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浦野さん、やすらかに上田恵介 (立教大・理・生命理学)
浦野さんは大阪市大の私の後輩です。金沢大学から、大阪市大動物社会研究室に来て、鳥類の配偶システム研究に興味を持ち、山岸哲さんのもとで、河北潟や青森のオオヨシキリの一夫多妻の研究で、いい論文を書いていました。学位を取得後はつくばの農研センター鳥害研に勤務し、藤岡正博さんらといっしょに鳥害の研究をされていました。その後、鳥害研をやめられ、山岸さんのお世話で京都大学、山階鳥研に勤められていました。その間、兵庫の小林桂助コレクションの整理や、全国の高校の理科室に保存されている鳥の剥製の調査などをされていました。
今年の 9 月に立教大学で開催された鳥学会大会の初日に、受付で顔を合わせたのが彼と会った最後でした。 立教大学の私の同僚の数学の先生が浦野さんと高校の同級生でした。彼女から彼の高校時代のことをいろいろ聞く機会がありましたが、高校時代から並みの鳥好きではなかったようです。葬儀に参列した高校時代の友人は「彼は鳥になった」と言っていたそうです。 冥福を祈りたいと思います。 浦野栄一郎博士の想い出橋口大介((株)野生生物保全研究所)
浦野さんの経歴をご紹介したいと思いますが、その前に、私自身の自己紹介を簡単にしておこうと思います。私は、大阪市立大学出身で、教養課程の途中に山岸哲先生が赴任されて来られました。弟子の第 1 号といえるかもしれませんが、できの悪い私は、大学院の入試に失敗し、京都嵐山の野猿公園に 2 年程勤めた後、金沢大学大学院に入りました。そこで浦野さんと出会ったのです。当時、鳥を研究テーマにしている院生は、浦野さんと上述の池田さんと私の 3 名でした。そのうち、私より若い 2 人が急逝し、私だけが残ってしまったかたちで、寂しい限りです。 浦野さんは、中学 2 年の時から鳥見をはじめたそうです。「一番感激した鳥との出会いは?」と聞いたとき、「一番かどうかわからんが(この辺の言い方が浦野さんらしい)東京湾で初めてミサゴを見た時は感激したな」と言っていたそうです。「一番好きな鳥は?」に対しては「一番かどうか分からんが、オオソリハシシギは好きやね」でした。オオマシコとオオワシを見ることに憧れていましたが、おそらくその夢はかなわないままだったと思います。
大学時代は、いつも講義のノートをきちんととり、試験前になると彼のノートを見せてもらう同級生はたくさんいました。意外なことに、本当は京都大学霊長類研究所でサルの研究をしたかったそうです。学部、大学院時代を通じたテーマであるオオヨシキリの研究は、金沢郊外の河北潟ではじまりました。水道もトイレもない小屋にすみ、炎天下で長時間観察をする、ストイックな男でした。近江町市場のお気に入りのパン屋さんでパンを買いこみ、酒も飲まずに調査していました。本当に真摯でした。 阪神タイガースの大ファンで、毎年シーズン前には「江本が 30 勝、古沢が 20 勝、それから...」と皮算用し、「今年こそ優勝や!」と言ってました。大阪市立大学後期博士課程に進んだ 1985 年は、阪神が 21 年ぶりに優勝した年で、大学院合格と阪神優勝の嬉しい奇跡が起きたと喜んでいたものでした。 1993 年に農林水産省農業研究センター鳥獣害研究室に就職し、それまでの、オオヨシキリを主対象とした基礎的な研究から、鳥による農作物被害に関する応用的な研究に従事するようになりました。カルガモやハト類、ヒヨドリなどの採食行動を中心に調べていたようですが、それまで 10 年以上続けてきた基礎的研究とは勝手が違ったかもしれません。1999 年に退職しますが、そのころより鬱病に悩まされだしたようです。 しかし、鳥への情熱は衰えることなく、兵庫県立人と自然の博物館に寄贈された 17,000 点にも及ぶ小林桂助コレクション(鳥類標本)の整理を、2001 年頃より 5 年間をかけて手がけました。ラベル整理を中心にした地道な作業ですが、基礎研究や保護に役立つ「お宝」にする事ができると、頑張っていたようです(山階鳥研ニュース 2003 年 5 月号より)。その間、山階鳥類研究所の職員となり、膨大な鳥研コレクション整理にも係わっていたようですが、2007 年に退職しました。しかし、退職後も我孫子に住んで、鳥に係わる仕事をしていたようです。 晩年と言うには若すぎますが、最後の数年間は、必ずしも恵まれた状況ではなかったかもしれません。しかし、彼の人生は、鳥屋として生ききったものだとも思っています。もう、病に悩まされることもなく、今頃は、フィールドを飛び回っていることでしょう。 受付日2009.1.27 浦野栄一郎博士の研究業績(主要なもののみ):浦野業績.rtf |
