鳥学通信 no. 33 (2011.11.8発行)

 

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日本鳥学会2011年度大会運営後記

実行委員長・堀江明香(大阪市立大学)

2011年9月17-19日、大阪市立大学にて日本鳥学会2011年度大会が開催されました。参加者は、事前申込者が335名、当日参加者が130名の合計465名と予想以上の盛会となり、発表数も、口頭発表が70題、ポスター発表が93題(うち、高校生発表が5題)、自由集会が10集会と充実したものになりました。台風の多い時期であるため、万が一にも大会開催と重なったら・・・と心配していたのですが、台風12号と15号の挾間で無事に終えることができました。ご参加くださったみなさま、本当にありがとうございました。


大会後に高須さんからお話をいただき、我々の大会運営体験記として、本稿を寄稿させていただきました。本稿では、セッションや公開シンポジウム等の“大会本体”についての感想よりも、大会長や我々実行委員が、記憶に残る大会を目指してどのような点に配慮・挑戦したか、また大会準備等の苦労話についてご紹介させて頂きたいと思います。

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写真1:会場入り口

 

 

 

 

 

 

 

 

まず初めに触れなければならないのは、3月11日の東日本大震災についてです。本年度大会の構想段階においてまず、震災被害者への支援について意見交換が行われました。あれだけの大災害だったので、参加を断念される方もいらっしゃるだろうけれども、旅費や滞在費を補助することで、金銭的な理由での不参加者をなるべく少なくしたいと考えました。この補助金の捻出、および被災地への支援として、大会参加費に義援金を含めました。これには賛否両論があったかと思いますが、被災地への支援を大会の基本姿勢とし、参加者の方にもその認識を共有して頂きたいとの大会長の意向を支持し、実施しました。みなさまのご協力に感謝いたします。多くの方から任意の義援金もお預かりし、義援金は総額約50万円となりました。被災地の一刻も早い復興を祈ります。

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写真2:受付

 

 

 

 

 

 

 

 


その他、いくつかの点で例年の大会と趣向を変えました。基本的には大会長の発案です。ひとつ目は要旨集の表紙をカラーにしたこと。見積もりの段階で、例年通りの「レザック紙+モノクロ印刷」と「白上質紙+カラー印刷」では印刷代がほとんど変わらなかったので、箕輪さんにカラーの挿絵をお願いし、やわらかな色のモズが印象的な表紙にすることができました。ふたつ目は参加者のみなさんにコングレスバッグとうちわを配ったことです。重い荷物はクロークに預けて身軽にセッションを楽しんでもらえるように、今回の大会ではオリジナルバッグを作成しました。コングレスバッグに描かれたBird treeは赤谷加奈さんのイラストで、シンポジウムのテーマ「鳥の種分化と種分類」に合わせて、日本に生息する鳥類18目の系統関係が樹木として表現されています(シンポジウムのポスターでは世界の鳥類22目)。配布したうちわも赤谷加奈さんのイラストです。本年度大会では、東日本大震災とそれに伴う原発事故の影響を鑑み、極力冷房を使わない大会運営を目指しました。その代わりとしてうちわの配布を行い、大阪の暑さを凌いでもらおうとの試みでした。当初は扇子を予定していたのですが、予算オーバー(800円/本)であえなく断念。竹うちわは220円/本と比較的安価で、プラ骨のうちわとは一味違う、いい風を作ってくれました。試みの最後は、ポスター会場を廊下に設定したことです。本年度大会の会場では、参加者が見やすく、発表者が話しやすいポスター配置を設定するのが難しかったこと、ポスターボードの準備に結構なお金が必要なことなどから、廊下一列にポスターを掲示することにしました。心配していた暑さはやはり閉口するほどでしたが、ポスター番号の把握が容易だったことや、ポスター間隔に余裕を持たせることが出来た点で良かったと思います。

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写真3:要旨集・カバン・うちわ

 

 

 

 

 

 

 

 

例年行っている、高校生発表の募集にも力を入れました。募集ポスターを作ったり、近畿圏のSSH指定校に連絡をとったり等、周知に力をいれました。その甲斐もあり、発表数は5題と比較的多く、参加のみの高校生も合わせると9校21名から参加申し込みがありました。高校生たちはみな楽しそうで、参加者のみなさんからのコメントによって、鳥への興味をさらに深められたようです。学会参加体験を通して高校生に(小・中学生にも)鳥学の世界を知ってもらう機会として、今後さらに周知に力を入れていってもらえたら、と思う次第です。


