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野外調査の Tips

海外留学記

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野外調査の Tips


便利グッズ:Gorillapod

松岡 茂 (森林総研北海道支所)

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写真 1. Gorillapod Original (左),SLR (中),ジョイントを付け加えたOriginal 改 (右).
林内でのフィールドワークのとき,たまにしか三脚を使う機会がないのなら,わざわざ重い三脚を持ち歩く気にはなかなかならない.小型の三脚もあるが,脚の短さによる高さの制約があり,使えない場面も多い.そんなとき,お勧めなのが
JOBY Gorillapod シリーズである.Gorillapod Original (小型),SLR (中型),SLR-ZOOM (大型) の 3 種がでているが (写真1),SLR-ZOOM は,実際の使用に当たっては,別途雲台が必要になるので,あまりお勧めではない.Gorillapod の第一の特徴は,脚がプラスチックのポールジョイントでつながってできていることである.このため,かなり自由に脚の形を変えることができ,木やポールなどに容易にからみつかせることができる.ジョイントの周囲には細いゴム?(写真では灰色の部分) が巻かれているが,滑り止めの役を果たしている.また,小さく軽いので,ザックに入れても苦にならない (Original で 15 cm,45 g,SLR は 25 cm,165 g).

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写真 2. Gorillapod SLR に,SANYO Xacti DMX-HD1000 (310 g) をつけて撮影.
 写真 2 は,SLR にムービーカメラをつけての撮影で,上側 2 本の脚で木を抱き,他の脚で,下向きの力を受けている.まさに,両脚と尾で木にとりつく,キツツキスタイルである.カメラは,首の部分の2個のボールジョイントにより,向きや仰角を自由に変えることができる.私は,無人での動画撮影や,コンパクトカメラの手ぶれ防止装置が効かないような暗い場所でのセルフタイマーによる撮影などに利用している.SLR も Original も,クイックシューをはずしてカメラ等にねじ込み,ヘッド部に差し込んで取り付けることができる.しかし,本体が小さいので,シューをはずすよりカメラを保持したまま Gorillapod をまわしてねじ込むほうが早いであろう.

fig3
写真 3. Original 改に,Roland R-09 (210 g) をつけて録音.
 写真 3 は,Original に録音機をのせての録音で,手で持って録音するときのノイズを軽減するために使用している.録音機本体ではなく,マイクをつけるということも可能である.この木の直径は約 16 cm で,ほぼ Gorillapod の使用限界に近い太さである.この Original は,他の Original の脚からはずした5個のジョイントを各脚に,また首の部分にも 1 個を付け足したものである (ジョイントは,それなりの力で引っ張るとはずれる).ただ,ジョイントを付け足したからといって,より太い木に巻きつけることができるというわけではない.ジョイントの個数と大きさは,それなりに計算されていると思われた.

 巻きつける木が存在する森林の中での,Gorillapod の使い勝手はかなりよいといえる.もちろん,カメラ撮影等に適した場所に小径木があるとは限らない.しかし,大径木があれば,細いロープ2本を上側2本のそれぞれの脚の先端部のくびれに結び,木の周囲にロープをまわして結び固定できる.細い木にとりつける場合に比べて多少時間はかかるが,この方法では木の太さは制約にはならない.

 Gorillapod はジョイントのフリクションのみで保持しているだけなので,本格的な三脚に比べると安定性にかける.しかし,使い方次第では非常に便利な道具になり得る.値段も使い勝手のよさを考えれば妥当と思われる.



