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新委員の抱負
鳥類学の最前線
野外調査のTips
学会参加報告
会員からの声
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鳥学の多様性 英文誌編集委員・広報委員 高須夫悟(奈良女子大学理学部情報科学科) 今年1月より鳥学会の英文誌編集委員と広報委員を担当することになりました。私はいわゆる数理生物学者なのですが、大学院生のころから鳥類の育児寄生(托卵)をテーマとした数理的研究を進めていることから、「鳥」とのつきあいは案外長く既に十数年以上になります。しかし、そのつきあい方は、一般的な鳥学会の会員の方とはずいぶん違うものであるかもしれません。 私が最初にフィールドに出たのは、博士課程の学生だった頃、長野でカッコウの研究をしておられる現鳥学会会長の中村浩さんのフィールド調査の手伝いでした。当時私は宿主の托卵対抗手段の進化モデルを手がけていました。研究室にこもってモデル解析に没頭するのも良いけれど、一度現実の系を目で見てみたいと思ったことがフィールド調査に参加した理由でした。
奈良女子大学理学部の情報科学科に職を得た後も、托卵に関する数理的研究を継続し、国内外の托卵研究者と共同研究を通じて太いパイプを築くことが出来ました。自ら野外観察・実験をデザインしてフィールドに出る研究は私にはできませんが、こうしたフィールド研究者との交流は新しいアイディアの発掘など、数理的研究を進める上で非常に貴重な機会となっております。「議論をすれば新しいネタが思い浮かぶ、相手が自分とは異なる立場であればなおさら。」ということを身にしみて感じました。 このようにフィールドに出ない(出られない)という点で、永い歴史を有する鳥学会の中では多少異端的な存在ではありますが、生物学の様々な分野において数理的研究が広がりつつある中、Mathematical ornithologyという分野を通じて鳥学会の発展の為に微力を尽くしたいと考えております。 実は鳥学は、Lackの最適クラッチサイズの議論やKrebsの最適採餌に関する研究など、古くから数理モデルとの接点が有り、モデルに載りやすい研究分野でもあります。繁殖や渡りといった生活史に関する情報を(その気になれば)ある程度詳細に得ることが可能であり、かつ、仮説検証型の操作実験が易いという側面があるのだと思います。 今後は英文誌編集委員として、鳥学研究を世界に発信して行くことに勤めたいと思います。ただ私は、托卵以外の、鳥学一般に関する知識は恥ずかしながら極めて乏しいと自覚しておりますので、他の編集委員の方の助言を頂きながら、鳥学の知識も勉強して行かなくてはと感じています。 また、ウェブを用いた鳥学会の広報にも広報委員として積極的に関わって行きたいと思います。1年以上前に広報委員前任の亀田さんから、鳥学会の広報委員を引き受けていただけますか?との断れないお誘いを受けたのも、私が情報科学科に所属していることと無関係ではないと感じました。しかし正直な話、私は、World Wide Webが一般に普及し始めた90年代中ごろ(Mosaicというブラウザが一世を風靡した頃)に、html形式をちょっと勉強した程度の知識しか持ち合わせておりません。今はやりのFlashとかPHPといった技術には付いていけていない面もあるのですが、今後鳥学会活動のの効果的な広報を考えると、こうした技術を学んで実践できるようになっていかねばと感じています。この点についても他の広報委員の助言を頂きながら、広報委員の務めを果たして行こうと思います。 4年近く前の2002年8月に北京で開催された国際鳥学会の会場で、前会長の樋口さんから、2004年度大会を奈良女子大学で開催してもらえないですか?との打診を受け、これをお引き受けした時点で、鳥とは縁が切れなくなったのかな、と感じております。私自身、鳥学会には大いなる可能性があると思っているので、英文誌編集委員、広報委員、そして一般会員という立場で鳥学会の活動を盛り上げていきたいと思います。 「鳥」を研究対象とする鳥学は、生理学や分子系統学から生態学、保全学などを含む生物学全ての縮図でもあります。欧米諸国と比べると日本の鳥学はまだまだ存在感が薄いようですが、この小さな宇宙が今後益々発展することに少しでも貢献できればと思います。 |