本年度大会の特徴のもう一つは、海外からの参加者が比較的多かったことです。合計13名が海外から参加されました。どうして今年急に海外参加者が増えたのかは未だ不明です(来年の100周年大会参加の予行?)。ただ、大会運営側が海外からの参加申し込みを予想できていなかったので、海外の方が参加しやすい大会環境を整えられませんでした。事前に予想できていれば、日本人の発表でもタイトルだけは英語を用意してもらう等の対応がとれたのではないかと残念に思っています。

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写真4:シンポジウムポスター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学会参加の楽しみのひとつとして、懇親会は非常に重要です。本年度大会では、大会長のこだわりで、水茄子やハモなど、大阪や泉州の地物を多く取り入れ、幅広い年齢層の方に楽しんでもらえるようなメニューを依頼しました。地物のお酒として河内ワインもメニューに加えてもらい、“飲む方”にも満足してもらえるよう手配しました。このような、メニューの充実を可能にしたのは、サントリーホールディングス株式会社さまからのビールとハイボールの協賛です。この場をお借りして改めてお礼申し上げます。おかげさまで懇親会は非常に好評でした。

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写真5:ポスター会場

 

 

 

 

 

 

 

このように、当日のセッションや受付業務は、多少のトラブルこそありましたが、概ねスムーズに進行させることができました。やはり大変だったのは準備段階で、大きな問題は人員不足と資料不足でした。大会運営を担った動物機能生態学研究室はもともと大学院生の多い研究室で、その昔、私が修士の学生として進学してきた当時は学年不詳の院生が研究室にあふれていましたが、今はご多分に漏れず働き盛り(?)の院生が少なく、実行委員は大会長と私を含めて7名でした。この少人数準備体制で最も大変だったのは、参加者データベースの作成と、講演要旨集の作成で、講演要旨集の作成時には、何度チェックしても発表番号の漏れや細かい間違いなどが見つかり、非常に時間がかかりました。それ以外の作業についても、昨年度以前の資料がほぼ皆無だったこと、私自身が大会の“慣例”に慣れていなかったことから、全てが手探り状態。今後、大会運営経験の浅い人員でも準備をスムーズに進めるために、少なくとも慣例によって決まっている事項については、大会運営規約などの形にまとめて鳥学会事務局で保管する等の対策が必要ではないかと思います(もしかしたら既にあるのかもしれませんが)。


ともあれ、大会は何とか無事に終わり、参加者の何名かからはお褒めの言葉も頂くことができました。来年は鳥学会100周年大会です。様々な特典もあるようで、大会参加予定者のひとりとして非常に楽しみにしています。今回、大会の運営側として携わることができたことは非常にいい経験でしたが、その反面、業務に追われて聞きたいセッションを聞けなかったり、久々に会う研究者の方々とゆっくり話せなかったりと、(致し方ないとはいえ)残念な点が多かったことも事実です。来年はぜひ大会をゆっくり楽しみながら、よい発表をして、翌日にひびかない程度に飲みにも行けたらと思います。

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写真6:高校生の表彰

 

 

 

 

 

 

 


受付日2011.11.06
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報告・2011年度大会自由集会W04「長期モニタリング 新たな課題:福島第一原子力発電所事故の影響」

企画者:石田健(東京大学)、佐藤重穂(森林総合研究所)

 私たちは、ほぼ大会ごとに、鳥類等のモニタリング手法や長期モニタリングの目的についての情報交換やいろいろな紹介をする自由集会を開催してきました。近年いつも加わってくれていたバードリサーチの植田さんは、今年はタカの渡り調査のため残念ながら留守でした。今回は、2011年3月11日の大地震・大津波と、特に福島第一原子力発電所事故の影響を受けた地域におけるモニタリングを話題にしました。地震と津波に関しては、ガンカモ類への影響について、JOGAの集会でも話題にすると須川恒さんから事前にうかがい、予め2つの集会の時間が重複しないように調整し、大会実行委員会にもお願いしました。この集会の企画案を申し込む時点では、まだ具体的な調査結果や情報も少なく、演者や講演内容も決まっていませんでした。ふつうなら、情報がそろってから開催するために来年にまわすような状態だったのですが、特別なテーマであり、なるべく早く情報発信と情報交換することにも意味があるだろうという理由で、あえて開催した次第です。そのようなわけで、大会要旨集の趣旨説明を、少し改訂して、ここにもまず再掲載させていただきます。

