学会ホーム頁に戻る 鳥学通信 top に戻る |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究機関紹介
シンポジウム報告
自由集会報告
・急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題 (嶋田哲郎)
・和文論文をスムーズに掲載する方法 (濱尾章二) ・鳥はどこ?ここはどこ!鳥の移動を知るさまざまな取り組みと追跡機器 (時田賢一) ・スズメなど一般種のモニタリング:現状と課題 (黒沢令子) ・-カワウを通して野生生物と人との共存を考える (その 12)-衛星追跡と GPS アルゴスとバイオロギング (高木憲太郎) ・カッコウ研究の最先端 (三上 修) ・上関原子力発電所建設計画とカンムリウミスズメ -幸せな結末を求めて- (早矢仕 有子) |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
山階鳥類研究所平岡 考
鳥類学者の山階芳麿博士(1900-1989)が、現在の東京都渋谷区南平台の私邸内に 1932 年に建てた「山階家鳥類標本館」がそのスタートで、収集した資料を社会に役立ててもらいたいという山階博士の考えから、1942 年に財団法人となりました。その後 1984 年に千葉県我孫子市の現在地に移転しました。 現在、総裁の秋篠宮文仁親王殿下、島津久永理事長、山岸哲所長のもと 20 名の所員が在籍しており、このうち 16 名が研究員あるいは専門員として働いています。 将来構想と組織変更
山階鳥研の大きな特徴に質量ともに日本一の鳥類標本を所蔵していることが挙げられます。標本は剥製標本・骨格・巣・卵・液漬標本など約 6 万 9 千点に及びます。この数は、日本の所蔵機関では最大で、第 2 位から 6 位までの推定総数を合計した数よりも多いものです。ただし、鳥類標本コレクションとして世界最大といわれる自然史博物館(イギリス)の標本数は約 100 万点ですので、世界的な視点で見るとまだまだ上があります。 所蔵標本の大部分を占めるのは、研究用剥製標本(いわゆる「仮剥製」)です。山階博士が、太平洋戦争以前に自身の分類学研究のために収集したものを中心に、購入、交換、寄贈等により集められたものが加わっています。世界中の標本がありますが、充実しているのは、日本、千島列島、サハリン、朝鮮半島、中国東北部、台湾、ミクロネシアなどです。 標本材料の入手は古くは銃獲などによったわけですが、現在の新規作成のための材料は、一般市民や獣医師、鳥獣保護センター等から寄贈された斃死鳥や動物園から寄贈を受けた死亡鳥がほとんどです。後述のように、近年ではこういった鳥体から形態学的標本のほかに DNA 分析用の組織サンプルを採取しています。 標本を利用するためには台帳が欠かせませんが、点数が多いことや、戦後長く財政が苦しい時代が続いていたために、所蔵標本全体の台帳は整備されておらず、利用の便は決してよくありませんでした。このため現在、標本データベースの作成を進めており、剥製標本全点に関するデータベースを年内にもウェブサイトで公開する予定です。 標本データベースについては、全世界の生物多様性情報を誰もが自由に利用できることを目指して始められた、GBIF (地球規模生物多様性情報機構)という国際プロジェクトがあり、インターネット上での分散型データベースネットワークの構築に取り組んでいます。山階鳥研としても、収蔵標本データベース構築の次のステップとして、順次、データ形式の GBIF 対応化などを行って山階鳥研ウェブサイトで公開し、GBIF を介した情報の国際発信を進めるべく準備中です。 また、既存の国際プロジェクトへの参画に加えて、標本を用いて、新しい切り口の生物多様性情報を創出し発信することを目指しています。 具体的には、剥製標本からの骨格の形状データの取り出しと、鳥類の体色、卵色の定量化技術の開発に取り組みます。CT スキャンによって骨格の 3 次元形状データを剥製標本から取り出すことができれば、世界的な骨格標本の蓄積の不足を補うことができ、古生物学や動物考古学分野との協力によって、新たな学際的研究分野を作り出すことが可能と考えています。また、鳥類の色彩は定量化が難しいことが研究の大きなネックになっていましたが、近年発達してきた色彩の定量化技術を鳥類に適用できるように技術的な改良を加えることで、色彩の変異を地球的規模で調査し、その進化を問うという鳥類学のフロンティアに至る道が開かれると考えています。 標本は、分類学や生態学、考古学、古生物学などの研究者や標識調査を行うバンダー、バードウォッチャー、美術愛好家などさまざまの方々に利用されています。 鳥類関係図書
標本・図書とともに山階鳥研を特徴づけるものが鳥類標識調査です。ご存じのように番号付きの足環等の標識で個体識別して渡りや寿命、個体数の経年変化等を調査するもので、現在、環境省の委託事業として行われています。このために全国で約 450 名の協力調査員(バンダー)がボランティアで従事しており、山階鳥研は膨大なデータを収集管理し、取りまとめをおこなう日本のセンターの役割を果たしています。 代表的な渡り鳥について標識調査の回収記録をまとめた「鳥類アトラス」(2002)は環境省生物多様性センターのウェブサイトから閲覧できます。成果は、近隣諸国との間で締結されている渡り鳥条約の改定に反映されるなど、保護施策の策定に活用されています。 当初、渡り経路の解明がおもな目的だった標識調査ですが、長年にわたる各種鳥類の捕獲結果が環境モニタリングの資料として注目されています。山階鳥研では 1961 年から現在に至るまで 49 年間に実施された標識調査のデータを管理・保有しており、このうち 1984 年以降の新放鳥データ約 330 万件についてデジタル化を終了しています。これらは鳥類に関する詳細な分布情報であり、環境の変遷を反映している重要なデータです。このデータの分析により長期の環境変動などのモニタリングに役立てるため、分析手法を探るととともに、引き続き紙媒体のデータを遡ってデジタル化する作業を進めています。現在特に、1961-71 年のデータに焦点をあててデジタル化を進め、分布情報として GBIF での国際発信を目指しているところです。