受付日 2008.04.03


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調査用具:伸縮ポールの製作

松岡 茂 (森林総研北海道支所)

鳥の調査では,さまざまな場面でポールを使うことが多い.長いポールが必要な場合には,同径のポールをつなぐか,異径のパイプを引き出す伸縮タイプを使う場合が多い.同じ径のポールを何本も持たなければならない前者に比べ,入れ子構造の伸縮ポールは携帯性に優れるので,多くの研究者はこのタイプを野外調査に持参しているのではないだろうか.伸縮ポールには,釣竿やステンレスの物干し竿,アルミ製の旗用ポールなどがある.前者は軽いがよくしなる.いっぽう,物干し竿や旗を掲揚するためのポールは,その目的からして,大きな力に耐え,しなりも少ないが,当然重い.これらは,それぞれの目的のために市販されている品物であり,鳥の調査用具としてぴったりはまる場合もあるが,使い勝手が悪かったり,重すぎたり,長さが足りないなど,使いにくいときもある.

 調査に使う伸縮ポールの選択肢を広げるため,釣竿と物干し竿の中間あたりに位置し,より自由度の高い伸縮ポールの制作方法を紹介したい.このポールは,BLACK DIAMOND フリックロック エクスペディションポール1)の伸縮機構 (フリックロック) に触発されて製作を思いついた.フリックロックは,1 動作で任意の位置で,しかも確実にポールをロックすることができるのが特徴である2).このスキー用ポールの材質はアルミ合金のようで,その用途からみても相当の強度を持つと思われる.ただ,同等のパイプの入手は困難と思われたので,ホームセンター等で売っているアルミパイプを代替品とした (このパイプが純アルミニウムかアルミ合金かは不明であるが,多様な材質のアルミパイプがあり,強度も大きく異なるらしい).製作に使用した材料,工具は下表のとおりである.

材 料 工 具
アルミパイプ A (外径 18 mm,肉厚 1 mm)
アルミパイプ B (外径 15 mm,肉厚 1 mm)
BLACK DIAMOND フリックロック (大)
金切り鋸
テーパーリーマ3)
棒やすり (丸または半丸)
チューブカッター (アルミパイプ切断用,もちろん金切り鋸でも切断可)4)

fig4
写真 1.右:アルミパイプの溝きりを終えた状態 (素人の工作であるのは一目瞭然).中:フリックロックをかぶせた状態,左:アルミパイプ B をフリックロックで固定した状態.
 制作工程は,以下のとおりである.工作は,簡単で,一組つくるのに 10 分もかからない.

  1. 金切り鋸を使い,アルミパイプ A の端から,長軸方向に沿って約 3 cm の切れ目を 1 本入れる.続いて,4 ~ 5 mm 横にもう 1 本切れ目をいれる.2 本の切れ目に挟まれた細い部分を 2,3 回折り曲げて除去する.
  2. 細い溝の最奥部にリーマをいれ,丸穴を作る (エクスペディションポールについていたので,穴をあけた.この丸穴の役割は不明であるが,割れ防止のための穴と想像している.もしかすると,今回用いた材料ではこの工程は不要かもしれない).
  3. ばりを棒やすりで落とし,すべての角を軽く落としておく (写真 1 の右).
  4. フリックロックをパイプにかぶせる.ロックには,方向性がある.挿入止め用の内側の縁がないほうからかぶせる.ロックのねじを緩めておくと,かぶせやすい.フリックロックは,ポールの割れ目を狭くする形で挿入されており,簡単には抜けないので,とくに接着剤を使ってフリックロックをパイプに固着させる必要はない (写真 1 の中).
  5. アルミパイプ B をパイプ A 挿入し,4) で緩めたねじを締め,フリックロックのしまり具合を調節する.上下方向の力が加わるような使い方でなければ,ロックの強さはそれほど強くする必要はないであろう (写真 1 の左).

入手したアルミパイプ A,B の重量は,1 m あたりそれぞれ約 110,150 g,フリックロックは 17 g であった.アルミパイプの長さは,調査の目的,運搬方法の制約などにより,自由に決めればよい.継ぎ手部分の重複を 10 cm とすれば,2 m のパイプ A,B で,3.9 m の長さにすることができる.この場合,537 g になる.パイプ A の両端に,フリックロックを付け,その両端にパイプ B をつなぐことも可能であるが,入れ子のパイプ A,B とパイプ B を持たなければならない.この繰り返しで,何本でもつなぐことができるが,携帯性は落ちてくる.