 大地震と大津波に破壊されて発生した福島第一原子力発電所事故は、広範囲に放射性物質を放出し、環境汚染を引き起こしています。危険性の高い地域からは人が避難して姿を消したことも、野鳥をはじめとする野生動物や生態系にも影響が現れてくると考えられます。事故原発から出た放射性物質は、いずれは地球全体に拡散し、世界中の自然や人々にも影響を与えると言えます。また、スリーマイル島、チェルノブイリと2回あったことが3回めも別の形で福島においておこり、まだ原発建設を推進している国が多く残っているので、いずれまた別の形の大事故が発生することも懸念されます。事故を起こした国の研究者として、また事故原子炉周辺の住民の安全確保や今後の生活復興の参考になり役立つ基礎情報をえることを目的として、あるいは生物多様性保全の観点からも、野生生物についても原発事故の影響を調査し、長期間モニタリングすることはたいせつだと思います。

 およそ25年前に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故と比べると、福島の事故は、初期の放射性物質の放出量は少なく、汚染強度は相対的に低く、汚染地域は狭いと言えます。一方で、複数の原子炉が同時に事故を起こしており、今後、処理して、当面は安全と言える状態にすべき核燃料はたいへん多いこと、原子炉が海岸に立地して海洋汚染に直結していること、急傾斜の山や谷がある複雑な地形により降下、蓄積した放射性物質の濃度分布も複雑で、影響予測が容易でないことなどが考えられます。放射性物質による汚染だけでなく、人間の避難にともなう活動低下は野生動物の行動を変えることでしょう。人の生活空間における除染作業の結果、あるいは降水、河川、地下水、農林漁業生産物、野生動物の移動などさまざまな要因による放射性物質の拡散など、多面的に複数の要因で汚染状況とその影響は変化するでしょう。事故後に、かなりきめ細かな、土壌や空中などの線量測定も実施されており、概要は明らかになってきつつあるものの、長期間の比較的低レベルの放射能汚染に伴う人や生物への影響は、測定値だけでは一概に判断できない、人類にとって未知の経験だと言えると思います。

 これらの影響を、総合的に理解し評価する一つの方法として、野生生物に現れる変化を、形態や生態の形質を継続して記録したり、あるいは野生個体の生物試料を生理学、遺伝学的にモニタリングしたりすることは、有効だと期待されます。モニタリングは、長期にわたって継続できることも重要でしょう。現地調査には、一定の健康リスクを負うこともあり、リスク低減の知識や技術も、現地に入る研究者にとって必要になります。また、規制区域への立ち入り許可取得手続、地元住民・自治体等への普及啓発なども、調査と同時に行うな必要があります。これらの課題は、ほとんどの研究者にとっては経験のない事態です。また、自身で調査研究を行なわないまでも、専門家として一定レベルの説明を求められる場合も少なくないと思われます。