山階鳥研では 10 年程前から、標本材料等から得た DNA 採取用の組織サンプルを保存しています。現在 8,000 点を越えるサンプルを保有しており、これらを用いて現在いくつかの仕事を行っています。 組織サンプルのうち、環境省のレッドデータブック掲載種についてミトコンドリア DNA の全塩基配列の決定を行っています。これは希少種の遺伝情報を保全のための基礎的データとして解明しておくという趣旨です。 また山階鳥研は、国立科学博物館とともに、国際バーコードオブライフという、世界の生物の DNA を調査する国際プロジェクトに参加して、日本産鳥類に関するデータ収集を進めています。このプロジェクトの核をなす技術は DNA バーコーディングと呼ばれるもので、動物種ではミトコンドリア DNA の COI 領域の特定部位の塩基配列を解読することにより、微小なサンプルからでも生物種の同定を可能にしようとするものです。このために所蔵の組織サンプルから該当部位の塩基配列の解読を進め、プロジェクトのデータベースに登録しています。このプロジェクトの特徴は、DNA を採取した個体の証拠標本を保存することを要求している点で、形態と DNA を対応づけることにより、同定誤り等によるトラブルを回避でき、得られたデータを分類学にフィードバックすることも可能になります。 ミトコンドリア DNA を用いた研究としてさらに、猛禽類を対象として、種内の遺伝的多様性を調べる研究も行っています。日本国内のクマタカとオオタカについて、拾得された羽毛から取り出した DNA を主に分析して行ったもので、遺伝的多様性だけを見る限り、クマタカもオオタカも危機的な状況にはない、という結果が得られています。もちろん、猛禽類の保全に関してはさまざまの手法で得られたデータを総合して判断することが必要です。
明治時代以降、羽毛採取のために乱獲され激減した絶滅危惧種、アホウドリの保護活動に、山階鳥研は取り組んでいます。現在、昭和初期まで繁殖地であった小笠原諸島聟島列島への再導入プロジェクトを進めています。このために、伊豆諸島鳥島から生後約 35 日齢のヒナをヘリコプターで聟島へ移送し、人工飼育して巣立たせる試みを 5 年計画で行っています。アホウドリ類の習性から、巣立ったヒナが繁殖年齢に達したときに聟島に帰って繁殖することが期待され、これにより繁殖地の形成を促進しようという計画です。2008 年の繁殖期に 10 羽、2009 年に 15 羽のアホウドリのヒナをヘリコプターで聟島へ移送し、研究員らがキャンプ生活をして人工飼育した結果、両年ともすべての個体が巣立つという成果を得ることができました。飼育に際しては、体重や各部位の測定と摂取した栄養と水分の記録、血液検査による生理学的データ取得によって、健康管理を行うとともに人工飼育に関する基礎データを収集しています。 ヤンバルクイナは 1981 年に山階鳥研のスタッフによって、沖縄島北部から新種として記載されました。その後、1990 年代から、外来生物マングースやノネコによる捕食や、交通事故等が原因と考えられる分布域の縮小が始まり、絶滅が危惧されています。山階鳥研では、ヤンバルクイナの生態研究を行うとともに、プレイバック法による分布調査や生息数の推定を行っており、国や自治体による保護施策の策定に協力しています。 このほかにも、多くの所員が個人研究を行っています。所員の論文として、2005 年から現在までに英文論文が 23 件、和文論文が 9 件、紀要類や後述の山階鳥類学雑誌の報告に英文和文含めて 18 件が発表されています。また鳥インフルエンザに関係する捕獲調査や、違法飼育防止のための野鳥の識別法の研究などさまざまの受託研究も行っています。 山階鳥類学雑誌 おわりに |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2009 年度鳥学会函館大会シンポジウム報告オーガナイザー:高橋晃周(国立極地研究所)・依田憲(名古屋大学・院・環境)
文責:高橋晃周 はじめに
