巻末資料5

 

野鳥の餌台に関係する病気

(訳者:渡辺ユキ)

 

餌台をよく利用する野鳥に普通に見られる病気が4種類あります。餌台に来るのは野鳥の中でも一部の種類なので、これらは重要な識別点です

*嘴と蝋膜に鳥ポックスによる過形成のあるメキシコマシコ。写真;M.Richeson

*トリコモナスに感染したナゲキバト。右上の鳥はトリコモナスによって喉が腫れ、飲水困難を起こしています。写真;L.Sowls

 

サルモネラ症

サルモネラ症は、ラテン語でサルモネラ菌として知られる細菌群によって、動物と人に起きるさまざまな疾病を広くさす用語です。サルモネラ菌が全身に広がると鳥はすぐに死んでしまいます。感染の過程で食道やそのうの表面にしばしば膿瘍ができます。感染した鳥は、糞便中に細菌を排泄します。糞によって汚染された餌を食べて、他の鳥が感染します。サルモネラ症は餌台にまつわる最も一般的病気です。

 

トリコモナス症

トリコモナスは、人を含む様々な動物に感染する、寄生性原生動物(単細胞微生物)群です。トリコモナスの1種はハト類に病原性があります。北米で身近なナゲキバトは、特に感受性が高いのです。重篤なトリコモナス症の鳥は、口や喉に病変ができます。病変のできた鳥はうまく呑み込むことができなくなり、トリコモナスで汚染された食物や水を落としてしまうので、他の鳥がそれを食べて病気が広がります。

 

アスペルギルス症

アスペルギルス真菌(カビ)は、湿った餌や、餌台の下にあるくず餌の中で成長します。鳥が真菌の胞子を吸い込むと、菌糸が肺や気嚢全体に広がり、その結果気管支炎と肺炎を起こします。

 

鳥ポックス

鳥ポックスは、鳥の顔、翼、脚や足指などの羽毛のない皮膚表面にいぼ状の病変を作るので、他の病気より目に付きます。ポックスウィルスは、感染した鳥との直接接触によってや、餌や餌台に潜むウイルスを健康な鳥がついばんだり、昆虫の体について機械的に運ばれたりして広がります。しかし、鳥の皮膚にあるいぼ状の過形成がすべて、鳥ポックスウィルスによってできたものとは限りません

 

疾病の問題

これら4種類の病気はすべて死亡の原因となることがあります。鳥はサルモネラ症ですぐに死んでしまう事がありますし、アスペルギルス症の肺炎はほとんど常に致命的です。トリコモナス症は鳥の喉に障害が出る事があります。鳥ポックスによる顔の上の過形成は、視界や採食を妨げるほど大きくなることがありますし、足や指にできると、立ったりとまったりすることに支障がでます。こういったことによって、病気の野鳥は飢餓、脱水、捕食圧、厳しい天候などに、耐えられなくなります。

たとえ群れの中であっても、病気の野鳥を見抜くことができます。彼らは不活発で敏捷性に欠けています。あまり物を食べず、しばしば餌台の上でじっとしているし、飛びたがりません。羽毛は健康そうに見えません。これらの明らかな徴候にもかかわらず、餌台の鳥が混雑していると、病気の野鳥は見落とされがちです。確かに、派手な色彩や陽気なさえずりと比べると、鳥の病気は目につきにくいものです。しかし地味だからといって、病気が重要でないということではありません。

      不潔な餌台や、鳥の糞と餌が混じっているような所は、サルモネラ症の潜在的な発生場所です。写真;M.Friend/USFWS

 

病気に対する予防策

野鳥に給餌をする人は、病気の問題を無視することはできません。餌台での病気を防ぎ、最小限に食い止めるために、誰にでもできる簡単な8つのステップを紹介します。

1. ゆとりある空間を与える - 餌台を広くして過密を避けましょう。たくさんの野鳥が一つの餌台に群がると気分がいいものです。しかし、過密は病気を広げる主要因です。鳥が餌に近づくのに、押し合いへしあいになるなら、それはもう過密な状態です。また、こういった過密状態はストレスを生み、鳥を病気にかかりやすくします。

2. 糞や残り物の掃除をする - 餌台の周辺はいつも清潔にし、古い餌や糞のないようにしてください。ほうきやシャベルで掃除すれば充分でしょうが、ガレージや仕事場で使うような掃除機があればさらにいいかもしれません。

3. 餌台の安全をはかる - 尖ったところや鋭い角のない、安全な餌台を使用してください。小さな引っ掻き傷や切り傷でも、健康な鳥が細菌やウィルスに感染する原因となります。

4. 餌台を清潔に保つ - 餌台を定期的に清潔に消毒してください。消毒には、液体の家庭用塩素漂白剤を、9倍のぬるま湯で薄めて(10%溶液)使用してください。餌台を完全に空にしてごみなどを取り除き、充分な量の溶液を作って溶液中に完全に2,3分浸してください。その後空気にあてて乾燥させてください。月に1,2度行うのがよいですが、もし餌台に病気の鳥がいるのに気がついたら、毎週行うとよいかもしれません。

5. よい餌を与える - かびくさい匂いがしたり、湿気ていたり、かびや細菌が生えているような餌は、捨ててください。傷んだ餌を入れていた保存用容器や、餌をすくう為のさじなどは、いったん全部消毒しましょう。

6. 他の動物からの汚染を防ぐ - 保存してある餌にネズミが入らないように注意してください。ハツカネズミは、自分自身は発病しなくても、何種類かの鳥の病気を運搬することがあります。

7. 早め早めに行動する - 病気や死んだ鳥を発見するまで待ってはいけません。よい予防法を用いれば、餌台で野鳥が病気にかかったり、死んだりすることはほとんどありません。

8. 声をかけあう - 同じ注意を心がけるように、野鳥に餌をやっている近所の人達にも勧めてください。野鳥達は通常、餌台間を移動しているので、行く先々で病気が広がります。餌台の安全性は、地域住民が協力しあい、野鳥の為に同じ配慮をすることで保たれるのです。

給餌行為とは

野鳥といえども病気になります。病気は、野生の生きものをめぐって起きる多くの自然現象のひとつです。餌台には病気の野鳥が現れることもあれば、その結果他の野鳥が病気になることも当然あるのです。

野鳥への給餌に問題があるとはいっても、餌を与えるのが悪いとか、全く止めるべきだというわけではありません。ただ、野鳥に餌を与える人間側には、彼らを危険にさらさない倫理上の責任があるということです。きちんとした基礎知識を持って、給餌行為を行うことが求められます。上記のような注意に従えば、野鳥が健康でいられるので、楽しく餌やりを続けることができます。

野鳥への給餌は、問題のない野外活動のように見えます。人は野鳥を助けながら、多くを学ぶ事が出来ます。しかし、野鳥への給餌行為とは、餌台を訪れる鳥にリスクを与えることであり、餌を与える人間側には野鳥の健康や安全に配慮する責任がある、ということを承知しておく必要があります。

*餌に生えた菌糸は、鳥の呼吸器感染症の原因となります。写真;J.Runningen/USFWS

 

http://www.nwhc.usgs.gov/whats_new/fact_sheet/fact_birdfeeder.html

米国 NWHCの好意により掲載. 19 Apr. 2004  


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