 以上のような集会開催の趣旨説明の後、夏に現地入りした3人の研究者の内、まず立教大学の松井晋さんが「福島第一原子力発電所事故:放射能汚染が鳥類に及ぼす影響」という題で、今回の原発事故の総放出線量の見積もりなどの概要をチェルノブイリ原発事故と比較する形で示し、またチェルノブイリ事故後に、事故原発周辺でツバメの体に起こったと思われる変化や最近の鳥類センサス結果についての論文の概要を説明された。また、7月に福島県内で行ったラインセンサスや、8月に福島市内の阿武隈川河川敷で実施したツバメの塒での捕獲調査の概要を紹介し、今後も継続調査が必要であるという考えを示された。二人めの立教大学の笠原里恵さんは、松井さんたちの現地調査に同行したときの写真紹介と、「巣箱で繁殖する鳥類の巣材調査」という題で、事故原発からの放射性物質の飛来が確認されているつくば市に、従来から設置して調査を行っていたスズメの巣箱をつかった被曝モニタリングの試行錯誤の様子を紹介された。三人めの東京大学の石田は、「2011年7月、8月現地調査報告- 羽毛・血液による被曝モニタリング、ADAM」という題で、許可なしで立ち入れる範囲で、浪江町、葛尾村、田村市等の放射線量の高い地域を含む周辺において捕獲したウグイスの被曝状態の実験途中経過や、何度か集会のテーマとしても取りあげて来た自動録音を使ってのさえずりやセミ、カエルなどの動物の声による生息状況長期モニタリング計画に取り組み始めたことを紹介した。続いて、福島県の事故原発にも比較的近い地域の出身の、山階鳥類研究所の小林さやかさんが、事故の影響調査の必要性についての考えや、震災の影響を受けた地域の陸と海の両方の鳥類についての研究所の取り組みの計画などを紹介された。

 集会後にも、海鳥について調査する計画があることや、国際感覚を持ってモニタリングすることの意義等についての意見を話してださった参加者もいらした。参加者数は、およそ50名だった。重い課題でもあり、また未知の部分の多い課題でもあり、会場の雰囲気もやや重たい印象はあったものの、時間いっぱい、講演と質疑応答が続き、参加者の関心や意識の高さも感じられた。参加していただいたみなさんや、すばらしい会場の準備などお世話していただいた大会実行委員のみなさんに、感謝もうしあげます。

 今後も、機会をつくって、この課題についても、情報交換等をしていきたいと考えています。


受付日2011.10.31【topに戻る

報告・2011年度大会自由集会W02「カワウを通して野生動物と人との共存を考える(その14) 個体数管理をじっくり読み解く」

企画者:高木憲太郎(バードリサーチ)、熊田那央(筑波大生命環境)

  野生鳥獣の保護管理には「被害防除対策」,「個体数管理」,「生息環境管理」の3つの柱があります。過去13回にわたりカワウについて議論を重ねてきたこの自由集会では,この3本柱について昨年からひとつずつじっくり向き合ってみよう,という目標を立てて企画を組んでいます。今年は「個体数管理」について取り上げました。当日は50人近くの方にご出席いただき,活発な議論をしていただくことができました。

まず,はじめに,共同企画者の熊田さんが,今回テーマとした「個体数管理」について説明しました。この用語は,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」にもとづく特定鳥獣保護管理計画制度において使用されているものですが,字面から,補殺などによって個体数を減らしたり,狩猟の制限などによって個体数の回復を図るといった数の管理だけがイメージされてしまうことがあります。しかし,英語では,Population managementであって,本来は個体群の管理です。実際,上述した計画制度でも「個体群の個体数,生息密度,分布又は群構造等に関する管理」と記載されており,数の調整だけに留まる概念ではありません。企画者である私たちは,カワウの保護管理には,数の管理だけではない「個体群管理」が必要だと思っています。「分布」や「群構造」をどう管理すれば良いのか,答えがあるわけではありませんが,その辺にも思いを馳せながら,須藤さんのお話を聞いてもらいたいと考えました。

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琵琶湖におけるカワウの個体数管理
須藤明子(株)イーグレット・オフィス 須藤明子)

 須藤さんには,琵琶湖にある竹生島のカワウの集団繁殖地(コロニー)における生息状況や個体数変遷の経緯,そこで行われている個体数管理のための補殺の方法や,その成果などを詳しく話していただきました。じっくり聞いて,しっかり議論する時間を取りたかったので,発表はひとつだけにしました。須藤さんにお話しいただいた内容をご紹介します。

琵琶湖では,以前は4万羽というカワウが4月から10月ごろにかけて生息していました。漁業権魚種であるアユなどを食べる食害が問題視されており,漁業者はその被害を減らすために,テグスを河川に張ったり,花火などで追い払いをしたりといった対策を行なってきました。また,竹生島と伊崎半島の2つのコロニーでは,樹木の枯死が問題とされ,せっけん液を卵にかけるなどの繁殖抑制や樹林を保護するための取り組みなどが滋賀県よって行われてきました。さらに,銃器による補殺も行われており,毎年1万羽以上のカワウを捕殺していました。しかし,それでも個体数が減少しない状況が続いていました。