また,より軽量なセットが希望であれば,試してはいないがフリックロック (小) が使えるだろう.この場合,肉厚 1 mm で外径 16 mm と 13 mm のアルミパイプが必要となる.

アルミパイプの価格は,1 m あたり 500 円前後,フリックロック (大) は735 円であった (BLACK DIAMOND の補修品リスト5)では,$ 1.75 なので,高い!).後者は,BLACK DIAMOND を扱うスポーツ用品店で入手可能なはずである(輸入元は,ロストアロー6)).

  1. http://www.bdel.com/gear/fl_expedition.php
  2. http://www.lostarrow.co.jp/support/ti_105.html
  3. (参考) http://www.engineer.jp/products/tr01_04/tr01_04.html (アルミパイプの1面のみの穴あけなので,TR-03程度のリーマがよい)
  4. (参考) http://www.hozan.co.jp/catalog/sessaku/K-203.htm (アルミパイプの切断なので,D.I.Y. 店の安価なもので十分)
  5. http://www.bdel.com/gear/spare_parts_mountain.php
  6. http://www.lostarrow.co.jp/index.html


  7. 受付日 2008.04.21




海外留学記


Cambridge滞在記

田中啓太 (理研 BSI / 学振 PD)

 2007 年 9 月 28 日より 12 月 23 日まで,訪問研究員としてケンブリッジ大学動物学科行動生態グループに滞在してきましたので,この場を借りて報告させていただきます.動物学科は言わずと知れた Nick Davies 教授 (以下 Nick) を始め,奈良で行われた鳥学会 2004 年度大会で講演なさっていた Rebecca Kilner 博士 (以下 Becky) など,托卵鳥や親子間相互作用研究のみならず,世界的に見ても鳥類学,行動生態学を牽引しているといっても過言ではない研究者が沢山おり,非常に刺激的な時間を過ごすことができました.彼らがどのように研究生活を送っているかを伝えるだけでなく,これから留学を考えている方にとっても有用になるような報告にしたいと思います.

fig5 fig6 fig7
ケンブリッジで最も有名な建物.King’s College Chapel. ケンブリッジのプライド (その1).Charles Darwinの肖像画. 2004 年にフィンランドで行われた ISBE にて.ボートクルーズでビール

 ことの発端を遡れば思った以上に時間が経っていて,2003 年に奈良女子大学の高須さんがヨーロッパの托卵研究者との共同研究を行う一環でケンブリッジに赴き,Becky に私が行っているジュウイチの研究を宣伝してくださったことでした.彼女とはそれからときどきメール交換をするなどしていたのですが,大きな転機は 2004 年にフィンランドで行われた国際行動生態学会 (ISBE) で訪れました.彼らは私の発表を非常に楽しみにしてくれており (Nick は座長,Becky は次の発表者でした),発表後も一緒に飲んで話したりと,非常に濃密な時間を共有しました (詳しくはこちらをご覧ください).その後,2006 年の次の ISBE 終了後に Becky にお願いしてケンブリッジを案内してもらったときに,慎重にタイミングを見計らって話を切り出したところ,あっさりと「お金を払わなくて良いなら大丈夫」という返事をもらいました.そんな経緯で 2007 年の春に Nick にメールを出してお願いし,快諾していただいて実現に至りました.相変わらず Nick はあふれんばかりのホスピタリティで非常に暖かく迎え入れてくださり,身重の妻を残して単身で外国に来た不安を大幅に緩和してくれました.