まず名古屋大学の依田さんから、バイオロギングによる鳥類研究の最近の進展について、駆け足でレビューし、紹介していただきました。バイオロギングはいま様々な研究分野で使われています。動物が使っている「環境」の計測、認知・運動性能・生理機能といった動物の「能力」の計測、採餌行動・移動・社会行動といった「行動」の計測。こうした動物の行動にかかわる様々な要因を個体ベースのデータとして計測し、動物の生態に関わる要因の相互関係を網羅的に明らかにできる可能性がある、というのがバイオロギングの特徴です(図)。 海鳥類は体サイズが大きい種類が多く、記録計を装着する研究に好都合です。また、集団で繁殖し、繁殖地に繰り返し戻ってくるため、記録計の回収にも向いています。このため海鳥類の研究がレビューの中でも多くの割合を占めました。しかし、北米のムラサキツバメの渡り経路をジオロケータで調べた研究(Stutchbury et al. 2009 Science)や、カレドニアカラスの道具使用をビデオトラッキングで調べた研究(Rutz et al. 2007 Science)、飛行中のハヤブサの上昇気流の利用の仕方を GPS データロガーで調べた研究(Akos et al. 2008 PNAS)などを紹介していただき、海鳥以外の鳥類でもバイオロギングが積極的に使われつつある現状を実感していただけたのではないかと思います。 現時点でのバイオロギング技術は、装置の大きさの制約から、とれるパラメータ数に制限があります。今後こうした技術的な問題を解決していくことで、動物の環境・認知・運動・生理・採餌・移動・社会といった全ての情報を同一個体から取得することができれば、動物個体をベースに様々な分野を融合した新しい研究領域が拓けるのではないか、というのが依田さんをはじめとするバイオロギングを使っている研究者たちの将来の希望です。
次に、国立極地研の高橋から、ペンギンの採餌行動について、嘴角度ロガー(Takahashi et al. 2004 Mar Ornithol)や加速度ロガー(Yoda et al. 2001 J Exp Biol) GPS-深度データロガーといった最新のバイオロギング手法を使った研究を紹介しました。採餌生態学には幅広い研究テーマがありますが、その中でも、ペンギンがどうやって水中の餌を探しているのか、という問題に焦点をあてた研究を紹介しました。 繁殖期間中、ペンギンは陸上の繁殖地から、海へと繰り返し餌をとりに出かけ(採餌トリップ)、その途中で潜水を繰り返し行っています。ペンギンの嘴にとりつけた嘴角度ロガーによって、ペンギンの潜水中のエサ取りの成功・不成功をモニタリングしたところ、直前の潜水でエサ取りの成功度が高かったときには、ペンギンが続けて潜水を行うこと、早く水中の餌パッチに到達するよう潜水の角度を変えていることがわかりました。すなわち、ペンギンは餌の探索において、「盲打ち」で潜水を行っているわけではなく、直前の採餌経験に基づいて行動を変えている、ということが明らかになりました。バイオロギングをうまく使うことで、行動そのものだけではなく、過去の経験に基づく意思決定といった、認知能力に関係した研究にもアプローチできる可能性があります。 綿貫豊「深く潜水する海鳥の推進調節」
次に名城大学農学部の新妻さんから、海鳥類の潜水中の体温調節、酸素節約といった生理生態学に関する研究を紹介していただきました。生理的なパラメータは直接観察することができず、機器による計測を行う必要があるため、古くからバイオロギングが使われてきた研究分野です。北極・南極といった「寒い」海で、運動のための体温を保持しつつ、酸素を節約して長く潜るために海鳥はどのような生理的な調節を行っているか、という問題に焦点があてられました。 まず新妻さんご自身のハシブトウミガラスの研究(Niizuma et al. 2007 Comp Physiol Biochem A)について詳しく紹介がされました。ウミガラスの体温を計測するため小型の温度データロガーを手術によって体内に埋め込んだところ、ウミガラスは、潜水中、体の周辺部分への血流を押さえ、体芯部に血流を集中させるという、血流調節を行っていることが明らかになりました。これにより、ウミガラスは潜水中の運動のために必要な部位に優先的に血液を回し、効率的に酸素を使用していることが示唆されました。このほか、酸素分圧を計測するデータロガーによって、潜水中のエンペラーペンギンの酸素使用を詳しく調べた研究、コルチコステロンといった内分泌物質とアホウドリの採餌行動の関係に関する研究など、生理機能と採餌行動に関する最近の研究も紹介していただきました。 依田憲・山本誉士「オオミズナギドリの移動生態学」 高木昌興・植田睦之「コメント」 最後に |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題企画:嶋田哲郎・須川恒・呉地正行
文:嶋田哲郎
11 回目の今回はガンカモ類の中で,近年越冬数を増加させているガンカモ類に注目し,その現状,増加原因として考えられる要因あるいは研究課題,増加した個体群と資源利用との関係について話題提供をいただき,増加したこれらの水鳥を巡る鳥学的課題を把握することを目的としました. 当日は 30 名ほどの方々にご参加いただきました(写真).なお,この集会の要旨を今までの集会とともに以下のページに掲載していますのでご覧下さい. ガン,ハクチョウ類の個体数変動の動向(呉地正行/日本雁を保護する会)
繁殖地における温暖化の観点(呉地正行)では,これまで中継地であったマガンの飛来地が越冬地化していること,伊豆沼・蕪栗沼周辺で越冬するマガンの繁殖地を含むベーリング海沿岸で,気温が上昇していることが報告された.気温上昇による早い雪解けがマガンの繁殖成功率を高めている可能性がある. 越冬地における食物資源量の観点(嶋田哲郎/宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団・溝田智俊/岩手大学)では,1980-90 年代の圃場整備の進捗率の増加にともなう落ち籾資源量の増加,1990 年代後半の大豆や麦などの転作田の増加にともなう落ち大豆や起生期の麦類の増加がマガンの個体数急増の背景として考えられた. 増加を巡るトピック まとめ 和文論文をスムーズに掲載する方法企画:濱尾章二(国立科学博物館・自然教育園)・新妻靖章(名城大学・農)
