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和文誌フォーラムより

海外調査事情




和文誌フォーラムより


日本鳥学会研究奨励賞を受賞して



 この度、2006年度研究奨励賞を頂きました大阪市立大学大学院の富田直樹と申します。研究奨励賞とは、鳥類の研究計画を支援するために設けられたものであり、その応募資格は、30歳以下で定職に就いている者、または学振から研究資金を得ている者を除いた人たちにあります。つまり、応募人数はかなり限定されるため、助成金をことごとく外していた私にも獲得の可能性があるのではと思い応募しました。

 私の研究目的は、「ウミネコにおける内分泌物質によるMaternal effectsを検出すること」です。Maternal effects (母性効果)とは、雌親が遺伝形質以外のメカニズムによって子の表現形質や行動に影響を与えることを言い、この効果は、さまざまな動物群でみいだされつつあります。鳥類では、卵黄内に含まれるテストステロン(T)の濃度による母性効果が報告されており、これまで卵黄内の T が雛の餌乞い行動を活発にし、成長速度や生残率を増加させる効果を持つことが明らかにされてきました。さらに、このような働きを持つ T の濃度は、非同時孵化するクラッチ内では産卵順とともに増加することもいくつかの鳥類で知られており、これは非同時孵化によって生じる雛間の競争力の差を補正し、後に孵化した雛の不利な点を解消し繁殖成功度を高めるための雌親の操作であることが示唆されています。その一方で高濃度の T は、免疫を抑制するなど負の効果をもたらすこともあります。また、このような卵黄内の T 濃度は、雌親の体調やコロニーの密度などの社会的要因によって変化した雌親自身のホルモンレベルに影響されることも報告されています。

 このように鳥類における卵黄内 T の配分や濃度は、雌親の操作によって決定されるのか、あるいは社会・環境要因などに影響された雌親のホルモンレベルに影響されるのかという問題をはじめ、鳥類での卵黄内の T による母性効果については、いまだ不明な点が数多く残されています。そこで私は、集団営巣するウミネコを対象に、以下のように大きく3つの目的に沿い調査を行いたいと考えました。それは、雌親の体調の卵黄内Tへの影響、母性効果、そして卵黄内 T の雛への効果をそれぞれ検証することです。

 私は、2003年から北海道の天売島でウミネコの繁殖生態について T 濃度による母性効果も含め調査を行ってきました。日本海に面した天売島は、海洋環境の変動の激しい場所であり、近年は雛のほとんどが巣立たないほどの悪条件下にありました。一方、2006年に調査を行った青森県蕪島は太平洋に面しており、長期間にわたり安定した雛の巣立ち成功が記録されています。そこで蕪島で繁殖するウミネコの卵黄内のT濃度と雌親の体重・体内の T 濃度を計測し、天売島との比較研究から雌親の体調の差異が卵黄内の T 濃度にどのような影響を与えるのかを検討しました。

 また天売島における調査から、ウミネコでも他の鳥類と同様に概ね産卵順の遅い卵ほど卵黄内 T 濃度が高いこと(2005年鳥学会発表)、繁殖期の進行とともに親間の相互作用は少なくなるにもかかわらず、クラッチ内の平均T濃度は増加すること(2006年鳥学会発表)が明らかになりました。つまり T の配分は、雌親の操作による可能性を示唆する結果が得られています。そこで、卵黄内の T の配分が雌親の操作によるものかどうかを検証しました。さらに、卵黄内の T をとおして雛の成長と行動に与える母性効果も検証しました。

