例がかなり多く見受けられる。標本ラベルを画像として公開すれば、単純なテキストベースのシステムでは取り扱うことができない筆跡等の情報へのアクセスが容易になる。標本情報の復元に関する歴史学的研究のより一層の進展が期待される。
研究所は、すでに、所蔵する標本のうち、剥製標本全点(60,195点)についてラベル画像の撮影を済ませており、データベースシステムの公開まであと一歩というところまでこぎ着けている。今後は、システムをより一層使いやすいものに仕上げるため、公開試験を実施する予定である。
今回の発表では、上記のプロジェクトの概要を紹介し、その進捗状況を報告する。さらに、上述の公開試験の実施日時・URL等についても告知する予定である。
生物音声識別装置「ききみみずきん」は、身近な生物をその鳴き声から識別するために、人間の音声認識技術を適用して開発した自然観察ツールである。2003年度に、千葉県立中央博物館の野外観察地「生態園」における自然観察活動を支援することを目的に、身近な野鳥25種の音響モデルからなる音声辞書を作成し装置(PDA)に搭載するとともに、装置でキャッチ(録音)した音声(5秒間)をwavファイルにより音声データベースに蓄積できるようにした。2004年度には、さらに開発を進め、千葉県内や近県で行う環境調査にも利用できるように、識別種を野鳥のほかに鳴く虫やカエルにも広げるとともに、地図上で調査結果を表現し、サーバー機能もあるする「地域の音が出る地図作成装置」を追加した。2005年度以降は、ヒヨドリなどの複雑多様な音声を持つ種類の識別の精度をあげるための研究と辞書作りにかかわる検討をすすめ、鳥類42種(カイツブリ・マガモ・カルガモ・コガモ・キンクロハジロ・キジ・キアシシギ・コアジサシ・キジバト・ホトトギス・アオバズク・カワセミ・コゲラ・ヒバリ・ツバメ・ハクセキレイ・セグロセキレイ・ヒヨドリ・モズ・ジョウビタキ・アカハラ・シロハラ・ツグミ・ウグイス・コヨシキリ・オオヨシキリ・キビタキ・オオルリ・エナガ・ヤマガラ・シジュウカラ・メジロ・ホオジロ・アオジ・カワラヒワ・スズメ・ムクドリ・カケス・オナガ・ハシボソガラス・ハシブトガラス・コジュケイ)・鳴く虫2種・カエル3種の辞書を作成した。2007年度からは、千葉県内において地域の音環境調査を行う中で野鳥や身近な生物の音声識別を支援しながら、千葉市・香取市・長生郡長柄町などで、年齢や経歴などによらず、市民参加型の調査活動を実施する中で、「ききみみずきん」が役に立っている。
「ききみみずきん」は、従来の「鳴き声の識別はむずかしい」という市民の感覚を、「いろいろな鳴き声を聞き分けられて楽しい」という意識に変えた。自分自身が聞いた野鳥の鳴き声をキャッチし、その場でその声に最も近い種類のリストが提示され、サンプル音と比較するプロセスは、識別のコツを体得する機会であると共に、自然や環境への理解を深める。また、「ききみみずきん」の成果は、専門家が必要とする高度な環境探査に技術を移植できるものであり、その開発には鳥類研究者と技術者間の協働と資金導入が必須である。
クリーンイメージが先行する風力発電は、必ずしも利点ばかりでなく鳥類への影響も指摘されているが、多くの場合「猛禽類」あるいは「バードストライク」という側面から語られてきた。
一般的な小鳥類の渡りルート上への風車建設に関して、「渡りの実態」はおろか各地の地理的条件ごとの特質について、建設側の調査関係者はもとよりその調査結果を評価する鳥類関係者・自然保護関係者においてすら正確に認識されていないのが現実ではなかろうか。
静岡県西部を流れて遠州灘に注ぐ天竜川の河口付近は静岡県最大の鳥類の渡りルート上にあり、水面、干潟、中州の草地・樹林地、堤内地の畑地、防風林、園地等には多数の渡り鳥が休眠・採餌に立ち寄る。
この渡りのルート上にタワー高60m、ブレード長40mの最高点100mの風車が一基立っており、その周辺にさらに最高点125mの風車五基の増設計画が進められている。2006年に実施された事業者による環境影響評価調査に対して、筆者は渡りの実態に迫るべく同年9月末から12月末まで49日間の観測および標識調査を実施した。その結果、小鳥類だけで50万羽以上が渡ること(一部推定値)および地理的環境ごとの利用状況が明らかになり、猛禽類以外にも大きな影響があることが認められ、予定場所に巨大風車が渡りを遮るように林立した場合に想定される問題点を関係内外に明らかにした。
その結果、2007年に追加調査が実施された。しかし、「調査日設定が不適切であること」「既存風車の稼動が渡りの飛行コースに与える影響について調査されていないこと」「想定されるブレードの回転範囲以下の高度(この場合41m以下−事業者による)の飛行への影響はないとする判断」等々、問題点は多い。
筆者の調査結果と事業者の調査結果および認識とのギャップの具体的な事例を紹介しながら、たとえば小鳥類の渡りの飛行について「夜間渡る高度は数百メートルであるから問題ない、というのは本当か」「想定されるブレードの回転範囲より低い高度を昼間渡る数は無視していいのか」等々、共通の認識が求められる諸点についての問題提起をしたい。
動物のリモート追跡(衛星追跡、ラジオトラッキング等)から得られるデータは、GPSを利用したものをのぞき、比較的大きな測位誤差をともなう、時間的に不定間隔のものである。そのため、解像度が高い移動経路の特定が困難であり、時には長距離の欠測区間を生じてしまう。これらの問題を解決することができるのは、統計的モデリングしかないが、リモート追跡データは時間的自己相関を必然的に伴うため、モデリングが容易ではない。
近年、状態空間モデルをリモート追跡データに適用する試みが始まっている。この手法は、時間的自己相関をもつ時系列データが必ず持つ過程誤差と、リモート追跡の測位誤差のような測定誤差を別々に推定し、真の状態(ここでは追跡個体が存在した位置)を推定する。さらに、移動経路や状態に影響する可能性がある要因をモデルに組み込むことで、追跡個体の移動パターンを説明する仮説をテストすることも可能である。本研究では、北海道帯広市、岩手県雫石町、宮城県栗原市、埼玉県越谷市、兵庫県伊丹市からオナガガモの春の渡りをアルゴスシステムにより衛星追跡し、状態空間モデルにより真の存在位置および移動経路を特定することを試みた。また、越冬地での体調が渡り行動に影響するという仮説をテストした。
各越冬地から出発したオナガガモは主に、本州を北上し、(1) 北海道東部を経由、宗谷海峡を縦断し、サハリン島を北上して繁殖地に向かう経路、(2) 北海道東部を経由し、北海道北部から東に進路を変え、北海道東岸からオホーツク海を横断して繁殖地に向かう経路、そして (3) 北海道南部を東進し、オホーツク海南部を横断する経路のいずれかを渡ることが分かった。渡り中に見られる滞在状態と渡り移動状態を移動角と移動速度で特徴化し、分類するモデルを構築したところ、各個体は越冬地から北海道までは明確な渡り移動状態を示さず、徐々に北上し、それ以降は、渡り移動状態を交えながら繁殖地まで比較的すばやく移動することが示唆された。また、越冬地での体調が悪い個体ほど、渡り時に滞在状態でいる頻度が高いことが分かった。これは、渡り開始時にエネルギー蓄積量が少ない個体が、渡り途中に頻繁に休息してエネルギーを補給していることを示唆している。
本研究は、文部科学省、環境省およびアメリカ合衆国内務省地質調査局から助成を受けて実施した。
聟島は小笠原諸島の北部に位置する面積307ha、最大標高88.4mの小さく平たい島である。この島は戦前の開拓、戦後の無人化によって異常繁殖したノヤギによる食害、踏みつけにより大部分の植生が破壊された。ノヤギは2003年までにすべて駆除され、島の植生は徐々に回復しつつある。聟島および聟島列島の植物相は同じ小笠原群島の父島、母島各列島と比べて貧弱であるが、小笠原固有の植物が多く生育しており、保全学上重要な地域である。今後の植生回復には鳥類による植物の種子散布が影響すると考えられるが、その現状は明らかにされていない。そこで、島内に生息する陸鳥の種子散布状況を調査した。
聟島には、現在陸鳥としてイソヒヨドリとメジロの2種が留鳥として生息している。他に、ヒヨドリ、カラスバト、ウグイス、トラツグミや渡り鳥などが観察されているが、少数が一時的に飛来するだけである。このため、前述の2種が島内の主要な種子散布者となっている可能性がある。島内においてイソヒヨドリは主に開放地で低密度に生息している中型サイズの鳥であり、メジロは小型サイズで主に森林地域に陸鳥の優占種として生息する。本研究は、この2種の糞内にある種子の構成を調べ、種子散布者としてこの島の植生回復にどのように貢献しているかを明らかにすることを目的とした。
調査は2008年2月上旬から5月下旬の期間、聟島に滞在して行った。イソヒヨドリの糞およびペリットは月4回、岩場にあるとまり場8ヵ所から採取した。メジロの糞は2ヵ所で月3〜4回カスミ網により捕獲された個体から採取した。イソヒヨドリの糞およびペリット(n=304)からは、在来種のオガサワラグミ、コハマジンチョウ、クサトベラ、外来種のイヌホオズキ、ガジュマルの5種、メジロの糞(n=119)からは、在来種であるコハマジンチョウ、スナズル、外来種であるイヌホオズキ、ガジュマル、シチヘンゲ、その他に1つの不明種の6種の種子が観察された。メジロではオガサワラグミが見られないなど、両種の間では在来種の種子の出現頻度に違いが見られた。両種は種子散布者として植生回復に貢献していると考えられるが、外来植物の種子も頻繁に散布していた。今後、両種の行動圏を明らかにし、種子散布者としての役割をより詳細に明らかにする必要がある。
果実食性鳥類は果実を丸のみにし、種子を無傷のまま排泄することから、種子散布者としての働きを持っていると考えられている。これまでに、採食する果実の選好性や食性の季節変化、果実採食後の行動などが研究され、種子散布者としての働きについて検討されてきた。しかし、鳥類が実際に種子を排泄する頻度や1個体あたりの種子の排泄数など、種子の排泄状況に関してはほとんど調査されていない。種子の排泄状況は各種の鳥類の種子散布者としての働きを具体的に検討する上で不可欠な要素の一つであると考えられる。
そこで本研究では、種子の排泄状況から種子散布者としての働きを検討するために、特に、九州南部において重要な種子散布者と考えられているシロハラとメジロに関して種子の排泄状況を調査した。
調査地と方法
2007年9月から2008年6月にかけて、鹿児島大学構内において調査を行った。シロハラとメジロの生息状況を確認するために、毎月3〜5回、雨天時を除き、日の出後約1時間以内にラインセンサスを行い、個体数を記録した。また、種子の排泄状況を調べるために、毎週1〜2回、かすみ網によりシロハラとメジロを捕獲して糞を採取し、内容物を判別した。
結果
シロハラは10月から5月まで、メジロは11月から4月まで観察された。調査期間中、シロハラは合計245羽捕獲され、そのうち79羽の糞から種子が排泄された。排泄された種子は12種708個、1糞中の種子数は1〜108個、1羽あたりの排泄種子数は平均9.0個であった。クロガネモチやナナミノキ、モチノキの種子が多かった。メジロは合計103羽捕獲され、そのうち77羽の糞から種子が排泄された。排泄された種子は18種394個、1糞中の種子数は1〜20個、1羽あたりの排泄種子数は5.1個であった。ヒサカキ属、クロガネモチ、ナナミノキの種子が多かった。
考察
捕獲された個体のうちシロハラは約30%の個体しか種子を排泄せず、種子を排泄する頻度が低かった。しかし、1糞中に含まれる種子の数は最大で108個となり、多くの種子を一度に散布する働きを持つと考えられた。一方メジロは約75%の個体が種子を排泄していたが、1糞中に含まれる種子の数は最大で20個と多くはなかった。したがってメジロは一度に散布する種子の数は少ないが、頻繁に種子を排泄することで散布者として重要な役割を果たしていると考えられた。
兵庫県の猪名川上流域は、茶道に用いる高級炭である池田炭の生産地として知られていたが、今では2軒の生産者によって続けられているにすぎない。講演者らは、薪炭林管理が里山の生物多様性に及ぼす影響を明らかにするために、2006年4月から植物、昆虫(チョウ・ゴミムシ・アリ)、鳥の各群集の調査をおこなっている。今回の報告では、2007年に行った鳥の群集組成とその季節変化についての調査結果を報告する。
設定した調査区は、伐採後の年数(1年目・3年目・7年目)の異なるクヌギとコナラの薪炭管理林(輪伐期10年)とその放置林(約30年生)、およびアカマツ林の放置林の合計5つである。一区画あたり500-600mのルートセンサスを月に3回行った。
調査地全体で1年間に観察された鳥は38種であった。調査区間で見られた最も顕著な違いは、冬期に伐採後3年目の薪炭管理林で種数が最大となり、他の区画よりも2倍近くの鳥が観察されたことである。この区画は伐採後5年目頃に行われる下刈りが未実施で低木が密生しているために、このような環境を好む冬鳥(ベニマシコ、ミヤマホオジロ、カシラダカなど)や漂鳥(ミソサザイ、カヤクグリなど)が飛来するためだと考えられた。
また、伐採後の年数の違いによって異なる種類が出現するために、薪炭管理林は薪炭放置林やアカマツ放置林よりも多くの鳥によって利用されていた。さらに、放置林でしか観察されない種類も存在するため、さまざまなタイプの林がモザイク状に存在することが里山林全体の多様性が増加につながると考えられた。
●ハシブトガラスは森林性の鳥であるといわれている。しかし、都市における生態や移動についての研究は行われているが、森林にすむハシブトガラスについては、研究どころか分布すら明確ではない。そこで山中においてカラスの分布を把握するため研究に着手した。
●メソッドの開発
カラス類はナワバリを持つことが知られているので、繁殖中のカラスの音声をプレイバックすれば警戒・攻撃的な反応が見られることが予測される。そこで、東京都および埼玉県の公園において、プレイバック実験を行い、反応を記録した。1実験の結果、音声をプレイバックすることにより、遠距離にいて見えないカラスも鳴き返す可能性が高く、また音源に接近して来るために飛行中に発見できる可能性が高いという結果を得た。すなわち、低密度下でカラスの分布を調査するためには音声プレイバックを行うことが有効であると考えられた。
●森林におけるプレイバック調査
2008年2月から7月にかけて埼玉県飯能市〜秩父市の山中にて16回のハシブトガラスの分布調査を行った。山中を縦貫する道路1kmごとに20箇所の定点を設定し、定点でプレイバック後5分間観察を行い、音声および目視観察によってカラスの位置を記録した。
●結果
約1km間隔でプレイバックへの反応、または直接目視の観察ができた。また、調査日が異なる場合や、調査ルートを逆方向に移動して調査した場合でも、カラスの発見される地点は似通っていた。カラスの発見された地点の分布は均一ではなく、同じ山系の中で密度に差が見られた。
ヒナを連れた観察事例では、ヒナ数が3-4羽であった。観察例数が少ないため正確にはわからないが、都市と比較して餌条件が悪いと推測される環境であるにもかかわらず、繁殖成功度が極端に低いということはなさそうである。
近年、全国的に魚食性鳥類のカワウやアオサギなどサギ類が増加してさまざまな問題を引き起こしている。長野県でも同様の傾向が見られているが、これらの種以外にも長野県の諏訪湖ではカワアイサが急増し、その湖の重要な水産資源であるワカサギに深刻な影響を及ぼすと懸念されている。
諏訪湖では厳冬期になると湖面が全面結氷し「御神渡り」という現象が見られるが、近年見られる回数が減少し、結氷しない年もある。そのため、冬季を通じて湖面全体が水鳥たちに利用可能になったことが、カワアイサが急増した原因の一つではないかとされている。
全国ガンカモ一斉調査(毎年1月実施)によれば、諏訪湖でのカワアイサの越冬個体数は、1993年まで数羽程度であったものが、1994年に112羽が記録されて以降、増減を繰り返し、2008年は2000羽を越えるまで増加した。しかし、2001年の13羽、2003年の35羽、2006年の98羽のように個体数が少ない年もある。全国的な傾向をみると、諏訪湖の増減がそのまま全国の増減となっており、諏訪湖以外の地域では変化がみられなかった。
2007年12月から2008年4月については、諏訪湖におけるカワアイサの個体数を月3回程度調査した。その結果、11月8日に渡来が確認されて以降、個体数が急増し、最大で2500羽(12月13日)を越えるまでになった。しかし、1月24日に全面結氷し、1月30日に御神渡りが確認されると、カワアイサの個体数は急減した。それ以降、カワアイサは、温かい水が涌いていて結氷しない場所や諏訪湖の水が流れでる釜口水門の下流など限られたところでのみ確認された。
これまでの食性調査からカワアイサによるワカサギの捕食は少ないとされていた(羽田 1962)。現在の諏訪湖でのカワアイサの食性を知るために、捕獲調査を実施した。4羽の生け捕り捕獲および刺し網等で死亡した4羽の胃内容物から、3羽からワカサギ、3羽からニゴイが確認されたことから、カワアイサによるワカサギの捕食が一般的であることが示唆された。
発表では、これら調査結果について述べるとともに、諏訪湖の結氷や御神渡りの資料を収集し、結氷とカワアイサの越冬個体数との関連についても議論する。
カオグロガビチョウGarrulax perspicullatusは、1980年代前半に初めて国内で記録された移入鳥類である。本種は繁殖期には番とヘルパーで繁殖活動を行うが、非繁殖期は家族群で行動する事が報告されている。非繁殖期の家族群行動は本種の社会性の中で重要な期間だと考えられ、その期間の行動の解明は生活史を明確にするために必要である。しかし、これまで非繁殖期の行動は明らかにされていない。そこで本講演では、本種が非繁殖期に行動圏内で環境をどのように利用し採餌を行っているかについて報告する。また、本種の短距離飛翔が報告されているため、飛翔距離と環境利用の関係についても考察した。
本種は本来中国南部からベトナム北部にかけて生息し、生息環境は平地と丘陵の低潅木、耕地付近の藪であり、昆虫、果実、種子、トウモロコシなどを採餌する。本調査を行った東京都あきる野市の調査地は樹木園や畑などがモザイク状に点在する耕作地で、本来の生息地と同様な環境であると推察される。本調査ではカラーリングによる個体識別により、本調査地最大数の8羽グループにおいて非繁殖期の2008年の1月と2月に調査を行った。調査では終日観察、移動、採餌などの行動について秒単位の追跡サンプリングを行い地図上に記録した。環境利用については、環境区分の利用頻度(1point/10s.)から利用割合を算出した。環境区分は、公園樹林地、樹木園、それ以外の区画にある常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、そして公園草地、畑、茶畑、草地、クリ林、人工物の18区分を用いた。飛翔距離は5m以上を対象とした。
調査の結果、記録された利用総数は3569pointであった。利用頻度を割合にした結果、多く利用されていた環境は公園樹林地の常緑広葉樹で38%、樹木園の常緑広葉樹で31%であった。また、ドングリの採餌が数多く観察された。まとまった常緑広葉樹の利用頻度が高かったのは、ブナ科が多くドングリを採餌するには適した場所であり、ねぐら、天敵回避、休息、移動にも適している事が考えられた。また、最も多く飛翔していた距離は5〜10mの間であった。この距離は、採餌場所間の距離が短い事と関連していると考えられた。これらの事から、カオグロガビチョウは採餌やその他の行動で常緑広葉樹を多く利用し、その集中的な分布は採餌利用に有利である事が示唆された。
圃場整備済みの水田において、ケリの営巣密度に影響を与える要因を調査した。調査地である京都府南部の巨椋池干拓地とその周辺の農地(約750ha)を10サイトに分けて、それぞれのケリの営巣状況、捕食者の状況、環境を記録した。調査地のケリ個体群は繁殖期に個体数が増加し、非繁殖期に減少するという季節変化を示した。標識した28個体はすべて冬季に姿を消し、そのうち11個体は再び繁殖地に戻ってきたことから、このケリ個体群は夏鳥的な移動をすることが示唆された。
営巣密度および繁殖成績は昨年の報告同様、KIとSWが他のサイトよりも高かった。またこの両サイトには冬期に湿田が存在するという共通の環境特性が認められた。そこで、湿田の存在するKIとSWは餌が豊富なのではないかと考え、湿田のあるサイトとないサイトで土壌動物のサンプリングをおこない比較した。その結果、2・3月には土壌動物の現存量に差はみられなかったが、4・5月には湿田の存在するKIとSWで他のサイトに比べて現存量が増加した。早成性であるケリのヒナは、親鳥の保護のもとで約45日間、巣場所周辺(約0.8ha)で採食することから、巣場所周辺の餌資源量は卵形成だけではなくヒナの成長にも影響を与えるはずである。だとすれば、ケリは卵形成と産卵をおこなう時期(2・3月)ではなく、ヒナを育てる時期(4・5月)に餌量が多くなる場所を選好していることになる。
繁殖期中、ケリのモビング回数がハシボソガラスに対してもっとも多いことから、主要な捕食者はカラスであると想定して、各サイトのデータを単位としてケリの営巣密度とハシボソガラスの生息密度との相関関係を調べたところ有意な負の相関がみられた(スピアマンの順位相関係数:−0.78,P<0.01,n=10)。このことから、ケリがカラスの少ない営巣地を選好している可能性、あるいはケリが活発な集団防衛をおこなってカラスを排除している可能性が考えられる。
本研究は、ケリの営巣密度に、餌資源となる土壌動物の現存量と捕食者であるカラスの密度が影響していることを示唆する。
ヤブサメ Urosphena squameiceps は日本には夏鳥として渡来し,「シシシシシ・・・」という単純な虫に似たさえずり(以下,昼型さえずり)でよく知られている.しかし,野外では藪の多い雑木林やスギ林などの林床が暗い環境を好み,開けた場所に現れないため,姿を観察することは難しい.そのため詳細な生態研究は少なく,繁殖生態について数例の報告があるに過ぎない.また,ヤブサメが昼間とは異なるさえずり方で,数分から数時間にわたって夜間に休みなくさえずる(以下,夜型さえずり)ことは,ほとんど知られていない. 2007年に演者らがヤブサメの夜型さえずりについて調査をおこなった結果,夜型さえずりはオスではなくメスに対するものであることが示唆された.他に,ヤブサメは繁殖地に渡来後しばらくの間,梢付近の高い場所でさえずることが知られている.ヤブサメはなぜこのように複数のさえずりパターンを持つのだろうか?