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鳥類の視覚と色彩測定森本 元(立教大院・理・生命理学) 色彩は自然界のいたる所に存在しており、視覚を主要な感覚としている鳥類は、あらゆる面でこの情報を活用しています。例えば、捕食の目をくらます隠蔽色や、雌の配偶者選択(female choice)で利用される雄の派手な装飾形質の機能などが挙げられます。鮮やかな色をした雄の方が雌に好まれることは、みなさんもご存知でしょう。このような色情報と行動の関連性を研究者が調査する場合、色そのものを定量化する必要があります。その上で、雄の色の鮮やかさを観察者が評価して、つがい形成順との対応を検討するという方法が用いられてきました。もっとも簡単な定量化の方法としては、市販されているカラーチャートを用いた点数化(スコアリング)があります。 しかしながら、この観察者による色の評価は本当に正しいでしょうか。先に答えを書いてしまうと、正しくないことが多々あります。これは鳥類とヒトの視覚の違いに起因します。人間による色彩評価が必ずしも鳥の色覚と一致しない原因はいくつかありますが、鳥類が我々には知覚できない紫外色を見ることが出来ることが最も大きな要因の一つです。色は光の波長の違いによって変わります。ヒトの眼の網膜には赤、緑、青(RGB)を感知する3種類の視細胞(錐体)があります。そこで、この三波長刺激の混合によって色を認識します。いわゆる光の三原色がこれにあたります。しかし、鳥類はヒトよりも多い4種類の視細胞(錐体)をもち、そのうちの一つが紫外線の一種である近紫外線を感じます(厳密には、ヒトと鳥類の知覚ピークや感度にも違いがありますし、鳥種によっても若干の違いがあります)。 このようにヒトと鳥類の視覚には違いがあることがわかってきたので、我々が「派手」と感じる個体が、果たして本当に同種の他個体に対して「派手」なのかどうかは疑わしくなってきます。実際、人の目で見ると性的二型がない(雌雄の色彩の差がない)と言われていた種でも、実は、紫外色領域では性的二型があるということもわかってきました。例えば、ヨーロッパに広く分布するアオガラ(Parus caeruleus)という鳥は、一見、雌雄同じように見えますが、冠羽部分の近紫外線反射率が雌雄で異なります。人間にはそうは見えなくとも、鳥には簡単に雌雄の判別がついているのです。人間が真っ黒で色がない鳥と思っているカラスも、鳥から見れば黒一色ではない紫外色を纏っています。このように、人間の目には同じに見える色であっても、鳥には紫外光の有無により異なる色に見えていますから、鳥類の色彩に関する研究を行う上で、この問題は無視できません。そこで、色を評価する際には、我々人間より広い鳥の眼の感受域に基づく色彩評価を行う必要があります。冒頭で紹介したような観察者(ヒト)の目によるスコアリングといった既存の手法が本当に使えるかどうかは、事前に確認しておく必要があります。では実際には、どのように色を測定したらよいのでしょう。
測定方法と手順の紹介
一見、簡単そうに見えますが、この機械を使う上ではいくつかの注意点・問題点があります。まず、上記の測定は、暗室、あるいは暗箱内にて行う必要があります。スペクトロメーターは、光源から照射した光の照射量に対する反射量を測定しているので、測定光以外の光が混入すると正しく測定できません。また、光源と対象物の距離や角度が変わると反射光の量が変わってしまうので、プローブの先端と対象物の距離・角度を一定に保つ必要があります。また、プローブの測定窓はとても小さいため、実際に測定できるのは直径2mm程度のごく狭い範囲です。なお、複数の色が測定範囲に存在すると得られるのはそれらの混合値となってしまいます。さらに羽の特性により鳥種によっては測定が難しい部位があり、これらが問題となります。例えばキクイタダキの冠羽などでは、一見大きく見えても羽枝自体がばらけており、下地の色と前面の目的の色の混合値が測定されてしまうため注意が必要です。
最後に、私の経験談にて終わりとさせていただきたいと思います。私は、ルリビタキ雄の羽色二型について研究をしています。研究上の必要性から、私はスペクトロメーターによる測定法を導入しました。しかし、国内に同様の色彩研究を行っている鳥類学者がおらず、この装置をどのように使用すべきかを手探りしながらノウハウを蓄積してきたのが現状です。最初の頃は「これ、一人じゃ操作できないよなぁ」とか、「海外の研究者は野外でどうやって暗室測定しているのだろう」といった素朴な疑問も抱いていました。後者については、海外の研究者に質問する機会を得たときに、「野外で運用している研究者はいないだろう(調査地そばにラボや測定小屋を用意している)」との答えをもらい、すっきりしました。 このように現在は、まだ野外での使用に制約が多い機材ではありますが、研究者による運用面の工夫次第でカバー出来ることも事実です。例えば研究内容によっては、生きた鳥を測定するのではなく、採集した羽を測定することで対処できます。本機器は色彩を研究する上では必須であり、かつ、とても有益な道具です。機器の特性をうまく利用した運用が、研究の成功の鍵となるでしょう。色彩研究という魅力的なテーマを、ともに議論してくださる方が増えていただければうれしく思います。 |
