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自由集会報告

野外調査のTips




自由集会報告


ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援鳥類学研究者グループ第8回集会「希少雁類回復・復元計画の経過と意義・今後の課題」報告

企画:須川 恒・呉地正行・鈴木道男・佐場野 裕
文:須川 恒

 1999年より「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループを設立して毎年鳥学会大会の際に集会を開いてきた。

 今回は1980年代からはじまっているシジュウカラガン・ハクガンの希少雁類回復・復元計画の実施経過・背景情報をテーマとした。

 1990年代はじめに日露の関係がスムーズになったことをきっかけに、シジュウカラガンはヒシクイを、ハクガンはマガンを仮親にして渡りを復元するという計画が提案された(詳しくは呉地正行(2006)雁よ渡れ(どうぶつ社)、Anatidae2000(国際ガンカモ類会議フランス1994)分科会報告など)。 

 実際のところどのように事業はおこなわれ、その結果はどうなったのかを関係者から紹介していただき、事業の意義を確認し、今後の課題を探った。



『シジュウカラガン・ハクガン回復・復元計画の経過と課題』呉地正行(日本雁を保護する会)

 1980年代後半より日米が協力して宮城県でシジュウカラガンの越冬地放鳥による回復・復元計画がはじまった。1980年代後半のシジュウカラガンの越冬地放鳥方式は成果がでず、日露の関係がスムーズになった1990年代になってからは、日米露の3ヶ国が協力してシジュウカラガンの、さらにハクガンの回復・復元計画がはじまった。当初、日本に渡来することが判明している雁(ヒシクイやマガン)を仮親として卵交換して仮親をつくる計画を立てた。

 シジュウカラガンの計画は、かつての繁殖地の北千島エカルマ島にカムチャツカで増殖させた個体を継続的に多数放鳥する方式に変更し、ハクガンについては、マガンへの卵交換を含む実験を1回行い、いずれもその後の経過をモニタリングした。



『江戸時代の図譜から見る希少雁類の生息状況』鈴木道男(東北大学)

 希少雁類復元計画の目標として現在は希少種とされている雁類が、明治時代以前にどのような生息状況であったかを把握しておくことが重要である。2006年に演者が翻訳および解説を書いて出版した江戸時代の博物学者である堀田正敦の『観文禽譜』(平凡社刊)から、江戸時代のシジュウカラガン・ハクガンなどの希少雁類の当時の生息状況を紹介した。

 堀田正敦は幕府の重臣の立場を生かして広く情報を集めた。例えば漂流民大黒屋幸太夫からアリューシャン列島でシジュウカラガンと思われる雁が繁殖していた様子を聞き取っている。



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写真1 カムチャツカの施設で増殖したシジュウカラガンを北千島エカルマ島に運び放鳥する。
『野生シジュウカラガンの羽数回復事業』阿部敏計(仙台市八木山動物公園)

 極東アジアで絶滅の危機にあるシジュウカラガンの羽数と渡りの回復を目指して、仙台市八木山動物公園・ロシア科学アカデミーカムチャッカ太平洋地理学研究所・日本雁を保護する会が共同で行ってきたシジュウカラガンの増殖・放鳥事業を紹介した。

 カムチャッカにある繁殖施設で増殖させたシジュウカラガンを、かつての繁殖地である北部千島列島のエカルマ島へヘリコプターで運び1995年〜2006年にかけて計376羽放鳥した(放鳥した個体にはカラーリングを装着)(写真1)。エカルマ島発の標識鳥は日本国内で計18羽が確認され、これ以外に、放鳥事業以降日本国内における越冬個体の確認数が増加した(図1)。

 幼鳥も2割以上は含まれており、また北千島のオンネコタン島の不凍湖で25羽の越冬が確認され、シュムシュ島で雛を連れたシジュウカラガン確認情報があることから、詳細は不明ではあるが、北千島で繁殖(越冬)している群れが形成されている可能性が高いと考えられた。


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図1 シジュウカラガンの国内越冬個体数とエカルマ島標識個体確認数(エカルマ島放鳥事業は1995〜2006年、一部情報確認中の年度を含む).[画像クリックで拡大表示]

『東アジアにおけるハクガン(Anser caerulescens)復元計画の現状と課題』佐場野 裕(日本雁を保護する会)

 アジアに唯一残されたロシア北極海に浮かぶウランゲル島の繁殖個体群(写真2、カリフォルニアで越冬)を保護し、東アジアで繁殖、越冬する個体群を復元するためのハクガン復元計画が、国際共同計画として1993年より実施された。

 第一段階での本計画の目的は、次の2点にあった。(1)いくつかの復元方法を試行し、ハクガン復元計画実施方法を開発する、(2)北東アジアにおけるガン類の基礎調査。特に、ハクガンの里親となるマガンの渡り経路の解明と、北東シベリア北極圏沿岸部でのハクガンの生息状況を調査する。
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写真2 ウランゲル島におけるハクガンの番い(写真提供 池内俊雄)
(1)については、1993年に、ウランゲル島で採取されたハクガンの卵100個を北東シベリアのアナドゥリ低地に移送し、マガンを里親とする仮親法と、マガンの換羽地でハクガン幼鳥を放鳥する方法の二つの方法を実施した。幼鳥放鳥の場合は足環標識が施されているが、1996年夏には、アナドゥリ低地から南に100km離れた地点で、標識付きのハクガンが番形成し、幼鳥4羽を含む家族群でいるのが確認され、越冬地である日本と韓国においても、標識付きのハクガンがそれぞれ1例づつ観察されている(図2)。また、1993年を境として、ハクガンの国内の越冬確認個体数(相当数の幼鳥を含む)が顕著な増加を示した(図3)ことから、北東アジアで東アジアに渡りをする小規模な繁殖群が形成されたものと考えられた。

