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飛び立つ!

新委員の抱負

連載




飛び立つ!


「農地で鳥類」続けます

独立行政法人農業環境技術研究所 天野達也


chairman
同期と一緒に(右が筆者).
 つくばへやってきてから、はや一ヶ月が過ぎようとしています。6年間在籍した東京大学生物多様性科学研究室でこの春学位を取得し、4月からは独立行政法人農業環境技術研究所で任期付研究員として、農業活動が鳥類に与える影響について研究を行っています。自宅も、研究室も、全くの新しい環境で、久しぶりに“新人”として日々新鮮な気持ちで過ごしています。

 6年前はもちろんのこと、1年前ですら今の環境は全く想像することはできませんでした。「トリの研究をしている」と言うと、怪訝な顔で「就職先、あるの?」と言われたことも幾度となくありました。実際に就職難であるこの分野でこれだけ自分の希望に沿う形の職を得ることができたのは、多くの方々の支えと、幸運があってこそのものと思っています。ただ、就職のために唯一自分でできることとして、自分の研究の質を高め、形として残す努力をしてきたことは、間違いではなかったと実感しています。まだまだ研究者としては視野の狭い未熟者ですが、少なくとも自分の扱ってきた手法や題材に関しては突き詰めてきたという自負は、この6年間で得た確かな自信となっています。

 農業環境技術研究所では、水田を中心とした農地生態系における生物多様性保全を目指し、植生や昆虫の研究グループ、地理情報システムの専門家などと協力し、実際的な提言を行っていく研究が求められています。「マガン一筋、ガン患い」で済まされたこれまでとは異なり、全てのプロセスにおいて、より広い視野に基づいた研究を行っていく必要があるでしょう。生物多様性研究という、人によっては道楽のように思いかねない分野の意義を示していかなければならないという雰囲気も感じます。今後、どんな環境でどんな研究をしていけるかまだ分からない部分もありますが、自分を見失わずに進んでいければ、と思っています。

 農地性鳥類の減少が叫ばれ始めた1990年代前半から、特に欧州において農地における生物多様性の研究は大きな発展を遂げてきました。農業の衰退が著しい日本でも、食糧生産の維持、生物多様性保全の両面から、農地に依存して生息する鳥類の研究は早急に求められている課題のひとつです。以前から私の中心的な興味であったこの分野において、結果の求められるチャレンジングな環境にいられることを、今は大変幸せに思っています。

 鳥については、決して詳しいとは言えない私のことです。今後また皆さまのお力を拝借する機会も多いかと存じますが、その節にはどうぞよろしくお願いいたします。



受付日2006.4.20

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オホーツクの研究室から

東京農業大学オホーツクキャンパス生物産業学部 白木彩子
s3shirak @ bioindustry.nodai.ac.jp


 今年の4月から、北海道は東の端、網走市郊外の山頂にある東京農業大学オホーツクキャンパス生物産業学部に講師として勤務しています。周囲には本当に何もありませんが、自然環境には恵まれた立地条件にあり、天気の良い日にはオホーツク海や知床連山を望むことができますし、大学の上空には時折、オジロワシやオオワシが舞っています。私の仕事とは関係ありませんが、地元と協力して地ビール開発をしたり、学内に学生を主体とした会社があって飼育しているエミューを使った製品(石鹸、どら焼きなど)が通信販売されているのは、地方の農業大学ならではでしょう。

 この、フィールドに恵まれたキャンパスにはこれまで生態学を専門とする教官がおらず、野生動物の生態研究は殆どなされてこなかったようです。しかし昨年、隣接する知床が世界自然遺産に指定されたこともあり、今後は学部としても野生動物の研究や生態系保全といった分野に力を入れて行きたいとのこと、私としても将来は是非、北海道の野生動物研究拠点のひとつになればと期待しています。

 私が所属しているのは生物生産学科 動物資源管理学研究室で、学部3年生から博士後期課程院生まで、総勢40名ほどの大所帯です。私以外の2名のスタッフは育種学や系統遺伝学を専門としており、DNA解析等のラボ仕事は協力して進めることが可能な反面、野外調査を主とする生態研究の指導、講義・実習は専ら任せられることになります。プレッシャーや不安は当然感じますが、新規参入分野なので頑張れば研究室の特色を自分の望む方向にもってゆくことが可能だという希望もあります。猛禽類の研究はこつこつ継続してゆきますが、周辺には他にも多くの魅力的な種が生息するフィールドがありますから、自身の研究の幅ももっと広げて行こうと思っています。おそらく、皆様方にお力添えをお願いすることもあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願いいたします。そして北海道のフィールドで鳥の研究に取組んでみたいと考えている学生・院生の方がおりましたら、網走をベースに研究しませんか。野の鳥、山の鳥、猛禽、海鳥、全て取り揃えてお待ちしております。