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下宿のあった Tenison Road.はっきり言って,あまりきれいではありません.
 さすがに世界中から人が集まるだけあり,大学のシステム自体が留学生に優しい作りになっていました.非常に助かったのが部屋探しで,大学の公式ウェブサイト上に下宿探しページがあり,期間,人数,金額などを登録すると物件情報を e メイルで定期的に自動配信してくれます.ただ,他人との同居は細心の注意が必要ですし,やはり住む場所を決めるにはそれなりに時間と労力がかかるので,最初は宿を長めに予約して落ち着いて探すのが良いでしょう.私は運良く学科から自転車で 10 分ほどのところにリーズナブルな宿を見つけることができました.また,多少高くはありますが月に £ 100,bench fee というものを払えば公式な訪問研究員として受け入れられ,ID カードとデスクを持つだけでなく,大学が提供する基本的なサービスを全て受けることできるようになり,また,カレッジ (後述) 含め,ほぼ全ての大学関係の建物にフリーパスになります (残念ながらこの権利を完全に行使するには至りませんでしたが).

fig9
さあtea timeだ.
 最初の重要な連絡事項は「お茶の時間」でした.研究棟の最上階には tea room があり,専属のアルバイトもいて,20 ペンスという破格の値段でとてもおいしいお茶を提供しています.もともとあえて狙ってコミュニケーションの場として設けてあり,茶飲み話だったり,研究に関するミーティングだったり,本や論文を読んだり,と基本的に人が途絶えることはあまりないのですが,どこの研究室でもお茶の時間を決めているようでした.必ずしも毎回参加したわけではないのですが,行動生態グループでは午前中は 11 時,午後は 4 時で,時間になると誰かがやってきてドアをノックし,’How about tea!?’, ‘Nice!’ といったような挨拶の後は皆で連れだって tea room に行きます.だいたいどこのグループでも集中力が切れて小腹が空いてくるタイミングは似たようなものらしく,大概は混雑していて騒々しく,30 センチ以上離れると話はほとんど聞き取れないのですが,馴れてくるとだんだん落ち着いてコミュニケーションがとれるようになりました.主に「?の最新号にこんな論文が出てた」とか,「どこの誰それがこんなデータを取ったらしい」,「レフェリーにこんなこと言われた」といった話が多いのですが,興味深かったのは,一緒に連れ立ってきてもテーブルに座るときは男女の境界線が自然にでき,男性はまじめな顔をして研究などのまじめな話をしているのに対し,女性たちは研究に関する話はさっさと終わらせ,それぞれネタを披露しあってずっとげらげら笑っていることが多い,という不思議な性差でした.

 名物とも言えるのは毎日のように行われるセミナーでした.これは大学側が公式に執り行っているようで,動物学科では主に,進化・行動セミナー,Evo-Devo セミナー,生態学ランチタイムセミナー,そして tea talk の 4 種類が開催されていました.行動生態グループの他にもアカシカやミーアキャットの Tim Clutton-Brock 教授率いる大型動物研究グループ,餌請い数理モデルの Rufus Johnstone 教授の行動進化グループなど,世界的にも超がつくほどの有名人が教鞭をとっているため,やはり世界中から研究者が集まってきて発表していきます.有名所で言えばニワシドリの John Endler 博士や,アリの教育行動を発見した Nigel Franks 博士などで,興味深い話を聞くことができました.私も拙い英語ながら発表させていただき,思った以上に評価していただいたようでした.そして,セミナーの後は近くのパブでおいしいビール.学科のすぐ近くには DNA の二重螺旋構造を解明したかの James Watson がまさに思いついた直後,共著者の Francis Crick に教えるために駆け込んだ The Eagle という有名なパブがあり,特に進化・行動セミナーがある火曜の夕方には行動生態学者でごったがえしていました.

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左奥に座っているのが Dr. John Endler です. The Eagle の看板 (プライドその 2) Trinity College の門.ヘンリー 8 世が鎮座しているが,元々持たされていた金の杖はなくなり,代わりに椅子の脚を持たされている.誰がいつ,どのように,何の目的でしたかはケンブリッジでも最大の謎の一つと言われている.

