鳥学通信 no. 35 (2012.5.16発行)
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IOCシンポジウム申し込み〆切迫る!上田恵介
立教大学
新緑の候、会員の皆さんはいかがお過ごしですか。鳥たちの繁殖も始まって、調査にお忙しい会員もおられると思います。 さて、第26回国際鳥類学会議(IOC-26)まであと二年と少しになりました。準備委員会もそろそろ始動し始めています。今年の鳥学会100周年記念大会では、同時にIOCの科学プログラム委員会(SPC=Science Program Committee、委員長Erik Mathyson)が開催されます。海外からの12名に国内委員の4名を加えた16名で、IOCでのプレナリー講演者とシンポジウムプログラムを決定します。〆切が6月1日とあと3週間です。 シンポジウムは2人の基調講演者(key note speaker)と数名の講演者の講演から構成されます。2名の企画者は必ず別大陸(または別の国)の2名で構成してください(企画者は基調講演者を兼ねてもかまいません)。どうぞふるって、企画をお寄せください。またプレナリー講演者の推薦も受け付けています (http://ioc26.jp/)。
受付日2012.5.11
【topに戻る】 鳥の学校“論文を書こう!”に参加して溝田浩美
人と自然の博物館地域研究員
今回参加させていただいた鳥の学校「論文を書こう!」は、昨年の12月3日、4日に、大阪市立自然史博物館で行われ、講師はバードリサーチ代表の植田睦之先生と、国立科学博物館の濱尾章二先生が務めてくださいました。以前より参加したかった鳥の学校が関西で行われるということで初めて参加いたしました。 私は“人と自然の博物館の地域研究員”という肩書を頂いておりますが、この地域研究員というのは、地域の研究員、すなわちアマチュアということになります。普段は子どもたち相手に児童館で働いております。 私が鳥に関わるようになったのは10年ほど前、自宅前の鉄塔下にいくつかの鳥の頭が落ちていたため、近所の方が警察を呼び、ちょっとした騒ぎになったのが始まりでした。人と自然の博物館にお願いし、結局、ハヤブサの仕業であることが分かったのですが、鉄塔の下に落ちている食べ跡の足や翼の残骸を回収していかれた姿には少なからずカルチャーショックを受けました。その頃の私は鳥に対しての知識はほとんどなく、ハヤブサが、どの様な鳥なのか、この時初めて知りました。 次の年の秋にもハヤブサが姿を現したことを伝えると、羽根などの残骸の回収をたのまれ、今度は私がカルチャーショックを与える側に回ることになりました。元々、野外での活動や生き物が大好きだった私が鳥の世界の虜になるのに時間はかかりませんでした。数年間は鳥に魅せられ夢中になって観察や回収を行い、とにかく意味もなくノートに書きためました。 この10年、鳥にとりつかれ過ごしてきましたが、私がこの世界でやっていくにはあまりに力不足であることを痛感し、次の10年はまた違った方向へ進もうと決心し、鳥の世界からは足を洗うことにしました。しかし手元には数10冊の訳もなく書き留めたノートが残り、これをゴミにするには忍びなく、何とか形に出来ないかと今回の「論文を書こう」に参加しました。 今回のセミナーでは幸運にも私のデータがグループディスカションの題材として使って頂けることになりました。事前に発表のためのやり取りが始まりましたが、まず“その研究はどのような点でユニークか、意味があるか”という質問の意味が分からず、とんでもない的外れな返答をし、担当してくださった濱尾先生は随分と困惑されたことと思います。発表するパワーポイントも、とりあえず盛り込めるものは出来るだけ盛り込んだものを作りましたが、余分なものをそぎ落とし、ポイントを絞ることによって、かなりスリムなものになりました。その上でグラフを作り直し、必要なものを新たに加えていきました。その間、先生からは素人の私にもわかるように、噛み砕いた丁寧なコメントを何度も頂きました。 セミナー初日は“論文とは何か”ということから始まりましたが、私が今まで抱いていた論文に対する考えを根底から覆すもので、いくつもの問題点が見つかりました。研究をされている方にとっては当たり前のことだと思いますが、私は論文に書くべきこと、書いてはいけないことの区別がついておらず、方法、結果、考察も曖昧でした。そして一番重要なポイントである“その調査、その結果にはどのような科学的意味があるのか”ということを私の調査では考えてこなかった点でした。(これらのことに関しては濱尾先生の書かれた“フィールドの観察から論文を書く方法”が非常に参考になりました。) 二日目は、前日行った4名の発表をもとに、2グループに分かれてディスカッションを行いました。