日本鳥学会2015年度大会自由集会報告:鳥好きのためのGIS入門(その3)

2015年10月12日
企画者 上野裕介(国土交通省国土技術政策総合研究所)
文責 上野裕介・吉井千晶・前田義志

3回目を迎えた「鳥好きのためのGIS入門」,今回も60名を超える方々に参加いただき,GIS(地理情報システム)に対する学会員の関心の高さが感じられた。

冒頭で企画者から,今回の趣旨説明と過去2回の自由集会の内容について,過去の演者のスライドも交えた紹介を行った。最初に,第1回の2013年度大会(名城大学)で扱った“GISを使った環境データの集計・加工”と“植生図や地形図などのデータ入手法”,2014年度大会(立教大学)で扱った“様々な空間解析法を用いた鳥類の生息適地推定”の概略について,GISに触れたことのない方々にも伝わりやすいよう丁寧に説明した。その上で今回は「GISを使った鳥類研究を一歩先へ!」と題し,“脱”入門を目指すべく,GISでの研究をより深く,豊かにする最新技術や活用法について各演者から発表した。集会風景.jpg


GISを使った希少鳥類の保全策

「動的分布モデルを用いたシマフクロウの分散と生息地の将来変化予測」
吉井千晶(北海道大学大学院・農学院/現(株)建設技術研究所)

演者は,第1回の鳥好きのためのGIS入門(2013年度大会)時には,GISに触れたことすらなかった「超初心者」であった。しかし講演を聞き,第2回時には,なんとか鳥類の生息適地推定を行うことが出来るようになり,初心者の立場からGISの面白さや難しさについて発表する機会を得た。

今大会では,昨年発表した鳥類の生息適地推定の“続き”として,研究を発展させ実際の保全に役立てるにはどのような方法があるのか,一例として希少鳥類の将来的な個体群分散と保全策の提示について話題提供をした。

講演では,まず生息適地推定によって得られた「生物の生息ポテンシャルマップ」が,現在その環境に生物が飽和しているという前提で描かれるものであり,分散前の希少種や外来生物にはその前提が当てはまらないことを説明した。そのうえで,その前提が当てはまらない生物種の生息ポテンシャルマップを得るためには,生物の分散のタイムラグを考慮した“動的分布モデル”が有用であることを説明し,シマフクロウの分散を材料として,動的分布モデルを用いた分散予測の紹介を行った。

演者は,本自由集会での経験や研究室の諸先輩方の協力もあって, 2年間で生息適地推定から成果の提示,希少種保護の実務への活用まで進むことができた。一般に,未経験者にはGISは難しいという印象を持たれがちだが,講演を通じて多くの人に「はじめてでもここまでできるんだ」という安心感や希望をもっていただけたのではないかと思う。今後,一人でも多くの方々にGISを利用した鳥類研究に取組んでいただき,研究の発展と鳥類の保全につながることを願っている。

GIS技術の基礎と最新動向
「GISとリモートセンシングの裏と表,お話しします」
前田義志((株)パスコ)

GISを使った鳥類研究を進めるために,詳細な植生図や地形図を作成する上で不可欠ながら馴染みの薄いリモートセンシング(衛星・航空測量)技術の基礎と最新動向について話題提供した。

講演では,リモートセンシングとはどういうもので,どんな技術を用い,どのように測っているのかについて,リモートセンシングの基礎的な内容と,身の回りにあるリモートセンシング技術の活用例(天気予報など)を簡単に説明した。特に,リモートセンシングで得られるマルチスペクトル写真を例に,光学的に波長を分けてデータを取得することの利点を解説し,実際の利用例として地図や植生図の作成における簡易な植生判読や土地利用区分データの自作手法について紹介した。

あわせてリモートセンシングの最新動向として,衛星光学写真の高解像度化が進んでいることや,衛星からのマイクロ波や航空機からの地上レーザー,水中レーザーを用いた地上と水中地形の計測技術,これらのデータの入手法等を紹介するとともに,準天頂衛星やドローンなどの導入による更なる精度向上の可能性について言及した。

今後,リモートセンシングで得られるデータやGISを活用することにより,鳥類研究における解析精度の向上や保全技術の向上,訴求性の高いビジュアル資料の作成など,研究や実務の発展につながることを願っている。
講演写真.jpg


GISと“鳥の目”で世界を測る

「UAV(ドローン)を用いた空撮・3次元環境測量の紹介と鳥類学研究への応用」
上野裕介(国土交通省・国土技術政策総合研究所)

近年の急速な小型UAV(ドローン)の進歩と普及は,研究や実務の現場を変えつつある。国内では特に防災分野での導入が進んでいる一方で,環境分野での活用は,まだまだ手探り状態にある。その原因の一つが,UAVに関する情報不足にあると考え,今回の話題を企画した。

講演では,まずUAVの歴史から構造,機種ごとの特徴と価格,国内外の開発動向を簡単に紹介した。次に,最新のUAVには,4kカメラと高性能のジンバル(カメラ取付用のアタッチメント),姿勢の自動制御機能(IMU)を搭載したものもあり,ラジコン初心者でも扱いやすく,簡単に空撮が可能なことを説明した。また演者が撮影した空撮画像をスライドに示し,高解像度のデジタル写真と滑らかな動画を撮影できること,それらの画像や動画を用いて植生判読や林冠図の作成,調査地などの現況把握を簡易に出来ることを紹介した。さらに,UAVで空撮した連続写真から,対象物の3次元構造を復元する写真測量技術(Sfm:Structure from Motion)を用いた立体測量の技術について解説し,野外での精度検証の結果を紹介した。最後に,UAV関する昨今の法規制の動向や運用ルールについてお話しした。