 またこれまでの天売島の調査から、ウミネコの孵化パターンは、同時と非同時の両方があることがわかっています(2003年行動学会発表)。同一個体群でこれらの孵化パターンを観察できるという利点を活かし、蕪島において、同時・非同時孵化の両者のクラッチを比較することで卵黄内T濃度の実態とその効果の検証を行いたいと考えました。ここでは、雌親はすべての雛を巣立たせようとすると考えられるため、同時孵化の場合は、卵黄内 T 濃度は卵の間で差異はなく、逆に非同時孵化の場合は末子の卵黄内 T 濃度が高くなることが多いと予想されます。また、天売島では産卵順とともに T 濃度が減少するクラッチもみられました。この現象は、これまでに兄弟殺しが起こるアマサギで報告されており、以下のように解釈できると考えられます。通常の餌条件下では、雌は末子も巣立つように末子の卵黄内 T 濃度を高くする。しかし、末子の巣立ちも見込めないほど餌条件の悪い場合、末子を切り捨てることを想定しているのかもしれません。蕪島の場合、餌条件が良く、このような逆転した T の濃度配分は、かなり体調の悪い雌の非同時孵化クラッチにおいてのみ見られると予想されます。

 話は変わりますが、研究奨励賞は若手中心に研究計画を募るものであり、履歴書に書けるそうです。さらに副賞として賞金も与えられ、研究資金の足しにできます。こんなおいしい話はないと思い応募しましたが、応募人数は思ったよりも少なく、私を含め3名だけでした。今回は競争率が低くて良かったと思いつつ、うーんもったいないとも思いました。研究奨励賞は賞金がもらえるだけでなく、自分の研究を皆さんに広く知ってもらうチャンスでもあります。若手の皆さん、どんどん応募しましょう。

 最後に、今回の調査結果は、熊本で行われる2007年鳥学会大会で発表する予定です。時間がございましたら、ぜひご来聴下さい。






日本鳥学会2006年度大会に参加して


 日本鳥学会の年次大会が2006年9月15日から19日にかけて岩手大学で開かれました.今回の大会では,42題の口頭発表と81題のポスター発表,11の自由集会が行われ,「野鳥の保護は農林業と共存可能か」と題した公開シンポジウムでは,農林業と野鳥との関係を生態学的側面からひも解く,以下に示す4つの取り組みが紹介されました.はじめに,希少なイヌワシの保護を進める上で,安定して個体群が維持されるために必要な森林タイプと面積を推定した研究が紹介されました.次に環境改変が進む森林で,広葉樹林と針葉人工樹林に生息する鳥類群集の構造を比較した研究,三つ目には在来種と外来種が混在するため池の生態系において水草‐魚類‐鳥類の構成種とそれらの関係を調べた研究,四つ目には冬期湛水水田を利用したガンカモ類の保全についての講演がつづきました.生態系の中では「在来種‐外来種」,「人工林‐自然林」,「保護区‐非保護区」が複雑に絡み合っているため,これらを単に差別化するのではなく,複合的に把握することが,本来の生態系を保全する上でも重要になることを理解できました.

 口頭発表とポスター発表について,分類群別に発表が多かったグループを調べてみると,最も多かったのはワシタカ科とハヤブサ科を含めた猛禽類に関する発表(17題)でした.次にカラス科(12題),3番目にガンカモ科(10題),そして4番目にはカモメ科(7題)とウ科(7題)が並びました.これをみると,大型鳥類の方がひとつの科(family)で多くの調査・研究が行われていることがわかります.次に大会要旨集の参加者名簿をもとに発表者(合計169名)の所属を集計すると,大学関係が83名(49%),公共研究機関(独立行政法人・地方公設試験場・博物館等を含む)が31名(18%),NPO法人等の民間団体が27名(16%),財団法人の団体が14名(8%),高校生8名(5%),株式会社が4名(2%),その他が2名(1%)でした.大学や公共研究機関に所属する研究者だけでなく,民間団体からの発表が多いことが鳥学会の特色といえるでしょう.民間団体の中にはワシタカ類やガンカモ類の保全もしくは保護に取り組むグループが比較的多くみられるため,大型鳥類を対象とした発表件数が多くなるのだと考えられます.また独断と偏見でおおまかに研究分野を分けてみると,繁殖行動および繁殖生態に関する発表が20題,環境選択が12題,餌資源および採餌行動が9題,渡り関連が9題,鳥類群集および鳥類相が9題,形態の地理的変異および個体群の遺伝構造8題,個体数および個体数変化が7題,保全および保護に直接関連する発表が7題ありました.これら以外にも,行動生態学や比較内分泌学に関連する分野の興味深い発表もあり,鳥類の研究が非常に幅広い分野で行われていることがわかります.しかし一方で,研究テーマが細分化されているため,各発表の研究分野を把握するのが難しいと感じました.