鳥の調査研究に関して他の方と討論する機会のなかった私にとって、とても新鮮な経験でした。終了後もなかなか解散とならず、多くの質問が上がり、鳥の話は尽きませんでした。 もう一点、私にとって非常に大きな収穫であったのが、初日18時から行われた懇親会への出席でした。グループディスカション同様、鳥関連の懇親会は初めての参加で、主婦の方も何人かおられ、今まで点で活動してきた私も線としてつながっていくような感覚を味わいました。先生方を交え、主婦同士、鳥の話で盛り上がれたことは初めてで、本当に楽しい時を過ごすことが出来ました。(普通、主婦同士で鳥の話で盛り上がることは、まずありません。)足を洗うためにまとめているデータが、新たな世界に結びつき、また素敵な人々との出会いを作ることになるという何とも皮肉なことになってしまいました。 その後“鳥の学校”は“鳥の放課後”となり、解析方法やコンピュータ操作を教えてほしいなど、参加者からの質問に答えるかたちで続いています。私もまとめたデータに対するコメントを頂いており、何故ここまでして頂けるのかと、申し訳ない気持ちでいっぱいです。丁寧にご指導くださっている先生方には心より感謝いたしております。そして、もう少し鳥の世界に身を置きたいと心が揺らぐ結果になりましたが、それほどこの鳥の学校は私にとって大きな意味を持ち、楽しいものでした。ありがとうございました。 |
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受付日2012.4.28【topに戻る】
報告・第4回鳥の学校「論文を書こう!」日本鳥学会企画委員会
鳥の学校は、研究の意欲はあるが調査や分析、論文化のしかたがよくわからないという会員を対象に、日本鳥学会(企画委員会)が開催しているセミナーです。 第4回は、論文のまとめ方をテーマとし、NPO法人バードリサーチとの共催で、大阪市立自然史博物館の会場提供と後援を得て、2011年12月3日(土)から4日(日)に行われました。講師は、バードリサーチ代表の植田睦之氏と国立科学博物館動物研究部研究主幹の濱尾章二氏にお願いし、参加者は22名でした。 1日目は、論文とはどのようなものか、論文の書き方、まとめる上での注意点、論文掲載までの流れについて講義があり、その後に4名の参加者が、論文にしようと考えているデータに基づく研究発表を行いました。夜には懇親会で交流を深めました。2日目は、前日の研究発表をどう論文にまとめるかについて、2班に分かれてグループディスカッションが活発に行われ、論文化の具体的な方向について実践的に学びました。
写真1~6はすべて黒田治男さん撮影。 参加者アンケートの結果、「論文を書く意欲が高まった」という感想が非常に多く、「今後、論文を書く上で非常に参考になった」、「論文化の筋道が理解できた」、「実際に受講者のデータを使って、論文の構成決定のシミュレーションができたのは良かった」等の意見があり、実践的な講座内容が参加者に役立ったことが覗えました。他には、「データ解析や検定の方法について知りたい」という意見が多く寄せられ、これについては講師の植田氏が、相関解析などのやり方のコンピュータ上の操作を見せる動画サイト「鳥の放課後」(http://www.ustream.tv/recorded/19005434)を開設し、フォローアップを行っています。 |
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受付日2012.4.28【topに戻る】
「鳥の学校」と「鳥の学校-テーマ別講習会-」について日本鳥学会・企画委員会
日本鳥学会(企画委員会)では、研究の意欲はあるが調査や分析、論文化のしかたがよくわからないという会員を対象とする入門型講座「鳥の学校」と、鳥学研究の推進をはかるための中上級編の講座「鳥の学校-テーマ別講習会-」を行っています。 入門型講座「鳥の学校」は、論文を書く技術を習得するための講義と演習を行うもので、科学論文の基本と構成、初歩の統計的検定、批判的な目で論文を解読する演習といった、基本的な内容の講座を繰り返し実施していきます。 中上級講座「鳥の学校-テーマ別講習会-」では、専門外の知識や技術、最新の統計解析手法などの習得、またそれらを通じた異分野交流の機会の提供など、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行います。これまでに行った4回のテーマ別講習会は、「僕らは標本に恋をする」2007年、「統計的解析・中級編」2008年、「実践!今日からはじめるDNA分析」2009年、「鳥の鳴き声を分析しよう」2010年(鳥学通信32号参照)で、2012年は「R統計学中級講座:統計モデリングとプログラミング」を予定しています。 今後も、入門型講座「鳥の学校」は適宜企画し、中上級講座「鳥の学校-テーマ別講習会-」は大会に接続した日程で開催していく予定です。案内は、学会ホームページや学会誌に掲載します。 |