演者らは,2008年3月29日から6月24日にかけて愛媛県伊予市から砥部町にかけてルートセンサスと個体追跡による調査をおこない,ヤブサメの渡来後から番形成期までのさえずりの変化を調べた.その結果,(1) 渡来直後は全ての個体が平坦な(抑揚のない)昼型さえずりをするが,その後全ての個体が尻上がりの昼型さえずりに変化した. (2) 平坦なさえずりは梢付近の高い場所でおこない,夜型さえずりを停止した後も続き,さえずり頻度は高かった. (3) メスを獲得した個体は地上付近で尻上がりにさえずり,さえずり頻度は著しく低下した.さらに,夜間にさえずる個体とそうでない個体がいる可能性があることもわかった.
メスの獲得によってさえずりを停止したり,さえずり方を変える種類はサヨナキドリやチャガシラヒメドリなど他にも知られており,ヤブサメの昼型さえずりに関しても同様に考えられる.しかし,夜型さえずりの停止とメスの獲得時期は一致しないことが今回の調査で明らかとなった.これは,夜型さえずりがメスの直接的な獲得ではなく,他の機能を持つことを示唆している.昼間に加えて夜間もさえずりをおこなう種類は,Acrocephalus,Cettia,Locustellaなどスズメ目ウグイス科のいくつかの属で知られており,夜間に渡ってくるメスを誘引していると考えられているが,これは推測に過ぎない.今回の結果は,夜間に渡ってくるメスを誘引していることを支持する有力な手がかりとなるだろう.
2005年12月に環境省は全国のオオタカ個体数が少なくとも1,824〜2,240個体であるという推計を発表した。この値は1996年の1,000個体以上という推計値を上回っている。環境省によると、これは調査の進展により新たな生息が確認されためで、繁殖個体数の増加を示すものとはいえないとしている。しかしその一方で近年、オオタカの繁殖分布が拡大し、生息数が増加傾向にあるという報告がある。生息数の増加については賛否両論があるものの、生息数そのものはこれまで考えられてきたよりも多いことがわかってきた。これをうけて2006年12月に環境省はオオタカのレッドリストのカテゴリーを絶滅危惧II類から準絶滅危惧種に変更した。しかしながら、実際にオオタカの繁殖状況を系統的に調査した研究は少なく、増加傾向にあるのか減少傾向にあるのか明らかになっていない。
そこで、北海道石狩平野に1,600km2の調査地を設定し、1998年から営巣地の探索を開始し、2001年までの間に、すべての調査地の探索を終えた。そして2006年を除いて、2001年から2007年までの各営巣地の繁殖状況を調査した。調査項目は、繁殖番数、巣立ち雛数、繁殖成功率、繁殖失敗の原因である。
繁殖番総数は、平均で25.8番、2003年に最大の32番となったが、2007年には半減し15番となった。平均巣立ち雛数は、全体で2.1羽、最大が2001年の2.4羽、最小が2005年の1.8羽となった。総巣立ち雛数は平均38.1羽、最大が2003年の46羽、最小が2005年の26羽であった。繁殖成功率は全体で72.3%、最大が2007年の86.7%、最小が2002年の57.1%であった。繁殖失敗の原因はほとんどわからなかったが、哺乳類による雛の捕食が3例見つかった。また原因がはっきりしているのは営巣林が伐採された場合オオタカは繁殖を止めたというものであった。
本調査地では2007年に繁殖番数が急に減少する傾向があったが、これが一時的なものか、そうでないのか今後調べる必要がある。発表当日は2008年のデータも加えて報告したい。
オオタカの雌は雄よりも約350g重く大きい。オオタカが性的二型を示すことは、雌雄による餌資源の競合を避ける利点があると考えられている。本研究では、調査個体が捕獲した餌動物を記録し、利用する種や季節変化、性別、個体による違いを比較した。解析に用いたのは、2004年から2008年までの5年間に調査地で捕獲し、ラジオテレメトリーによる追跡調査を行った雄6羽、雌4羽である。
調査は早稲田大学本庄キャンパス大久保山とその周辺で行った。大久保山は、アカマツが混交するコナラ二次林で被われており、校舎やグラウンドがある。周囲は水田や畑で囲まれており、中小の河川や利根川が近くを流れている。2004年には新幹線本庄早稲田駅が開業し、駅周辺の都市再生事業などが行われているため、大久保山の採食環境は大きく変化しつつある。
解析に使用した6羽の雄は、スズメを主とする小鳥類、ムクドリ、ヒヨドリ、キジバト、ドバトなどの中型の鳥類、ネズミ、ノウサギなどの小型哺乳類を捕食した。4羽の雌は、ときには小型の鳥類を捕食することもあったが、ハト類やカモ類、カラス類、サギ類など中型から大型の鳥類を捕食した。
餌動物は、季節により変化した。雄は、非繁殖期にはムクドリやハト類、繁殖期にはスズメやムクドリ大の小〜中型の鳥類をよく捕えた。雌は、非繁殖期にはハト類やカモ類を捕食した。繁殖期は雛が大きくなるまで巣にいるため狩りは行わないが、それ以降はカモ類やカラス類を捕食した。
餌動物の好みや捕獲技術には個体差があった。雄M5は、繁殖期には、電柱や新幹線の高架上に止まって狩りを行い、おもにスズメを捕えていた。また雄M4は、早朝や夕暮れ時には塒を出入りするムクドリを捕まえた。日中にも頻繁に狩りを行ったが失敗が多かった。雄M3は、送電鉄塔の頂きに止まり、そこからムクドリやハト類を捕った。
雌F1は、早朝や夕暮れに川岸に行き、長い時間そこに来るカモ類を狙う行動が見られた。また、雌F3は河川や水路の水面近くを低空飛行して、カモ類を捕食した。8月から9月には、おもにサギ類を捕食した。雌F4は、おもに市街地を飛翔するドバトを捕食した。
このように、オオタカが採食する動物は雌雄により異なり、個体差も大きいことがわかった。また、採食する動物は一定の期間同じ種が選択される傾向があることから、採食される動物の個体数の多さや、捕えやすさ、個体の捕食の技術などが関係していることが考えられた。
関東で2006年6月にオオタカAccipiter gentilisの成鳥雄と雛に人工衛星追跡用発信器(PTT)をハーネスで装着した。PTTは30gで太陽電池を搭載している。成鳥のPTTにはGPS機能があり、時刻、緯度、経度、標高、方位、速度などが提供された。
巣内雛: PTT装着個体は6月下旬に巣立ったあと、約45日後に石巻付近に現れ、引き続き9月初旬に青森まで北上した。9月下旬に関東を経由し10月中旬に知多半島→11月初旬に紀伊半島→四国を経由して鹿児島へ渡り、11月中旬から翌07年3月中旬まで越冬した。その後、4月中旬に四国→紀伊半島経由で5月初旬に関東に戻り8月下旬まで滞在した。2007年の11月初旬には再び南下を始め鹿児島の同じエリアで越冬した。翌2008年春になると前年同様のコースをたどって北上し関東に戻ってきた。この全移動距離は、5000kmに及んだ。この事実から本個体は明らかに渡り鳥といえよう。
成鳥雄:関東の農村地帯でPTTを装着して以降、2008年7月までの足かけ3年、770日間にわたり928ポイントのGPS情報を取得した。GPS情報と同時にARGOSデータも受信したが、解析には誤差が数mといわれる精度の高いGPS情報のみを用いた。
当個体がなわばりを構えている環境は、典型的な農村集落に孤立して点在する樹林帯で構成されたエリアで、行動圏内には水田、畑地があり、樹林に囲まれた人家と市街地が点在する。全行動圏は75.515km2となったが、これはクマタカのGPSに基づく行動圏(52.594km2)よりも広かった。但し、中心的に活動する範囲は狭いエリアに限られていた。これを時間帯別に見ると、6時には巣を中心とした狭い範囲に留まるが、12時には最も広くなったが、15時、18時には巣の周辺域に収斂した。
このオオタカは全期間を通じてなわばりを遠く離れることはなく、3年連続で繁殖に参加した。その間に利用した環境を見ると、最も高い頻度で利用した環境はアカマツ植林(30.6%)であった。次いで畑地雑草群落(21.4%)、緑の多い宅地(19.3%)、水田雑草群落(13.6%)、クヌギーコナラ群落(11.6%)の順であった。これに対して、利用頻度の低かった環境は、休耕田を含む開放水田、市街地、工場地帯などであった。
この解析には環境省の植生図と衛星写真を用いて林相や土地利用態様を明らかにした。また、地形、標高等の解析には国土数値情報を用いてArc View で解析した。当地域は現在、松枯れによりほとんどアカマツがなく、広葉樹とスギの林地となっている。
2007年11月、北陸地方でクマタカSpizaetus nipalensis成鳥雄に衛星追跡用発信器(PTT)をハーネスで装着した。PTTは70gで太陽電池とGPS機能を搭載している。2008年7月までの250日間に324ポイントのGPS情報を得た。森林棲クマタカを衛星で追跡することは困難であるとの懸念があったが、年間を通して季節的な偏りもなく受信に支障はなかった。今回の解析には誤差数mといわれる高精度のGPS情報のみを用い、精度の低いARGOS情報は用いなかった。
これまでの目視観察結果から、クマタカは深い森林内で活動することが多く、どのような環境のどのような部位を主に利用しているのか、といったクマタカによる森林の利用態様が不明のままに残されてきた。特に、積雪期は山岳地帯への接近が困難であることから、冬期間の利用環境は不明であった。今回はクマタカによる利用環境を浮き彫りにするために、植生、地形、標高、斜面方位などに着目して解析した。また、季節的に利用環境が変化するのか、一日の中で時間的な利用環境の変化があるのか、どのような植生帯を多く利用するのかといった時系列的、ランドスケープの視点からの解析を試みた。
今回、対象としたクマタカの年間を通した行動圏は、最外角法で算出した結果、52.594km2であった。このクマタカは尾根を隔てた樹林帯で繁殖する他クマタカつがいと、多くの場合、稜線を境に一線を画するように行動していたが、時として隣接つがいの行動圏内への侵入が見られた。対象とした個体は当該行動圏内で繁殖しているが、年間を通して自らのなわばりを遠く離れることはなかった。
今回の解析には環境省の植生図と衛星写真を用いた、また、地形、標高等の解析には国土数値情報を用いてArc View で解析した。解析の結果、クマタカが最もよく利用した環境は、ブナ-ミズナラ群落(56.8%)、次いでカスミザクラ-コナラ群落(17.6%)とスギ・ヒノキ・サワラ群落(17.6%)、自然低木群落(4.3%)、チシマザサ-ブナ群団の順であった。これに対してポイントが少なかったのは水田雑草群落、伐跡群落、桑園であった。これまでの事例によると、目視観察では姿が見えないのに、その時、そのエリアにGPSの位置情報がプロットされることが多々あり、クマタカは森林内で活動する猛禽類であることを裏付けたといえよう。
演者らは、2007年春から人口建造物でのチョウゲンボウの繁殖を観察してきた。その中で、2007年に誕生、巣立った個体(メス)が2008年に同じ巣で繁殖し、その初期段階で母親からの給餌を受ける行動を観察したので報告する。
繁殖は、演者の1人の建部が勤務する神奈川県内広域水道企業団S浄水場(以下、浄水場)の敷地内にある建物(鉄筋コンクリート4階建て)の4階で行われた。巣は、建物のくぼみにあるテラス状の棚にあり、2007年、2008年と連続して使用された。
2007年は4羽が無事に巣立ち、そのうち、後に巣立った2羽がしばらく浄水場敷地内に残り、冬を越した。2008年2月頃からは3番目メスが前年の巣の付近に定着し、3月9日には前年の母親と思われる個体が姿を見せた。
母親はしばらく巣に入る行動を見せ、同時に、3番目メスに対する給餌も観察された。3番目メスも母親のいない間に巣に入りはじめ、3月17日には巣内で1卵が確認された。この頃から3番目メスが巣内に留まる時間が長くなり、母親は時折巣内の3番目メスに給餌したものの、次第に姿を見せなくなった。その後、3月24日までに4卵となり、母親はこの頃からまったく姿を現さなくなった。
この間、父親は警戒心が強く、前年親との個体識別はできなかった。また、初めに産卵したのが母親なのか、3番目メスなのかの確認もできなかった。ただ、これらの卵はいずれも1か月以上経った段階で1卵も孵化せず、外敵(あるいは、3番目メス)による捕食によって消滅した。また、その後2回産卵したが孵化は見られず、いずれも同じ理由により6月18日までにすべて消失した。3回目の卵については、3番目メスが食べているところを観察した。3番目メスは、7月現在も浄水場敷地内、特に巣の周辺に定着して生活している。
なお、母親及び3番目メス、4番目については、体格及び眼下の黒線の形状などによって個体識別した。
鳥類・哺乳類では、一夫一妻制で繁殖するペアの絆の維持に、個体のストレスレベルが関与していることが示唆されている。一夫一妻制であるセキセイインコ(Melopsittacus undulatus)の繁殖ペアを引き離し(ペア解消)、ペア解消前後のストレスレベルを明らかにすることを本研究の目的とした。ストレッサーによってコルチコステロンが副腎皮質から放出される。血中コルチコステロン濃度(以下CORT濃度)をラジオイムノアッセイ法により測定した。雄では,ペア解消前では8.59±1.15 ng/ml(mean±SEM, n = 12)、解消後では5.54±0.80 ng/ml (n = 12) だった。ペア解消後、CORT濃度が有意に低下した(n = 12, p < 0.05)。ペア解消後の雄のCORT濃度がベースライン(鳥がストレス状態にないとき、もしくは極低いストレス状態のときの値)であると考えられる。雌では、ペア解消前のCORT濃度は、8.82±1.33 ng/ml(n = 11)、ペア解消後では13.20±3.67 ng/ml(n = 10)で、ペア解消前後でCORT濃度に有意な差が見られなかった。また、ペア解消前のCORT濃度に雌雄差は見られなかった。ペアを維持している期間には、配偶者からの適度な社会的刺激がストレッサーとなっているため、ペア解消前のCORT濃度が雌雄ともに高かったと考えられる。
一方で、ペア解消後の雌のCORT濃度は、雄とは異なり、ペア解消前同様高い状態に保たれていた。ペア解消後の雌では、配偶者が全くいなくなることが新たなストレッサーとなり、CORT濃度をペア解消前と変わらず高い状態に保っていた可能性がある。セキセイインコの雌は、新たなペアを形成すると配偶者の鳴き声を記憶し、ペアの絆を維持している。また、一度音声記憶を獲得すると、配偶者から隔離されても、雌は配偶者の音声記憶を長期間保持することができる。マミジロコガラ(Pocile gembeli)では、CORT濃度が高い状態にあると、空間記憶能力は高められることが知られている。配偶者から隔離された場合、CORT濃度が高いことにより、雌セキセイインコは音声記憶を長期間保持することができるのかもしれない。
中・高緯度地方に生息する鳥類では、日長が一定以上になることによって脳下垂体−性腺系のホルモン分泌が促され、繁殖期が開始するとされている。これらのホルモン分泌が低下すると繁殖期は終了し、換羽が始まる。しかし、われわれは換羽が終了した頃から、すでに性ステロイドホルモンの分泌が僅かずつではあるが高まっていくことをいくつかの種で見いだした。このことから、広義の意味での繁殖期は秋頃から始まるのではないかと考えている。性ホルモンの分泌が最も低くなるこの転換期に、糖質コルチコイドの分泌が変化しているのではないかと考え、まず繁殖期のコルチコステロンの分泌変動を糞から調べてみた。
試料は2006年4月中旬から8月上旬にかけて、ウミネコの繁殖地である蕪島(青森県八戸市)の保護区域で採取した。成鳥の糞は識別された26カ所の巣から試料を採取した。同一日同一箇所での重複を避けて211試料を選び、コルチコステロンとテストステロンをRIAおよびEIAによってそれぞれ測定した。この際、冷凍保存した糞を60℃で48時間以上乾燥させ、蒸留水とジエチルエーテルの2段階抽出後、抽出物をリン酸緩衝液に再溶解して測定試料とした。
コルチコステロン量を一元配置分散分析によって検定した結果、採取日による有意な差は認められなかった(P=0.053)。一方、全測定値の平均値の95%信頼区間の上限値を超える値は、4月に採取された試料に多く認められた。また、コルチコステロンとテストステロンの値について検定した結果、高度に有意な相関が認められた。
8月になるとウミネコは繁殖地を離れるが、これに関係するようなコルチコステロンの変動は認められなかった。4月に比較的高い値が観察されたのは、産卵および抱卵時のストレスの反映と言える。テストステロンとの高度な相関も、繁殖期の早い時期の方がテストステロンが活発に分泌されていることと一致する。巣によって繁殖の進行が僅かずつ異なること、雌雄の試料が混在していることから、さらに個々について精査を試みる。
多くの鳥類において、産卵から孵化までに要する時間は、繁殖期前半に産卵された卵より繁殖期後半の卵の方が短くなることが知られている。このような孵化までに要する時間は、卵サイズ、卵表面の気孔数、あるいは気温などの影響を受けると言われるが、研究例は少ない。ここで、Hipfner et al. (2001) は、卵殻の構造に注目し、繁殖期後半の卵は、その表面に多くの気孔が存在し、さらに薄い卵殻を持つと予想した。卵内の胚は、卵殻表面の気孔を通してのみ外部環境とガス交換を行うことができる。そのためガス交換効率は、気孔の数や大きさによって制限される。つまり、気孔の特性は、胚の代謝速度を通して成長速度に影響し、抱卵期間を決定する至近要因のひとつとなる。
これまでの私たちの調査から、ウミネコの卵サイズは、クラッチ内で産卵順とともに小さくなることが分かっている。また孵化間隔は、産卵間隔よりも短くなり、孵化パターンは、同時(繁殖期前半)・非同時(繁殖期後半)の両方があり、季節変化することもわかっている。そこで本研究では、ウミネコの2卵と3卵の巣において、卵サイズ、卵表面の気孔密度、総気孔数、および卵殻の厚さを調べ、クラッチ内で比較した。さらに、これらの卵特性が、産卵日、産卵から孵化までの日数、およびクラッチ内の孵化日のずれに与える影響を検討した。
調査は、青森県蕪島の繁殖コロニーで行った。卵の気孔数と厚さを観察するため、孵化直後の卵殻を回収した。また、未孵化卵の卵殻も分析に用いた。卵殻表面の気孔の観察は、Tyler(1953) にしたがい塩酸処理された卵殻を染色した後、実体顕微鏡を用いて行い、気孔密度(個/cm2)と総気孔数を算出した。
その結果、2卵の巣において、気孔密度と総気孔数ともに第1卵目より第2卵目の方が有意に多くなっていたが、卵殻の厚さに違いはなかった。また、産卵から孵化までの日数は、第2卵目の方が短くなっており、孵化間隔は0〜2日の間でばらついていた。これらの結果をもとに、ウミネコのクラッチ内において第1卵目と第2卵目の気孔密度と総気孔数の違いが、孵化までの日数とクラッチ内の孵化日のずれに与える影響について議論する。
鳥類ではメスの羽衣が雄化したものはオナガガモなどで知られているが(Chiba et al. 2002)、スズメ目鳥類ではあまり報告されていない。スズメ目鳥類で性的二型が見られる種について雄化した個体を野外でメスと確認することは非常に困難であり、その行動などからメスであることをうかがい知ることしかできない。そのためこれまで野外では捕獲して外部生殖器を確認しない限り、若いオスと誤認されてしまい雄化の個体があまり報告されていないと考えられる。
サンコウチョウTerpsiphone atrocaudata は雌雄で外部形態が異なり、その特徴の一つとして、成熟したオスでは中央尾羽根2枚が特に長くなることが知られている。尾長はオスでは256-340mm、メスでは77-100mmである(清棲 1952)。今回、この中央尾羽根がオスのように長いメスを採集したので報告する。
2008年5月15日に鹿児島県喜界島で採集されたサンコウチョウは後述のように、外部形態ではオスの特徴を示していたが、生殖器官によって性別を確認したところ発達した卵巣を確認でき、メスであることが判明した。このメスの頭部はオスと同様に金属光沢のある暗紫色で冠羽があり、背面は赤褐色、翼の先端や尾羽根は黒褐色で亜成鳥オスの羽衣と非常に似ていた。尾長は141.5mmとオス同様に中央尾羽根2枚が長かった。
このように中央尾羽根が長いメスについての文献記録としては、Jouy (1910) に1882年7月30日に富士山で採集された個体の記録があり尾長が134mmと異常に長いメスと記載されている。国内の博物館標本などから雄化の例を調査し、その頻度についても調べる必要がある。今後他の種でも雄化した個体が確認される可能性もある。雄化の原因としては染色体異常(ZZW)も考えられ、遺伝学的な調査も必要である。
【目的】
ハシブトガラスCorvus macrorhynchosとハシボソガラスCorvus coroneはいずれも雑食性である。しかし、ハシブトガラスはハシボソガラスに比べ動物質の餌を好むとの報告があるなど、両種の食相は同じではない。この食相の違いに関連し、これまでに頭部、特に頭蓋骨の形態学的な違いについての調査がなされてきた。しかし、両種において顎の開閉に関わる筋肉である顎筋を比較した報告はなく、また顎筋を同定した報告もない。そこで本研究では、実験1でハシブトガラスとハシボソガラスの顎筋を同定し、実験2で同定した顎筋の重量を両種間およびニワトリGallus domesticusとマガモAnas platyrhynchosとも比較することで、ハシブトガラスとハシボソガラスの顎筋の特徴を明らかにすることを目的とした。
【材料と方法】
実験1:ハシブトガラス12羽(雌雄、体重520-760g)とハシボソガラス8羽(雌雄、体重380-660g)を用い、顎筋の種類をその起始点と停止点により同定した。