 鳥学会の皆様方も是非、道東の自然やオホーツク海の幸(キンキの寿司は絶品!!)を堪能しに、また、田舎でのんびりしがちな私を叱咤激励しに、網走においで下さい。最果ての地、みたいなイメージの網走ですが、女満別空港が近いので、Air Doも就航した東京までは大学から実質2時間半、札幌までは1時間半程度で着くことができます。



受付日2006.4.20

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新委員の抱負


科学のキマリゴトの乗り越え方を学ぶ場を提供する

企画委員会委員長 藤田 剛

 鳥学会一番の特長は、職業などの立場に関係なく研究を志す人たちにオープンであることだと思います。ぼくが初めて大会に参加したときもそうでした。当時、ぼくはサンクチュアリの嘱託レンジャーでしたが、今と違い研究は仕事として認められておらず、大会にも休暇をとって一日だけ参加しました。しかし、その時の感激は今でもぼくの宝物です。経験もなく鼻息だけ荒かったぼくに、先輩たちは対等な立場で議論してくれましたし、ホントに親切でした。中でも記憶に残っているのは、立教大の上田恵介さんの言葉です。自分も研究できるだろうかと(今思えば甘えたことを)相談したぼくに、上田さんはこう言いました。「研究は難しいものではない。やりたいと思った人が誰でもできることやと思うんや...」

 自然科学にはいくつかのキマリゴトがあります。とくに大切なのは、反証可能であることと、先行研究を踏まえていることの2つ。たとえば、論文でデータを図示したり統計検定を使ったりするのも、方法や結果の記述、考察の表現に査読者が厳しいのも、反証可能性を高めるため。査読者や編集者が、序の背景や意義づけ、そして考察の結論の内容に厳しいのは、先人たちの発見や結論を無視した内容をなくすため。これらは科学の生命線です。プロの研究者はこの2つを高水準でクリアし、「オリジナリティ」の高い研究をするために鎬を削っています。しかし、それが必要以上に初心者への高いハードルになっているような気がします。

 企画委員会の重要機能のひとつは、初心者がこれらのハードルを乗り越える方法を学べる場をプロデュースすることだと思います。このようなプログラムが系統的に提供されている学会は、初心者に限らず研究に携わる多くの人にとって魅力的なはずです。現在、企画委員が関わっているプログラムとして「鳥の学校」とシンポジウムの2つがあります。「鳥の学校」のようなメンバー限定の連続プログラムでは、研究デザインの組み立て方や統計の基礎と実践、論文の書き方など、反証可能な観察や実験を反証可能な形で発表する技術普及の場として有効です。一方、大会シンポジウムのような不特定多数対象、一発型のプログラムでは、先行研究の総説を通して、これらからどんな研究がどんな分野で望まれているかを、多くの人に一度に示すことができます。もちろん、これはぼくなりの解釈です。3人目の委員長として、まずは、このようなプログラムの長期目標を企画委員会として明確にし、その意図に沿った機能を今まで以上に発揮できるようにすることが、まず第一の仕事だと思っています。



受付日2006.4.21

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rennsai


ダーウィン便り(6):Douglas Hot Springsの恐怖

江口和洋(九大院理学研究院)

 またまた、怖い車の話です。

 調査地で雨に降られるとする仕事がなくなります。かといって、せっかく早起きして1時間かけて出かけて来ているので,このまま帰るのはしゃくなので、じゃ近くのどこかへ観光に行こうと言うことになります。

 ある日、調査地につくと雨が落ちて来て、雲行きが怪しい。しばらく日和見していましたが、そのうちにすっぱりとあきらめて、温泉へ行こうということになりました。

 Litchfield National ParkにDouglas Hot Springsという、温泉の出る場所があります。そこは、クマリの調査地から100キロほど。道も良さそうなので楽に行けるだろうと思い、出かけました。途中は快適なドライブで、広くまっすぐな道を飛ばしてあと7キロという標識のところまで来ました。