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鳥類の音声研究のためのデジタル録音機材黒田治男(兵庫県) 「鳥学通信」第1号の自由集会報告「第2回音声データによる鳥類のモニタリングADAM (Acoustic Data for Avian Monitoring) −夜の鳥をモニタリングする」の使用機材でもさまざまな録音機材を紹介されていました。これまでの録音機といったら、読者の皆さんはどんなものを思い浮かべるでしょうか。 カセットテープレコーダーを思いうかべる方が多いかもしれません。高価なものですが、私は、デジタルオーディオテープ(DAT)レコーダーを思いうかべます。しかし、2005年12月にSONY DAT(TCD-D100)の国内出荷が終了してしまいました。そのかわりにデジタル録音機材が増えてきました。メディアも今までテープ媒体だったものが、SDカードやコンパクトフラッシュ(CF)カードなどの媒体にかわりました。市販されているCDの音質と同じ44.1KHz16bitでサンプリングし、WAV形式でステレオ録音すると、1GBの容量のカードに約100分の音を録音できます。また、WAV型式(非圧縮)で録音したファイルは、パソコンにすぐにコピーして、分析することが可能です。今回は、音声研究の入り口となる音を録る装置を紹介させていただきたいと思います。 まずは、どんなものがあるのか?!
R-09は、内蔵マイクあるいは外付けマイクでSDカードに録音します。Lab:dddo/実験室どどどさんのホームページにR09に関するたくさん情報が掲載されています (http://dddo.cocolog-nifty.com/test/2006/06/info_jedirol_ro_ee7d.html)。 2)M-AUDIO MicroTrack 24/96(図2) 録音性能は良いが、20万円近くもする高価な録音機材。
有名なデンスケの後継機ですが、20万円近くもする高価な録音機材です。本体の4GBのフラッシュメモリーとメモリースティックに録音できます。 松田道生さんのホームページ syrinx に「PCM-D1使用リポート」が紹介されていますので参照してください。 他にも「野鳥録音の方法」や「LISN(パラボラ)使用レポート」など参考になります。 BBSで録音機の情報や疑問にも、親切に回答してくれます。鳥の声の録音で困ったことがあればどしどし投稿してみてください。 その他にも、以下のようなデジタル録音機材もあります。 4)FOSTEX社の新機種(FR-2LE) 5) iPodで録音 デジタル録音機材は、まだまだ、たくさんあります。Hi-MDやICレコーダーといった選択もあります。私個人の意見としては、録音機材を選ぶ決め手として次の3点を重視しています。 1.周波数特性を調べる。 2.長時間、野外録音できるバッテリーの機材を選ぶ。 3.外付けマイクが付けられる。 最後に、デジタル録音機材と合わせて使用する高性能な外付けマイクも、鳥の声を録音するうえで重要だと思います。最近、発表されたリスンの高性能なパラボラマイクを紹介しておきます。 リスンパラボラ集音マイクマイクロホン(http://www.din.or.jp/~fpc/Ls/indexLs.htm) 今回、紹介したデジタル録音機材を利用することで、少し宣伝となりましたですが、データの収集と保存は簡単になり、パソコンを使った音声分析がしやすくなったことは言うまでもありません。 自由集会で早矢仕さんが紹介しているTalk Master(現在販売終了、新製品 Talk Master II )のような機材も含めると、デジタル録音機はたくさんありますので、研究の内容、費用にあわせて選んでいけば良いと思います。 受付日2006.07.19 |
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Birds Australiaの大会に参加して上田恵介(立教大・理・生命理学) 5月にオーストラリアのダーウィンで開催されたBirds Australiaの年次大会に参加してきました。「ダーウィン通信」で紹介していますが、ダーウィンは私や九大の江口さんらの科研の海外学術調査の拠点です。 5月、新しくはじまるミドリカッコウの調査準備で滞在しているときに、たまたまBirds Australiaの大会があったので、ホストのNoske博士に勧められて、江口さんらと共同で研究しているバブラー(ハイガシラゴウシュウマルハシ)研究の発表をしてきました。 Birds Australiaというのは、昔のRAOU(Royal Australasian Ornithologists Union,『Emu』の発行母体)と、オーストラリア各地の鳥の団体が連合して、ついでにBirdlife Internationalのオーストラリア支部も兼ねて発足した団体です。『Emu』を継続して発行し、一般会員向けに野鳥誌とバーダーを兼ねたような写真のきれいな『Wingspan』を発行しています。 このBirds Australiaの大会ですが、オーストラリアの僻地(Top Endと呼ばれている)ダーウィンで開催されたせいもあると思いますが、参加人数も少なく、日本の鳥学会の大会とくらべても、かなりさびしい大会でした。会期は基本的に一日だけで、会場のチャールズ・ダーウィン大学のホールが午前と午後の口頭発表と総会の場に当てられていました。