 (2)についても、1994年に伊豆沼で越冬するマガンへの衛星送信機装着を含む標識調査で春季の渡り経路が解明されたことや、アナドゥリ低地・コリマ低地における調査で、北東アジアのガン類のついて得られた知見は多い。



事業の意義の確認と今後の課題

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図2 卵移送・卵交換・孵化後の放鳥(1993年)とその後の主な結果.[画像クリックで拡大表示]
 参加した鳥学会関係者の多くから、このような興味深い事業が行われていることをはじめて知ったという感想が得られた。今回の集会は、希少雁類の回復・復元計画の概要を知るうえで有益であった。今後、これらの事業計画の内容をもっと多くの人々に伝えていくべきだという課題が明瞭となった。

会場における質疑などから明らかになった事業の意義と今後の課題を整理した。

 シジュウカラガンとハクガン共に越冬地まで渡ることが標識鳥によって確認でき、これらの計画を開始して以来、日本への幼鳥を含む渡来数が増加した。また、シジュウカラガンは北千島で、ハクガンはアナドゥリ低地で繁殖またはそれを示唆する情報が得られ、詳細はいずれも不明であるものの、両種とも小規模の繁殖個体群が形成されている可能性が高いことが判った。

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図3 ハクガンの日本国内越冬確認個体数(卵交換および孵化鳥放鳥は1993年).[画像クリックで拡大表示]
 回復・復元計画の手法としては、当初のアイデアを生かしつつも、実践における制約で次善の策を選んだ。シジュウカラガンにおいては、前半の5年の段階で放鳥手法を再検討して変更(1回の放鳥数を増やし齢構成を若い個体中心とするなど)したことが、その後の結果(標識確認個体の増加など)につながったと考えられた。現時点で有効と考えられる手法を整理して、今後につなげていくことが重要である。

 仮親方式を軸とした当初の計画が動機となって、シジュウカラガンの仮親と想定したヒシクイ、ハクガンの仮親と想定したマガンに関して繁殖生態や渡りに関する知見が増加した。特に、伊豆沼で越冬するマガンへの衛星送信機を装着した調査で春季の渡り経路が解明されたことや、アナドゥリ低地・コリマ低地における調査で、北東アジアのガン類のついて得られた知見は大きい。

 越冬地でのモニタリング体制は日本国内ではかなり整い、ロシアや韓国についても連絡はあるとはいえ、北千島の各島や、チュコト半島周辺については断片的な情報が得られているだけで、今後ともこれらの諸国に中国を加え緊密な連携関係をつくっていくことが大切であろう。

 事業継続にはカムチャツカにおける施設維持費などかなりの資金が長期的に必要であった。シジュウカラガン回復計画は、仙台市八木山動物公園などの資金面・人材面での大きな支援により今年度まで続けることができたが、今後はあらたな形を考えなければならない。シジュウカラガン・ハクガンともに小規模ながら繁殖個体群が形成されていると考えられるので、越冬地放鳥をすることによって、その規模を大きくしていくなどの機会として活用できるかもしれない。

 希少雁類回復・復元計画の意義を多くの人々に理解してもらうためには、希少雁類が多く渡来していた明治時代以前の景観をリアルにイメージできるようなしかけが必要である。また、希少雁類回復・復元計画は、冬期湛水水田事業など、多様な雁類の越冬を支える農業環境を復元する活動とリンクすることが大切であろう。


関連ウェッブサイト
・東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・鳥類学研究者グループ(JOGA)のサイト
 
http://www.jawgp.org/anet/jgprop.htm
(「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループのサイト。第8回集会のページに、今回の企画趣旨・各講演者の要旨・会場で配布した資料のPDFファイルを掲載している。)
・八木山動物公園のシジュウカラガン回復計画のサイト
 http://www.city.sendai.jp/kensetsu/yagiyama/topics/2006/10.html
・シジュウカラガンが営巣するアリューシャン列島バルディーズ島に関するウェッブサイト
 http://www.r7.fws.gov/nwr/akmar/whatwedo/uncover/buldir.htm
 http://www.amnwr.com/Buldir/index.html#buldirecentric_highestpt
 http://www.mun.ca/serg/Buldir.html



受付日2006.11.20


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文化におけるサギ

企画:佐原雄二(弘前大学農学生命科学部)・松長克利(北海道アオサギ研究会)
文:佐原雄二

 鳥類は自然科学の研究対象になるばかりではありません。鳥とのかかわりを通して、人は豊かな文化を育ててきました。この自由集会は、様々な視点から、文化史におけるサギ類について考えようというものです。当日は、サギ、特にアオサギ好きを自任する2人が話題提供し、それぞれに自説を開陳しました。以下に、提供された話題の概要をごく簡単に紹介します。


