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野外調査の Tips
海外留学記
連載
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便利グッズ:Gorillapod松岡 茂 (森林総研北海道支所)
巻きつける木が存在する森林の中での,Gorillapod の使い勝手はかなりよいといえる.もちろん,カメラ撮影等に適した場所に小径木があるとは限らない.しかし,大径木があれば,細いロープ2本を上側2本のそれぞれの脚の先端部のくびれに結び,木の周囲にロープをまわして結び固定できる.細い木にとりつける場合に比べて多少時間はかかるが,この方法では木の太さは制約にはならない. Gorillapod はジョイントのフリクションのみで保持しているだけなので,本格的な三脚に比べると安定性にかける.しかし,使い方次第では非常に便利な道具になり得る.値段も使い勝手のよさを考えれば妥当と思われる. 受付日 2008.04.03 調査用具:伸縮ポールの製作松岡 茂 (森林総研北海道支所)
鳥の調査では,さまざまな場面でポールを使うことが多い.長いポールが必要な場合には,同径のポールをつなぐか,異径のパイプを引き出す伸縮タイプを使う場合が多い.同じ径のポールを何本も持たなければならない前者に比べ,入れ子構造の伸縮ポールは携帯性に優れるので,多くの研究者はこのタイプを野外調査に持参しているのではないだろうか.伸縮ポールには,釣竿やステンレスの物干し竿,アルミ製の旗用ポールなどがある.前者は軽いがよくしなる.いっぽう,物干し竿や旗を掲揚するためのポールは,その目的からして,大きな力に耐え,しなりも少ないが,当然重い.これらは,それぞれの目的のために市販されている品物であり,鳥の調査用具としてぴったりはまる場合もあるが,使い勝手が悪かったり,重すぎたり,長さが足りないなど,使いにくいときもある. 調査に使う伸縮ポールの選択肢を広げるため,釣竿と物干し竿の中間あたりに位置し,より自由度の高い伸縮ポールの制作方法を紹介したい.このポールは,BLACK DIAMOND フリックロック エクスペディションポール1)の伸縮機構 (フリックロック) に触発されて製作を思いついた.フリックロックは,1 動作で任意の位置で,しかも確実にポールをロックすることができるのが特徴である2).このスキー用ポールの材質はアルミ合金のようで,その用途からみても相当の強度を持つと思われる.ただ,同等のパイプの入手は困難と思われたので,ホームセンター等で売っているアルミパイプを代替品とした (このパイプが純アルミニウムかアルミ合金かは不明であるが,多様な材質のアルミパイプがあり,強度も大きく異なるらしい).製作に使用した材料,工具は下表のとおりである.
入手したアルミパイプ A,B の重量は,1 m あたりそれぞれ約 110,150 g,フリックロックは 17 g であった.アルミパイプの長さは,調査の目的,運搬方法の制約などにより,自由に決めればよい.継ぎ手部分の重複を 10 cm とすれば,2 m のパイプ A,B で,3.9 m の長さにすることができる.この場合,537 g になる.パイプ A の両端に,フリックロックを付け,その両端にパイプ B をつなぐことも可能であるが,入れ子のパイプ A,B とパイプ B を持たなければならない.この繰り返しで,何本でもつなぐことができるが,携帯性は落ちてくる. また,より軽量なセットが希望であれば,試してはいないがフリックロック (小) が使えるだろう.この場合,肉厚 1 mm で外径 16 mm と 13 mm のアルミパイプが必要となる. アルミパイプの価格は,1 m あたり 500 円前後,フリックロック (大) は735 円であった (BLACK DIAMOND の補修品リスト5)では,$ 1.75 なので,高い!).後者は,BLACK DIAMOND を扱うスポーツ用品店で入手可能なはずである(輸入元は,ロストアロー6)).
受付日 2008.04.21 |
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Cambridge滞在記田中啓太 (理研 BSI / 学振 PD)
2007 年 9 月 28 日より 12 月 23 日まで,訪問研究員としてケンブリッジ大学動物学科行動生態グループに滞在してきましたので,この場を借りて報告させていただきます.動物学科は言わずと知れた Nick Davies 教授 (以下 Nick) を始め,奈良で行われた鳥学会 2004 年度大会で講演なさっていた Rebecca Kilner 博士 (以下 Becky) など,托卵鳥や親子間相互作用研究のみならず,世界的に見ても鳥類学,行動生態学を牽引しているといっても過言ではない研究者が沢山おり,非常に刺激的な時間を過ごすことができました.彼らがどのように研究生活を送っているかを伝えるだけでなく,これから留学を考えている方にとっても有用になるような報告にしたいと思います.