文:濱尾章二
はじめに 集会の趣旨
演者は日本鳥学会誌に原著論文を複数発表し、2008 年度奨学賞を受賞した。自らの体験に基づいて、査読コメントへの対応を中心にこれから投稿する人への役立つ苦労話、助言を話して頂いた。投稿の手引きをよく読み細かい点まで従うこと、論文執筆に慣れた人に積極的に質問したり、助言を得たりすることの重要性が強調された。 堀江さんの講演スライド pdf ファイル (135 KB)
演者は日本鳥学会記録委員と目録委員を務めており、他の観察者の新分布記録の発表にも多くの援助をしている。また、査読者としても適切で具体的なコメントをされている。そこで、記録報文(特に日本鳥学会誌「観察記録」)の書き方についてレクチャーして頂いた。編集委員会の方針ではなく私見として発表されたが、形態の記述や同定の規準の書き方は他誌への投稿を含めて参考になるものであった。 池長さんの講演スライド pdf ファイル (381 KB)
日本鳥学会誌編集幹事の立場から、投稿のしかた、改訂要求・査読コメントへの応え方を本音で話してもらった。採否の最終判断の権限を持つ編集者に対して、必要な情報を伝えることの重要性が強調された。投稿時の手紙で論文の価値をアピールすること、査読コメント対応では個々のものにどのように対応したか、あるいは反論するのかを明確に説明することなど役立つことが多かったと思う。 新妻さんの講演スライド pdf ファイル (111 KB)
かつての日本鳥学会誌編集委員長であるベテランの演者から、査読の意義、あるべき査読、そして投稿者のあるべき態度が説明された。投稿者は査読コメントを改訂のヒントと考えて真剣に対応すること、査読者は依頼を原則断らず、審査だけではなく投稿者への手助けとなるコメントを手早く返すことなど重要なことがらが濃密に語られた。多くの人に、今回の講演スライドとともに、江口 (2001,レフリーの役割について.日本鳥学会誌 50: 46-50)を再読して頂きたいと感じた。 江口さんの講演スライド pdf ファイル (348 KB) 最後に 受付日2009.10.06 鳥はどこ?ここはどこ!鳥の移動を知るさまざまな取り組みと追跡機器企画:時田賢一 (我孫子市鳥の博物館)
樋口広芳 (東京大学)
玉置晴朗 (数理設計研究所)
文:時田賢一
はじめに テレメトリーで鳥の位置を知る: 東 淳樹 (岩手大・農) データーロガーで鳥の位置を知る?カワウへのデーターロガー装着と回収方法の検討~: 有馬智子・熊田那央 (筑波大・生命環境)
ジオロケータで鳥の位置を知る: 高橋晃周・山本誉士 (国立極地研究所・総合研究大学院大学)
たとえば,飛んでいる猛禽類の飛行位置を地図上に記入すること,アセスメント調査などでよく行ないますが,距離間というのはなかなかわからないもので,熟練した調査員ですら,記入した位置と実際の位置が驚くほど離れていることはよくあることです。鳥の位置を正確に定位する方法として国外ではレーダーが多くの研究に使われていましたが,国内では,わずかな事例を除きほとんど活用されていません。そこで私たちが行なっている,船舶レーダー,環境省の事業として行なった,気象庁の気象レーダーの調査を紹介しました。 ・船舶レーダーを使った研究
電波を出す方向により鳥の平面的な位置や飛翔高度等を明らかにできます。現在,私たちは,タカの渡り経路と上昇気流や地形状況との関係についての研究,渡り鳥の飛翔高度と風向風速の垂直分布との関係の研究を始めています。 ・気象レーダーを使った研究
24 時間毎日データ収集が行われている気象データとともに得られる鳥エコーを解析することで,渡り状況の季節変化や日周変化を知ることができます。 電波発信器によるテレメトリー調査 ?現場での実際?: 酒井智丈 ((有)エデュエンス・フィールド・プロダクション) ラジオテレメトリーに使用する機材
・発信器(英国 Biotrack 社製) ・受信機 (YAESU, FT-290mk II) ・八木アンテナ ・コンパス(方位磁針) ・携帯用 GPS 又は現地の地形図(現在地の把握) ・野帳(日時、気温、位置点の環境、対象個体の行動等を記録) 位置の特定については基本的に車で可能な限り近づき、受信機の感度を調節しながらアンテナで方向を特定する。2地点以上で同様に方向を特定し、位置点を推定する。
長所と短所
長所
直接現場に行く事により、個体の行動を目撃できる事がある(狩り、餌の解体等)。 飛翔、パーチなどの情報が得られる。 短所
慣れ、土地勘が必要。調査する人によるデータの精度の違い。 個体が突然大きく離れると位置を特定するまでに大きな労力がかかる。 山間部では精度が落ちる 野生生物テレメトリー装置の開発状況: 玉置晴朗(数理設計研究所)
2000/1 あらたな通信技術を開発する必要性を痛感
提供について アルゴスシステムや GPS を利用した鳥の渡り衛星追跡: 樋口広芳 (東大・農・生物多様性)
私たちは、鳥への装着が可能な小型・省電力でありながら電波伝搬距離を飛躍的に延長する、高速同期スペクトラム拡散という新技術を用いた送信機を開発した。この送信機を GPS 受信機や小型電池と組み合わせて鳥に装着することにより、GPS 測位の精度で得た鳥の位置情報を、遠方の調査者に伝達することが可能となった。 本装置は、重量-動作寿命、通信距離-アンテナ高さ、GPS 測位時間-測位精度、再送信回数-伝達の確実性など、トレードの関係にある要素を多く含む。鳥類の生態や調査の目的にあわせて設定を変更することにより、最良な調査設定を使用者が選択することができる。これまでに実施した実験で用いた送信機は、合法の無線局として無線局免許を取得している。以下に、主要な特徴と将来に向けた発展可能性の一部を示す。 形状と動作寿命例(測位時間間隔は任意に設定可能) ・42 × 22 × 11 mm 17 g GPS 測位 200 回 ・42 × 22 × 12 mm 20 g GPS 測位 500 回 ・63 × 38 × 18 mm 35 g GPS 測位 2000 回