実験2:ハシブトガラス10羽(雌雄、体重550-760g)とハシボソガラス6羽(雌雄、体重380-650g)を用いた。これらのカラスから、実験1で同定したそれぞれの顎筋を採材後、重量を測定し比較した。また、ニワトリ5羽(雌雄、体重1.5-3.0kg)、マガモ5羽(雌雄、体重1.2-1.5kg)を用い、同様にして測定を行い、ハシブトガラスおよびハシボソガラスと比較した。各計測値から求めた顎筋全体の重量に対する各顎筋重量の割合を計算し、これを比較した。検定にはWilcoxonの順位和検定とSteel-Dwassの多重検定を用いた。
【結果】
実験1では、2種のカラスにおいて10種の同じ顎筋が同定できた。それらの顎筋を、これまでのニワトリやハト、カモの顎筋に関する報告に基づき、上顎開口筋群、上顎閉口筋群、下顎開口筋群、下顎閉口筋群の4群に分類した。実験2では、ハシボソガラスに比べハシブトガラスの上顎開口筋群の割合が有意に大きく(P < 0.05)、下顎閉口筋群の割合が有意に小さかった(P < 0.01)。また、両種のカラスにおいてマガモに比べ上顎開口筋群の割合が有意に大きく、下顎閉口筋群の割合が有意に小さかった(いずれもP < 0.05)。さらに、両種共にニワトリに比べ下顎開口筋群の割合が有意に小さかった(P < 0.05)が、上顎閉口筋群に有意な差はみられなかった。
鳥類における混群の形成は世界で広くみられる現象である。日本においても、晩秋から早春にかけて、エナガ科、シジュウカラ科、ゴジュウカラ科、キツツキ科などのさまざまな分類群の鳥類種があわさり、混群を形成する。一般に、混群の構成員は、群れの動態に先行する先導種(エナガやシジュウカラ)と、それに追従する随伴種(ゴジュウカラやキツツキ類)に大別され、先導種の存在が混群の形成および結束において重要な役割を担っていると考えられている。しかし、先導種がどのような方法で混群の形成・結束を促進するのか、あるいは随伴種がどのような手掛かりをもとに先導種に追従するのか、明らかになっていない点が多い。
混群の形成過程で種間の音声コミュニケーションは重要な役割を担っている可能性がある。特に、群れメンバーを視覚的に認知しづらいような広範囲で離散集合を繰り返す混群では、鳴き声は他種の存在を知る上で重要な手掛かりとなるだろう。本研究では、カラ類混群を対象に、音声コミュニケーションが混群形成においてどのような機能を有しているのか、一時的に餌場を設け、混群の形成を観察することで調べた。
餌場にはコガラ、シジュウカラ、ヤマガラ、ゴジュウカラが集まった。コガラとシジュウカラは比較的初めに餌場に来る先導種であった。一方、ゴジュウカラは他種に追従する随伴種としての傾向が強く、ヤマガラは先導することも追従することもある中間型であった。コガラとシジュウカラは混群形成の初期段階によく鳴き、混群形成が進むにつれて鳴き声を発さなくなった。この結果は、コガラやシジュウカラは、鳴き声を発することで餌場への混群形成を積極的に促進していたことを示している。一方、ヤマガラとゴジュウカラでは、混群形成過程に伴う発声の変化はみられず、混群形成を促進するために鳴き声を発していたとは考えられなかった。本研究は、混群形成過程において先導種の鳴き声が重要な役割を果たしていることを示した。
多くの一夫一妻性の鳥類では、社会的なつがい以外の個体と交尾を行うつがい外交尾(EPC, extra-pair copulation)という行動が知られている。雌雄はつがい外交尾により適応的な利益を得られると考えられているが、この利益は雌雄間で異なっている。雄はつがい外子(EPY, extra-pair young)を多く残すことで本来よりも多くの子を次世代に残すことができると考えられている。一方で、雌が次世代に残す子の数は変化せず、また、つがい外子の父親は育雛に参加しないために、雌はつがい外交尾によって物質的な利益(直接的利益)を得ることはできず、遺伝的な利益(間接的利益)のみを得ていると考えられている。しかし、つがい外交尾により雌が間接的利益を得られているかどうかに関しては、これを支持する結果もある一方で、反対の結果も得られており、いまだ解っていない部分が多い。
鳥類では雛の巣立ち時の体重がその後の生存率に影響を与えることが示されており、成長率のよい雛をもうけることで適応的な利益を得られると考えられる。もしも雛の時期の成長率が遺伝的に決定している場合に、雌は特定の雄と選択的につがい外交尾をすることで間接的利益を得られると考えられる。
そこで本研究では、千葉県富津市で繁殖するツバメを用いて、雌がつがい外交尾によって成長率の高い雛を得る事ができているか調べる事を目的とした。ツバメは世界中に広く分布する一夫一妻性の鳥類で、本調査地も含めて、つがい外交尾をすることが知られている。つがい外子の含まれる巣を対象に、つがい外子とつがい内子(WPY, within-pair young)の成長率を比較した。その結果、つがい外子の方がつがい内子に比べて体重の最大値が大きくなる可能性が示唆された。
多くの鳥類において、巣における卵・ヒナの捕食は繁殖失敗の主な原因であり、親の適応度に直接的な影響を与える。そのため親は子の捕食を回避するために様々な手段を用いているが、その対捕食者戦略は捕食者の種類によって様々である。そのため、複数種の捕食者によって巣の卵・ヒナが捕食される種では、捕食者の種類によって狙われやすい巣場所や有効な巣防衛方法が異なると予想される。
ダイトウメジロは沖縄県大東諸島のみに生息するメジロの固有亜種である。ダイトウメジロの繁殖失敗の原因は主に捕食であり、モズ・クマネズミ・イタチ・ヒヨドリなど多くの捕食者によって卵やヒナが捕食されている。そこで捕食者の種類によって親は警戒行動を変化させるのか、巣場所の特徴と警戒行動に関係があるのかどうかを実験的に確かめた。
調査は2007年5〜8月、2008年2〜8月に沖縄県南大東島で行った。巣の周辺に捕食者の剥製を提示する実験を行った。育雛7〜11日齢の巣に、捕食者3種(モズ・クマネズミ・ヒヨドリ)の剥製およびコントロール(12×24×5cmの茶色の箱)をランダムの順番で1日1種、連続3日間提示した。剥製または箱を巣の高さまで上げ、巣から1mの位置に提示し、♂親が提示物に気づいてから3分間の警戒行動(警戒声強度・枝移り回数・翼打ちの回数)を記録した。
♂親は、コントロールにはほとんど反応しなかった。警戒声強度・枝移り回数・翼打ち回数は共にコントロール<ヒヨドリ<クマネズミ<モズの順で多くなった。モズに対する警戒声強度は樹冠に近い巣を持つ個体ほど有意に強かった。調査期間中に調査地に飛来したモズはすべて樹冠部に止まっており、林内の低い位置で目撃することはなかった。クマネズミに対する警戒声強度は枝先に近い巣を持つ個体ほど有意に強かった。林内で目撃したクマネズミの多くは枝先で採餌を行っており、幹に近い部分では移動するのみであった。ヒヨドリに対する警戒声強度と巣場所には有意な傾向は見られなかった。警戒声強度と枝移り回数・翼打ち回数はそれぞれ有意な正の相関関係にあり、これら警戒強度が強いと両親以外のモビング参加個体数が有意に多くなったが、警戒強度と繁殖成績には有意な関係は見られなかった。
これらよりダイトウメジロ♂親は、各捕食者がよく出現する場所、またはよく採餌している場所に巣が近いほどその捕食者に強く反応していると推察される。
個体群中の繁殖成績の差異は主に二つの要因に起因するといわれている。ひとつはなわばり環境の質、もう一つは親の経験など、個体の質である。多くの場合、優位個体が質の良いなわばりを占有し、劣位個体は良い環境を利用できない。そのため、繁殖成績の差異がなわばりの質と個体の質のどちらに起因するのかを分離することは難しい。複数年同じなわばりに定住する種の繁殖成績を継続的に追跡することで、環境と個体の効果を分離することが可能である。本研究の対象種であるダイトウコノハズクは、分散の制限された島嶼に生息し、生息環境はほぼ飽和状態である。なわばりを獲得するのは容易ではなく、雄は定着後、同じなわばりを経年的に維持する。本研究では、なわばりの質と親の経験・年齢が、繁殖タイミング、卵数、巣立ち雛数、巣立ち成功率に与える影響を検討する。
電波発信機を装着した雄のなわばり面積は3.24ha(n=13)であった。このため2008年25巣について、繁殖巣を中心とした半径100mの円内をなわばりと仮定し、環境タイプごとの面積を測定した。採餌環境として、低木等が密集した岩場・民家・草地を好むことが分かっているため、それらの合計面積をなわばり内の餌量の指標として用いた。繁殖成績と餌場面積との関連を調べたところ、餌場面積が大きい巣ほど、初卵日が有意に早かった。また2卵巣と3卵巣を比較したところ、3卵巣周辺のほうが餌場面積が有意に大きかった(2卵巣平均0.63ha, n=13, 3卵巣平均0.90ha, n=13)。しかし、巣立ち雛数・巣立ち成功率と餌場面積の間に相関は見られなかった。主な繁殖失敗要因は、捕食と孵化失敗であった。孵化率については、繁殖二年目以上の雄が繁殖一年目の雄よりも有意に高かった(二年目以上平均0.9, n=13, 一年目平均0.5, n=14)。成鳥と一年目若鳥を比較したところ、成鳥のほうが有意に孵化率が高かった(成鳥平均0.8, n=41, 若鳥平均0.3, n=5)。また、繁殖一年目の雄のほうが捕食される割合が高い傾向にあった。
このことから、繁殖タイミングと卵数にはなわばり内の餌場面積が影響し、孵化率と巣立ち成功率には親の経験もしくは年齢が影響することがわかった。繁殖初期の卵生産期にはなわばり内の餌量が重要であり、孵化や育雛には親の経験がより強く影響すると考えられる。
フクロウ類は基本的に一夫一妻で繁殖するが,これまでに10種で一夫多妻での繁殖が報告されている.しかし,同一巣における一夫多妻は稀である.今回,南大東島において,一つの樹洞巣で一雄二雌のトリオで繁殖する亜種ダイトウコノハズクを観察したので報告する.
亜種ダイトウコノハズクは南大東島だけに分布するリュウキュウコノハズクの一亜種である.2002-08年までに繁殖を観察したのべ81巣は一夫一妻で繁殖した.しかし,2007と2008年の同一巣で一雄二雌(α雌,β雌とする)のトリオによる繁殖を確認した.足環による個体識別により同一個体から構成されることがわかった.巣内の行動を明らかにするためにCCDカメラを巣の上部に設置し,2007年は一日4時間の撮影を6日間と12時間の撮影を6日間,2008年は一日4時間の撮影を58日間続けた.その結果,繁殖個体間に排他的な行動は認められなかった.産卵開始は観察全つがいで最も早く,2007年は平均産卵日より11日,2008年は13日早かった.2年ともにそれぞれの雌が3卵を産んだ.2007年のβ雌の産卵日は不明だが,2008年のβ雌の産卵はα雌より16日間遅れた.両年ともにα雌の3卵は全て孵化したが,α雌の卵が孵化した後,両雌は抱卵を中止し育雛行動に移行したため,β雌の卵は孵化しなかった.2008年のβ雌の卵は発生が進行していることを確認した.孵化した雛は3雛とも巣立った.また,マイクロサテライト解析によりトリオの個体間に血縁関係はなく,2007年に孵化した雛はトリオの雄とα雌の仔であることを確認した.
このトリオ繁殖は排他的行動を伴わず,抱卵育雛を分担していることから,協同繁殖といえる.南大東島におけるダイトウコノハズクの一腹卵数は2-3卵であるが,両雌の一腹卵数は2年連続して最大の3卵であり,繁殖開始が早かった.このことからトリオ雄の占有するなわばりの質は高いと推察された.好条件のなわばりがトリオ繁殖を可能にしていると考えられた.また,巣立ちから翌年の繁殖期まで電波発信器で追跡できた10個体のうち,4個体が一定箇所に定着しないフローターになった.南大東島のダイトウコノハズクのなわばり分布は飽和状態であり,繁殖可能な場所と雄が不足している.第二雌,もしくはヘルパーになることで,雄不足の中で将来つがい雌になる可能性を高くできるのかもしれない.
猛禽類には,普通の鳥とは逆転した性的体サイズ二型(♀>♂)が見られる.この進化を説明しようと試みる様々な仮説が知られている.そのうち,体サイズの性差と相関する捕食行動の性差に言及する仮説は,異なる適応的意義を議論する二つに分けられるだろう.ひとつは体サイズ差にともなう雌雄の獲物の狩り分け,もうひとつは捕食能力における小型雄の優位性である.しかし,実際に猛禽類の採餌生態が雌雄で異なるかというと,過去の研究結果は曖昧なものが多かった.私は,2007年の繁殖期全期間に亘ってクマタカひとつがいの給餌行動を記録し,雌雄それぞれの餌動物および給餌率を明らかにした.本研究では,クマタカの給餌戦略が上の仮説を支持するか検証する.
雌雄の獲物は,分類群別では雌は爬虫類,雄は鳥類,重量別では雌は重い獲物、雄は軽い獲物の割合がそれぞれ有意に高く,狩り分けがあることを支持した.さらに,主に雄のみが給餌する抱卵期・育雛前期と比較して,雌も給餌に参加する育雛後期では,雄の獲物に占める鳥類の割合が劇的に増加して,より明確な狩り分けが達成された.また,育雛後期の給餌率に性差はなく,採餌効率に関する雄の優位性を支持しなかった.しかし,雄が主に(より敏捷であろう)鳥を狩ったにもかかわらず,雌と同等の給餌率を維持していたこと,育雛前期の雄の給餌率が繁殖後期のどちらの性の給餌率よりも有意に高かったことから,小型雄の優位性を否定しなかった.
雄の装飾形質の機能に焦点を当てた研究は数多く行われている。中でも、なわばり雄へ侵入雄に見立てたモデル(模型や剥製)を提示することにより、侵入雄に対するなわばり雄の反応を測定する実験デザインは、古くから行われている非常にポピュラーな研究手法である。例えば、鮮やかさが異なる複数のモデル — 派手な赤色の翼を持つモデルと地味な赤色のモデル — をなわばり雄へ提示する実験により、侵入雄の鮮やかさの違いに対するなわばり雄の攻撃性の強弱を評価できる。しかし、研究目的によっては、以下の問題点が生じることがある。1) 提示用モデルに着色した模型を用いる場合、人間には同色に見えるように着色されていても、その色が鳥には同じ色に見えていない可能性が高い。これは、人と鳥では色覚の仕組みが異なるためである(鳥類の多くが人間と異なり、紫外色を知覚できる)。この問題点は、真の羽色と色波長スペクトルが一致する塗料を用いることで解決できるが、剥製( = 本物の羽)を用いて解決する方が容易でかつ、確実であろう。 2) 剥製を用いて前述の問題を解決しても、鮮やかさが異なる複数の個体を用いたのでは、検証したい部位以外の影響を排除できない。例えば、翼の色彩に着目した研究において、採集個体をそのまま剥製化して用いると、他の部位(例えば尾羽等)の鮮やかさの違いの影響も受けることになる。この問題を解決する為には、翼の色彩のみを可変できるモデルの開発が必要である。そこで、発表者らは年齢により色彩が大きく異なるルリビタキを材料として、体の一部を取り換えることが可能な剥製を開発した。また、この細工を施した剥製に対して、なわばり雄が反応するかどうかを検証した。複数のルリビタキのなわばり雄にこのモデルを提示したところ、いずれの雄もこのモデルに対して未加工の剥製に対するのと同様の攻撃行動を示した。このように、ルリビタキにおいては本モデルを使用した提示実験が可能であることが示唆された。研究対象種毎の検証が必要ではあるが、このモデルを用いることで、様々な種において、目的の装飾形質だけに着目したり、装飾の状態を操作した、より綿密なモデル提示操作実験研究を行うことが可能になるだろう。(なお本研究の一部は科研費(若手研究B 20770018)および、笹川科学助成(20-513)の助成を受けたものである)。
カラス類による果実の食害は全国的に発生しており、2006年度の農林水産省の統計では鳥獣による果樹被害金額の28%をカラス類が占める。果実は単価が高い上に、小さな傷がつけられただけで商品価値がなくなることから、深刻な問題となっている。果樹栽培では、病虫害防止や外観品質の向上を目的として、果実に袋かけが行われる場合が多い。カラスの破壊に対する抵抗力の強い袋を開発することを目的として、各種の資材に対するカラスの破壊行動を室内試験により検討した。
飼育網室6室(奥行3.8m、幅2.9mまたは5.8m、高さ2m)に、野生個体を捕獲したハシボソガラス2羽とハシブトガラス4羽を個別に飼育し、実験用の止まり木に針金で固定したリンゴを食べるように馴致した。市販の果実袋、果実傘、各種資材を用いた試作袋等をリンゴにかぶせ、カラスが資材を破いてリンゴを食べる行動を録画により解析した。試験は各資材について3回繰り返して行った。
市販のブドウ用紙袋は短時間で破かれたのに対し、防虫ネットを用いた試作袋は、両種とも破けるまでに時間を要した。果実傘は、サイズの大きいものほどリンゴを食べにくくする傾向がみられた。さまざまな資材において、ハシボソガラスよりハシブトガラスのほうが破くまでの時間が短い傾向があり、両種の体サイズや嘴の形状の違いが影響しているものと考えられた。
若齢個体のほうが、資材をかぶせたリンゴに接近して触り始めるまでの時間が長かったことから、見慣れない物に対してそれが安全かどうか等を判断する能力は成鳥のほうが高いことが考えられた。1回目の試験で破くまでに長時間を要した個体が、試験回数を重ねるにつれて所要時間を短縮させ、効率的な破き方に習熟したことが伺われた。
アマミヤマシギは奄美・沖縄の島嶼域に生息する森林性鳥類である。夜行性のため昼間はあまり目につかないが、夜間に林内を通る道路などに出現する。本種のモニタリング調査は、このように夜間道路上に出現する個体の数に基づき行われている。一般に、動物の出現はさまざまな環境要因の影響を受けるため、モニタリングの際にはそのような影響を考慮することが重要である。また、もし何らかの環境要因が、道路への出現個体数だけでなく交通事故件数にも影響するならば、その環境要因を考慮して事故の発生傾向を分析し、対策を講じることができるかもしれない。今回は、1)アマミヤマシギの道路への出現個体数に影響する環境要因についてまず分析し、次に2)道路での交通事故件数に、そのような環境要因の影響が反映されているかについて考察した。
2006年2月から翌年1月にかけて、奄美大島北部の調査ルートにおいて、計77回の夜間センサスを行った。調査ルートに出現する本種の個体数に影響を与えそうな環境要因として、気温、風速、雲量、月の明るさを考えた。また時間帯によって出現状況が異なる可能性があることから、センサスを行った時間帯も考慮した。分析の結果、出現個体数に影響を与える要因として雲量と月の明るさが相対的に重要であることがわかった。すなわち、雲が少なく、月の明るい夜ほど多くの個体が道路に出現していた。これは、道路上で求愛や採食、移動など、視覚を用いた活動を行っているためであると考えられる。
次に、2001〜2007年に奄美野生生物保護センターに持ち込まれた負傷・死亡個体の情報(29件)を用いて、交通事故の発生件数と月齢の関係を分析した。本種の交通事故は3月に多く発生していた。事故の発生には月齢による偏りが見られ、朔望周期の前半、特に月齢7〜10、15の夜に多かった。周囲が明るくなる時期・時間帯に本種が道路上に多く出現することが、月齢による交通事故件数の偏りに影響しているのではないかと考えられる。
以上のことから、より正確なモニタリングを行うためには調査日の月齢や天候を考慮することが重要であり、また交通事故を減らすためには特に月の明るい夜に運転手の注意を喚起する工夫をする必要があることが示唆された。
オオセッカLocustella pryeriは極東固有のウグイス科センニュウ属の希少種であり、絶滅危惧IB類に指定され法的に保護されている。本種は個体数が少ない上に繁殖地が極めて局地的で、現在まとまった個体数が生息している繁殖地は青森県の仏沼湿原と岩木川河口、茨城県と千葉県にまたがる利根川河川敷の3ヶ所に限定されている。また、過去に繁殖地を転々と替えた経緯があり、その保全には繁殖地の個体数動向を常に把握すると共に、周辺地域も含めた分布様式を明らかにする必要がある。
青森県内のオオセッカ個体数は2001年に大規模な調査が行われており(上田 2003)、仏沼湿原では448羽、岩木川河口では142羽のオスが確認されている(中道&上田2003:小林&小山 2003)。また、当時の青森県内の生息個体数は約1200羽と推定されている。
演者らは青森県全域のオオセッカの分布と生息個体数の現状を把握するため、2008年6月28日に岩木川河口を中心とした青森県日本海側の津軽地方、翌29日に仏沼湿原を中心とした青森県太平洋側の南部地方と下北半島にて個体数調査を行った。その結果、津軽地方では岩木川河口1ヶ所に143羽、南部地方では仏沼湿原を含む14ヶ所に798羽の囀りオスを観察した。性比を1:1と仮定すると、青森県内全域では約1900羽の成鳥が生息していると推定された。また2001年と比べて岩木川河口では個体数の増減が少なく個体数はほぼ安定しているが、仏沼湿原では増加傾向が見られた。今回の発表では植生や人為的管理手法の異なる環境別に個体数を比較し、オオセッカの環境選好性について解析を行う。また1982年に行われた青森県全域のオオセッカの分布情報と現在の繁殖分布を比較し、生息環境の増減に関する考察を行う。
マダガスカルは,アフリカ大陸から少なくとも約2億年前に隔離したため独特な鳥類相を発達させてきた.実際,283種の鳥が島に存在し,うち109種はマダガスカル固有種である.本発表の研究対象であるマダガスカルオオサンショウクイCoracina cinereaは,マダガスカル固有種であり,マダガスカル全域に分布し,低地の中緯度常緑湿潤林,乾燥林,拠水林に生息する.先行研究より,本種はしばしば単独あるいはペアで発見されるが樹冠部で混群に一緒についていくことの方が多いこと,巣の形状,クラッチサイズ,卵の色は記載されている.しかしながら,基本的な繁殖生態,特に各ステージにおける雌雄の役割分担,抱卵,育雛などの時間等の詳細な報告はない.そこで,本研究の目的を(1)マダガスカルオオサンショウクイの繁殖に関する詳細な情報を提供すること,(2)各繁殖ステージにおける雄と雌の役割分担を評価することによって繁殖システムを決定すること,とした.