これまで空撮画像を得るには,高額な航空写真や衛星写真を購入する他なかった鳥類研究者にとって,安価で簡単に空撮を行うことができるUAVは大変便利な道具である。UAVという鳥の目を手に入れることで,新たな鳥類の生態解明や生息環境の把握,保護・保全につながることを願っている。
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鳥類学者の思考および表象の連鎖と自身の適応度の関係について、もしくは著作の宣伝

2015年10月11日
東京大学総合研究博物館 松原始

ちょうど3年ほど前、『カラスの教科書』という本を雷鳥社より出版させて頂いた。最初の「カラスの写真集に解説を書く」という企画が何をどう間違ったのか、ゆるふわ気味にカラスを紹介する本になったが、幸いにして望外の好評を頂いた。上司には「二匹目のドジョウ、早く狙いなよ」と言われたのだが、絞り尽くしてスッカラカンな頭からこれ以上どうやってネタを取り出せばいいのか。

しかし。鳥の話をすれば、どうしたって内容が展開して行くのを止められない、という経験はないだろうか?

例えば、オープンカフェでデート中、アイスラテを手にした彼女が飛び交うツバメを見ながら、ふと「ツバメって冬はどうしてるの?」と聞いたとしよう。その時、鳥類学者の脳内には「渡り鳥と留鳥」「シベリアツバメの越冬個体群」「沖縄での情況」「捕獲によるマーキングの重要性」「渡りのコース」「アルゴスはいいけど重くて高い」「ジオロケーターとGPSデータロガー」「渡りの起源」「鳥のナビゲーション」「ツバメの集団ねぐら」「夏鳥の減少」「コシアカツバメの比率」「サイト・フィデリティとメイティングの過程」「雄の魅力とハンディキャップ仮説」「尾の長さに関するメラーの実験」「フラクチュアル・アシンメトリー」「ストレスと白斑」「放射線ストレス」「巣の乗っ取りと子殺し」「適応度」「利己的遺伝子」「営巣場所の変化」「環境変化がツバメに与える影響」「アシ原の保全」「ツバメと人間の関係」「ツバメの名を関したあれこれ」「燕尾服と結婚式」など様々な話題が連鎖的に展開されるはずだ。

これこそ鳥類学。生態学や分類学という分野に基づくカテゴライズがあるにも関わらず、「鳥」という対象動物を軸として各分野に展開される、互いに関連しあった世界である。思い付くままに「そういえばね」「〜と言えば」とネタは続く。どこまでも続く。ふと気づいたら目の前に彼女はおらず、伝票だけが残っているだろう(註1)。

『カラスの教科書』を書いた時にも、カラスにまつわるエトセトラは色々と盛り込んだ。だが、内容は手加減したし、最終的には多くを削った。小難しすぎて一般受けしなさそうだったり、説明しだすと長くなりすぎたりしたからである。「世間一般」は学者が考える以上に、理論とかグラフが嫌いだ。うっかり持ち出すと内容以前に拒絶されるか寝落ちされる。

だが、削った部分には鳥類学の面白さの要点が含まれており、それ自体がネタの数々であって、それこそ「自然科学的な旨味」なのだ。「カラスちょっとかわいいかも」の次は、やっぱり、カラスをちゃんと鳥として見てほしいし、きちんと「鳥類という生物」として理解してほしい。その面白さも理解してほしい。ならば、普段、自分がついつい話してしまうように、「〜といえば」を展開してやろう。今回の本はどう工夫しようとも多少説明っぽくなるだろうが、「その先にある面白さ」を求める人に伝わるならば。

ということで、『カラスの補習授業』が雷鳥社より刊行予定である(11月中に出るかどうかだが、ひょっとしたら遅れるかも)。多分、今度も400ページくらいになる。前著に引き続き、「カラスくん」も全編に登場する。より科学っぽくお楽しみ頂けるものになっているか、削りカスを集めた糠団子にすぎないか、それは読者の判断に委ねるとしよう。

註1)この場合は「ツバメ? ああ、冬の間は水の中で冬眠してるよ」とでも答えておくのが、適応的な戦略である。

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鳥学通信移転のお知らせ

2015年10月10日
広報委員会(三上修)

これまで鳥学通信は、会員から記事を集め、定期的に報告する形をとっていました。これは、鳥学通信の前身の鳥学ニュースが、印刷物で会員に配布されていた形式を踏襲したものと言えます。

1975年~2014年までの鳥学通信へのリンク

しかし現代では、すでにその必要性はなくなりました。そこで、ブログの形式をとり、SNSを利用した情報の拡散もできるように変更することにしました。

大会の報告、会員が書いた本の紹介、研究の紹介など、さまざまな形の記事を掲載していく予定です。会員のみなさまからの記事も掲載したいと考えています。もし、そのような記事がありましたら、広報委員会までご相談いただければ幸いです。

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