|
||
自由集会報告
・今考える、外来鳥類問題 ー実施報告ー
・カワウを通して野生生物と人との共存を考える(その8)−繁殖抑制の可能性と限界− ・猛禽類の保護の手法と,その進め方について考える ・統計言語 R で一般化線型モデル解析 ー鳥屋にやさしい統計のお勉強ー 連載
|
||
今考える、外来鳥類問題 ー実施報告ー金井 裕(日本野鳥の会)・石田 健(東京大学) 日時 2005年9月17日18:30〜20:30 場所 信州大学旭キャンパス共通教育センター13番教室 参加人数 86人 呼びかけ 金井裕 財団法人日本野鳥の会自然保護室 石田健 東京大学大学院農学生命科学研究科 開催挨拶(金井)
2005年6月から外来生物法が施行され、ブラックバス対策が大きな反響を呼ぶなど、外来生物問題は現在とてもホットな話題である。しかし、外来鳥類による生態系への被害や対策の重要性について鳥類研究者の関心は高いとは言えない。日本における外来鳥類の現況について鳥の研究者および専門性を持った人間が一緒に考えていきたいということでこの自由集会を開催した。 ・外来鳥類が起こす恐れのある生態系への影響(江口和洋・九州大学)
外来鳥類による影響は捕食や競合による在来鳥類や他の生物への影響、交雑による近縁種への遺伝子攪乱、病原体の持ち込みによる野生生物や人への感染症の発生、農業被害などによる経済・社会への影響が考えられる。アメリカでは外来鳥類による農業被害が年間約19億円と見積もられている。日本における生態系への影響では、先島諸島でのインドクジャクによる生態系破壊が起こり、九州のソウシチョウの優占種化では、地域的に多様であるべき鳥類相の画一化が起こっていると言える。その他、ハワイのカバイロハッカやシリアカヒヨドリによるタヒチヒタキへの繁殖阻害の問題や鳥マラリヤの蔓延による在来鳥類の減少が起こった。ニュージーランドではカモ類で交雑が起こり、大きな遺伝子撹乱が生じた。ホシムクドリはキツツキ類と営巣場所の競合が起こっている。日本においては、はっきりした影響はなかなか示せていないが、今後各地で様々な問題が起きることが懸念される。 主な文献 ・外来生物被害対策法の運用状況(長田啓・環境省野生生物課外来生物担当)
外来生物法の目的は侵略的な外来生物を特定外来生物に指定し、その輸入や飼養等について厳しく規制し、特定の種の防除を進めることによって生態系、人命や身体、および農林水産業への被害を防ぐことである。特定外来生物の選定条件としては、国内移動が問題となる在来種(国内移入種)、明治以前に定着した種、感染症法等他の法令の対象種を対象としない。選定に当たっては、特定外来生物等専門家会合を開いて学識経験者からの意見を聴取し、科学的根拠に基づいて選定する。海外の知見も取り入れて、未導入のもので在来生物における種の存続に危険を与えうるもの等も選ぶ。被害防止を第一義とし、社会的経済的影響も考慮し随時選定してゆく。特定外来生物のリストには未判定外来生物のリストが付随して、これらの輸入は制限される。また、輸出にあたって、種類名証明書を添付することが必要な種も定められている。また、要注意外来生物の種類をあげ、これについては科学的知見をさらに収集することを表明し、取り扱いに対する注意を喚起している。今後は、行政としても科学的知見の充実を図っていかなければならない。 環境省・外来生物法のホームページ:http://www.env.go.jp/nature/intro/ ・外来鳥類全般の生息現況とNGOによる取り組み(金井 裕・日本野鳥の会)