調査は,マダガスカル南東部のラヌマファーナ(Ranomafana)国立公園において,2007年10月から11月まで行った.雌雄判別は先行研究に従い,体色を基準にした.繁殖中の巣は3巣みつかり,それぞれについて雌雄の抱卵の時間割合,抱雛の時間割合,給餌頻度,巣防衛行動を記録した.2巣については親が雛に与えた食物も調べた.
発見された3巣のうち,1巣は抱卵から巣立ちまで観察できたが,残り2巣はそれぞれ育雛期のみ,抱卵期のみの観察となった.育雛期のみ観察された巣は,マダガスカルオオタカAccipiter henstiiに捕食され,繁殖は失敗した.各々の巣は高さ12〜17mにある木の枝の又ところに作られ,巣の外側は蘚苔類や地衣類で装飾された皿型のものだった.クラッチサイズは巣が高かったため直接観察できなかったが,雛数からクラッチサイズは1又は2と考えた.抱卵は雌雄で行った.抱卵時間,抱雛時間に雌雄間で有意な差はなかった.雛への給餌も両性で行ない.雌の方が給餌頻度の高い日が多かったが,有意ではなかった.雛に給餌されたものは,主にチョウ目幼虫やバッタ目の昆虫が多かった.また,昆虫の他にもクモや小型のカメレオンを雛に与える時もあった.雛は孵化後24日で巣立った.巣立ち後雛は巣の近くの木の枝づたいに移動し,親はその後も雛に給餌を続けた.
これらの結果は,マダガスカルオオサンショウクイが一夫一妻であるということを支持している.
はじめに
生物の分布パターンを生じさせる要因の中でも分散は、場所間の個体の移動によって分布の空間構造を生み出す重要なプロセスである。さらに鳥類などでは、分散途中で特定の景観要素やこれを間接的に判断できると言われる社会的要素(同種他個体の存在など)が、個体が生息場所を選択する際の指標となることで、景観の異質性が分布に影響する可能性が高いと言われている。しかし、このような現象を明確に示した研究は少ない。また鳥類の分散は、主に若鳥が初めて繁殖場所を探索し選択する際に生じ、その後の個体の適応度や分布全体に大きな影響を与えると考えられるが、直接観察が困難であり、分散プロセスを考慮した研究が進んでいない。
目的
本研究では、石川県のツバメの繁殖分布データを題材に、(1)ツバメの繁殖分布の決定には個体の生息場所選択が関わっているのか、(2)生息場所選択はどのような要素を指標としてどのようなルールに基づいて行なわれているかを、個体ベースモデルを用いて検証した。
材料および方法
各モデルには、適応的意義を考慮した3つの探索・定着ルールと3つの生息場所選択の指標を組み合わせた15の行動仮説を組み込んだ。そして各モデル予測と実際の繁殖分布を対比し、実際の分布に最も近い分布を生じさせる、最も適合度が高いモデルを調べた。またこの際、若鳥が出生場所を出発し繁殖場所を選択・定着するまでの最大の探索距離を推定し、出生場所から選択した繁殖場所までの直線の分散距離を求めた。
結果
指標とする要素が見つかり次第すぐに定着するという探索・定着ルールで、営巣場所となる景観要素(住宅)と社会的要素(古巣)を指標とするモデルが最も適合度が高かった。また、直線分散距離の最頻値は500〜600mであった。
考察
この結果から、ツバメは繁殖地に到着した後、あまり分散せずに早く繁殖を開始することによって得る利益が大きい可能性があり、分散には時間的な制約があることが示唆された。また分散距離は、この地域の景観構造の影響も受けているのではないかと考えられた。本研究によって、個体レベルの現象(生息場所選択)が、個体群レベルの現象(分布動態)に影響を与えていることが示され、この2つの現象が再帰的関係にあることも示唆された。
都市再開発は緑の分布形態に大きな変化をもたらす。密集低層住宅地から高層住宅地に変わることで、いままではせいぜい路地裏園芸程度しかなかった緑がビルを囲む公開空地の緑地となって増加する可能性もあるが、高層建築物で緑が分断されることによって生息可能な鳥類が制限されることも考えられる。都市の高層化が鳥類の行動に与える影響を知るため、急速な都市再開発が進む中国・北京市街地の高層ビル街と低層住宅地で繁殖するカササギ Pica pica の行動観察を2008年5月6日〜9日に行った。カササギは排他的ななわばりを形成するため、高層ビル街は視認できる範囲が限られることから、巣やなわばりの防衛には不利となっていると考えられるが、高層建築物の上を上手く利用して視野を確保している可能性もある。
高層ビル街の事例として金宝街で1番い、低層住宅地の事例として鼓楼付近で1番い、それぞれ午前と午後に2日ずつ、計11時間ずつ巣からの出入りの観察を行った。観察した2番いは、いずれも樹高20メートル前後のポプラに営巣していた。
高層ビル街の中層ビル前のポプラの木立で営巣していたカササギの親鳥は、15階建てのビルの屋上部に止まって巣の見張りをすることもあったが、主に営巣木の樹高と同程度の高さである6階建てのビルの屋根によく止まり、営巣木の樹高よりも低い高さで高層ビルの隙間を通って飛翔していた。探餌行動はビル街の中庭や前庭の地面・芝生地で観察され、巣に戻る時には建物の2〜3階程度の高さを低く飛翔して、建物を迂回して巣に戻っていた。巣には雌雄どちらかが滞在するか、巣外から見張りをしていた。行動圏は巣から半径約200mの範囲内であった。
一方、低層住宅地内のポプラの木立で営巣していたカササギの親鳥は、営巣木近くの同程度の樹高のポプラの樹頂部で巣の見張りをすることが多く、探餌のために低層住宅地の上空を飛び交っていたが、主に2階屋の屋根よりも高く営巣木の樹高よりも低い高さを飛翔していた。探餌行動は低層住宅の中庭や広い空き地の地面で観察された。空き地の探餌場所ではこの繁殖番いとは別の多くの個体も同じ場所で探餌を行っていたが、繁殖番いがそれらの個体を追い払うことを試みたのは稀であった。行動圏は巣から半径約250mのほぼ半円の範囲内であった。
鳥類における繁殖の失敗は主に、雛が捕食されること、親鳥による巣の放棄、雨などの気候の影響による。営巣場所は、そのような捕食や雨などから雛を守る役割をしていると考えられる。そのため、営巣場所の選択は繁殖成功に大きな影響を与えると推測される。そこで、本研究ではモズLanius bucephalus がどのような要因によって営巣場所を選択しているかを明らかにするために、営巣場所の特徴と繁殖成功の関係について調べた。
調査は2008年4月中旬〜7月上旬にかけて、長野県軽井沢町発地地区で行った。本調査地では、モズは主に3月下旬から繁殖のために飛来する。今回の調査では、営巣場所選択の要因として考えられる営巣場所の特徴と繁殖成功について調べた。営巣場所の特徴として、(1)巣の高さ、(2)巣から開けた空間への最短距離(30cm以上何もない空間が続くときに「開けた空間」と定義した)、(3)巣に接している枝の本数、(4)巣に接している棘のある枝の本数の4つについて測定を行った。
その結果、巣に接している枝の本数がモズの繁殖成功に関係があるという傾向が見られた。本調査地において、繁殖に成功した巣は約46%であった。また、失敗した巣のうち、捕食されたことが原因であるものが約72%、親鳥の巣の放棄によるものが約28%であった。これより、本調査地における繁殖失敗の主な原因は捕食されることであると考えられる。また、巣に接している枝の本数が多い巣のほうが、捕食率は低かった。巣に接している枝の本数が多いことは、捕食者から巣の存在が分かりにくいこと、捕食者が巣に侵入する際の妨害になることが考えられる。これにより、モズは捕食者を回避できるような場所を営巣場所として選択していることが示唆された。
島嶼に生息する鳥類は、生息環境への適応・ボトルネック効果・小さな集団サイズなどから独特の形質を持つ場合が多い。ウグイス Cettia diphone では、小笠原諸島に生息するハシナガウグイス C. d. diphone で、本州の亜種ウグイス C. d. cantans に比べ一腹卵数が少ないこと、さえずり構造が単純であること、オスも雛に給餌すること(本州でメスのみ)が明らかにされている。
ダイトウウグイス C. d. restricta は南大東島で発見され記載された(Kuroda 1923)後、長く記録がなかった。しかし、梶田ら(2002)によって沖縄島に通年生息するウグイスの特徴がダイトウウグイスと一致することが明らかにされた。現在では、ダイトウウグイスは琉球列島の島々に生息することが知られている。この亜種の形態については細かく報じられているが、行動・生態については情報がない。そこで、なわばり性、繁殖生態、さえずりの音響学的構造を明らかにすることを目的に、今年から調査を開始した。
調査は、2008年5月7〜19日、6月16〜21日に奄美諸島喜界島で行った。ダイトウウグイスのさえずりは亜種ウグイスのものに比べ、周波数変調部(「ホーホケキョ」などと聞こえる「ホケキョ」の部分)の時間が短く、それを構成する音(ノート)の数が少なかった。変調回数も少なかった。一方、1羽のオスが持つさえずりタイプの数は多かった。単純だが様々なさえずりを持つのは、ハシナガウグイスと同様で、島の鳥の一般的な傾向である。それに対し、一腹卵数は4〜5、抱卵・雛への給餌を行うのはメスのみと、繁殖生態は亜種ウグイスと同様であった。
今後、繁殖生態とさえずりを理解するために、オス間競争の強度に関わるなわばり維持期間(通年なわばりか?)やなわばりの所有者の置換頻度について調査する。また、メスの得やすさに関わるつがいの絆の継続性(繁殖期内のつがい相手の変更)についても調査する。
ヒヨドリは北海道から沖縄まで日本全国、木のあるところならどこにでも生息する身近な鳥である。繁殖期は5月から9月と長く、早朝、見晴らしの良い梢などで高らかに鳴いている姿を見かける。本研究ではこの行動をさえずりと定義し、北関東の農耕地帯において、さえずりの時間帯、時期、場所、密度を調べ、ヒヨドリのさえずり行動の詳細を明らかにすることを目的とした。
さえずり時間帯・時期調査は、茨城県つくば市農林団地内に設定した約6kmの調査ルートを自転車で廻って、さえずり地点を地図に記入した。時間帯の調査は2007年6月21日、7月5日、7月20日の3回、日の出から1時間おきに日没まで、時期の調査は2008年5月23日から1週間毎に、日の出から1時間おきに5回を1セットとし、現在継続中である。
さえずり場所・密度調査は、2007年6月2日から7月10日にかけて、茨城県桜川市から牛久市まで南北36km、東西18kmの範囲に1kmメッシュを648設置し、その中で環境に偏りがないように任意に選んだ32箇所の調査メッシュにおいて行った。日の出から4時間以内に調査メッシュの中を徒歩、自転車を使ってくまなく周り、ヒヨドリがさえずっている地点、場所を地図に記入した。密度推定はGISを用いて予測モデルを作成し、調査範囲全体に応用した。
さえずり時間帯は日の出後1時間が最も多いが、4時間後までは7割以上の個体を確認出来た。その後減少するが1日を通してさえずりは確認できた。時期的には5月から7月にかけて確認された個体数が増加していた。今後9月にかけて減少するものと思われる。
さえずり場所・密度の調査時間は41時間49分に及び、1メッシュあたり平均1時間18分(最大2時間55分)を調査に費やした。確認されたヒヨドリのさえずり地点の総数は540であり、このうち483が木の梢や林などであり、37が電線・電柱、16がアンテナ、3が屋根・屋上、1がゴルフ練習場のネット上であった。
さえずり密度推定モデル選択の結果、「森林」、「畑地・草地」、「市街地」の3つが影響を与えている環境要因であると判断した。これらを用いて作成したモデルを最適モデルから調査範囲において500mメッシュで営巣密度を予測した。密度が高いのは森林であり、低いのは水田地帯であった。ヒヨドリのさえずり個体数は、調査範囲で11,928個体、密度は18.4個体/km2であった。
カラスバトは、国の天然記念物として登録されているほか、環境省のレッドデータ種には準絶滅危惧種として、島根県のレッドデータブックには絶滅危惧I類として挙げられるなど、生息数が少ないと考えられている野鳥である。また、本種は警戒心が強く、主として島嶼に生息分布しており、生息地が限られている。その為か、生息数や生態、繁殖の状況については充分な調査がなされていないと思われる。
本種は、主にシイ・タブ等からなる良く発達した照葉樹林に棲み、タブ、シイ、ツバキなどの木の実を主食にし、採食は地上でも樹上でも行われる。繁殖については、生息地域によって異なった傾向が報告されており、例えば繁殖シーズンは主に初夏から秋と考えられるが、秋から冬に確認されている地域もある。生息地域の気候、餌資源の状態によって繁殖時期などが異なると考えられるが、それ故にそれぞれの生息場所によって異なる生態に関する基礎研究は重要である。
島根県に生息しているカラスバトは、基亜種カラスバトのみとされており、主に隠岐島全域と益田市高島で観察されているが、その生態に関する調査はほとんど行われていない。また、県内での繁殖については、隠岐諸島において通年、生息が観察されていることから、繁殖の可能性が見込まれていたが、巣や卵などの直接的な確認はなかった。そこで、調査者らは島根県からの委託を受けて平成14年から3年間にわたって本種の繁殖実態を中心に調査を実施した。今回は、その中で確認された繁殖状況と季節移動の可能性についても報告する。
我孫子市鳥の博物館では、フクロウが巣箱を営巣候補地として、どのように利用するのかを調査するため、フクロウ用の巣箱に赤外線CCDカメラを取り付け、巣箱内の観察を続けている。現在では、画像アーカイブシステムを利用し、長期に渡り継続して画像データを蓄積している。これまでにも繁殖期におけるフクロウの巣箱への訪問や行動観察については報告されているが、周年の詳細な訪問観察記録はない。
演者らは2006年11月から2007年9月にかけて、千葉県我孫子市内の林地に赤外線CCDカメラを取り付けたフクロウ用の巣箱を設置し、動体検知機能がついたHDレコーダーおよび画像アーカイブシステムを利用して、巣箱への訪問を24時間記録した。その結果、非繁殖期も含めたフクロウの巣箱への訪問記録がとれたので報告する。
今回観察した巣箱でフクロウは繁殖しなかったが、巣箱への訪問は、およそ1年を通して観察され、合計で523回記録された。フクロウの繁殖期とされる3月から5月の訪問が多く、全体のうち59%を占めた。時間帯別では、午前4時から6時に最も多く、次に17時から18時にかけて多かった。
この事例では、営巣場所として利用しない巣箱でも、1年を通して訪問していることがわかった。また、フクロウが活動を開始終了する日の出と日の入り近くに巣箱を訪問する傾向がみられた。
三宅島は2000年夏に噴火し,高熱,降灰,土石流,噴出ガスによって大規模な植物の枯死や植生の破壊が起こった.この噴火による鳥類への影響については,鳥類相の変化(加藤・樋口 2003)や個体数の変化(藤田ほか 2005)についての報告がある.演者らは,他の影響として形態に注目し,噴火直後の2001-02年には,メジロの嘴峰長が噴火前と比べて約1mm程度長くなっていることを報告した(2002年度鳥学会大会).
その後5年が経ち,ガスの量は噴火直後に比べてかなり減っているが,現在でも噴出が続いており,高木の枯死が増加し,樹冠が消失している森林が増えている.2007-08年に捕獲・計測を実施した結果,メジロの嘴峰長は,噴火直後に比べ,平均するとやや短くなったものの,噴火前の長さには戻っていないことが分かった.これは,噴火直後に出現した,ふしょ長や嘴峰長の長い個体が減っていることが原因だと考えられた.さらに,ヤマガラについても調査を実施し,ふしょ長はあまり長くないが嘴峰長の長い個体が噴火直後に比べて減少し,ふしょ長や嘴峰長の短い個体が増加していることが分かった.つまりメジロもヤマガラも,噴火直後と現在で体サイズや嘴サイズが異なる個体が見られている.本発表では,さらに他形質の解析も加え,これら2種の噴火後の形態形質の変化を検証する.
また,本来,三宅島,御蔵島,八丈島にのみ生息する亜種オーストンヤマガラが,現在繁殖期に,式根島(噴火直後まではヤマガラは繁殖していなかった)や神津島(噴火直後までは亜種ナミエヤマガラが繁殖していた)で確認されている.これらのオーストンヤマガラが,三宅島から分散したという確証はまだないが,地理的には分布域の中で最も三宅島が近い.また,三宅島では秋冬期の重要な食物であるスダジイが噴火後数年間不作続きであり,さらに前述のようにスダジイなどの高木が大量に枯死しているため,これらの影響でオーストンヤマガラが島外に分散した可能性がある.
これらの結果から,噴火は直後に生物に影響を与えるだけではなく,その後数年たってから影響する場合もあることが示唆される.
樹洞営巣性鳥類は、自ら巣穴を掘り利用するキツツキ類に代表される1次樹洞生産者と、自ら巣穴を掘れないため1次樹洞生産者が造った巣穴や菌類の腐食作用により形成された自然樹洞を利用するシジュウカラやムクドリ、スズメといった2次樹洞利用者に大別される。樹洞営巣性鳥類は1次樹洞生産者が造る巣穴の2次利用を介して相互に影響しあいFood webに類似した関係であるNest webを構築することがMartin&Eadie(1999)により報告されている。
北海道の森林では、キツツキ類の中で中型の巣穴を掘るアカゲラDendrocopos majorが主要な1次樹洞生産者として知られるが(小高・松岡2002)、小型の巣穴を掘るコゲラDendrocopos kizukiにおいても2次樹洞利用者による利用が観察されている。2004-5年に野幌森林公園(北海道江別市)及び2006-8年に羊が丘研究林(北海道札幌市豊平区)において実施した樹洞営巣性鳥類の巣穴利用場所の調査では、繁殖期に飛来するニュウナイスズメPasser rutilansによるコゲラの巣穴の利用が頻繁に観察された(10巣)。また、ニュウナイスズメはゴジュウカラSitta europaeaの巣穴(1巣)や自然樹洞(2巣)も利用した。これらの利用は乗っ取りにより巣穴の獲得を試みた場合(2例)や獲得した場合(6例)があり、ニュウナイスズメによる利用はコゲラやゴジュウカラの繁殖行動や生息の有無や分布に影響を与えている可能性が考えられる。また、本来であればゴジュウカラはアカゲラの古巣や自然樹洞を巣穴として利用するため、コゲラと巣穴の2次利用において直接的に関係を持つ可能性は低いと考えられる。しかし、ニュウナイスズメによってゴジュウカラの巣穴が利用される場合には間接的にコゲラとの間に繁殖行動や生息における影響といった相互関係が生じる可能性もある。
そこで本発表では、これまでに記録した巣穴を用いて、3種が選ぶ巣穴や樹木の特徴について解析した結果を報告し、巣穴利用を介した3種の相互関係の可能性やニュウナイスズメの乗っ取りによる巣穴利用について考察する。
北海道にはキツツキ科の鳥として,ヤマゲラ,クマゲラ,アリスイ,オオアカゲラ,アカゲラ,コゲラ,ミユビゲラの7種が生息するとされる。このうち,クマゲラとオオアカゲラは冬期に大きな採餌痕を残すことが知られている。特にクマゲラは樹幹内部のアリを捕食するため,特徴的な大きな採餌痕を残す。
北海道の多くの地域では冬期は積雪のため,キツツキの採餌場所は立木(枯木を含む)に限定され,特に採餌環境が厳しくなると予想される。キツツキの保護を考える上で,食物の確保しづらい冬期の採餌環境を保全することは重要であろう。一方で森林は木材生産の場という一面があるため,生物多様性保全の関心の高まりから採餌環境の保全に配慮した森林管理が必要とされている。
本研究では,北海道の空知地方でキツツキによる比較的大きな採餌痕(以下採餌痕)を広葉樹林と針葉樹人工林(トドマツ)で調査した。調査地内には,複数つがいのオオアカゲラと1つがいのクマゲラが生息していた。採餌痕の調査は融雪期に行った。採餌痕と木くずをセットで確認することで,その冬の採餌痕だけを扱った。当初の目的はクマゲラの採餌痕だけを調べる予定であったが,現時点ではクマゲラとオオアカゲラの採餌痕を完全に区別できていないため,比較的大きな採餌痕をすべて扱った。両種で同じ採餌場所(採餌木)を利用した観察例もあるため,採餌環境の保全を目的にするのであれば,両種の採餌痕を同時に扱ってもあまり問題がないと考えている。
調査の結果,採餌痕は針葉樹人工林より広葉樹林で多かった。樹幹内部のアリを捕食した典型的なクマゲラによる採餌痕は少なかった。広葉樹の枝での採餌痕が多数みられたが,針葉樹では枝での採餌痕は見つからなかった。さらに採餌痕にはいくつかのパターン(型)が見られたため,そのパターンについても大会で分析結果を示す予定である。
漁港ではカモメ類が多数見られる.これはカモメ類が投棄魚を求めて漁船について漁港に入ってきたり,漁獲物の陸揚げや荷捌きに由来するゴミをあさって食べたりするためである.しかし,詳しい調査は行なわれてはいないものの,漁業活動が行われていない夜間にも,漁港内でカモメ類が少なからず観察されている.そこで,夜間漁港内にいるカモメ類の行動を詳しく観察した.さらに,視覚捕食者であるカモメ類にとって,漁港にある外灯によってもたらされる明るい環境が,夜間の行動を可能にする一因になっていると考え,1)夜間のカモメ類の個体数を明るさの異なる漁港間で比較,2)外灯からの距離を起きている個体と就塒個体とで比較した.これらの調査は2006/2007年の越冬期に北海道函館市東部の11の漁港で行った.また,3)外灯の有無がカモメ類の餌生物の豊度に影響するかどうかを調べるために,2007/2008年の越冬期に同一漁港内の明るさの異なる2地点においてプランクトンネットを曳網し,餌生物密度を比較した.
その結果,夜間漁港内にいるカモメ類の中にはねぐらとして漁港を利用している個体もいたが,半数以上の個体は起きており,しばしば採餌行動をとっていた.また,1)夜間でも明るい漁港にはカモメ類が多く,2)外灯から離れた所では起きている個体と就塒個体はほぼ同数であったが,近い所では起きている個体が多かった.夜間に採餌するカモメ類は明るい漁港に多く,同じ漁港内でもより明るい所にいると言える.また,3)明るい所では,餌生物となるプランクトン類などの密度が高かった.明るい所では,視覚捕食者であるカモメ類が索餌しやすい上,餌生物密度が高いため,カモメ類は外灯がある明るい漁港では夜間でも採餌を行っていると考えられた.
