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飛び立つ!

新評議員の抱負

連載




飛び立つ!


奄美大島で希少鳥類を調査する

奄美野生生物保護センター 水田拓


 ポスドクの任期が切れる年度末になっても4月からの身の振り方が決まらず、どうしたものかと思っていたとき、東京大学の石田健さんから「奄美野生生物保護センターで固有鳥類の保護事業に従事する研究者を探している」という話を教えていただきました。奄美には行ったことがないし、鳥類全般に詳しいわけでもないし、自然保護を専門に研究してきたわけでもない私が就いていい職なのか?と考えなくもなかったのですが、とにかくどこかに所属先を決めないと、と思い、応募してみたところ、あれよあれよという間に話は進み採用決定、その2週間後には奄美大島に引っ越しすることに。まったく、人生何が起こるかわかりません。

 「飛び立つ!」と意気込んではみても、身分は一応2年間の任期のある派遣職員。飛び立ったものの2年後には墜落する危険がなきにしもあらずで、注意しなければなりません。ともあれ、せっかく採用していただいたので、これから奄美の自然について勉強し、保護事業に貢献していきたいと考えています。同時に、新たな環境に来たのを機会に視野や研究の幅を広げ、業績も増やしていければと思います。

 奄美といえば、アマミノクロウサギやルリカケス、アマミヤマシギ、オオトラツグミ等、固有の生き物が多い島嶼として、生物学的に非常に興味深いところです。奄美野生生物保護センターは、「奄美諸島に生息する希少な野生生物や固有の生態系について解説し、野生生物保護の普及啓発活動や、絶滅のおそれのある野生生物の保護増殖事業、調査研究などを総合的に行うための拠点として」(環境省自然環境局HPより抜粋)、2000年に開設されました。現在センターには、自然保護官1名、自然保護管補佐2名、自然保護専門員1名(私)、事務員2名、それに奄美の生態系に大きな影響を与えている外来種マングースの駆除を担当する専門集団「奄美マングースバスターズ」の12名が所属し、それぞれの業務にあたっています。

Ongachi
奄美野生生物保護センターのある思勝(おんがち)と大和浜(やまとはま)の集落。3つほど連なって見える白い三角屋根がセンターの建物。前に広がる思勝湾にはかつて50メートルもある大ダコが住んでいたが、源為朝に退治された。
 自然保護専門員としての私の仕事は、希少種であるオオトラツグミの保護増殖事業が中心となります。保護増殖事業といってもケージに入れて飼育し繁殖させるわけではなく、オオトラツグミの野外での生態(ほとんど何もわかっていない)を知るための調査計画を立案・実行し、そこで得られた知見を保護に役立てるというものです。現在は繁殖生態を調べるべく、巣を探し出すことに専念しています。しかしさすが推定個体数が100〜200程度と言われる希少種オオトラツグミ。声はよく聞くものの姿を見ることはまれで、巣探しは困難を極めています。オオトラツグミの巣はこれまでに4例しか発見されていないとのこと。探すべき場所のイメージも明確に持てないまま毎日のように森の中を歩き回り、先日ようやく繁殖が終わったらしい巣をひとつ発見したところです。自分で研究対象を決めるなら、こんなやりにくい鳥は絶対に選ばないと言えるでしょう。しかしそうも言っておられないので、「見えない鳥をどうやって調査するか」について、今後いろいろ試行錯誤していくつもりでいます。皆様からも何かアイデアがありましたらどしどしお知らせいただければと思います。

 自然保護専門員の業務は、オオトラツグミの保護増殖事業以外にも、アマミヤマシギの保護増殖事業、センターの展示棟における展示の企画・管理、自然観察会の開催、傷病鳥獣の管理など、多岐にわたります。自分の興味のある研究だけを自由にしていればよかったポスドクのときとは異なり、センターの名称にも入っている「野生生物の保護」を常に念頭に置いて、調査だけでなくさまざまな活動を積極的に行なっていく必要があります。とはいえ、鳥類の野外調査や、それと関連した仕事に就けたのは、私としては非常にありがたいことだったと感謝しています。

 一方で、大学のように周りに研究者が多くいるわけではなく、セミナー等で刺激を受ける機会もほとんどなく、文献へのアクセスも困難である環境で、研究に対するモチベーションが維持できるのか、不安に思うこともあります。日常の業務をこなしているうちにそれだけで満足してしまうなんてことにならないよう、また遊びほうけて南の島ボケしてしまわないよう、皆様から折にふれて叱咤・激励していただければありがたく思います。

