鳥学通信 no. 31 (2011.2.5発行)
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飛び立つ!「九州に新たにひとつ、鳥学の研究室ができました」
長崎大学環境科学部 動物生態学研究室 山口典之
2010年10月1日付で長崎大学環境科学部に准教授として着任しました。ポスドク生活8年半、周囲の方にまだかまだかと心配をおかけした末、ようやく定職を得ることができました。着任後は,国立大学だなぁという古びた部屋に荷物をいれるところから始め、開講されなかった前期分も含めた担当講義、実習、実験、そして様々な教員会議に追われる毎日です。なかなか研究を本格再起動するにいたらず、諸先輩から「最初の1年(あるいは2年)は諦めろ」と言われた通りの現状になっていますが、できるだけ早く自分の研究ペースを確立したいと思っています。 赴任した長崎大学環境科学部は、設立から12年ほどの比較的新しい学部です。学部内には文系、理系それぞれ10名ほどの教員がおり、学生も文理がほぼ半々となっています。理系コースの学生は文系、文系コースなら理系の講義・実習の単位を一定数取るように定められているので、野外実習などにも文系学生が相当数混じっており、内容や指導の「さじ加減」が難しいところもあります(何も言わないと、高いヒールや短いスカートで野外実習に来る女子学生もいたりして…。さじ加減以前の問題か)。また、地方大学ですから、旧帝大や、関東・関西の大きな大学と比較すると不便なところもあります。一方で、田舎なだけに、すぐに自然豊かなところにアクセスできますから、野外調査を主な研究手法とする私にとっては良い環境だと感じています。 本学部は、一教員一研究室の体制ですので、各教員の研究内容にはほとんど縛りがありません。そういうわけで、今後も、自分の興味がおもむくテーマに注力していこうと思っています。大学院生の頃から興味を持ち続けている行動生態学研究もそうですが、ポスドク生活時に院生指導などで関わることになった個体群生態学的研究もやりたいと思っています。学生時代までは個体数の動態なんて全く興味が持てなかったのですが、いざ深く関わってみると興味がわいてくるのが不思議です。もちろん、論文化しないといけないデータがまだ山のようにありますので、始めのうちは、それらを出力しながらですが。 最後に、学生、ポスドクの受け入れ体制について書いておきます。研究室には毎年約4名の卒研生が配属されます。大学院(水産・環境科学総合研究科)には博士前期、後期課程のいずれもあります。本研究室では、基礎、実践問わず、生態学を修めたい学部生・院生を歓迎します。私がもっとも得意とする研究材料は鳥類ですが、自力で調査・研究できるのであれば、材料がどんな生物でも構いません。尚、大学院研究科には、私の他に、主に魚を対象とした進化・行動生態学、そして、植物学、藻類学、生理生態学、バイオロギングを専門とする教員がおりますので、各教員(研究室)が主催するゼミや勉強会に参加することも可能でしょう。ポスドクについては、学振特別研究員を歓迎しますが、地方大学に在籍することでの不便がありますので、事前に相談、下見することをお勧めします。 関連ウェブサイト 長崎大学 水産学部・大学院生産科学研究科 環東シナ海海洋環境資源研究センター ※2011年4月から大学院生産科学研究科は水産・環境科学総合研究科に改組予定.