・100 μW 出力の低電力送信による実例 ・送信側 (平地 2 m) ? 受信側 (山地 1673 m) 46 km ・送信側 (水面 0.5 m) ? 受信側 (平地 2 m) 1 km ・送信側 (平地 2 m) ? 受信側 (山地 1673 m) 46 km ・通信距離延長の手法 ・マストや自然地形を利用し、受信局のアンテナ高をできるだけ高くする ・受信局の複数設置 ・固定受信局と移動受信局の併用 ・渡りの経路上に校舎や社屋を持つ他の調査者との共同観測 将来に向けた発展可能性 ・GPS 高度か気圧高度計を内蔵して利用し、より電波の飛ぶ飛翔中を狙って送信 ・ 太陽電池を搭載し、小型化と長寿命化 ・ 緯度経度で範囲を指定、渡りを始めるまではN日に1回、渡りを開始したらn時間毎に測位するなど、測位シーケンスに高い柔軟性を持たせる ・ 大型哺乳類などでは小型化の必要は無いため、大型電池で長寿命化 ・ 長期間低頻度では GPS を毎回コールドスタート、短期間高頻度では常時測位 ・ テレメトリやロガーの機能や手法を取り入れ、互いの長短所を相互補完 自由集会に先立ち北大水産学部の周辺を鳥装着型 GPS を手に持って歩いて、水産学部の駐車場で置いた車の中で GPS 測位の精度で得た鳥の位置情報を受信しリアルタイムでパソコンでカシミール(フリーの地図ソフト)上にプロット(図 1, 2 参照)し自由集会で紹介しました。
受付日2009.10.19 【topに戻る】
スズメなど一般種のモニタリング:現状と課題企画:黒沢令子・長谷川 理 (バードリサーチ・エコネットワーク)
文:黒沢令子
スズメ Passer montanus は人間に最も身近な種だが、個体群の研究対象とはなってこなかった。そんな中、2006 年初冬に北海道中央部で起きた集団死をきっかけに、スズメの数の動向がマスコミや一般人の興味を惹くことになった。 2006 年の集団死から丸 3 年を経た現在では、全国レベルで個体数を推定する試みや日本の個体群の遺伝的構造など様々なアプローチから知見が蓄積されてきた。今回は、これらの新知見を紹介すると共に、今後、スズメに代表されるような一般種についてモニタリングをしていく方法や課題について、情報提供者5名を依頼して会場と意見を交わしたいと考えた。 (1)「全国における、スズメの個体数およびその減少の推定事例」 三上修 (立教大学,日本学術振興会特別研究員 PD) (2)「北海道大学における長期モニタリング事例とスズメ個体数の現状」 ○藪原佑樹1・南波興之1・行成一俊1・黒沢令子2 (北海道大学野鳥研究会1・バードリサーチ2) (3)「日本におけるスズメ個体群の遺伝的構造」 泉洋江 (北海道大学大学院地球環境科学院) (4)「日本における全国的なモニタリング調査」 平野敏明 (NPO 法人バードリサーチ) (5)「ヨーロッパのイエスズメ調査・研究ネットワークについて」 田口文男(スズメネットワーク) ・参加者は 20 名程度あり、話題提供者 5 人の発表のそれぞれの後に会場からの質疑応答と意見をいただいた。主な意見や質問は以下のような点だった。(1: 三上発表、以下発表順に)統計記録からスズメなどの個体数を推定するにはバイアスが考えられるので慎重さが必要、(2) 鳥類モニタリングは生息環境と合わせて解析することが必要、(3) スズメの DNA 研究用資料を提供する方法について質問、(4) モニタリングの調査者のモチベーションを挙げる工夫について質問、(5) 欧州でのスズメのモニタリングなど学術論文になりにくいテーマの発表場所についての質問などだった。 受付日2009.10.19 【topに戻る】 -カワウを通して野生生物と人との共存を考える (その 12)-
|
写真 1.会場の様子(撮影: 加藤ななえ). |
衛星追跡によるカワウの広域移動実態の把握
高木憲太郎(バードリサーチ 1),福田道雄(東京都葛西臨海水族園),石田朗(愛知県カワウ調査研究会),齊藤成人(弥富野鳥園),須川恒(龍谷大学),須藤明子(イーグレット・オフィス 2),片岡宣彦(鳥類環境),茂田良光(山階鳥類研究所),長谷川 理(エコ・ネットワーク),有馬浩史(10 神戸市立医療センター中央市民病院 免疫血液内科),齋田栄里奈(兵庫県森林動物研究センター),須藤一成(2),柴野哲也(2),加藤ななえ(1),徳田裕之(環境省自然環境局)
ねぐらの個体数の季節変化から,カワウは季節的に移動して,利用するねぐらを変えていると言われています。しかし,成鳥の広域移動の確かな証拠は得られていませんでした。そこで,48 羽のカワウを捕獲し衛星追跡を行いました。今回はアルゴスシステムによる測位の仕組みとともに,調査結果について報告しました。