 ケンブリッジ大学には他にはオクスフォード大学にしか見られない,とてもユニークなシステムが存在します.それがカレッジです.町中にカレッジというものが散在しているのですが,創立は 14 世紀のものもあれば戦後もあり,規模も一様ではなさそう.研究室のメンバーが所属しているカレッジもそれぞれ違います.日本でカレッジというと短大か,専門学校か,小さな大学という使われ方が多いですが,その常識は覆されてしまいました.では,一言で言うと何かというと,「寮」だったのです.学生だけでなく,教授やポスドクたちも基本的にカレッジに在籍しており,ベッドとデスクのある部屋を割り当てられ,学期の間はそこで寝食を共にすることが義務づけられています.そういったカレッジでのイメージで有名なのがディナーではないでしょうか.さすがに 21 世紀にもなって毎晩正装してマナーに則って食事をしなければならないなんてことはないよ,と皆ジョークにしているのですが,よくよく聞いてみると実は曜日によっては夕食にはガウンを着ていなければいけなかったりして,今でもしっかり息づいている伝統のようでした.何回かランチに誘ってもらったのですが,高い天井の,築数百年の荘厳な食堂に蝶ネクタイをした給仕がいて,ビュッフェ形式の食事を取り分けてくれ,教員の食卓は学生用より一段床が高くなっているところにあったり,食後には数種類のチーズが石板の上に用意されていたりと,伝統が息づいているのは間違いなさそうでした.

 「寮」と書きましたが,実はただの寮ではなく,学問や研究活動を積極的にオーガナイズしているという点が最も特徴的といえるでしょう.それは例えば授業のコマだったり,教授とのコネクションだったりと様々な形態があるようですが,最も身近な例は友人となったポスドクたちでした.彼らは本職の研究員としてカレッジに雇われており,自分の研究の他,学生たちに対して個人指導も行っています.非常に画期的だったのがその個人指導に対しては一人頭いくら,というように値段が決まっていて,かつ自分で増やしたりすることも出来る,という点でした.科学の研究というものは人が行うもので,そこには現実と教育という二つの大きな壁があると思います.つまり,若く,まだ業績もあまりない研究者だって普通に生活し,結婚して子供を育てなければならないし,自分の研究だけでなく指導する経験も積まなければいけません.また,これから研究を目指す若者をリクルートすることもそれぞれの分野にとっては大切なことですし,ポストに就いた人を必要以上に煩わせないというのも重要なことでしょう.これらのことを伝統という長い時間積み重ねられた経験に基づいて,非常に効率よく行っている,という印象を受けました.ひょっとしたら彼らが常に世界の第一線で活躍している秘訣はここにあるのかも知れません.

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Official visiting scholar 用デスク (普通の空きデスクです). 北海.見たとおり,ひたすら寒い. 寒くて暗いけれど,不思議と暖かい光.

 行動生態グループはほぼ全員が鳥の研究をしており,Nick も筋金入りの bird lover です.というわけで,研究室のメンバーによる恒例のバードウォッチングに連れて行ってもらいました.ケンブリッジから北東にまっすぐいったところにある Norfolk 州の,北海沿岸で真北に向いた海岸線にある Holkham 自然保護区です.早朝に Nick の家に集合し,いかにもイングランドの田舎らしい,放牧地の中を通る灌木の生け垣の間の曲がりくねった道を,車を飛ばして向かいました.ここに大群で塒を形成しているコザクラバシガン (pink-footed goose) の塒入りを見るのが一番の目的です.この時期のイングランドでは典型的な天候 (English weatherといい,天気の悪い日に街行く人が悪態をつくときに使っていました) で,吹きすさぶ小雨交じりの寒風の中を,荒れている北海を脇目に見渡す限りの海岸線を,渉禽たちを探しながら歩きました.さすが日本と同じ地理区分だけあり,日本では珍しい鳥が普通にいる (逆もまた然り) といった感じでしょうか.ちなみにコルリや,特にルリビタキはこちらでは相当な珍鳥らしく,1 羽でも現れようものなら,Nick 曰く,‘people go mad’ だそうです.午前中とは打って変わって午後は日が差し (これまた典型的),南向きの広葉樹林を,鳴禽たちを探しながらのんびりと散歩しました.夕方,陽も落ちてきて,かなり寒くなるまで粘ったのですが,残念ながら壮大な塒入りは見ることができませんでした.そして真っ暗な中,来た道を帰り,Nick の家で夕食をご馳走になりました.彼の家がどういう様子だったかは長くなるのでまた別の機会に.