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「新撰字鏡」(平安時代)に記された鷺を表す漢字.
1. アオサギの名前についての考察と、「サギ」の呼称についての自説の紹介(松長)

 多くの鳥がそうであるように、アオサギもまた様々な名前をもっている。それは国や地域により、また時代により異なるものであり、その名を知ることはそれを名付けた文化の一端を知ることでもある。今回の発表では、アオサギ、すなわち青い鷺という日本の発想が、世界的に見て特異的なものであることを指摘した。また、鷺が稲作文化と深い関わりがあったことなどから、「サギ」という名が、穀霊である「サの神」に由来するという自説を紹介した。


2. 神話、民話、食文化などにおけるアオサギに対する見方の古今東西の比較(松長)

 
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太陽の舟に乗るベヌウ.
古来、アオサギは多くの文献に登場してきたが、そこに見られるアオサギは必ずしもありのままのアオサギばかりではなかった。たとえば、古代エジプトでは聖鳥ベヌウの原型となり、ギリシャではフェニックスに姿を変えた。また、中世キリスト教の世界では様々な寓意を付与されてきた。今回の発表では、アオサギのこうしたシンボリックな側面とそのイメージの変遷過程を紹介し、個々のイメージが成立した理由についての考察を行った。

関連サイト:「アオサギを議論するページ」http://www5c.biglobe.ne.jp/〜ardea/



3. 西欧文学と日本文学におけるアオサギイメージの異同(佐原)

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ヴェルハアレン「鷺の歌」(上田 敏訳「海潮音」(明治38年)所収).
 その生態・行動を反映して、アオサギは英仏文学において「孤独」「孤高」のイメージを付与されている。日本の近・現代詩においても、同様にアオサギは孤独・孤高なものとして扱われるが、「憂鬱」「暗鬱」「幽かな」という、英仏文学にはないイメージも付着しており、シラサギの受ける扱いとは対照的である。最大の理由は名称にある。「青」(「蒼」)はメランコリーの色であり、英仏で「灰色のサギ」というのとは異なったイメージを付与するのに貢献した。「鷺の歌」ほか、具体的に資料をあげつつ、上記の持論を展開した。


4. かつて日本ではアオサギは「妖怪」であった(佐原)

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大きな霊性は時代とともに零落して妖怪に成り下がる.
 江戸時代、アオサギはゴイサギと並んで「妖怪」扱いされていた。明治になっても、泉鏡花に見られるように「妖怪アオサギ」が引き継がれている。アオサギが妖怪扱いされるに至った理由を4つ挙げることができる。第一に、アオサギは夜間も活動することである。第二に、ゴイサギとの混同がある。これは遡れば室町期にまで辿ることができる。第三に、日本にはシラサギ類が多く、「サギ」のプラスイメージがシラサギに、マイナスイメージがアオサギ・ゴイサギに受け継がれたといえる。最後に、サギが古来穀霊であったことである。大きな霊的存在は、時代が下ると「神の使徒」となるか、零落して「妖怪」となる。以上の自説を、具体例に当たりつつ開陳した。



受付日2006.11.23





日本キツツキ研究集会(1st Japanese Woodpecker Sub-symposium)
テーマ: キツツキの個体群生物学

企画・文:太田貴大(京大農森林生物)
takahirootasetsubi.com


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お越しいただきありがとうございました。
 まず始めに、特別講演会の裏であるにも関わらず、多くの方に足を運んでいただきました。本当にありがとうございます。にも関わらず、時間配分が全くなっておらず、議論があまり行えない一方通行の会になってしまったことを深くお詫び申し上げます。この反省を次回以降に生かしていくことを誓い、初めて企画した自由集会の感想を交えつつ、簡単な報告を記します。


・自由集会の目的

 1st JWSの最大の目的は、この自由集会を立ち上げた理由の説明であった。この連続自由集会は、日本で国際キツツキシンポジウム(International Woodpecker Symposium; IWS)開催を実現し、実り多きものとするための決意そのものとして、また、そのための下地作りを行う場として立ち上げられた。

 IWSを開催する以上、何か世界へのメッセージが必要となる。それは、「日本らしい」研究や活動を世界に伝えようというとても明確なものである。では一体「日本らしさ」とは何であるのか?それを、議論し考察する場がJWSなのである。

 各自由集会では、様々なテーマ(固有種・保全・Cavity Network etc.)について発表や報告を行っていく予定である。これから行われていくものの試論であれ、過去に行われたもののまとめであれ、「日本らしさ」は何であるのかを、常に議論していきたい。

 また、活動と書いているが、キツツキに興味を持っている人は研究者だけではない。学会大会という専門性の高い部分ではあるが、広く、キツツキを見る人達と共にキツツキについて考えていけたらと思う。

 キツツキを対象とした発表・報告というと、狭い分野に限られているのではと思われるだろう。しかし、キツツキ自体の研究対象としての面白さにとどまらず、キツツキが作り出す樹の穴(樹洞)や他の生物との関係、林業、森林生物の多様性といったテーマは、より広い世界を作り出していく。そこが大きな魅力の一つだと思う。

 最後に、これらの自由集会や議論の場で得られた考え、未解決の問題やテーマ、分かってきた問題やテーマ等を、鳥類研究者はもとより、多くの人に伝えたいと思っている。それは、とても魅力的なキツツキという生物を、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いがあるからである。この思いは、企画者だけではなく、キツツキに関わる人達全ての思いであると信じている。

 このようにまとめ上げられたデータベース(WWWサイト)は、世界の研究者やバーダーにも魅力的であることに違いはなく、皆で情報を共有できることは最終到達点の一つであろう。

 以上のことを提案したわけだが、最も重要なことは皆で楽しく行うことである。 「キツツキでつながりましょう!!