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NPO法人バードリサーチ高木憲太郎
バードリサーチは,2004 年の春に設立準備にとりかかり,同じ年の 9 月に東京都から NPO 法人の認可を得て設立しました。会員の参加を得ながら鳥類の調査研究をする団体として,コンパクトでフットワーク良い活動を目指しています。バードリサーチでやりたいこと,それは,全国の鳥の生態や生息状況に興味を持って,調べてみよう,という人たちとのネットワークを作り,調査に参加してくれる人も,僕たち自身もわくわくするような調査をしながら,そこから得られた知見をもとに社会に役立つ提言や活動をしていくことです。生命線は,全国にどれだけ調査に参加してくれる会員がいるか,それにかかっています。設立後も会員数は着実に,着実に増えているので,時間はかかるけれど目指すところに向かって頑張りたいと思います。たとえば,イギリスのイエスズメのように,日本でもスズメが急に減ったとき,その兆候をいち早く察知して警鐘を鳴らし,環境省などの行政に働きかけて,対策をとる,そんなことができる団体になりたいと思っています。
設立から 4 年半が経ちました。設立当初はやっていけるのかどうか不安もありましたが,やってみればなんとかなるさ!と強気でスタートしました。経費の節減は徹底して,最初の事務所は 2K のぼろアパート。台所の引き出しの底板がなかったり,風呂釜がむかし僕の爺さんの家にあったタイプで浴槽のわきにあって,カセットコンロのようにつまみを回して,ちっちっち,ぼってつけるやつで,そこから煙突が上に伸びていました。でも,懐かしい感じがしてかなり気に入っていたのですが,あっという間に仕事が増え,人も増え,手狭になってしまったので引越しすることに。そのあとさらにもう一度引越しをしたので,今は 3 つめの事務所です。2 つ目の事務所は二階建ての 2 階の西側で南側が開けていたので,日差しがきつく,夏はとてもつらかったのですが,冬は暖かく 3 時のおやつのアイスが美味しかったです。 今の事務所は日があたらず,暖房をつけても昼過ぎぐらいにならないと空気が暖まらないので,極端に冬のアイスの消費量が減りました。事務所に勤めているスタッフは,最近親父ギャグの減った植田さん,ビール党の加藤さん,エコ大好き神山さん,雑学王の守屋さん,そしてぼくの5名です。この他事務所にはデータ入力などで来てもらう臨時のスタッフ用の席が3つあります。また,栃木で平野さんが,滋賀で天野さんが,北海道で黒沢さんが働いています,と言えば支所があるみたいでかっこいいですね。 行なっている調査研究
より多くの方に参加してもらうという視点では,季節前線ウォッチやツバメかんさつ全国ネットワークという調査を行っています。つばめかんさつ全国ネットワークは自分の家にツバメの巣がある人たちがその記録を写真などとともにブログのように記録をつけられるようにしています。そのため誰でも気軽に参加できるため,バードリサーチの調査の中では一番参加者数が多い調査となっています。 季節前線ウォッチは誰でも参加しやすいように識別などが簡単で比較的身近な鳥を対象としています。春はツバメやウグイス,ヒバリ,カッコウ,秋はモズやジョウビタキ,ツグミなどの初認や初鳴きを,観察した人に報告してもらうという調査です。特に,ツバメについてはツバメかんさつ全国ネットワークから集まる調査結果もあって,データ数が多く年々春の初認時期が早まっている傾向があることなどがわかってきています。 http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kisetu/kisetsu2008.html ミヤマガラスとガンカモ類の初認調査 身近な野鳥調査
カワウについては,結構たくさんやっています。基礎的な調査としては関東のカワウの個体数や成鳥と若鳥の比率の調査やコロニーでのカラーリングによる標識調査(カワウ標識調査グループとの共同)を自主調査としてやっていますし,全国のねぐらについても情報を収集しその分布や個体数などを調査しています。さらに,環境省から委託を受けて衛星追跡の調査をしたり,埼玉県にある公園から委託を受けて生息数や繁殖状況の調査なども行っています。このほか,関東カワウ広域協議会の事務局や,そこで収集された情報の共有を図るための業務などを通じて,国や都道府県にカワウの保護管理のための提案を行なっています。仕事の関係で全国の漁協さんとも会って話をする機会があります。漁協さんの中にはまるでヤクザのようにおっかないおじいさんがいたり,河川環境のこと全体について考えをしっかり持っている見識のある人がいたりと,なかなか鳥の世界だけにいると経験できない出会いがあって楽しいものです。また,海外の対策事例をまとめたパンフレットの翻訳版を発行する,といったこともやっています。 http://www.bird-research.jp/1_katsudo/index_kawau_kaigaijirei.html