受付日2011.1.17
【topに戻る】 飛び立つ!「喉もと過ぎれば熱さを忘れる」岩手医科大学 三上修
2010年4月に、立教大学(ポスドク)から岩手医科大学(助教)に異動しました。この原稿が出る2月には、着任してからちょうど10カ月が経ったことになります。岩手医科大学は、現在、盛岡市内から、10kmほど南の矢巾町に移転作業中です。全ての移転が完了するには、あと10年ほどはかかる予定です。私の職場も引っ越し先の矢巾町にあります。 この新しいキャンパス(写真1、2)の周囲は田んぼと畑が広がっています。そこでは四季を通して、いろいろな鳥が見られます。桜が咲くころにはシギチが羽を休めていますし、5月になればカッコウの声が聞こえ始めます。日差しが強くなるころには、周囲の社寺林で巣立ったチゴハヤブサの幼鳥が見られるようになり、暑さが過ぎ去ったころには再びシギチがやってきて、雪に白く覆われるころには、ハクチョウが姿を見せます。山も近く、車で20分ほど走ればクマタカが見られるようなところです。そういった田畑と山が織りなす景色のなかにあって、ひときわ目立つのが、標高2038mの岩手山(写真3)です。毎日見え方が違いますから、それを確認するのが日課となってしまいました。日常にこういった風景があるというのは、何物にも代えがたいものがありますね。昨年までは職場が池袋でしたから、その点では本当に大きく変わりました(池袋は別の意味で、日々景色が違いましたが)。
さて、この大学は医系の大学ですから、これまで私が所属してきた大学とは違うところがいろいろとあります。そのうち3つを紹介しておきます。 ひとつは、学生らの勉学への意識です。普通、将来に明確なビジョンを持っている大学生というのは珍しいと思います。ところが、うちの大学の学生は、医師や薬剤師になることを入学したときから明確に意識しています。ですから勉学に対する意識も違います。学生時代、いい加減に過ごしてきた私からみると、まぶしく見えますし、彼らが目指す進路に進めるように、こちらも気を引き締めねばと感じます。 2つめの違いは設備の充実度合いです。引っ越しやらなにやらで、うちの大学は予算的には厳しくなっているそうですが、そうはいっても医系の大学、設備は充実しています。1つだけ例を出すと、学生が実習につかう顕微鏡は、一式で舶来品の有名双眼鏡が3、4台は買えるようなしろものです。しかも1人に1台あります。その見え味といったら・・・。やはり光学機器は価格に応じて性能が上がっていきますね。
三つ目の違いは、教官の服装です。スーツ&ネクタイが基本です。私も毎日、鏡の前でネクタイを締め、玄関で靴べらを使って革靴を履いて通勤しています。 さて仕事の中身ですが、いわゆる一年次教育ですから、卒研生や院生の面倒をみることはありません。少々さみしい気もします。が、これはこれで気楽かなと思ったりしています。学生と関わりをもつ場は、講義と実習になります。そこで教えることも医系大学ですから、自分の専門(マクロ分野)ではなくて、組織・細胞・遺伝子レベルのことが中心です。始めは不安でしたが、存外、楽しくやっています。学生自体あんなに読むのが苦痛だった「細胞の分子生物学」がこんなに面白い読み物だったのかと気付かされたりもします。でも、これは日本語訳が良くなったことも大きいかも知れません。 研究の方は、せっかくの自然に囲まれていながら、今年度は新しいフィールドを開拓する機会を逸してしまいました。しかし、古巣の立教大学のメンバーと、スズメに関する共同研究を進めているので研究生活は充実しています。加えて、これまでにとったデータで論文化していないもの、受理されていない論文もありますから、しばらくはそれらを片付けるつもりでいます。 ただ、研究モチベーションをこのまま維持できるのだろうかと不安もあります。特に今やっている立教大学とのスズメ研究のつながりが切れたら、自分の中でモチベーションを維持するのは大変かもしれないと感じます。それで、ふと思い出して読んだのが、九州大の粕谷先生がお書きになった「”田舎”で生き延びる方法」です。内容は、田舎にいくと「研究をやる気が日々減少していく」ので、それに如何に打ち勝つかというものです。