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図1. 日本鳥学会における一般講演の口頭発表とポスター発表の発表数の年変化.( )内は一般講演の合計数を示す.
 発表形式について特に印象的だったのは,今回の大会ではポスター発表が一般講演の6割以上を占めたことです. 1999年以降の大会について,口頭発表とポスター発表の数を調べてみると,興味深いことに口頭発表数が減少し,ポスター発表数が増加する傾向がみられました(図1).1999年には32%だったポスター発表が, 2006年には66%にまで上昇しています.動物学関連の他学会では,一般講演としてポスター発表のみを実施している学会もあれば,対照的に一般講演は口頭発表のみを実施する学会もあります.口頭発表とポスター発表の両方を実施している学会に注目してみると,規模の大きい学会ほどポスター発表の占める割合が高くなる傾向がありました.近年では大学院生や博士研究員などの若い研究者の増加に伴って,一度に多くの演題をこなすことができるポスター発表の占める割合が高くなってきています.またポスター発表は,ケーススタディーのような生データを示すことが重要な場合や,より深い議論を求める場合は,口頭発表より有効だといわれています(日本鳥学会誌54(2): 124-125を参照).これらが影響して,この8年間で鳥学会の規模はあまり変化していないにもかかわらず,ポスター発表の割合が上昇しているのでしょう(図1).しかし鳥学会の中で,口頭発表があまりに減ってしまうのは少し寂しく思います.自分の研究をより多くの人に知ってもらうためには,口頭発表の場でわかりやすく説明することが重要だと考えているからです.鳥学会での口頭発表の増加が運営上の負担にならないのであれば,口頭発表を活発にできたらと思います.緊張感のある学会の中で,わかりやすく口頭発表することは,いつも大変だと感じますが,思い切って挑戦し,場数を踏まないと上達できないものだとも思います.ポスター発表が優勢の昨今,口頭発表のメリットをもう一度見直してみてもいいのではないでしょうか.





海外調査事情


ロシア・マガダン調査に参加して

齋藤武馬 (立教大学大学院理学研究科)

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図1. マガダンの位置.
 私が調査でロシアへ行くのは、サハリン、カムチャツカに次いで、今回のマガダンが3回目となる。マガダンは極東オホーツク海に面する海港都市で、北緯59°付近にあり、ちょうどカムチャツカ半島の対岸の大陸側に位置する (図1)。緯度が高いために、夏のこの時期は、日の入りが夜11時半頃、日の出は朝3時半頃で日本と比べてかなり夜が短い。気温は昼夜の温度差が激しく、調査地では日中は30℃近くにまで上がり、夜は-5℃近くまで下がったこともあった。マガダンと日本の時差は3時間で、日本からは直行便はなく、新潟空港からハバロフスクを経由しないと行くことはできない。

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写真1. ロシア科学アカデミー極東支局北方生物諸問題研究所の概観.
 今回の調査は、山階鳥類研究所が自然保護助成基金から助成を得て、カシラダカとハマシギの繁殖調査 (標識調査)を目的として、2007年の6月22日から7月9日の日程で行われた。私はその調査団の一員として、調査に参加することができたので、ここに報告したい。実は、私にはマガダン行きの目的がもう一つある。博士研究のテーマであるメボソムシクイの極東地域での系統地理を調べるため、今まで調べていなかった、大陸の亜種を調べるという目的である。調査の参加メンバーは、山階鳥類研究所から米田重玄研究員をリーダーとして、茂田良光研究員、一般からは山田真司さん、田中史雄さんと私が参加した。私以外のメンバーは皆2回以上マガダンを訪れたことがあり、私だけがマガダンに行ったのが初めてであった。ロシア側のカウンターパートは、ロシア科学アカデミー極東支局北方生物諸問題研究所の鳥類研究部長である、アンドレーエフ博士と、ドロゴイ博士にお世話になった。同研究所は、マガダン市街内にあり、大きくてなかなか立派な建物であった(写真1)。