<背景と目的>
夜行性と言われているゴイサギであるが、繁殖期には夜間のみならず日中にも活動することがわかっている(Endo et al. 2006)。しかしこの活動周期を変化させる要因については未だ確定されてはいない(Fasola 1984)。また、繁殖期の採餌行動についての観察はあるが、雛への給餌方法についての研究例は乏しい(Kushlan & Hancock 2005)。そこで、本研究では繁殖期における活動周期の変化と給餌生態を明らかにすることを目的として調査を行った。
<調査地と調査方法>
本研究は青森県藤崎町の平川河川敷に形成されたゴイサギの単独コロニーで行われた。調査期間は、2007年と 2008年の5月下旬の営巣開始から、大部分の雛が巣立つ9月上旬までとした。赤外線投射機能付きカメラをコロニー内の接近し易い巣を選んで設置し、週に1〜2回終日録画を行って、抱卵交替、給餌時間帯、給餌内容、給餌方法に着目し解析した。また2008年はカメラを設置した巣の雛について、体重測定を週に約1度行った。
<結果と考察>
抱卵交替はおよそ1日に1回で行われており活動周期は24時間より長いようである。これがEndo et al.(2006)の、個体が1日ごとにコロニーでの在・不在を交代する時期と推定された。また帰巣直後の給餌時間については、巣内給餌期間では日の出前後と日没後の2つの時間帯に集中していた。
給餌内容については、ドジョウ・遊泳魚・カエル類が確認された。また、孵化後間もない雛に対しては消化物を与えるとされてきたが(Voisin 1991)、わずか6日齢の雛に対してほぼ未消化の状態の餌を給餌しておりその中には全長8cmを超えるものもあった。
給餌方法についても、Kushlan & Hancock (2005)とは逆に15日齢位までは巣内への吐き落とし、それ以降では直接口移しで給餌する様子が観察され、ステージによって雛間の餌量に大きな差があることが予想された。またこのことが、雛の成長・生存に大きく関わっていると考えられ、実際雛3羽中1羽のみ成長が著しく遅く最終的に死亡したとみられる例があった。2008年では、特に雛毎の成長速度の違いに着目し、体重測定の結果と録画記録の結果を合わせて検討することで、雛の成長・生存の要因となる給餌生態について詳しく考察する。
サギ類は、複数の種からなる混合コロニーを形成することが知られている。日本における混合コロニーの参加種は、アオサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、アマサギおよびゴイサギの7種類が主になる。コロニー繁殖する理由としては、限定された繁殖場所、繁殖機会の増加、捕食圧の軽減および採食場所の情報共有が考えられている。しかし、混合コロニーで繁殖する種の間でも、体サイズの違いによって捕食圧は異なり、また、利用する採食環境が消長の激しい資源環境であるのか、安定的であるのかによって情報共有の効果に違いがあることが推察されるので、種によってコロニーから得ている利益が異なることが考えられる。本研究では、コロニーの機能を解明する目的で、コロニー形成時のサギ各種の行動とその種による違いを明らかにする。
調査は、2008年2月から5月に行った。兵庫県南東部を流れる武庫川中・上流部流域および篠山川上流部で2007年に確認されていたサギ類コロニー全8箇所、加えて2008年調査開始後に発見した2箇所を対象とし、およそ5日間隔でサギ類の個体数および繁殖ステージを記録した。
調査範囲のコロニーに出現した順番は、アオサギ(2月6日)、ダイサギ(3月27日)、ゴイサギ(4月6日)、コサギ・チュウサギ(4月18日)、アマサギ(4月24日)の順であった。調査したコロニーのうち、混合コロニーは4箇所であった。他の6箇所はアオサギ単独コロニーだったが、このうち3箇所は、一時的にアオサギが見られたものの、最終的には放棄された。発表では、コロニーごとの個体数の変化、各種の加入状況、各種の繁殖開始タイミング、その際の特徴的行動などを報告する。例えば、アオサギでは、繁殖を早く開始する個体は、巣に1個体が入ってつがい相手を待つ期間があることがわかった。対して、ゴイサギでは、数日で一挙に100羽まで増えたコロニーもあった。これらの種による違いやコロニー間の差異から,コロニーの形成プロセスと機能についての考察を行う。
東京都日野市にある多摩動物公園の園内では、2000年より野生のアオサギが集団繁殖地を形成し、繁殖が確認されている。この繁殖集団は園内のペリカン池やツル柵(〜2006年)と呼ばれるオープンエア式のケージにある池を採食場所のひとつとしている。このうちのツル柵において、2003年〜2006年にかけてアオサギの幼鳥・成鳥を捕獲・標識し、その後園内での標識アオサギの滞在状況について定期的に観察してきた。標識後2年以上が経過し、もし標識した幼鳥が生き残っていれば成鳥になっているものと考えられる。そこで今回は、成鳥や幼鳥の滞在・回帰に一定のパターンがみられることを報告する。
標識アオサギの滞在状況は2003年〜2008年、多摩動物公園内の採食場所や繁殖地内(繁殖期のみ)において、繁殖期は3-7日毎、非繁殖期には7-10日毎に観察した。この観察記録を半月ごとにまとめ、滞在・回帰パターンを分類した。
アオサギの標識は4年間に成鳥18羽、幼鳥51羽(うち1羽は標識脱落)に対して行った。そのうち成鳥の滞在パターンは、年間を通して利用(16.7%・3羽)・繁殖期のみ利用(72.2%・13羽)・繁殖期後の夏期のみ利用(5.6%・1羽)・不明(1羽)の4つに分けられた。繁殖期のみ利用していた個体の中には、非繁殖期に近隣の河川に飛来し、複数の年に渡ってほぼ同じ場所を利用する個体も見られた。したがって、成鳥は個体ごとに、年間を通じた生息場所がある程度固定されているのではないかと考えられる。
一方幼鳥は、放鳥後ほとんどの個体が行方不明となっているが、9.8%(5羽)の個体が多摩動物公園の繁殖地に放鳥後2年〜4年経過して回帰し、繁殖する個体も見られた。これらの個体は、繁殖可能になるまで他の場所にいて、その後繁殖地に戻ってきたものと考えられる。標識後の経過年数から推測すると、標識後未確認になっている個体の中には、繁殖可能になっていない個体が生き残っていると考えられ、今後新たに繁殖地に戻ってくる個体があることが期待される。
北海道、本州、佐渡、隠岐、四国、九州で繁殖するヒクイナPorzana fuscaの1亜種ヒクイナP. f. erythrothorax(以下ヒクイナと呼ぶ)は、近年東日本では生息環境が著しく悪化し、激減していることが報告されており、2006年12月に改訂された環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定された。しかし、日本における本種の詳しい生息状況は、ほとんど調査されていない。そこで、演者らは、2007年11月中旬から兵庫県神戸市においてヒクイナの生息状況を調査している。今回は、主に2008年5月下旬から6月下旬にかけて得られた繁殖期の生息状況について報告する。
調査は、兵庫県神戸市西区および同県加古郡稲美町一帯の合計82.75km2の範囲内の河川や溜池、農地で行った。調査方法は、テープレコーダーでヒクイナの鳴声を再生し、それに反応して鳴き返してきたヒクイナをかぞえる方法を用いた。
その結果、合計117地点で鳴声再生を実施したところ、38地点合計63羽(成鳥のみ)のヒクイナの生息を確認した。1調査地点あたりの記録個体数は、1羽(52.6%)または2羽(34.2%)が多かったが、3羽および4羽が記録された調査地点もあった。また、2地点ではヒナを確認した。調査地点の環境を池、河川、農地の大きく3つの環境区分にわけて、記録した個体数を比較したが、それらの間には有意な違いは得られなかった(χ2検定df=2,p>0.05)。また、河川での調査地点を河川敷の幅が50m以上の中規模河川と10m以下の小河川にわけて生息の有無を比較したところ、それらの間には有意な違いは得られなかった(Fisherの正確確立検定法,p>0.05)。
これらのことから、調査地では、ヒクイナは池や中小河川、農地の湿地性草地に広く生息していることがわかった。また、生息個体数も、栃木県内や渡良瀬遊水地における個体数より著しく多いことがわかった。さらに、池では、ヨシ原などの湿地性植物の面積とヒクイナの生息の有無との間に密接な関係があることがわかった。湿地性植物が500m2以上の広さで生育する池は、それ以下の池よりヒクイナの生息を確認した調査地点数が有意に多かった(Fisherの正確確立検定法,p<0.0001)。
ミゾゴイの生息地は、湿潤な土壌の林からなる昔ながらの人里の自然環境である。ここには、鳥類、植物、昆虫、両生類など多様な生物が豊かに息づき、そして象徴的な存在としてミゾゴイがいる。ミゾゴイの保護および生息地の保全を図ることは、日本の生物多様性を保護することになると考えられる。
今回は、2006年より3年間にわたる調査から明らかになった、ミゾゴイの生態の一面について、4月初旬の渡来時から始まるさえずり期、造巣期、産卵・抱卵期、育雛期、巣立ち後の各繁殖ステージにおける行動を中心に発表する。
明らかになった主な内容は次のとおりである。1さえずり期におけるソングポストの位置とさえずりの時間、ソングポストと営巣場所の関係。2造巣期における営巣場所の選好性、造巣期間、古巣の再利用、雌雄の協力関係。3産卵・抱卵期における雌雄の交替時間、ふ化に要する日数。4育雛期における育雛期間、給餌の方法、一日の給餌の回数、給餌の時刻、抱雛中に食べたものを戻して与える「反芻給餌」、採餌行動、行動範囲、主食。5巣立ち前後の雛および幼鳥期における翼を半分に開いた見せかけの「餌ねだり行動」、竹林内での幼鳥の採餌行動。
結果として、次のような点が示唆された。1一日の給餌活動は、明け方から始まり、日没直前に終わり、夜間の給餌活動は一度も認められなかった。親鳥は、日没後に巣へ戻り、雛と一緒に夜間を過ごし、休息と睡眠をしていた。主食はミミズ類であり、その採餌方法は地面に限りなく顔を近づける視力に頼る方法であった。これらのことから「ミゾゴイは夜行性の鳥」といわれてきたが、「昼行性の鳥」ではないか。2竹林は巣立ち直後の幼鳥の採餌場であり、幼羽は竹林内の枯葉に溶け込むことから、竹林と共存関係がある。3採餌場所は、民家付近の竹林、刈り込まれた草地、民家の裏庭、神社の境内、歩道面など人間の生活環境に依存していたことから、生息環境の変化に伴い生態も変化してきている。
今後は、さらに詳細な調査を重ねることにより、各繁殖ステージにおける雌雄の役割分担、繁殖成功率、生息環境の特性、他の生物とのかかわりなどを明らかにし、種の保護と生息地の保全を図る方策を提起していきたい。
(ブログ「ミゾゴイの生態と習性」も合わせてご参照ください)
カンムリウミスズメは12月頃より繁殖場所である宮崎県門川町沖の海域に集まり始めることが分かっている.しかし,何処からどのようにして集まってくるかは不明である.宮崎県内での散発的な目撃記録から,恐らく南から繁殖場所へ集まるであろうことは推測されていた.今回クルーザーや漁船を借上げ,宮崎県沖日向灘沿岸で洋上調査を行ったのでその結果を報告する.
調査は2007年11月と2008年1月・2月・3月に合計6回,船を借上げて行った.宮崎市青島漁港からの調査船にはクルーザーを使用し,門川漁港からの調査船には漁船を利用して行い,平均時速13kmくらいの船上から,数名の調査員が右舷・前方・左舷の海上を分担して見張りカンムリウミスズメを探す方法で調査を行なった.
2007年11月23日と2008年1月19日の調査では青島沖を中心に,南下および北上して探索したが目撃できなかった.2月3日および11日は青島沖から北上して調査した.その結果3日は青島沖から児湯郡高鍋町沖までにカンムリウミスズメ18羽とウミスズメ1羽を記録し,11日は青島沖から日向市美々津沖までにカンムリウミスズメ83羽,ウミスズメ2羽を記録した.これらの殆どの個体が北に向かって移動しており,陸から500m〜2kmの海上で確認した.稀に調査船に驚いて飛翔する個体もいたが,殆どの個体が泳いで北上していた.3月2日は青島漁港から南下して日南市宮浦までを調査し,青島沖で1羽のカンムリウミスズメを確認した.3月15日は門川漁港から日向市美々津沖まで南下して,46羽のカンムリウミスズメを確認した.
今までカンムリウミスズメの記録は,陸からの散発的な確認しかなかったが,今回,船を使った洋上調査で連続した記録が得られ,宮崎県沖日向灘沿岸を移動していることが明らかにできた.また移動については,記録した多くの個体が海上で泳いでおり、飛翔個体が殆ど見られないことから,泳いで移動するものと思われた.その他3月15日の調査では,既に繁殖期に入っているにもかかわらず,日向市沖でカンムリウミスズメが記録され,繁殖期の餌場がこの付近まで広がっている可能性が示唆された.
この調査は,日本野鳥の会宮崎県支部が2007年度地球環境基金の助成を受けて行った.
東京都内でのカモ科鳥類のカウント調査は、野鳥の会東京支部独自の活動として、1975年から始め、2000〜2004年の5年間を除く毎年1月に実施してきました。今回は30年にわたるこの調査について、概要を発表し、その間に見られた増減傾向について触れたいと思います。期間中に観察されたのは26種で、数が多いのは、スズガモ・オナガガモ・ホシハジロ・キンクロハジロ・ヒドリガモなど。また、比較的珍しいクビワキンクロ・アカハジロ・コスズガモなども複数回数記録されています。ここでは、1978年・1988年・1998年・2008年の10年ごとの記録をもとに、その傾向を紹介します。なお、移動量の大きいスズガモは除きます。
カウント総数は、1978年が14種55658羽、1988年が14種30487羽、1998年が14種22235羽、2008年が17種24356羽で、減り続けています。その主な原因はオナガガモの数で、年度を追っていくと、31574羽→9023羽→6773羽→4591羽と、30年間で約85%減になっています。都心部の台東区不忍池では、1978年には4349羽が記録されましたが、今冬2008年には364羽と10分の1以下となっています。他の種類でも、1978年と2008年を比べると、コガモは9796羽→3122羽、カルガモは8890羽→4367羽、マガモは1110羽→965羽と、水面採餌型の種類の激減が目立ちます。
一方、増えている種もいます。ホシハジロは578羽→2387羽、キンクロハジロは802羽→2669羽。また、ヒドリガモが1927羽→5605羽と年々増加しています。
東京の生息特徴は、かつては、大名屋敷跡などの池をもつ庭園や公園に集中する傾向があり、都心部でも多数のカモが身近に見られるということでした。しかし、1990年代の半ばごろから、市街地の池での個体数の減少が目立ち、都心部の文京区六義園では、1978年には1347羽を記録しましたが、2008年には53羽といった状況です。郊外の練馬区石神井公園では668羽→259羽、下町を流れる荒川でも9731羽→1281羽、都心部から50km離れた、多摩川支流の浅川流域でも同じような傾向がみられています。
このような減少は東京都全体でみられ、埼玉県でも同じような傾向が示されています。しかし、神奈川県や千葉県では顕著でないようです。今回の発表を機に、このような傾向が一地域の特異のものか、他地域との比較を考えています。
高層(400m程度〜数千mまで)の風向,風速を観測するウィンドプロファイラという大気観測用レーダーに,春秋期の夜間に強いエコーが生じることが知られている。このエコーは「鳥エコー」と呼ばれ,渡り鳥からの反射ではないかと考えられている。そこで,このエコーが渡り鳥の反射なのかを検証するとともに,渡り鳥の調査手法として使えるかどうかを検討するために,気象庁からデータの提供を受け,環境省事業「レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発事業」が行なわれた。
2005〜2007年の秋期に,北海道室蘭で,上空の渡り鳥の通過状況を,鳴き声の聞き取り,ビデオ撮影,船舶レーダー等を用いて把握し,その頻度とウィンドプロファイラの鳥エコーの頻度を比較した。その結果,両者には強い相関があることが明らかになった。また,鳥エコーの出現頻度の季節変化や地理的な分布をみると,春秋に多く,日本海側が多いという従来の渡り状況の知見と一致していた。したがって鳥エコーの多くは渡り鳥の反射であり,鳥エコーを記録することは渡り鳥の状況を把握する上で有効なものと考えられた。
次にこの鳥エコーの頻度と気象状況を比較し,鳥の渡りに影響する気象要因を抽出した。変数として,渡り数の時期的変化(鳥エコー頻度の20日移動平均値),各種気象データ(気温,気圧,降水量等),上空の風の状況(各方向へのベクトル,風の強さ)を選び,春と秋にわけて,その日の鳥エコーの出現頻度との関係をモデル選択させた。その結果,当然のことながら,渡りのピーク時期には多くの個体が渡るという時期の影響が示された。それとともに,悪天候の時にはあまり渡らないという天候の影響が示され,さらに渡り方向に対して追い風が高頻度で吹く場所(季節)では,追い風方向のベクトルが強いと多く渡り,追い風があまり吹かない場所(季節)では,風の弱い日に多く渡るという風の影響が示された。つまり渡り状況には天候と風が強く影響を及ぼすことが明らかになった。
本研究を実施するにあたりデータを提供して頂いた気象庁観測課,また発表することを許可いただいた環境省野生生物課に感謝する。
渡り鳥の移動は,鳥インフルエンザや西ナイル熱などの感染症の伝播に関与する可能性があり,渡り鳥の移動経路の解明は,感染症の発生と伝播を予測するための重要な基礎資料となる。そこで,感染症伝播に関わる可能性のあるミヤマガラスを対象に,越冬地周辺から繁殖地への移動経路を明らかにすることを目的として,衛星追跡を行った。
捕獲は秋田県大潟村八郎潟干拓地で2006年1月及び2008年2月に行い,それぞれ5個体と15個体に太陽電池式送信機を装着した。5個体は日本を離れる前に,4個体は海上でデータが途切れたが,11個体は大陸に渡るまで追跡することができた。これらの個体の追跡から,渡りの経路とともに渡りのタイミングと繁殖地について明らかにしたのでその結果を報告する。
日本から海に向けて飛び立った地点は,北は北海道の積丹半島,南は青森県の深浦町で,八郎潟から一度北上してから,東南東に向けて飛び立った。飛び立つ日は,雨が降らず風が弱い日の翌日になる傾向があった。年齢別に飛び立ちの時期をみると,成鳥は4月5日までに飛び立っているが,若鳥は4月8日以降で,若鳥の方が遅い。ほとんどの個体が異なる日に渡っており,同じ場所で越冬している個体でも,渡る際は別々に行動していることがわかった。飛び立つ時刻は,午前5時から10時であり,夜間に渡ることはなかった。海を渡る際の飛翔速度は平均53.3km/hで,追い風条件下では最大82.2km/hであった。仮に北海道の尾花岬を飛び立って大陸までの最短距離を53.3km/hで飛翔した場合,大陸まで7時間かかる。日没までに海を渡るには,午前11時までに飛び立つ必要があり,実際の飛び立ち時刻と一致していた。
ミヤマガラスの繁殖地はロシアのブラゴエチェンスク近くのアムール川流域と,中国黒竜江省三江平原周辺であった。繁殖地は,森林と草原や農地などの開けた環境が混在する環境であった。どちらも年平均気温が0度前後であり,永久凍土が溶けることがないとされる年平均気温マイナス5度よりもやや南に位置していた。2006年の気温の変化を見ると,どちらの地域も4月上旬に平均気温が0度を上回る。ミヤマガラスは繁殖地でミミズを餌資源として利用しており,このことから,地面の凍結が繁殖地や渡りのタイミングに関与していることが示唆される。
本研究は,文部科学省科学技術振興調整費の研究項目「ウイルス伝播に関わる野鳥の飛来ルートの解明に関する研究」の一環として実施した。
サシバ Butastur indicus は,東アジア,南西諸島などの温暖な地域で越冬し,夏季に日本の里山に渡来し繁殖する猛禽類である。北海道への渡来記録はあるが,正式な繁殖記録はなく,また青森県では,弘前市での繁殖記録が一例のみであることから,岩手、秋田の両県が本種の繁殖期における分布の北限域であると考えられる。繁殖北限域における本種の生息制限要因の解明を目的に,本種の繁殖北限域である岩手県内で長期に繁殖状況のモニタリングができるサイトを設定し,経年の繁殖状況の推移についてのモニタリング調査を開始した。
調査対象範囲は,岩手県内でも谷津田を含む良好な里山景観が維持されており,本種の繁殖密度が比較的高い岩手県中部のなかの, 1/25,000地形図「土沢」図副内全域(南北約10km,東西約12km)とした。本種の繁殖期にあたる2008年4〜7月にかけて,調査対象範囲内を複数回,隈なく踏査し,できる限り本種の営巣・育雛・巣立ちの確認に努めた。また,岩手県北部の盛岡市玉山区,二戸市,秋田県北部の大館市、鷹巣町、田代町、比内町を比較対象地として,繁殖期に2回踏査し,繁殖有無の確認を行なった。
「土沢」図副内で12の営巣地(巣の場所を特定)と11の営巣林(巣の場所が未確認)のほかに,5ヵ所でつがいでの出現(営巣地・営巣林が未確認)を確認した。確実に営巣したと考えられる地点は23ヵ所で,100平方キロメートル当たり19.2巣であった。千葉県千葉市・佐倉市の12.7巣(東ら1998),栃木県鹿沼市の25.5巣(百瀬ら2005),大阪府河内長野市の27.3巣(小島1994)と比較して,営巣密度が低いとは言えなかった。また,営巣を確認した12巣のうち,8巣で巣立ち,3巣で営巣放棄を確認した。残り1巣の繁殖状況と3巣の営巣放棄の原因は確認できなかった。
比較対象地である岩手県北部の盛岡市玉山区,二戸市では,本種の生息は確認されず,繁殖の可能性はきわめて低いと考えられた。一方,秋田県北部の大館市、鷹巣町、田代町、比内町では雌雄単独,またはつがいの生息が確認され,繁殖の可能性が強く示唆された。秋田県北部は岩手県中部と比較して,約1°程度高緯度であることから,本種の繁殖北限ラインは,秋田県(日本海側)で高緯度,岩手県(太平洋側)で低緯度となる右肩下がりであることが明らかとなった。
なお本研究は文部科学省科学研究費補助金(課題番号19510231)の一部として行なった。
サシバButastur indicus は、北海道、青森県における本種の繁殖の報告例がない、または非常に少ないことから、岩手県、秋田県の両県が本種の繁殖北限域であると考えられる。近年、里山環境の減少と劣化による生物多様性の低下に伴い本種の生息数は減少してきている。2006年12月には環境省版レッドリストにおいて、絶滅危惧2類に指定され、岩手県、秋田県においても準絶滅危惧種に指定されるなど、保全上の対策が急がれている。
繁殖に必要となる条件や本種の繁殖を制限する要因を解明することは、本種の繁殖場所となる里山環境の保全を行なう上で重要である。そこで、本研究では繁殖北限域である岩手県において、育雛期の給餌特性に着目し、本種の繁殖生態を把握することで、繁殖制限要因の解明に資することを目的とした。
2007年6月〜8月に岩手県花巻市東和町において、発見した本種の巣3つ(KG、TS、SN)を対象に巣内観察を行ない、給餌回数、給餌動物種とその給餌量を調査した。巣内観察は、1日に数時間だけ行なう断片観察と本種が1日の活動を開始する午前4時頃から塒につく午後7時半までの終日観察によって行なった。
給餌動物は、季節の進行に伴い両生類・爬虫類から昆虫類へと移行していくことが確認された。育雛が1ヵ月遅れ昆虫類を多く給餌していたSNでは、他の2巣に比べ雛1羽1日当たりの給餌重量が少なくなった。給餌動物種が給餌重量を占める割合はヘビ類(2歳以上)が最も高く、その割合は6月の育雛の方が7月の育雛よりも高くなった。また、雛が孵化してから巣立つまでに必要となる食物資源量は、雛1羽当たり約7.9kgと推定された。このことから、より重い食物動物を数多く給餌することで、巣立ちまでに必要となる食物資源量を満たせる可能性が示唆され、両生類、爬虫類を多く給餌していた6月の育雛の方が、主に昆虫類を給餌していた7月の育雛よりも有利になることが示唆された。
サシバは春に日本に渡来し繁殖する中型の猛禽類である。繁殖地として谷津環境を選好し,両生類,爬虫類,昆虫類,および小型哺乳類等を捕食する。本種は近年生息数が激減し環境省の絶滅危惧II類に指定されているが,生息数が減少した理由の1つとして,本種が餌場として利用する谷津田が開発や放棄によって減少していることが考えられている。そこで,2007年5月から7月に,岩手県花巻市東和町においてラジオ・テレメトリ法によって4巣の雄個体(KG,SN,TD,NH)を追跡・観察し,行動圏やパーチに適した土地利用条件を解析した。
ラジオ・テレメトリ法では送信機を取り付けたサシバを追跡・観察し,パーチ地点と採食地点を5千分の1地形図上に記録した。この結果,繁殖期間を通じて十分に行動追跡が行なえた2個体の雄の育雛期における行動圏は100%MCP法でKGは171.6ha,SNは93.5haで,平均132.6haであった。
次に、行動圏内におけるパーチの選好性と土地利用条件の関係を解析するために,十分なパーチ地点のデータが取れたKG,SNについて解析した。行動圏に重なるように30m×30mのグリッドセルを作成し,各セルのパーチ地点の有無を目的変数,各セル内の土地利用割合やパーチ構成物(電柱、立ち木等)の有無,各セルの重心と営巣木からの距離を説明変数としてCHAIDによる分類回帰樹木を用いた多変量解析を行なった。この結果,営巣地KGでは営巣木からの距離が234m以上450m以内で,パーチ構成物または林縁が,耕作されている農耕地に接している場所を選好していた。また,SNでは営巣木から499m以下の距離で,森林内を選好するという結果が得られたが,これはSNの繁殖開始時期が遅れ,採食をほとんど林内で行なっていたためと考えられる。
以上のことから,本種の行動圏内において選好されたパーチ環境は,営巣木からおよそ500m以内で,耕作された農耕地に接しているパーチ構成物か林縁,または森林内であることが明らかになった。また今後本種の保全を行なう上で,森林,耕作された農耕地,農耕地に接したパーチ構成物,森林と耕作された農耕地の接線長がどの程度必要なのかについて検討する必要があると考えられる。
なお本研究は文部科学省科学研究費補助金(課題番号19510231)の一部として行なった。
背景と目的
サシバは,夏季に日本周辺で繁殖し,冬季は東南アジアなどの温暖な地域で越冬する猛禽類である.水田と森林で構成される谷津環境を繁殖地として選好することが知られており,里山生態系のアンブレラ種といえる.2006年に環境省レッドリストの絶滅危惧2類に指定され,保全が望まれる.日本での繁殖北限域は東北北部であるが,東北での生態は十分には明らかになっていない.本研究では,繁殖北限域である岩手県での本種の生態を明らかにするため,育雛期の行動圏や採食環境について調査した.