より正確にいえば、着任時に往々にして最高値に達している「やる気レベル」が目減りしていくのを、いかにして抑えるかというものです。気になるひとはネットで検索してもらえば見つかるはずですので読んでみて下さい。私がこの文章を初めて読んだのは、確か院生のころでした。当時は面白い読み物のように読んでいましたが、今では読むと「すみません、その通りです」と目を覆いたくなる個所があります。その文章によると、やる気が減少していく理由はいろいろあって、「同業者がいない」、「学生/教員比が大きくてそれだけ忙しい」、「自分の研究分野の雑誌がない」などです。この文章そのものは10年またはそれ以前の状況を反映して書かれた文章ですので古いところもあります。たとえば、電子ジャーナルが増えた現在、論文の入手については、以前ほどの中央と地方の格差はなくなったと思います。しかし実際のところ、やる気を減退させる状況は、今もあまり変わっていないことがわかります。「これまで毎日していたような同業者との研究に関するディスカッションが無くなる」のは本当に大きいです。そのためか、「新しい手法の方が本当はいいことがわかりつつ、それを1人で身につけるのは億劫なので、自分の手持ちの知識でやりくりしてしまう」、「何かを言い訳にして論文を読まなくなる」ことに気づきます。うちの大学は、田舎とはいえ医系大学ですから、研究にはそれなりに力を入れています。加えて、所属研究室のボスはマクロ分野の研究者なので、そういう意味ではやる気レベルの減退はかなり抑えられているはずです。それでも、やはり落ちていきそうな自分に気づきます。この問題のさらに恐ろしいことは、なかなか自分で認識できないことです。というのも、モチベーションが下がったときには警告を出すセンサーの方も錆ついているからです(酔っ払いが「酔っていない」と言うのと同じですね)。それゆえ自覚症状がないまま事態が進行してしまうのです。今、私が自分で意識している危険度よりも、実際の私の状況はもっと深刻かもしれません。 「飛び立つ!」という題名の割には、なんだか失速しかかっている話をしてしまいましたが、就職して良いこともありました。それは気持ちに余裕が生まれることです。私は学位をとってから就職するまでの6年間を研究生やポスドクとして過ごしました。このうちまともな生活ができる収入があったのは3年間でした。その間、来年はどうなるんだろうと言う心配が絶えずありました。調子が良いときは忘れていますが、ふとしたとき、たとえば公募に落ちた連絡が来たときなどに、それはかなりの重圧となって襲ってきます。その重圧が就職したことできれいさっぱりなくなったのです。食えなくなる心配というのは心をすさませますからね。ただし、その重圧がなくなったことが魂に脂肪をつけさせ、研究のモチベーションを下げる一要因になっていることも、また確かです。 現在、以前の私と同じように明日の見えない状況の院生・ポスドクの方もいらっしゃると思います。私はそういうときに周囲の方から「深く考えてもしょうがない」「なんとかなる」「あきらめなかった人は、なんとかなっている」とよく言われました。私も今、当時の私が相談してきたらそういうのでしょう(ちなみに「あきらめなかった人は、なんとかなっている」という励ましは、循環論のような気がします。だって、何とかなっている人は、あきらめなかった人なのですから)。でも、それは今の立場だから言えることであって、現実にその状況になるとなかなかそうは考えられないものです。というわけで、同様の状況にいる人に私がアドバイスできることはあまりありません。ただ一つ言えることとして、「就職活動」として、今の自身の研究戦略で良いのかを自分に問い直すことは必要かもしれません。その結果、変えるにせよ、変えないにせよ、この険しい道を進んできたのですから腹をくくるしかありません。 そういった過去の自分の状況を考えると、就職した私のこれからすべきことは、自分の研究をすすめ、ポスドクを雇えるような予算をとってきて、すこしでも若手が研究できる場所を作っていくことだと思っています。あまり議論にならないのが心配ですが、現在の鳥学会は、会員数は増加していますが若手研究者、とくに博士を目指す若手研究者が減少傾向にあるような気がします。それが事実なのかはわかりませんが、事実かどうかに関わらず、鳥学会全体で若手研究者を応援できるようなシステムがあればいいなと思います。そう考えたら、私自身がモチベーションが下がったのだとかなんとか言っている場合ではありませんね。魂の脂肪を削り、研究を進め、ポスドクを雇えるような研究資金を獲得し、少しでも次の「飛び立つ!」に貢献せねばなりますまい。