外来生物問題は生物多様性に対する大きな危機であり、日本野鳥の会などの自然保護NGO、日本生態学会などが対策の実施を要求してきた。ここで鳥類の特性を整理して考えてみる。鳥類は、1)移動能力が大きい、2)音声コミュニケーションをとる、3)生息実態が分かりにくいものを食べているといった特徴があり、定着過程や生態系影響への評価に注意を要する。外来鳥類が国内に入ってしまうと問題を解決するのが困難になる可能性が高い。今後は水際規制を強化し、監視を継続していくことが重要である。NGOが問題視している鳥類にはコブハクチョウやアイガモなど、外来生物法の対象となっていない外来鳥類も多い。NGOとしての今後の取り組み姿勢は、法の実効性を上げることへの協力、法律で対応できない項目の補完、要注意種のリストアップ充実への働きかけ、外来鳥類の情報収集が重要だと考えられる。 日本野鳥の会・外来鳥類関連:http://www.wbsj.org/nature/index.html ・鳥類研究者に求められること・外来生物専門家会合報告(石田健・東京大学)
外来生物専門家会合の1次選定においては、関連研究者と打ち合わせの上、生態系被害に関連し自然林で優占種となり群集構造の変化をもたらしているソウシチョウ、同じく捕食者として影響の大きいインドクジャク、遺伝的攪乱の危惧されるメジロ外国産亜種、の3者を特定種リストの候補に上げた。会合では、ほ乳類と鳥類とが一緒に話し合われたが、ほ乳類に比べ鳥類は情報不足で被害が不明瞭であるとの指摘を受けた。当初、鳥類は1種もリストに上がらない可能性があった。2回目の会合までに関連研究者の協力で説明資料を作成し、会合において江口和洋さんに詳しい説明をしてもらった。鳥類による生態系被害の実態を、客観的に社会的に明示することは、まだ難しくできていない。外来鳥類の特定種を指定する際には、法律の特徴をよく考慮した説明に努めデータを示すことも重要だと考える。2次選定においては、IUCNリスト、ISSGリストを参照して選定することが提案された。これらのリストは単純には国内に適用できず、必ずしも客観的なものになっていないので、活用には再考が必要である。鳥の専門家集団として日本鳥学会にできることを、考えていかなければならない。現在、鳥学会は外来鳥類に対する公式な意見表明をしていないので、まず外来鳥類に対する基本理念や対応方針を整理していくことが必要であり、作業に入っている。専門家会合を通して常にそのことが要望された。法律運用上の問題点を整理し、より実効性を高めることにも配慮する必要がある。指定種の分布拡大前線を即時探知し、分布拡大を阻止することなどが例として考えられる。そのための情報収集にはバンダーの方の協力も有効で、初認記録を早急に集め、警報を出せるような情報ネットワークを作ることも進めている。 現地報告と今後の取り組み(コメンテーターによる意見交換)
・埼玉県におけるガビチョウの侵入 内田博(日本鳥学会会員・日本鳥類標識協会会員)
ガビチョウは2000年前後に東京都方面から埼玉県内に侵入し、近年では生息数が急激に増加していると思われる。埼玉県中央部の丘陵地帯でウグイスの繁殖状況の調査をしていたが、同時にガビチョウのなわばり数を調べることができた。なわばりは2003年では17個であったが2005年では34個と2倍に増加していた。それとの関連性は明確ではないが、ウグイスの繁殖数は減少していた。また、ガビチョウ、ウグイスともに繁殖成功率は低かったがそれは、ヘビなどによる捕食圧が高いのかもしれない。 ・対策研究と研究の深化 東條一史(森林総合研究所)
外来鳥類の対策で研究者に求められるのは、新たな外来種を把握し報告すること、被害を証明すること、防除指針の策定を行っていくことである。新たな外来種については地元の野鳥関係者などと協力して種の識別、繁殖の確認,分布域の広がりを明らかにし,速やかに報告することが求められる。被害の証明はしばしば困難であるが、このことが特定外来種指定や対策の遅れにつながってはならない。防除指針の策定においては、種の社会構造や個体群パラメーターなどの基礎データが必要である。必要なデータは保全生物学的手法で得られるものと同じであるが、希少種の管理とは逆に個体群の存続可能性が最低になるような管理プランを立てることになる。このような研究は、対策に要する労力や期間、効果を明確にする。今後の課題としては、爆発的増加後には個体数制御は困難なので,新たな外来種を発見したら,即防除が望ましい。その際は、被害の証明や個体群データの収集は出来ないので,防除計画の雛型をタイプ別にいくつか作っておくことも必要だろう。また外来種独特の性質を解明していくことが必要であるが,近年は研究の理論的枠組みの整理も進んでおり,関連する研究がでてきている。 主な文献 ・四国におけるヒゲガビチョウの繁殖 佐藤重穂(森林総合研究所・四国支所)