アルゴスシステムは,鳥に装着した送信機が発信する電波を人工衛星が受けとめて,その情報が地域受信局に送られて位置が計算されます。そのため,鳥を探したり,送信機を回収したりしなくても,研究室にいながらにして位置情報を得られるという点はこの追跡方法のメリットです。デメリットとしては,測位の頻度が少なく,精度も GPS に比べて劣る点が挙げられます。アルゴスシステムでは,測位にドップラー効果を利用しており,衛星が送信機に近づくときは波長が縮まり,遠のくときは伸びるので,それによって衛星と送信機の距離を求めて測位します。したがって,誤差が大きく,150 m から 1 km という誤差があります。カワウで 1 日 9 時間追跡していた時,9 回ほど測位が行われますが,誤差が 1 km 以下の精度のデータは,1 日平均 2 個以下でした。
2006 年から 2008 年までの 3 年間に東京湾の第六台場,伊勢湾岸の弥富野鳥園,琵琶湖の竹生島でそれぞれ 6 羽,23 羽,19 羽のカワウを捕獲し,30 g のバッテリータイプの送信機を装着して放鳥しました。衛星追跡によって得られた位置データは,日の出 30 分前を基準に夜間と昼間に分離し,夜間のデータをもとに,既知のねぐらとの位置関係から各個体の日ごとのねぐらを推定し,そのねぐらと昼間のデータとの距離を計測しました。
広域移動については,第六台場で捕獲したカワウで 8 月から 2 月の期間に沿岸から内陸への移動を追跡できたほか,弥富野鳥園で捕獲したカワウでは 11,12 月に木曽川・長良川・揖斐川の中流部への,1 月から 4 月の期間に伊勢湾岸から浜名湖や琵琶湖への移動を追跡することができました。琵琶湖で捕獲したカワウでは,6 月から 10 月の期間に長良川・揖斐川の中流部や木津川の上流部,吉野川の中下流部,広島湾への移動を追跡することができました。この結果から,特に伊勢湾と,木曽川・長良川・揖斐川中流部,琵琶湖の間での連携が重要だと言えます。
図 1.ある追跡個体のいた位置.一列の堤防の上にみごとに落ちている. |
バイオロギングによるカワウの飛翔・採餌行動の解明
依田憲 (名古屋大学大学院 環境学研究科1),佐藤克文 (東京大学海洋研究所),新妻靖章 (名城大学農学部),田島忠,佐々木幸穂,黒木博文,藤井英紀 (1),井上裕紀子 (北海道大学大学院水産科学院)
さまざまな鳥類にバイオロギング技術(動物装着型データロガーを用いた行動追跡)が使用されるようになり,カワウへの応用も進んでいます。依田さんからは,位置を記録する GPS と,飛翔・採餌行動を捉える加速度データロガーによって明らかになった,巣立ち後の幼鳥の飛翔・採餌行動の発達と,繁殖期の親鳥の採餌生態について報告していただきました。依田さんたちは,愛知県,岐阜県,三重県の 5 か所のカワウのコロニーで調査を行なっています。駆除個体から胃内容物の魚種組成や,巣での目視観察から餌の運搬頻度といったデータは得ることができますが,これらの方法だけでは,どこへ行って採食しているのか,どのように潜って採食しているのかなど,カワウの個体レベルの行動はわかりません。そこで,力を発揮してくるのがバイオロギングです。秒単位の行動のデータを連続的に得ることができます。例えば,深度ロガーをつけておけば,どれくらいの深さまで潜り,どれくらいの時間その深さに滞在していたのか,といったことがわかります。現在では,潜水深度以外にも明るさや加速度,心拍や脳波など色々な情報を記録するロガーが作られています。依田さんたちは,潜水深度・加速度ロガーをカワウの成鳥に装着して行動を調査しました。加速度ロガーからは,羽ばたきをしているかどうかや,体の姿勢を知ることができます。これによって,飛翔,採食,陸上での休息や,水上に浮いている時といった行動の頻度や時間がわかります。カワウは樹上に営巣することが多いのですが,ロガーを成鳥に装着してデータを得るためには,同じ個体を2度捕獲する必要があります。睡眠薬やロガーの遠隔切り離し装置を開発することで,克服していますが,まだ,データが得られている個体数は少ないようです。それでも,最大深度と潜水時間の相関や,多く潜水している時間帯などを知ることができていました。
写真 2.加速度ロガーを着けたカワウ(撮影: 依田 憲). |
いつものやわらかい口調で,カッコウ研究の面白さについて語る上田教授.あの口調で語られると,カッコウ研究の未来が開けてくるような明るい気分になる. |
寄生者ホトトギスと宿主ウグイスとの関係
内田博(比企野生生物研究所)
埼玉県の丘陵地で 2003 年から 3 年間、ホトトギスの繁殖生態調査を行った.
ウグイスの産卵は 4 月中旬から始まり、ホトトギスは 5 月下旬に渡来して,6 月初旬から托卵を始めた.発見した 230 個のウグイスの巣は、見つけた時に既に半数が捕食されていた。卵を確認した 115 個のウグイス巣では、ホトトギスの渡来前の 4 月から 5 月の繁殖成功率は高く 36 % で、6 月から 7 月の繁殖成功率は 2 % であった。ホトトギスの托卵は 6 月以降だけに限ると托卵率は 46 % の高率になったが、繁殖成功率は 3.3 % と低かった.ホトトギスの卵は赤色無斑で宿主のウグイスの卵に非常に良く似ていた。托卵されたホトトギス卵は 17 巣で受け入られ,4 巣は巣が放棄されたが,ウグイスの巣からホトトギス卵だけが排除されることはなかった.
調査地ではヘビなどによる高い捕食圧があり,ウグイスは再営巣を行う.そのためホトトギスには托卵可能な巣が継続的に供給されるので,高い托卵率を維持することはできたが,繁殖の成功率は低かった.
覚えた?え,忘れた?ーカッコウ宿主の心理学ー
田中啓太 (理研 BSI/学振 PD)
自分の本当の子とは似ても似つかない托卵鳥の雛に,なぜ宿主は健気にも餌を運び続けるのだろうか.寄生者である托卵鳥の卵や雛を宿主はどう認識しているのか,そんな疑問に迫る研究をいくつか紹介した.