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冬の朝.木々の枝も,芝生も,全てが霜におおわれている.
 イギリスという国はメキシコ暖流のお陰で暖かいために一見わかりにくいのですが,日本近辺で言えばサハリン島やカムチャツカ半島と同じぐらいの緯度に位置しています.そんなわけで基本的に太陽の軌道は低いところで,ぐるりと廻る方角の角度で日照時間を稼いでいます.さらに,12 月にもなると,朝に明るくなるのは 8 時ぐらい,午後も 3 時を過ぎるとどんどん暗くなっていきます.それはそれで趣深いのですが,馴れるまでは注意が必要かも知れません.特にサマータイムが終わってすぐの 11 月は天気が悪く,暗さと天気の悪さで気分が停滞してしまい,わかっていれば対処できたかと思うと少しもったいない気がします.ただ,12 月に入ると街は活気を取り戻してきます.もともとクリスマス自体,英語では Yule Tide と言われている古ゲルマンの冬至の邪気払いのお祭りを布教のためにキリスト教に取り込んだのが起源であるといわれています.あまり派手ではないイルミネーションも暗さとの対比でとても眩しく,そして暖かく街を照らしており,とても幻想的でした.

fig17
Cheers!
 最後になりますが,彼らに対して持っていた最も大きな疑問は,なぜあのようなエレガントな論文を量産できるのか,というものでした.もちろん最大の利点は母語の強みだと思います.Nature や Science の論文を書くのに,我々が科研費や学振の申請書を書くぐらいの努力で済んでいるのかも知れません.しかし,データを取るのは苦労していたり (もちろん,フィールドにはアシスタントがいて,単独でデータを取らなければならない我々よりは大分ましですが),「ランダムエフェクトって結局何!?」と解析に悩んでいたりと,悩み自体は我々とそう変わらないと言えます.今回,短いながらもケンブリッジに滞在し,彼らとふれあったことで一つ思うのは,tea room での取り留めのない会話だったり,パブでの熱めの議論だったり,そういった議論が活発になりがちな場が制度として与えられていることが大切なのではないか,ということです.そしてその潤滑油としての紅茶とビールがあり,確かに大きく作用しているな,という結論で締めたいと思います.ありがとうございました.



受付日 2008.04.18


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連載


ダーウィン便り(9):マングローブ奮闘記???

徳江紀穂子 (立教大・院理・生命理学)

fig18
写真 1. マングローブセンニョムシクイとその巣.
不思議な縁がきっかけで、私は上田研に所属することになりオーストラリア・ノーザンテリトリーでアカメテリカッコウとその宿主2種のセンニョムシクイ類の研究チームと共に調査を始めて今年で 2 年目になる。1 年に 2 回、3 ヶ月間ダーウィンに滞在し調査を進めている。ダーウィンは、本当に暑い。この時期、朝夕は非常に過ごしやすい 21 度前後だが、最高気温は、毎日 33 度にもなる。しかし、調査には長袖 (日焼け防止・蚊よけのため?!でも容赦なく服の上から血を吸われている)・長ズボン・帽子に長靴。この格好で自転車に乗りフィールドに行っていたのでかなり怪しいアジア人である。先住民のアボリジニの人達には、すっかり蟹捕りだと勘違いされ、「今日は、捕れたか?」と声をかけられる始末だ。