・発表の内容と簡単なまとめ

 1st JWSでは、IWSの紹介を兼ねて6th IWSの参加報告と、そのテーマでもあったキツツキの個体群生物学という切り口での発表を行った。

<6th IWS参加報告>

 発表の要旨は下記のJWSのサイトにて参照してほしい。また、6th IWSの要旨(英文)はWEBで公開されている。ぜひチェックしてほしい。
http://www.sekj.org/anz/anz432.htm (Annals Zoologici Fennici 2006: 43(2))

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6th IWSの1コマ。
 上記のように議論の時間が無かったので、最も言いたいことを少し書いておきたい。

 IWSは今まで欧州で行われてきた。次回はカナダでの開催が予定されているようで、初めての新大陸上陸になる。このような状況だと、北方のキツツキが発表の中心となり、キツツキの種多様性が高い熱帯域からの参加者や報告は少なく(少なかった)残念であった。

 保全に関する発表は多い。各IWSで大きなテーマが設定されるわけだが、6th IWS中でも保全に分けられるテーマは多いと感じられた。ことは単純ではないが、森林面積の減少と分断化は、キツツキの生存を危ぶませていることに間違いはない。

 保全のために必要な基礎情報として、個体群のサイズを推測するためのパラメータ(巣立ち率、移入移出率、死亡率など)が重要であるという論理的なつながりは理解しやすく、IWSの発表では、その領域での研究の遅れが問題だという指摘が印象に残っている。

 日本も同様、ノグチゲラやオオアカゲラといった他より特化した生態や生息地要求性を持つ種は、危険な状態といえる。保全と基礎研究の両立は、しばしば困難を伴うが、克服しなければならない課題であると思う。


<個体群の形態比較>

 東大院の石田さんに話題提供していただいた。石田さんは、コゲラの形態計測を長年続けており、日本各地の個体群や島嶼個体群での比較に基づき、形態の進化を考察している。

導入では、ダーウィンフィンチの嘴を測り続けたグラントの話を出し、ただ嘴を測るそれだけでも、あれほど立派な進化の研究を作り上げることが出来ると語っていた。少し感動した。今年、野外でひたすらにアオゲラを測り続けていた私は、その進化のパターンをあばきだすという信念を持って形態計測値を集めることは、必ずや面白いことに繋がると感じた。

 続いて、キツツキ特有のドラミングに適応した体構造・樹を垂直に上っていくための体構造を紹介された。つい先日の話だが、キツツキがドラミングをしても頭痛を起こさない理由を探った研究が、イグノーベル賞に輝いた。賞としてはユーモアとして捉えているだろうが、研究している側は真剣であろう。

 本題のコゲラの形態の話である。多くのpptを使い各部位の比較を細かく行っていた。詳細は省くが、様々な法則(ex.アレンの法則)に基づいて形態進化を示している部位もあり、またそれから外れた進化を示している部位もあった。特に島に閉じ込められた個体群は、法則に乗らないことが多いようだ。外部形態の進化は、環境への適応・古い形態を引きずっているだけ等様々であるが、対象とした種の生態や行動の細かい点まで明らかになっていると、形態の違いが生じた理由や、系統を含めた進化的な背景を考察するのがとても楽しくなる。もちろん、形態の違いを見つけ、その理由を証明するという研究は、物凄く時間がかかりつらいものであろうが、形態研究の1つの醍醐味でもあるかもしれない。

 コゲラは、極東に固有のキツツキである。日本列島を中心に分布しており、特に島嶼分布をしている点は、分布の進化の研究としては面白い。石田さんの原点である、佐渡にコゲラが分布しない理由というのも、いつの日か明らかになるだろう。島国日本とそれを取り囲む島々は、小さな大陸と島との関係とも捉えることが出来る。この点は日本らしさといえるのではないだろうか。

 さらなる、データの収集と、DNAを用いた系統情報の補強で発展した議論を期待している。


<個体群の分子遺伝学>

 発表の要旨は下記のJWSのサイトにて参照してほしい。

 近年DNAを用いた個体群の遺伝的構造の解析は、とても盛んに行われている。しかし、日本産キツツキを対象に行われた研究はまだまだ少ない。そこで、どのような可能性があるのか面白いテーマをいくつかあげてみた。

 日本らしさの観点でみれば、属島と本土との間に遺伝的交流はあるのかどうかという点が興味深い。オオアカゲラのように、外部形態が著しい変化を蓄積している例では特に興味深い。いつその交流は途絶えたのか、そしてそれは地史とどう繋がってくるのか、テーマは尽きない。