バードリサーチでは,レーダーを使った調査に力を入れています。ひとつは,ウィンドプロファイラという風の動きを捉える大型の気象観測用のレーダーで全国に 30 基以上設置されています。どうもこのレーダーに鳥が映っているのではないか,という論文があったので,もし,このレーダーから渡り鳥のデータが得られるなら,その時期や量などをモニタリングできるのではないかと考えました。そこで,環境省と気象庁に働きかけて,まずは,レーダーに映っているものが本当に鳥かどうか,を調査するところから始めました。上空高くを夜に渡る小鳥を捉えるために,夜通しで鳴き声を聞き取ったり,ビデオカメラにつなげた望遠鏡をひたすら月に向けて,月との間を通る鳥を記録したり...。室蘭の調査地のひとつは夜になると夜景を目当てにカップルがやってくるようなところで,寝袋に入って鳥の鳴き声を聞きとっていると,近くに来るまで気づいていなかったカップルにびっくりされたりしました。 また,もうひとつのレーダー,船舶レーダーを使った調査も行っています。船を探知するための船舶レーダーを垂直にまわすと,眼でも耳でもとらえられない上空をすごい数の鳥が渡っているのがわかります。これを使って,渡り鳥の飛翔高度と気象の関係も調べています。また,水平にまわして,海へ飛び立っていくミヤマガラスの群れの飛翔方向を調べたり,猛禽がどの位置で上昇気流をつかんでいるのかを調べるといったことも行っています。 http://www.bird-research.jp/1_katsudo/index_rader.html
環境省で行なっている重要生態系監視地域モニタリング推進事業(通称,モニタリングサイト 1000)のシギチとガンカモの調査の事務局をしています。この調査は,全国に約 1000 カ所の調査地を設定し,長期的な生態系の変化をモニタリングしていこうというものです。特徴の 1 つに,同じ調査地で複数の分類群の生物の調査をすることがあげられます。すべてのサイトで複数の分類群の調査が行われるわけではありませんが,例えば,森林のサイトの中には鳥類,植生,昆虫の調査が行われている場所があります。このようなサイトでは,例えば鳥類の個体数や種構成の変化が起きた場合に,植生や昆虫の変化と比較して,その原因を分析できることが可能になります。大規模な調査ですが,バードリサーチ独自の企画力とネットワークを活かして,より良いモニタリング調査にしていきたいと思っています。 http://www.bird-research.jp/1_katsudo/moni1000/index.html
ヒクイナは,かつては北海道から九州まで広く生息する身近な鳥だったのですが,関東ではほとんどその鳴き声を聞かなくなりました。都道府県によってはレッドデータブックに記載されているところもありますが,全国的には濃淡があるようです。そこで,ヒクイナは現在日本にどれくらい生息しているのか,日本のどの地域で減少しているのか,あるいはまだたくさん生息している地域があるのか,それはどういった環境なのか,といったことを調べるための調査を始めました。その結果,東日本では少なくなっているものの,西日本ではかなりの数が生息していることがわかってきました。 http://www.bird-research.jp/1_katsudo/index_hikuina.html
調査のほかには,会員向けにバードリサーチの活動状況の報告や,参加型調査の案内のほか,鳥の調査や研究,そこから得られた面白い生態などを紹介するニュースレターを毎月発行しています。会員から集まる会費は,自主的な調査や研究集会の開催など,活動のほうに有効に活用したい,という考えからメールで PDF を送るという形を取っています。生態図鑑というコーナーでは,それぞれの種について専門的に研究されている方に,基礎的な生態だけでなく,研究からわかったこと,海外の研究事例,保護管理の課題などを書いてもらっています。 また,大学などで専門的な研究をしているわけではなくても,良い調査や研究はたくさんあります。そうした研究の発表の場として,日本のアマチュア鳥類研究者を育てること,これまで知られていなかった鳥の生態や行動についてまとめること,そして鳥類の保護のための優れた実践と応用研究を多くの人のものにすることを目的とした学術誌として,Bird Research という研究誌を発行しています。第一線の研究者の方は筆休めに,学生さんなら卒論の内容を投稿する先の一つに考えてみてください。 http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/index.html バードリサーチでは,定期的な職員の募集はしていませんが,プロジェクトごとに人手を必要としていることがあります。なにかの縁で調査を手伝っていただけることがあれば,一緒に面白い調査をやりましょう。 特定非営利活動法人 タンチョウ保護研究グループ正富欣之・百瀬邦和