鍵となるのは,雛になってしまえば托卵鳥は宿主の卵や雛を巣から排除できるということである.巣から卵を落とすカッコウの雛が有名だが,これにより宿主は自分の雛と直接見比べることができず,区別できるようにならない.実際,宿主の雛と一緒に育つ托卵鳥では,宿主の雛に対する擬態が進化しており,宿主の養育を確保している.
卵であれ雛であれ,大切なのは宿主にとって鍵となる信号をうまく真似ることであり,それが例え部分的にであれ,托卵という戦略によって子孫を残せる大きな要因になっているのである.
緊張しながらも,自分の研究を売り込む修士の佐藤君. |
育児寄生者(カッコウ)が特定のホスト種に托卵しながらも、たまに別のホスト種へも托卵する状況を仮定. |
瀬戸内海西部の山口県上関町において、中国電力株式会社が進行させている原子力発電所建設計画に対しては、地元の漁業者および自然保護団体が反対運動を継続してきた。近年、建設予定地の周辺海域で絶滅危惧Ⅱ類のカンムリウミスズメ(Synthliboramphus wumizusume)の生息が確認されたことから、地元会員の要請を受け、2008 年度鳥学会大会において「上関原子力発電所建設計画に係わる希少鳥類保護に関する要望書」が総会で採択された。本集会では、総会決議後 1 年間の知見の蓄積を研究者および「長島の自然を守る会」が報告するとともに、中国電力が実施した「カンムリウミスズメ追加調査結果」の概要を、調査を指導した専門家が報告し、意見交換を実施した。
I. 上関原子力発電所建設地にかかる希少鳥類保護要望書をめぐる経緯
佐藤 重穂 (森林総研四国支所)
日本鳥学会は 2008 年 9 月の大会において「上関原子力発電所に係る希少鳥類保護に関する要望書」を総会決議として採択した。
上関原発をめぐっては、これまで地元の漁協などを中心として反対運動が繰り広げられてきたが、1999 年に中国電力(株)が環境アセスメントの調書を提出し、2001 年にはこのアセスメントの評価書が確定している。これに対して、日本生態学会は 2000 年と 2001 年に上関原発建設予定地の自然環境の保全を求める要望書を総会で決議したのをはじめ、スナメリ、ナメクジウオ、貝類などの希少な海産動物と沿岸生態系の保護を訴えてきた。
一方、近年になってこの地域でカンムリウミスズメやカラスバトの生息が確認されるようになったが、これらはアセスメント調書に記載されていなかったことから、中国電力は追加調査を実施してきた。日本鳥学会の決議はこの調査結果について情報の公開と適切な影響評価を求めるとともに、山口県にはカンムリウミスズメの保全対策立案までは公有水面埋め立て許可をしないよう要望するものであった。しかし、2008 年 10 月に山口県は中国電力に対して埋め立て許可を出し、カンムリウミスズメの追加調査結果が 2009 年 9 月に公表されたことから、現在、着工されようとしている。
(注) 2009 年 10 月 7 日、中国電力は海面埋立工事に着手した。
II. 宮崎県枇榔島周辺のカンムリウミスズメについて
中村 豊(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター生物資源分野)
現在、カンムリウミスズメは宮崎県、東京都伊豆諸島、三重県、高知県、福岡県、鹿児島県などの限られた島嶼及び韓国の一部の島嶼に記録がある。また近年 6 ~ 8 月に瀬戸内海で数十羽の越夏群が確認された(飯田 2007)。日本での推定生息数は 6000 ~ 10000 羽である(環境省 2004)。
門川沖枇榔島周辺では主に 1 月頃から 5 月まで観察され、繁殖は 3 ~ 5 月に行い、巣は岩の割れ目や草の根元の穴などにつくり、巣材はほとんど使用せずそのまま土や石の上に 2 個産卵し、雌雄交代で 約 30 日間の抱卵を経てヒナが孵化する。離巣は孵化後 1 ? 2 日目の夜、親鳥の鳴き声に誘導され行われる。ヒナは数mから十数mの絶壁を転げるように飛び降り、親鳥の鳴き声に誘導され海上で合流し(中村 1997)、そのまま 6 ~ 7 時間かけて枇榔島から約 15 km 離れた位置まで移動する。その後は黒潮の縁を親子で北上すると思われる。ヒナへの給餌は、巣内では行わず孵化後 2 ~ 3 日目の夜明けに海上で行う。また、生後 2 年で枇榔島に上陸している例があることから、自然界での生存年数は 15 年以上であることが示唆されている。
III.中国電力による調査の経緯と結果 ー何がわかったのか、何がわかっていないのかー
藤田 泰宏(日本海鳥グループ)
中国電力(株)は、上関原子力発電所計画地点におけるカンムリウミスズメ追加調査結果に関する報告書を作成し(中国電力本社及び上関原子力発電所準備事務所にて閲覧可能)、その概要について記者発表を実施した(2009 年 9 月 3 日 http://www.energia.co.jp/atom/press09/p090903-2.pdf)。
この追加調査に関しては、(1)法的拘束力を持つアセスメントではないこと、および、(2)対象種の生態に未解明な点が多い、など課題も残されている。
・報告書に記された結果と評価
(1) 原子力発電所建設による改変地と発電所からの温排水による海水温上昇域海岸部での営巣は確認できなかった。周辺島嶼と比べ、営巣適地と考えにくく、営巣への直接的影響は小さいと考えられる。
(2) 埋立区域洋上での生息確認はなかったが、海水温上昇域を含む周辺海域には出現した。
(3) 周辺島嶼での営巣は確認できなかったが、営巣の可否の判断には至らない。
(3) 秋期以外に出現が確認された周辺海域は、重要な採餌圏である。
・不明な点
(1) 移動の大局的な経路