この状況に対して,須藤さんたちは,カワウの個体数が過小評価されているか,補殺数が過大評価されているのではないかと考えました。そこで,それ以前に行われていた日中に琵琶湖をまわって数える簡便な方法ではなく,コロニーでねぐらから飛び立つカワウの数と営巣数を調べて個体数を求める調査を行ない,これまで2万羽以下だと思われていた琵琶湖に生息するカワウが4万羽だということを明らかにしました。また,狩猟者に依頼して散弾銃で行なわれていた補殺の方法ではなく,シカの管理で行なわれているSharpshootingという熟練した少数の技術者が効率よく捕獲を行なう方法をカワウに応用しました。カワウでは,発砲音が小さい銃を用い,どのカワウを撃つのかを現場で緻密に判断することで,繁殖中のコロニーであれば連続してカワウを撃つことができ,効率的な補殺が可能です。この方法は,道具が違うだけでは効果はありません。撃ち手(Culler)が重要だということを,須藤さんは重ねて強調していました。カワウを見つけ,正確に急所を狙い撃つという技術だけではなく,どういう個体(年齢や性別)をどこでどれくらい撃ったのか記録をつけて,繁殖段階の進行状況や撹乱の影響などをみながら,いつ,どこで実施するのかを検討し,統制のとれたチームでこれを行なうことで,はじめて高い補殺効率を得ることができる,というわけです。琵琶湖では,Sharpshootingを始めた2009年以降,個体数が減っています。

このように,個体数の多いコロニーであれば大幅に個体数を減らすことができる技術が確立されたわけですが,はたして,カワウの個体数を管理していくことは,可能でしょうか?須藤さんたちも,この問いに対しては,まだ道なかばという認識です。計画を実行した後,評価し,改善を行うPDCAのサイクルにのせて,検証しながら継続していく順応的管理が大切だと話してくださいました。そして,河川改修などによって減少してしまっている河川の豊かさや,カワウが繁殖できる河畔林のある,「生物多様性が保全された本来の日本の河川を取り戻す」ことがカワウの問題の解決のゴールではないか,と続けてくださいました。

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議論の時間は,須藤さんのお話をもとに,個体数管理がどういう場合に有効なのか,技術的な側面と,地域全体の被害を減らしていくという目的の達成ができるかどうかという側面から整理してみようと試みました。

前者については,どういう場所であれば,この方法が有効で,どういう場所だと効果がないのか,例えば,射手とカワウの距離が遠いなどの条件が整理できれば良いと思ったのですが,まだ,琵琶湖でしか事例がなく,個々の現場をみて可能かどうか検討していくことが必要そうでした。各地で実施するには,Cullerの育成が必要ですが,これについては,会場から有益なコメントをいただくことができました。須藤さんたちがとっている方法は,エアライフルに空気を込めるための補助員が撃ち手と2人1組で動くというものです。そして,この補助員が記録をつける役割を担っています。そこで,必ずしも銃を扱える人がカワウを発見する技術やチームとしての行動に長けている必要はなく,撃ち手か補助員のどちらかがこの役割を担えれば良いのではないか?というコメントでした。後者に通じる意見として,質問が集中したのは,2008年に夏の捕殺が行われなかったことで,秋の調査の時にどんと個体数が増えたにもかかわらず,翌年の春の調査では個体数が例年と同じであったこと,についてでした。全部が自然死亡したとは考えにくく,琵琶湖に戻って来ないで,別の場所に定着繁殖した,とも考えられます。会場にいる他地域で実際に調査している人に聞いたところ,近畿圏では個体数が増えた印象はない,というものと,2009年の1月に高知の宿毛湾という九州に面した側で個体数が増えた,という意見がありました。しかし,琵琶湖での個体数増加による影響をはっきりとさせることはできませんでした。