調査地
本研究では,岩手県花巻市東和町を調査地とした.北上盆地東部に位置し,本種が選好する谷津環境が多くみられる地域である.
調査方法
2007年5月に雄成鳥4羽を捕獲し,小型送信機を装着して行動追跡を行なった.受信機で捕捉した位置を地図に記録し,MCP(Minimum Convex Polygon)法により行動圏を算出した.また,追跡中に観察した本種の採食地点の景観構成要素(水田,畦など)を記録した.地上の採食地点では,草丈と植被率を計測した.比較のため,調査地内7ヵ所にコントロール地点を設け,5月中旬から8月中旬に週1回の頻度で草丈と植被率を計測した.
結果
調査個体2羽の行動圏面積は,平均132.5±39.0ha(100%MCP法)であった.採食地点については,5月下旬から6月中旬は水田周辺での採食が多く,それ以降は減少した.6月中旬から樹冠や林内で採食するようになり,7月以降には確認できた採食地点の半数を占めた.観察期間の前半と後半では,採食地点に有意な差が認められた(p=0.02; Fisher's exact test).
採食地点の草丈は,植被率に関わらず10.4±7.9cm前後に分布し,植被率は平均43.6±32.3%であった.一方,コントロール地点の草丈は平均38.1±28.5cm,植被率は平均71.0±34.1%だった.採食地点はコントロール地点よりも,植被率(Z=-5.691,p<0.0001;Mann-Whitney U test),草丈(Z=-8.98,p<0.0001)ともに有意に低い値であった.
考察
採食地点は季節的に変化し,6月中旬までは主に水田周辺の里地でカエルやヘビ,それ以後は森林で樹林性のカエルや昆虫を採食していた.里地での採食には地面の植生条件が影響を与え,草丈,植被率ともに低い場所を利用していることがわかった.本種の生息には,営農および草刈り等の管理された農地と共に,カエルや昆虫が生息できる,広葉樹を主体とした樹林帯があることが重要であると考えられる.
調査の目的
近年、サシバが減少しているという報告がいくつかされ、2006年12月には環境省のレッドリストの絶滅危惧II類に選定された。しかし、サシバの現状が分かっているのは、一部の地域や渡りの通過数のみで全国的な状況がしっかり把握されているわけではない。そこでサシバの全国的な生息状況と繁殖地の環境特性を明らかにし、サシバの置かれている状況や保護のために必要なことを明らかにしたいと考え、アンケート調査を実施した。
調査の方法
2007年9月から11月にアンケート調査を実施した。アンケートは2種類あり、地域のサシバの生息状況について聞き取る「生息状況調査」とつがい単位に繁殖成績や生息環境、営巣木などを聞き取る「繁殖状況調査」を関係団体等に行った。
結果
104名の方々から結果が寄せられ、35都道府県より91件の生息状況調査、185件の繁殖状況調査の情報をいただいた。
寄せられた91件のアンケートには、増えていると言う回答はなく、減っている・変わらない・不明のいずれかの回答であった。全国的に減っているという回答が多く寄せられたが、東北地方と九州地方からは変わらないと言う回答も多かった。
サシバの減少の原因として多くあげられたのが開発と耕作放棄だった。合わせてカラス類やオオタカが捕食者としてあげられ、繁殖に失敗した報告があった。近年では耕作放棄と捕食の影響が多くなっていた。
繁殖地は、谷戸環境が多かったが樹林地帯での繁殖も意外に多く記録された。営巣樹種は、全国的にアカマツとスギで繁殖することが多かった。
採食場所については、水田及び畦、そして斜面林が重要な採食地なっていること伺えた。
まとめ
今回のアンケートから、サシバが減少し続けていること、その原因として耕作放棄や捕食者の影響が大きくなってきていることが見えてきた。谷戸の水田は生産効率が悪く、耕作放棄されがちである。谷戸が重要な生息地であることは、今までの研究でも示されてきた。今、豊田市自然観察の森が取組んでいる谷戸の回復の試みのように、谷戸を維持していくことがサシバの保護のためには必要である。しかし、日本中の谷戸でそのような活動をすることは不可能である。今回のアンケートでは、谷戸以外にも多くの繁殖地があることが示された。そのような場所でのより詳細な生息状況、繁殖成績などを明らかにして、谷戸以外でどのようにサシバを保護していけるのかを考えることも重要である。
オオタカAccipiter gentilis は平野部から山地部に生息する中型の猛禽類で、種の保存法では希少種に指定されており、その保全が課題となっている。オオタカの保全のためには、繁殖に必要な地域や資源を明らかにする必要がある。特に繁殖期の雄成鳥は餌運びの大半を担うため、繁殖に必要な餌資源を確保する地域を特定するためには、その行動圏を把握することは不可欠である。これまでに国内では、平野部の農耕地帯に生息する雄成鳥の行動圏については研究がおこなわれてきた。一方で山地部の森林地帯に生息する個体の行動圏については明らかにされていない。
そこで本研究では2006年に、栃木県山地部の森林地帯で繁殖中のオオタカ雄成鳥3個体に発信機を装着し、ラジオテレメトリー調査をおこなった。得られた観察点より繁殖期(6月下旬〜8月)と非繁殖期(10月〜12月)の固定カーネル法95%行動圏を作成した。そして隣接する平野部でおこなった研究結果(堀江ほか 2007)と比較した。
その結果、繁殖期の平均行動圏面積は4,628ha(2,209-6,604ha)で、栃木県平野部の平均行動圏面積899ha(312-1,908ha、n=14)の約5倍の大きさであった。非繁殖期には、1個体については電波が十分受信できなかったため、2個体のみ調査をおこなった。その結果非繁殖期の行動圏面積は1,888haと2,447haで、2個体とも繁殖期と比べて面積が縮小した。また、平野部の平均行動圏面積1,678ha(593-3435ha、n=6)と大きな違いがみられなかった。
これらのことから、平野部の農耕地帯と山地部の森林地帯では、そこに生息するオオタカ雄成鳥の行動圏の大きさや季節変化に大きな違いがあることが示唆された。ただし、今回の調査は繁殖期3個体、非繁殖期2個体と少ないため、今後調査個体数を増やす必要があるだろう。
この他、発表時には平野部と山地部の繁殖密度の違い、環境選択の違いについても報告する予定である。
チュウヒは、日本では北海道や本州、九州の一部で繁殖するが、多くは冬鳥である。繁殖個体数は推定数10つがい程度と考えられており、また繁殖地や越冬地である草原や湿地が開発などで減少していることから、レッドデータブックでは「絶滅危惧IB類」に指定され、その保全が課題となっている。本種の保全を進めるためには、繁殖地、越冬地、そしてそれらの結ぶ渡りルートにおいて、生息に必要な地域や資源を明らかにする必要がある。近年日本でも、それらに関する調査が各地で進められているが、電波発信機を利用した詳細な行動圏調査や移動調査は行われていない。
そこで、越冬期後半の行動圏と渡りルートの把握を目的に、栃木県渡良瀬遊水地において、2001年3月2日にチュウヒ1羽に人工衛星波発信機(PTT)を装着した。その結果、PTTが脱落したと考えられる4月11日までではあるが、行動圏や長距離移動に関する情報を得ることができた。得られた結果は断片的なものではあるが、今後の本種の保全に役立てるため、結果を報告する。
行動圏
3月2日〜4月11日までの41日間で、85地点の位置情報が得られた。このうち、信頼度の高い誤差1km以内の位置情報36地点から、遠方の1地点と捕獲当日の2地点を除いた33地点によって囲まれた最外郭多角形をこの個体の行動圏とすると、その広さは約350haであった。この個体は、ヨシ原が広範囲に広がる遊水地の中心部ではなく、東端とそこに隣接する水田地帯、河川敷をおもな行動圏としていた。
なお遠方の1地点とは、行動圏から約7km南西に離れた水田地帯である(3月4日確認)。これは一時的な遠出行動と思われる。
長距離移動
上記とは異なる長距離の移動も見られた。位置精度が不明なため、正確な位置までは言及できないが、3月27日〜29日にかけて、遊水地を中心に東西方向に数10kmにわたる移動を行い、最終的には遊水地に戻ってきた。渡り直前の時期であることから、渡りに関連する行動なのかもしれない。
北海道十勝平野は農耕地が高い割合を占める農耕地景観であり,森林は農耕地と接した帯状の防風林または小面積の孤立林として存在している.このような森林割合の低い景観において,それぞれ中型と小型の森林性猛禽類であるオオタカAccipiter gentilisとハイタカA.nisusが同所的に生息し,それらの森林に営巣している.本研究では,これら2種の巣,営巣木,および営巣木周辺の環境を比較し,営巣環境の差異を明らかにすることを目的とした.
調査地内の踏査を2006年から2007年に行ない,オオタカ28ヶ所とハイタカ26ヶ所の営巣場所を確認した.巣について,地上高(m),営巣木に対する高さ割合(%),方位,架巣型を調べた.営巣木の樹種を調べ,胸高直径(cm),樹高(m),営巣木から林縁までの最短距離(m),営巣木から道路までの最短距離(m)を計測した.営巣木周辺として,営巣木を中心とした0.1haのプロットを設置した.プロット内における胸高直径5cm以上の立木について,樹種,枝下高(m),胸高直径,樹高を調べた.また,プロット内の胸高断面積(m2/ha)と立木密度(本/ha)を算出した.
営巣環境を2種間で比較した結果,営巣木はハイタカが常緑針葉樹を中心としたさまざまな樹種を利用したのに対し,オオタカはカラマツLarix leptolepisの利用割合が高かった.オオタカはハイタカよりも樹木の低い位置に架巣していた.また,オオタカの営巣木はハイタカよりも胸高直径と樹高の大きい大径木であり,より林縁から離れた場所に位置していた.プロット内において,枝下高はハイタカよりもオオタカで高く,胸高断面積と立木密度はともにハイタカで高い値であった.
農耕地内の防風林や孤立林は森林構造が類似しているようだが,2種間で異なる特徴のある森林を営巣環境としていた.オオタカはカラマツの壮齢林,ハイタカはおもに常緑針葉樹の若齢林に営巣していた.これは,ハイタカが低い枝下高と高い立木密度でオオタカの侵入と飛翔が困難になるような環境を利用しているためであると考えられた.したがって,営巣環境の差異には2種の異なる体サイズ,および捕食者(オオタカ)と被食者(ハイタカ)の種間関係が示唆された.
イヌワシの生息環境は、主に、ステップあるいは森林限界を越えた山岳地帯などの樹木の少ない環境であるが、日本に生息するその亜種Aquila chrysaetos japonica(以下、ニホンイヌワシ)は、例外的にブナFagus crenataに代表される落葉広葉樹林帯に分布している。落葉広葉樹の展葉および落葉による森林空間構造の変化は、樹冠部の視界に大きく影響するため、上空から地上の餌動物を探索するニホンイヌワシの餌選択に大きく影響すると予想され、それは本亜種の繁殖成績にも影響する可能性が高い。そこで、本研究では展葉の完了前後におけるニホンイヌワシの給餌様式の変化を明らかにし、その変化がヒナの成長や生存に与える影響を評価した。
調査対象は、北陸地方に生息する5つがいとした。このうち、1998年から2004年の調査期間中に2つがいが合計5回の繁殖に成功した。この5事例についてカメラによる観察を実施し、育雛期間中に巣内に搬入された給餌動物の種構成、搬入頻度、搬入量、およびヒナの全長の推移を評価した。
解析の結果、ニホンイヌワシの主要な給餌動物はノウサギとヘ ビ類であったが、それらの給餌頻度は落葉広葉樹の展葉前後で大きく変化することが明らかとなった。ノウサギの給餌頻度は育雛開始直後から増加し、展葉完了を境に著しく減少した。一方、ヘビ類の給餌は、展葉完了の直前から始まり、その後巣立ちまで増加した。ノウサギとヘビ類を合計した餌の総搬入量は、相反する両種の搬入量の推移によって、展葉完了以降に減少した。育雛期間中にヘビ類が最も早く給餌されたヒナの全長は、育雛期間中を通しヘビ類を殆ど給餌されなかったヒナに比べ小さかった。以上により、ニホンイヌワシは展葉の進行にともなってヘビ類に特化した餌利用に切り替わるが、結果として給餌量が減少することにより、ヒナの成長に影響をもたらすことが示唆された。
2羽で飛翔しているサシバを観察した際に、1羽は尾を閉じもう1羽は尾を広げて旋回していたことに違和感を感じたため、尾の開閉状態に注目して観察調査を行った。その結果、尾の状態を観察することで、飛翔時の状況や2羽飛翔時の個体間の関係について、ある程度推察することができた。サシバは近年減少傾向にある種であり、本種の基礎的な行動生態を把握することは保護の面でも重要であり、また環境アセスメントなどの観察調査における飛翔データを解析するのに非常に有用であると思われるためこれを報告する。
調査は主に福岡県前原市・志摩町で2006年より行った。
飛翔中の旋回時と直進時における尾の状態に注目すると、(1)旋回時は尾を広げて直進時に尾を閉じる場合・(2)旋回時および直進時とも尾を閉じる場合・(3)旋回時および直進時とも尾を広げる場合に分かれた。
(1)旋回時は尾を広げて直進時に尾を閉じる飛翔は、主に渡り時、探餌中などの移動、テリトリーに侵入した個体が追い出されている時に見られた。
(2)旋回時・直進時ともに尾を閉じる飛翔は、主に羽ばたき旋回上昇時(ディスプレーフライト)とテリトリーに侵入した個体を追い出す追跡時とペア飛行と考えられる時に見られた。
(3)旋回時・直進時ともに尾を広げる飛翔は、テリトリーに侵入した個体が追い出されている時に見られた。
2羽(複数羽でも同じ)で飛翔している場合に、2羽とも尾を広げて旋回していれば大抵は渡りと考えられ、1羽が尾を広げ、もう1羽が尾を閉じて旋回している場合は、テリトリーに侵入した個体をテリトリー所有個体が追い払っている(威嚇している)と考えられた。また、2羽だけで尾を閉じて旋回している場合はペア飛行の可能性があった。
サシバにおけるペア飛行について記述されているものは確認できなかった。今回観察した中でペア飛行と考えられた飛翔は、2羽とも尾を(ほとんど)閉じ続けて旋回や直進飛行をしていた。どちらが先頭というわけではなくやや離れて(数十m)ゆっくり旋回したり、どちらかが先頭になり(途中で先頭が入れ替わることがある)テリトリーと考えられる地域を往来したり営巣林付近に急降下をしたりしていた。
カワウは大型魚食性鳥類で、近年、漁業被害、特に放流したアユの稚魚の捕食が問題となっており、各地でカワウ対策が行われているが十分な効果を挙げていない。カワウ対策やアユの放流がカワウの採食地選択に及ぼす影響を調べる方法としてGPSロガーの利用が有効である。しかし、繁殖中のカワウを営巣放棄されないように捕獲する技術がない。そこで、本研究では、麻酔薬α—クロラロースを用いたカワウの安全な捕獲技術の開発を目的とする。
まず、野外の繁殖個体が巣上に置かれた餌を食べるかどうかを、東京都江東区のコロニーにて調べた。卵のみか数日齢までの雛がいて、コロニー外から目視できる巣に小魚を置き、コロニー外から望遠鏡を用いて対象の巣を観察した。これをコロニー内でのエリアを変えて繰り返した。
全部で21回の実験を行った結果、カワウが魚を食べたのが11回、食べようとしたが落としたのが4回、無視したのが6回であった。
次に飼育個体を使って投薬実験を実施した。同コロニーにて雛を計10羽捕獲し、幼羽が生えそろうまで育ててから実験した。所定量のα—クロラロースを小魚の体内に入れ、空腹状態のカワウに与えてその後の行動を記録した。実験の間は3日以上空けた。薬の量は、1羽当たり36mgから始めてカワウが捕獲できるレベルまで順次増やした。
その結果、72mgでは十分な効果がなく、108mgで2羽、126mgでさらに別の2羽が捕獲可能な程度にまで行動が麻痺した。麻痺までには50〜117分程度を要した。108mgではその後15〜30分程度でカワウは回復したが、126mgでは回復にさらに時間がかかった。また、144mgでは重度の痙攣が数時間にわたって現れる個体が出た。したがって、108mg〜126mgの範囲が適量であり、その場合の捕獲成功率は40%程度と見込まれた。
以上の結果から、αクロラロースを魚の体内に挿入して営巣中のカワウに投与することにより、成功率は50%未満と高くはないものの、従来よりも安全に捕獲できることが示唆される。しかし、必ずカワウを直接観察できる巣に適用し、万一水上に逃避された場合でも回収できる対策や捕獲中に巣に残される卵や雛の保温対策をとることが必要である。
新潟県では近年カワウの個体数が急増し、2005〜2006年に新潟県野鳥愛護会による大規模なカワウの分布調査が行われ、冬期の個体数が夏期個体数の3倍ほど多いこと、県内に3カ所の繁殖地があることが明らかになった(渡辺ら 2007)。カワウの個体数が増加したことで漁業被害が問題となっているが、これまで新潟県におけるカワウの漁業被害をまとめた報告はない。そこで、本研究はカワウの被害対策と個体数管理を行う上で必要な基礎情報を取得することを目的として、2007年に新潟県内の内水面漁業関係者を対象として漁業被害アンケートを行い、同時にカワウの繁殖地の攪乱状況と繁殖分布の調査を行い、漁業被害とカワウの分布状況の関係について考察を行った。
新潟県の主な繁殖後期の分布数は、2006年7月時点で信濃川中流域にある長岡市李崎と信濃川上流域にある十日町市小根岸、阿賀野川上流域にある阿賀町鹿瀬であった(渡辺ら2007)。2006年と2007年に李崎と鹿瀬で繁殖地の攪乱があり、2007年7月の分布は長岡市李崎50羽、十日町小根岸1124羽、長岡市塩谷120羽、阿賀町鹿瀬91羽、福島潟28羽と2006年の同時期に比べ、総個体数は29倍(1413羽)に増加した。
カワウ被害アンケートの結果、カワウは冬期の個体数が夏期より多いにもかかわらず、冬期の漁業被害の報告は少なく、河川、養鯉池とも春から初秋にかけての被害が多かった。これは新潟県の冬期の漁業対象種がサケ、マスなどの大型魚類が中心でカワウの漁業被害対象とならなかったためと考えられる。地域別に見ると新潟県の下越地区、上越地区には未だカワウの飛来していない河川が存在する一方で、中越地区は県内のカワウの繁殖地が複数存在し、その繁殖地を中心とした半径30km以内にある河川、養鯉池の被害が急増していた。河川における被害は61%が5年以上前から生じていたのに対し、養鯉池の被害は過去1、2年で生じたものが51%と最も多く、被害が河川沿いから内陸に拡大していることが明らかになった。本研究の結果から、新潟県におけるカワウの漁業被害対策には、春の移動期以降も県内に残留し、繁殖する個体の管理と漁業被害対策が最も重要と考えられた。
カワウは1980年以降、個体数増加に伴ってアユの補食などの漁業被害や、ねぐら場所での森林被害などが問題とされるようになった種である。そのため、被害地域で様々な対策や調査が行われている。しかし、カワウは広域を移動する種であり、ねぐらの増加や場所の移動が頻繁に起こっているにも関わらず、ねぐらの分布変化の評価はほとんどなされていない。根本的な被害対策を実施するためには、これらの分布変化に関する要因を明らかにする必要がある。
本研究で解析対象とした関東地域には1970年代からカワウが分布しており、現在では2万羽近くが生息する。被害対策や、調査が多く行われており、100カ所以上のねぐらが確認されている。本研究では、このカワウのねぐら分布のデータを用いて、ねぐら分布変化に関係する要因を明らかにすることを目的とした。
解析には関東カワウ広域協議会によって2005年以降に行われている年3回(3,7,12月)のねぐら分布調査データを利用した。そのうち、関東地域では季節的な移動が観察されるため、夏(7月)、冬(12月)の二時点のデータを用いた。応答変数を各ねぐらの個体数、説明変数を1.景観要素、2.過去の個体数、3.空間自己相関として重回帰分析を行った。
応答変数であるねぐらの個体数には、2007年夏の個体数、2006年冬の個体数の二つを用いた。説明変数のうち、景観要素には、ねぐらから50m, 1km, 20km, 50kmの4つのバッファを発生させ、バッファ内に含まれる個々の景観の面積を用いた。景観のデータは環境省自然環境保全基礎調査の植生情報(1998)を利用した。また、過去の個体数には、個々のねぐらの2006年以降の個体数と、景観と同様に発生させたバッファ内に含まれる2006年以降の周辺のねぐら個体数を用いた。空間自己相関の値としては、ねぐらの緯度経度の値を用いた。
発表では、これらの変数を組み込んだモデルを対象に、AICによるモデル選択を行い、カワウのねぐら分布変化に影響する要因について明らかになったことを報告する。
1960年代から70年代にかけて絶滅が危ぶまれていたカワウは,その後,水域環境の改善等により,個体数と分布を回復させてきた。特に分布域の拡大が顕著になり始めた1990年代後半から,関東地域にあるカワウの生息が確認できたすべてのねぐらで,カワウの個体数をモニタリングしてきた。その変化を地図化し,カワウが利用する地域が拡大してきた経緯と地域の特徴を考察する。
分布の変化を見るために,分布の拡大が始まった時期(1997年7月,12月,1998年3月),その5年後(2002年7月,12月,2003年3月),またその5年後(2007年7月,12月,2008年3月)にあたる時期のデータを利用することとした。カワウは夏と冬とでねぐらの利用が変わるために7月と12月を,そして繁殖最盛期である3月を調査月とした。
カワウの分布とその利用頻度の高い場所を示すために,ねぐらの分布とその利用個体数を用いた。ねぐらのある場所と採食に利用される範囲には密接な関係があると考えられるので,利用個体数で重み付けしたねぐらの位置を使用して,Kernel法をもちいてカワウの分布の広がりと利用頻度の高い地域を表現した。
今回解析した3期とも,7月に東京湾北部を利用する割合が高くなり,12月や3月に他の地域へ分布が広がるという傾向があった。5年ごとの変化をみると,東京湾への依存は相変わらず高いものの,湾の北部への集中の割合が減少して,山地と一部の地域を除いた関東全域に利用地域が広がってきたことがわかる。分布の拡大は,多くのカワウが集中して生息していた東京湾北部より,湾内に河口部がある荒川や多摩川の上流へ進出することから始まっている。これらの河川の中流域より分水嶺を越えて利根川や相模川水系に分布を広げていき,それらの河川沿いに上流や下流部にねぐらを形成するようになった。そして,利根川などの河口へ出たものは,そこから海岸沿いや湖沼沿いに移動して,那珂川など新たな河川を利用し始めたと推測される。
この10年間に,関東のカワウの個体数はほぼ1.5倍になり、利用地域の面積はおよそ5〜10倍へ増加した。
コアジサシ Sterna albifrons の亜種 sinensis は東アジアからオーストラリアまでの長距離に断続的に繁殖分布しているが,mtDNAの解析から亜種内の集団間は地理的な距離等に応じて遺伝的な交流があり,遺伝的な関係は非常に近いことがわかっている.しかし,タイ・Khao Sam Roi Yot 国立公園周辺に分布する集団には,sinensisの他個体とは遺伝的に全く異なっている個体(系統群Xとする)が同所的に見られることがわかった.系統群Xの由来を調べるため,近縁種を用いて系統解析を行った結果,系統群X はヨーロッパに分布する亜種 albifrons と同じクレードに含まれ,両者の遺伝的な違いが小さいことが分かった.系統群Xの個体は,タイ国内で調査を行った5つのコロニーのうち3つで見つかっており,sinensis 系統群の個体との間に明らかな形態の差異は認められなかった上,sinensis 系統群に属する個体とつがいを形成していた.