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写真2. ハマシギ調査地の景観:湿地の箇所はツンドラ帯である.
 野外調査は24日から始動し、まずはじめはハマシギの標識調査を行った。マガダン市街から70kmほど西に行った海辺に近いサイトに向かった。調査地の環境は、ツンドラ帯でとても見通しがよく、50cmも地面を掘れば下は永久凍土である(写真2)。周りの植生も、乾燥している所ではハイマツが生い茂り、地面にはコケモモ等の低木や地衣類が柔らかいじゅうたんのように覆っていた。このような植生は、日本では高山の森林限界を超えた標高にしか見られない。原野を皆で歩き、しばらくハマシギを探していると、昨年標識した個体を発見できた。さらに周辺を散策してみると、抱卵中の巣を発見。親鳥が産座に座ると網が閉じる仕組みの罠 (ボウネット) を仕掛けて、親の捕獲を試み、捕獲に成功した(写真3a, b, c)。マガダンのハマシギはカムチャツカ半島で繁殖する亜種と同じ、Calidris alpina kistchinskiと言われており、背面の茶色い部分の色が薄いのが特徴であるが、越冬地はいまだよく分かっていない。

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写真3a. ボウネットを用いたハマシギの捕獲. 写真3b. 標識されたハマシギ. 写真3c. 装着された標識リングとカラーリング(茂田良光氏撮影).

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写真4. キャンプサイト風景. 写真5. 調査中の食物:大きな固まりのハムやチーズはナイフで切ってパンにのせて食べた.
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写真6. 憎き蚊の大群:背中にびっしりと蚊が群がっている(田中史雄氏撮影). 写真7. ヒグマの足跡:そんなに大きな個体のものではないが、ボールペンと大きさと比較してもらいたい.
 野外調査中の宿は、もっぱらテント生活が基本である(写真4)。そして、調査からおなかをぺこぺこに空かして戻ると、楽しみなのは食事の時間である。まず、周辺の枯れ枝や木材をかき集め、火をつけてお湯を沸かす。ロシアでは、食事前後の飲み物は紅茶が基本で、砂糖やコンデンスミルクをたっぷりいれて飲むのがロシア流。アルコール類も、ビールやウォッカは、欠かせない食事の友であった。食べ物は、冷蔵庫などもちろんないので、保存が利く食料を市場で買いだしして、調査地に持ち込む。主食はパンやインスタントのマッシュポテト、ライス、カップラーメンで、おかずは日本ではなかなか高価で食べることができないイクラや、サケの薫製、大きな固まりのハムやチーズなどをおもう存分食べることができた(写真5)。キャンプでの食事は、毎日美味しいものを食べることができて、大変満足した。しかし、野外調査もこのように楽しいことばかりではない。ロシアの野外調査で日常的について回る悩みは、なんといっても蚊の多さである。街中では蚊に刺されることは滅多にないが、調査地は必ず水辺が近くにあるので、ヒトは格好の餌食となる。高緯度地域の蚊の多さは尋常ではなく(写真6)、食事中、調査中、いつでもどこでも蚊はついて回る。
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写真8. 大量の荷物と共に:衣食住全てを持っての移動なので、車はいつもギュウギュウの荷物であふれていた.
私はメンバーの中で一番蚊に好かれるタイプであるらしく、常に周りに蚊の大群を従えており、「また沢山蚊を連れてきた」と他のメンバーから敬遠がられていた。特に一番蚊に刺されてしまうのは、最も無防備な格好をしている、用を足している時で、気をつけていてもお尻を一度に数十カ所も刺されてしまうのには閉口した。蚊対策としては、1. 肌を出している箇所を極力減らす 2. 強力な蚊よけを体に塗布する 3. 蚊よけネットを頭に被る 4. 服の上からも容易に蚊は刺してくるので、厚めの衣服を着用する、もしくは重ね着する 等が有効であった。そのほか、日本の蚊取り線香はとてもよく効くので、私は行動中も努めて携帯するようにしていた。その他に注意しなければならないのは、ヒグマの存在である。今回も調査地のすぐ近くで新鮮な足跡を見つけた(写真7)。しかし、今回は移動中車内で道を横切るクマを見た以外には、近くで遭遇するといった危険な場面はなかった。調査地への移動は、ドライバーさんが運転する車を用い、3〜4日一箇所の地点で調査を終えると、町に戻って食料の買い出しをするということを繰り返した。しかし、その度に次に使用する車や宿の手配が不確定なために、私達はいつも多量の荷物と一緒に行動し、その度に積み替えるという作業を繰り替えさなければならなかった(写真8)。