今年度をもって四国においてヒゲガビチョウの繁殖を初めて記録した。その後すぐに四国におけるヒゲガビチョウの繁殖分布調査を行ったところ、26地点で確実な生息を確認できた。ガビチョウ類という記録方法だと確認地点はさらに増える。四国ではまだ侵入初期なので、早期対策によってガビチョウ類の個体数増加を防ぐことができるのではと考えている。 主な文献 ・外来ガンカモ類において想定される問題 神谷要(中海水鳥国際交流基金財団)
ガンカモ類においては二つの大きな問題がある。まずはコブハクチョウ、コクチョウ、カナダガンなどの飼育展示個体が野外に移出し定着することである。次に、アイガモ農法で利用されたアイガモの野外移出である。これらの移出個体による農業被害が実際に発生している。アイガモにおいては他のカモと交雑し雑種形成をするため、遺伝子攪乱を起こしていると考えられる。こういった雑種個体からの伝染病伝搬の危険も無いとは言えない。コブハクチョウなどは移動能力が高く、どこかで新たに確認された場合、例えばシベリアからやって来た野生個体かそうではないのかはとても分かりづらい。また、コブハクチョウは地域の象徴になっている場合が多く、給餌などを行っている自治体は多い。羽を切るなど適切な管理を行わなければ、他の地域へ移出してしまう可能性が高い。こういった点がガンカモ類における移入種対策の問題点となっている。最後に提案を行う。飼育個体を野外へ放逐してしまう市民がいるが、それは動物愛護上の問題であるから、飼育義務の違反として動物愛護法で取り締まれないものだろうか。 ・販売調査からみた外来鳥類 成末雅恵(日本野鳥の会・嘱託研究員)
バードウィーク全国一斉野鳥販売実態調査は(財)日本野鳥の会と全国野鳥密猟対策連絡会が共同で行う調査で、野鳥輸入禁止と密猟防止を目的としたものである。洋鳥の販売数は年々減少傾向にあるが、これは鳥インフルエンザによる影響だと考えられる。減少傾向にあるとはいえこれは一過性のものであろう。また、今回の調査ではインターネット販売に対する調査を行っていないので、洋鳥の総販売実数はもっと多いと考えられる。日本野鳥の会では洋鳥、和鳥を問わず野鳥の輸入および販売の禁止を訴えかけ続けている。 日本野鳥の会・販売店調査:http://www.wbsj.org/nature/index.html ・NGOの立場からの提言 天野一葉(WWFジャパン)
日本鳥学会の中に外来鳥類対策部会を設置し、科学的な立場でガイドラインを示してほしい。次に、特定種の選定基準はとても厳しいため、学術的基準で予防原則にあった選定方法を確立し、リストを作成してほしい。外来鳥類の駆除や捕獲、分布速度の割り出しなどの実用技術の開発の研究を行ってほしい。NGOは教育と普及を担当していく。ニュージーランドなどにならい、わかりやすい外来種の教材やガイドラインの作成で、協力していけると思う。侵略的外来種になった種に、どのような共通の性質があるのかを分析することは、生態学的にも興味深いので、研究者は積極的に外来種の研究を行ってほしい。 主な文献 まとめ