 ここで、少し調査にまつわる話。アカメテリカッコウの宿主の 1 種・マングローブセンニョムシクイの巣はコンパクトで小さめ (写真 1)。しかし、ダーウィン郊外のチャンネル・アイランドの干潟に行った時、1 つの巣にセンニョムシクイの雛 1 羽と卵、アカメテリカッコウの卵 3 個の巣を現地調査協力者のリチャード先生が見つけた (写真 2)。アカメテリカッコウの密度が高いのであろう。

fig19
写真 2. トリプル托卵.右上の斑紋付卵がマングローブセンニョムシクイのもの.その下が白い幼綿羽をまとった雛と卵殻.右の三つがアカメテリカッコウの卵.
 そんなアカメテリカッコウの托卵戦略について疑問を感じることがある。宿主のセンニョムシクイ類が何らかの原因で放棄した巣 (大抵 1 週間以上、親鳥の活動が確認されていない) に托卵する。一番驚いたのは、卵が既に腐敗して割れている巣にカッコウが托卵したことである。

fig20
写真 3. 低い木にかけられた巣.
 干潟で調査をしていると潮の満ち引きの影響を受ける。その影響を受けるのは、調査をしている私たちだけでなく巣を低めに造巣してしまった宿主達も同じだ。新月・満月の時、8メートルもの潮が満ちてくる時がある。そうすると干潟でも膝上ぐらいの水位になるので、高さ1メートル未満の巣 (写真 3) は浸水してしまう。運悪くその時期にまだ巣に居る雛たちは、溺れ死んでしまう。去年は、マングローブセンニョムシクイの巣でカッコウの雛を排除するのには成功したのに、3 日後に宿主の雛は潮で溺れ死んでしまった。宿主はカッコウには勝ったのに、自然の力には勝てなかったのだ。そんな話をリチャード先生に「熱く?!」語っていたら、君ほど調査対象に感情移入をしている人間は初めてだと言われてしまった。確かに子供の頃スピルバーグの映画 E.T. を観て、上映 15 分位のところで E.T. が可哀そうと言って泣き始めた私を見て、母が呆れながらもハンカチを渡してくれた事を思い出した。



受付日 2008.4.28


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編集後記


 新年度が始まりました。例年であれば、5/1 出版号は「飛び立つ!」と題して新しく(パーマネント職に)就職を決めた方に記事をお願いしているのですが、本年度はそのような方を見つけることができませんでした。まあ、鳥学者は平均して年に一人か二人くらいの就職率でしょうから(もしかして平均すると年一人以下?)、こういう年もあるでしょう。来年は豊作年になることを期待です (自分が早く就職しなさい、という突っ込みがありそうですが…)。それにしても、鳥学者、特に後継を育成することが多い大学教員の「個体群動態」はどういう状況なのかが気になります。個体群サイズが小さいこと、就職を決めた「親」世代の「死亡率」が低く「寿命(定年)」までほぼ生存することは分かりますが、現在、世代がうまく回っているのかよく分かりません。現在「親」である皆様なら、自分がどれくらいの reproductive success をあげたか分かっているでしょうから、何となく想像がつくのかもしれません。でも多分、個体群は少なくとも成長はしていないでしょうね。
 まあそんな話題はさておき、記事不足が懸念された今号にはおもしろい記事が四つも投稿されました。有り難いことで、鳥学通信が会員の皆様からの投稿で成り立っていることを実感します。久しぶりの連載、ダーウィン便りに加え、野外調査 Tips には森林での調査で威力を発揮する自在三脚と、継ぎ棒式で自由に長さを調節できるポールの情報が寄せられました。また、海外留学記は理研の田中さんによるもので、鳥類学・生態学のメッカであり続けるケンブリッジ大の様子が詳しく綴られています。ケンブリッジに限らず、将来留学を考えている学生さんにはとても参考になるのではないでしょうか。(副編集長)



 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集長の百瀬宛 (mailto: ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。
 鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行します。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。







鳥学通信 No.20 (2008年5月1日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
百瀬 浩 (編集長)・山口典之 (副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・東條一史・時田賢一・和田 岳
Copyright (C) 2005-08 Ornithological Society of Japan

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