 奄美は、独自の文化を持つ沖縄と、世界自然遺産に登録された屋久島に挟まれて、今ひとつマイナーというかブームに乗りきれないというか、地味な印象を拭い切れません。しかしそういう地味さこそが、穴場的な奄美のよさなのかなとも思います。ハブがいるのが難点ですが、調査の対象はいろいろあるし、さまざまな固有の生き物は見るだけでも楽しいものです。皆様も機会があればぜひ、この地味だけれど自然豊かな奄美へ足をお運びください。お待ちしています。



受付日2006.5.28

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新委員の抱負


新米評議員として思うこと

亀田佳代子

 3月の生態学会で、鳥学通信編集長の永田さんに会い、新任、若手の女性評議員として、鳥学通信に原稿を書いてくれない?と言われ、「元HP(広報)委員としては、これは断れまい。ま、なにかちょっとしたことくらいは簡単に書けるだろう」と、ほいほいと引き受けてしまいました。でも、いざ書こうと思ったとたん、「むむ、何を書いたらいいだろう?」と、はたと立ち止まってしまいました。たしかに、今の評議員の中ではおそらく一番若い(でも一般的にはもう若いとはいえない年だが)でしょうし、他に女性の評議員もいない。でも、現在学会の中心となって活躍しておられる方々の中には、もっと若い頃から学会の運営や発展に貢献してきた方も多いですし、女性の評議員も以前おられたことがあります。そこで、評議員に投票して下さった方々の期待はあると思いますが、それはそれとして、自分の立場や経験、特性を活かす形で、学会にできることはなんだろう?と改めて考えてみました。

 私が筑波大で鳥の研究を始めた頃、周囲の研究所には多くの鳥類研究者がおられました。今でも学会で中心的に活躍されている方々です。よく、鳥類学者や生態学者は、10年周期で多くの研究者が現れる世代が出てくるといわれますが、今思えば、ちょうどその時つくばの研究所におられた方々が、私達の一世代上の研究者だったと思います。一方、私のいた動物生態学研究室にも鳥を研究する学生が何人かいて、研究所の方々と一緒に輪読会をやったりしていました。私の鳥類学研究の基礎と、多くの鳥類学者との接点は、そうした環境でつくることができたと思います。

 その後、博士後期課程から京大生態学研究センターに編入し、今度はほとんど鳥類学者のいない環境にどっぷりつかることになりました。生態研センターには幅広い分野の生態学者がいて、今度は多様な研究内容に触れる機会ができました。もう一つ大きな衝撃を受けたのは、それまでの研究室とは全く違った「リッチで戦略的な」プロジェクト研究の様子をかいま見たことです。ここで私は、鳥にとどまらず、生態学の異分野に違和感なく飛び込める瞬発力と、口達者な人々にも平気でものを言う度胸を学びました(でもまだまだ及ばないことの方が多いですが)。

 幸いにも、学位を取って1年弱で、琵琶湖博物館に職を得ることができました。就職すれば大概はそうですが、またも鳥の専門家は自分一人で、今度は生態学に限らず、地学、考古学、歴史学、民俗学、社会学など、自然科学から人文・社会科学まで、さらに幅広い専門分野の学芸員と共に仕事をすることになりました。それだけでなく、一般の地域の人々とも直接接する機会が増えました。また、県立の博物館ということで、地方行政とも密接な関係をもちながら仕事をすることになりました。さらには、カワウの研究に取り組み始めたことで、有害鳥獣の保護管理や対策の検討といった、社会的問題と接することになり、社会で本当に必要とされる研究とは何か、といったことも考えるようになりました。

 長々と自分の経歴を述べてしまいましたが、何が言いたいかというと、振り返ってみれば、今の自分の研究は、これまでの環境や接してきた方々からの影響や恩恵を受けてきたからこそ、できているんだということです。今は、生態系におけるカワウの役割(特に物質輸送と環境改変)について研究を行っていますが、これは、鳥類の行動生態学から、水域と森林の群集生態学と生態系生態学まで関わる研究であり、学生時代の行動生態学の研究をベースとして、生態研センターや博物館で知り合ったさまざまな分野の研究者の助けを借りて、行っているものです。たとえ個人の研究であっても、どんな環境で、どのような人々と日常的に接しながら研究を進めてきたかということが、研究の発展には大変重要になると、改めて思っています。