概要 主な活動
タンチョウの繁殖期である 4 ~ 6 月に、空からヘリコプターや小型飛行機を用いて、営巣地点の調査を行っています。草の深い湿地などでは,地上からツルを見つけるのは非常に難しいので,空からタンチョウの営巣状況を確認します。調査員は通常3人一組となって,ナビゲーション,地図記入,映像記録などを受け持ち,ひたすら「飛行機酔い」と闘いながら地上のツルを探します。発見した巣については、位置を確認し、成鳥、ヒナ、卵の数等を記録し、さらには映像機器を用いた記録も行います。 これら空からの調査結果に加えて、一部地域では地上からの観察結果や聞き取り情報等を加えて、毎年の繁殖番い数とその分布について発表しています。
タンチョウが営巣地から離れた後に、巣の調査を行っています。巣材や巣の周辺状況を調べることにより、営巣地の詳細なデータを蓄積し、今後の保全活動に役立つ手がかりが得られます。春に空から簡単?に見つけられた巣が、夏に地上から探そうとすると草丈が背丈以上伸びている場所が多いので発見するのが非常に困難です。飛行調査時に撮影された写真を手がかりに、何とか探し当てるということが多くありました。最近は、人工物(道路や看板、建物など)の近くに巣を作ることもあり、そのような場所では比較的容易に発見できますが、営巣環境として良い場所とは言えません。このような場所に営巣する原因として、繁殖地の過密化が考えられています。 (2) タンチョウの総数カウント調査 (3) 海外での調査
(財)山階鳥類研究所から足環の提供を受け,環境省保護増殖事業の一環として,タンチョウ保護研究グループが実施しています。足環は 400 ? 500 m 程の距離から文字が読め、タンチョウの長い寿命に耐えられるように特殊なものを採用しています。調査の実施にあたっては,多くのボランティアの協力をいただいています。多くの場合、調査員がタンチョウの家族を包囲し、草薮などに隠れたヒナを捕まえます。しかし、相手は野生動物ですので、危険回避能力が非常に高いのです。親鳥がヒナと反対方向に逃げたり、ヒナが身を低くして草に隠れて移動したりと、包囲していたつもりがいつの間にかヒナが別の場所に現れることもあります。このような困難?を乗り越えて装着した足環は、我々にタンチョウのいろいろなことを教えてくれます。寿命や生存率以外にも、番いの在り方や兄弟姉妹の関係など、ドラマチックなこと(少し想像が入るかもしれませんが)までわかってしまいます。標識鳥の物語が会報に載っていますので、興味のある方はこの機会にぜひご入会下さい。
昨年度から地球環境基金の助成を受けて、国際的なタンチョウ保護のネットワークを構築するプロジェクトを進めています。昨年度は、ロシア・中国・韓国のツルの研究者を招き、北海道鶴居村で日本を含めた各国のタンチョウにおける問題点について話し合いました。そこでは、各国固有および共通の問題を取り上げ、それぞれの解決策について議論することにより、タンチョウの種としての脅威をグローバルな視点から共通の認識としてとらえることができました。今年度は、各国における問題解決への取り組みや成果について話し合われ、来年度に国際的なタンチョウ保全ネットワークを立ち上げることが決定されました。
主に海外からツル類研究者あるいは関係者が釧路を訪れた際に,それぞれの国におけるツル類の実情および保護の実態などについて,講演会を開催しています。今年度は、6 月に国際ツル財団のG・アーチボルド博士の講演会を、11 月にロシア、中国、韓国のツル研究者による講演会を開催しました。これからもこうした活動は継続して行いますので,ご自由にご参加ください。 (7) タンチョウの保護に関する提言 (8) タンチョウをはじめとするツル類の現状と保護に関する情報発信活動 受付日2009.1.28 |
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アマノノニッキ in ケンブリッジ (1)天野達也(農業環境技術研究所)
