巻末資料7

 

米国 National Wildlife Health Center

西ナイルウイルスの感染防止のための鳥の取り扱いガイドライン

(翻訳:渡辺ユキ)

 

北米における西ナイルウイルス(WNV)の出現と伝播は、このウイルスが人共通感染症であるという性質から、科学関係者や公衆衛生関係者の間に強い懸念を引き起こした。野生動物の取り扱い時に人共通感染症が起きる可能性は今に始まった事ではない;実際、野生動物を取り扱うことで起きる、WNVより人に感染しやすい疾病は他にも数々ある。また、WNVに感染しても大多数の人は感染に気づきもしないか、非常に軽症ですむが、それでも北米全体で野生生物や家畜、人に広まったことにより、この疾病は動物関係者に注目されることになった。次のガイドラインは個々の関係者、特にWNWの保有が判明しているか、増殖し排泄する可能性がある宿主野生動物と、野外で接触する機会のある野生生物学者や研究者の為に書かれたものである。陽性が見つかった種のリストは以下にある;

http://www.nwhc.usgs.gov/research/west_nile/wnvaffected.html

現在のところ、鳥種はどの種類でもWNVを少なくとも増殖し、排泄しうる宿主であると考えられる。

一般的配慮

野外で野生動物関係に従事する人がWNVに感染する主な経路は、感染した蚊に刺される事である。ここでは一般的に様々な人共通感染症に、直接暴露する危険性を減らす為の方法を示した。直接感染するのは主に次のような場合だが、これに限られたことではない;

1.     吸入: 感染動物の体液が飛び散ったり、体液に含まれるウィルスに汚染された空気を吸入した時。

2.     直接暴露: 擦り傷、切り傷、粘膜(目や口)が感染動物の体液に接触する。

3.     外傷: 汚染された骨、嘴、爪などによる切り傷;汚染された器具(針、はさみ、メスなど)での刺し傷、切り傷。 

上記の一般的注意は、どんな野生動物を取り扱う際にも当てはまるが、特に病気の疑われる動物の取り扱い時には、励行されるべきである。野生動物を取り扱えば、様々な病気にさらされる機会がふえることを承知しておく必要がある。

実験室以外でWNVが研究者に直接感染した事例の報告はまだないが、WNVの性質からして充分に考慮すべきである。感染動物の取り扱い時に、最も考えられる原因は、排泄物、唾液、血液である。もし感染動物や汚染された器具に触れたら、触れた部分を洗剤と水でよく洗い流すように。もし上記に示したような感染状況に遭遇するか、暴露が疑われた後に以下のような症状がでたら、できるだけ早く医者に行き、野鳥や野生動物に接したことを伝える。WNV感染の徴候は以下を参照のこと;

http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/westnile/qa/symptoms.htm

WNV感染や、二次的感染症に特に弱いと考えらえられる人は、場合によっては仕事を辞退することも含めて感染を避ける注意が必要である。注意が必要な人とは、様々な理由で(ステロイド治療、化学療法など)免疫が低下している人、および呼吸器疾患の既往歴を持つ人、その他の健康上の問題を持つ人が含まれる。個々の質問や考慮事項については、それぞれが医者と相談するべきである。

感染の予防に用いる道具や手法――ここに挙げるような保護対策を状況に合わせて、部分的に、またはすべて用いるのがよい。保護対策には次のようなものがある: 蚊忌避剤(虫除け)の使用、蚊に刺されない衣服(長ズボン、長袖、蚊よけジャケット、虫よけヘッドネットなど)の着用、手や顔などの剥き出しの皮膚を洗う、“外科用”の手袋の使用、カバーオール(つなぎ服)やブーツを着用、防護メガネや顔全体を覆うフルフェースシールド、マスクの使用。蚊よけ方法については以下を参照;

http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/westnile/qa/prevention.htm

野生動物関連の活動と人の感染予防策

野外活動

保護対策

蚊よけ策、保護対策

顔や手洗い

カバーオール、ブーツ

手袋

目、顔の

保護

フェイスマスク

 

 

 

 

 

 

 

野外調査

[•]

 

 

 

 

捕獲/バンディング/ 標識

 

[•]

 

 

捕獲とサンプリング

(空気感染の恐れなし)

 

[•]

 

 

捕獲とサンプリング

(空気感染の恐れあり)

捕獲とサンプリング

(病気の動物)

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採集(死体)

[•]

 

 

採集(病気の動物)

[•]

[•]

 

注;括弧の黒点 [•] は、状況によって予防策の程度を使い分けることを示す。例えば、病気の小鳥やその死体を1羽程度保護・採集するのに、さほど厳重な警戒は要らないが、一度に大量死が起きてその死体を回収する場合などには相応の予防策が必要となる。“野外調査”では野生動物と直接接触する事がほとんどなくても、徒歩での鳥の調査や、湿地での水鳥のカウント等では、蚊に刺される機会は非常に多い。ここでの注意は一般的に鳥を取り扱う場合のものである。解剖や検屍など、もっと侵襲的な方法を用いる場合には、顔に密着する人工呼吸器の使用も含めて、さらに厳重な予防策が必要となる。

疾病の拡散の防御―病気や死んだ動物を取り扱う場合には、病気を広げない為に更に注意が必要である。防御対策は以下のとおり。

1.     動物を取り扱う時には手袋を装着し、個体毎に手を洗う。

2.     個体毎に、手袋を変えるか、消毒してきれいにして用いる。

3.     血液を採血する際には、個体毎に針と注射器を変更する。

4.     それぞれの活動毎に服や靴を取り替え、場所毎に服や靴は洗うか消毒する。

5.     かすみ網、わな、かご、機材などは、糞便や血液がつく可能性があるので、個体毎、場所毎にきれいにする。

これら注意には、わかりきった事もそうでない事もある。疾病の拡散を防ぐには、常日頃の意識や、常識に基づいた適切な行動が求められる。

蚊忌避剤(虫除け)を使用する際の注意――虫除けの使用は、WNVその他の蚊が広げる疾病から人を守る有効な手段である。しかし忌避剤の中には、野生動物に害を与えるものがあり、特に皮膚を通して吸収する両生類などでは危険である。両生類を扱う前は完全に手を洗うこと。

http://www.nwhc.usgs.gov/research/west_nile/wnv_guidelines.html

米国 NWHCの好意により掲載. 19 Apr. 2004       

 

 

 


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