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受付日2012.4.28【topに戻る】
-連載- ニューカレドニア通信 (1):ニューカレドニア調査までの経緯佐藤望
立教大学大学院理学研究科、日本学術振興会特別研究員DC2、Polish Academy of Science
本号よりニューカレドニアでの鳥類研究について連載する事となりました,立教大学の佐藤望です.本号ではニューカレドニアで調査するまでの経緯を紹介し,次号からはニューカレドニア調査の紹介をする予定です.本調査は非常に刺激的であり毎日が感動的でした.少しでもその感動を伝えられれば幸いです. ・はじめに 宿主の巣に卵を産みつけて子育てをさせるカッコウの「托卵」は古代より人々を魅了し,多くの研究が行われてきました.先人達の多くの研究成果によって,托卵に関する謎は次々と解明されてきましたが,いくつかは未解明のまま残されており,私たち研究者にとっても托卵研究はまだまだ魅力に満ちあふれています. 私が托卵に関わり始めたのは2006年からで,オーストラリア北部でアカメテリカッコウChalcites minutillusとその宿主であるハシブトセンニョムシクイGerygone magnirostisの調査を立教大学の上田教授らと開始しました.当時はまだ学部生で,托卵に関する知識は乏しく,野外調査も初めてで右も左もわかりませんでしたが,将来を左右する発見をこの年にしました.托卵されたハシブトセンニョムシクイの巣でアカメテリカッコウのヒナはふ化すると,はじめは餌を与えられていたにもかかわらず,途中で巣外に捨てられてしまったのです(文献1). カッコウ属(Cuculus)やテリカッコウ属(Chalcites)のヒナは巣の中の宿主の卵やヒナをすべて巣外に放り出してしまうため,それを回避しようと托卵された卵を宿主が排除する事はよく知られています.しかし,托卵された卵がふ化してヒナになると,どんなに宿主のヒナと似ていなくても宿主は必ず育てるというのが,今までの常識でした.そのため,なぜ宿主によるヒナの排除行動が進化しないのかを説明するための先行研究はあります.しかし,ハシブトセンニョムシクイは托卵された卵は捨てないのに,ヒナになってから捨てるという行動をしたのです.「カッコウに托卵される鳥(宿主)は自身の子を守るため,カッコウの卵を排除する事はあってもカッコウのヒナを排除する事はない」という常識がこの年から崩れ始めました. ・モデルの実証 この発見をきっかけに私の人生プランは徐々に変わっていきました.もともと大学院に進学するつもりはなかったのですが,見つけてしまった宝箱(ヒナ排除行動の発見)を忘れる事もできず,宝箱の鍵(なぜこの行動が進化したのか)を求めて進学してしまいました. その後,数理モデルを用いて,なぜヒナ排除行動がハシブトセンニョムシクイ(後にマングローブセンニョムシクイGerygone levigasterでも同行動が発見される:文献2)で進化したのかという謎に迫りました.その結果,1つの巣に複数のメスが托卵する‘多重托卵’や宿主の‘クラッチサイズ’(一腹卵数)がヒナ排除に影響している事を示唆する事ができました(文献3).この仮説によると,多重托卵が多く,宿主のクラッチサイズが小さいほど,宿主のヒナ排除は進化しやすくなります. この仮説を野外で実証するため,修士課程ではニュージーランドに生息するニュージーランドセンニョムシクイGerygone igataの野外調査を行いました.この種はヨコジマテリカッコウChalcites lucidusに高頻度で托卵されており,宿主のクラッチサイズがヒナ排除をした同属の2種よりも大きい事がすでにわかっています.上記の仮説が正しければ,クラッチサイズが大きいため,ニュージーランドセンニョムシクイはヒナ排除が進化しにくいはずです. 調査期間が短かったため,満足なデータを得る事はできませんでしたが,少なくとも私が見つけた托卵された巣ではヒナ排除が確認できませんでした.また先行研究でもヒナ排除は確認されていません. これだけでは,仮説の実証には程遠いのですが,博士過程に進学するつもりがなかった私はここで研究を一旦終わらせ,一般企業に就職する事になりました.このまま普通の社会人の生活を送る事になるのだろうと私は信じて疑いませんでしたが,托卵の魅力は私の中でいつまでも消える事は無く,結局,研究に戻る事になりました. ・ニューカレドニアの調査開始 晴れて博士課程に進学した私はニュージーランドで調査をする計画を立てました.