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自由集会報告
野外調査のTips
連載
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「ガンカモ類の継続的調査モニタリングサイト1000 〜2004年度の報告と課題」報告村井 英紀*・呉地正行(雁を保護する会) 環境省主催の「重要生態系監視地域モニタリング推進事業(モニタリングサイト1000)の一環として、ガンカモ類調査が日本鳥類保護連盟・雁を保護する会と各地の観察者の協力で開始された。H16年度(試行的な調査)では、調査手法等の周知不足のため調査が順調に行われていない部分が多くでてきたたことから、自由集会において今後の円滑な調査実施に向けて検討した(日本鳥学会2005年度大会講演要旨集、JOGA第7回集会参照)。 集会では、(1)「重要生態系監視地域モニタリング推進事業について」(澤栗浩明、環境省)として全体の事業内容を概観したうえで、(2)「当該ガンカモ類調査の位置づけ」と対象サイト(全80サイト)・選定理由、調査項目・時期などを整理した。また、(3)「2004年度の調査報告」として、サイトの実施/未実施状況を整理し、調査結果概要を報告した(www.jspb.org H16報告書概要PDF、調査要領PDF参照)。そして、(4)「調査地からの報告と見えてきた課題」として、「宮島沼のケースより」(牛山克巳、美唄市)、「ローカル(中海)からの視点での意見」(神谷要、(財)中海水鳥国際交流基金財団)、「琵琶湖をモニ1000ガンカモ類にとりこむ上での課題」(須川恒、琵琶湖水鳥研究会)など興味深い発表をいただいた。 これらを受けて、(5)「2004年度において判明した問題点の検討」として、調査方法の全国的な統一(周知)や、アクセスや観察のし易さ等によって全体把握が困難なサイトでは、渡来状況を考慮した代表的な範囲(部分把握)を抽出することを提案した。また、今後、観察定点や観察範囲、群れの場所等の位置情報(ポイント/ポリゴン)の記録・図示が重要であることを、実例を提示して説明した。 最後に、(6)「問題点解決のための提案」として、既にガン類による調査から判ってきた成果を明らかにするなどして長期的なデータ蓄積の意義の伝達、調査者とまとめる人との相互理解、調査者への成果のフィードバックなどの仕掛けの整備などの提案とともに、今後新しい調査員(体制)の育成が課題も提示した。 集会参加者からは、種によって異なる渡来状況への対処等、時間帯等によって滞在動向が異なることへの対応等、万単位のカウントでの調査精度など基本的な調査手法についての意見・質問等があったが、今後の課題とせざるを得なかった。全国の調査員および須川恒氏、集会関係者に深くお礼申し上げる。集会以降は、北海道、新潟、青森などで調査依頼や調査説明会等を開催している。 *:(財)日本鳥類保護連盟調査室 muraijspb.org |
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ビデオカバー松井 晋(大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻) 野外で鳥類の生態研究にハンディタイプのビデオカメラレコーダ(VCR)を利用している人は多いと思います。私たちは、繁殖期に同時に8台のVCRを稼働させることがあります。毎日データを取る必要がある時に、機材の故障は一大事です。故障を避けるためには、機材を大切に扱うことが必須条件ですが、野外での長時間撮影では、精密機械に不利な高温多湿の条件が整ってしまいます(逆もありますが)。強い日射に伴う温度上昇や突然の降雨は,VCRに致命的な打撃を与えます。また、VCRが高温に晒されるとテープヘッドの寿命は著しく早まり、テープ切れを起こすこともあります(札幌ですらテープ切れの経験があります)。ビデオテープの高温側の保証限界は60℃程度だそうですが、私たちが主に野外調査を行なっている南大東島は、気温が高い上に日差しが強烈なため、日向で長時間撮影を続けると限界を超えることがあるようです。また、突然の降雨への対策も重要です。メーカー純正のVCR用レインコートを試しましたが、雨を防ぐことはできても炎天下の温度上昇を防ぐことはできませんでした。タッパーウエァなどの密閉容器にVCRと大量のシリカゲルを入れたものも使用しました。しかし、これでも熱がこもって機材の温度は上昇し、レンズの曇りが出てきました。 そこで、私たちは図のような「温度上昇防止&(半)防水VCRカバー」を開発しました。材料費がただ同然のこのカバーは,一見あまりに安っぽいので心細いかもしれませんが、多くの実績を残した優れものです。荷物をくるんでいた梱包材(エアクッション)は、ビニールなので雨を凌ぐことができ(ビデオの設置角度に注意)、かつ不動空気層を提供するので、温度上昇を防ぎます。これまで繁殖シーズン中に交換修理に出すことが多かったVCRのテープヘッドも、2繁殖期ほどは耐久しています。南大東島を通過する風速40mの台風の中でも故障一つなく耐え抜いたこともあります(そんな時に使うな!)。カバーを装着しても実際のVCRとたいしてサイズが変わらないのも便利な点です。 イラスト:赤谷加奈(大阪市大大学院理学研究科) |
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ダーウィン便り(2):外来種の天国?江口和洋(九大院理学研究院)