アメリカのシカの管理がうまくいく条件は,隔離個体群であることだと聞いたことがある,という指摘も出されていました。琵琶湖以外でコロニーが増えていることも考慮すると,カワウの個体数を管理していくことができるか,には,「移出入」が極めて重要な要因になると思われます。これに関連して横浜国立大の鈴木基弘さんがポスターで興味深い発表をされていました。滋賀県の個体数変動から,それ以外からの移入量の推定をされており,それによると,春に他のねぐら・コロニーから滋賀県へ毎年2万羽の移入があるというものでした。この個体数には,秋に滋賀県から他へ移り,その後春に戻ってくる個体の数は含まれていません。2万羽はかなり極端だとは思いますが,かなりの数の移入がある可能性は高そうです。須藤さんが発表の中で,「壮大な野外実験」と言われたように,実行しながらきちんとモニタリングして,見極めていくことが重要だと思いました。


受付日2011.11.04【topに戻る

報告・2011年度大会自由集会W01「東日本大震災の湿地への影響をガンカモ類などの調査を通してどう把握するか (JOGA14)」

企画者:須川恒、呉地正行、嶋田哲郎(ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・鳥類学研究グループ (JOGA))

 開催趣旨
 1999年より「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループを設立して毎年鳥学会大会の際に集会を開いてきた。ガンカモ類にかかわる個体群や生息環境にかかわるさまざまな視点から、またガンカモ類にかかわるさまざまなプログラムにかかわる視点から、それぞれの現況を理解し、鳥学的な課題を明らかにしてきた。
 今回は2011年3月11日に発生した東日本大震災を、ガンカモ類にかかわってきた私たちがどのようにとらえたらよいのかをテーマとした。
東日本を襲った甚大なエネルギーを持った地震・津波による広域的な環境への影響は、ガンカモ類などの水鳥にも大きな影響を与える可能性がある。私たちは、今後どのような視点に注目して調査を進めていけばよいのか、課題を探るために、以下の方に3つの話題提供をしていただいた。
 当日は 62名の方々にご参加いただいた。なお,この集会における講演要旨、講演後の討論内容、参加者からのコメントのまとめを以下のページに掲載しているのでご覧いただきたい。
http://www.jawgp.org/anet/jg017.htm

1)平泉 秀樹(ラムネットJ)
「東日本大震災による水鳥類生息環境として重要な湿地への影響」
2)神山 和夫・守屋 年史(バードリサーチ)
「東日本大震災と水鳥(ガンカモ類やシギ・チドリ類)のモニタリング調査」
3)呉地 正行(日本雁を保護する会)・嶋田 哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)
 「宮城県周辺の沿岸湿地や内陸湿地の現状とガンカモ類」

1)「東日本大震災による水鳥類生息環境として重要な湿地への影響」
・東日本を襲った地震・津波による広域的な環境への影響は、国・地方自治体・研究機関が作成している様々な分野の情報に注目することによって判ってくる。水鳥の生息環境への影響を把握するために、ラムサール条約湿地(登録湿地)や潜在的に重要な湿地(※日本の重要な湿地500などから検討されている)について、広域的情報と地元観察者から状況を把握し、それらの結果をウェブで公開している。
 太平洋岸の湿地等の2011年東日本大震災後の状況
  http://www.hira-birding.info/conservation/wetland/tsunami/index.html
 ※ラムサール条約湿地潜在候補地リスト(172か所がリストアップ)
  http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12982

・震災の影響を視点別にみると、地震の震動にともなう水路の破損や液状化、津波による沿岸湿地への影響、干潟の地形変化やベントス減少、内湾の藻場・アマモ場、河口部ヨシ原の消失など各地で大きな影響が報告されている。養殖筏が失われたこと、沿岸部の水田地帯の冠水、塩害も、大きな影響を水鳥にもたらす可能性がある。宮城県や岩手県の沿岸部では30cm- 1m以上の地盤沈下があり、その影響が憂慮される。震災にともない、さまざまな水域の汚染が発生している。流出石油類や化学薬品、処理場のストップによる汚染水などがある。福島原発事故にともなう放射能の高濃度の汚染は、水鳥に餌を通して長期的に影響を与えるおそれがある。
・ 地域別にまとめると、表1のように、被害の大きい湿地が多く、今後注目していく必要がある。

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表1:湿地潜在候補地の状況 東北地方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・毎年1月に都道府県が一斉に調査し環境省が取りまとめを行っている全国ガンカモ類生息地調査は、調査地点が多く、被災地域にも多くの調査地点が含まれており(図1)、今後震災の影響をモニタリングする上で重要な調査となると言える。 