ニュージーランドセンニョムシクイが本当にヒナ排除をしないのかどうかを調べたかったからです.無事に学内の助成金が採用され,調査が可能となり,早速,修士過程でお世話になったカンタベリー大学のBriskie博士に調査の打診を行いました.そして予想外の返事が返ってきました.私が会社で働いている間に2人の研究者が托卵の研究を開始したため,同じ調査地で行うのは難しいというのです.予想外の展開に焦った私はすぐに代替地を探し始めました.人脈が全くない私は候補地(ニューカレドニアとバヌアツ)で研究して“いそう”な研究者に次々とメールを送りましたが,なかなか良い返事が返ってきませんでした.ようやく良い返事をもらえたのは,カレドニアガラスの研究で有名なHunt博士からでした.Hunt博士はニューカレドニアで調査している研究者の連絡先を教えて下さり,Hunt博士からもその研究者にメールを送って下さいました.その研究者というのが,Theuerkauf博士(以後ヨーン)であり,後に私の指導教官になって下さる方です. その後,何度もメールのやり取りをして調査許可などの各種手続きを済ませ,調査準備も終えて,2011年10月にニューカレドニアへと出発しました. ニューカレドニアの空の窓口である,トントゥータ国際空港に到着すると,ヨーンが迎えにきてくれていました.お互い初対面だったので,ちゃんと会えるかどうか不安でしたが,ヨーンはすぐに私を見つけてくれました. その日は1日中ヨーンやヨーンと同じポーランド科学アカデミー所属のローマン教授と3人でこれから始める托卵研究に関する話をしました.日本語ではせいぜい10分もあれば紹介できる内容を,拙い英語で1時間以上かけてなんとか紹介しました.終わった頃にはローマン教授は疲れ果てた様子でした.その後もずっと調査に関する話をおこないましたが,うまくコミュニケーションがとれません.後から振り返ると,ほとんど聞き取れていなかったと思います. 初めての国で初対面の人と何時間も研究の話をしたせいか,その日は疲れ果ててしまいました.明日からいよいよ調査開始です. 次号では調査開始時について寄稿します. 文献1 Sato, N. J., Tokue, K., Noske, R. A., Mikami, O. K. & Ueda, K. (2010) Evicting cuckoo nestlings from the nest: a new anti-parasitism behaviour. Biology Letters 6:67-69 文献2 Tokue, K. & Ueda, K. (2010) Mangrove Gerygones Gerygone laevigaster eject Little Bronze-cuckoo Chalcites minutillus hatchlings from parasitized nests. Ibis 152:835-839 文献3 Sato, N. J., Mikami, O. K. & Ueda, K. (2010) Egg dilution effect hypothesis: a condition under which parasitic nestling ejection behaviour will evolve. Ornithological Science 9:115-121
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受付日2012.4.30【topに戻る】
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編集後記:今号は5本の記事をお届けしました。第26回IOCへ向けて着々と準備が進みつつあります。鳥学通信では随時記事を受け付けております。お気軽に記事をお寄せください。皆さんのご協力を期待しています(編集長)。
鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者宛 (ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。 |
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鳥学通信 No.35 (2012年5月15日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 和田 岳(編集長)、高須夫悟(副編集長)
天野達也、東條一史、時田賢一、百瀬浩
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