 鳥学会には、いわゆる「研究で飯を食う」職業研究者だけでなく、「研究以外で飯を食う」鳥類学者もたくさんいます。また、職業研究者といっても、大学や研究機関の研究者から、博物館の学芸員、鳥獣保護センターなど地方行政の試験研究機関、アセス会社の調査員、NGOの方々など、本当に多彩な立場の会員がおられます。研究経歴にしても、学生やポスドクとしてがんばっている若手研究者がいれば、長年こつこつと調査を行い、長期にわたる膨大なデータから新たな発見をした大先輩もいます。また、研究分野においても、野外調査を中心とした行動学や生態学だけでなく、生理学や形態学、分類学などの研究者も増えてきました。

 これら研究者の多様性は、ともすると、研究の方向性を分散、断片化させてしまうマイナス要因にもなりがちです。でも、本当に多角的な視点から鳥類学研究を行う基盤ができるという点では、実は大変大きなメリットではないかと思います。ただ、それぞれの立場の人が、その立場の中だけで研究を行っていては、発展は見られません。異なる立場の会員同士が、対等な立場で情報交換や議論を行い、互いの方法論や視点をうまく取り入れながら研究に活かしていくことで、さらに鳥類学研究が発展するものと思います。

これまでも、鳥学会では他の学会には見られない様々なネットワークが作られ、そこから多くの研究が発展してきたと思います。今後はさらに、多くの分野、多くの立場の方々との横のネットワークを強化していくことで、鳥類学研究の新たな発展がひらけるのではと思います。そうしたつながりをつくるハブのような学会の役割に少しは貢献して行ければと、新米評議員として思っています。



受付日2006.5.28

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rennsai


ダーウィン便り(7)

上田恵介(立教大学理学部)

 5月半ばから、またダーウィンに来ています。こちらは乾期の始まりです。日本でいうと秋の始まりになるのでしょうか。草がそろそろ枯れはじめますが、緑はまだ多く、それでいて、からっとしているという、ダーウィンでは一番良い季節です。私はこの季節にここにいるのは10年ぶりになります。乾期の始まりは、鳥たちの移動の季節です。ここダーウィンでも、空を見上げると、ハチクイ、トビ、モリツバメ、ズアカガケツバメがたくさん飛んでいます。どれも雨期にはほとんど見られなかった種です。トビは日本と同種ですが、頭から肩にかけての上面がちょっと灰色っぽい気がします。日本では留鳥という感覚が強いのですが、共同研究者のNoske博士などは、トビが来ると「ああ乾期だ」と、季節の移り変わりを感じているようです。そういえばトビの学名はMilvus migrans、種小名にmigrans(渡るもの)とついているのは、ヨーロッパでもトビは渡り鳥という感覚なのでしょうか。

 今回はマングローブでの調査の下見です。オーストラリアのマングローブは大陸北部の海岸線に沿ってずっと広がっていて、広大な面積を占めています。マングローブ固有種も多く、キバラメジロやマングローブヒタキ、シロハラモズヒタキなど、マングローブでしか見れない鳥が多数います。Gerygone(センニョムシクイ類)の仲間も、ハシブトセンニョムシクイやマングローブセンニョムシクイはマングローブの固有種で、今回の調査はLittle Bronze Cuckoo(スズメより小さな緑色に輝くかわいいカッコウ)の宿主としてのこの2種のGerygoneが対象です。まずは調査地の選定と、研究戦略の決定です。本格的な調査は7月からはじめる予定です。5月28日にBirdsAustraliaの大会がダーウィンであるので、そこで江口さんたちとのバブラーの共同研究の成果を発表してから日本に戻ります。



受付日2006.05.28


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 いろんな鳥類の繁殖期で、読者の皆さんも調査の忙しい時期と思います。関東地方では、ツバメの1腹目のヒナが巣立ち、2腹目に入っています。霞ヶ浦のヨシ原にも独立したツバメの若鳥がやってきて、一番早いオオヨシキリの巣でもヒナが巣立ちました。今回は、東邦大から巣立って奄美大島に赴任した水田さんの新しい職場での抱負と、新しく評議員になりました亀田さんの抱負を鳥学通信に寄せていただきました。亀田評議員には、鳥学会における男女共同参画の旗頭としての活躍を期待しましょう。(編集長)



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 原稿・意見の投稿は、編集長の永田宛(mailto: ornis_lettersexcite.co.jp ※スパム対策のため@が画像になっています。) までメールでお願いします。







鳥学通信 No.6 (2006年6月14日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
Copyright (C) 2005-06 Ornithological Society of Japan

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