このように形態に明らかな差異が認められないグループ内に albifrons 系統群に属する系統群Xを持つ個体が現れた背景には2つの可能性が考えられる.1つは,亜種 albiforns から亜種 sinensis への長距離分散および亜種間交雑による遺伝子浸透の可能性で,亜種 albifrons がアフリカ東岸からインド洋周辺で越冬していることから可能性は低くない.もう1つは,不十分な系統選別によって古い系統が集団内に遺存している可能性だが, sinensis 系統群とalbifrons 系統群の分岐が比較的深い(Cyt b 領域で平均2.5 %)ことからも,前者の可能性がより高いように思われる.現在の所、亜種 sinensis と亜種 albifrons の地理的な近縁にはペルシャ湾岸に分布する亜種 innominata, インド洋沿岸からスマトラ島・ジャワ島に分布する亜種 pusilla が存在し,これらと亜種 sinensis, albifrons の分子系統学的な関係がわかっていないこと,インド洋周辺で越冬している亜種 albifronsと系統群Xとの遺伝的な関係が不明なことなどから,遺伝子浸透の具体的な過程の解明は今後の課題である。
発表では以上の結果と合わせて, S. a. albifrons の形態に関する情報ももとに, 亜種sinensisとの間で同じクレードに属するハプロタイプの共有が生じた背景について考察したうえで,研究の今後の展望について議論する.
高い分散能力を持つオオタカにおいて、ミトコンドリアDNAの制御領域を用いて東日本及び中央アジアの個体群の遺伝構造とpopulation historyの解析、また北米個体群との大陸間比較を行った。北米個体群のハプロタイプ及びその配列は、本研究と同じ領域を用いた先行研究のものを使用した。
6つのハプロタイプが発見され、主要なハプロタイプは東日本と中央アジアの各個体群で共通していた。また、東日本と中央アジア個体群間には遺伝的な違いが見られた。
Population expansionが東日本と中央アジアの両個体群で検出され、中央アジアでは約2万5千年前、東日本では約8千年前にexpansionが起こったと推定された。日本での推定年代は、オオタカにとって好適な植生が北進し始めた時期と一致している。また、東日本個体群は中央アジア個体群から派生した可能性がある。
東日本/中央アジア個体群で見られたハプロタイプは北米個体群のものと完全に異なっており、北米個体群とは約27万年前に分岐したと推定された。推定された分岐年代の頃には、ベーリング海峡は開いており、分岐後の大陸間のmigrationはまれであったと考えられる。また、東日本/中央アジア個体群でのハプロタイプの分化開始は北米個体群よりも遅く、大陸間での環境変化の違い、あるいは東日本/中央アジア個体群がボトルネック効果を受けたことに起因しているかもしれない。
生息地の地理的分布は,個体群動態に大きな影響を与える場合があるため,生息地の分布と遺伝的構造の関係を調べることは,生物種の保全管理を考える上で重要である.鳥類におけるこのような生息地の遺伝的構造の研究は,これまで主に繁殖地で行なわれてきた.多くの鳥類が繁殖地でつがいを形成し,また、雌雄のどちらかが偏ったnatal philopatry(生まれた場所に戻って繁殖する性質)をもつことによって遺伝子流動が起きることが知られているからである.しかし一方で,ガン類のように越冬地や中継地でもつがい形成する渡り鳥では,繁殖地以外の生息地の分布が遺伝的構造に強い影響を与える可能性がある.しかし,これらの種で越冬地や中継地に焦点をあてた遺伝的構造の研究はあまりされてこなかった.
東アジアで越冬するマガン個体群は,シベリアで繁殖している.そのうち,日本で越冬するマガン個体群の渡り経路は,北海道の中継地を経由してカムチャツカ半島に渡るルート,そして本州から日本海を越えて大陸に渡るルートなど複数確認されている.韓国で越冬する個体群は大陸を伝って渡ると考えられている.越冬地や中継地と遺伝的構造の関係を知ることは,近年日本や韓国で増加傾向を示しているマガン個体群の保全管理策を考える上でも重要な手がかりとなるだろう.そこで本研究では,越冬地と中継地におけるマガンの遺伝的構造を解明することを目的とする.
日本と韓国のマガン個体群の越冬地18カ所および日本国内の中継地2カ所で採食場所に脱落した羽毛を採取した.マイクロサテライト9遺伝子座について遺伝子型を決定した.個体群の遺伝的構造の解析には,STRUCTUREver.2.2を用い,各個体が推定集団(クラスター)に由来する確率を調べた.
昨年の発表では,日本の越冬地9カ所と中継地1カ所の7遺伝子座における解析の結果,個体群間に遺伝子多様性の差はほとんどなく,比較的均質な遺伝的構造を示した.その原因として,各越冬地を独立に扱った解析方法がこのような遺伝的構造の解析に向いていないことが考えられた.そこで今回は,マガン個体群内の隠れた遺伝的構造を検出するため,全てのサンプルを任意の推定集団に帰属させるアサインメントテストを用いた.この解析には多くのサンプルが必要であるため,前回よりも各生息地につき10〜20サンプル増やした.発表ではこの解析結果について議論する.
北海道東部に生息するタンチョウGrus japonensisは,1900年代初頭に絶滅の危機に瀕したが,給餌等の保護活動により2008年1月には1,200羽(タンチョウ保護研究グループ調べ)を超えるまで個体数が回復した。しかし,個体数の増加にともない,事故死亡率の増加,繁殖地や越冬地における環境収容力の限界,越冬期における給餌場での過密化,農業被害など,さまざまな問題が生じている。したがって,北海道のタンチョウ個体群を保全する上で,将来における個体群の変化を予測することが重要となる。
過去の個体群存続性分析(Masatomi et al. 2007)では,齢段階行列,繁殖率の変化,事故死亡率,環境収容力,およびカタストロフィの発生率・死亡率を用い,いくつかの条件下でシミュレーションを試行回数10,000回,期間100年で行った。その結果,繁殖率だけが大きく減少しても,個体群サイズに大きな影響はなく,100年間での絶滅確率は0であった。また,環境収容力の限界とカタストロフィの発生が単体で起きた場合にも,100年間での絶滅確率が0であったが、事故死亡率が増加した場合は,個体群サイズが大きく減少し,絶滅確率が発生した。したがって,短期間で北海道のタンチョウが絶滅する可能性は低く,存続可能であるが,長期的には絶滅リスクが存在すると考えられた。
本研究では,齢段階行列は,最新の冬期間の個体数調査と,標識個体の追跡調査データを追加して作成した。過去の研究と同様に,将来の個体群に影響を与えると考えられる要因として,繁殖率の変化,事故死亡率の増加,環境収容力およびカタストロフィを考慮した。なお,事故死亡率の増加については,釧路市動物園に収集された死体,あるいは重傷を負ったツルの昨年度までの個体数から概算した。
過去の研究と同様,いくつかの条件下でシミュレーションを試行回数10,000回,期間100年で行い、最新のデータを追加した本研究と過去の研究結果との比較・検討を行う。これにより,タンチョウの絶滅リスクがどのように変化したかを明らかにし,今後のタンチョウ保全の課題について議論する。
Yoshiyuki Masatomi, Seigo Higashi and Hiroyuki Masatomi(2007) A simple population viability analysis of Tancho (Grus japonensis) in southeastern Hokkaido, Japan. Population Ecology, 49:297-304.
■ マガンの越冬個体が激増している。すでにその最大の越冬地の宮城県では、地域への過重な負荷、集団感染等による被害が危惧され、その分散化が大きな課題となっている。
その対策の一環として、ガン類の渡来空白域である太平洋側の利根川下流域に、ガン・ハクチョウを主体にした越冬拠点を復元する計画をたて、そのための調査を行いつつある。
■ 利根川下流域は江戸末期まで、ガン・ハクチョウ類、コウノトリ、タンチョウ、トキなど大型水鳥達にとって、温暖で餌も豊富な、安全な越冬適地であった。
ガン類は、昭和30年代まではマガンやヒシクイの日本で最大級の越冬地で、そのことを示す多くの記録が残されている。
明治以降、利根川下流域でも大型水鳥は、湿地の干拓と銃猟の影響を受け、現在では定期的な渡来は途絶えてしまったが、その復元を目指す。希少種のサカツラガンやハクガン、亜種シジュウガラガンなどにとっても、かっては日本での主な越冬地であった。
■ 越冬地復元の方法論
今後100年間を見すえ、宮城県の伊豆沼、蕪栗沼等、各地で成果が報告されている水鳥と共生した「ふゆみずたんぼによる米作」等の導入により、田んぼを介した湿地の生態系の回復と、環境を再生し、将来はラムサール条約湿地をも目指す。
1 越冬地復元には、まずハクチョウ群、次いでガン類のねぐらの再生が必要となる。利根川下流域の候補地は、茨城県菅生沼、利根町、千葉県印旛郡栄町、印旛郡本埜村、東庄町(夏目堰)の湖沼と水田である。
「ふゆみずたんぼによる米作農家の方々」のご協力を頂いて、ふゆみずたんぼを用いたねぐらのネットワークを形成していく計画である。
現在、この地域ではハクチョウ類(主にコハクチョウ)が、過去5年で1,400羽以上飛来し、亜種ヒシクイ、カリガネ、亜種シジュウガラガン、マガンなども近年渡来している。
特に中核地点として、印旛郡栄町の5haのふゆみずたんぼは、将来20ha以上に拡大が可能で、落ち穂等餌が多く、餌付けから自立したハクチョウが、多数渡来し、また同水田に近い印旛沼周辺の随所に出現している。
2 さらに周辺の休耕田、耕作放棄された水田等を集約し、コウノトリやトキも生息できる、ねぐらと大量の餌が確保できる「田んぼ」湿地の復元をめざす。
■ 「利根川下流域に水鳥の越冬地を復元する」調査のための会への参加者を募集する。
【背景・目的】
地球温暖化対策のための持続可能な自然エネルギーとして,近年,国内でも風力発電施設の設置が推進されている。一方で,風力発電施設の数が増加するに従い,風車に野鳥が衝突する事故(バードストライク,以後BS)が報告されるようになってきた。北海道では,オジロワシなどの希少な猛禽類の衝突事故も報告されている。これらの種では,わずかな死亡率の上昇が個体群に大きな影響を与えてしまう。自然エネルギーの活用は確かに地球温暖化対策になるが,それによって生物がすみかを追われるようになるならば,それは生物多様性の観点からは新たな環境問題と言える。自然エネルギーの活用を進めながら,生態系への影響を最小限に抑える方法を模索することこそが今後必要となってくると考えられている。
本研究は,今後ますます増えると予想される風力発電施設建設の際の指針となるような北海道沿岸線のアボイドマップを作成するために,死体探索などによる推定衝突数の算出や施設内の定点観測調査からBSの発生要因を立地条件・気象条件といった側面から解明する。
【方法】
調査場所は北海道・苫前町にある風力発電施設(全42基,総発電量52.8MW)とした。
1)年間推定衝突数の算出:毎月2回の定期的な死体探索と,その際生じてしまうバイアスの補正(死体残留率と発見効率の算出)を行い,年間推定衝突数を算出する。
2)風力発電施設内の定点観測:定点観測スポットを施設内に五箇所設定し,風車周辺の鳥類の利用状況・飛翔特性,その時の風車までの距離と高さ,天候・風速などを記録した。
【結果および考察】
2007年7月〜2008年6月の期間に,死体探索調査では施設内の風車付近にて,オジロワシ3羽を含む45羽の衝突による被害と考えられる個体(食痕のみを含む)が確認できた。風車が建設されている立地ごとに被害数を比較したところ,「切り立った崖上に建設された風車列」が最も被害数(number/turbine)が多く,被害数が少なかった「海岸線から離れた(>3km)風車列」の約4倍の被害数となった。今後は死体残留率や発見効率の算出などを行い,年間推定衝突数を算出する。
定点調査では,冬季の風が強い日(風速 >10km/h)に海岸線沿いの風車列付近でオジロワシ・オオワシの飛翔が多数観測された。また, Risk Index(被害数を観測頻度で割ったもの)は,オジロワシが猛禽類の中で最も高く,オジロワシがBSの被害に遭い易い種である事が示唆された。
*なお,この研究は北海道新聞の野生動物保護基金の補助を受け行った。
コアジサシは環境省のレッドデータリストにおいて絶滅危惧II類に指定されている渡り鳥である.河川の中洲・河原や,海岸の砂浜のような裸地に集団で営巣するが,これらの沿岸地域は工業開発や人間のレクリエーションの場としての需要が高く,1970年代以降,コアジサシが利用可能な自然の営巣地は激減している.このような背景を受け,全国各地で個人や環境保護団体によって,営巣状況のモニタリングや保全活動が行われており,NPO法人リトルターン・プロジェクト(以下,LTP)もそうした団体の一つである.
LTPでは,2001年より行政と協働で,東京都下水道局森ヶ崎水再生センター屋上に人工的な営巣環境の整備を行ってきた.これまでに,営巣地の拡大,営巣地の基質の改善,ネコ・カラス類・チョウゲンボウなどの捕食者対策,雑草対策,デコイや音声による誘致など,様々な試みを行ってきた.また整備と併せ,営巣環境改善のために生態や繁殖に関する調査を行っており,その結果は次年度の整備に生かされている.営巣環境の向上により,2004年度を除いて毎年,巣立ち雛が確認されている.2003年には最大の推定1,600羽の巣立ち雛を記録した.
2001年度にもLTPの活動を本学会にて紹介したが,本発表では,その後の活動の経緯や営巣状況について報告するとともに,捕食者対策や雑草対策などの今後の課題について述べる.また今後は,保全活動に携っている個人や環境保護団体と連携し情報交換を行い,全国の生息・繁殖情報を集積・活用していきたいと考えている.
特別天然記念物に指定されている、ナベヅル越冬地である山口県周南市八代地区では、近年、ナベヅルの越冬数が激減し、越冬地の消失が危ぶまれている。八代地区における冬季湛水田は、住民主体の新たな保護の取り組みとして、八代地区内の農事法人が中心となって2006年度より実施されているものである。
冬季湛水田の導入の背景には、兵庫県豊岡市の取り組みが大きく影響している。コウノトリの放鳥やブランド米戦略を柱とした米作りの成功は、同じ農業地域である八代に「豊岡ショック」ともいえる衝撃を与え、早期の導入につながった。しかし、導入初年度には、冬季湛水田でのツルの利用がほとんどなく、2007年度の冬季湛水田の実施については、賛成・反対両派に分かれ議論が重ねられ、八代方式の冬季湛水方法の模索という形で実施されることとなった。
本研究では、ナベヅルの餌場環境としての冬季湛水田設置の有効性について、冬季湛水田とそれ以外の水田と比較することにより考察をおこなう。その結果をもとに、冬季湛水田の設置面積の増減を含め、今後の冬季の水田管理について助言していくためのベース作りを目的としている。
調査は、2007年度の10月から3月の越冬期間中に、各月5日間、ナベヅルが塒から餌場へ移動後、夕方塒へ帰るまで、八代地区で越冬するナベヅル全羽(2家族7羽)を対象に15分おきに各個体の利用場所、行動を記録した。なお本研究の調査結果には、給仕箇所での行動を含めていない。
家族群ごとの冬季湛水田の利用状況を見ると、A家族では、冬季湛水田の利用は全体の7.3%であった。行動の内訳は、採餌が54%、警戒が23%であった。C家族では、冬季湛水田の利用は、12.3%、行動は採餌73.1%、警戒13.0%とA家族に比べ採餌が占める割合が多かった。
それぞれが利用した冬季湛水田には、実施1年目の不耕起湛水田(A家族利用)、実施2年目の耕起湛水田(C家族利用)といった違いがあり、これがA,C両家族の採餌比率の違いに影響するのか、今後も考察を進めていきたい。また越冬環境管理における冬季湛水田設置の有効性についても、他の水田の利用状況を含めさらに考察していく必要がある。
目的
2008年7月3,4日ITU開発部門課題14(遠隔医療)ラポーターズ会議(ITU-D SG-2 Q14)が、60名以上の専門家(16ケ国)東京の国際文化会館で総務省の主催で取り持たれた。 この会合で「鳥インフルエンザのための統合情報通信ネットワーク(通称、鳥インフルエンザ東京宣言)」が論議され、幾多の修正を経て宣言として採択された。本稿は、会場で論議された内容を踏まえ、背景、期待される技術開発を紹介する。
背景
鳥インフルエンザは、太古から鳥、動物、人と感染し、時として広範に伝播して来たと推測される。 鳥インフルエンザの遺伝子は、突然変異の速度が速く、そのため抗原に対する抗体や有効なワクチンが敏速に対応できないという予防対策上での課題がある。 SARSの死亡率が、感染者の4%であったのに対して、鳥インフルエンザは、途上国で50%、先進国でも10%と予測する研究者もいる。 疫学的な監視が不可欠であるにも係わらず、過去においてリアルタイムで鳥インフルエンザが国際的な規模でモニタされたことはない。 おそらく組織的にはWHOが行うような業務であうが、新たな技術開発を伴い、周波数調整や技術の標準化は、WHOではなく、ITUが担当する主たる業務で、相互の協力が不可欠である。
何を目指すのか?