ケンブリッジではクリスマス休暇を前にいくつかのイベントも終わり、帰省する人あり、旅行に出かける人あり、大学はずいぶんと静かになりました。9 月に渡英してからようやく一区切りを迎えたなぁと息をつき振り返ると、短いながらもギッシリと中身のつまった4ヶ月だったと感じています。 留学をしたいと考えるようになったのは 2 年ほど前、グラスゴーで開かれたイギリス生態学会に初めて参加し、帰国した時でした。英語さえなんとかして日本という境界を越えた研究活動ができれば、世界が何倍にも広がると率直に感じたのです。当たり前のことではありますが、ともすれば自分の殻にこもりがちな性格をしてもそう奮い立たせる、「百聞は一見に如かず」の経験でした。
バタバタと渡航の手続きを済ませ、ロンドンでの学会を経てケンブリッジに着いたのは 9 月頭、強い雨が降る夜でした。週末を経て月曜に初めて研究室に顔を出した時の緊張感は今でも強く印象に残っています。下見で訪れたことはありましたが、いざ与えられた自分のデスクに座ると、外国で自分の「居場所」を与えられるという感覚は不思議なもので、何ともフワフワと浮ついた気分でした。
グループ内外の多くの研究者とネットワークを作れるのも大きな魅力だと感じています。ビルといくつかの研究テーマについて話しているうちに、イーストアングリア大学や BTO、レディング大学などに所属する、これまで論文でしか見たことのなかった研究者と瞬く間にコネクションができ、共同研究を始めたり、プロジェクトミーティングに参加させてもらったり、セミナーで発表させてもらったりすることができたのは本当に驚きでした。もちろんケンブリッジ大学の動物学部には生態学の研究グループが数多くあるために、内外からの著名な研究者のセミナーを毎日のように聞けるのは本当に贅沢な話です。 生活面でもありがたいことに素晴らしい環境で楽しい毎日を過ごしています。大学所有のフラットからの通学路は川沿いの緑地を通り、季節の変化とともに違った風景が楽しめます。街中には数百年の歴史が日々の生活に溶け込み、少し足を延ばせば Fen と呼ばれる湿地や、イギリスでも代表的なシギ・チドリ類、ガン類の渡来地である The Wash でバードウォッチングを楽しむこともできます。
そんな毎日を過ごしているうちに、だいぶ地に足のついた生活を送れるようになってきました。こちらで始めた研究も少しずつ結果が出始め、周囲で行われている研究プロジェクトの様子も徐々に見え始めてきました。新年からは、またさらにこの環境を生かしていい研究を発展させていけそうです。今はまだ午後4時には真っ暗になる毎日が続いていますが、冬至を回りいよいよ後は明るくなるばかりのケンブリッジから、次の機会にはこちらでの研究についても、もう少し具体的にご紹介できればと思っています。 |
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ダーウィン便り(13):No border?江口和洋 (九州大学大学院理学研究院) 最近は海外旅行にはツキがないという気がしてなりません.今回はオーストラリア調査のための入国に関わるトラブルです. 学術調査には観光ビザ以外のビザが必要かもしれないと,毎回心の隅に引っかかりながらも,電子ビザという手軽で便利なビザがあると,ついつい,「観光」で,まあいいかと言う気になってしまいます.当然,入国カードには「休暇(Holiday)」に印をつけます.1 度や 2 度なら問題ありませんが,3 ヶ月近くの滞在を示すスタンプがパスポートにべたべたと押してあると,さすがに「おかしい.何かある.」と怪しむのは当然かも.それでも,はじめのうちは,「よくオーストラリアにおいでになりますね.」という問いかけに,「オーストラリアが好きですから.」と,軽くいなすことができました.前年,オーストラリアからの出国の時,「毎年,3 ヶ月近くも休暇ですか?」と聞かれて,「ええ,鳥を見てますから.」と,答えると,係官の顔色が変わって(?),「ちょっとこちらへ来てくれませんか?」と,出入国カウンターの横のソファへ連れて行かれて,「標本などの持ち出しは無いですか?」と聞かれました.鳥を見る奴は誰でも標本ないし生きた個体そのものを持ち出すという評判が立っているのだろうか.もっとも,その前年に,日本のアマチュア昆虫愛好者と業者が,オーストラリアのロードハウ島から,大量に貴重種の甲虫を密輸出しようとして摘発された事件がありました.これが尾を引いているのでしょうか.この時はことなきを得ました. それ以来,どうも検査の無作為抽出の対象によく当たるように思うのは被害妄想でしょうか.入国検査を出るとにこやかな顔のお姉さんが近づいて来て,「荷物の X 線検査をさせていただいてよろしいですか?」と,おっしゃった.「いえ,けっこうです.」