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受付日2011.1.31【topに戻る】
日本鳥学会2010年度大会 自由集会報告カワウを通して野生生物と人との共存を考える(その13)被害対策 - 魚類の視点からカワウワーキンググループ・世話人(バードリサーチ) 加藤ななえ
カワウワーキンググループでは、今年の自由集会から4回の連続企画として、カワウの保護管理の現状と課題をとりまとめていくことにしました。年ごとに、「被害対策」、「個体数調整」、「生息環境管理」をテーマとして取り上げ、参加者とともに議論を深めていきたいと考えています。鳥類では初めての特定鳥獣保護管理計画技術マニュアルが作成されてから、7年が経ちました。各地で特定および任意の計画に基づいたさまざまな取り組みが始められ、カワウを巡る研究も進んできました。新しい経験と知識をもとにカワウの保護管理もまた次の段階へ進んでいくものと思われます。目指すのは、ヒトもサカナもカワウもまっとうに生きられる環境の再生です。 A-1 カワウの餌魚種選好性…飼育実験から カワウの食害を効果的に防除するには、その採餌生態を把握した上で、適切な対策を講ずることが重要である。そこで、本研究ではカワウの採餌生態を詳細かつ定量的に把握可能な飼育下のカワウを用いた実験により餌魚種選好性について明らかにした。 【方法】 供試鳥は野外で保護されたカワウ5羽であり、餌魚種として全長14~15㎝のアユ、ヤマメ、コイ、ウグイを用いた。試験はコンクリート製屋内池(6×8×1.8m)で行い、水深は1mとし、井戸水を少量ずつ通水した。そこへ、カワウ1羽または5羽を同時に放鳥後、単位時間あたりの捕食魚種数などを記録した。 【単独採餌における餌選好性】 単独採餌下において、アユ、ヤマメ、コイが同居する場合の魚種選択性を調べた。放鳥後、コイは極度に怯え、池の角に固まる異常遊泳を示し極めて捕食されやすい状態にあったが、これを好んで捕食しないカワウも認められた。カワウの採餌行動は個体差が有意に大きく、結果的にヤマメとコイを好むタイプに分かれたが、どの鳥もアユの捕食数が少なかった(図A-1)。
【集団採餌における餌選好性】 アユ、ヤマメ、コイを5羽同時に捕食させた集団採餌下の実験では、全魚種が異常遊泳を示し正常な逃避行動をとれない状態にあったが、アユとヤマメに比べコイの捕食数は有意に低く、単独採餌下とは異なる魚種選択性を示した。 A-2 カワウの餌魚種選好性…胃内容物と魚類相の比較から カワウの捕食魚種と現場の利用可能な餌資源とを比較して食性を検討した研究は少なく、個々の漁場の魚類相に対し、カワウが特定の魚種に選好性を持つのかどうかは明らかでない。そこで、本研究では、アユに対する被害が懸念されている地域において、カワウの胃内容物分析と採餌場所の魚類相調査を行い、カワウに餌魚種選好性があるかどうかを調べた。 調査は、愛知県豊川水系の黄柳(つげ)川と埼玉県荒川水系上流部の秩父地域で行った。この2地域において、カワウ捕獲して胃内容物分析を行うとともに、カワウの捕獲場所において魚類相調査を行いアユの放流時期のカワウの餌魚種選好性を明らかにした。黄柳川では、2008年と2009年のアユ放流前と1回目および2回目放流後に、秩父地域では2008年のアユの放流後に、カワウの捕獲と生息魚類調査を行った。 環境中の魚類相は、地域や期間によって異なった。天然アユの遡上のない黄柳川では、アユ放流前にはアユは捕獲されなかった。2008年には、アユの放流回数が増えるほど環境中のアユの割合が増加したが、2009年は放流後でもアユの生息数は少なかった。一方秩父地域では、アユとウグイが高い餌重要度指数を示した。 次にManlyの餌選択性数を用いて餌魚種選好性を調べたところ、2008年の黄柳川の1回目放流から2回目放流までの期間では、アユに対して正の選択性を示す個体が魚類重量当たり60%(n=10)存在した。