ことの発端を遡れば思った以上に時間が経っていて,2003 年に奈良女子大学の高須さんがヨーロッパの托卵研究者との共同研究を行う一環でケンブリッジに赴き,Becky に私が行っているジュウイチの研究を宣伝してくださったことでした.彼女とはそれからときどきメール交換をするなどしていたのですが,大きな転機は 2004 年にフィンランドで行われた国際行動生態学会 (ISBE) で訪れました.彼らは私の発表を非常に楽しみにしてくれており (Nick は座長,Becky は次の発表者でした),発表後も一緒に飲んで話したりと,非常に濃密な時間を共有しました (詳しくはこちらをご覧ください).その後,2006 年の次の ISBE 終了後に Becky にお願いしてケンブリッジを案内してもらったときに,慎重にタイミングを見計らって話を切り出したところ,あっさりと「お金を払わなくて良いなら大丈夫」という返事をもらいました.そんな経緯で 2007 年の春に Nick にメールを出してお願いし,快諾していただいて実現に至りました.相変わらず Nick はあふれんばかりのホスピタリティで非常に暖かく迎え入れてくださり,身重の妻を残して単身で外国に来た不安を大幅に緩和してくれました.
名物とも言えるのは毎日のように行われるセミナーでした.これは大学側が公式に執り行っているようで,動物学科では主に,進化・行動セミナー,Evo-Devo セミナー,生態学ランチタイムセミナー,そして tea talk の 4 種類が開催されていました.行動生態グループの他にもアカシカやミーアキャットの Tim Clutton-Brock 教授率いる大型動物研究グループ,餌請い数理モデルの Rufus Johnstone 教授の行動進化グループなど,世界的にも超がつくほどの有名人が教鞭をとっているため,やはり世界中から研究者が集まってきて発表していきます.有名所で言えばニワシドリの John Endler 博士や,アリの教育行動を発見した Nigel Franks 博士などで,興味深い話を聞くことができました.私も拙い英語ながら発表させていただき,思った以上に評価していただいたようでした.そして,セミナーの後は近くのパブでおいしいビール.学科のすぐ近くには DNA の二重螺旋構造を解明したかの James Watson がまさに思いついた直後,共著者の Francis Crick に教えるために駆け込んだ The Eagle という有名なパブがあり,特に進化・行動セミナーがある火曜の夕方には行動生態学者でごったがえしていました.
ケンブリッジ大学には他にはオクスフォード大学にしか見られない,とてもユニークなシステムが存在します.それがカレッジです.町中にカレッジというものが散在しているのですが,創立は 14 世紀のものもあれば戦後もあり,規模も一様ではなさそう.研究室のメンバーが所属しているカレッジもそれぞれ違います.日本でカレッジというと短大か,専門学校か,小さな大学という使われ方が多いですが,その常識は覆されてしまいました.では,一言で言うと何かというと,「寮」だったのです.学生だけでなく,教授やポスドクたちも基本的にカレッジに在籍しており,ベッドとデスクのある部屋を割り当てられ,学期の間はそこで寝食を共にすることが義務づけられています.そういったカレッジでのイメージで有名なのがディナーではないでしょうか.さすがに 21 世紀にもなって毎晩正装してマナーに則って食事をしなければならないなんてことはないよ,と皆ジョークにしているのですが,よくよく聞いてみると実は曜日によっては夕食にはガウンを着ていなければいけなかったりして,今でもしっかり息づいている伝統のようでした.何回かランチに誘ってもらったのですが,高い天井の,築数百年の荘厳な食堂に蝶ネクタイをした給仕がいて,ビュッフェ形式の食事を取り分けてくれ,教員の食卓は学生用より一段床が高くなっているところにあったり,食後には数種類のチーズが石板の上に用意されていたりと,伝統が息づいているのは間違いなさそうでした. 「寮」と書きましたが,実はただの寮ではなく,学問や研究活動を積極的にオーガナイズしているという点が最も特徴的といえるでしょう.それは例えば授業のコマだったり,教授とのコネクションだったりと様々な形態があるようですが,最も身近な例は友人となったポスドクたちでした.彼らは本職の研究員としてカレッジに雇われており,自分の研究の他,学生たちに対して個人指導も行っています.非常に画期的だったのがその個人指導に対しては一人頭いくら,というように値段が決まっていて,かつ自分で増やしたりすることも出来る,という点でした.科学の研究というものは人が行うもので,そこには現実と教育という二つの大きな壁があると思います.つまり,若く,まだ業績もあまりない研究者だって普通に生活し,結婚して子供を育てなければならないし,自分の研究だけでなく指導する経験も積まなければいけません.また,これから研究を目指す若者をリクルートすることもそれぞれの分野にとっては大切なことですし,ポストに就いた人を必要以上に煩わせないというのも重要なことでしょう.これらのことを伝統という長い時間積み重ねられた経験に基づいて,非常に効率よく行っている,という印象を受けました.ひょっとしたら彼らが常に世界の第一線で活躍している秘訣はここにあるのかも知れません.