 また、大陸に産する同種や近縁種の遺伝的構造との比較も面白そうだ。最近の研究(Zink et al. 2002)では、アカゲラの日本の亜種は系統が異なるとの報告がある。どうも様相が違うようである。オオアカゲラでは、外部形態の多様化が大陸に比べ顕著であるし、認識できる亜種も多いようである。

 最後に、途中報告であったが、アオゲラの屋久島・種子島・九州の分子系統を眺めてみた。形態で見られた差は遺伝的にも表れていたが、その分岐のパターンは少し異なっていた。また、島内の明らかな遺伝的多様性の欠如は、ボトルネックを経験した可能性を示唆していた。この点は、過去に起きた火山の噴火と関係があると思われる。詳細は、現在論文にまとめ中であるので、期待していただきたい。


・最後に

 一学生の無計画でわがままな企画に快く付き合っていただいた石田様には深く御礼申し上げます。この自由集会を機に、急に何かが変わることは無いかもしれません。日本でのIWS開催への旗揚げというただそれだけで、大きな意味があったと私は思います。

 そして、今後もできるだけ多く自由集会の場で、議論が出来たらと思っています。キツツキの話をしているだけで盛り上がる場が日本にもあるのだという感覚は、今回得られたもう一つの大きな収穫です。

 自由集会というのは、当日はもちろん重要ですが、それを円滑に進めるための段取り、次回にも生きる反省を行えるかどうか、つまり、準備やその後が大切なのだということを痛感しています。多くの方にご迷惑をかけながら、やっとのことで開催できたJWSとなりました。

 今後もどうぞよろしくお願いします。

JWS HP URL: http://www16.ocn.ne.jp/〜ohtaka/JWSHP/index.htm
今後の充実に乞うご期待!!
JWS メーリングリスト:参加希望の方は太田までお知らせください!!
キツツキ情報やりとりの場です。



受付日2006.11.25







鳥類の大量死が起きたとき、私たちに何ができるか?

企画:長谷川 理・黒沢令子 (北大・地球環境)
文:長谷川 理

【はじめに】

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大量死したスズメの検体 (写真提供:酪農学園大)
 2006年初頭に北海道で二つの大量死が起こりました。一つは旭川から札幌にかけて起きたスズメの大量死で、もう一つは知床半島を中心とした海鳥死体の大量漂着です。企画者らはそのうちのスズメ大量死に関わりましたが、当初は関係機関との連携がうまくいかず、効率のよい情報収集や検体収集ができませんでした。もっと早くから効率良く連携がとれていれば、原因解明に繋がったかもしれないという思いがあります。身近なところで突然に大量死が生じたとき、行政機関や市民団体、研究者、バードウォッチャーなどが速やかに連携をとり、役割を分担し、スムーズに検体(死体)や情報を集めるというのはなかなか難しいものです。そこで私たちは自由集会を開き、大量死が起きた際に私たちに何ができるのか、また普段からどのような取り組みをしておくべきかを考えることにしました。


【集会の概要】

 まず司会者(長谷川)が、国内で起きた主な大量死の概要、大量死を引き起こす主な要因についての概略を説明しました。続いて、黒沢令子さんと嶋崎太郎さんに、2006年初頭に北海道で起こった二つの大量死ついての概要と取り組み、今後の課題などを順に紹介していただきました。吉野智生さんには、死因解明のための検査項目や検体(死体)を回収する上での留意点、野生動物の死因解明についての現状および問題点を紹介していただきました。長雄一さんには、大量死に関するデータベース構築についての紹介と、それら情報の活用策の説明をしていただいき、最後に渡辺ユキさんに海外(米国)での取り組みの紹介、および国内での取り組みの課題を説明いただきました。   以下に各講演の内容を要約します。(要約文は講演内容をもとに長谷川がまとめたものであり、表現等に誤りがあればその責は長谷川にあります。)


【講演内容の要約】

1. スズメ大量死の概要と取り組み (北海道大学 黒沢令子)

 スズメは主に2005年12月末〜3月末までに死亡(4月21日までの通報で1373羽を記録)したと見られ、人家の多い所での発見率が高かった。現在のところ死因は特定できていないが、急性のウィルス(鳥フル、西ナイル、ニューカッスル病)は確認されていない。ブドウ球菌によるそのう炎が複数個体で認められている。融雪剤などの塩類中毒と似た内臓所見もあるが、これらの影響については慎重な判断が必要である。過去に行われたセンサスデータを掘り起こし、札幌市におけるスズメ個体数の季節変動を調べた。スズメを対象とした調査はほとんどなく、他種を対象としたセンサスデータを流用したため、スズメのデータにはバイアスがかかっている可能性がある。そこで、一般市民や学校の生徒が行える簡便なスズメの調査方法を開発し、2006年の7〜8月に試行した。過去との比較はできないものの、簡便さゆえに、多くの地点をとれる利点がある。今後もこうしたセンサスを続ける必要がある。


2. 知床油汚染海鳥漂着問題 (日本野鳥の会オホーツク支部・東京農業大学 嶋崎太郎)