さらに2回目放流後は、66.7%(n=12)のカワウがアユに選択性を示した。2009年はカワムツに正の選択性を示す個体が多く、1回目放流後には63.6%(n=11)、2回目放流後は62.5%(n=8)のカワウが、カワムツに対して正の選択性を示した。一方秩父地域では、ウグイに正の選択性を示すカワウが55.6%(n=9)を占めた。 B 場内実験で分かったカワウ被害軽減策 漁場からカワウを追い払う場合、人が花火等で威嚇する方法が効果的であるが、人が毎日のように追い払いを行うには多大な労力が必要となる。一方、設置型の防除具には設置中の労力はかからないが、これまでに野外で行われた調査では、単にかかしなどを置いただけでは大きな効果は期待できないとされており、我々が行った実験でも同様の結果となっている。そこで、設置型防除具である「かかし」の効果を高める方法について検討を行った。 【方法】 飼育下のカワウ4~5羽を用いて実験を行った。実験はコンクリート製の屋内池(6×8m)で行い、カワウの行動については忌避の程度によって0~3のスコアで記録した(表B)。
【ストレス体験と忌避行動】 実験に供したカワウを飼育施設から実験施設へ移動させる場合、大型の手網で捕獲している。この際にカワウは激しく抵抗するので、網で捕まえる行為はカワウにとって大きなストレスになっていると判断される。ストレス体験がカワウの行動に及ぼす影響を確認するため、手網を持った実験者が実験施設内に入った時の反応を観察した。また、対照として何も持たない実験者が同じ行動を取った場合についても併せて観察した。その結果、何も持たない実験者に対してカワウは何ら忌避行動をとらなかったが、手網を持った実験者に対しては強い忌避行動を示し、それは2週間程度持続した。カワウは手網による捕獲という大きなストレス(恐怖)を体験することにより、手網に対する忌避行動を習得したと考えられる。 【ストレス体験とかかしの組み合わせ】 実験者が通常(作業着)とは異なる特徴的な服装(黄色のヘルメット、蛍光色の上着、赤色のチョッキ)をし、ソフトエアガンでカワウを射撃した。その後、同じ服装のマネキン人形(射撃者かかし)をカワウに呈示し、反応を観察した。作業服のマネキン人形(普通のかかし)に対しては、カワウはほとんど反応を示さなかったが、射撃者かかしに対しては忌避行動を示した。さらにエアガンの発射音を同時に発生させることにより、より強い忌避行動を示した(図B-1)。
また、実験期間中に実験開始時と同様の方法でカワウを射撃した場合、慣化によって弱くなっていた忌避行動を回復させることができた。これらのことから、ストレス(恐怖)の経験と結びついた刺激と組み合わせることにより、設置型防除具の効果を高めることが示唆された。 【現場での活用】 漁場で設置型防除具を使用する場合、銃器や花火による追い払いと組み合わせることで、防除効果を高めることが可能であろう。具体的には、駆除や追い払い作業に従事する人員の服装を統一し、カワウのその服装と駆除や追い払いを関連付けさせた後、同一の服装をしたかかしを設置する方法が考えられる。 利根川支流の烏川において、漁協組合員による追い払いとかかしを併用したところ、かかし設置区において、カワウの着水を5週間にわたり防ぐことができた。 かかしと追い払いを行うヒトとは、ベイツ型擬態のミミックとモデルのような関係である。まずはヒトによる追い払いを行ってカワウにヒトの怖さを学習されることがかかしの効果を高めるポイントであろう。
コメント カワウは捕らえ易い魚から捕まえているようで、最節約的に振舞っているように見受けられる。個体によって好みの対象が異なるのは、捕獲スキルの個体差があるなかで効率が優先されるからだと考えられる。場所により、年により、季節により捕食される魚が違ってくることも、カワウが獲得し易いものから捕食していることと矛盾しないと考えられる。 漁業被害に関して、水産重要魚種であるアユは考慮されるべきである。大きな出水や遊漁者による釣獲の影響で、漁期を通じて個体数密度が低下して行く事態は起こりうる。