今後は外来鳥類や競合する在来鳥類についての情報収集の強化に努め、それを生かして対策の具体化を図っていく必要がある。それには研究者の役割は大きく、活躍が期待される。外来鳥類は生態学的にも興味深い研究テーマであり、研究者今後は外来種問題にも注目していってほしい。情報収集と研究以外にも普及教育やネットワーク作りも重要であり、NGOなどの団体の活躍もさらに期待される。 受付日2005.10.28 カワウを通して野生生物と人との共存を考える(その8)ー繁殖抑制の可能性と限界ー主催:カワウワーキンググループ
加藤ななえ・高木憲太郎(NPO法人バードリサーチ) 1990年代に入り、カワウによる放流魚の捕食やねぐらにおける樹木枯死などを訴える声が各地で出始めた。そこでカワウワーキンググループは、1998年よりカワウを取り巻く課題を整理し、情報の共有を図ることで共存を目指す力となりたいと考え、自由集会を毎年開催してきた。 (1) 昆陽池におけるカワウ個体数管理への取組みについて 伊丹市みどり環境部みどり室みどり課 高津一男
カワウの卵を擬卵に置き換えた巣における繁殖抑制の効果は確認できた。しかしコロニー内の個体数をその方法だけでコントロールするのは難しい。適正な個体数の維持管理ができるよう、植生管理や擬卵の設置を含めた方法などを検討、実施していきたい。 (2) 長野県でのカワウ繁殖抑制の取組み 長野水試佐久支場 熊川真二
小規模なコロニーでの擬卵の置き換えによる繁殖抑制は、手数をかければほぼ全巣で行うことも可能である。しかし群れが分散する危険性を考慮しなければならない。長期的な繁殖抑制の継続で流域からのカワウ排除を目指したい。 (3) 擬卵置き換えによるカワウの繁殖抑制〜置き換え効率の向上と個体数管理の難しさ〜 山梨県水産技術センター 坪井潤一
116巣のうち71巣で擬卵の置き換えを行い、コロニー全体で一巣あたりの平均巣立ちヒナ数を0.79羽に抑えた。(置き換えを行わない巣では1.44羽であった)コロニー全体の個体数減少を目指すためには、擬卵の置き換えだけでは達成は困難である。しかし、孵化ヒナ数を抑制するだけでも、その分のヒナへの給餌が無くなるので、繁殖期のカワウによる魚類の捕食圧の軽減につながると考えている。 (4) カワウにおける繁殖抑制の可能性と限界=竹生島での取組み= 須藤明子 ○柴野哲也 岡野司 須藤一成 ((株)イーグレット・オフィス) オイリング(植物油や石鹸液を卵に塗布または浸漬することによって胚の呼吸を妨げて死ごもり卵を作る)による繁殖抑制試験により、石鹸液の噴霧で孵化率を有意に抑制できることが判明した。今後は環境中に拡散した石鹸液が水中や土壌中の生物に与える影響を予測するためのデータを整備する必要がある。 今回の発表から、手数やコストをかけた巣では、孵化数を0にできることが示された。しかし、この孵化抑制の数字が一人歩きをしてしまうことは注意しなければならない。この集会でも、繁殖抑制による「個体数調整や被害防除」の達成には、解決しなければならない問題が多くあることが報告された。コロニーの規模や状態によっては、擬卵の置き換えやオイリングの作業を行うことが難しい場所もある。また、広域を移動できるカワウに対して、「繁殖抑制」作業しか行わなければ、地域の個体数は減らないだろうとも指摘された。コロニーの分散や他の地域からの移入をどのようにコントロールするかなど考慮しなければならない。今後新たにこの繁殖抑制を試みる地域では、これらの課題とカワウの生態を踏まえて、計画的に実施する必要がある。 連絡先:NPO法人バードリサーチ カワウプロジェクトチーム 加藤ななえ 受付日2005.10.28 猛禽類の保護の手法と,その進め方について考える飯田知彦(九州大・院,広島クマタカ生態研究会)