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大量漂着した海鳥の死体の分類作業(写真提供:日本野鳥の会オホーツク支部)
 知床の斜里町内で計5568羽もの海鳥の死体が回収され、オホーツク沿岸の被害総数は5593羽に上った。これはナホトカ号など過去の事例と比較しても非常に多かった。死体に付着していた油が主に船の燃料として使われているC重油であることが判明しているが、大量死が起こった正確な場所や時期、原因は特定しきれていない。オホーツク沿岸に住む地元の人たちですら今回の海鳥大量死の問題を知らないことが多く、一般的な関心の低さが一番の懸念である。原因の究明とともに、市民公開型のシンポジウムを行うなどの啓蒙活動が必要である。


3. 死因解明のための取り組み (酪農学園大学 浅川満彦・吉野智生)

 野鳥の死因解明は、死体の状態や場所、季節、種、関わる人間等の様々な要因に左右される。また、野鳥からは通常何かしらの病原体や汚染物質が検出されるので、それらが必ずしも死因とは断定できない。そのため、死因がはっきりしないことも多く、単独要因とは言い難いことも多い。確実に死因を特定できるような方法はない。死因解明を困難にしている問題点として、基礎データが不足していること、サンプルの状態が一定ではないことがあげられる。加えて、サンプルの収集や分析の拠点・ネットワークが少ないこと、野生動物の死因解明を行う人材が不足していることがあげられる。もともと獣医学の中には、古い死体からデータを引出すという考えが無いことも一因である。今後は、既存情報の整理・データベース化、古い死体からのサンプリング・情報の蓄積と分析手法の確立、そして獣医学における法医学的観点の確立と人材育成などが必要である。


4. 野生鳥類の大量死の原因となり得る病原体に関するデータベースの構築 (北海道環境科学研究センター 長 雄一)

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環境省環境技術開発等推進費を用いて開発されたデータベースシステム。画面中に用いられいているデータはダミーデータである。
 近年、鳥インフルエンザやその他の感染症に対する不安が広まっていることから、過去および現在の知識を収集・整理する必要が生じている。そこで、環境技術開発等推進事業の基礎研究開発(次世代型環境リスク評価技術分野)において、北海道環境科学研究センター、酪農学園大学、北海道大学が共同で、野生鳥類の大量死の原因となり得る病原体に関するデータベースの構築に取り組んでいる。このプロジェクトでは、検索システムとして、電子カルテや傷病統計図、WebGISによるウィルスデータ等の詳細地図が整備されている。これらのシステムでは、各目的(寄生虫、ウィルス、種名)に応じた検索ができ、傷病カルテによって傷病個体の詳細な情報が一括で入手可能になる。また、データベースと地図が完全に連動する傷病統計図により、非常に柔軟な図の作成が可能となった。さらに、GIS技術の活用により、ウィルスや寄生虫を検出した個体の詳細な場所、周辺環境(湿原、湖沼、土地利用等)が明らかにできる。


5. 野鳥の感染症・大量死への対応例 (阿寒国際ツルセンター 渡辺ユキ)

 野生動物の大量死や感染症の問題、新興・再興人獣共通感染症の問題が、近年世界的にも著しく増加している。米国にはNational Wildlife Health Center(NWHC)を中心に、Wildlife Healthのための科学的・総合的専門体制がある。また、”Cornell lab of Ornithology”のプロジェクトでは、市民参加の情報提供による疾病サーベイランスが効果的に行なわれている。一方、日本には現在このような組織や仕組みなく、専門検査ラボもない。そのため、野鳥の疾病や大量死の原因を鑑別し、その動向をとらえて防疫や予防などを効果的に行うことができない。大量死や感染症発生に適切に対応するには、早期発見_スピーディな原因解明_タイムリーな対策_科学的知見集積、という回路がとぎれなくまわるしくみが必要である。そのためには、原因を素早く鑑定できる野生動物専門ラボの設立と人材の養成が、最低限必須である。医学検査や化学物質の検出には相応の設備と予算が必要であるし、野生動物の疫学調査を専門的に行える人材も必要であるため、今後、野生動物の疾病に対応する専門組織とラボの設立を、国や行政に求めていく必要があるのではないか。
(要約文の文責:長谷川)


【まとめ】

 各講演者に対する質疑応答や発表後の意見交換では、大量死が起きた際の取り組みについて予想以上(!)の熱い議論が交わされました。特に死因解明を行う上での情報の不足や体制の不備といった、現状の問題点が明かにされました。本集会では、これまで起きた大量死の個々の死因について追求することよりも、今後また何らかの大量死が身近に起きた場合に、どのような行動を取ればよいのかという点に焦点をあてて話し合いがもたれました。その中で、とにかく根本的な情報収集およびその体制作りの必要性が再確認されました。

 鳥類の大量死は、いつ、どのように起こるかは予測できません。前もって特定の調査計画を立てたり、活動資金を確保したりはできません。それ故、日頃からのモニタリングやネットワーク作りが重要です。死因の解明は主に獣医師や獣医系研究機関が担うわけですが、フィールド系の研究者や一般のバードウォッチャーにも、大量死の被害拡大を食止めたり再発を防いだりするために、死体の回収や関連情報の収集など、できることがたくさんあります。これからも引き続き、様々な立場から意見を出し合い、連携を築いて大量死の問題を考えていく必要があることを確認し、自由集会を終えました。