ポスターはホールのロビーで展示という形式です。口頭発表は、全部で13題が4つのセッションに分かれて行われ、ポスターは6題のみと本当に1日で全部終わってしまう規模の大会でした。内容は保全関係がほとんどを占めていました。そのあと総会に移り、事務局からの会計・活動報告と、新しい会長の承認が行わましれた。 大会はこれで終わりで、あとはディナー。Noske博士が用意したニューギニアのゴクラクチョウ類の求愛行動のDVDを見て、鳥のクイズをして、ビンゴゲームをして・・・・、というアットホームなディナーでした。 翌日曜日にはNoske博士が企画したTwitcherthon(いわゆるバードソンです)に、Noske博士のチームに入れてもらって、参加しました。ダーウィンの鳥を知り尽くしている、Noske博士と私が組めば優勝も夢ではないと思っていたのですが、私たちが記録した122種を超えて、125種と129種を記録したチームがあって、私たちは残念ながら3位に終わりました。それでもNorthern Territory準州では初記録のスズメ(!)を記録して、特別賞(赤ワイン1本)を頂きました。 受付日2006.07.27
Birds Australiaの大会(訂正) |
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音声データベース構築の提言(その後)黒田治男(兵庫県) 鳥学通信 No.1 (2005年11月1日発行)で会員の声として意見を述べ数ヶ月が経ちました。その後の状況について、この場を借りて報告したいと思います。音声のことになると、みなさん興味をお持ちのようですが、なかなか意見がでてきませんでした。少数の方々から意見がありましたので、紹介していきたいと思います。 まず、数名の方から、鳥学会の中だけで音声データベース構築を進めていくには難しいだろうから、鳥類以外の音声研究をしている人(興味のある人)も含めて意見交換をし、人材を集めることが先決であろうという意見をいただきました。また、日本動物行動学会が提唱している映像データベースMOMOとも連携をはかってみてはどうか、という意見もありました。その他にも、山階鳥類研究所などの関連機関にも話しを持っていってみてはどうか、あるいは、ADAMの関係者でデータベースの原案をかためて、協力者を確保して自発的なグループをつくり、その上で学会に提案した方が良いのではないかと言う意見もありました。 この鳥学通信は、たくさんの方々に広く読まれていて、驚いたことに私から連絡しなければならなかった映像データベースMOMOの関係者から連絡が入りました。私の提言にたいして、MOMOの運営スタッフから以下のような意見をいただきました。 1)同じ動物の行動形質のデータベースとして,音声データベースが実現した暁にはMOMOと連携を取り合って相互に検索が掛けられる仕組みができればよいのではないか。 2)MOMOは映像データを扱っているが,技術的には音声データを扱うことに何の障害もない。だから,基本的にはおなじ実装方法を利用してもらえば簡単に音声データベースを実現できるが,それを使ってはどうだろうか。 といった内容ではじまり数回メールで意見交換をさせていただきました。ただ、MOMOでは音声データの部門を新たにつくることはしないため、こちらの体制次第となり、今後も協力はしていただけるというところで話しは終わっています。また、この鳥学通信を読んだ研究者ではないバードウォッチャーの方からもメールがありました。 まずは、たくさんの方々がこの鳥学通信を読んでいて、たくさんの情報が飛び交ってきていることに感謝しています。皆さんからいただいた意見も含め、再度、音声に関する研究へ進めていくために今後の方向を決めていきたいと思います。音声データベース構築とまでもいかなくても、音声に興味をもっている方がいらっしゃれば、気楽に私に連絡してください。 メールアドレス:hkurodagold.ocn.ne.jp
受付日2006.07.19 |
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7月の西日本を中心とした記録的な集中豪雨は、「平成18年7月豪雨」と命名されたそうです。今年は春から雨がちで、関東地方では、この後記を書いている7/26現在、いまだに梅雨明けしていません。年変動があるものだからと思ってみても、まったくおかしな気候だと感じてしまいます。豪雨で被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。 |
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鳥学通信 No.8 (2006年8月1日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
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