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図1:全国ガンカモ類生息地調査地点(岩手県・宮城県)と震6以上、津波のあった地域

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2)「東日本大震災と水鳥(ガンカモ類やシギ・チドリ類)のモニタリング調査」
・ 震災の影響を把握するには震災前の情報が十分収集されていることが重要である。ガンカモ類については環境省が主催し各地の観察者や研究者が協力しているモニタリング1000ガンカモ類調査とモニタリング1000シギ・チドリ類調査がある。
・モニタリング1000ガンカモ類の調査では、南三陸海岸や伊豆沼・内沼、長沼、蕪栗沼などが調査地となっており、今後の調査による結果が注目される。
・ モニタリング1000シギ・チドリ類調査では、津波被害を受けた蒲生干潟、鳥の海、松川浦がある。その他の太平洋岸の調査地でも、地震によってさまざまな影響を受けた、茨城や福島の海岸や水田の調査地がある。2008年- 2011年の春の結果を比較すると、現時点では、震災後に大きなシギ・チドリ類の個体数の変化は把握されていないが(図2)、今後数年にわたって影響を見ていく必要がある。

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図2:2008年- 2011年の春の調査の比較の例(チュウシャクシギ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3)「宮城県周辺の沿岸湿地や内陸湿地の現状とガンカモ類」
・ラムサール条約(2008年韓国COP10)や生物多様性条約(2010年名古屋COP10)を通して湿地保全、特にガンカモ類の採食地としても重要な水田の生物多様性の意義を国際的に明らかにする作業に取り組んできた。呉地の自宅があり、嶋田の職場がある宮城県栗原市は震度7の地震による深刻な被害を受け(写真1)、その中で宮城県周辺の沿岸湿地と内陸湿地の現状について注目してきた。
・宮城県内陸の伊豆沼や蕪栗沼などでは堤防に亀裂や沈下が生じ(写真2)、河川の堤防も多くの地点で被害を受けている。
・津波の水鳥の生息環境に与える影響は、平地が少ないリアス式海岸の岩手、宮城の三陸沿岸域、その南で多くの島が点在する松島湾、更にその南の宮城県・仙台湾から福島県沿岸に至る砂浜海岸でその影響の程度は大きく異なる。
 一方、平野部では津波により沿岸部の水田地帯に津波が押し寄せたため、農地として再度利用するためには瓦礫の除去と津波による塩分を「除塩」する作業が必要となる。この取り組みは条件が整っている地域では開始され、「ふゆみずたんぼ」が除塩手法としても有効であることが分かってきたが、復田作業が進まないところもある。
・今回の地震により、沿岸域が全体的に平均1m前後地盤沈下した。平野部の沿岸域の水田地帯では、地盤沈下により、海抜0m以下となり、津波で浸入した海水が現在も滞留し、新たな水域が生成したところが多い。これらの水域を水田に復元することは困難で、その一方で地盤沈下による新たな湿地環境が創出されたことも事実である。これらの変化が今後沿岸域の水域・湿地に依存する水鳥にとってどのような影響を与えるのかを環境面も含めてモニタリングして行くことが重要である。
・原発事故は、コントロールできない核エネルギーを使ってきたという根本的に倫理的な問題がまずある。現状を知るには、線量計を使って見えない放射能を測定する必要がある。宮城県北部の湖沼の周辺でさまざまな測定値が得られ、また、周辺山地で値が高いことも判りつつある。人々のすべての活動において放射能へ警戒することが必要となり、また湖沼や水鳥への放射性物質の影響を長期的に注目していく必要がある。
参照:東日本大震災緊急報告会(2011年4月30日)
    http://www.ramnet-j.org/2011/08/library/980.html
   311あの時(2011年6月30日掲載記事)
    http://www.epo-tohoku.jp/3.11/14.html

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写真1:伊豆沼サンクチュアリーセンターの被災状況

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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写真2:伊豆沼・内沼周辺の被災状況

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上のような講演、講演後の討論、集会参加者のコメントを総合すると、今回の自由集会で明らかになったポイントと今後の課題は以下のようにまとめることができる。