受付日2006.11.25


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日本における海鳥の現状と課題 IV

企画:藤田泰宏・新妻靖章(日本海鳥グループ)
文:藤田泰宏

 今年は対馬や北海道で海鳥の死亡漂着が相次いだ。この様な事故は規模の大小を別とすれば、毎年のように発生しており、海鳥を取り巻く環境は厳しいものがある。この様な現状に対応するには、何よりも海鳥の置かれている状況を知ることが必要と考え、今年の自由集会では、以下を討議した。

I. 海鳥の現状
 1. 各地の海鳥の近況報告
 2. 対馬や北海道での油事故の報告
 3. 昨年実施した海鳥一斉調査の結果
 4. その他
II. 海鳥のための取り組み
 1. 油汚染時の対応への取り組み
 2. 海外講師を招いての航路調査実習
 3. データベースの紹介
 4. 国際シンポジウムの日本での開催について


I-1. 各地の海鳥の近況報告
 各地での活動紹介として、関西・中国地域委員長の藤田が、以下の調査概要を説明した。

・京都府冠島
1946年に朝日新聞社による取材調査、1953年より東舞鶴高校吉田直敏氏指導による生物クラブが調査を開始。近年は須川恒氏、八木昭氏らによる調査が続けられており、 毎年2回(5-6月と8月頃)に3泊4日の調査を実施。 参加者は20人から30人程度。
オオミズナギドリの標識を主におこない、各期数百羽を確認または放鳥。
近くの沓島でカンムリウミスズメやヒメクロウミツバメの放鳥記録もある。

・岩島氏らによる伊勢湾航路調査
 愛知県の岩島智康、宇佐見依里氏らにより、2004年より師崎〜伊良湖〜鳥羽航路と常滑〜鳥羽航路で実施。
 海鳥のラインセンサスの他、イルカなどの海獣類の出現状況も記録している。
 今年は師崎航路を毎月、常滑航路を奇数月に調査を実施している。

・西日本での航路調査
 主に藤田が行っている、西日本でのフェリーを利用した対象航路の紹介。
伊勢湾、瀬戸内海東部、紀伊水道での各航路での出現種の違いと、同日に繰り返して調査した場合の種ごとの出現個体数の変動などを報告した。

・中村豊氏による、宮崎県ビロウ島でのカンムリウミスズメ調査の紹介
 1991年より実施しているカンムリウミスズメの標識調査と洋上での調査結果の報告。
2005年6月5日に親鳥と変わらぬ位に大きく成長した2羽のヒナを連れた親子を発見、 しきりに洋上で餌を与えていた。今年までの標識調査で12年以上生存している2羽を記録した。最近枇榔島のカンムリウミスズメは減少方向にあるような気がする。枇榔島、他の島嶼で標識された個体のリカバリーがないのが気になる。

・武下雅文氏による曽根干潟でのカラス被害の報告
 近年、曽根干潟ではカラスが干潟に居座り、同地域を利用するホウロクシギなどのシギに攻撃を加えて追い払う問題が発生している。保護、および観察の視点からも問題であると考えられるが、対応策が見あたらないことが問題である。

・田中忠氏による三島島でのベニアジサシの報告
 2005年はにおける三島島でのベニアジサシは、ほとんど繁殖が見られなかったが、今年はかなりの数が繁殖した。また、三池島で標識したものがオーストラリアで再補された。
今後は保護の面からも、公園に管理を移管することが望ましい。


I-2. 対馬や北海道での油事故の報告
 対馬の事故尾の報告を藤田、北海道の事故の報告を名城大学の先崎啓究島がおこなった。
両地域とも、油に汚染された鳥の漂着が多数見られる物の、油自体の漂着はほとんど見られなかったことが、ナホトカ号事故などのこれまでの事故との大きな違いである。
 対馬ではアビ類を主体として、死亡回収62羽、生体保護25羽(うち6羽を野生復帰)、を収容した。同島では2000年以降、冬季に同様の事故が毎年発生しており、いずれもアビ類の被害が大きい。

 北海道では、回収個体の全てが死後かなりを経過した死体であり、積雪期以前に漂着したことが予想された。9月の報告時において、斜里町で5568羽の回収が確認されており、大部分はウミスズメ科の鳥であったが、痛みが激しく種までの同定は困難であった。また、回収された個体の大部分は焼却処分せざるをえなかった。

 1997年のナホトカ号の事故から9年が経過しているが、事故原因が特定されていない上に、人への健康被害や産業被害が今回の事故では生じていないため、行政、一般市民ともに対応のためのシステムが機能していなかった。今後、同様の事故の発生の可能性が否定できない以上、新たなシステムと対応策の構築の必要性を説明した。


I-3. 海鳥一斉調査の報告
 2005年の冬季にJSGのホームページなどを通じて呼びかけた海鳥の一斉調査の報告。

fig15
リメンバーナホトカ調査結概要.[画像クリックで拡大表示]
 同調査は海岸からの調査とフェリーなどを利用した航路調査から成り、以下の都道府県と航路で実施した。岸調査と航路調査結果の比較、地域や航路による特徴の所感の他、継続して調査を実施していく上での問題点の提起を行った。


II-1. 油汚染事故への対応
 重油災害など環境災害時への対応として、救護ボランティアの研修などを実施している水鳥救護研修センターの紹介と年内の実習の予定案内を告知するとともに、災害時の情報の収集と中継に当たる、日本環境災害情報センターの概要を紹介した。