この自由集会は,今回で8回目になります.始めた当初のきっかけは,当時は今よりもまだバブルの余波が残っており,現在よりもはるかに多く全国的に猛禽類の調査が行われていましたが,その中には,一部の方ですが,事業アセスメントで調査の結果や効率を優先し,猛禽類の安全のことを考えずに調査を実施するように感じられる企業やグループなどがありました.そのため,そのような調査を放置しておくことはできないという思いを持つ方々と,具体的に動こうと始まりました. 最初はモラルについての論議から始まり,その後より具体的な保護を進めるため,これらの問題を解決するための手法のひとつとして,「猛禽類調査ガイドライン(仮称)(案)」を作成しようということになり,関心のある方々と論議を進めました. こういったガイドラインや法律の作成には通常ふたつの方法があると思いますが,ひとつは国などが作成して上からきまりを広めるものです.もうひとつは, 現場とその周辺が必要なことを決めて運用していくうちに,次第に広まり使われていくものです.結果的に同じことなのですが,みなさんで集まってつくっていこうという流れから,毎年の自由集会で会合を行い,ホームページも使用して話し合いを行いました. 今回の自由集会では,たたき台として作成した内容について話し合いました.ガイドラインの詳しい内容については,下記のURLを参照してください. 猛禽類調査ガイドライン(仮称)URL: http://www3.ocn.ne.jp/〜kumataka/raptorguideline.html いずれにしろ,みなさんの使用があって始めて効果があるガイドラインです.まだ基本的なことについてだけですが,猛禽類の調査を行う方はぜひご活用くだ さい. なお,ガイドライン(案)としてある程度まとまりましたので,この自由集会は今回で終了予定です.ガイドラインとして,今後学会にあげて正式なものとしての作成も目指しています. この自由集会を始めたもうひとつの目的は,鳥学会の自由集会を活性化することでした.というのは,その時まで鳥学会の自由集会は研究内容について演者が前で話し,参加者はそれに参加して学ぶというものしかありませんでした.しかし他の学会に参加してみると,自由集会なのでそれこそ自由にいろいろな内容の集会があり,多くの方々が発表の場として活用しているというものでした.つまり勉強型の集会だけではなく,情報交換や個人の主張の発表,仲間の募集など,いろいろなバリエーションがあって良いと思ったのです.そのためにも始めた自由集会ですが,現在では鳥学会の自由集会も活発になり「多様性」を得たように思います.その意味では,この自由集会を始めたひとつの目的は,達成されたように思います.せっかくなんでもできる場ですから,自由集会をもっともっと活 用しましょう. 統計言語Rで一般化線型モデル解析 ー鳥屋にやさしい統計のお勉強ー齋藤大地(国立科学博物館)
生物学,特に生態学の研究を行う上で,統計によるデータ解析は避けて通ることはできない.しかし,どれだけの人が統計学,ましてや生物学に特化した統計学を大学で学んで来ているだろうか?鳥類生態学で扱う様なデータは,サンプル数が少なかったり,ランダムサンプリングでなかったり,古典的な統計手法がそのまま利用できるとは限らない.斯く言う僕は,統計学を大学で学ぶ機会がほとんどなかった.大学で用意されていた統計学の授業は教養の授業だけであったし,その授業だけで統計の基本がわかったかと言われれば,正直よくわからなかった.研究室に配属されるようになり,統計のことを先輩から学べると思っていたが,その期待は実ることがなかった.逆に,僕が院生に統計のことを教えるということがあったほどだ.そういう僕自身も院生になり,フィールドや遺伝子実験が忙しくなると,統計の勉強など二の次になってしまい,せっかく苦労して得たデータの解析に不安を抱かざるをえなくなっていった. 多くの学生や院生は多少の違いはあれ,この様な境遇にいるのではなかろうか.データをどう解析するかというのは,自分が行っている研究の周辺研究を勉強することと同じぐらい大切なことなのに,自分で学ぶしかない状況に置かれているのではないだろうか.さらに,近年はコンピュータの性能の向上により,計算量が膨大になる新しい統計手法が多く使われる様になってきているため,勉強するにもなにを読んだらいいのかわからないということもあるかもしれない.