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写真9. ウマラ島にて:ミツユビカモメのコロニー.抱卵中の巣が多かった.
 滞在期間中頃の6月28には、調査に使う車の手配がうまくいかなかったので、休みをとって、海上バードウォッチングに出かけた。小型の船をチャーターしてマガダン沿岸10時間の船旅となった。海上では日本近海ではまず見ることができないコバシウミズズメを観察することができた。その後、ウマラ島という小さな無人島にボートで上陸した。その島は海鳥のコロニーが密集する、まさに海鳥の楽園で、エトピリカ、ケイマフリ、ウミガラス、オオセグロカモメ、ミツユビカモメ、ヒメウが所狭しと崖で繁殖していた (写真9)。私は、海鳥のコロニーがある島に上陸したのは、初めての経験だったのでとても感動してしまった。

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写真10. 山火事跡の爪痕:マガダンのいたる場所でこのような風景がみられた.
 翌29日から、カシラダカの繁殖を確認するために、内陸約300kmの地域へ移動した。車中から見えるマガダンの景観を眺めていて一つ気になったことは、いたるところで山火事により針葉樹林の森林が焼けており、荒涼とした風景が拡がっていたことだ。ドロゴイ博士によると、30年前にマガダン各地で大規模な山火事があり、その時に燃えたものだという(写真10)。さて、肝心のカシラダカだが、いくつかの調査サイトを移動してみても、カシラダカが観察されたのは1回のみで、囀りを聞くこともほとんどなかった。また、標識調査においても捕獲されたのは、1羽のみであった。どうやらカシラダカはこの地域では、もとからそれほど高密度で繁殖している種ではないらしい。日本でも以前は、渡り時期における標識調査において、一番放鳥数が多い種であったが、近年はその減少が激しく、バンディングステーションによってはほとんど放鳥できない地域も多い。この日本におけるカシラダカの激減が、マガダンの山火事による環境の変化と直接の因果関係があるかどうかはまだよく分からないが、今回のような繁殖地における調査を今後も継続することが重要であるとおもわれた。その他標識調査においては、日本には冬鳥として渡来し、繁殖することのないオオマシコやアトリ、コホオアカ、ベニヒワの繁殖個体を放鳥することができたのは、意義深いものがあった。また、北海道では激減しているシマアオジも数羽標識することができた。そして忘れてはならない、私が目当てにしていたメボソムシクイも3羽と少ないながら捕獲することができた。しかし、密かに標識できることを期待していたシマセンニュウ、シベリアセンニュウ、シベリアジュリンを捕獲できなかったのは残念であった。