II-2. 海外講師を招聘しての航路調査実習
 国内における調査手法の確率と技術の向上を計るため、日本環境災害情報センターが地球環境基金助成金を受けて計画している伊勢湾での航路調査実習の予定を紹介した。


II-3. データベースの紹介
 多くの利用者がアクセスしやすく、かつ管理の容易なデータベースの必要性は、海鳥一斉調査でも痛切に感じられた。航路調査については、調査様式など今後とも調整しなければならない点が数多くあるが、岸調査に関しては、NPO法人バードリサーチのデータベースシステムを利用することにより、入力および管理の効率化が期待できるので、バードリサーチの神山和夫氏にWeb上で利用できる。入力方法を説明していただいた。


II-4. 国際シンポジウムの日本での開催についての呼びかけ
 綿貫会長により、国際的な海鳥の研究会である、Pacific Seabird Groupの紹介と2009年大会の日本開催についての呼びかけがおこなわれた。これまでの開催の様子の紹介と、2009年大会の開催を打診されていることの報告がおこなわれた。



受付日2006.11.27




野外調査のTips


UFO Capture V2 を使った巣のビデオ録画の自動抽出

植田睦之 (NPO法人バードリサーチ)

 鳥の繁殖生態や行動解析の調査では,巣をビデオで録画してそれを解析する手法がよくもちいられます。今年の鳥学会大会でもそのような発表をいくつか見かけました。でも,長時間録画したビデオの解析には根気が必要で,とてもたいへんな作業です。ぼくも学生時代,ツミの巣をビデオ撮影して解析しようとしたことがありました。そもそも根気のないぼくがそのようなことをしたのが間違いだったのですが,何十本も録ったビデオのうち,チェックしたのはごく一部。それ以外は見られることもなく放置されることになってしまいました。もちろんそのまま捨ててしまってはもったいないので,後日,それらのビデオテープにはサッカーやボクシングの録画が上書きされることになりました。

 ぼくににとっては,時すでに遅しなのですが,このたいへんなビデオ起こしを効率化できるソフトウェアを見つけました。そのソフトウェアはUFO Capture V2 というソフトウェアです。「UFO Capture」といっても,実際はUFO観測というよりも,主に流星の観測に使われているソフトウェアです。いつ流れるかわからない流星をずっと見続けているのはたいへんです。そこで,ビデオカメラを空に向けておき,その映像をこのソフトウェアで監視しておくと,動く物体(流星)が画面上に現れた時に,その前後の映像をコンピュータ上に保存してくれるのです。動く物体ということでは,巣に訪れる親鳥も同じです。試しに,ルリビタキの巣のビデオ録画を使って自動抽出を試みたところ,すべての給餌シーンを抽出することができました(植田・田中 2006)。つまり,親鳥が巣に訪れた前後のみを抽出した「ダイジェスト版」を自動的につくることが可能なのです。このソフトウェアでは動体を検出する範囲を簡単に指定することができるので,背景があまり動かず,親鳥が通過する場所が少しでもあれば,そこを検出範囲に指定することで,画面上に風で揺れるような枝があっても巣への出入りの自動抽出が可能です。でも,アシ原のオオヨシキリの巣のように,巣もその周囲もユラユラ揺れるような場所では使うことができないと思います。

 使うことができる環境に制限はあるものの,使える場合にはとても強力なツールとなると思いますし,価格も2万円以下と格安です。巣の録画意外にも,水場や木の実などに訪れる鳥の監視など他用途にも応用できます。興味のある方は以下をご覧ください。

UFO Capture V2 のページ http://sonotaco.com/
UFO Capture V2 による鳥の解析についての論文
植田睦之・田中啓太. 2006. 鳥の巣のビデオ録画記録の動体監視ソフトウェアによる自動解析. Bird Research 2: T1-T7. http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/journal_vol02.html
サンプル映像 http://www.bird-research.jp/appendix/br02/t01.html



受付日2006.11.18


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編集後記


 師走に入りまして、今年、最初の寒波がやってきて、世間もクリスマスや年越しムードで慌ただしくなってきました。関東の低地では、まだ、紅葉、真っ盛りですが、季節は進んでいます。

 今回も盛岡で開催された2006年度大会の自由集会報告がメインの特集となっています。自由集会報告は、ガンカモ類、サギ類、キツツキ類、スズメ、海鳥グループと並んでいますが分類群でも自由集会の番号順ではありません。なんの順番かおわかりの方は、ご一報ください(笑)。私は、会議と重なっていたので出席できませんでしたが、鷺の文化人類学的考察の自由集会もあったんですね。自然科学だけなく、こういう議論ができるのも材料学会である鳥学会のいいところかもしれません。また、野外調査のTipsとして、UFOキャッチャーならぬ、UFOキャプチャーという画像解析ソフトの使用レポートが寄せられています。

 来年は、鳥学通信も3年目に突入します。これからも、アップトゥデートな話題を掲載していきたい思いますので、よろしくお願いします。それでは、皆様、良い年をお迎えください。(編集長)



 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集長の永田宛 (mailto: ornis_lettersexcite.co.jp) までメールでお願いします。
 鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行します。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。







鳥学通信 No.11 (2006年12月7日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
Copyright (C) 2005-06 Ornithological Society of Japan

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