序 言

 

日本鳥学会会長 樋口 広芳

 

 

この冬、鳥インフルエンザ問題で日本中が大騒ぎになった。2月から3月にかけては、連日のように関連ニュースが新聞やテレビなどで報道され、ウイルスの運び手として渡り鳥が問題にされた。また、3月に入ると、養鶏場で二次感染したと思われるカラスが次々に死亡し、野生の鳥への関心がさらに高まった。

そうした中で、鳥の関係者はいくつかの場面で意見を求められることになった。求められた意見は、鳥フルウイルスの運搬者として野生の鳥はどのようにかかわっているのか、あるいは、カラスへの感染がどのように行なわれ、また今後どのように広がっていくのか、などについてであった。

しかし、鳥学会に属している多くの会員にとって、鳥インフルエンザをはじめとした感染症にかかわる問題は専門外である。しかも、行政やマスコミなどから公表される情報も、どこまで信用してよいものかわからない。感染症関係の専門家から出される意見の中にも、野生の鳥の生態を理解していないと考えられるものが散見された。

さらに、鳥の標識研究者や感染地域の近隣にすむ鳥の研究者は、行政などからの要請に応じて、感染地域やその周辺で鳥の生息実態調査や、ウイルス検査のための血液採取調査などに参加することになった。感染地域での調査に危険はないのか、鳥の羽毛や血液に直接手を触れて感染することはないのか。あるいは調査に入ることで感染を拡げてしまうことになりはしないか。これらの重大な疑問や心配があるにもかかわらず、それらにきちんと対応することもないままに調査が進行してきたように見える。

こうした背景を受けて、日本鳥学会では3月16日に、会長の諮問委員会として鳥インフルエンザ問題検討委員会を立ち上げた。目的は、鳥インフルエンザ問題の正しい理解と適切な対処法について、きちんとした情報を発信することである。そのため委員には、学会員だけでなく、感染症の専門家の方にも加わっていただき、野生の鳥を扱う学会員とともに活発な意見や情報の交換をしていただいた。

 本委員会でご検討いただいた主な項目は、以下のとおりである。

 ● 渡り鳥と鳥インフルエンザの関連

 ● 日本での発生状況とカラスへの二次汚染

 ● 海外での発生実態

 ●調査,研究上,注意すべきことがら

 ●一般の人への注意事項

 ●法制度と問題点

 ● 今後の研究の必要性

 

4月のなかばが過ぎ、各地で鳥インフルエンザの終了宣言が出され,鳥インフルエンザ問題はおさまったかのように見える。しかし、仮に今回の問題がとりあえずおさまったのだとしても、鳥インフルエンザ問題は今後も私たちの身に降りかかってくることは間違いない。また、今回の問題にしても、まだ不明な点は数多い。本格的な調査や今後の対策はまさにこれからが本番である。さらにいえば、西ナイル熱などをめぐる類似の問題もある。今回の鳥インフルエンザ問題を契機にして、今後、関連の問題への対応がきちんとなされることを強く願いたい。そのための参考資料として、本報告が参考になれば幸いである。

委員にご就任いただいた方々には、年度末、年度初めのお忙しい中、たいへんなご苦労をいただいた。厚くお礼申し上げたい。

平成16年5月5日

 


トップに戻る 日本語トップページに戻る