オーストラリアは外来種が多い地域の一つです。北東部のケアンズ付近ではインドハッカやイエスズメたちが市街地を我が物顔でうろついています。私たちが調査を行っている、北西部のダーウィン付近では外来鳥類は見当たりませんが、その他の外来生物にはよくお目にかかります。私の部屋のエアコンの外部ユニットにクマネズミが巣を作ってやかましいこと。 調査地では、バッファロー(東南アジアの水牛)、野生馬、野豚、ロバなどに出会います。特にバッファローは多く、20〜30頭の群れに出会うことも珍しくありません。しかし、アリススプリングス辺りにいるラクダはさすがにここまでは進出していません。 最近問題になっているのはオオヒキガエル(Cane Toad)です。本種はもともと東部のクイーンズランド州のサトウキビ畑に、害虫駆除(甲虫の仲間だそうな)の目的でブラジルから移入され、瞬く間に増えたものです。1970年代後半には西部の方へ拡大し、最近トップエンド(北部準州北部)に侵入しました。クイーンズランド北部のテーブルランドの熱帯雨林を通って来たとも、南からやって来たとも言われていますが、よくわかりません。調査地はダーウィンの南87キロにあります。私たちが2002年に調査を始めてから昨年(2004年)まで、調査地で本種を見るとことはありませんでした。ところが、今年7月、調査地のオーナーであるR. Luxtonさんが、オオヒキガエルが増えて困っているという話をしてくれました。なるほど、調査地の道路にカエルの死体が転がっているのを2、3度見たことがあります。それでもめちゃくちゃ多いようには思えませんでした。 ところが、雨期に入ろうかという10月下旬、まとまった雨の後に調査地を走ると、あっちでピョン、こっちでピョンとオオヒキガエルが跳ね回っているではないですか。5分くらいの間に17匹ほど目撃しました。その後近くの池に言ってみると何十匹(池全体では何百匹)というオオヒキガエルが産卵に集まってきていました。その後1週間くらいで親ガエルは姿を消しましたが、代わってあちこちの水たまりにオタマジャクシと小さなカエルが出現しました。この増え方は驚くばかりです。 このカエルは何でもかんでも食べることから害虫防除に用いられたのですが、肝心の害虫はあまり食わず(サトウキビに登れないので)、オーストラリア固有の小動物(カエルまでも)を食べてしまいます。それだけではなく、両肩辺りの広い範囲に白い毒汁を分泌する腺を持ち、これがこのカエルを捕食する鳥やほ乳類、そして人間にも害を与えます。この分泌物の毒性は強く、多くの野生動物がこのカエルを捕食したことで死亡したと考えられています。アオバネワライカワセミの数が減ったはずと、共同研究者のR. Noskeさんは考えています。 このような理由からダーウィンでは新聞やテレビなどのメディアがオオヒキガエル撲滅のキャンペーンを行っています。「自宅の庭でオオヒキガエルを見つけたら踏みつぶせ。」(時々、"Save our Cane Toads!"という落書きも見られます。)野生動物局では、オオヒキガエル用のトラップ(誘蛾灯つきのかご罠で、バッテリーまたはソーラー電池で灯りをつけ、これに集まる虫をベイトにしてオオヒキガエルを罠内に誘い込むという仕掛けで、かなり捕獲成績はいいそうです。)を配布して、駆除に力を入れています。しかし、あの増え方をみると駆除はなかなか難しそうです。 最近、捕食者の方でもこのカエルに対する行動に変化が見られていると言われています。カエルの毒は頭の後ろ部分に限られます。それで、トビなどの捕食鳥類はこのカエルの背中側は食べず、腹側だけを食べるようになったと言われています。そのとおり、道路でひからびているカエルの死体はどれも腹側だけ食べられて、背中の方は無傷です(しかし、鳥は内臓を食べ、背中の固いところは食べないんではないだろうか)。さすが鳥もやりおるわいと思いました。しかし、オオヒキガエルが多数産卵していた池に住み着いていたヘビウが、哀れ死体で見つかりました。その2〜3日前に見たときは元気だったのに、オオヒキガエルを大量に食べたのかもしれません。ウやヘビウは餌を鵜呑みにするからなあ。 オオヒキガエルは石垣島で増え、西表島への侵入拡大が心配されています。クマリの調査地での凄まじい増え方を見ると、本種の駆除は本気で取りかからないと取り返しのつかないことになるなあと感じました。 去年までは全く見なかったオオヒキガエルの剥製が市内の土産物屋さんにたくさん並んでいます。それほどに増えたんだ! 受付日2005.11.22 |
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2005年酉年も残すところ、あと1週間になりました。鳥学通信第3号はクリスマス号として、最後の「自由集会報告」、連載記事「ダーウィン便り」に加えて、新しい企画として「野外調査のTips」を掲載しました。野外調査で工夫しているちょっとしたアイデアを掲載するコーナーです。他の会員にも役立つような野外調査のアイデアがありましたら、どしどし投稿してください。次号は、中村新会長からの挨拶を巻頭言に予定しています。来たる2006年が鳥学会および会員の皆様にとって飛躍の年であることを期待しています。(編集長) 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。 |
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鳥学通信 No.3 (2005年12月24日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
亀田佳代子・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
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