 ところが、この標識のある分かれ道へ入ってから道の状態が変わりました。道は相変わらず広く、古いながらもターマック舗装されてますが、雨上がりということで、道路一面に厚さ5cmくらいに泥がつもった部分が延々と続いています。時々、後輪が空回りしているような感じを受けて、やばいなあと思っていた矢先、突然、後輪が横滑りし始め、ハンドルでコントロールできなくなりました。

chairman
林に突っ込む轍が恐怖を物語る.
 こうなると行き先は車に聞いてくれというところで、車は道の両側の土盛りを突っ切って、右側の林の中へとジャンプしました。林の中は調査地と同様直径10〜20cmのユーカリがまばらに生えていますが、地表はフラッドプレーンのような草ぼうぼうの状態です。道の横の立木は車の左側を危うくかすめました。しかし、正面に別の立木が待ち構えています。これはぶつかるぞと覚悟しました。しかし、雨上がりでぬかるんでいると予想した地面が意外に固く、着地した車のタイヤが地面をしっかりとらえました。すかさず、ハンドルを左へ切って、立木を避けました。林の中で止まったら出られなくなるというのが頭にあったので、立木を除けた勢いそのままで、アクセルを踏み続け、林の中を30mほど突っ切って、左側にある道の土盛りへ向かって突進させ、土盛りを乗り越えたところで後輪がめり込み止まりました。ここまでがあっという間。

 車から降りて道路上を歩いてみると堆積した土は柔らかく靴が簡単にめり込みます。これではスリップして当然。車は土盛りに乗り上げたことが幸いして2.3度空回りした後に道路上に戻りました。それから、堆積した土の薄いところを慎重に選び、安全な場所に止め、一息つきました。

 周りを見回すと、我々の悪運の強さはまだまだ健在であることに気がつきました。道の左側は水没状態で、ここに飛び込んだら、まず自力の脱出は無理で、かといって季節外れのこんなへんぴな観光地に車が来るはずが無い。現に、私たちの前に車の轍はありませんでした。また、車が飛び込んだところの前後50mを見ると道の脇に立木が密に並んでいて、どこへ突っ込んでもぶつかることは避けられなかったけれど、飛び込んだところだけは、他所より2倍ほど立木の間隔が広く、そこを狙ったように飛び込んでいました。大雨の後で道上はあちこち川のような状態になっているのに、飛び込んだ林の部分だけ地面が固かったのも、車が突っ切ったコース上に大きな立木が無かったのも、すべて悪運の強さのおかげです。今こうして無事アパートに帰り着き、ビールを飲みながら、どなた様かはわからないまま、救い上げてくれた神様に感謝しています。

chairman
雨期のDouglas Hot Springs.
 それで、Hot Springsはどうなったかというと。ここまで来て、このまま帰るのはしゃくだと言うことで、残り2キロ弱を泥に埋まり、道を横切る流れを渉りながら、歩いてたどり着きました。なるほど、やや熱めの風呂と言ったお湯が川となって流れていました。しかし、水が濁っており、川底はドロドロで、湯につかるという気にはなれませんね。

教訓:

1)雨期には舗装道路以外は走るな。(我々の車は2輪駆動。「雨期に耐えぬは涙なりけり」。それにしても、たまたまやって来た四駆のCR−Vが我々の車の横を何事もなく通り過ぎて行ったのは、悔しいというかなんというか)
2)日々の無事安全を、諸々の神々に感謝しよう。



受付日2005.11.24


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 ゴールデンウィーク真っ只中に鳥学通信をお届けします。多くの会員の方は、休暇どころではなく(休暇だからこそ?)、繁殖に忙しい鳥たちを追いかけているのではないでしょうか。鳥類研究者にとって、一年の中で一番忙しく、そして楽しい時期かもしれません。
 新年度にふさわしく、巻頭には「飛び立つ!」として、この春就職を決められた二名の方に原稿をお寄せ頂きました。どちらの原稿からも「やるぞ」という意気込みがひしひしと伝わってきます。お二人とも、これまで大変活発に研究活動を推進されてきた方ですし、新天地でも活躍されるのは間違いありません。いつまでも、後に続く我々の憧れ・目標であって欲しいと願っています。ご就職おめでとうございます。(副編集長)



 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。
 原稿・意見の投稿は、編集長の永田宛(mailto: ornis_lettersexcite.co.jp ※スパム対策のため@が画像になっています。) までメールでお願いします。







鳥学通信 No.6 (2006年5月1日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
Copyright (C) 2005-06 Ornithological Society of Japan

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