これは何も学生だけが直面している問題ではなく,一般化線形モデル (GLM) やその他の最近主流になりつつある統計手法は,多くの大学や研究機関にいる先生方も同じように習得が困難なのではないだろうか?ここ2年ほど国際学会へ行く機会があり,海外の研究者の発表を見聞きしたが,多くの研究でGLMやGLMM(一般化線形混合モデル:今回は紹介していない)を使っていた.ところが,日本鳥学会大会ではどうだろうか? 統計手法に関する僕の大きな転機は,本集会を僕と共同企画した立教大の山口典之さんと出会いであった.ある発表会で僕の修士までの研究を紹介した後,山口さんが僕のところに来て「解析間違っているよ」と教えてくれたことが僕のデータ解析の道を大きく修正してくれた.その時は,一般化線形モデル (GLM),統計ソフトRの話を二言三言聞けただけだったが,その時聞いたGLMとRというキーワードで,あらゆる統計の本をむさぼる様に読んでいった.1万円近くする本が難しすぎて本棚のオブジェになってしまい,むだな出費が数多くあったけれど,おかげで自分のデータ解析にはずいぶん自信がもてる様になった.しかし,同じ様にほとんど独学で勉強するのは,時間もお金も労力ももったいないと思う.できれば,自分で勉強するのにいい本を紹介してもらい,勉強する取っ掛かりになる様な基本を誰からか教わるのがいいと思う. 今回の集会の趣旨がまさにそこにあった. 今回の集会にあったて,2ヶ月近く前から発表練習を重ね,なるべく難しいことは省いて,それなら自分にもできそうと思わせることを目標とした.しかし,実際に自分のデータで,GLMやRをつかって解析してみると,悩むことやわからないことが多いと思う.統計とは本来,よくあるチャート式になった,こういう場合はこういう統計手法を用いよ,というものではない.自分のデータをよく眺め,グラフをいっぱい書き,確率分布などの特徴を正確に把握してはじめてできるものである.よって,残念ながら,自分で考え,試行錯誤するしかない.ただ,今回の集会でGLMというものがあるとことがわかり,それを使えばよさそうなデータに出会った時に今回の発表が少しでも手助けになればと思っている.今回使ったプレゼンテーションのファイルや,その中で紹介している文献などをぜひ参考にして頂きたい.ファイルは下記のURLから自由にダウンロードすることができる. URL: http://www.rikkyo.ne.jp/〜z2002020/stat/stat2005.html 最後に,学会の最終日の最後のプログラムであったにもかかわらず,多くの方がこの集会に足を運んでくださり,本当にありがとうございました.来年はさらにスケールアップした統計集会を開きますので,来年も聞きに来ていただけたら幸いです. |
||
ダーウィン便り(1)江口和洋(九大院理学研究院)
オーストラリア北部準州ダーウィン。この87km南にあるクマリ地区のサバンナで私たちの協同繁殖鳥類の研究が進められています。毎日の通勤と、広い調査地での移動に車は必需品。その車にまつわる話です。 ダーウィンは人口が少ないので車の数も多くありません。速度規制は市街地を抜けるとすぐ80km/h、郊外に出ると100〜110km/h、さらに田舎に行くと無制限になります。しかし、無制限とは言っても、片側5〜8mくらいの1車線道路なので気楽に飛ばせるものでもない。また、日本の高速道路と違って、他の道路と交差しているし、周囲と同じ高さなので、道の横から車、人、その他の動物が飛び出してきます。それで、道路にはいろんな動物の死体が見られます。カンガルー類、バンディクート、トビ、フエフキトビ、ヘビ、ゴアナ(オオトカゲ)、それにオオヒキガエルなどが主な犠牲者です。一度、バッファロー(東南アジアから移入した水牛)の死体に出会いました。バファローに勝つのはロードトレイン(大型トラックを4台つなげたくらいのトレーラー)くらいだろう。