とも言えないので,「もちろん,OK です.」と胸を張ります.しかし,今回はあまり胸を張れなかったんですよね.ビデオカメラ 2 台,CCD カメラ 5 台,CCD 用の長いケーブルのリールが 4 個.とても,バードウオッチングのためとは思えません.このケーブルが X 線で怪しまれて,スーツケースを開けての,逐一検査になりました.そこで,[実は,鳥類の研究プロジェクトで...」と,白状することになります.「どんな鳥ですか?」と聞くので,「Grey-crowned babbler and Red-backed fairy-wren」と答えると,「なぜ,この鳥をオーストラリアで研究するのか,日本にはいないのか?」「なぜ,この鳥に興味があるのか?」という,「あんたには関係なかろうもん.」と言いたくなるような質問が続きます.「これらは協同繁殖するからおもしろいんです.協同繁殖は行動生態学分野の重要な研究テーマの一つです.」と,説明する.「日本にはいないの?」と来る.「日本にはほとんどいない.でも,オーストラリアはこのような鳥が世界一多いので有名です.」と,なんでこんなことを説明しなければならないのかと思いつつ,説明することになります. それでも,ビデオくらいならまだ良かった.不幸なことに,その時は血液採取用の注射針とバッファーを持っていました.これは,言い逃れもできないので,正直に「DNA を抽出するための血液を採取して保存するための物です.」「日本に持ち帰るのか?」「はい,そうです.」 ここで,ちょっと騒ぎが大きくなりました.さらに上の係官がやって来て,さっきのお姉ちゃんが説明をしています.2 ~ 3 人掛かりで質問してきますが,一種の職務質問なので,よけいなことを言わないよう,少しでも不要に怪しまれないようにと,答える方も慎重になります.「何のため,どうやって,血液を採取するのか?」「繁殖グループのメンバー間の血縁関係を調べるためです.」と,答えると,さすがに人間社会でもかなり普及しているので,納得してくれたようです.少なくとも,注射針が犯罪目的ではないことは理解してくれたようです. 「しかし,日本へ持ち帰るためには許可が必要だと思う.」と,問題の核心に入って来ました.「それは,大丈夫.これは,日本とオーストラリアの共同研究である.私の九州大学とチャールズ・ダーウィン大学とは研究者交流協定を締結している.持ち出し許可は CDU を通じて取得することになっている.」この時ほど,半年あまりかけて研究者交流協定を締結しておいてよかったと思ったことはありません.これで,1 時間近く続いた荷物の尋問は一応放免ということになりました. これで無罪放免といかないのは,次にビザの問題があるからです.もう一人のビザ担当者が言うことには,「学術調査には電子ビザ以外のビザが必要ではないかと思う.」「どんなビザです?」「帰国したら,大使館に問い合わせなさい.」なんだ,この人も知らないんだ(注:帰国後,大使館に確認しましたが,短期間の調査は電子ビザでいいということでした). このように,海外での調査には調査環境を整えるための準備が不可欠なのですが,アバウト人間の私にはなかなか大変です. |
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鳥学通信第 23 号をお届けします。今号は、2008 年 10 月 29 日に逝去された浦野栄一郎博士の追悼記事を中心にお届けします。私(編集長百瀬)も大学院時代からの知り合いで、学会などで会う度に色々な話しをするのが楽しみでした。年齢はほぼ同じでしたが、自分の研究に対して彼のコメントをもらうと、「このやり方でよかったんだな」とか、妙に納得できたのを覚えています。浦野さんは、人の話を熱心に聞き、的確なコメントをくれたため、心に残ったのだろうと思います。心からご冥福をお祈りします。 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者 (ornith_letterslagopus.com)宛にメールでお願いします。 |
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鳥学通信 No.23 (2009年2月1日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 百瀬 浩(編集長)・山口典之(副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・東條一史・時田賢一・和田 岳
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