1)湿地や水鳥保全のためのプログラムの活用
 湿地や水鳥の保全や保護にかかわるさまざまなプログラムは、震災による湿地や水鳥への影響を把握する上で活用し、また再評価されるべきである。これらのプログラムは国や自治体、水鳥に関係する多くの人々の協力で育てられてきた。ラムサール条約湿地や日本の重要な湿地 500、潜在候補地リスト作成、全国ガンカモ類生息地調査、モニタリング1000ガンカモ類調査、同シギ・チドリ類調査などについて、調査を進める上での課題を解決し、長期的に結果を蓄積し分析することが必要である。

2)水田を軸とした変化、海岸湿地の変化
 生物多様性条約COP10の場で生物多様性を保全するうえで、水田の生態系が果たす役割を喚起する決議文が採択された。水田の冬期湛水は、津波による塩害を除塩する効果もある。ガンカモ類の採食環境としても重要な水田環境であるが、震災や津波の影響によって水田耕作そのものができなくなっている地域も多く、ガンカモ類の生息状況が変化する可能性がある、一方で地盤沈下などにより、海岸湿地のいくつかは干拓前の「明治前」の状況にもどっている地域もある。ガンカモ類とシギ・チドリ類の生息状況を比較しつつ震災の影響を見る視点が重要であろう。

3)福島原発事故の影響
 自然の撹乱に対して自然は回復する力をもっているとはいえ、原子力発電所の事故や核廃棄物などがもたらす長期的影響はその限度を超えていると言えるだろう。コントロールできない核エネルギーを使っているという根本的に倫理的な問題がある。現状を知るには、線量計を使って見えない放射能を測定する必要がある。人々のさまざまな活動において放射能を警戒することが必要となる。放射性物質の動態、特に水鳥の生息環境である水域へ流れ込まないかを監視する必要がある。ガンカモ類に放射性物質がどの程度とりこまれているのか、その影響を長期的観点から注目していく必要がある。高次捕食者であり、放射性物質も濃縮する可能性の高い魚食性水鳥の調査も重要である。


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シリーズ・こんな論文を発表しました

北海道におけるマキノセンニュウの分布と出現率の変化


藤巻裕蔵

 日本鳥学会誌 60 (2011), No. 2 pp.233-237

北海道でマキノセンニュウは1980年代には河川敷の草地や農耕地でも牧草地など景観的に草原に似た環境では囀りが聞かれていた種である.しかし,最近北海道各地でラインセンサスをしていて,まったくといっていいほど観察されなくなり,漠然と生息数が少なくなっているのではと感じていた.そこで,これまでの調査結果をまとめてみた.

調査は5km×4.5km(1/5万の地形図を縦横とも4等分した大きさ)の区画に2kmの調査路を1?3か所設けて観察した鳥を記録するものである.1976年以来調査したのは876区画,989調査路である.

マキノセンニュウが観察されたのは,海岸沿いの湖沼周辺の草原(写真は十勝地方湧洞沼),大きな河川下流部の河川敷の草原であった.出現率(査路総数に対するマキノセンニュウが観察された調査路数の割合を百分率で示した値)は,草原では1980年代までは40.9%であったが,1990年代に22.2%,2000年代に18.6%と有意に減少した.一方,農耕地では調査期間中に2.9?4.6%と有意な変化は見られなかった.農耕地には水田,畑などマキノセンニュウの生息に不適な環境が含まれるので,出現率が低いのは当然だとおもうが,草原では1990年代に入って出現率が急減しており,普段感じていたことを具体的なデータで確認することができた.

fig1

写真:湧洞82-07

 

 

 

 

 

 

 

 


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編集後記:今号は、日本鳥学会2011年度大会の運営後記、自由集会の報告3本と、新シリーズとして「こんな論文を発表しました」をお届けしました。「こんな論文を発表しました」では、鳥学会会員の方が日本鳥学会誌(和文誌)に最近発表された学術論文を一般向けに紹介していただくことを狙っています。学術論文には書けなかった調査現場の紹介、採択に至る苦労話、などの裏話を初め、会員の学術活動を広く世間に発信して行くことを考えています。記事は随時受け付けますので、皆さんのご協力を期待しています(編集長)。

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鳥学通信 No.33 (2011年11月8日)
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