そうなるとアユの社会構造にも変化がもたらされ、初めは群れていたもののなかから、縄張りを持つ個体が現れるようになり、その数は増えていくことが予想される。このように、単に個体数の変化だけではなく社会構造の変化によっても、アユの被食の程度に違いが生じることは考えられる。 また、アユ資源には海から遡上してきた天然魚も含まれるが、近年は放流種苗の割合が高まりをみせている。放流魚の大半は孵化場で生産される。孵化場由来の親から次の世代を作るという継代飼育方式が採用されるために、家畜化ならぬ家魚化が起こり易い。孵化場で無意識選抜された種苗はヒトによく慣れ、一方でストレス刺激に対して鈍感になる。家魚化の進行の程度は孵化場ごとに同じではなく、カワウに対する反応にも種苗差が反映される可能性がある。 天然アユにおいても、カワウ分布域の急激な拡大に伴って、カワウとの接触経験に地域間格差が生じる可能性がある。カワウによる被食の歴史が浅い個体群であれば、捕食者回避行動が未発達な状況にある場合も考えられる。カワウによる捕食リスクが地域によって違うことも考慮する必要があるかもしれない。 いずれにしても、一連の研究成果から、カワウは捕り易い魚から食べているということが裏付けられたような気がする。 藤岡正博(筑波大学) 小西さんの話のベイツ型擬態のことは面白かった。カワウは学習能力が高い。一斉追い払いとか有害捕獲のときにはパターンがはっきりしたものを着用して行い、その後に設置する案山子にも同じ洋服を着せるというのは有効だろう。これまで動作型など作成に値段がかかるかかしの開発もあったが、高価なものである必要はないだろう。面白いアイディアだと思う。ただ、カワウがそこまで「色」が分かるのかどうか。だれか知っていたら教えてほしいが、捕食タイプの鳥は色に対してあまり敏感ではないし、特にカワウは水中で捕食するので、色の識別よりは暗さに対する適応の方が大事かもしれない。どちらにしてもはっきりしたパターンが認識されやすいだろう。 小西さんの室内実験では飼っているカワウを撃って条件付けができたが、野外ではどうするか。集団繁殖地で同じ色のパターンを来て、おもちゃのエアガンもしくは銃器で脅すことで、この「服装」は危ないと学習させたら、河川でもその服の案山子が効くのか。繁殖地で効果があるなら、ひとまとめで条件付けができるので、効率良くかかしを怖がらせることができるのではないか。 田中さんと亀田さんの話はとても面白かったが、アユのことを考えると、放流するほどアユの比率が高まり、被害が増えることになる。しかし、放流しなければ釣れないわけで、ここをどうすればよいかが、キーポイントになるのではないか。漁協の体力がないと難しいかもしれないが、冬場にウグイやオイカワなどを守るような対策がとられると、春先にアユを放流しても、食われにくいということは考えられる。コストとのバランスが問題か。 このほか、魚の隠れ場所の効果、一斉追い払いとFID、猟友会のオレンジ色ベストへのカワウの反応、特定の人を見極めるカワウの能力、大河川と小河川でのかかし効果の違いなど、さまざまな意見交換が行われました。河川の魚類の多様性が特定の魚種の漁業被害を軽減するという話は、2年後の「生息地環境管理」のテーマに繋がるでしょう。和やかな雰囲気で集会を進めることができました。参加された47名の皆様にお礼を申し上げます。
受付日2010.11.11【topに戻る】
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編集後記:今号は、飛び立つ!2本と日本鳥学会2010年度大会での自由集会の報告1本の合計3本の記事をお届けしました。新たに飛び立たれた2名の方に幸あらんことを!そしてこれから飛び立とうとしている多くの若手の方にも幸あれ!(編集長)
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鳥学通信 No.31 (2011年2月5日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 高須夫悟(編集長)・百瀬浩(副編集長)
天野達也・東條一史・時田賢一
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