死後数時間しかたっていなくて、ぶつけた本人のしわざかどうかわかりませんが、背中と太ももの肉がごっそり切り取られていました。まだ十分に新しかったのですが、残念ながら切り取るナイフがありませんでした。ダーウィンの町に毎週露店が出ますが、ここに"Road Kill Meat Shop"という店があります。カンガルー、ワニ、バッファロー、エミューなどの串焼きが売られていますが、このような事故死体が供給源だろうか? 動物とのニアミスはしょっちゅうあります。特に、調査地へ行く早朝の暗い時間帯は要注意です。時速100km/h以上なので、まず避けることはできません。それを避けられると思っていた調査初期には危うく事故になりかけました。 カカヅー国立公園は、ダーウィンから300kmほど東にあり、アボリジニーの岩絵でよく知られています。ここへ行くアーネムハイウェイにはよくワラビーやワラルーが飛び出し、そしてよく死体になって転がっています。 私たちも調査が休みの日には何度か日帰り強行ツアーをします。ある日、ウビルーの夕陽を見て、ダーウィンへと帰る途中のことです。日はとっぷりと暮れた20時半頃、130km/hくらいで走っている車の前に、猫くらいの動物が飛び出してきました。思わず左へハンドルを切って避けようとしたんですね(オーストラリアは左側通行)。左の路側帯から飛び出しそうになり、あわてて右へ切り返すと同時にブレーキを踏んだと思ってください。当然のことながら、タイヤはロックされ、車の尻は左へと振れ、車体が傾き右車輪が浮きました。これは倒れるかなと覚悟したとき、さらにハンドルを切ったためか、車体が180度スピンして、横滑りしてそのまま右側車線を通り越して道路脇の林へと突っ込んで行きました。これは木にぶつかるぞと全員身構えたところ、車は砂を巻き上げて、ちょうど車体の長さより少しだけ余裕のある木と木の間にすっぽりはまり込んで止まりました。その5〜6秒後、対向車線を走ってきた車が1台横を通り過ぎて行きました。わずかに時間がずれたらこの車にぶつかったのかもしれません。そう気がつくと、とたんに膝の辺りに震えを感じました。 さて、安心してばかりはいられません。ここは砂地、それに木の間にはまった状態から抜けられるのかという新たな心配が出てきました。先ほどの車はこちらの状態に気がつかなかったのか止まってくれませんでした。昼間でも車少ないのに夜はなおさら。ここは自力での脱出しかありません。まず、タイヤが無事なのを確認して、車を前後に寸刻みで動かして、無事脱出できました。事故直後は気が動転しているので、あまりいろいろ考えませんでしたが、落ち着いてくると、あそこでヒックリ返ったら、対向車にぶつかっていたら、木にぶつかっていたら、死傷者が出たらもちろんのこと、車が壊れただけでも、それは後々大変なことになっていたんだなあと、改めて背筋がぞっとするのを感じました。それにしては事故直後なのに平気でステーキを食っていた、という非難もありましたが。 教訓: 受付日2005.11.22 |
||
鳥学通信第二号は不定期号としてお届けしました。第一号の原稿締切後も自由集会報告が続々と到着したためで、編集者としては嬉しい悲鳴です。今号も多くの原稿にカラー画像が花を添えています。特にカワウの擬卵画像は、これほど良くできた擬卵なら効果もあろうと思わせます。 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。 |
||
鳥学通信 No.2 (2005年11月25日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
亀田佳代子・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
Copyright (C) 2005 Ornithological Society of Japan |