V.一般の方へ伝えるべき注意事項

 

(金井 裕 ・ 渡辺 ユキ) 

 

日本では79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザが発生したことによって、一般社会に鳥インフルエンザの感染に対する不安が広がり、野鳥に高病原性鳥インフルエンザが蔓延しているとの誤った印象を持った人が増えた。その結果、飼い鳥が捨てられる、処分される、給食から鶏肉や卵をはずす市町村がでるなどの、行き過ぎた現象も見られた。

このようなパニックに近い社会現象は、鳥インフルエンザそのものや野生鳥類の生態について、センセーショナルなマスメディアを通じてでは、正確な情報が伝わらなかったことによる。いったん誤った情報を持ってしまった人には、今後、鳥の専門家として正確な情報を伝え、野鳥について正しい理解をしてもらうように努めることが必要である。

誤った理解のもとに、野鳥の生活が脅かされたり、一般市民の間で過度な防除や、ましてや駆除が行われるような事態があってはならない。そうならぬよう目を配り、次世代の子供達に誤解を与えない為にも、正しい知識の提供や指導を心がけたい。

そのためのポイントとして、以下の点がある。

 

1.鳥インフルエンザの人への感染は、ふつうの生活ではほとんどありえない

 

一般の方々の最大の不安は、鳥インフルエンザが自分たちに感染するかもしれないということである。しかし、ウイルスを大量に取り込んだ場合や、体力の弱っている人以外では、感染する可能性はきわめて低い。また肉や卵を食べて感染した例はこれまで報告されていない。

 

2.高病原性鳥インフルエンザは野鳥の持つインフルエンザとは違い、特殊なものである

 

高病原性鳥インフルエンザは、養鶏場など高密度でニワトリが飼われているような特殊な場所で生じた、鶏に強い病原性を持つ突然変異株である。したがって、この特殊なウイルス株は自然界に普遍的に存在するわけではなく、野鳥にはほとんど確認されていない。

 

3. 鳥類の飼育や扱いは正しい感染症の知識で対応する

 

鳥類は鳥インフルエンザに限らず、サルモネラ、クラミジアなど人に感染する病気を持っている場合がある。鳥を飼っている場合は、掃除はきちんと行なう、触ったら手を洗うなど、日常の常識的な衛生管理が大切である。野鳥のための餌台を設置している場合も同様。野外活動では人との距離があるので、一般には感染が起こるほどウイルスや細菌を直接取りこむことはない。ペットを捨てたり殺すことは、法律に違反する行為でもあり、くれぐれも慎みたい。

弱っている鳥や死体を見つけた場合には、なるべく素手ではさわらないか、触ったらその後は手を洗う。異常を感じたら、都道府県の鳥獣保護担当に連絡して欲しい。

 

4. 野生鳥類の輸入・売買は慎重にすべきである

 

過去に輸入愛玩鳥から鳥インフルエンザウイルスが分離されたことがある。野鳥の市場は高密度で飼育され、かつ不衛生になり易いので、鳥の間でのウイルスの感染が容易に起こる。保護の観点のみならず感染の拡大といった点からも、高病原性鳥インフルエンザ流行地域からの野鳥の輸入は、特に問題の多い行為である。

 

<参考となる資料>

● 厚生省 感染症情報センター(IDSC)/ 鳥インフルエンザQ&A  (一般的質問への答え)

 http://idsc.nih.go.jp/others/topics/flu/QA040401.html

● National Wildlife Health Center (NWHC) / Frequently Asked Questions about Avian Influenza and Wild Birds    (野鳥に関して実用的。当ホームページに翻訳あり)

 http://www.nwhc.usgs.gov/research/avian_influenza/FAQ_avian_influenza.html

 


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