巻末資料4

 

野生動物保護協会(Wildlife Conservation Society) 「野生動物の保健」

アジアにおけるトリインフルエンザの急増に関するガイドライン 2004

(訳者:黒沢令子)

はじめに

現在のアジアにおけるトリインフルエンザウィルスA(H5N1型)が、野鳥や鳥の渡りによって媒介されているという証拠は今のところ見つかっていない。また、動物園で展示されている野鳥がトリインフルエンザを家禽へ媒介しているかどうかも不明である。むしろ、感染したニワトリやアヒルの肉、あるいはそれらに直接触れた人間がウィルスのついた物品を無制限に移動することで、ウィルスを各地へ広めている可能性の方が重大である。過去数年間に行われたワクチン接種が、高病原性ウィルス(H5N1型)に適合しない不適切なものだったことも、このウィルスを温存し、病気の潜在的な温床となったと考えられている。

およそ90種ほどの野鳥がいくつかの系統のトリインフルエンザウィルスを保有している可能性がある。それら野鳥の個体群を根絶させて病気を予防しようというのは不適切でかつ不可能である。この病気をコントロールしようと思うなら、家禽を対象として制御努力するのがずっと有効である。

トリインフルエンザの流行拡大を防ぐためにもっとも有効と考えられる手段

全てのアヒルとニワトリに対して適切な衛生対策基準の設定

A.飼育場に鳥類が出入りしないようにする。

B.飼育場に出入りする人間を制限する。

C.飼育場に出入りする際は、服を着替えて、場内で着た物は場外に出さない。

D.家禽を扱う場合は頻繁に手を洗う。

E.生きた家禽に触れるときはマスクを着用する。

F.家禽の扱いが終わったら手を消毒する。

G.家禽を扱う仕事についている人は他の飼育場には行かない。

H.家禽を扱う人以外は飼育場に行かない。

個人で家禽を飼育する方法を改める。

A.ニワトリと野鳥が交流しないようにする。

B.ニワトリや他の家禽の移動を制限し、生体の移動をする場合はワクチン接種する。

C.飼育小屋に入るとき、出るときには必ず手と履物を洗う。

D.他地域や飼育場からの家禽を混ぜない。

E.ニワトリだけでなく、ペットなどの全ての鳥類の移動を規制する。

動物園における衛生対策基準の設定。

人に対して

A.鳥と一般人の接触を禁止する。(餌やりを禁止し、ケージ内を歩くトレールを一時中止する)

B.鳥類の飼育係は個別に特定の担当を割り振り、その担当者は動物園外で鳥と接触しない。

C.全ての飼育員に制服を支給し、着用したものは園内から出さずその場で洗濯する。

D.鳥を担当する飼育員の作業靴は園内から持ち出さない。

E.鳥の飼育ケージに入る前と出た後に作業靴を消毒する。

F.鳥に関わる作業の際は必ず使い捨ての手袋を使用するか、頻繁に石鹸で手をあらう。

G.従業員への啓発。

  1.鳥や豚を担当する人には、自身を守る手段とトリインフルエンザが起こす初期症状(人間だけでなく動物のものも)を知らせておく。

  2.従業員には極力、他の鳥を飼育している施設や、ペットとして家禽や鳥を飼っている家、また生きた鳥を扱っている市場などには出入りしないよう注意を促す。

  3.消毒薬とフットバスの使用手順を正しく理解させる。

飼育鳥類に対して

A.動物園への鳥の移出入を中止する。

B.鳥を屋外で放すプログラムを中止する。

C.可能な限り全ての場所で野鳥との接触を防止する。(野鳥がケージの中に入らぬよう、また餌の残りを食べに来ないようにする)

D.餌皿、設備、ケージなどは使用するたびに消毒を行い、使用するケージや鳥の種類を限る。

E.病気にかかった鳥は隔離し、出来るだけ早く獣医師に診察してもらう。

F.病気にかかった鳥の処置は一日の最後に回し、その後健康な個体を扱わない。

G.死んだ鳥は届け出をし、検死してもらう。

野鳥についての対策

A.囲いや適切な飼育小屋などによって、動物園や飼育所に野鳥を入れないようにする。

B.病気の野鳥を見つけたり捕まえたりした場合、獣医師の診察を受けるまで隔離する。

C.野鳥の死骸を見つけたら、専門家の指示に従う。

D.健康な野鳥を撲滅させようとしては絶対にいけない。

追加措置

・生きた動物を売る市場のように様々な鳥が混ざり合う場所は閉鎖すべきである。

・今回の場合は、動物園や野鳥にワクチン接種するのは実用的でもないし、得策でもない。中国では、H5N1型の弱毒ワクチンをくり返し使用したようだが予防効果は薄い。また、たとえそのワクチンに効果があるとしても接種しても免疫力がつくまで3週間かかる。

・トリインフルエンザはおよそ90種の野鳥が保有しており、世界中で家禽における散発的な流行がみられる。流行のほとんどが、(生死を問わず)家禽、人間、豚が感染地域から非感染地域へ移動したことと関係している。また、インフルエンザが流行している最中は、闘鶏用やペットとして(合法非合法を問わず)、鳥の交易を行なうと流行をいつまでも長引かせる要因となりうる。

・トラやヒョウなどといった、動物園で病気にかかったり死んだ肉食獣からPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法によりトリインフルエンザが分離されたという報告がある。これらの事例では肉食獣に生の家禽を与えたことと関連があり、ウィルスが検出された原因であると考えられる。これらの特殊な事例においてトリインフルエンザが病気の原因だったとする明確な証拠は無いが、家禽にトリインフルエンザが流行っている間は、肉食獣に家禽の生肉を与えるのは避けるべきであろう。いずれにしても、肉食獣に家禽の生肉を与えることは、サルモネラ菌などに代表される他の病原体にもさらすことは記憶にとどめておかなければならず、飼育動物の餌として生肉の使用は注意しなければならない。

http://www.iucn-vsg.org/documents/WCS%20AI%20Guidelines.doc

WCS(IUCN)の好意により掲載. 14, Apr. 2004

 


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