 今回私は新しく音声の録音機材を入手したので、鳥の鳴き声の録音を調査期間を通じて行った。以前は DAT を用いて録音していたのだが、最近はデジタルオーディオレコーダーというとても便利なものがある。なんといっても PC に取り込む際に、オーディオデバイスを通じて Wav ファイル化しなくてはならないという、うんざりするような手間から解放されたのは、大きな進歩である(鳥学通信No.8号No.12号も参照)。録音できた種類のなかで、日本ではまず聞くことのできない、ツグミや、カラフトムシクイ、アカマシコの囀りを録音できたのはうれしかった。その他にはキジバトの声も録音したのだが、このような高緯度地方にもキジバトが分布することが分かったのは驚きであった。日本に分布するものとは亜種が違うが、アオジ、シマアオジ、メボソムシクイの囀りも録音できたのだが、日本で聞き慣れた囀りと比べるとかなり早口で囀るということも今回明らかとなった。

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写真14. 研究所の前で記念撮影:前列右から1番目がドロゴイ博士,後列左から4番目がアンドレーエフ博士(田中史雄氏撮影).
 今回のマガダンにおける調査期間全体で、108種を確認することができ、また、標識調査においては、23種、98羽の鳥について標識を行うことができた。特にマガダンにおける標識調査は我が国の山階鳥研のグループが昨年行った調査が初めてであり、今回が2回目となる。他の欧米の研究グループも何回かマガダンに調査に入っているが、生息種の確認が主で標識調査は行っていない。ロシアにおける標識調査の事情は日本とはだいぶ違う。日本は、環境省からの委託で山階鳥類研究所がバンダーと呼ばれる全国のボランティア(実働数約450名)に協力を要請して、標識調査が盛んに行われているが、ロシアでは鳥類学者と一部のボランティアしか標識調査を行っておらず、日本ほど盛んに行われてはいない。また、標識リングもモスクワのバンディングセンターが厳しく管理しており、研究者でも誰もがリングを所持できるわけではない。一昨年、アンドレーエフ博士が鳥類部長に就任したことにより、マガダンでも標識調査が行えるようになったのだが、まだ標識調査の経験が浅いのが現状である。今回の調査中に少しでも標識の技術を伝達できればよかったのであるが、私達の調査のアシストに徹してくださっていたため、実際の標識作業を教えることができなかったのは心残りであった。次回からはこれらの反省点を改善し、日露の共同調査を今後も継続することが大切であるとおもわれた。さらに、ロシアで繁殖期に調査を行うことの重要性は、標識調査上のみならず、系統地理学的研究においても、日本産鳥類の起源を知る上で大変重要な意味をもつ。私自身、研究を行う上でも今後もロシアに調査に行けることを期待している。また、今回放鳥された鳥のなかから、1羽でも遠隔地での再捕獲(リカバリー)があることを望んでいる。今回標識された鳥は、右脚には金属製の MOSKVA と刻印された標識リングが全て装着されており、左脚にはカラーリングが装着されている鳥もいるので(写真3c 参照)皆様も注意されてみてほしい。

 最後に今回のマガダン調査を行うにあたり、調査の許可申請から、宿や食料等の日常の世話まで全てをサポートしてくださった、アンドレーエフ博士とドロゴイ博士、その他のロシア人スタッフの方々に心から感謝の意を表したい(写真11)。加えて、今回の調査に関わる私の旅費及び機材の購入は、財団法人藤原ナチュラルヒストリー振興財団からの助成により行われた。重ねて感謝する。



受付日2007.7.26

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編集後記


 鳥学通信8号の編集後記を見ると昨年もそうだったようですが、関東は7/29現在まだ梅雨明けしていません。しかし今日など蒸し暑い中、午後から激しい雷雨です。都心の夏らしくなってきました。
 今号では二つの記事を和文誌フォーラムから転載しました。また、立教大の齋藤さんからは、ロシアで行われた渡り鳥調査についての報告を頂きました。熊本大学で行われる2007年度大会まであと二ヶ月です。皆さん今号を読んで研究熱を高めていきましょう。 (副編集長)



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 原稿・意見の投稿は、編集長の永田宛 (mailto: ornis_lettersexcite.co.jp) までメールでお願いします。







鳥学通信 No.14 (2007年8月1日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
Copyright (C) 2005-07 Ornithological Society of Japan

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