(2) 洋上の分布と利用の詳細
(3) 周辺島嶼での営巣の有無
(4) 個体群の内訳、など
・補足
陸上からの調査の可能性について質問を受けたが、時間内に回答できなかった。そのため、後日、陸上から見下ろす角度でのウミスズメ類の確認は非常に難しい旨を伝えた。
IV. 日本鳥学会 2008 年度大会総会決議後の「長島の自然を守る会」の活動とカンムリウミスズメ生息調査結果のまとめから
山本尚佳(長島の自然を守る会 副代表)
・総会決議後の活動
2008 年 10 月 16 日 山口県に、中国電力による公有水面埋立免許申請を許可しないように求める署名(50,155 名)を提出
2008 年 10 月 22 日 山口県知事が埋立免許申請許可。
2008 年 12 月 2 日 「上関自然の権利訴訟」提訴。
2009 年 2 月 19 日 山口県に「ウミスズメおよびカンムリウミスズメの追加確認に伴い公有水面埋立許可を取り消すよう求める」申し入れ。
2009 年 3 月 11 日 中国電力へ「公有水面埋立および上関原発計画中止を求める」申し入れ。
2009 年 8 月 20 日 上関自然の権利訴訟(第一回公判 山口地裁)
2009 年 9 月 8 日 中国電力へ「埋立工事の中止と継続調査を求める」申し入れ。
「長島の自然を守る会」として行ったカンムリウミスズメの生息調査(2008.4 ~ 2009.9)と事業者を含む複数の調査結果から同種が原発予定地周辺に繁殖期、非繁殖期を通じてほぼ通年生息しており、周辺海域での繁殖の可能性が否定できないこと、同海域に換羽期に生息することから予定地周辺海域がカンムリウミスズメにとって重要な場所であることが明らかになってきた。そうしたことからも1シーズンの繁殖調査で終わらせることなく調査を継続すべきこと、埋立工事や原子力発電所の運転に伴う「温排水」が餌資源をはじめとした海洋生態系に及ぼす影響を環境アセスメントの水準で評価し直す必要があり、近隣島嶼部で新たにオオミズナギドリの繁殖が確認されことからも拙速な環境改変は行うべきではないと事業者の中国電力や山口県および国に対して強く要請していくとともに、原発問題は「国策」との戦いなので、多面的かつ重層的に活動を進め、市民科学の確立をめざし自分たちの持ち場で裁判も含め原発建設計画の中止まで頑張りたい。
上関原発予定地周辺島嶼部の貴重な動植物. |
VI. 山口県上関町海域でのヒナを含むカンムリウミスズメの確認
武石全慈(北九州市立自然史・歴史博物館)
瀬戸内海での本種の生息状況は、例えば「レッドデータブックやまぐち」(山口県 2002)に「瀬戸内側東和町、沖家室島沖合いでも確認されている」と記される程度であった。しかし 2007 年以降の飯田知彦氏、長島の自然を守る会、中国電力、橋口大介氏ら、藤井格氏らの報告等により、瀬戸内海西部での存在は偶発的でないと考えられ繁殖可能性にも関心が持たれた。そこで私は山口県上関町海域で 2009 年 4 月 6 日~ 5 月 30 日に 11 回センサスを行なった。その結果、4 月上旬から 5 月中旬までに 5 回 19 地点で 34 羽の本種を確認した。特に、4 月 13 日には 11 地点で成鳥 20 羽を確認し、5 月 18 日には上関町八島沖(北緯 132 度 05 分 54 秒、東経 33 度 42 分 48 秒)で成鳥 2 羽とヒナ 2 羽を確認した。今後、繁殖該当時期の詳細な調査が求められる。また 2009 年には上関町宇和島でオオミズナギドリのコロニーも確認され(音声、成鳥、ヒナが中国電力、武石、飯田氏らにより順次確認)、同海域が複数種の外洋性海鳥の生息・繁殖の場であることが興味深く思われた。
参加者からは中国電力調査報告に関し、調査方法の詳細を問う質問や、第三者の評価を得る機会の乏しさへの疑問の声などが寄せられた。さらに、日本野鳥の会自然保護室長 葉山政治氏より、カンムリウミスズメにとっての建設予定地の位置づけと、稼働後の影響も含めた評価の必要性が指摘された。
総合討論の時間が確保できなかったことが悔やまれたが、異なった立場からの各話題提供者の報告はきわめて充実しており、知見を集積し意見交換を継続することで、「幸せな結末」へ少しは近づけると信じたくなった。
今号は、山階鳥研の機関紹介と、毎年恒例の自由集会報告、さらにシンポジウム報告と盛りだくさんの内容となりました。きっと皆様に楽しんで頂けると思います。
さて、第 1 号から丸 4 年間に渡り、副編集長を務めてきましたが、広報委員を退任するのに伴い、(年内に臨時号が出ない限り)今号が最後の仕事となりました。26 号にわたり、なんとか定期発行を続けてこられましたし、まあ自分の役目は果たすことができたかな、と思っております。
鳥学会では、求められるままに、学会事務局員、広報委員、和文誌編集委員、大会実行委員、鳥の学校講師、そして和文誌や英文誌の査読など、「実働部隊」として奉仕してきました。しかし任期付き職という、将来の不安と仕事量が共に高く両立する立場で奉仕を続けることに少々息切れがしてきたので、我がままを言ってお休みを頂くことにしました。これからは、心身の健康に留意しながら、いっそう良い研究を成したいと思います。(副編集長)
鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者宛 (ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。
鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行します。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。