行動生態グループはほぼ全員が鳥の研究をしており,Nick も筋金入りの bird lover です.というわけで,研究室のメンバーによる恒例のバードウォッチングに連れて行ってもらいました.ケンブリッジから北東にまっすぐいったところにある Norfolk 州の,北海沿岸で真北に向いた海岸線にある Holkham 自然保護区です.早朝に Nick の家に集合し,いかにもイングランドの田舎らしい,放牧地の中を通る灌木の生け垣の間の曲がりくねった道を,車を飛ばして向かいました.ここに大群で塒を形成しているコザクラバシガン (pink-footed goose) の塒入りを見るのが一番の目的です.この時期のイングランドでは典型的な天候 (English weatherといい,天気の悪い日に街行く人が悪態をつくときに使っていました) で,吹きすさぶ小雨交じりの寒風の中を,荒れている北海を脇目に見渡す限りの海岸線を,渉禽たちを探しながら歩きました.さすが日本と同じ地理区分だけあり,日本では珍しい鳥が普通にいる (逆もまた然り) といった感じでしょうか.ちなみにコルリや,特にルリビタキはこちらでは相当な珍鳥らしく,1 羽でも現れようものなら,Nick 曰く,‘people go mad’ だそうです.午前中とは打って変わって午後は日が差し (これまた典型的),南向きの広葉樹林を,鳴禽たちを探しながらのんびりと散歩しました.夕方,陽も落ちてきて,かなり寒くなるまで粘ったのですが,残念ながら壮大な塒入りは見ることができませんでした.そして真っ暗な中,来た道を帰り,Nick の家で夕食をご馳走になりました.彼の家がどういう様子だったかは長くなるのでまた別の機会に.
受付日 2008.04.18 |
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ダーウィン便り(9):マングローブ奮闘記???
徳江紀穂子 (立教大・院理・生命理学)
ここで、少し調査にまつわる話。アカメテリカッコウの宿主の 1 種・マングローブセンニョムシクイの巣はコンパクトで小さめ (写真 1)。しかし、ダーウィン郊外のチャンネル・アイランドの干潟に行った時、1 つの巣にセンニョムシクイの雛 1 羽と卵、アカメテリカッコウの卵 3 個の巣を現地調査協力者のリチャード先生が見つけた (写真 2)。アカメテリカッコウの密度が高いのであろう。
受付日 2008.4.28 |
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新年度が始まりました。例年であれば、5/1 出版号は「飛び立つ!」と題して新しく(パーマネント職に)就職を決めた方に記事をお願いしているのですが、本年度はそのような方を見つけることができませんでした。まあ、鳥学者は平均して年に一人か二人くらいの就職率でしょうから(もしかして平均すると年一人以下?)、こういう年もあるでしょう。来年は豊作年になることを期待です (自分が早く就職しなさい、という突っ込みがありそうですが…)。それにしても、鳥学者、特に後継を育成することが多い大学教員の「個体群動態」はどういう状況なのかが気になります。個体群サイズが小さいこと、就職を決めた「親」世代の「死亡率」が低く「寿命(定年)」までほぼ生存することは分かりますが、現在、世代がうまく回っているのかよく分かりません。現在「親」である皆様なら、自分がどれくらいの reproductive success をあげたか分かっているでしょうから、何となく想像がつくのかもしれません。でも多分、個体群は少なくとも成長はしていないでしょうね。 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集長の百瀬宛 (mailto: ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。 |
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鳥学通信 No.20 (2008年5月1日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 百瀬 浩 (編集長)・山口典之 (副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・東條一史・時田賢一・和田 岳
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