これまで鳥の渡りは、足環、首輪にIDを添付することにより、鳥類の研究者、愛鳥家により離散的な情報として得られてきた。 401MHzの発信機を取り付け、低軌道衛星で得られるドップラーシフトを最小二乗法により測位を行うアルゴスシステムが用いられて来たが、機材の重量、電池の寿命など、適応は中・大型の鳥類に限られて来た。 また渡りの経路が判明しても、歳年で変化する飛来時期や鳥相(どの種類の群れが相互にどのように関係しているのか)など、詳細はほとんど把握されていない。
未発症のキャリアー鳥とキャリアーから罹患する発症鳥が存在することが判明しており、どのような経路で、どのような鳥相、それぞれのグループ間トポロジーは、感染経路ルートの科学的な分析に重要な要素と考えている。 現状は、キャリアーがまだ特定されていないことと、鳥の相関は不明のままで、発症した結果しか見ていない、つまり、予防のための前方予測が古典的疫学統計システムでは確立されていない。 ここに情報通信技術を駆使した新たなシステム開発を期待するもので、具体的には、G/Tの大きなデータ収集衛星、アクティブRFID、およびパッシブRFID、統合的な地理情報システムの開発を求める。
ラインセンサスは、簡便で、応用範囲が広く、調査効率が良いなどの理由で、鳥類の生息状況を把握する上で、国内では広く用いられている調査法である。ラインセンサスについての研究は、森林性鳥類に関するものが多く、5〜6回の調査でその地域に生息する種がほぼ網羅できると言われている。しかし草原性鳥類を対象にした研究はあまり多くない。そこで草原性鳥類を対象に、ラインセンサスで確認できる種や種数と調査回数の関係について検討した。
調査は釧路湿原温根内地区にある2kmの木道を使って、繁殖期の4月下旬から7月中旬に、繰り返し22回実施した。木道周辺はヨシ原、ハンノキ林、高層湿原などが入り混じる環境である。
調査の結果、全体で38種を確認した。2回調査を実施することを想定して、22回の調査結果から2回分の結果を抜き出し、合計231通りの組合せを作成した。この結果2回の調査では、8〜18種(平均±標準偏差:12.9±1.8種)が確認されたことになり、全体の21〜47%が確認されたことになった。同様に5回調査を行った想定で26,334通りの組合せを作成したところ、確認種数は12〜27種(19.6±2.1種)に増加したが、全体の32〜71%が確認されたにすぎなかった。
出現率が10%未満の種は23種にのぼり、これらの種は10回調査を行っても確認できる回数は1回未満であると考えられ、釧路湿原温根内地区では、ラインセンサスで確認しにくい種が比較的多いと考えられる。一方、出現率が20%以上であった種はノゴマ、ノビタキ、ウグイス、シマセンニュウ、コヨシキリ、センダイムシクイ、アオジ、オオジュリン、ベニマシコ、ハシボソガラス、ハシブトガラスの11種で、このうちハシボソガラスとハシブトガラスを除く9種の出現率は40〜100%と高かった。出現率が20%以上の種は5回の調査でほぼ確認することができると考えられ、出現率が高かった9種については、湿原や草原を対象とした1〜3回のラインセンサスでも確認しやすい主要な種であると考えられた。
かつて里山は農用林や薪炭林として利用されていたが,近年管理を放棄された林が増加し,生物多様性の低下が問題となってきている.特にコナラを主体とした林地では,タケ類などの侵入に伴い,森林構造が単純化し,鳥類に影響を及ぼしていることが報告されている.今後,鳥類の保全を考慮した植生管理の在り方を検討するためには,鳥類と植生との関係を明らかにしていく必要がある.鳥類は特定の植物や森林の構造を食餌や営巣場所として利用していることが考えられるが,植生と鳥類の関係については,異なった地域間での比較など,植生をマクロなスケールで捉えることが多い.そこで,本研究ではコナラを主体とする里山環境において群落や階層構造の異なる林分で調査を行い,従来よりミクロなスケールで植生と鳥類との対応関係を明らかにすることを目的とした.
調査地は,市街地に隣接する岡山県岡山市岡山大学農学部演習林(半田山)で,面積約67.6haの二次林である.
調査は,2007年5月から8月にかけて午前5時から午前10時の間で行なった.鳥類調査では調査地全域から半径20mプロットを任意に143地点選び,調査地点に出現した鳥の種名・個体数・行動(採餌,移動,休息など)を記録した.また,各プロット内の植生をBraun-Blanquet法(1964)に従って調査し,群落区分した.
植生は全143調査地点の内,コナラ群落61地点(42%),常緑広葉樹群落44地点(31%),アカマツ群落14地点(10%),ヒノキ群落14地点(10%),ギャップ10地点(7%)に区分された.鳥類は15科25種が観察された.群落により鳥類の個体数・種数は異なり,特にギャップで多い傾向がみられた.鳥類の行動をみると,ギャップでは採餌行動が多く,コナラ群落では休息行動が多いなど,群落により鳥類の行動様式に違いがみられた.
以上の結果から,森林性鳥類は採餌や休息などの行動において,植生を使い分けていることが示唆された.調査地のギャップにはハリエンジュが多く,6月の開花とともに,訪花昆虫が多く観察されたため,それが鳥類の採餌個体の増加に寄与したと考えられる.今後,鳥類と植生との関係を明らかにしていくためには,より詳細なスケールで議論していく必要がある.また,開花や結実など植物のフェノロジーと鳥類の関係についても明らかにしていくことが必要である.
はじめに
日本の森林は,第二次世界大戦直後から1970年代にかけて強度に伐採されたが,近年は伐採が行なわれなくなり,遷移が進行して現在成熟期を迎えている。鳥類と哺乳類は,種によって選好する遷移段階が異なることが知られる。そのため,日本の森林の成熟は,日本の森林性鳥類・哺乳類の分布を変化させていると考えられる。より具体的には,遷移初期段階を選好する種(遷移初期種)は減少し,成熟林を選好する種(成熟林種)は増加していると予測される。さらに,鳥類に関しては,国外へ渡りを行ない,主に東南アジアで越冬する成熟林種は,東南アジアでの森林伐採によって減少しているとも予測することができる。本研究は,環境省の自然環境保全基礎調査のデータを用い,この予測を鳥類と中・大型哺乳類に対して検証する。
方法
1978年と2000年に行なわれた環境省の自然環境保全基礎調査のデータを用いた。Living planet index(Loh et al. 2005. Phil Trans R Soc B 360:289-295)を用い,類似の生態的特性を備えた種群の確認メッシュ数の変化を調査した。
結果
鳥類では,遷移初期種はメッシュ数を減少させていた。成熟林種のうち,国外へ渡りを行わない留鳥・漂鳥はメッシュ数を増加させていた。一方で,国外へ渡りを行なう成熟林種はメッシュ数を減少させていた。
哺乳類はほとんどの種でメッシュ数を増加させており,遷移初期種および成熟林種ともにメッシュ数を増加させていた。
議論
日本の森林の成熟は,遷移初期種を減少させ,成熟林種を増加させるという予測は,鳥類に対して支持されたが,哺乳類に対して支持されなかった。鳥類では,国外へ渡りを行なう成熟林種が減少するという予測が支持された。したがって,渡りを行なう種では,越冬地での土地利用の変化が繁殖地での分布を変化させうると考えられた。哺乳類で遷移初期種が減少していなかったのは,森林の成熟よりも狩猟の減少などの他の要因の方が分布域の決定要因として重要なためと考えられた。したがって,土地利用の変化は生物多様性の変化を国土スケールでもたらしうるが,分類群によってその変化は異なるだろう。
近年、国内に生息する森林性や草原性の鳥類(以下、陸生鳥類と呼ぶ)の一部の種が著しく減少していることが指摘されている。環境省(2004)は1970年代後半と2000年前後の全国的な鳥類の繁殖分布を年代間で比較して、林縁・草原性の一部の種の分布域が著しく縮小したことを明らかにした。また、森下・樋口(1999)は文献情報から十数種の森林性の夏鳥が全国的に減少していることを報告した。一方、長期的な観察事例等から、栃木県宇都宮市(平野1996)や山口県(山本・脊戸1997)で夏鳥の一部の種が減少していることが報告されている。こうした種の減少の原因が、個々の調査地の生息環境の変化によるものか、あるいは夏鳥の越冬地の環境変化や温暖化の影響など他の要因によるものかは、個別の調査地の環境の変化の有無について検討しないと明らかにできない。しかし、鳥類相と環境の変化の双方が長期にわたって記録されている地域は少ない。
四国南西部の四万十川流域においては1980年代半ばに数十地点で鳥類生息調査が実施されている。この地域については森林GISが整備されていて、1980年代以降、森林面積や人工林率はほぼ横ばいで、森林環境は安定している。そこで、2003年から2004年にかけて、1980年代の調査地点と同じ場所で繁殖期の鳥類調査を実施して、年代間で比較することにより、陸生鳥類群集の変化について検討した。
調査は3kmのラインセンサスを繁殖期に2回繰り返して実施した。四万十川流域における1980年代の調査箇所のうち、標高500m以下で、コース周辺の環境の大半が森林・草地で占められる10箇所を抽出して、年代間の比較の対象とし、1980年代と2000年代との間で鳥類の種ごとの出現箇所数、一箇所当たりの出現個体数を比較した。
その結果、夏鳥ではササゴイ、サシバ、ホトトギス、サンショウクイ、サンコウチョウの、留鳥ではキジ、モズの出現箇所数が減少していた。一方、夏鳥ではヤブサメ、オオルリで、留鳥ではアオゲラ、コゲラ、ヒヨドリ、カワガラス、ヤマガラ、シジュウカラ、メジロ、カワラヒワで出現箇所数もしくは出現個体数の増加が見られた。これらの結果から、夏鳥では減少した種が多いことが明らかになったが、減少した種には共通した採餌特性や営巣特性などは見られないと考えられた。
本発表の目的は、熱帯湿潤気候に属するインドネシア西ジャワ地方の山間農村において、樹園地を利用する鳥類の季節性を検討することである。
発表者はこれまでの研究で、水田における農事の変化と周囲環境との組み合わせが、鳥類の生息地を創出していることを明らかにした。本研究の対象地域では、水田や焼畑地と共に、樹園地(Tree garden)は村の主要な土地利用の一つである。樹園地には、ヤシ類、果樹、用材樹種、バナナやコーヒーなどの多年生作物や一年生作物が植えられ、住民の暮らしに密接した様々な役割を担っている。樹園地では、水田のように農事の変化が明確ではないため、雨期や乾期といった季節の変化が、鳥類の生息状況に影響している可能性がある。本研究では、樹園地が鳥類の生息地として果たす機能と、他の農事との関係を明らかにするため、樹園地を利用する鳥類の季節性を調べた。
調査は、インドネシア、西ジャワ州グヌン・ハリムン−サラック国立公園に隣接するPA村とCP村で行った。PA村ではコメの二期作と畑作が中心に行われ、村内は水田と草地の割合が多い。CP村ではコメの一期作と焼畑耕作が中心に行われ、村内は水田と樹園地の割合が多い。2006年の1〜3月(雨期)と、6〜8月(乾期)に各村数カ所の樹園地でプロットセンサスを行い、確認された鳥類の種と行動、利用植生を記録した。プロット内の植生構造も記録した。
PA村では、雨期と乾期に記録された鳥類の種構成に顕著な違いがみられなかったが、CP村では乾期より雨期に多くの種が記録された。PA村では、樹園地の植生と周囲の土地利用が鳥類の利用に影響していた。周囲の水田で採餌を行う穀食者が、休息場所やねぐらとして樹園地を利用していた。CP村では、樹冠や下層植生で採餌を行う花蜜食者と雑食者が雨期に記録された。両村で渡り鳥が確認され、PA村の孤立した樹園地も利用されていた。
両村の比較の結果、一年を通して餌資源が安定している昆虫食の種は、一年を通して樹園地で確認された。一方で、花蜜や果実といった季節に左右される資源を利用していた花蜜食や雑食の種は、季節の変化に伴って村内を移動しているようだった。したがって、樹園地の樹種構成が多様で、樹園地の配置に連続性がみられる場合には、樹園地を利用する鳥類に季節性が見られた。
鳥類は種類が多く分類基盤が整っていること、群集調査が比較的容易なことなどから環境指標生物としての期待が大きく、実際に多くの環境モニタリング調査の対象とされている。一方、日本の森林性鳥類に長中期的に影響を与える要因としては、地球温暖化や夏鳥の越冬地である熱帯林の破壊、日本国内での森林断片化や外来種の蔓延など様々であり、モニタリングで得られた鳥類群集の変化を環境指標として今後有効に利用していくためには、各種の要因による鳥類群集変化の知見を理論的、実証的に積み重ねていく必要がある。
北茨城の小川学術参考保護林は約100haの成熟した落葉広葉樹林であり、植物群落動態を始めとして各種の生態調査が行われてきている。繁殖鳥類としては、ジュウカラ、コガラ、キビタキ、ヒガラ、ヤマガラ、サンショウクイなどが優占し、この地域の鳥類多様性を代表する森林であるといえる。小川は環境省事業の“モニタリングサイト1000”のコアサイトとしても選定されており、今後鳥類相も含めた長期的モニタリングが行われていく予定となっている。ここでは今後の長期的モニタリングに先立ち、1994年から2008年までの15年間の小川の繁殖鳥類群集データをまとめる。
調査はライントランセクト法で行い、林内に1kmのセンサスコースを設定し、両側50m以内に出現した鳥をカウントした。毎年4月15日から5月14日の間の3-5日の早朝に1往復、計6-10回の調査を行った。15年間で52種が記録されたが、うち43種が調査地周辺で繁殖すると考えられた。講演では、この期間の繁殖鳥類群集の変遷を示し、今後のモニタリングにおける参考としたい。
東京湾では,干潟に生息する鳥類に関して鳥類相の報告が多い.これらの報告に基づきシギ・チドリ類やカモ類の重要渡来地として東京湾の干潟は認識され,谷津干潟などの干潟はラムサール条約の登録湿地となった.干潟に比べ海上の鳥類の報告は少なく,水鳥類の重要渡来地としての認識は低い.ラムサール条約の登録湿地である谷津干潟とその周辺の海域の鳥類相は大きく異なるのであろうか? 観察期間での変遷はあったのであろうか? 演者らは,1970年代から東京湾で水鳥類の観察を行なってきた.月2-3回程度,海岸から約1km沖の鳥類を計数する調査である.今回,東京湾奥部の海岸,主に習志野市茜浜における鳥類相について報告したい.
習志野市茜浜では,ミズナギドリ類,カワウ,カイツブリ類,カモ類,アジサシ類の個体数が多かった.ただし,年間に記録された最多個体数は年により大きく変動した.最もカモ類の個体数が多く,中でもスズガモとホシハジロの2種が多かった.カモ類の個体数変動は狩猟期間や銃猟禁止区域の変遷と関連があった.1986年 2月25日−3月12日にかけ約30,000羽のスズガモ,2000年1月21日に約20,000羽のホシハジロが記録されたが,個体数は減少傾向にあった.
ミズナギドリ類ではハシボソミズナギドリ,オオミズナギドリ,ハイイロミズナギドリ,オナガミズナギドリなどが確認され,ハシボソミズナギドリが最も多かった.ハシボソミズナギドリの観察個体数や保護数,漂着数は,5月に最も多くなり6月上旬ころまで記録された.本種の記録個体数は,2008年に最も多く,次いで2006年に多かった.2006年は強風の後,ハシボソミズナギドリが漂着や迷行した.2008年5月18日に船橋市沖三番瀬で,約24,000羽が記録され,その後観察個体数は減少したが,保護数,漂着数は逆に増加した.
カイツブリ類も多く,3,000羽以上のカンムリカイツブリ,1,000羽以上のハジロカイツブリが記録された.カワウも2,000羽以上が記録された.ただし,千葉県の外房海岸では普通に越冬するアビ類は,ほとんど記録されなかった.アジサシも多く,2006年9月21日には約13,598羽が記録された.
これら水鳥類の個体数が多いことが干潟の鳥類相との大きな違いであった.谷津干潟だけではなく,三番瀬,習志野市茜浜,千葉市美浜区幕張地先の海上および隣接した埋立地は水鳥にとって重要な湿地であることが示された.この重要な湿地の一部はまだ,銃猟禁止区域などの保護区となっていない.早急な水鳥類への保護対策が必要である.
1.はじめに
動物による種子散布は、自ら動くことのできない植物の繁殖戦略において重要な役割を果たしている。それゆえ、種子散布動物と植物の間には相互作用が働いているものと考えられる。本研究で扱ったヤマガラはエゴノキ属2種(エゴノキ、コハクウンボク)の種子を捕食・散布していることが知られている。この2種の果実には形態的な差異がみられ、コハクウンボクの果実の果皮はエゴノキに比べて厚く、また種子サイズも大きいことが分かっている。本研究では、ヤマガラ果実の持ち去り行動が果実の形態的差異によってどのような影響を受けているのかを明らかにする。
2.方法
調査は名大附属稲武演習林(愛知県北東部)で行った。ヤマガラが両樹種における樹上の果実の減少過程におよぼす影響を調べるために、自然状態の対照枝と鳥獣が果実を利用できないようにした鳥獣排除枝を設置し、両処理枝において樹上に付着している果実数、樹上から落下した果実数、樹上から消失した果実数を計数した。また、両樹種の樹上へのヤマガラの来訪頻度、樹上での採食行動を明らかにするために、計40時間に渡ってヤマガラの行動を観察した。さらに、ヤマガラによる持ち去りが果実の形態の影響を受けているのかを確かめるために、両樹種の果皮が付着したままの果実と果皮を除去した種子を様々な組み合わせでヤマガラに供試する操作実験を行った。
3.結果と考察
ヤマガラによる果実の持ち去りが樹上の果実の減少過程におよぼす影響(消失果実の割合)はエゴノキでは26.6%、コハクウンボクでは84.8%と、コハクウンボクのほうが大きいことがわかった。また、ヤマガラの採食行動の観察から、両樹種におけるヤマガラの来訪頻度にほとんど違いはないことがわかった。ただし、樹上に飛来したヤマガラが果実を樹上から落とす行動はエゴノキでのみ観察された。操作実験では、ヤマガラはエゴノキの果実よりもコハクウンボクの果実のほうを有意に多く持ち去ったのに対して、種子で比較すると両種の持ち去り数に有意な差はみられなかった。さらに、エゴノキで果実と種子の持ち去り数を比較すると、種子のほうを有意に多く持ち去った。これらの結果はヤマガラが果皮の厚いエゴノキ果実よりも果皮の薄いコハクウンボク果実のほうを選好することを示唆している。つまり、ヤマガラは種子を摘出しやすい果実を選択的に持ち去っているものと思われる。
植物の種子散布には鳥類が大きく関わっている。植物体の大きさや果実の大きさによっては、特定の鳥種が種子を散布していたり、多くの鳥種が種子を散布していたりするであろう。一方、鳥の採食場所や口角の大きさによっては、特定の植物の種子を散布する鳥種もあれば、多くの植物種の種子を散布するものもあるであろう。このように植物種によって各鳥種への依存の程度は異なり、また鳥種によって種子散布者としての重要性が異なるものと考えられる。そこで、捕獲個体の糞を材料にして、鳥種ごとに散布する種子の植物種を調査した。
2008年1月〜2月に東京都心にある国立科学博物館附属自然教育園で、かすみ網を用いて鳥を捕獲し紙袋に入れた。約10分〜15分後、脱糞を確認したら測定・放鳥した。糞は実体顕微鏡下で分解し、内容物を記録した。
捕獲された鳥はヒヨドリ(25羽)、ツグミ(21)、メジロ(15)、シジュウカラ(7)シロハラ(5)、アオジ(4)、クロジ(4)、カワラヒワ(4)、アカハラ(3)、ウグイス(2)、ルリビタキ(1)、シメ(1)、キセキレイ(1)の13種であった。
糞から見出された種子はイイギリ(種子1,467個)、不明種A(14)、ネズミモチ(4)、エノキ(4)、アオキ(2)、クロガネモチ(2)、シュロ(1)、ヤマハギ(1)、ハゼノキ(1)であった。
イイギリはヒヨドリ、アカハラ、ツグミをはじめ8種の鳥に食べられており、種子散布者として特定の鳥種に依存してはいなかった。アオキ、シュロ、ハゼノキ、ヤマハギ、エノキ、クロガネモチはそれぞれ1種の鳥から発見された。特にエノキはメジロのみ4個体から見出された。試料数は少ないが、植物の生育場所や鳥の採食場所・口角の大きさなどから、植物種によっては特定の鳥種に種子散布を依存しているのかも知れない。
ヒヨドリからは5種、ツグミからは3種の植物種子が得られた。生息個体数も多く、1羽の糞に含まれる種子数も多かったので、この2種は種子散布者としての重要性が高いと考えられる。ウグイス、アオジはそれぞれ1種の種子しか見出されず、種子散布者としての役割は大きくないと考えられる。種子食と言われるカワラヒワ、クロジ、シメ、昆虫食と言われるシジュウカラ、キセキレイからは種子が得られず、これらの種は種子散布に関わっていない可能性が高い。
茶の湯には大型鳥類の美しい羽を使った羽箒が、主に清め道具として使われている。江戸時代のものも現存しており、当時から外国産鳥類の羽も使われている。
また、盆石では、主にハクチョウの様々な部位の羽が、砂で絵を描く際の筆代わりとして、用途に応じ、細かく使い分けられている。
私は現在、全国に現存する由緒ある羽箒を調査中だが、その中間報告を併せ、まずはこれら日本伝統の羽の利用法の存在や、羽についての日本人の美意識や経験知を鳥の研究者にも知って頂きたい。そして、その科学的研究方法や利用法をご教示頂けたらと思っている。